プロダクトイノベーション

乳製品中の糖代謝活性を有するL. パラカゼイ・シロタ株の迅速検出
蛍光色素の排出活性を有する菌体のフローサイトメトリー検出

Hiroyuki Kubota

久保田 博之

株式会社ヤクルト本社中央研究所

Published: 2025-01-01

はじめに

乳製品やそのスターター等に含まれる生きた乳酸菌を迅速に検出することは,製品の製造や品質管理などの点から非常に重要である.従来,生きている菌の絶対的とも言える指標は,平板培地に塗抹して培養した際にコロニーを形成すること,すなわち培養可能であることであった.増殖してコロニーを形成したということは,その菌が生きていることの揺るぎない証拠である.その一方で,コロニー形成能は有していないものの,代謝活性などは有している状態の菌も存在し,それらは培養ができない(増殖能を喪失している)だけで,代謝活性は維持しているのだから生きた菌である,という考え方も広まってきた.このような状態の菌は,VBNC(viable but non-culturable)と呼ばれる.Davis(1)1) C. Davis: J. Microbiol. Methods, 103, 9 (2014).は,生きている(viable)の定義を“代謝活性がある,かつ/または,損傷のない細胞膜を有している(metabolically active and/or having intact membranes)”と提案しており,近年もっとも広く受け入れられている生菌の定義の1つになっている.具体的な測定法としては,国際標準化機構(ISO)および国際酪農連盟(IDF)による国際標準法ISO19344/IDF232として,乳製品中のプロバイオティクスのフローサイトメトリー(FCM)を用いた検出方法が発行されている(2)2) ISO: INTERNATIONAL STANDARD, ISO19344 [IDF232] (2015)..同法では,全ての菌の核様体を染色するSYTO24と細胞膜が損傷した菌の核酸のみを染色するpropidium iodide(PI)を用いて「損傷のない細胞膜」を指標に識別する方法や,菌体内のエステラーゼ活性を検出するためのcarboxyfluorescein diacetate(CFDA)と前述のPIを用いて「酵素活性」と「損傷のない細胞膜」の2つ指標で菌を識別する方法などが記載されている.なお,通常,培養法による生菌数測定では結果を得るのに数日間を要するが,このFCM法ではサンプル処理も含めて数時間で結果を得ることができることから,非常に迅速であるという利点を有している.

前述したDavisによる「生きている(viable)」の定義に則ると,コロニー形成能を有する菌,代謝活性を有する菌,損傷のない細胞膜を有する菌はいずれも生菌に該当する.しかし,これらの菌の状態には違いがあるため,用いた手法がどのような状態の生菌を検出できるのかを認識し,目的に応じて使用することが重要である.実際に,低温保存した乳製品中の菌体では,「コロニー形成能」を失っても,「損傷のない細胞膜」や「酵素活性」は長期間維持されることが報告されている(3, 4)3) S. J. Lahtinen, A. C. Ouwehand, J. P. Reinikainen, J. M. Korpela, J. Sandholm & S. J. Salminen: Appl. Environ. Microbiol., 72, 5132 (2006).4) S. J. Lahtinen, M. Gueimonde, A. C. Ouwehand, J. P. Reinikainen & S. J. Salminen: Appl. Environ. Microbiol., 71, 1662 (2005)..この事例のように,低温保存する乳製品の評価においては,どの指標を用いるかによって検出される菌集団が大きく異なる場合があることがわかっている.

我々は乳酸菌飲料中のLacticaseibacillus paracasei strain Shirota(L. パラカゼイ・シロタ株:LcS,旧名称:Lactobacillus casei strain Shirota)にISO19344/IDF232法のCFDA/PI二重染色を適用し,FCM解析を実施した.本来,CFDAは菌体内エステラーゼによって緑色蛍光を示すcarboxyfluorescein(CF)に変換されて菌体内に蓄積するため,CF蛍光を測定することで「酵素活性」を有する菌体を検出できる.しかし,LcSの生菌(培養可能菌)の場合では,大部分の菌体がCF蛍光を示さない位置に検出されることがわかった(図1図1■ISO19344/IDF232法による乳酸菌のFCMによる検出).本研究では,LcSが糖存在下においてCFを菌体外へ排出することを明らかにし,このCF排出活性が,糖代謝活性を反映した新たな生菌の指標になりうると考えられたため,そのメカニズムおよび有用性を調べた.

図1■ISO19344/IDF232法による乳酸菌のFCMによる検出

FCMで乳酸菌を解析したときのプロット図(横軸:CF蛍光強度,縦軸:PI蛍光強度)を表す.生菌はCF+PI−ゲート,死菌はCF−PI+に検出される.ただし,LcSに適用した場合は,青色のCF−PI−の位置に検出された.

