Kagaku to Seibutsu 63(4): 154-159 (2025)
解説
溶解性多糖モノオキシゲナーゼ,LPMOの安定性
解析の実際と安定化機構
Stability of Lytic Polysaccharide Monooxygenases, LPMOs: To Elucidate the Structural Stabilization Mechanisms of LPMOs
Published: 2025-04-01
天然のタンパク質の安定性は高くない.他方で,産業利用する場合当該分子の安定性は高い方が望ましく,タンパク質の安定性に関する研究は応用面からも重要である.本稿では溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)を例に,タンパク質の安定性を調べる実験の実際やタンパク質が立体構造を維持する仕組みについて概説する.LPMOは市販酵素製剤に含まれており,既に産業レベルで利用されている(1).また,安定性の高い変異型が作製され,関連する特許が取得されている(2).このような背景から,LPMOはタンパク質の安定性を取上げる際の好個のモデルである.
Key words: LPMO; 安定性; 変性; 溶解性多糖モノオキシゲナーゼ
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
最初に,溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(EC: 1.14.99.53-56)について簡単に紹介する.本酵素は英語名,lytic polysaccharide monooxygenaseを略してLPMOとも呼ばれる.LPMOは発見当初機能未知だったが,セルロースやキチン等の結晶性多糖を「酸化的に分解する」ことが2010年に明らかにされた(3, 4)3) G. Vaaje-Kolstad, B. Westereng, S. J. Horn, Z. Liu, H. Zhai, M. Sørlie & V. G. H. Eijsink: Science, 330, 219 (2010).4) A. Munzone, V. G. H. Eijsink, J. Berrin & B. Bissaro: Nat. Rev. Chem., 8, 106 (2024)..LPMOは,分子状酸素を共基質として結晶性多糖を分解することからモノオキシゲナーゼとして同定されたが,現在では共基質としてH2O2を用いるペルオキシゲナーゼであることが受け入れられつつある(4)4) A. Munzone, V. G. H. Eijsink, J. Berrin & B. Bissaro: Nat. Rev. Chem., 8, 106 (2024)..LPMOは糖質「加水分解」酵素とは全く異なる機構で糖質を分解するのだ.様々な微生物からLPMOが取得され,これまでに100種類以上について酵素化学的特性が報告されている.Carbohydrate-Active enZYmes Database(CAZy: https://www.cazy.org/)(5)5) E. Drula, M. Garron, S. Dogan, V. Lombard, B. Henrissat & N. Terrapon: Nucleic Acids Res., 50(D1), D571 (2022).において,LPMOはAuxiliary Activities(AAs)の8つのファミリー(AA family 9–11, 13–17)に分類される(2024年12月現在).触媒ドメインからのみ成るLPMO注1注1 触媒ドメインのみからなるLPMOの他に,糖質結合モジュール等が付加されたモジュール型のLPMOもあるが,本稿では触媒ドメインの安定性について述べる.は分子量20,000程度の小型タンパク質で,主として2枚のβ-シートから成るβ-サンドイッチ構造を有する(図1図1■LPMOの立体構造)(6, 7)6) K. E. H. Frandsen & L. Lo Leggio: IUCrJ, 3, 448 (2016).7) G. Vaaje-Kolstad, Z. Forsberg, J. S. M. Loose, B. Bissaro & V. G. H. Eijsink: Curr. Opin. Struct. Biol., 44, 67 (2017)..LPMOの触媒部位には銅イオンが含まれ,2つのHis残基が銅イオンに結合してヒスチジンブレースとよばれる配位構造が形成される(6, 7)6) K. E. H. Frandsen & L. Lo Leggio: IUCrJ, 3, 448 (2016).7) G. Vaaje-Kolstad, Z. Forsberg, J. S. M. Loose, B. Bissaro & V. G. H. Eijsink: Curr. Opin. Struct. Biol., 44, 67 (2017)..この銅イオンは触媒反応に必須である.
図1■LPMOの立体構造
(A) Serratia marcescens LPMO10A, SmLPMO10A(PDB code: 8RRY),(B)Aspergillus fumigatus LPMO9B, AfLPMO9B(PDB code: 6HAQ).α-ヘリックスを黄緑色,β-ストランドをオレンジ色,銅イオンを青色で示した.いずれもPyMOL(The PyMOL Molecular Graphics System, Version 2.1.1 Schrödinger, LLC.)を用いて作図した.
