農芸化学@High School

茶葉から食中毒の原因となる黄色ブドウ球菌に有効な抗菌成分を抽出する方法およびその成分の特定

園山 希咲

さいたま市立大宮国際中等教育学校

荒井 陽香

さいたま市立大宮国際中等教育学校

Published: 2025-02-01

緑茶の茶葉には抗菌効果を示す成分が多く含まれているが,日常生活でこれを十分に活かしきれていない.我々は,溶媒ごとに抽出される成分やその含有量の違いと抗菌効果の関連性を明らかにすることを目的に,抽出溶媒や溶解溶媒による抽出液の効果と各抽出液に含まれるガレート型カテキンの相対的含有量を調べた.純水,エタノール,ヘキサンの抽出溶媒で比較した結果,純水の抽出液による抗菌効果が最も高く,エタノール,ヘキサンの順にその効果が低くなっていることがわかった.また,最も抗菌効果が高いとされるガレート型カテキンの含有量も同様に純水抽出が最も高く,次いで,エタノール,ヘキサンの順となっていることもわかった.さらに,最も抗菌作用が強い純水抽出液の溶媒を除去し,得られた成分を純水およびジメチルスルホキシド(DMSO)で再溶解させた溶液および元の純水抽出液の抗菌効果を比較すると,純水抽出液が最も高く,次に純水再溶解液,DMSO再溶解液の順となった.カテキン類の含有量が多い溶液ほど抗菌効果が高いという報告(1)があるが,今回の研究でも同様の結果が得られた.

本研究の目的・方法・結果および考察

【目的】

緑茶には多様な有効成分が含まれており,その中でもポリフェノールの一種であるカテキン類は抗酸化作用や抗菌効果をはじめとする多くの生理機能を有することが知られている.そして,緑茶には遊離型カテキンとして知られる,エピカテキン(EC),エピガロカテキン(EGC),ガレート型カテキンとして知られる,エピカテキンガレート(ECg),エピガロカテキンガレート(EGCg)の4種類が多く含まれている(1, 2)1) 井上宮雄,宮本康司,二川正浩,藤森文啓,池田壽文,吉原富子:東京家政大学生活科学研究所研究報告,39, 63 (2016).2) 原 征彦:日本食品保蔵科学会誌,26, 47 (2000)..一般に,遊離型カテキンは緑茶の苦味成分として,ガレート型カテキンは脂肪やコレステロールの吸収を抑える働きがあるとも言われている(3)3) 鈴木裕子,野澤 歩,永田幸三:日本臨床栄養学会雑誌,29, 72 (2007)..さらに,茶葉中に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCg)は,カテキン類の中で最も高い抗菌作用を示し,黄色ブドウ球菌をはじめとする多くの菌類に対してその効果を発揮する(4)4) R. Ali, N. Iqbal, K. Mukhtiar, S. Jehan, A. Abbas, M. Lateef, A. Raziq, M. W. Khan & H. Ullah: Pure Appl. Biol., 10, 962 (2021)..しかし,茶葉の有効成分を効率的に抽出するには特別な装置を用いる必要があり,簡便さや実用性にまだまだ課題がある.我々は,自然由来の抗菌成分を含む緑茶の活用範囲を広げ,食品の腐敗防止など,日常生活での幅広い応用を目指し,研究を開始した.

緑茶に含まれる抗菌成分を複数の溶媒を用いて簡便な方法で抽出し,得られた成分の抗菌効果を比較すると同時に,抗菌作用を示す最低濃度を求めた.ガレート型カテキンはpHの変化に伴い,その化学構造が変化し,UVスペクトルにおいて274 nmから322 nmへの赤色シフトすることが報告されている(5)5) 奥村寿子,谷 正己,瀧原孝宣,国本浩喜:日本食品化学学会誌,14, 128 (2007)..本研究では,抗菌効果が高いとされるガレート型カテキンが持つこれらの性質を利用し,異なる溶媒から得られた緑茶抽出液中に含まれるガレート型カテキンの相対的含有量,さらにその含有量と抗菌効果にどのような関係があるのか比較検討をおこなった.

