Kagaku to Seibutsu 63(1): 10-12 (2025)
今日の話題
新規転位反応を伴ったオオムギ耐病性インドールアルカロイドの生合成
トリプトファン側鎖のC–N転位反応を触媒するCYP76M57
Published: 2025-01-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
植物には多種多様な二次代謝産物(特化代謝産物)が蓄積されており,植物の病原生物に対する抵抗や情報伝達などで重要な役割を果たしている.また,これら化合物の中には人類にとって医薬品や香料として価値があるものも多く,生合成経路(二次代謝経路)についても数多く研究されている.しかし,化合物の単離から100年以上経っている二次代謝産物でも,その生合成酵素や遺伝子が近年になってようやく特定されたものもあるなど,生合成経路の全容解明には困難を伴うことも多く,現在でも生合成経路が明らかになっていない化合物が少なからず残っている.
構造中にインドール環をもった二次代謝産物はインドールアルカロイド(IA)とよばれ,ヒトに対しても強い生物活性を示すIAが植物から多く単離されている.オオムギの一部品種が蓄積する病害抵抗性化合物のグラミンは,もっともシンプルな構造をしたIAの一つであり(図1図1■グラミンおよび芳香族アミノ酸由来二次代謝産物の生合成経路),昆虫成長抑制活性や抗菌活性を示すほか,反芻動物など家畜の摂食抑制をひきおこす原因物質と考えられている.一般的にIAはアミノ酸のトリプトファン(Trp)から生合成され,グラミンも同様にTrpに由来することが20世紀半ばに示されている(1)1) K. Bowden & L. Marion: Can. J. Chem., 29, 1037 (1951)..また,グラミンの生合成中間体はアミノメチルインドール(AMI)であると予想され(図1図1■グラミンおよび芳香族アミノ酸由来二次代謝産物の生合成経路),AMIからグラミンを生成するN-メチル基転移酵素(NMT)が2006年に同定されたが(2)2) K. A. Larsson, I. Zetterlund, G. Delp & L. M. Jonsson: Phytochemistry, 67, 2002 (2006).,TrpからAMIに至る経路については依然として不明であった.
図1■グラミンおよび芳香族アミノ酸由来二次代謝産物の生合成経路
(A)グラミンとその他のインドールアルカロイドの生合成経路.青矢印:TrpからAMIへの過程で除かれる炭素原子.赤矢印:Trpからトリプタミンへの過程で除かれる炭素原子.(B)芳香族アミノ酸の側鎖短縮の例.(C)バニリルアミンの生合成経路.
IAの生合成経路は多くの場合,Trpからトリプタミンが生成することでスタートする.この過程ではTrpのカルボキシ基が脱炭酸するだけなので,インドール環とアミノ基(-NH2)間にある炭素原子の数はTrpと同じ2個のままである(図1図1■グラミンおよび芳香族アミノ酸由来二次代謝産物の生合成経路).一方で,AMIではそこに炭素原子は1つしかなく,側鎖炭素数が2つ減少していることになる.芳香族アミノ酸の炭素鎖を2個分短縮する既知の経路では,図1図1■グラミンおよび芳香族アミノ酸由来二次代謝産物の生合成経路に示すようにアミノ基が最初に脱離する(3)3) R. Marchiosi, W. D. dos Santos, R. P. Constantin, R. B. de Lima, A. R. Soares, A. Finger-Teixeira, T. R. Mota, D. M. de Oliveira, M. P. Foletto-Felipe, J. Abrahão et al.: Phytochem. Rev., 19, 865 (2020)..カプサイシンの生合成中間体であるバニリルアミンも芳香環–アミノ基間の炭素は1つだが,そのアミノ基は炭素鎖短縮後に再度付加されたものであって,前駆体のアミノ酸由来ではない.そこでグラミンの場合はどうなのかを,安定同位体標識Trpをオオムギに添加して解析してみた(4)4) E. Ishikawa, S. Kanai & M. Sue: Biochem. Biophys. Rep., 34, 101439 (2023)..すると,Trpのアミノ基窒素はAMIやグラミンに保持される一方で,カルボキシ基とα-位の炭素が除去されていることが示され(図1図1■グラミンおよび芳香族アミノ酸由来二次代謝産物の生合成経路),この経路はIA生合成において前例のない反応であると推測された.
