Kagaku to Seibutsu 63(1): 6-9 (2025)
今日の話題
放射線による食品管理
食品管理における放射線利用の利点
Published: 2025-01-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
FAO/IAEA/WHO(国連食糧農業機関/国際原子力機関/世界保健機関)の放射線照射食品の健全性に関する合同会議で,「10 kGy(グレイ)以下の平均吸収線量で照射したすべての食品(1980年)」と,「10 kGy以上であっても適正な目的で照射された食品(1997年)」は「安全に摂取できる」と見解を示したことで食品の放射線照射は国際規格として認められている.吸収線量は放射線が照射した物質に与えた1 kg当たりの熱量(J:ジュール)を示す(1 J=0.24 cal).食品照射は主に発芽抑制,殺虫,殺菌,静菌,成熟遅延,宇宙食や特別食の滅菌などを目的として広く利用されている.特に国や地域間の輸出入では,品質維持や安全の保証,衛生維持さらに植物検疫に大きく貢献している(1)1) 古田雅一:放射線教育誌,22, 31(2019)..現在,韓国や欧州では放射線照射食品の国内流通量は減少しているが,その他の地域は流通量が増加している.中国では,国内消費される100万トン近くの食品が処理されている.オーストラリア・東南アジア・中南米では,燻蒸剤として使われていた臭化メチルが国際的に禁止になったことなどを受けて,輸出農産物への利用が拡大している(表1表1■各国の実用照射品目と数量).
| 国 名 | 国内実用照射の品目 | 実用数量(トン) |
|---|---|---|
| 韓国 | 乾燥野菜,朝鮮人参製品,穀物,調味料,酵母製品 | 250 |
| タイ | ハーブ,スパイス,マンゴスチン,加工食品 | 1,500 |
| EU* | カエルの足,家禽,スパイス・ハーブ類等 | 1,700(2021年) |
| オーストラリア** | 生鮮果実野菜 | 約10,000(2023年) |
| インド | スパイス・調味料,穀物豆類,マンゴー,ドライフルーツ等 | 12,500(3年間の平均) |
| アメリカ | 香辛料,乾燥野菜,牛ひき肉,食鳥肉等 | 約90,000 |
| ベトナム | 生鮮および冷凍魚介類,ハーブ,スパイス,穀物,生鮮果実等 | 120,000 |
| 中国 | チキン(手羽・脚),乾燥野菜,スパイス,調味料等 | 1,000,000*** |
| 日本 | 馬鈴薯 | 3,000(2024年より0) |
| 放射線・RI利用—現状と将来(原子力システム研究懇話会,令和3年5月:IAEA/RCAプロジェクト会議データと記事内容)より作成.中南米は示さない. *: REPORT FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL on food and food ingredients treated with ionising radiation for the years 2020–2021. **: Phytosanitary irradiation: Building stronger pathways for domestic and international trade, ***: 2020年のIAEA/RCAプロジェクト会議に欠席のため憶測値. | ||
誘導放射能(照射によって放射性同位体になる原子)を生じないエネルギーレベルで食品照射に使われる主な放射線の特徴を表2表2■食品照射に使われる放射線の特徴に示す.放射線は,物質を通り抜ける光線(電磁波)と質量を持つ電子線に大別できる.いずれも細菌のDNA分子を切断することで殺菌する.透過力と均一な照射を重視するならばγ線かX線,照射時間短縮と深部の保護を重視するならば電子線が選択される.ソフトエレクトロンは低エネルギー電子線で表面のみの殺菌に適す(2)2) 日本アイソトープ協会,第3期 理工・ライフサイエンス部会,食品照射専門委員会:食品照射の最前線~研究者が解説するQ&A~, https://www.jrias.or.jp/report/cat1/307.html, 2024..近年,安価な卓上型の低エネルギーX線源が開発された.低エネルギーX線は低電圧で発生させるため,γ線や電子線と比べて扱いやすい.現在,ソフトエレクトロンと同程度の出力による食品照射の研究が盛んであり,将来γ線や電子線の代替技術となる大きな可能性を秘めている(3, 4)3) H. Zhang & W. Zhou: Adv. Food Nutr. Res., 100, 287 (2022).4) N. Kataoka, N. T. T. Linh, Y. Kumeda, R. Asada, M. Furuta, M. Sekiguchi, H. Ando, M. Matsushita & T. Kume: Radiat. Phys. Chem., 218, 111586 (2024)..
