今日の話題

ストリゴラクトンによる植物免疫プライミング
生育を抑制しない病害抵抗性機構

Miyuki Kusajima

草島 美幸

慶應義塾大学

Moeka Fujita

藤田 萌香

九州大学

Hideo Nakashita

仲下 英雄

福井県立大学

Published: 2025-02-01

・植物ホルモンによる生物的ストレス応答の制御

植物は外界からの様々なストレスに対して,植物ホルモンによって生理状態を調節して対処している.生物的ストレスのうち,宿主植物の生きている細胞から栄養を摂取する病原菌(biotroph)に対してはサリチル酸(SA)が,宿主植物の死んだ細胞から栄養を摂取する病原菌(necrotroph)に対してはジャスモン酸(JA)とエチレン(ET)が,病害抵抗性の活性化に働いている.また,病原菌の感染を契機として全身に誘導される全身獲得抵抗性(systemic acquired resistance; SAR)では,SAシグナルが重要な役割を担っている.様々な病原体に効果があるSARを活性化する化合物(抵抗性誘導剤)が開発され,農業で活用されているが,SAシグナルの活性化は成長を抑制する作用があるため,SARはイネ以外の作物では利用できていない.そのため,植物の成長を抑制することなく病害抵抗性を高める方法の開発が求められてきた.

・ストリゴラクトン(SL)の様々な作用

ストリゴラクトン(SL)は,貧栄養条件下に根で作られ,地上部の枝分かれを抑制して成長と栄養ストレス応答を調整する植物ホルモンである.また,SLは植物と微生物の相互作用の制御でも重要な役割をもっており,根から土壌中に滲出したSLは植物にリン酸を供給するアーバスキュラー菌根菌の根への共生を促進する.さらに近年,植物と病原菌の相互作用におけるSLの機能も明らかになってきている.

・SLの生物的ストレス応答における役割

病害ストレス応答におけるSLの役割は,はじめに,トマトのSL生合成変異体slccd8ではnecrotrophである灰色かび病菌(Botrytis cinerea)とAlternaria alternataに対する抵抗性が低下していることにより示された(1)1) R. Torres-Vera, J. M. García, M. J. Pozo & J. A. López-Ráez: Mol. Plant Pathol., 15, 211 (2014)..その後,イネのSLシグナル変異体d14dwarf 14)とSL生合成変異体d17ではイネいもち病抵抗性が低下していること(2)2) F. Nasir, L. Tian, S. Shi, C. Chang, L. Ma, Y. Gao & C. Tian: Plant Physiol. Biochem., 142, 106 (2019).,さらに,シロイヌナズナのSLシグナル変異体d14, max2more axillary branches 2)およびSL生合成変異体max3, max4ではhemi-biotrophであるPseudomonas syringae pv. tomato DC3000(Pst)に対する抵抗性が低下していること(3)3) M. Kalliola, L. Jakobson, P. Davidsson, V. Pennanen, C. Waszczak, D. Yarmolinsky, O. Zamora, E. T. Palva, T. Kariola, H. Kollist et al.: Plant Direct, 4, e00206 (2020).が示された.このように,SLシグナルの抑制が様々な病原菌に対する抵抗性を低下させることから,植物においてSLが病害抵抗性の誘導や発揮に機能していることが示された.

・SLによる病害応答機構のプライミング

その後のシロイヌナズナにおける解析より,SLが病害抵抗性とそのプライミング(準備された状態)において重要な機能を有していることが明らかになってきている.まず,SL関連変異体を用いて,病害抵抗性で重要な役割を果たしているSAシグナルにおけるSLの機能が明らかになった.SLシグナル変異体max2では通常の状態でも,野生株と比べてSA内生量が低く,SA応答性pathogenesis relatedPR)遺伝子の発現レベルも低下しており,Pstに対する病害抵抗性も低下していた.また,SA生合成を活性化する抵抗性誘導剤BITの処理によってmax2変異体においてもSAシグナルが活性化されたが,野生株に比べて,SA内生量,PR遺伝子の発現量,Pstに対する病害抵抗性のいずれもが低下していた(4)4) M. Kusajima, M. Fujita, K. Soudthedlath, H. Nakamura, K. Yoneyama, T. Nomura, K. Akiyama, A. Maruyama-Nakashita, T. Asami & H. Nakashita: Int. J. Mol. Sci., 23, 5246 (2022)..これらのことより,SAシグナルを介した基礎的な病害抵抗性(basal resistance)およびSARにおいて,MAX2を介したSLシグナルが重要な機能を果たしていることが明らかになった.

