Kagaku to Seibutsu 63(4): 160-165 (2025)
解説
運動が免疫を制御する生理学的・生物学的意義
運動と免疫
Physiological and Biological Significance of Immunoregulation by Exercise: Exercise Regulates Immune Function
Published: 2025-04-01
ヒトの腸内細菌は100兆個(1),体細胞はわずか37兆2千億個(2),実にヒト1個体の7割が自身以外の細胞集団(腸内細菌叢)であり,「我々の健康に影響を及ぼさないはずはない.」と指摘されている(3).
一方,600を超える数を有する生体内最大の臓器,骨格筋は(4),体重の4割を占める(5).動物とは,動かなければ「食」にありつけない従属栄養生物である以上,この骨格筋と上手につきあわなければならない.腸内細菌との共生の視点も含めて,運動が免疫を制御しなければならない生理学的・生物学的意義を一考する.
Key words: 自然免疫; Toll様受容体; 疲労困憊運動; 腸内細菌叢; 食物繊維
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
Bente K. Pedersenによって提唱された「オープンウインドウ(窓開放状態)」という学説がある(図1図1■「オープンウインドウ」説(6)).これは,高強度の激しい運動や疲労困憊に至る過酷な運動によって一過性の免疫抑制が生じることを示す,運動免疫学領域ではよく知られた学説である(6)6) B. K. Pedersen & H. Ullum: Med. Sci. Sports Exerc., 26, 140 (1994)..もともとは激しい運動後にNK細胞機能の低下が生じる現象から導き出された学説である.
図1■「オープンウインドウ」説(6)
中等度の運動時および激しい運動時には免疫系が亢進するが,激しい運動後には免疫抑制が起こる.「窓開放状態」と呼ばれる免疫低下時には,微生物,特にウイルスが宿主に侵入し,感染症に罹患する可能性がある.
自然免疫機能を代表する生体防御システムの一つに,Toll-like receptors(TLRs)ファミリーが知られている(7)7) S. Akira, S. Uematsu & O. Takeuchi: Cell, 124, 783 (2006)..十数種類が同定され,種々の病原体関連分子などを特異的に認識することが明らかとなり,自然免疫は非特異性であるとされていた概念が大きく様変わりした.我々は,疲労困憊に至る運動後のTLRsそれぞれの特異的病原体関連分子に対する反応を,実験動物を用いて評価した結果(図2A図2■疲労困憊運動(Ex)および安静(N-Ex)を負荷したマウスのTLRsを介した病原体関連分子に対するTNF-α濃度の比較),TLR5をのぞいて,いずれも免疫抑制にシフトする反応であった(8~12)8) H. Kitamura, D. Shiva, J. A. Woods & H. Yano: Neuroimmunomodulation, 14, 91 (2007).9) Y. Tanaka, N. Kawanishi, D. Shiva, N. Tsutsumi, M. Uchida, H. Kitamura, Y. Kato & H. Yano: Neuroimmunomodulation, 17, 279 (2010).10) H. Yano, M. Uchida, R. Nakai, K. Ishida, Y. Kato, N. Kawanishi & D. Shiva: Eur. J. Appl. Physiol., 110, 797 (2010).11) M. Uchida, E. Oyanagi, M. J. Kremenik, J. Sasaki & H. Yano: J. Physiol. Sci., 62, 59 (2012).12) H. Yano, M. Uchida, E. Oyanagi, N. Kawanishi, D. Shiva & H. Kitamura: J. Phys. Fit. Sports Med., 1, 645 (2012)..すなわち,概ね「オープンウインドウ」が成立することを提示してきた.