【実験方法】

1. 黄色ブドウ球菌の採取と保存方法

主にヒトの手やドアノブから採取した菌を標準寒天培地(EMD Millipore社製)で培養し,黄色のコロニーを形成かつ走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて直径0.8~1.0 µmのブドウの房状に連なった球菌を選別した.さらに選別した菌を用いてグラム染色(ハッカー変法)をおこない,グラム陽性菌であることが確認できたものを卵黄加マンニット食塩寒天培地(関東化学株式会社製)にて培養した.黄色のコロニー周辺に卵黄反応が現れたコロニーのみを取り出し,冷凍保存した.冷凍方法については,グリセロールストック(LB培地を用いて培養した菌液85%,グリセロール15%)を作成し,黄色ブドウ球菌の菌液として冷凍庫(−20°C以下)に保存した.実験開始前に冷凍保存した菌を自然解凍し,実験4.に使用した.

2. 緑茶抽出液の作成

緑茶は「水出し緑茶」(森半,共栄製茶株式会社)を用いた.緑茶の茶葉約1.5 gを電子天秤で量り取り,抽出溶媒として,純水,エタノール,ヘキサンをそれぞれ15 mL加えた.これらを5分間室温で放置した後,ろ紙でろ過をおこなった.溶媒が持つ抗菌作用を排除することを目的に,得られたろ液は低温減圧蒸留をおこない溶媒を除去し,抽出成分を得た.この抽出成分にDMSO 15 mL加えて溶解させたものを純水・エタノール・ヘキサン抽出液として使用した.

3. 純水抽出液中の抽出成分の再溶解液の調製

2.の純水による抽出成分に純水またはDMSOを15 mL加え,再溶解させた溶液をそれぞれ水再溶解液,DMSO再溶解液として使用した.

4. 菌の培養

LB培地(栄研化学株式会社)を1.8%(w/v)に調整し,コニカルビーカーに20 mLずつ取り分けた.これに冷凍保存しておいた黄色ブドウ球菌の菌液100 µLを添加し,37°Cに保たれたインキュベーター中で24時間培養した(菌培養液A).菌培養液Aをコニカルビーカーに10 µL分注し,LB培地20 mLと各緑茶抽出液を0.1, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0 mLずつ,又は純水抽出液中の抽出成分の再溶解液(水・DMSO)を1.0 mL加え,37°Cにおいて24時間培養した(菌培養液B).菌培養液A・Bの濁度は分光光度計を用いて測定した.

5. 緑茶抽出液の抗菌効果の測定

抗菌効果の測定には分光光度計(ASONE ASUV-3100PC)を用いた.先行研究にて,黄色ブドウ球菌の測定基準とされる吸光度660 nm付近(6)6) 堤 将和,西村和代,安井紀久代,松岡麻男,渡辺忠雄:食品衛生学雑誌,17, 273 (1976).を観察することで濁度から黄色ブドウ球菌の菌数を求めることができるため,まずは濁度と菌数の検量線を作成した.培養した黄色ブドウ球菌溶液を2000~8000倍に希釈した溶液を数種作成し,660 nmにおける各溶液の濁度を測定した.さらに各溶液に含まれる黄色ブドウ球菌を卵黄加マンニット食塩寒天培地にて,37°C,24時間培養後,コロニー数をカウントし,660 nmにおける濁度と菌数の関係を示す検量線を作成した.

その後,緑茶抽出液(純水・エタノール・ヘキサン)又は純水抽出液中の抽出成分の再溶解液(水・DMSO)をそれぞれ添加した菌培養液Bの濁度を測定した.濁度から上記の検量線を用いて菌数を算出し,基準溶液(コントロール:LB培地20 mLに菌培養液10 µLとDMSO 2.0 mLを加え,37°Cにおいて24時間培養させたもの)を100%とした時の増減率から抗菌効果を評価した.