一方,合成SLであるGR24を用いた解析により,SLシグナルの活性化が病害抵抗性を増強させるメカニズムが明らかになってきた.野生株ではGR24処理はSAシグナルを活性化しないが,Pst抵抗性を付与した.しかし,max2変異体やSAシグナル変異体npr1nonexpresser of pr genes 1)では抵抗性が付与されなかった.Pstが感染した植物組織ではPR遺伝子の発現が誘導されるが,野生株ではこのPR遺伝子の発現がGR24処理によって強められていた(4)4) M. Kusajima, M. Fujita, K. Soudthedlath, H. Nakamura, K. Yoneyama, T. Nomura, K. Akiyama, A. Maruyama-Nakashita, T. Asami & H. Nakashita: Int. J. Mol. Sci., 23, 5246 (2022)..これらの結果から,GR24処理のみでは病害抵抗性シグナルは活性化されないが,植物免疫機構がプライミンングされ,その結果,Pst感染後のSAシグナルの活性化が促進されたと考えられた.この病害抵抗性におけるSLの機能は,SL生合成阻害剤TIS108の処理によりPst抵抗性が弱められることからも確認された(4)4) M. Kusajima, M. Fujita, K. Soudthedlath, H. Nakamura, K. Yoneyama, T. Nomura, K. Akiyama, A. Maruyama-Nakashita, T. Asami & H. Nakashita: Int. J. Mol. Sci., 23, 5246 (2022)..これらの結果から,野生株では通常存在するSLによって免疫機構がある程度プライミングされていることも推定された.

さらに,GR24処理によるプライミングは,necrotroph病原体に対するJA・ETシグナルを介する病害抵抗性においても機能することが明らかになった.シロイヌナズナ野生株において,GR24処理は灰色かび病菌に対する抵抗性を強めたが,プライミングされた植物では病原菌感染後の抗菌物質カマレキシンの生合成がETシグナル依存的に促進された(5)5) M. Fujita, T. Tanaka, M. Kusajima, K. Inoshima, F. Narita, H. Nakamura, T. Asami, A. Maruyama-Nakashita & H. Nakashita: J. Pestic. Sci., 49, 186 (2024).

したがって,MAX2を介したSLシグナルの活性化が,NPR1を介するSAシグナルやETシグナル依存的なカマレキシン生合成をプライミングすることが明らかになり,SLが植物の様々な免疫機構において重要な役割を果たしている可能性が示された.

図1■植物の病原菌に対するプライミング

・効率的な防御応答の活性化方法であるプライミングについて

プライミングは,植物がストレスに対して事前に準備し,必要に応じて防御応答をより効率的に活性化する仕組みであるが,自然界では共生微生物が定着した植物で観察される(6)6) M. Fujita, M. Kusajima, M. Fukagawa, Y. Okumura, M. Nakajima, K. Akiyama, T. Asami, K. Yoneyama, H. Kato & H. Nakashita: Sci. Rep., 12, 4686 (2022)..抵抗性誘導剤によるSARと異なり,病害抵抗性シグナルが活性化されていないプライミングでは,植物の生理障害が起こらない.将来は,プライミングによって植物のストレス応答能力を必要な場面でのみ活性化する技術の実用化が期待される.

Reference

1) R. Torres-Vera, J. M. García, M. J. Pozo & J. A. López-Ráez: Mol. Plant Pathol., 15, 211 (2014).

2) F. Nasir, L. Tian, S. Shi, C. Chang, L. Ma, Y. Gao & C. Tian: Plant Physiol. Biochem., 142, 106 (2019).

3) M. Kalliola, L. Jakobson, P. Davidsson, V. Pennanen, C. Waszczak, D. Yarmolinsky, O. Zamora, E. T. Palva, T. Kariola, H. Kollist et al.: Plant Direct, 4, e00206 (2020).

4) M. Kusajima, M. Fujita, K. Soudthedlath, H. Nakamura, K. Yoneyama, T. Nomura, K. Akiyama, A. Maruyama-Nakashita, T. Asami & H. Nakashita: Int. J. Mol. Sci., 23, 5246 (2022).

5) M. Fujita, T. Tanaka, M. Kusajima, K. Inoshima, F. Narita, H. Nakamura, T. Asami, A. Maruyama-Nakashita & H. Nakashita: J. Pestic. Sci., 49, 186 (2024).

6) M. Fujita, M. Kusajima, M. Fukagawa, Y. Okumura, M. Nakajima, K. Akiyama, T. Asami, K. Yoneyama, H. Kato & H. Nakashita: Sci. Rep., 12, 4686 (2022).