| 線質 | 発生方法 | エネルギー: MeV* | 透過性 | 長所 | 短所 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 電磁波 | γ線 | 主にコバルトの放射性同位体(60Co)から発生するγ線 | 60Co-γ: 1.17, 1.33 密封線源をユニット化複数で使用 | 高 | ・材質・密度にかかわらず均一に照射. ・多くの食料品で実用され,一般的.(欧米・アジア・南米) ・優れた殺菌力. | ・照射時間が長い. ・変質(脂質やタンパク質など)がある. ・線源と廃棄処理を外国に委託. ・頑丈な遮蔽設備必要. ・設置や運転の許可必要. |
| X線 | X線発生装置等 | ≦5 | 高 | ・放射性物質が不要. ・照射コントロールが容易. ・材質・密度にかかわらず均一に照射. | ・変質(脂質やタンパク質など)がある. ・頑丈な遮蔽設備必要. ・設置や運転の許可必要. | |
| 電子線 | 電子線 | 主に円形加速器 | ≦10 | 深部** | ・放射性物質が不要. ・照射コントロールが容易. ・照射が短時間. ・脂質の品質劣化は少ない. | ・形状で照射ムラが生じる. ・透過能力が限定的. ・変質が大きい. ・施設が大がかりで高額. ・設置や運転に許可申請必要. |
| ソフトエレクトロン | 線形加速器 | 0.18–0.20(乾燥品:0.3–0.5) | 表面 | ・材質表面のみの照射.(穀物・豆類含む種子殺菌に効果的) ・装置がコンパクト. ・装置に付随可能. ・設置や運転許可が不要. | ・内部照射には向かない. ・形状で照射ムラが生じる. | |
| *:MeV(メガ電子ボルト):放射線の出力の単位.1 eV=1.6×10−19 J **:発生させるエネルギーによって食品内部の照射範囲を調整できる. | ||||||
日本では食品衛生法第13条に基づき,「製造,加工ならびに保存目的で食品に放射線を照射することを禁止」している.例外として異物混入検査など「食品を管理する場合」と「馬鈴薯(ジャガイモ)発芽防止のための食品照射」が許可されている.これまではコバルトの放射性同位体から発生するγ線(60Co-γ線)を使ってジャガイモに照射されていた.しかし,2023年7月に馬鈴薯許可照射センターが閉鎖されたことを受けて,現在放射線照射食品は国内で流通していない.輸入食品においては,検疫所で放射線照射の有無を検出し排除されている.2023年度は農産物加工食品を含め715件の輸入食品が検査され4件が排除された.その検査方法は放射線照射によって生じる物質の微細な変化を感知する物理的,化学的方法によって判定している(1, 2)1) 古田雅一:放射線教育誌,22, 31(2019).2) 日本アイソトープ協会,第3期 理工・ライフサイエンス部会,食品照射専門委員会:食品照射の最前線~研究者が解説するQ&A~, https://www.jrias.or.jp/report/cat1/307.html, 2024..近年,0.1 kGy以下の低エネルギー放射線照射食品をも検知できる技術が開発されている(5)5) T. Fujiwara, N. Fukui, M. Furuta & S. Takatori: Radioisotopes, 73, 35 (2024)..表2表2■食品照射に使われる放射線の特徴の放射線の照射施設は,日本にも複数あり,主に滅菌目的で医薬機器,検査機器,衛生材料,容器包装材料等に利用されているが,食品照射は行っていない.