6. pH変化による緑茶抽出液中のガレート型カテキンの相対的含有量の測定

ガレート型カテキンは酸性から塩基性に液性を変化させることでヒドロキシ基から水素イオンが解離する.それに伴い,ガレート型カテキンの濁度のピークが274 nm付近から322 nm付近に赤色シフトすることが知られている(5)5) 奥村寿子,谷 正己,瀧原孝宣,国本浩喜:日本食品化学学会誌,14, 128 (2007)..この性質を利用し,ガレート型カテキンの相対的含有量を以下の方法で測定した.

2.で作成した3種の緑茶抽出液(純水・エタノール・ヘキサン)それぞれ1.0 mLとpH 4.0(フタル酸塩pH標準液)またはpH 10.0(炭酸塩pH標準液)のバッファー3.0 mLを石英ガラスセルに入れ,各抽出液の吸光度を測定した.

【結果】

1. 抽出溶媒と添加量の違いが抗菌効果に及ぼす影響

図1図1■異なる溶媒・量の抽出液を添加した菌培養液の濁度の違いに異なる溶媒・量の抽出液を添加した菌培養液の濁度を,表1表1■異なる溶媒・量の抽出液を加えた時の菌数増減率に基準溶液と比較した時の菌数の増減率を示す.

図1■異なる溶媒・量の抽出液を添加した菌培養液の濁度の違い

各溶媒の抽出液の量を変え,37°C,24時間培養後,濁度を測定した.

表1■異なる溶媒・量の抽出液を加えた時の菌数増減率
0.1 mL0.5 mL1.0 mL1.5 mL2.0 mL
純水抽出液9.710.60−7.61−29.9−32.5
エタノール抽出液4.956.681.94−1.26−21.9
ヘキサン抽出液4.564.874.271.26−7.71
基準溶液(DMSO+菌)の菌数(2.38×107/mL)を基準とした時の変化率(%)を算出した.

コントロールの菌数は2.38×107/mLであった.コントロールに含まれる菌数を基準として,各抽出液を加えた時の菌数の増減率は式(1)を用いて求めた.

コントロールと比較して菌数の減少が確認されたのは,純水抽出液を1.0 mL以上,エタノール抽出液を1.5 mL以上,ヘキサン抽出液を2.0 mL以上添加した時であった.この結果から,菌濃度0.050%溶液に対して抗菌作用を示すには,純水抽出液は4.8%以上,エタノール抽出液は7.0%以上,ヘキサン抽出液は9.1%以上加える必要があることがわかった.

2. ガレート型カテキンの相対的含有量との関係

図2図2■pHを変化させた時の抽出液による吸光度変化は,各抽出液のpHを4.0から10.0に変化させた時の吸収スペクトルの変化を表す.各抽出液に含まれるガレート型カテキンの含有量を322 nmの吸光度の変化率から純水抽出液と比較した.純水抽出液から得られた値に対し,エタノールでは約半分程度,ヘキサンではほとんど検出されなかった.

図2■pHを変化させた時の抽出液による吸光度変化

各溶媒抽出液のpH変化前後における322 nmの吸光度の違いを読みとることで,相対的なガレート型カテキン量を推定した.

3. 純水で抽出された抽出成分の再溶解液の抗菌効果に対する影響

抽出溶媒の中で最も高い抗菌効果を示した純水に注目し,純水抽出物を水又はDMSOに再溶解した溶液を添加して濁度を測定した.その結果を図3図3■純水抽出液の溶解操作による濁度の違いに示す.

図3■純水抽出液の溶解操作による濁度の違い

純水抽出液と抽出物再溶解液をそれぞれ添加し,37°C,24時間培養した後,濁度を測定した.

純水抽出液,水再溶解液およびDMSO溶解液を1.0 mL添加した時,すべての溶液において濁度が低下し,抗菌効果が認められた.また,これらの濁度を2.5のコロニー数の式に代入すると,各溶液の菌数はコントロールを100%とした時と比較し,純水抽出液68.9%,水再溶解液74%,DMSO再溶解液92.6%となった.この結果より,純水抽出液と比較し,低温減圧蒸留をおこなって得られた抽出液,水再溶解液及びDMSO再溶解液の濁度の減少すなわち菌数の減少は小さく,抗菌効果が低いことがわかった.

