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フェロトーシス誘導を介した抗がん活性を有する山菜由来のエンドパーオキサイド化合物
山菜由来のフェロトーシス誘導物質とその分子メカニズム

Narandulam Usukhbayar

岩手大学大学院連合農学研究科

Shota Uesugi

上杉 祥太

公益財団法人岩手生物工学研究センター

Ken-ichi Kimura

木村 賢一

岩手大学大学院連合農学研究科

Published: 2025-04-01

制御された細胞死は,発達,組織の恒常性及び疾病の制御において重要な役割を果たす.その中で,2012年に新たに提唱されたフェロトーシスは,がんの治療標的としての可能性や神経変性疾患などの病気に関わることから近年注目を集めている(1, 2)1) S. J. Dixon, K. M. Lemberg, M. R. Lamprecht, R. Skouta, E. M. Zaitsev, C. E. Gleason, D. N. Patel, A. J. Bauer, A. M. Cantley, W. S. Yang et al.: Cell, 149, 1060 (2012).2) B. R. Stockwell: Cell, 185, 2401 (2022)..本稿では,フェロトーシスが誘導されるメカニズムと我々が山菜より見出した新しいフェロトーシス誘導物質について紹介する.フェロトーシスは,鉄イオン依存的に起こる過剰な脂質過酸化によって引き起こされる細胞死である.通常,細胞には脂質過酸化を防ぐ機構が存在するが,それが抑制されることや脂質過酸化が著しく促進されることなどでフェロトーシスが誘導される.脂質過酸化を抑制する機構として,還元型グルタチオン(glutathione(GSH))-グルタチオンペルオキシダーゼ4(glutathione peroxidase 4(GPX4)),及び脂質ラジカルを捕捉するフェロトーシス抑制タンパク質1(ferroptosis suppressor protein 1(FSP1))とGTPシクロヒドロラーゼ1(GTP cyclohydrolase 1(GCH1))の機構が存在する.

GPX4は,GSHを補因子として用いて活性酸素種(reactive oxygen species(ROS))を還元し,細胞を酸化ストレスから守る役割を果たすグルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase(GPX))ファミリーの一つで,その中で唯一過酸化脂質を還元する酵素である.そのメカニズムは,GSHを酸化型グルタチオン(GSSG)に変換し,過酸化脂質(L-OOH)をその対応するアルコール(L-OH)に還元することで脂質過酸化から細胞を保護するというものである(3)3) J. Li, F. Cao, H. L. Yin, Z. J. Huang, Z. T. Lin, N. Mao, B. Sun & G. Wang: Cell Death Dis., 11, 88 (2020)..従って,GPX4が阻害されると,過酸化脂質が過剰に蓄積しフェロトーシスが誘導される(図1a図1■フェロトーシスが誘導される機構).

図1■フェロトーシスが誘導される機構

GPX4の補因子であるGSH量の減少も,フェロトーシスを引き起こす.抗酸化物質であるGSHは,グルタミン酸,システイン及びグリシンからなるトリペプチドで,その細胞内量にはシスチン/グルタミン酸トランスポーターxc系とグルタミン酸システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase(GCL))が関与する.xc系は細胞外からシスチン(システインの酸化型)を取り込む役割を担っているため,その阻害はすなわち細胞内GSHの枯渇に繋がる.xc系を阻害することでフェロトーシスを誘導するものとして,エラスチン,スルファサラジン(抗炎症薬)及びソラフェニブ(抗がん薬)が挙げられる.GCLはGSH合成経路の律速酵素であるため,GCL阻害剤であるブチオニンスルフォキシミン(buthionine sulfoximine(BSO))もフェロトーシスを誘導する(図1b図1■フェロトーシスが誘導される機構).

GPX4非依存的なフェロトーシス制御機構も存在する.抑制経路としては,脂質ラジカルを捕捉する機構が報告されている.FSP1は,NADPHを使用して酸化型コエンザイムQ10(CoQ10)を還元型CoQ10に還元する反応を触媒することで,脂質過酸化の誘導を防ぐ.還元型CoQ10は,過酸化脂質ラジカル(LOO・)を捕捉することでフェロトーシスを抑制する(4)4) S. Doll, F. P. Freitas, R. Shah, M. Aldrovandi, M. C. da Silva, I. Ingold, A. G. Grocin, T. N. X. da Silva, E. Panzilius, C. H. Scheel et al.: Nature, 575, 693 (2019)..GCH1は,抗酸化性のテトラヒドロビオプテリン(BH4)とCoQ10の上昇を促すことでフェロトーシス抑制の働きを示す(図1c図1■フェロトーシスが誘導される機構(5)5) V. A. N. Kraft, C. T. Bezjian, S. Pfeiffer, L. Ringelstetter, C. Müller, F. Zandkarimi, J. Merl-Pham, X. Bao, N. Anastasov, J. Kössl et al.: ACS Cent. Sci., 6, 41 (2020).