図2■疲労困憊運動(Ex)および安静(N-Ex)を負荷したマウスのTLRsを介した病原体関連分子に対するTNF-α濃度の比較
安静状態の値を100%とした時の相対比較(A)(12)12) H. Yano, M. Uchida, E. Oyanagi, N. Kawanishi, D. Shiva & H. Kitamura: J. Phys. Fit. Sports Med., 1, 645 (2012).,PGN: ペプチドグリカン,Poly I:C: ポリイノシン酸・ポリシチジル酸,LPS: リポ多糖体,FG: フラジェリン,R-848: イミダゾキノリンResiquimod. * p<0.05および** p<0.01 vs. N-EX(□).疲労困憊運動後にFG投与に対するTNF-α濃度の経時的変化(B)(17)17) M. Uchida, E. Oyanagi, N. Kawanishi, M. Iemitsu, M. Miyachi, M. J. Kremenik, S. Onodera & H. Yano: Immunol. Lett., 158, 151 (2014)..** p<0.01 vs. N-EX(〇),# p<0.05および## p<0.01 vs. Pre.(●) 値は平均値±S.E.M.で表示.
David C. Niemanによって提唱された運動免疫学領域の学説の中に,「J-カーブモデル」がある(13)13) D. C. Nieman: Int. J. Sports Med., 15(Suppl 3), S131 (1994)..運動と上気道感染症の関係は,「J」の形でモデル化することができるとするもので,風邪症候群の罹患しやすさを示している.すなわち,最も風邪への罹患リスクが高いのは,よく運動をする人であるというのである.激しい運動は,免疫機能に悪影響を及ぼし,ストレスホルモンであるエピネフリンやコルチゾールを上昇させるため,鍛錬を重ねたアスリートの方が,風邪のリスクが高い.では,この生理的・生物学的意義を,我々動物がなぜ運動しなければならないのかという観点から考えてみたい.
骨格筋は「使わなければ衰える」廃用性萎縮の臓器で,現代病とされるサルコペニア・フレイルは,骨格筋の残念な運命を現実に提示している.その骨格筋の働きを最大限に必要とする瞬間とは,空腹を癒すための狩猟行動,あるいは,逆に狩猟行動から逃げる(危険回避行動)という深刻な状況である.骨格筋は,こうした生存戦略に欠くことのできない臓器である.空腹時にこそ力を発揮しなくてはならない骨格筋が,グルコースフォスファターゼ活性を有しない(グルコースを他の臓器に供給しない)わがままが許される臓器であることも納得できる.こうした生存戦略のために動員される骨格筋にとっては,過大な負荷(多少なりの筋損傷)が生じる運動直後には,炎症が容易に発生しやすくなる.骨格筋はもともと,他の臓器と比較しても常在性の免疫細胞が乏しく,極端な炎症も起こりにくい.誰もが経験する「筋肉痛」が運動直後から遅れて発生する遅発性筋肉痛は,循環血中の免疫細胞が筋組織に浸潤してくるのに時間を要するからである(14)14) M. Uchida, E. Oyanagi, M. Miyachi, A. Yamauchi & H. Yano: J. Immunol. Methods, 393, 61 (2013)..同時に,アドレナリンやコルチゾールといった強烈な免疫抑制ホルモンが運動強度や時間に依存して分泌される.このことによって,骨格筋の運動直後の免疫反応,すなわち過度な炎症反応は,極端に抑制される.これが,「オープンウインドウ」であり,あえて積極的な免疫抑制が激しい運動直後には必要不可欠になる理由である.仮に,このシステムが崩壊し安静時のような正常免疫反応が許されたならば,痛みと浮腫と発熱などの全身性の炎症が惹起され,運動直後から,耐え難い状態に陥るものと考えられる.しかし,一方で「オープンウインドウ」という運動後の免疫抑制は,上気道感染症に罹患し易くしてしまう(J-カーブモデル),これもまた真と言えそうである.実は,骨格筋自身も,炎症抑制作用となるサイトカインシグナル抑制因子SOCS-1を発現することが知られている.骨格筋損傷を誘導するTリンパ球,マクロファージ,好酸球の浸潤は,SOCS-1によって制御されている(15)15) D. Metcalf, L. Di Rago, S. Mifsud, L. Hartley & W. S. Alexander: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 9174 (2000)..さらに,マクロファージ遊走因子であるMCP-1は,損傷骨格筋線維からの刺激を周辺の正常骨格筋線維が認識して,ようやく放出され,免疫細胞の浸潤が誘導される(14)14) M. Uchida, E. Oyanagi, M. Miyachi, A. Yamauchi & H. Yano: J. Immunol. Methods, 393, 61 (2013)..このように,運動後の急激な炎症を嫌う理由は,骨格筋が生存戦略のための狩猟行動・危険回避行動の主役であり,「オープンウインドウ」は合目的的免疫反応,すなわち生理学的・生物学的意義のある現象と言える.
