Kagaku to Seibutsu 63(2): 66-67 (2025)
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腟内細菌叢の特徴および健康・疾患との関連
日本人女性の腟内細菌叢の特徴とは?
Published: 2025-02-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
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近年,次世代シーケンサーをはじめとする細菌叢解析技術の進展に伴い,腸内細菌叢と同様に腟内細菌叢についても健康・疾患との関連が徐々に明らかにされている.
腟内細菌叢は年齢により大きく変遷することが知られている.幼児期では連鎖球菌,腸球菌,嫌気性菌が主に常在しており,微生物の多様性が高い.一方,思春期および成人期では,血中エストロゲン濃度の上昇に伴い腟上皮細胞にグリコーゲンが蓄積し,剥離した上皮細胞から放出されるグリコーゲンを資化可能な乳酸桿菌(Lactobacillus)が主に常在すると考えられている.この時期の腟内細菌叢は,最優勢細菌種がL. crispatus(community state type 1; CST1と分類される),L. gasseri(CST2),L. iners(CST3),Gardnerella vaginalisやPrevotella biviaなど細菌性腟症(bacterial vaginosis; BV)起因細菌を含むDiversity group(CST4),L. jensenii(CST5)の5グループに大別される.乳酸桿菌が最優勢細菌種である4グループ(CST1, 2, 3, 5)の腟内細菌叢は,いずれか一菌種または数菌種により構成され,微生物の多様性は著しく低い.エストロゲンレベルが低下する閉経後の腟粘膜では,腟上皮のグリコーゲン蓄積量が低下する結果,腟内細菌叢に占める乳酸桿菌の割合は著しく低下し,微生物の多様性は再び高くなる.なお,女性生殖器に乳酸桿菌が常在している動物はヒトのみであり,マウスやラットなどの実験動物をはじめ,他の霊長類においてもほとんど検出されない(3)3) E. A. Miller, D. E. Beasley, R. R. Dunn & E. A. Archie: Front. Microbiol., 7, 1936 (2016)..
閉経前の成人期における腟内細菌叢は人種により異なることが知られており,白人ではL. crispatus,アジア人ではL. iners,ヒスパニックおよび黒人ではDiversity groupが腟内最優勢細菌種である女性の割合が最も高いと報告されている(1)1) J. Ravel, P. Gajer, Z. Abdo, G. M. Schneider, S. S. K. Koenig, S. L. McCulle, S. Karlebach, R. Gorle, J. Russell, C. O. Tacket et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 4680 (2011)..閉経前の健康な日本人女性の腟内細菌叢は最優勢細菌種から大きく3グループに大別され,L. crispatusが腟内最優勢菌種である女性の割合が最も高く(37.5%),ついでL. iners (33%), Diversity group (25%) であった(4)4) M. Ito, M. Kataoka, Y. Sato, H. Nachi, K. Nomoto & N. Okada: Front. Cell. Infect. Microbiol., doi: 10.3389/fcimb.2024.1487990 (2025)..腟内細菌叢は腸内細菌叢と比較して微生物の多様性が著しく低いほか,個人間で腟内細菌叢の構成細菌種は大きく異なると示唆された(4)4) M. Ito, M. Kataoka, Y. Sato, H. Nachi, K. Nomoto & N. Okada: Front. Cell. Infect. Microbiol., doi: 10.3389/fcimb.2024.1487990 (2025)..