さて,日本では2021年より世界基準のHACCP(危害要因分析重要管理点)に基づいた食品衛生管理体制が完全施行されている.HACCPとは,加工,製造,販売など消費者の手に渡るまでの個々の食品に安全を保証するシステムである.食中毒発生推移を鑑みると細菌・ウイルスが原因の食中毒はHACCP移行前の2018年度に732件(患者数:15,509人)であったころから2022年度までは321件(患者数:5,720人)と順調に半数以下まで減少したが,コロナ自粛が終了し往来が増えた2023年度は475件(患者数:10,031人)と増加してしまった.主要食中毒原因菌・ウイルスによる2023年度の発生状況と侵入経路,その生菌を10%に減少させる放射線の吸収線量(D10)を表3表3■2023年度食中毒発生と放射線感受性に示す.毒素型の原因菌は食品中で増殖し細菌由来毒素を産生したり食品を変質したりするが,ヒト体内(宿主)では増殖しない.感染型,感染毒素型の原因菌とウイルスはたとえ検査で検出限界以下だとしても宿主内で増殖して食中毒を引き起こすことができるため,1事件で発生する患者数が毒素型と比べ多い傾向がある.また,人から人に飛沫核感染や糞口感染して被害を広げるものもある.感染毒素型の原因菌は宿主内で毒素を産生し宿主組織を障害する.さらに芽胞菌は熱に強く加熱処理後の食品中でも増殖し食中毒を引き起こす.
| 食中毒原因菌・ウイルス | 事件数:件(患者数:人) | 食中毒タイプ | D10: kGy† | 食中毒を起こす食品または病原の侵入元 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 球菌 | 黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus | 20 (258) | 毒素型 | 0.21(6)6) H. Ito: Jpn. J. Food Microbiol., 28, 149 (2011). | ・手指皮膚,調理器具 ・皮膚常在菌 |
| 芽胞菌 (熱耐性) | セレウス菌Bacillus cereus | 2 (11) | 毒素型 | 1.10(6)6) H. Ito: Jpn. J. Food Microbiol., 28, 149 (2011). | ・作り置きのチャーハン,スパゲッティ等 ・土壌や汚水,自然界 |
| ボツリヌス菌Clostridium botulinum | — (—) | 毒素型 | 2.2–2.4(6)6) H. Ito: Jpn. J. Food Microbiol., 28, 149 (2011). | ・漬物,パウチ食品 ・蜂蜜,黒糖(乳児ボツリヌス症) ・室温嫌気状態 | |
| ウェルシュ菌Clostridium perfringens | 28 (1,097) | 感染型 | ・作り置きのカレーや煮物 ・河川や下水,土壌,腸管 | ||
| 桿菌 | 腸炎ビブリオVibrio parahaemolyticus | 2 (9) | 感染毒素型 | 0.21(6)6) H. Ito: Jpn. J. Food Microbiol., 28, 149 (2011). | ・生鮮魚介類(毒素は熱耐性) ・海水や淡水 |
| カンピロバクタージェジュニ/コリCampylobacter | 211 (2,089) | 感染型 | 0.08–0.25(7)7) M. R. Clavero, J. D. Monk, L. R. Beuchat, M. P. Doyle & R. E. Brackett: Appl. Environ. Microbiol., 60, 2069 (1994). | ・肉類,生乳,飲料水 ・動物消化管,口腔 | |
| サルモネラ属菌Salmonella | 25 (655)* | 感染型 | 0.16(6)6) H. Ito: Jpn. J. Food Microbiol., 28, 149 (2011). | ・加熱が少ない鶏肉や卵,たたきなど ・動物消化管 | |
| 腸管出血性大腸菌E.coli O157, O26, O111 | 19 (265) | 感染毒素型 | 0.12–0.15(6)6) H. Ito: Jpn. J. Food Microbiol., 28, 149 (2011). | ・食肉,井戸水,多岐にわたる食品,汚染調理器具 ・動物消化器,環境中 ・ヒト–ヒト感染有 | |