スポーツ現場において,アスリートの骨格筋冷却行動(通称「アイシング」)によって,炎症性免疫細胞の浸潤抑制が生じることが知られている一方で,アイシングによる筋損傷後の筋修復過程の遅延が生じることも報告されている(16)16) M. Kawashima, N. Kawanishi, T. Tominaga, K. Suzuki, A. Miyazaki, I. Nagata, M. Miyoshi, M. Miyakawa, T. Sakuraya, T. Sonomura et al.: J. Appl. Physiol. (1985), 130, 1410 (2021)..見解の分かれるところなのかもしれないが,自然免疫応答の炎症という「負」の要素を軽減させる「アイシング」には,炎症を最低限に抑えつつ,しかし同時に一定の回復遅延が伴なうとの理解も必要である.
TLRsを介した炎症性サイトカイン(腫瘍壊死因子-α: TNF-α)産生に代表される激しい運動後の「オープンウインドウ」は,腸管では回避される(17)17) M. Uchida, E. Oyanagi, N. Kawanishi, M. Iemitsu, M. Miyachi, M. J. Kremenik, S. Onodera & H. Yano: Immunol. Lett., 158, 151 (2014)..バクテリアの鞭毛を構成するタンパク質であるフラジェリン(Flagellin; FG)は,TLR5によって認識される病原体関連分子の1つである.Uchidaら(17)17) M. Uchida, E. Oyanagi, N. Kawanishi, M. Iemitsu, M. Miyachi, M. J. Kremenik, S. Onodera & H. Yano: Immunol. Lett., 158, 151 (2014).は,このFG刺激に対するTLR5を介したTNF-α産生は,他のTLRsを介した反応(疲労困憊運動によって抑制される)どころか,逆に亢進することを示した(図2B図2■疲労困憊運動(Ex)および安静(N-Ex)を負荷したマウスのTLRsを介した病原体関連分子に対するTNF-α濃度の比較).実は,TLR5が身体活動性と関係することはすでに報告されてきた(18)18) T. Matsumoto, D. Shiva, N. Kawanishi, Y. Kato, J. A. Woods & H. Yano: Exerc. Immunol. Rev., 14, 38 (2008)..TLR5は,免疫担当細胞以外にも,腸内細菌と常時対峙する腸管上皮細胞に強く発現しており,激しい運動後のこの応答の主役は,腸管上皮細胞系であると指摘されている(17)17) M. Uchida, E. Oyanagi, N. Kawanishi, M. Iemitsu, M. Miyachi, M. J. Kremenik, S. Onodera & H. Yano: Immunol. Lett., 158, 151 (2014)..TLR5に認識されたFGは,炎症性サイトカイン産生を誘導し,局所の炎症を巧妙な仕組みでより迅速に誘導する(図3図3■ヒト結腸癌由来の細胞株(Caco-2細胞)を用いたTLR5のエピネフリン(Ep)刺激による変化(17)).すなわち,腸管上皮細胞では,高強度運動で誘導されるエピネフリン刺激によって,TLR5が細胞膜上に増加し,FG感受性が亢進する(図3A図3■ヒト結腸癌由来の細胞株(Caco-2細胞)を用いたTLR5のエピネフリン(Ep)刺激による変化(17)).さらに,この機構はPI3Kの活性化を介した膜移行シグナルの亢進と考えられる(図3B図3■ヒト結腸癌由来の細胞株(Caco-2細胞)を用いたTLR5のエピネフリン(Ep)刺激による変化(17)).激しい運動によって生じるTLRsを介した「オープンウインドウ」は,カテコラミンがその抑制を誘導するとしてきたが,FG刺激に対するTLR5を介したTNF-α産生の亢進という真逆の現象もまた,カテコラミンによって誘導されている(図3B図3■ヒト結腸癌由来の細胞株(Caco-2細胞)を用いたTLR5のエピネフリン(Ep)刺激による変化(17)).TLR5は,基底層側の細胞表面でのみ高い発現が観察されるが(19)19) E. Cario & D. K. Podolsky: Mol. Immunol., 42, 887 (2005).,その発現は運動でさらに亢進する(図3A図3■ヒト結腸癌由来の細胞株(Caco-2細胞)を用いたTLR5のエピネフリン(Ep)刺激による変化(17))(17)17) M. Uchida, E. Oyanagi, N. Kawanishi, M. Iemitsu, M. Miyachi, M. J. Kremenik, S. Onodera & H. Yano: Immunol. Lett., 158, 151 (2014)..通常,病原菌,あるいは病原体関連分子(この場合にはFG)が基底層側まで到達した場合にのみ,炎症反応が引き起こされる機構が構築されているということになるが,運動時(非安静時)には,FG刺激に対するTLR5を介したTNF-α産生は,より亢進することになる.したがって,空腹を癒すための狩猟行動である激しい運動後には,「栄養素」の獲得と同時に,消化管からの感染源暴露のリスクが生じることを考慮すると,「運動」後の消化管免疫の発動は,これもまた従属栄養生物の合目的的生理応答であると理解できる.