一方で,GPX4非依存的にフェロトーシスを促進する経路として,リン脂質に多価不飽和脂肪酸を組み込む機構と,フェリチノファジーによる遊離鉄イオンを増加させる機構が挙げられる.フェロトーシスの誘導には,遊離の多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid(PUFA))ではなく,リン脂質に組み込まれた状態の多価不飽和脂肪酸(PUFA-phospholipid(PUFA-PL))が関与している.アシルコエンザイムA合成酵素長鎖ファミリー4(acyl-coenzyme A synthetase long chain family member 4(ACSL4))とリゾフォスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ3(lysophosphatidylcholine acyltransferase 3(LPCAT3))は,リン酸化により活性化されてPUFAをリン脂質に組み込み,細胞膜のPUFA-PLを増加させる(6)6) Q. Nie, Y. Hu, X. Yu, X. Li & X. Fang: Cancer Cell Int., 22, 12 (2022)..従ってこれらの抑制は,GPX4を阻害することで誘導されるフェロトーシスを抑制することが報告されている(図1d図1■フェロトーシスが誘導される機構).フェリチノファジーは,鉄イオン貯蔵タンパク質であるフェリチンをオートファジーによって分解する現象のことで,結果的に遊離鉄イオンが増加するためフェロトーシスが促進される(図1e図1■フェロトーシスが誘導される機構).

上記のフェロトーシス誘導経路の他に,酸素-酸素結合(ROOR)を有する有機パーオキサイドに起因するものがある.このO-O結合は,鉄イオン存在下で容易に切断されてアルコキシラジカル(RO・)を生成し,脂質過酸化を惹起することによりフェロトーシスを誘導する.このような分子機構でフェロトーシスを誘導する化合物として,tert-ブチルハイドロパーオキサイド,アルテミシニンとその誘導体,及びトリオキサン有機化合物群などが知られている(7)7) X. Chen, J. Li, R. Kang, D. J. Klionsky & D. Tang: Autophagy, 17, 2054 (2021)..本稿で紹介する山菜のモミジガサ(別名 シドケ)由来の化合物3,6-epidioxy-1,10-bisaboladiene(EDBD)も,その一つである.

モミジガサ(Cacalia delphiniifolia)の葉と花や,同属のヨブスマソウ(別名 ボウナ,Cacalia hastata)の葉から単離された,セスキテルペンエンドパーオキサイド化合物であるEDBDは,主に細胞周期に作用し得る抗がん剤の探索を目的とした遺伝子変異酵母WCTR312A(cdc2-1 rad9Δ)株における生育回復活性を指標に単離精製された(8, 9)8) E. Tsuchiya, M. Yukawa, M. Ueno, K. Kimura & H. Takahashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 411 (2010).9) K. Nishikawa, N. Aburai, K. Yamada, H. Koshino, E. Tsuchiya & K. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 72, 2463 (2008)..EDBDは,39種がん細胞パネルスクリーニング(JFCR39)の中で,HBC-5(乳がん),HT-29(大腸がん),HCI-H522(肺がん),Lox-IMVI(メラノーマ)の4種のがん細胞に対して,選択的に強い細胞毒性を示した.さらに,Lox-IMVIを移植したゼノグラフト(異種移植)マウスモデルを用いた実験で,10 mg/kgの静脈内投与において体重の減少無く腫瘍体積の増加を抑制するなど,動物レベルでの有望な抗がん作用が示された.また,EDBDは鉄イオンの存在下でエンドパーオキサイドの開裂が促進されることで,不安定なラジカル中間体(活性の本体)を介して生物活性を示すことも明らかにした(10)10) K. Kimura, Y. Sakamoto, N. Fujisawa, S. Uesugi, N. Aburai, M. Kawada, S. Ohba, T. Yamori, E. Tsuchiya & H. Koshino: Bioorg. Med. Chem., 20, 3887 (2012)..細胞に対しては,EDBDはDNAの断片化,染色体の凝縮,カスパーゼ活性化などアポトーシスの特徴とされる現象を引き起こしていた.さらに,それらが酸化ストレスなどストレスに応答するp38 MAPKの活性化を介して誘導されていることも明らかにした(10)10) K. Kimura, Y. Sakamoto, N. Fujisawa, S. Uesugi, N. Aburai, M. Kawada, S. Ohba, T. Yamori, E. Tsuchiya & H. Koshino: Bioorg. Med. Chem., 20, 3887 (2012)..このように,生化学的な指標に基づくとEDBDはアポトーシス様の現象を誘導していたが,細胞形態を観察すると,過酸化水素が誘導するネクローシスと類似の形態での細胞死も誘導していた.