LcSが示すCF排出活性

LcSを含む乳酸菌飲料(以後,「LcS乳酸菌飲料」)をCFDAおよびPIで二重染色した結果を図2図2■CFDA/PI二重染色したLcS乳酸菌飲料のFCM解析結果に示した.上段は新鮮なサンプルを用いた結果であり,処理なしの条件では,LcSの大部分はCF−PI−ゲートに検出された.Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline(DPBS)で洗浄することで糖などを除去して菌体のみを回収すると,LcSはCF+PI−ゲートに検出されるようになり,さらに同条件にグルコースを添加すると再びCF−PI−ゲートに検出されるようになった.このことから,LcSは糖が存在しない条件ではCF排出活性を示さずに酵素活性によって生成したCFが菌体内に蓄積していること,それがグルコース存在下では菌体外へ排出されることが示された.なお,いずれのサンプルもPIでは染色されないので,細胞膜は損傷していない.すなわち,新鮮なLcS乳酸菌飲料中のLcSは「損傷のない細胞膜」,「酵素活性」,「排出活性」のすべてを有していることがわかった.一方,図2図2■CFDA/PI二重染色したLcS乳酸菌飲料のFCM解析結果の下段は低温で6か月保存したLcS乳酸菌飲料の結果であり,LcSは処理の有無にかかわらず常にCF+PI−ゲートに検出された.このことから,「損傷のない細胞膜」と「酵素活性」の両方を維持しているが「排出活性」を喪失していることがわかった.

図2■CFDA/PI二重染色したLcS乳酸菌飲料のFCM解析結果

「処理なし(希釈のみ)」は染色前の処理としてサンプルをDPBSで希釈したもの,「洗浄」はサンプルをDPBSで洗浄して菌体を回収したもの(飲料に含まれる糖などの成分を除去したもの),「洗浄+Glc添加」は洗浄回収した菌体にグルコースを添加したものを表す.文献8より改変転記.

次に,新鮮なLcS乳酸菌飲料を各種ストレス(加熱,低pH,胆汁酸)で処理した後にFCMで測定した(図3図3■各種ストレス処理したLcSのFCM解析結果).その結果,各ストレスの負荷が弱い場合ではCF+PI−ゲート,すなわち,損傷のない細胞膜と酵素活性は維持しているが排出活性を喪失した菌(損傷菌)が増加し,さらにストレス負荷が強くなるとCF−PI+ゲート,すなわち,すべての活性を喪失した菌(死菌)となった.以上の結果から,低温保存やストレス処理したLcS乳酸菌飲料に含まれるLcSの解析に,排出活性が有効であることが示された.

図3■各種ストレス処理したLcSのFCM解析結果

横軸はCF蛍光強度,縦軸はPI蛍光強度を表す.青のゲート(CF−PI−)は損傷のない細胞膜,酵素活性,排出活性を有した菌,緑のゲート(CF+PI−)は損傷のない細胞膜と酵素活性を有したまま排出活性を喪失した菌,赤のゲート(CF−PI+)は損傷のない細胞膜,酵素活性,排出活性のいずれも喪失した菌を表す.ストレス負荷として,加熱(60°Cおよび100°C),低pH(2.5および2.0),デオキシコール酸(0.4 mMおよび1.0 mM)で処理した.文献8より改変転記.

グルコースの存在下でLcSはCFを排出することがわかったので,次に,CFDA添加後のCFの蓄積とグルコース添加後のCFの排出に関する経時的な挙動を調べた(図4図4■LcSによるCFの蓄積および排出の経時解析).糖が存在しない条件でLcSにCFDAを添加したところ,CFDA添加から5分程度でLcS菌体内にはCFが急速に蓄積し,15~20分後にはほぼプラトーに達していることがわかった(図4A図4■LcSによるCFの蓄積および排出の経時解析).次に,このようにCFを蓄積させた状態のLcSにグルコースを添加したところ,CFは5分以内で迅速に菌体外へ排出されることがわかった(図4B図4■LcSによるCFの蓄積および排出の経時解析).添加するグルコース濃度を変化させたところ,同濃度を0.01 mM以下にするとCFの排出が遅延することも確認され(データは示さず),これらの結果から,LcSが排出活性を示すためには,十分な濃度のグルコースが必要であることもわかった.

図4■LcSによるCFの蓄積および排出の経時解析

A) LcSにCFDAを添加したときのCF蛍光強度の経時変化,B) CFを蓄積させたLcSにグルコースを添加したときのCF蛍光強度の経時変化を示した.横軸はCFDAまたはグルコースの添加後の経過時間(分),縦軸はCF蛍光強度を表す.いずれもドットが1細胞(1菌体)を表し,その密度が濃いところから順に,赤,緑,青となっている.文献8より改変転記.

