Kagaku to Seibutsu 63(3): 103 (2025)
巻頭言
SDGsの先に向けて
Published: 2025-03-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
SDGs(持続可能な開発目標)は,生命・食・環境を中心分野としている「化学と生物」にとって,羅針盤とすべきものである.検索してみるとSDGsと明記した記事は少なかったが,ここ2, 3年増えてきている.明記しなくとも「化学と生物」に掲載される多くの研究がSDGs達成を目指しているのは間違いない.ところで,Nature誌は,2023年の6月から毎週連続で論説においてSDGsの各目標がどれだけ達成したか,何が達成できていないか論じていた.Nature誌がSDGsの達成が遅れていること(その時点で169のターゲットのうち12%しか達成していない)に,このような形で警鐘を鳴らしたことに目が覚まされた.
筆者の勤務する大学では,SDGsの始まる前からサステナビリティ・ウィークとよぶシンポジウム週間を実施するなど多くの取り組みがあったが,現総長となって明確にSDGs達成への貢献を目標に掲げている.筆者も小さな試みであるが,国費外国人留学生の優先配置を行う特別プログラムとして2020年度からポストSDGsのための環境保全リーダーを育成するプログラムを実施している.その一環である「SDGsからポストSDGsを目指して」は,サマースクールであるHokkaido Summer Instituteの授業であり,海外の大学の学生も履修している.
今となっては「ポストSDGs」をネットで検索すれば多数ヒットするし「beyond SDGs」という言葉もでてくるが,最初に申請書を書いた時点では全くなかった.とはいえ,学生が活躍するのはSDGs後である.ポストSDGsの議論を,短期間であるがやってみようというのがこの授業である.
SDGsの前のミレニアム開発目標(MDGs)は,健康問題など8つの目標を単純明快に示し,貧困削減など一定の成果をあげたことを学んだ後,SDGsが策定されるまでの議論へ進む.さらに,各国出身の教員によるその国のSDGsの達成状況を17のゴールの下にある169のターゲットに掘り下げる.例えば,日本ではジェンダー平等が常に達成率が低いが,それが貧困や格差につながっていることが数字として示される.一方,SDGsから離れて考えられるように,1972年に提唱されたブータンの9つの構成要素からなる「国民総幸福量」,2020年に世界の若者が開催したMock COP26での18の政策提言やプラネタリーヘルスのアクションプランの議論を紹介する.そのうえで,学生は異なる国出身の2, 3人のグループとなってSDGsの次の目標を提案する.SDGsを議論した作業部会が3ヶ国ずつの地域グループであったのに近い状態である.各グループは,目標の趣旨,タイトル,ゴール,ターゲットを発表する.昨年の発表ではInclusive Development Goalsというタイトルが提案されたり,デジタルが含まれるゴールが多かったことが印象に残った.各国の学生のポストSDGsの議論は,教員にとっても学ぶことが多い.
SDGsの達成や気候変動対策について,政府の取り組みはもとより,地域の取り組みが重要と言われる.いずれかの市町村と同じような規模である大学も,研究や教育だけでなく具体的な取り組みが必要なのではないか.日本農芸化学会からも,生命・食糧・環境を軸にSDGsの次の目標を提言してはどうだろうか.