LPMOは比較的新しい酵素であるが,この15年で飛躍的に基礎研究と応用開発が進展した.その理由の1つに,LPMOが結晶性多糖分解の「ブースター(促進剤)」として働くため効率的に基質を分解できることがあげられる.現在,LPMOは工業レベルでセルロースを分解するための酵素製剤に含まれている(1)1) K. S. Johansen: Biochem. Soc. Trans., 44, 143 (2016)..この製剤を使用する場合,50~60°Cで分解反応が行われる(1)1) K. S. Johansen: Biochem. Soc. Trans., 44, 143 (2016)..LPMOはこの温度領域では安定であるのであろうが,LPMOの安定性に関してどのような知見が得られているのであろうか.それらを述べる前に次の項ではまずタンパク質の安定性について概説したい.
タンパク質の安定性は「変性のおこりやすさ」を指標に考えられる.本稿では,天然状態と変性状態のギブズエネルギーの差を指標とする平衡論的安定性注2注2 どのくらいの速度で変性するのかを安定性の指標とすることがある.これをタンパク質の「速度論的安定性」という.(熱力学的安定性ともいう)について取り上げる.なお,タンパク質の機能が失われることを「変性」,立体構造が失われることを「アンフォールディング」と厳密に区別する場合があるが,ここでは慣用例にしたがい,アンフォールディングを「変性」,アンフォールドした状態を「変性状態」とする.
タンパク質は一次構造に基づき固有の立体構造を形成・維持して初めて機能する.主に,水素結合,van der Waals力,疎水性相互作用,静電的相互作用などの非共有結合が形成されることで立体構造が維持される.高温や高濃度の変性剤などによってこれらの非共有性相互作用は切断されて立体構造が壊れる.変性したタンパク質は,溶媒である水とたくさんの相互作用を形成している.天然状態と変性状態の各状態において形成される非共有性相互作用の数は膨大で,全相互作用エネルギーは非常に大きい.しかし,中性pH,室温付近の生理的条件下で天然状態と変性状態のエネルギーの差をとると,ギブズエネルギー変化,ΔG0として20–60 kJ mol−1であることが多くのタンパク質で知られている(8, 9)8) A. Fersht: “タンパク質の構造と機構”,医学出版,2006, p. 607.9) 後藤祐児,桑島邦博,谷澤克行:“タンパク質科学 構造・物性・機能”,化学同人,2005, p. 186..ΔG0が平衡論的安定性の尺度になるが,水素結合1個あたりのΔG0への寄与は10–20 kJ mol−1であることから,20–60 kJ mol−1という値は水素結合のエネルギーに換算するとわずか数個分にすぎない(8, 9)8) A. Fersht: “タンパク質の構造と機構”,医学出版,2006, p. 607.9) 後藤祐児,桑島邦博,谷澤克行:“タンパク質科学 構造・物性・機能”,化学同人,2005, p. 186..つまり,天然状態のタンパク質は変性状態に比べ「ぎりぎり」安定にすぎない.このようなタンパク質の安定性のことを「marginal stability」という.このため,1つの非共有性相互作用が安定性に決定的な影響をおよぼすことはめずらしくない(8, 9)8) A. Fersht: “タンパク質の構造と機構”,医学出版,2006, p. 607.9) 後藤祐児,桑島邦博,谷澤克行:“タンパク質科学 構造・物性・機能”,化学同人,2005, p. 186..
最も単純な変性反応では,天然状態(Native state, N)と変性状態(Unfolded state, U)の2つの状態のみが存在し,式1のような平衡が成り立つ.