CF排出活性に関与する因子の探索

CF排出活性に関与する遺伝子を探索するため,N-メチル-N′-ニトロ-N-ニトロソグアニジンを用いてLcSの遺伝子にランダムな変異を導入したライブラリーを作製し,表現型との因果関係を調べた.具体的には,同変異ライブラリーからCF排出活性が喪失または低下した菌体をセルソーターを用いて分離・培養し,その分離株に含まれる遺伝子の変異箇所を特定した.その結果,解糖系のホスホフルクトキナーゼ遺伝子(pfkA)に変異が生じると,CF排出活性が大幅に低下することが確認された(図5A図5■pfkAが変異したLcS分離株の排出活性およびPFK活性).この変異株ではpfkA以外の遺伝子においても変異が複数認められたが,同変異株にLcS野生株のpfkA遺伝子を相補したところCF排出活性が正常レベルに回復したことから,pfkA遺伝子の変異が排出活性に影響する因子であると判断した.また,これらLcS菌株の培養菌体をホモジナイズし,ホスホフルクトキナーゼ(PFK)の基質であるフルクトース6-リン酸(F6P)の含有量を調べたところ,pfkA変異株ではF6Pの蓄積が見られ,野生型pfkAを相補した株では野生株と同様にF6Pが検出されなかった(図5B図5■pfkAが変異したLcS分離株の排出活性およびPFK活性).このことから,pfkA変異株ではPFKの活性が低下していることが確かめられた.以上の結果から,LcSがCF排出活性を示すためには,PFKが正常に機能すること,すなわち,解糖系によって糖が正常に代謝される必要があることが示された.

図5■pfkAが変異したLcS分離株の排出活性およびPFK活性

「LcS野生株」はLcSの野生株,「pfkA変異株」はスクリーニングによって選抜された排出活性が低下したLcS変異株,「pfkA変異株+相補」はpfkA変異株に野生型のpfkA遺伝子を相補した株を表す.A)各LcS菌株について,菌体内に蓄積させたCFをグルコースの添加によって排出させたときのCFの経時変化を表す.B)PFKの反応基質であるフルクトース6-リン酸の各LcS菌株における残存量(n=3, 平均値±標準偏差)を示している.文献8より改変転記.

なお,ある種のバクテリアが蛍光色素を菌体外へ排出する現象は古くから知られているが(5, 6)5) D. Molenaar, H. Bolhuis, T. Abee, B. Poolman & W. N. Konings: J. Bacteriol., 174, 3118 (1992).6) C. J. Bunthof, S. van den Braak, P. Breeuwer, F. M. Rombouts & T. Abee: Appl. Environ. Microbiol., 65, 3681 (1999).,その排出機序の詳細は明らかではない.我々は,LcSの変異ライブラリーからのスクリーニング実験においてCFの排出に関与するトランスポーターに変異が生じた菌株の取得も期待したが,そのような菌株は取得できなかった.Lactococcus lactisでは,ABCトランスポーターが類似した蛍光色素の排出に関与することが報告されており(7)7) J. Lubelski, P. Mazurkiewicz, R. van Merkerk, W. N. Konings & A. J. Driessen: J. Biol. Chem., 279, 34449 (2004).,LcSにもホモログが存在していたため同遺伝子を欠失させてみたが,CF排出への関与は認められなかった(データは示さず).そのため,現時点でもCFの排出に関与するトランスポーターは特定できていないが,各種排出阻害剤でLcS菌体を処理した実験の結果,脱共役剤であるnigericinやcarbonyl cyanide m-chlorophenylhydrazoneでの処理によってCFの排出が阻害されたことから(データは示さず),CFはプロトン駆動力に依存したトランスポーターによって排出されていると考えている.

LcS乳酸菌飲料の低温保存に伴う各活性を有するLcSの推移

最後に,LcS乳酸菌飲料を低温で長期間保存し,CF排出活性,コロニー形成能,損傷のない細胞膜,酵素活性(エステラーゼ活性)を示すLcSの割合を経時的に測定した(図6図6■各活性を有するLcSの割合の推移).なお,コロニー形成能を示すLcSの割合は,セルソーターを用いて1細胞ずつ計96細胞(縦8×横12)を96ウェルプレートサイズの寒天培地にソーティングし,培養後に生成したコロニー数をソーティングした細胞数で除した値として算出した.その結果,「損傷のない細胞膜」と「酵素活性」を有するLcSの割合は長期間保存後も高く維持されたままであったが,「CF排出活性」と「コロニー形成能」を示すLcSの割合は類似したタイミングで低下することがわかった.このことから,4つの活性指標を用いることで状態の異なるLcS集団を検出できることが示された.

