Kagaku to Seibutsu 63(1): 2-5 (2025)
今日の話題
海藻・海草資源の利活用と可能性
海藻・海草のポテンシャルを再認識する
Published: 2025-01-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
海藻の一部は日本人の食文化に取り込まれている.呼び方が一緒で区別することが難しく「うみくさ」と呼ぶ海草も海洋生物や海環境に重要な役割を担っている.藻類である海藻は肉眼で確認できる海産種群である.海草は水草の1種で海産種子植物であり,根・茎・葉の区別がある単子葉植物になる.日本近海にはアオノリ,アオサ等の緑藻が約250種,コンブ,ワカメ等の褐藻が約380種,アマノリ,テングサ等の紅藻が約900種,約1,500種の海藻が生育し,世界では約20,000種が生育している.海草はアマモ等の約30種が日本近海に生育している.海草は基本的に食用にはならないが,海藻は約50種が食用として流通している.筆者が漁師の方々に聞くと,その地域の文化に沿って食されている海藻や,歴史書からも過去に食されていた海藻もあり,勿体無いと感じている.
カーボンニュートラルは気候変動対策の1つで技術革新が求められているが,自然の力に頼らざるを得ない状況である.ブルーカーボンは,言葉自体は2009年の国連環境計画の中で定義されたが,よく耳にするようになったのは「1.5°Cの約束」以降の気がする.人あるいは地球に貢献する海藻についてその価値を再認識していただきたく,本稿の執筆に至った次第である.
海藻研究についての近年の動向はどうだろうか.図1図1■海藻・海草に関する研究論文の年毎の変化は,論文検索サイトPubMed(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)で「海藻」・「海草」をキーワードに検索した結果である(図1図1■海藻・海草に関する研究論文の年毎の変化).海草の種類が海藻に比べて少ないこともあり,またその応用性等を考えると論文数の差はあるが,両方ともに年毎の傾向に注目してもらいたい.各国の海洋資源への取り組み開始時期は異なるが,概ね2000年代に入って問題提起され,それと同時に海藻・海草研究論文も急激な増加傾向であり,特に欧米や中国の論文数が増加している.特に2010年頃からの論文数の増加が考えられる要因として,気候変動問題と重なり,海藻・海草の価値(食品,包装材料,医薬品,化粧品,植物への栄養,土壌環境の改善,バイオマスエネルギー)が期待され,陸上養殖が東南アジアや中国,欧州で行われるようになった.海藻・海草の生産量の増加に伴い,多分野に応用するための付加価値向上を目指した研究開発も同時に進み,今日の論文数の増加となっている.このことからも海藻・海草の注目度の高さがうかがえる.
海藻の人への貢献として,最近では,豊富なタンパク質源の代替食料としてや,ビーガン食など,欧米でも海藻の利用は増加している.生理活性として,抗酸化,抗炎症,抗肥満,抗癌,抗糖化性,抗筋萎縮,抗菌作用等が報告されている(1, 2)1) T. Yoshimura, K. Saitoh, L. Sun, Y. Wang, S. Taniyama, K. Yamaguchi, T. Uchida, T. Ohkubo, A. Higashitani, T. Nikawa et al.: Biochem. Biophys. Res. Commun., 506, 773 (2018).2) 柴田敏行:化学と生物,61, 585 (2023)..これらの生理活性から見ても,現代に抱える生活習慣病ならびにそこから派生する重篤な疾患への予防効果が期待でき,ヘルスケア領域に海藻は欠かせないといっても過言ではない(図2(A)図2■海藻・海草の健康・環境循環システムの利活用).機能性成分としては,海藻の分類で異なるが,褐藻においては海藻特有のフコイダン等の多糖,海藻ポリフェノールと大雑把に分けたが様々な分野に応用できる成分としてよく研究されている(3, 4)3) Y. Fu, H. Jiao, J. Sun, C. O. Okoye, H. Zhang, Y. Li, X. Lu, Q. Wang & J. Liu: Carbohydr. Polym., 324, 121533 (2024).4) A. Sadeghi, A. Rajabiyan, N. Nabizade, N. Meygoli Nezhad & A. Zarei-Ahmady: Int. J. Biol. Macromol., 266, 131147 (2024)..海藻抽出成分の精製等は様々な抽出溶媒を用いて展開されている(3)3) Y. Fu, H. Jiao, J. Sun, C. O. Okoye, H. Zhang, Y. Li, X. Lu, Q. Wang & J. Liu: Carbohydr. Polym., 324, 121533 (2024)..これに加え,新たな化合物の同定やその生理活性能を含めて,未知成分を標的としたノンターゲットメタボローム解析等を駆使することで海藻の付加価値の向上が期待できる.また,同一海藻の中には同じ生理活性能を有する複数種の成分の存在や,単一成分が複数の生理活性能を有する場合もあり,海藻成分を同定しつつ,海藻そのもの,あるいは抽出物には相加的・相乗的な効果をもたらす.海藻を食用だけでなく様々な用途へ利活用するためには海藻原料を国内で十分に生産・確保できる仕組みが必要である.