温度や変性剤濃度が高くなると,式1の平衡は右側へシフトしてほとんど全ての分子が変性する.他方,変性条件を取り除くと(冷却,変性剤の除去等),分子量20,000までのタンパク質であれば変性状態から天然状態へ巻き戻ることが多く,変性反応は可逆である.変性が単純な二状態転移(式1)の場合,変性のギブズエネルギー変化,ΔG0(GU−GN)は平衡定数K=[U]/[N]を用いて,式2のように表される. 式2のRは気体定数,Tは絶対温度である.ΔG0の値が正に大きいほど変性しにくい.この項ではタンパク質の安定性を調べる時,どのような実験・解析を行うのかについて概説する.通常,対象タンパク質の変性反応を測定して,変性の熱力学量(何度で変性するのか,変性にどのくらいのエネルギーを要するのか等)の評価を行う.ある部位のアミノ酸残基を置換した際の安定化(不安定化)効果について解析するのであれば,野生型と変異型の変性の熱力学量を比較することで安定化効果を定量的に議論することができる.実際は変性剤変性反応もしくは熱変性反応を調べることが多い.示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry; DSC)により熱変性反応を測定すれば,タンパク質を変性させるのに加えた熱量,つまり,変性のエンタルピー変化,ΔHを直接測定することができ,そこから全ての熱力学量を評価することができる(10~12)10) 日本熱測定学会:“熱量測定・熱分析ハンドブック 第3版”,丸善出版,2020, p. 19.11) J. M. Sturtevant: Annu. Rev. Phys. Chem., 38, 463 (1987).12) 日本熱測定学会:“熱量測定・熱分析ハンドブック 第2版”,丸善出版,2010, p. 125..しかし,汎用の熱量計は使えず,タンパク質の変性に伴う微小な熱量を検出するために断熱制御された熱量計を必要とする.他方,円二色性(CD)やトリプトファン残基の蛍光を指標として,温度変化や変性剤濃度の変化に対するこれらのシグナルの変化を記録することで,変性反応を比較的簡単にモニターすることができる.最近は示差走査蛍光測定(Differential Scanning Fluorimetry; DSF)による解析報告が増えている.タンパク質内部の疎水性残基は熱変性に伴い溶媒に露出するが,DSFではこの露出残基に蛍光色素を結合させることで変性を検出することが多い.
以下にSerratia marcescens LPMO10A, SmLPMO10A注3注3 本稿では,微生物名,属するAAファミリーの数字を含む形で酵素名を表記した.最後のローマ字(A, B…)は当該微生物が生成する(複数の)LPMOを区別するための記号である.の変性反応の解析例をとりあげる(13)13) H. Sugimoto, Y. Nakajima, A. Motoyama, E. Katagiri, T. Watanabe & K. Suzuki: Biopolymers, 111, e23339 (2020)..図2図2■SmLPMO10A(アポ型)の熱変性反応の測定にCD測定およびDSCにより得られたアポ型(銅イオンが結合していない)SmLPMO10Aの熱変性曲線を示す.図2A図2■SmLPMO10A(アポ型)の熱変性反応の測定は,233 nmのCDを指標として昇温走査を行ったデータで,タンパク質の二次構造の転移が反映される.縦軸はCDシグナルの値を,横軸は温度を表す.60°Cから75°Cにかけてシグナルが減少しており,この温度領域で変性がおきている.変性反応が単純な二状態転移であると仮定すると,ある温度における天然状態のタンパク質の割合(fN),変性状態のタンパク質の割合(fU)を変性曲線から求めることができ(図2A図2■SmLPMO10A(アポ型)の熱変性反応の測定),変性反応がおきている温度領域における平衡定数(K=fU/fN)の変化を調べることができる.この変化をvan’t Hoffの式を用いて解析することで,変性温度,変性のvan’t Hoffのエンタルピー変化,ΔHvHを求められる.これらの値に基づきΔG0も評価できる.なお,変性温度は天然状態と変性状態の分子の比が1:1になる温度をさす.アポ型SmLPMO10Aの場合,変性温度が65.8°C,ΔG0は58 kJ mol−1(25°C)であった.なお,本方法では最初に変性機構を仮定してから解析を始めるが,この仮定が正しいかどうかについては,他のシグナル(蛍光,吸光度等)を指標としたデータと比較して判断しなければならない.なお,解析方法については文献8, 9に詳しく解説されている.
図2■SmLPMO10A(アポ型)の熱変性反応の測定
(A) CDシグナルの変化を指標に測定した熱変性曲線,(B)DSCにより得られた熱変性曲線.いずれもアポ型SmLPMO10A溶液(pH 5.0)を1°C/minで昇温した.詳細は文献13を参照していただきたい.
