Kagaku to Seibutsu 63(1): 16-18 (2025)
今日の話題
肝臓VLDL受容体の発現と機能
肝臓VLDL受容体量と脂肪肝との関連性にみられる謎
Published: 2025-01-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
超低密度リポタンパク質受容体(very low-density lipoprotein receptor; VLDLR)は,その名の通りリポタンパク質であるVLDLと結合する受容体である.VLDLは肝臓から分泌されるトリアシルグリセロールやコレステロールを含むリポタンパク質であり,末梢組織でトリアシルグリセロールから脂肪酸が切り出されて組織に取り込まれると,コレステロールに富むLDLになる.この過程で,組織で発現するVLDLRはVLDLのアポリポタンパク質であるApoEと結合し,脂肪酸を切り出すリポプロテインリパーゼ(LPL)を活性化して,組織への脂質取り込みを促進する.VLDLR欠損マウスでは血中脂質濃度が増加し,VLDLRを多く発現する心臓,筋肉,脂肪組織などの脂質含量が低下することから,VLDLRは血中VLDL中の脂質をこれらの組織に供給するために重要な受容体であると考えられている(1)1) G.-W. Goa & A. Mani: Yale J. Biol. Med., 85, 19 (2012)..
VLDLRは他のリポタンパク質受容体であるLDL受容体(LDLR)と類似した構造を持つが,LDLRはリガンドとしてApoBを認識し,コレステロールを組織に取り込む役割を担うという点でVLDLRとは明確に異なっている.LDLRは,その発見以来,家族性高コレステロール血症の原因因子として研究が大きく展開し,ノーベル医学・生理学賞の受賞対象となった.LDLRが医学・生化学分野で有名な受容体であるのに対し,VLDLRは発見もLDLRより遅く,病態との関連を含めた知見もLDLRと比較して乏しい受容体である.
前述のように,VLDLRは脂肪組織などの脂質代謝が活発な組織で多く発現しているが,肝臓ではVLDLR量は非常に少なく,脂質取り込みにも大きな寄与はないと考えられてきた.しかし,ツニカマイシンという薬剤の投与によって小胞体ストレスを惹起したマウスにおいて,肝臓VLDLRの遺伝子発現やタンパク質量が顕著に増加することが報告された(2)2) H. Jo, S. S. Choe, K. C. Shin, H. Jang, J. H. Lee, J. K. Seong, S. H. Back & J. B. Kim: Hepatology, 57, 1366 (2013)..小胞体ストレス下では細胞内に折りたたみ不全タンパク質が蓄積して種々のストレス応答が生じるが,肝臓では脂肪肝が生じることが知られている.したがって,VLDLRの増加によって肝臓への脂質取り込みが増加して脂肪肝が生じる可能性が想定された.実際に,VLDLR欠損マウスでは小胞体ストレスを惹起しても脂肪肝が生じなかったことから,VLDLRは小胞体ストレスによる脂肪肝の原因因子である可能性が強く示された(2)2) H. Jo, S. S. Choe, K. C. Shin, H. Jang, J. H. Lee, J. K. Seong, S. H. Back & J. B. Kim: Hepatology, 57, 1366 (2013)..高脂肪食を摂取したマウスでも脂肪肝とVLDLR増加が生じ,VLDLR欠損マウスでは脂肪肝が生じなかったことも考え合わせると,通常は肝臓ではVLDLR量が少なく脂質取り込みへの寄与が小さいが,ストレスや脂質負荷時にはVLDLRの量が増加して脂質取り込み量が増加し,脂肪肝を引き起こすと考えられるようになった.
