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光合成生物と微生物の共生
共培養による増殖促進と物質生産

Masaaki Konishi

小西 正朗

北見工業大学工学部応用化学系

Published: 2025-02-01

微細藻類やシアノバクテリアは光合成により大気中の二酸化炭素から直接炭素を有機物に固定することができる.従属栄養微生物のように,糖などの有機炭素源を必要としないため,食料と競合しない.単位面積あたりの炭素固定量は,農作物と比べて十分に高いとされており,化石燃料に依存しない物質生産のための宿主として注目されている.そのため,食品,化粧品原料の他,化学物質原料生産やバイオ燃料生産分野でも研究が活発化している(1)1) R. Sharma, A. Mishra, D. Pant & P. Malaviya: Bioresour. Technol., 344(Pt B), 126129 (2022)..しかしながら,経済的な物質生産を達成するためには,生産性が不十分であることが多く,実用化されているプロセスは経済性が成り立ちやすい高付加価値製品である化粧品原料や健康食品分野に限定されている.この要因のひとつとして,増殖速度が不十分であることが挙げられる.微細藻類の増殖速度を改善する方法のひとつとして,その増殖を促進することができる共培養菌の活用がある.

Palaciosらの総説(2)2) A. Palacios, B. R. López & L. E. de-Bashan: Algal Res., 61, 102585 (2022).によると,初めての微細藻類増殖促進細菌の報告は,ビタミンB12欠乏条件下における混合培養中に,海産性珪藻が共存微生物からビタミンB12の供給を受けることで増殖が刺激される現象の報告であるとされる(3)3) K. C. Haines & R. R. L. Guillard: J. Phycol., 10, 245 (1974)..当初はgrowth promoting bacteriaと称されていたようである.その後,2000年以降microalgae growth promoting bacteria(MGPB)が使われるようになっている.2010年以降MGPBもしくは同義の微生物に関する論文が増加しているようである.MGPBは系統的に幅広い種から見出されており,それらの微細藻類増殖促進機構にも多様性があると思われる.共培養によるMGPBの微細藻類増殖促進に関する詳しいメカニズムは十分に明らかになっていないが,微細藻類の増殖に必要な栄養成分や二酸化炭素,炭酸塩の供給,ビタミンの供給の他,植物生長ホルモンやその類縁体による代謝変動,シデロフォアと呼ばれるペプチド性脂質による錯体形成を介した鉄の取り込み活性化等が関与していると考えられている(4)4) W. Pathom-aree, P. Sattayawat, S. Inwongwan, B. Cheirsilp, N. Liewtrakula, W. Maneechote, P. Rangseekaew, F. Ahmad, M. A. Mehmood, F. Gao et al.: Microbiol. Res., 286, 127813 (2024)..場合によっては,これらのうち複数の因子が協調的に関与している可能性も高い.これらの共生メカニズムが根圏における植物成長促進細菌(plant growth promoting bacteria; PGPB)と共通する点が多いことも興味深い点である.