しかし,宿主の構成細胞に対して数的優位な腸内細菌叢が,激しい運動後に生じる腸管免疫発動を漫然と受け入れているとは考え難い.宿主の免疫系による過度な攻撃は,一過性とはいえ耐え難い状況,すなわち常在菌にとっても生存を脅かすことになりかねない.腸内細菌叢は,宿主の免疫系に影響することが知られるようになり(20)20) M. Rescigno: Cell. Microbiol., 16, 1004 (2014).,その仕組みの1つとして腸内細菌由来の短鎖脂肪酸(Short Chain Fatty Acids; SCFAs)である酪酸の作用による制御性T細胞(Treg)の生成促進が報告された(21)21) Y. Furusawa, Y. Obata, S. Fukuda, T. A. Endo, G. Nakato, D. Takahashi, Y. Nakanishi, C. Uetake, K. Kato, T. Kato et al.: Nature, 504, 446 (2013)..我々も,腸内細菌による発酵性が高いとされる水溶性食物繊維の一種,グアーガム分解物(PHGG)を用いて,腸内細菌由来の短鎖脂肪酸産生量の増加と,炎症抑制作用の誘導を観察した(図4A図4■LPS誘発TNF-α産生に対するPHGG処理の効果(22))(22)22) Y. I. Yokogawa, E. Oyanagi, T. Aoki, C. Watanabe, S. Miura, M. J. Kremenik & H. Yano: Nutrition, 101, 111705 (2022)..興味深いことに,不溶性食物繊維であるセルロースを含む食餌を摂取させたマウスでは,無繊維食餌摂取条件と比較して,自発運動量が高くなる(23)23) T. Nagano & H. Yano: Biosci. Biotechnol. Biochem., 84, 613 (2020).,すなわち活動的になるのである.その一方で,腸内細菌由来の短鎖脂肪酸産生は,PHGG摂取と比較すると,当然ながら明らかに低い(22)22) Y. I. Yokogawa, E. Oyanagi, T. Aoki, C. Watanabe, S. Miura, M. J. Kremenik & H. Yano: Nutrition, 101, 111705 (2022)..Okamotoら(24)24) T. Okamoto, K. Morino, S. Ugi, F. Nakagawa, M. Lemecha, S. Ida, N. Ohashi, D. Sato, Y. Fujita & H. Maegawa: Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 316, E956 (2019).は,短鎖脂肪酸の中でも酢酸が,骨格筋のエネルギー源として最も重要であるとし,運動パフォーマンス向上に寄与する可能性を示唆している.しかし,酪酸にはその作用は観察されず(24)24) T. Okamoto, K. Morino, S. Ugi, F. Nakagawa, M. Lemecha, S. Ida, N. Ohashi, D. Sato, Y. Fujita & H. Maegawa: Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab., 316, E956 (2019).,前述のセルロース含有食餌摂取マウスでは,セルロース分解能を有するRuminococcusの増加と酢酸の増加を報告したが,酪酸の増加は生じていない(23)23) T. Nagano & H. Yano: Biosci. Biotechnol. Biochem., 84, 613 (2020)..制御性T細胞(Treg)の生成促進は,PHGG摂取が効果的なのかもしれない.