人種以外にも,様々な因子が腟内細菌叢に影響を及ぼすことが知られている.例えば,年齢が閉経前の40~50歳のグループでは,40歳以下のグループと比較して微生物の多様性が高いと報告されている(5)5) J. Wang, Z. Li, X. Ma, L. Du, Z. Jia, X. Cui, L. Yu, J. Yang, L. Xiao, B. Zhang et al.: Nat. Commun., 12, 4191 (2021)..また,BMIが18.5 kg/m2未満の「痩せ型」,25 kg/m2以上の「過体重型」に分類される女性では,CST4に分類される女性の割合が高いことが知られている(4, 6)4) M. Ito, M. Kataoka, Y. Sato, H. Nachi, K. Nomoto & N. Okada: Front. Cell. Infect. Microbiol., doi: 10.3389/fcimb.2024.1487990 (2025).6) R. T. Brookheart, W. G. Lewis, J. F. Peipert, A. L. Lewis & J. E. Allsworth: Am. J. Obstet. Gynecol., 220, 476.e1 (2019)..さらに,月経痛や月経前症候群の症状を軽減させる低容量ピル(女性ホルモンであるエストロゲン・プロゲステロンが含まれたホルモン剤)の服用の有無もまた腟内細菌叢に影響を及ぼすことが知られている(7)7) S. Tuddenham, P. Gajer, A. E. Burke, C. Murphy, S. L. Klein, C. A. Stennett, B. Wilgus, J. Ravel, K. G. Ghanem & R. M. Brotman: EBioMedicine, 87, 104407 (2023)..低容量ピルを継続して服用している女性では,服用していない女性と比較して乳酸桿菌の検出率が高く,微生物の多様性は低いと報告されている(7)7) S. Tuddenham, P. Gajer, A. E. Burke, C. Murphy, S. L. Klein, C. A. Stennett, B. Wilgus, J. Ravel, K. G. Ghanem & R. M. Brotman: EBioMedicine, 87, 104407 (2023)..
乳酸桿菌は代謝産物として乳酸を産生し,腟内pHを低下させ(pH 3.5~4.5),BV起因細菌,HPVやHIVなど病原微生物の増殖・定着を抑制していることが知られている.また,乳酸桿菌の存在は早産率の低さや,体外受精における出生率の高さとの関連が報告されるなど,病原微生物の増殖・定着の抑制だけでなく出生率の高さにも関与すると報告されている.
L. crispatusが腟内最優勢細菌である女性では,腟内細菌叢の変遷は起こりにくく,早産および子宮頸がん罹患率も有意に低いと報告されており,L. crispatusは女性生殖器恒常性の維持に重要な役割を果たすと示唆されている.L. inersもまたL. crispatusと同様に女性生殖器の健康との関連が示唆されている一方,腟内細菌叢の変遷が起こりやすく,BVへの仲介に関与していることも報告されている.さらに,BVに加えて性器クラミジア感染リスクの上昇やHIVに対するバリア機能の低下,早産率や不妊率の上昇との関連も示唆されている.すなわち,L. inersは乳酸桿菌にも関わらず女性生殖器疾患と関連すると示唆されている.日本人女性では最優勢細菌種としてL. inersを有する女性の割合は約3人に1人であることから(4)4) M. Ito, M. Kataoka, Y. Sato, H. Nachi, K. Nomoto & N. Okada: Front. Cell. Infect. Microbiol., doi: 10.3389/fcimb.2024.1487990 (2025).,その因果関係の解明と対策が急がれる.
今回は言及しなかったが,これまで「無菌」と考えられてきた子宮内膜においても細菌叢の存在は明らかにされている.2022年6月には厚生労働省により不妊治療における子宮内細菌叢検査は「先進医療」に認められるなど(10)10)こども家庭庁:不妊治療における先進医療の状況,https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/funin/senshin, 2022.,臨床への応用も急速に進んでいる.一方,女性生殖器細菌が疾患を引き起こすメカニズムに関しては未だ不明な点も多く,女性生殖器におけるさらなるマイクロバイオーム研究が望まれる.
Reference
2) P. Łaniewski & M. M. Herbst-Kralovetz: Nat. Microbiol., 7, 354 (2022).
3) E. A. Miller, D. E. Beasley, R. R. Dunn & E. A. Archie: Front. Microbiol., 7, 1936 (2016).
8) N. Zheng, R. Guo, J. Wang, W. Zhou & Z. Ling: Front. Cell. Infect. Microbiol., 11, 792787 (2021).
9) M. France, M. Alizadeh, S. Brown, B. Ma & J. Ravel: Nat. Microbiol., 7, 367 (2022).
10)こども家庭庁:不妊治療における先進医療の状況,https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/funin/senshin, 2022.