図2B図2■SmLPMO10A(アポ型)の熱変性反応の測定は昇温走査を行った際のDSCデータで,図の縦軸は比熱(熱容量)を,横軸は温度を表す.DSCではタンパク質溶液を単位温度変化させるのに必要な熱の出入りを計測する.つまり熱変性に伴うタンパク質の比熱の変化を計測する.この図の場合,60°C付近から変性に伴う比熱の増大がみられ,65°C付近でピークに達し,75°Cでは完全に変性反応が終了した.タンパク質の変性反応は吸熱反応であるため,変性がおこっている温度領域ではタンパク質の比熱が大きくなる.ピーク面積は,変性のために加えた熱量,すなわち変性のエンタルピー変化,ΔHcalを表す.このほかに,変性温度や変性の前後でのタンパク質の比熱の差(Δcp)が実測される.DSC曲線からはΔHvHも同時に評価することができる.変性反応が二状態転移であれば,ΔHcalとΔHvHは一致する.1つのDSC曲線が得られれば,変性反応が二状態転移であるか否かを簡単に判断することができる(11, 12)11) J. M. Sturtevant: Annu. Rev. Phys. Chem., 38, 463 (1987).12) 日本熱測定学会:“熱量測定・熱分析ハンドブック 第2版”,丸善出版,2010, p. 125..また,ΔHcal,Δcp,変性温度の値から,ΔG0の温度依存性やエントロピー変化,ΔS0を求めることができる.解析方法等については文献10~12に詳しく解説されている.
アポ型SmLPMO10Aの場合,DSC曲線の解析から得られた変性温度は65.4°Cであった.また,ΔHvH/ΔHcal比は1.18で,アポ型SmLPMO10Aの変性反応は単純な二状態転移で進行すると考えられた(13)13) H. Sugimoto, Y. Nakajima, A. Motoyama, E. Katagiri, T. Watanabe & K. Suzuki: Biopolymers, 111, e23339 (2020)..さらに,DSCおよびCDの結果に大きな差はなく,このことからもアポ型SmLPMO10Aの変性が二状態転移であることが示された.
変性剤変性反応を調べる場合は,種々の変性剤濃度共存下のタンパク質サンプルを調製する.変性剤には塩酸グアニジンもしくは尿素を使う.CDや蛍光を指標として各サンプルのシグナル(スペクトル)を調べ,これを変性剤濃度に対してプロットすると変性曲線が得られる.図2A図2■SmLPMO10A(アポ型)の熱変性反応の測定の場合と同様の解析を行うことで変性の熱力学量を評価する.
主としてタンパク質の構造を安定化する因子は,(A)疎水性相互作用,(B)水素結合,(C)ジスルフィド結合である(8, 9)8) A. Fersht: “タンパク質の構造と機構”,医学出版,2006, p. 607.9) 後藤祐児,桑島邦博,谷澤克行:“タンパク質科学 構造・物性・機能”,化学同人,2005, p. 186..各々の安定化機構は以下の通りである.
(A)疎水性相互作用
タンパク質分子内部は,疎水性アミノ酸残基が集まって疎水性相互作用を形成している.疎水性残基が集まろうとする際に,界面に水和していた水分子が追い出されて自由になる.一方,変性に伴いこの領域が溶媒に露出されると水和され,水分子が規則正しい構造を作る.水の構造変化によるエントロピーの効果が安定化に寄与する要因の1つであると考えられる.
(B)水素結合
天然状態のタンパク質分子内で形成された水素結合は,変性状態では溶媒の水分子と水素結合を形成するので,これらの強さの差がタンパク質の安定化に寄与する.全ての水素結合が安定化に寄与しているわけではないようだが,水素結合1個あたりの寄与は10–20 kJ mol−1程度であると見積もられている.
(C)ジスルフィド結合
ジスルフィド結合による安定化は,天然状態よりも変性状態への影響が大きいと考えられている.ジスルフィド結合は変性しても切断されないため,変性状態の自由度が制限される.この状態のエントロピーはジスルフィド結合がない場合に比べて低下するため,変性状態が不安定化する.その結果,天然状態と変性状態のギブズエネルギーの差が大きくなり,安定化する(14, 15)14) A. J. Doig & D. H. Williams: J. Mol. Biol., 217, 389 (1991).15) 油谷克英:日本の科学者,54, 23 (2019)..