脂肪肝はストレスや栄養過多だけでなく,低栄養によっても生じる.筆者らは,タンパク質欠乏時に肝臓脂肪の増加と同時に肝臓VLDLR量が顕著に増加することを見いだした(3)3) Y. Oshio, Y. Hattori, H. Kamata, Y. Ozaki-Masuzawa, A. Seki, Y. Tsuruta & A. Takenaka: Sci. Rep., 11, 8003 (2021)..そこでタンパク質欠乏による脂肪肝もVLDLRによる脂質取り込みによって生じるのかどうかを,VLDLR欠損マウスを用いて検討した.その結果,VLDLR欠損マウスでもタンパク質欠乏による脂肪肝が野生型マウスと同様に生じ(3)3) Y. Oshio, Y. Hattori, H. Kamata, Y. Ozaki-Masuzawa, A. Seki, Y. Tsuruta & A. Takenaka: Sci. Rep., 11, 8003 (2021).,タンパク質欠乏による肝臓VLDLRの増加は脂肪肝形成には直接寄与しないという,小胞体ストレスや高脂肪食とは異なる結果が得られた.さらに,脂肪肝を引き起こす別モデルであるメチオニン・コリン欠乏においても,脂肪肝形成とVLDLR増加が同時に生じること,VLDLR欠損マウスでもメチオニン・コリン欠乏による脂肪肝が生じることを示した.したがって,VLDLR増加と脂肪肝が同時に生じる複数のケースにおいて,脂肪肝に対するVLDLRの寄与が異なるということが明らかになった(表1表1■肝臓VLDLR増加と脂肪肝の関連性).なお,タンパク質欠乏時に生じる脂肪肝は脂肪酸合成の増加や肝臓からの脂質分泌の低下などの複数の要因によって生じ,メチオニン・コリン欠乏による脂肪肝は肝臓からの脂質分泌の低下によって生じると考えられる.
さらに筆者らは,VLDLRの遺伝子発現および肝臓VLDLR量には,標準食を給餌した9週齢の成熟メスマウスでオスより高いという性差があることを見いだした.この性差は肝臓特異的であり,心臓,筋肉,脂肪組織では見られなかった.肝臓脂質量もメスでオスより高いことから,VLDLRによる脂質取り込みの性差が肝臓脂肪量の性差になる可能性が想定された.しかし,VLDLR欠損マウスでも肝臓脂質量の性差が存在したことから,VLDLR量の性差は肝臓脂質の性差とは関連しないことも示された.ここでも,我々の検討では肝臓VLDLRが肝臓脂肪量に影響するという結果は得られなかった(表1表1■肝臓VLDLR増加と脂肪肝の関連性).
肝臓VLDLR量の性差がどのような生理学的意義を持つかは不明であるが,性差は成長ホルモン(GH)を介して生じると推定している.脳下垂体からのGH分泌には性差があることが知られており,オスでは高いピークと低い基底値を持つパルス的な分泌であるのに対し,メスでは規定値が高くパルスが連続的である.これにより,GHシグナル伝達因子であるsignal transducer and activator of transcription 5(STAT5)の活性に性差が生じ,一群の遺伝子発現の性差が生じる.文献調査の結果,ChIP-seqによるSTAT5ターゲット遺伝子パネルの中にVLDLRが位置することを見いだした(4)4) Y. Zhang, E. V. Laz & D. J. Waxman: Mol. Cell. Biol., 32, 880 (2011)..一方で,タンパク質欠乏もSTAT5リン酸化の低下によるGH抵抗性を引き起こし,これがタンパク質欠乏時の成長低下の要因であることが知られている.これらの知見から,性差とタンパク質欠乏はいずれもSTAT5を介してVLDLR遺伝子発現を制御すると予想される(表2表2■GHシグナルと肝臓VLDLR遺伝子発現).
肝臓VLDLR量のタンパク質欠乏による増加と性差は顕著な変化であり,いずれもGHシグナルの下流で何らかの機能を発揮する可能性がある.マウスのVLDLR欠損により発現変動する遺伝子をRNAseqにより解析した結果では,炎症・免疫に関する遺伝子の発現変動が見られ,特にVLDLR量が多いメスで顕著であった.VLDLRはマクロファージなどの細胞でも発現しており,肥満時の脂肪組織の炎症との関連性も報告されている(5)5) K. C. Shin, I. Hwang, S. S. Choe, J. Park, Y. Ji, J. I. Kim, G. Y. Lee, S. H. Choi, J. Ching, J.-P. Kovalik et al.: Naure Commun, 8, 1087 (2017)..GHは成長だけでなく脂質代謝,糖代謝,生殖,脳,免疫など広範な作用を持ち,GHにより発現制御される遺伝子群には脂質代謝や炎症反応に関わるものも多い.VLDLRもこの一員として肝臓の炎症応答に可能性があると考えている.ダイナミックな発現変動をみせるVLDLRの肝臓における機能について,今後の展開が期待される.
Reference
1) G.-W. Goa & A. Mani: Yale J. Biol. Med., 85, 19 (2012).
4) Y. Zhang, E. V. Laz & D. J. Waxman: Mol. Cell. Biol., 32, 880 (2011).