実際に,EDBDは鉄イオン依存的に脂質過酸化を誘導することが,脂質過酸化検出プローブ(C11-Bodipy)を用いた実験で明らかになった(図1f図1■フェロトーシスが誘導される機構).また,EDBDによる脂質過酸化と細胞死は,鉄イオンキレート剤のDFOMや脂質過酸化阻害剤のフェロスタチン-1, α-トコフェロールなどで抑制された.GPX4のタンパク質発現と細胞内GSHもEDBD処理によって低下することから(図1g図1■フェロトーシスが誘導される機構),EDBDによる細胞死はフェロトーシスであることが示唆された(11)11) N. Usukhbayar, Y. Takano, S. Uesugi, M. Muroi, H. Osada & K. Kimura: Free Radic. Res., 57, 208 (2023)..さらに,EDBDはフェロトーシス誘導剤の一つであるスルファサラジンと共存させると,乳がん細胞において相乗的にフェロトーシスを誘導することを明らかにした(12)12) N. Usukhbayar, S. Uesugi & K. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 87, 1336 (2023)..これは,xc系の阻害剤であるスルファサラジンの作用により細胞内のGSHが枯渇することで(図1h図1■フェロトーシスが誘導される機構),GPX4が機能できず脂質過酸化を抑制できない状態となり,EDBDに対して感受性になったものと推測される.

EDBDは,脂溶性が高く,エンドパーオキサイド結合を有する化合物である.そのため,細胞の脂質膜との親和性も高く,細胞内の鉄イオンなどにより開裂し,脂質過酸化の連鎖反応(フェントン反応)を促進させていると考えられる.その際に,細胞に酸化ストレスを与えるため,酸化ストレスに応答するp38 MAPKが活性化し,アポトーシス様の現象を引き起こすと思われる.フェロトーシスに関する多くの報告では,アポトーシスの特徴的な現象(カスパーゼの活性化など)が認められないことから,EDBDによるフェロトーシス様細胞死は,アポトーシス誘導機構を正常に保ちながら引き起こされるユニークな一面を有する.なお,EDBDのアポトーシスは,エンドパーオキサイド構造を有さないα-クルクメンが弱いアポトーシス様細胞毒性を示したことから,α-クルクメン骨格に基づく活性であると考えられる.EDBD処理では脂質過酸化とカスパーゼの活性化は同時並行に行われるが,細胞膜の損傷が先に起こるためアポトーシスにまで至らないと推測される.EDBDはフェロトーシスの主要抑制因子であるGPX4とGSHを量的に抑制するが,過剰な脂質過酸化により減少するのか,または他のメカニズムにより減少するのかは,現段階では不明である.以上で述べたように,EDBDが誘導する細胞死はユニークな面を持つため,新たな抗がん剤のリード化合物としてはもとより,フェロトーシス研究に資する研究試薬としての利用の可能性が期待できる.

Reference

1) S. J. Dixon, K. M. Lemberg, M. R. Lamprecht, R. Skouta, E. M. Zaitsev, C. E. Gleason, D. N. Patel, A. J. Bauer, A. M. Cantley, W. S. Yang et al.: Cell, 149, 1060 (2012).

2) B. R. Stockwell: Cell, 185, 2401 (2022).

3) J. Li, F. Cao, H. L. Yin, Z. J. Huang, Z. T. Lin, N. Mao, B. Sun & G. Wang: Cell Death Dis., 11, 88 (2020).

4) S. Doll, F. P. Freitas, R. Shah, M. Aldrovandi, M. C. da Silva, I. Ingold, A. G. Grocin, T. N. X. da Silva, E. Panzilius, C. H. Scheel et al.: Nature, 575, 693 (2019).

5) V. A. N. Kraft, C. T. Bezjian, S. Pfeiffer, L. Ringelstetter, C. Müller, F. Zandkarimi, J. Merl-Pham, X. Bao, N. Anastasov, J. Kössl et al.: ACS Cent. Sci., 6, 41 (2020).

6) Q. Nie, Y. Hu, X. Yu, X. Li & X. Fang: Cancer Cell Int., 22, 12 (2022).

7) X. Chen, J. Li, R. Kang, D. J. Klionsky & D. Tang: Autophagy, 17, 2054 (2021).

8) E. Tsuchiya, M. Yukawa, M. Ueno, K. Kimura & H. Takahashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 411 (2010).

9) K. Nishikawa, N. Aburai, K. Yamada, H. Koshino, E. Tsuchiya & K. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 72, 2463 (2008).

10) K. Kimura, Y. Sakamoto, N. Fujisawa, S. Uesugi, N. Aburai, M. Kawada, S. Ohba, T. Yamori, E. Tsuchiya & H. Koshino: Bioorg. Med. Chem., 20, 3887 (2012).

11) N. Usukhbayar, Y. Takano, S. Uesugi, M. Muroi, H. Osada & K. Kimura: Free Radic. Res., 57, 208 (2023).

12) N. Usukhbayar, S. Uesugi & K. Kimura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 87, 1336 (2023).