このほかにも,静電的相互作用やリガンドの結合などがタンパク質の安定化に寄与する.以下に,LPMOの安定性に影響をおよぼす因子について紹介する.
図3図3■アポ型とホロ型SmLPMO10Aの熱変性曲線の比較は,アポ型とホロ型のSmLPMO10Aの熱変性曲線を示す.CDを指標に測定した結果を比較した.アポ型の変性温度が65.8°Cであったのに対し,ホロ型では73.5°Cだった.アポ型に比べてホロ型では変性温度が約8°C増大した(13)13) H. Sugimoto, Y. Nakajima, A. Motoyama, E. Katagiri, T. Watanabe & K. Suzuki: Biopolymers, 111, e23339 (2020)..アポ型とホロ型のΔG0の差であるΔΔG0(ΔG0holo−ΔG0apo)は約37 kJ mol−1(25°C)であった.ΔΔG0が正の値であることは,アポ型に比べてホロ型を変性させるためには余分にエネルギーが必要なことを意味している.銅イオンの結合が顕著な安定化効果をもたらした.測定方法や測定条件が異なるが,他の数種のLPMOにおいてもホロ型の方がアポ型よりも変性温度が高いことがわかっている(16)16) T. R. Tuveng, M. S. Jensen, L. Fredriksen, G. Vaaje-Kolstad, V. G. H. Eijsink & Z. Forsberg: Biotechnol. Biofuels, 13, 194 (2020)..銅イオンはLPMOの触媒反応だけでなく,構造安定化においても重要な役割を果たしているのだ.なおDSC解析の結果から,ホロ型SmLPMO10Aは変性反応に銅イオンの解離や会合を伴わないと考えられる(13)13) H. Sugimoto, Y. Nakajima, A. Motoyama, E. Katagiri, T. Watanabe & K. Suzuki: Biopolymers, 111, e23339 (2020)..アポ型とホロ型で天然状態の構造に顕著な差が見られないことから,銅イオンが結合した変性状態の自由度がアポ型に比べて小さくなったことが安定化の要因の1つであると考えられる.
多くのLPMOには2つのジスルフィド結合が存在する.例えばSmLPMO10Aの場合,α-ヘリックス間を架橋する結合(C41-C49),2枚のβ-シート間をつなぐ結合(C145-C162)がある.還元剤共存下では非共存下に比べて,SmLPMO10Aの熱安定性が6°C低下した.Enterococcus faecalis LPMO10A(EfLPMO10A)の場合も熱安定性が1.5°C低下した.これらの結果から,ジスルフィド結合がLPMOの安定性に寄与していることがわかった(17)17) G. Vaaje-Kolstad, L. A. Bøhle, S. Gåseidnes, B. Dalhus, M. Bjørås, G. Mathiesen & V. G. H. Eijsink: J. Mol. Biol., 416, 239 (2012)..報告例が多くないので断定はできないが,分子内の2つのジスルフィド結合の安定化効果を併せても,銅イオン結合による安定化効果に比べて小さいようだ.