| その他病原大腸菌E.coli | 3 (116)* | 感染型 | |||
| ウイルス | ノロウイルスNorovirus | 163 (5,502) | 感染型 | ~2–3.5†† | ・二枚貝 ・汚染された調理器具 ・ヒト–ヒト感染有 |
| *:死者あり. †:kGy(キログレイ):菌・ウイルスの吸収線量.1 kgあたりの熱量(J:ジュール).D10値は低いほど放射線の殺菌が容易. ††:RNAウイルスのD10値(8)8) F. C. Thomas, A. G. Davies, G. C. Dulac, N. G. Willis, G. Papp-Vid & A. Girard: Can. J. Comp. Med., 45, 397 (1981).. | |||||
日本のHACCPは,製造から供給に至る工程で食品への異物混入を許さない管理を行っている.しかし,未知であったり検出限界以下で食品に紛れ込んだりする微生物の排除は難しい.2024年に発覚した小林製薬株式会社の紅麹生産工程上のプベルル酸産生カビの発生は記憶に新しい.また,発生を感知しても一度侵入した微生物の排除は難しく,機器や器具の高圧や高温,アルコール,クレゾールによる洗浄殺菌が行き届かなければ,残った菌体や胞子から再び発生してしまう.燻蒸剤や防腐剤の使用は,残存の懸念があり食品を取り扱う環境で頻繁に利用し難い.そこで非加熱性で隅々まで行き届き,残留しない放射線による殺菌を考える.表3表3■2023年度食中毒発生と放射線感受性の食中毒原因菌は食品に内在するよりも環境から持ち込まれることが多く,ウイルスや芽胞菌を除きD10値が低いので侵入排除に低線量放射線を利用できる.放射線は,医療機器や医療器具,そして食品包装紙などで十分な滅菌の実績がある.取り外しできる部品は外部委託で照射施設による照射を行い,移動できない機器や流路はソフトエレクトロンや低エネルギーX線を付随し洗浄工程に加えることで食品に直接照射しなくても微生物の侵入を防ぐことができる(表2表2■食品照射に使われる放射線の特徴).放射線の利用が広がれば食中毒件数は効果的に下がるであろう.また,2023年度の主要な食中毒発生場所は,外食産業と宿泊施設を含む給食施設であった.現在,世界中で研究されている殺菌線量の低エネルギー化がさらに進めば,提供施設や家庭の調理器具にも利用できる未来が考えられる.既に真核細胞では細菌の1/1000以下の低線量で特定の細胞の放射線感受性を高める方法が複数確立されており,医療では目的の細胞のみを殺細胞している.
最後に,2023年度学校施設等で調理実習のジャガイモによる集団食中毒事件(患数数:20)が発生した.ジャガイモによる食中毒は発芽時に産生される植物毒・ソラニンが原因で,子供と高齢者に被害が大きい.現在冷蔵保存で芽止めを行っているが,確実な食の安全のためには新しい照射センターは必要であると考える.
Acknowledgments
執筆にあたり,国内外の食品照射状況につきましてご教授くださった大阪公立大学大学院准教授朝田良子先生,大阪公立大学名誉教授 古田雅一先生,そして等々力節子先生に深謝致します.
Reference
1) 古田雅一:放射線教育誌,22, 31(2019).
2) 日本アイソトープ協会,第3期 理工・ライフサイエンス部会,食品照射専門委員会:食品照射の最前線~研究者が解説するQ&A~, https://www.jrias.or.jp/report/cat1/307.html, 2024.
3) H. Zhang & W. Zhou: Adv. Food Nutr. Res., 100, 287 (2022).
5) T. Fujiwara, N. Fukui, M. Furuta & S. Takatori: Radioisotopes, 73, 35 (2024).
6) H. Ito: Jpn. J. Food Microbiol., 28, 149 (2011).
8) F. C. Thomas, A. G. Davies, G. C. Dulac, N. G. Willis, G. Papp-Vid & A. Girard: Can. J. Comp. Med., 45, 397 (1981).