気候変動対策としてのブルーカーボンは,カーボンニュートラル実現のために必要なネガティブエミッション技術の1つとして進められている(5)5) A. Pessarrodona, J. Howard, E. Pidgeon, T. Wernberg & K. Filbee-Dexter: Sci. Total Environ., 918, 170525 (2024)..世界中で展開されており,豪州では1998年に先駆けて推進され,多くの国は2015年COP21で採択されたパリ協定以降に積極的な取り組みが始まっている.国土面積の12倍で世界6位の排他的経済水域を有する日本でも,気候変動に伴う海水温上昇による海面上昇,海の砂漠化など様々な課題に向けた施策が省庁横断で取り組まれている(図2(B)図2■海藻・海草の健康・環境循環システムの利活用).現状は,日本の沿岸生態系(海藻藻場,海草藻場,マングローブ,湿地帯等)の中でCO2吸収能を有する海藻・海草の割合は8割を占めているにもかかわらず,一部の海草はCO2吸収量に算出されているが多くの海藻は対象外となっている.海藻のCO2吸収の算出方法も示されていることからCO2吸収の枠組みに取り入れることで,環境面においても海藻の付加価値が向上する.加えて,CO2排出削減量を売買できるようにクレジット化するブルーカーボンクレジットをジャパンブルーエコノミー技術研究組合が中心に審査認証しており,2020年度1件だったものが,2022年度21件,2023年度には29件が認証されており,日本全国で取り組みが広がりつつあるが,世界規模と比較すると小さい.
世界中で海藻・海草事業は加速化している.それは先にも述べたように,海藻等は,健康・環境に多大な貢献をもたらすからである.海藻等の市場は右肩上がりで成長し続けており,素材として興味を持つ欧米が積極的な取り組みを行っているのも1つの要因である.アジア圏には海藻文化が根付いているにもかかわらず,特に日本での成長率は低い.磯焼けが全国的に進む中で積極的な藻場回復を進め,新たな技術開発,特に養殖技術の発展が期待される.養殖自体は昔から行われており,繁殖能が高い海藻においては問題ない.この場合の課題は,海水温に適応した海藻・海草の育種が挙げられる.例えばワカメは,産地毎のブランドがあり,生育する海水温は異なっている.筆者も驚いたが,同じ海水温の他の地域にワカメを移植してもその成長度合いが異なることである.さらなる検証は必要であるが,本来その地域で生育できるワカメが海水温に適応できるように育種することが望ましい.沖合・陸上養殖の技術発展も期待される.希少種の栽培や,海藻・海草の生育に適さない箇所でも生産することができれば,CO2吸収量の拡大にもつながり,生産量の増大は海藻・海草の安定供給が達成するため,食用以外の新たな利活用が可能となる.ブルーカーボンを積極的に展開することは結果的に人の健康等に還元する循環が生まれる.
終わりに,今更ながらだが,海洋資源の利活用は日本だけでなく地球規模で恩恵をもたらす.日本に限っても国,都道府県,水産関係等でそれぞれの立場で対策を講じている.しかしながら,筆者が現場で話を聞く限り,現場との乖離を少し感じる.産官学連携での沖合・陸上養殖技術の開発あるいは気候変動に適応した種苗生産技術など,達成すべき必要な技術ではあるが,最前線で生活を支えてくれている一次生産者が参入できるだろうか.一次産業の担い手不足が問題視されているが,現場の課題解決になるであろうか.現場には多くのこれまで蓄積されてきた知恵があり,筆者も聞くたびに勉強になる.各漁港に所属する方々がそれぞれの意思で簡便に自分達の漁業権の範囲の藻場を回復する,そのような技術開発も必要だと考えている.海藻・海草をキーワードに多分野の研究者・業種の協働が日本各地で大小問わず発足することを期待したい.
Reference