他方,Cellvibrio japonicus LPMO10A(CjLPMO10A),Streptomyces coelicolor LPMO10C(ScLPMO10C)を対象として,ジスルフィド結合を新たに分子内へ導入したLPMOが作製された(18, 19)18) X. Zhou, Z. Xu, Y. Li, J. He & H. Zhu: Front. Bioeng. Biotechnol., 9, 815990 (2022).19) M. Tanghe, B. Danneels, M. Last, K. Beerens, I. Stals & T. Desmet: Protein Eng. Des. Sel., 30, 401 (2017)..基質結合部位から離れたフレキシビリティーの高い領域をターゲットにしてScLPMO10Cの様々な位置にジスルフィド結合が導入され,16種の変異型について安定性が調べられた(19)19) M. Tanghe, B. Danneels, M. Last, K. Beerens, I. Stals & T. Desmet: Protein Eng. Des. Sel., 30, 401 (2017)..その結果,野生型より変性温度が低下したものや上昇したものがあり,その効果は一様ではなかった.この結果は安定性の高いタンパク質のデザインの難しさを反映している.そのなかで,A52C/P61C, S73C/A115Cは野生型に比べて熱安定性がそれぞれ5°C,9°C増大した.ScLPMO10Cには4つのα-ヘリックスが集まった領域があり,A52C/P61C, S73C/A115Cはいずれもこの領域内にジスルフィド結合が導入された.この領域内には天然のジスルフィド結合(C48–C66)が存在しており,2つのα-ヘリックス領域(S43–K53領域とN63–G74領域)をつなぐ.A52CはC48と,P61CはC66とそれぞれ同じα-ヘリックスに位置しており,新たに導入されたジスルフィド結合はC48–C66と平行な位置にある.S73C/A115CではN63–G74領域のα-ヘリックスと別のα-ヘリックス領域(F113–A118領域)の間にジスルフィド結合が導入され,周辺残基のパッキングが改善したことにより安定性が増大したと予想された.α-ヘリックス領域へのジスルフィド結合の導入はLPMOを安定化するために有用なのかもしれない.
Aspergillus fumigatus LPMO9B(AfLPMO9B)とThermoascus aurantiacus LPMO9A(TaLPMO9A)の立体構造の比較から,変異型AfLPMO9B, L90V/D131S/M134L/A141Wが作製された.この変異型は野生型に比べて熱変性温度が7°C上昇した(20)20) L. Lo Leggio, C. D. Weihe, J. N. Poulsen, M. Sweeney, F. Rasmussen, J. Lin, L. De Maria & M. Wogulis: Carbohydr. Res., 469, 55 (2018)..この安定化の要因として,(1)L90V, M134L, A141Wにより分子内部の疎水性相互作用が高まったこと,(2)近接した酸性残基(E84, D131, D132)間の静電的反発がD131Sにより低減したことがあげられる.D131のみを置換した変異型の変性温度が野生型よりも6°C高かったことから,特に(2)の効果が大きいことがわかった.この変異型については特許が取得されている(1)1) K. S. Johansen: Biochem. Soc. Trans., 44, 143 (2016)..
銅イオンの結合,ジスルフィド結合,疎水性相互作用,静電的相互作用がLPMOの安定性に影響をおよぼす.なかでも銅イオン結合の影響は大きい.現在までに15種程度のLPMOで安定性が調べられている.測定条件は全て同じではないが,ホロ型LPMOの変性温度は35°Cから83°Cまで様々である(16)16) T. R. Tuveng, M. S. Jensen, L. Fredriksen, G. Vaaje-Kolstad, V. G. H. Eijsink & Z. Forsberg: Biotechnol. Biofuels, 13, 194 (2020)..立体構造が大きく異なるわけではないのになぜこのような違いが生じるのかについてはまだわかっていないが,この点は大変興味深く,今後明らかにしてくべき課題である.また,LPMOの安定性解析ではほとんどが変性温度の報告にとどまり,他の変性の熱力学諸量の評価にはいたっていない.変性のギブズエネルギー変化には,エンタルピー変化およびエントロピー変化の両方が寄与している(ΔG0=ΔH0−TΔS0).ΔG0だけでなくΔH0,ΔS0についても比較することができれば,どのような相互作用がどのように安定性に寄与するのかを明らかにすることができる.筆者らの場合変性したLPMOの比熱の評価が難しく熱力学諸量を比較できなかったのだが,これを克服するにはキャピラリー型の熱量計を用いた解析が有効であると考えられる.平衡論的安定性の熱力学データを多くのLPMOで蓄積して,これを立体構造情報と併せて体系的に解析することがLPMOの安定化機構の解明や安定性の高い分子のデザインにつながるだろう.
Reference
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注1 注1 触媒ドメインのみからなるLPMOの他に,糖質結合モジュール等が付加されたモジュール型のLPMOもあるが,本稿では触媒ドメインの安定性について述べる.
注2 注2 どのくらいの速度で変性するのかを安定性の指標とすることがある.これをタンパク質の「速度論的安定性」という.
注3 注3 本稿では,微生物名,属するAAファミリーの数字を含む形で酵素名を表記した.最後のローマ字(A, B…)は当該微生物が生成する(複数の)LPMOを区別するための記号である.