【考察】

1. 抽出された成分と抗菌効果の関係について

抽出溶媒ごとの抗菌効果とガレート型カテキンの含有量を比較すると,抗菌効果が高い純水抽出液,次いでエタノール抽出液,ヘキサン抽出液の順にガレート型カテキンの相対的含有量も多いことがわかった.この結果から,ガレート型カテキンが抗菌成分として機能している可能性があることがわかった.一方で,遊離型カテキンを主とする他の成分にも一定程度の抗菌効果が期待できる.今回の研究では遊離型カテキン単一の効果やガレート型カテキンとの相乗効果などの検証ができていない.そのため,今後同じ実験系において検討する必要があると考える.

2. 水で抽出された抗菌成分に関する考察

純水抽出液を低温減圧蒸留することで得られた水再溶解液はDMSO再溶解液よりも高い抗菌効果を示した(図3図3■純水抽出液の溶解操作による濁度の違い).この要因として,水はDMSOと比較して,強い極性を持ち,分子サイズが小さいことが影響したと考えられる.つまり,抗菌成分はDMSOより,水のほうが溶けやすいことが推測される.この現象は低温減圧蒸留で得られた抽出物を再溶解させた際,DMSOは抽出物すべてを溶かすことができなかったという観察結果からも,抗菌成分はDMSOより水への溶解度が高いことが推測される.

また,低温減圧蒸留をおこなうことで抗菌効果が減少した原因は,純水抽出液にはごく僅かであるが揮発性抗菌成分が含まれている(7)7) 山本(前田)万里:「農水産物機能性活用推進事業」報告書(財団法人 食品産業センター),2章,7, 2011.ことが原因ではないかと考えられる.揮発性成分の同定およびその抗菌効果の程度については,今後のさらなる調査が必要である.

本研究の意義と展望

本研究により,溶媒として水を用いることで,緑茶から簡便に抗菌成分を抽出できることがわかった.また,ガレート型カテキンの相対的含有量と抗菌効果には一定の関連性が認められた.今後は,この研究で得られた知見を二番煎じや三番煎じをおこなった茶葉,いわゆる出がらしから効率よく抗菌成分を抽出する方法につなげていきたいと考えている.そして,将来的には,この技術を応用し,緑茶飲料製造段階で多量に排出されている緑茶廃棄物から抗菌成分を簡便かつ効率よく抽出する方法を確立させてゆきたい.この技術を確立することで,日常生活で役立つ自然由来の抗菌成分を安価かつ多量に得ることはもちろんであるが,それと同時に,緑茶廃棄物の削減も期待できるのではないかと考える.

Acknowledgments

SEMの撮影指導をしてくださいました,さいたま市立大宮北高等学校 小林健一先生,新井誠先生,研究費の助成および実験に対するアドバイスをしてくださいました,株式会社リバネス 吉川綾乃さん,アサヒ飲料株式会社 赤星百映さんに深く感謝申し上げます.

Reference

1) 井上宮雄,宮本康司,二川正浩,藤森文啓,池田壽文,吉原富子:東京家政大学生活科学研究所研究報告,39, 63 (2016).

2) 原 征彦:日本食品保蔵科学会誌,26, 47 (2000).

3) 鈴木裕子,野澤 歩,永田幸三:日本臨床栄養学会雑誌,29, 72 (2007).

4) R. Ali, N. Iqbal, K. Mukhtiar, S. Jehan, A. Abbas, M. Lateef, A. Raziq, M. W. Khan & H. Ullah: Pure Appl. Biol., 10, 962 (2021).

5) 奥村寿子,谷 正己,瀧原孝宣,国本浩喜:日本食品化学学会誌,14, 128 (2007).

6) 堤 将和,西村和代,安井紀久代,松岡麻男,渡辺忠雄:食品衛生学雑誌,17, 273 (1976).

7) 山本(前田)万里:「農水産物機能性活用推進事業」報告書(財団法人 食品産業センター),2章,7, 2011.