図6■各活性を有するLcSの割合の推移

各活性(赤:損傷のない細胞膜,緑:酵素活性,青:CF排出活性,橙:コロニー形成能)を有するLcSの割合(n=3, 平均値±標準偏差)の経時変化を示した.乳酸菌飲料の保存日数(横軸)は,同飲料の賞味期限日を0として示した.なお,コロニー形成能を示すLcSの割合は,図のように寒天培地上に所定数の細胞を1 cellソーティングして培養したときのコロニー形成率を表す.文献8より改変転記.

このような違いが生じた原因として,低温保存された乳酸菌飲料は,LcSにとってストレス負荷が小さい環境であることが考えられる.そのため,長期間保存後もLcS菌体は物理的な損傷を受けず,細胞膜は損傷のないまま維持され,また,その菌体内に含まれるエステラーゼ酵素タンパク質も活性が保持されたと考えられる.一方,正常な糖代謝活性の指標である排出活性は経過とともに喪失されることから,穏やかなストレス条件下でもLcSは糖を代謝する能力を失った状態へと不可逆的に変化したと考えられた.コロニー形成能(増殖能)については,増殖するためには,糖代謝だけでなくタンパク質合成や核酸合成など多くの機能が維持されている必要があることから,保存に伴ってそれら要件のいずれか(糖代謝も含む)を喪失した段階で,コロニー形成能も喪失したと考えられた.前述のDavisによる生菌の定義に基づくと,「損傷のない細胞膜」「酵素活性」「排出活性」「コロニー形成能」を有した菌はいずれも生菌に該当するが,低温で保存された乳酸菌飲料中のLcSの場合,どの指標を用いるかによって検出される菌体の範囲が異なってくることがわかった.各指標がどのような状態の菌を検出できるのか,その範囲を図7図7■各活性指標で検出できるLcSの範囲にまとめた.このような各指標とその特性を踏まえて,乳製品中のプロバイオティクスを検出するときは,どのような活性を有する集団を検出すべきかに基づいて,適した指標を選択していく必要がある.例えば,ある菌体がつくる細胞外多糖のような構造物が維持されていることが重要なのであれば「損傷のない細胞膜」を指標に物理的に損傷のない菌体を検出すれば良いかもしれないし,菌の代謝産物が重要なのであれば「排出活性」や「コロニー形成能」を指標に代謝能力を有した菌を検出する必要があると考えられる.

図7■各活性指標で検出できるLcSの範囲

菌体の活性に基づいて,生菌と死菌,培養可能菌と培養不可能菌を区分し,各活性指標でどの範囲の菌を検出できるかを概念的に示した.生菌の定義は,文献1「代謝活性がある,かつ/または,損傷のない細胞膜を有している」を用いた.文献8より改変転記.

おわりに

乳製品の製造や品質管理においては,生菌を検出すること(生菌数を計測すること)は重要である.「生きている」をどのように定義するかによって生菌の範囲は変わるが,「物理的損傷がない,かつ/または,代謝活性がある」という定義に基づくと,生菌に該当する菌の状態には大きな幅があることがわかった.本稿では,CF排出活性という指標を用いることで,糖代謝活性を示すLcSを検出できることを明らかにした.糖代謝活性は,これまで広く用いられてきた損傷のない細胞膜や酵素活性と比較して,菌体の活性が高い集団を検出しており,コロニー形成能(増殖能)に近い指標であることが示された.CF排出活性に基づく糖代謝活性菌の測定方法は,CFU測定に代わる生菌の迅速検出法としても有用であると考えている.

Reference

1) C. Davis: J. Microbiol. Methods, 103, 9 (2014).

2) ISO: INTERNATIONAL STANDARD, ISO19344 [IDF232] (2015).

3) S. J. Lahtinen, A. C. Ouwehand, J. P. Reinikainen, J. M. Korpela, J. Sandholm & S. J. Salminen: Appl. Environ. Microbiol., 72, 5132 (2006).

4) S. J. Lahtinen, M. Gueimonde, A. C. Ouwehand, J. P. Reinikainen & S. J. Salminen: Appl. Environ. Microbiol., 71, 1662 (2005).

5) D. Molenaar, H. Bolhuis, T. Abee, B. Poolman & W. N. Konings: J. Bacteriol., 174, 3118 (1992).

6) C. J. Bunthof, S. van den Braak, P. Breeuwer, F. M. Rombouts & T. Abee: Appl. Environ. Microbiol., 65, 3681 (1999).

7) J. Lubelski, P. Mazurkiewicz, R. van Merkerk, W. N. Konings & A. J. Driessen: J. Biol. Chem., 279, 34449 (2004).

8) H. Kubota, M. Serata, H. Matsumoto, K. Shida & T. Okumura: Appl. Environ. Microbiol., 89, e0215622 (2023).