続いてAMI生合成に関連する遺伝子単離のため,グラミン蓄積量に差があるオオムギ品種や組織を用いてRNA-seq解析をしたところ,二次代謝に関連しうる酵素遺伝子としては上述のNMT遺伝子の他に,シトクロムP450(CYP76M57)をコードするものがあった(5)5) E. Ishikawa, S. Kanai, A. Shinozawa, M. Hyakutake & M. Sue: Plant J., 118, 892 (2024)..CYP76ファミリーの既知酵素はほとんどがテルペノイドに作用するものであり,特にCYP76Mサブファミリーについてはイネのジテルペノイド酸化酵素が知られているのみであった.ところが,この遺伝子をNMTとともにシロイヌナズナやイネに導入してみると,その植物ではAMIとグラミンが蓄積されていることがわかった.このことから,CYP76M57は既知のCYP76Mサブファミリーの酵素とは異なり,グラミンの生合成に関わる酵素の一つであることが示された.
TrpからAMIへの構造変化と同等の変換を行う代謝経路はこれまで知られておらず,この過程には複数の反応ステップが関わっている可能性もあった.そこで,酵母で発現させたCYP76M57を用いてTrpなどに対する反応性をin vitroで確認したところ,この酵素が単独でTrpを基質にAMIを生成することが明らかとなった.さらに,Trpのアミノ基は脱離することなくそのままAMIに引き継がれるというin vivoでの実験結果が明瞭に再現され,このCYPはTrpアミノ基のCαからCβへの転位とともに炭素原子2つを脱離させるという,既知のCYPにはない反応を触媒することが示された.偶然,我々の報告の直後にドイツのグループからもこのCYP76M57に関する報告があり(6)6) S. L. Dias, L. Chuang, S. Liu, B. Seligmann, F. L. Brendel, B. G. Chavez, R. E. Hoffie, I. Hoffie, J. Kumlehn, A. Bültemeier et al.: Science, 383, 1448 (2024).,その中でこの炭素鎖短縮の反応機構として,C–Nの転位とともにカルボキシ基とα位の炭素2つがグリオキシル酸として脱離する機構が提唱されている.アミノ酸に由来する二次代謝経路でC–N結合の転位反応が起きている例は他にもあり,例えば,アブラナ科植物のファイトアレキシンであるブラシニン類は,生合成過程でロッセン転位様の反応が起こっている(7)7) A. P. Klein & E. S. Sattely: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 1910 (2017)..しかし,単一の酵素としてアミノ酸を基質にアミノ基の転位と炭素鎖の短縮を行うものはこれまでになく,このCYP76M57は一次代謝と二次代謝をつなぐ新たな経路の酵素といえる.
栽培オオムギや野生オオムギの中にはグラミンを生産しないものがあるが,これまでグラミンの生産性を決定する要因は不明であった.今回,グラミン生合成にはCYP76M57とNMTの2酵素のみが必要であることが明らかになったため,複数のオオムギ品種でこれらの遺伝子や酵素について解析したところ,グラミンを生産できない原因は3つのパターンに分かれることがわかった(5)5) E. Ishikawa, S. Kanai, A. Shinozawa, M. Hyakutake & M. Sue: Plant J., 118, 892 (2024)..AMI生合成酵素であるCYP76M57遺伝子をもたないもの,塩基配列の変異によりこのCYPがAMI合成活性を失ったもの,そして,遺伝子への数百塩基対の断片挿入により正常なタンパク質に翻訳されないものである.この3パターンのうちCYP76M57遺伝子を欠損している品種は,もう一つのグラミン生合成遺伝子であるNMT遺伝子も同時に欠損していた.両遺伝子はオオムギの1H染色体上で近隣に座乗していたことから,これらの品種では染色体上のこの領域が欠損しているものと考えられる.一方で,NMTのみが原因でグラミン生産能を失っているものはなかった.
以上のように,オオムギ耐病性化合物グラミンの生合成酵素であるCYPが見いだされ,CYPが触媒する新しい反応が明らかとなった.また,ここで示された反応は,CYPを用いた新たな物質生産技術にもつながるかもしれない.さらに,一次代謝から二次代謝への分岐点に位置する新たな酵素の発見によって,植物二次代謝の多様性への理解と未知経路の解明が進むことを期待したい.
Reference
1) K. Bowden & L. Marion: Can. J. Chem., 29, 1037 (1951).
2) K. A. Larsson, I. Zetterlund, G. Delp & L. M. Jonsson: Phytochemistry, 67, 2002 (2006).
4) E. Ishikawa, S. Kanai & M. Sue: Biochem. Biophys. Rep., 34, 101439 (2023).
5) E. Ishikawa, S. Kanai, A. Shinozawa, M. Hyakutake & M. Sue: Plant J., 118, 892 (2024).
7) A. P. Klein & E. S. Sattely: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 114, 1910 (2017).