筆者らは,牛のし尿を簡易活性汚泥法で長期間処理して製造した液体肥料が,窒素やリンの含有量が極めて少ないにも関わらず,植物の初期成長を促進する機能を持つことを見出した.さらに,施肥したシロイヌナズナの網羅的遺伝子発現解析によりホルモン様応答が関与していることを明らかにした(5)5) Y. Kato & M. Konishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 88, 1007 (2024)..さらに,その液体肥料がシアノバクテリアや微細藻類の増殖も促進することを見出した(6)6) 小西正朗,窪之内 誠,加藤勇太:微細藻類成長促進剤及び微細藻類成長促進剤の製造方法:特許第7486723号(2021)..高等動物のし尿から植物ホルモンのジベレリンが発見されていることから,原料由来の物質が関与している可能性は否定できないが,非常に長期の微生物処理をしていることから,簡易活性汚泥処理中に増殖した微生物の関与を疑った.そこで,マイクロプレートを用いた多検体共培養系によるスクリーニング法によりクロロフィル蛍光強度を指標として,液体肥料からMGPBを探索したところ,増殖促進効果が高い微生物が複数見出された(図1図1■A,マイクロプレートを用いたMGPBのスクリーニング;B,クロロフィル蛍光測定によるMGPB増殖促進能の評価(7)7) 小西正朗,加藤勇太,草野友美,タンペイユ,窪之内 誠:特開2024-097745 (2024)..シアノバクテリアSynechococcus elongatusの増殖促進効果を示した上位4種のMGPBは放線菌門,Furmicutes門,Proteobacteria門に属していた(8)8) P. Y. Tan, Y. Kato & M. Konishi: Micorob. Envion., 39, ME24050 (2024)..最も効果が高いRhodococcus sp. AF2108株との共培養系では,シアノバクテリアの単独培養と比べて,7.5倍のクロロフィル蛍光を示した.分離されたMGPBは系統的な共通性が低く,植物ホルモンの一つであるインドール-3-酢酸の弱い生産性を持ち,一部がシデロフォア生産性を示した.フローサイトメトリーや顕微鏡観察の結果,細胞数,細胞サイズ,細胞あたりのクロロフィル量それぞれに影響を与え,その影響度も異なることが明らかになった.機能的共通性が低いことから増殖促進機構にも多様性があることが示唆される.現在,共培養によるS. elongatusの網羅的発現解析を試みており,炭素固定の活性化,窒素固定の活性化等が観測されている.Rhodococcus sp. AF2108株が,サイトカイニンや類縁体を生産することが報告されており,キク科の植物に感染する帯化病菌Rhodococcus facians(9)9) V. Radhika, N. Ueda, Y. Tsuboi, M. Kojima, J. Kikuchi, T. Kudo & H. Sakakibara: Plant Physiol., 169, 1118 (2015).と近縁であることも興味深い点である.

図1■A,マイクロプレートを用いたMGPBのスクリーニング;B,クロロフィル蛍光測定によるMGPB増殖促進能の評価

葉緑体はシアノバクテリアがプロテオバクテリアに細胞内に共生進化したと考えられている(10)10) J. M. Archibald: Curr. Biol., 19, R81 (2009)..自由生活型の微細藻類/シアノバクテリアと増殖促進細菌の緩やかな共生関係は葉緑体の共生進化の初期段階もしくはその類似現象と考えることができるのではないだろうか.光合成生物と共生関係を築いている多様な系を研究することは,共生進化の初期段階の解明のヒントになるかもしれない.

応用面では,共生機構を解明することで,微細藻類の増殖速度やバイオマス生産性,物質生産性を大きく改善できる可能性を秘めている.共培養中の微細藻類とMGPBの細胞数バランスや栄養分の競合,MGPBの安全性の確保など,技術的な課題も解決する必要がある.

Reference

1) R. Sharma, A. Mishra, D. Pant & P. Malaviya: Bioresour. Technol., 344(Pt B), 126129 (2022).

2) A. Palacios, B. R. López & L. E. de-Bashan: Algal Res., 61, 102585 (2022).

3) K. C. Haines & R. R. L. Guillard: J. Phycol., 10, 245 (1974).

4) W. Pathom-aree, P. Sattayawat, S. Inwongwan, B. Cheirsilp, N. Liewtrakula, W. Maneechote, P. Rangseekaew, F. Ahmad, M. A. Mehmood, F. Gao et al.: Microbiol. Res., 286, 127813 (2024).

5) Y. Kato & M. Konishi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 88, 1007 (2024).

6) 小西正朗,窪之内 誠,加藤勇太:微細藻類成長促進剤及び微細藻類成長促進剤の製造方法:特許第7486723号(2021).

7) 小西正朗,加藤勇太,草野友美,タンペイユ,窪之内 誠:特開2024-097745 (2024).

8) P. Y. Tan, Y. Kato & M. Konishi: Micorob. Envion., 39, ME24050 (2024).

9) V. Radhika, N. Ueda, Y. Tsuboi, M. Kojima, J. Kikuchi, T. Kudo & H. Sakakibara: Plant Physiol., 169, 1118 (2015).

10) J. M. Archibald: Curr. Biol., 19, R81 (2009).