図4■LPS誘発TNF-α産生に対するPHGG処理の効果(22)
LPSに対する血漿中TNF-α濃度の経時的変化(A),抗生剤投与マウスのLPSに対するTNF-α産生におけるPHGGの効果(B).値は平均値± S.E.M.で表示.** p<0.01および* p<0.05. LPS: リポ多糖,CD: コントロール食,GG: 部分加水分解グアーガム食,TNF: 腫瘍壊死因子,AB: 抗生剤.
CD+AB: 食物繊維摂取なしで6週間飼育,LPS投与直前の1週間はABで除菌を併用,CD+AB+GG: 食物繊維摂取なしで5週間飼育,1週間のAB除菌併用後,GG摂取(1週間),CD+GG+AB: 食物繊維摂取なしで4週間飼育,腸内細菌の存在下でGG摂取(1週間)後ABで除菌,GG+AB: 食物繊維摂取有りで6週間飼育,LPS投与直前にAB除菌(1週間)の併用.
宿主は,捕獲した獲物から,供給される糖質や脂質といったエネルギー源をチャージする.さらにタンパク質摂取によって良質なアミノ酸を補給する.その一方で,捕獲した獲物とともに腸管に侵入を試みる感染源に対して,腸管免疫が誘導される.運動にともなう腸管由来の炎症性サイトカインの攻撃を抑え込む腸内細菌叢の生存戦略は,食物繊維摂取行動を誘導することによって実現可能となる.まさに,宿主の摂食行動は,腸–脳相関と呼ばれる腸管から脳への循環を介した液性刺激,はたまた神経を介した興奮刺激によって我々の行動そのものに影響を与えている(25)25) J. F. Cryan & T. G. Dinan: Nat. Rev. Neurosci., 13, 701 (2012)..そして,その情報発信源に腸内細菌叢が関与していることから,BGM相関(Brain-Gut-Microbiota axis)と呼ぶことができるのかもしれない.
発酵性の高い水溶性食物繊維摂取は,短鎖脂肪酸産生を劇的に亢進させ,抗炎症作用を惹起する.実際に,抗生剤(AB)処理で腸内細菌を除菌してしまうと,食物繊維であるPHGG(GG)を摂取させても炎症性サイトカイン産生は高値のままである(図4B図4■LPS誘発TNF-α産生に対するPHGG処理の効果(22))(22)22) Y. I. Yokogawa, E. Oyanagi, T. Aoki, C. Watanabe, S. Miura, M. J. Kremenik & H. Yano: Nutrition, 101, 111705 (2022)..腸内細菌の生存戦略を垣間見ることができる.改めて,食物繊維摂取の影響が,腸内細菌叢にとって好転因子であることを痛感させられる.宿主にとってエネルギーの枯渇(空腹)は食欲を刺激し,そして狩猟という行動として「運動」が発動される.結果として「栄養」を獲得できることになる.その「栄養」は,宿主のエネルギー源となり,「休養」することによって備蓄・節約され,生存戦略が完了する.腸内細菌は,宿主の神経回路に介入(BGM相関)することによって,宿主の食行動をも誘導する(20)20) M. Rescigno: Cell. Microbiol., 16, 1004 (2014)..免疫細胞制御,すなわち抗炎症作用の誘導によって,宿主の活動性を制御する.結果として,腸管内発酵作用のための「栄養」が獲得され,パラサイトしながら積極的な宿主への働きかけで腸内細菌の生存が保障されることになる.発酵による代謝物は(腸内細菌にしてみれば,排泄物ともいえる)短鎖脂肪酸等の有機酸や,ビタミンとなって宿主に供給される.結果として,居住空間(宿主の身体)の健全化(健康)が獲得されることにもなる.このサイクル(日常)が繰り返されて一生が完結する.まさに,内部共生(腸内共生)が成立する宿主との運命共同体と呼ぶことができる(図5図5■摂食行動を介した宿主と腸内細菌叢の生存戦略の関係性).
健康増進法は,本邦の「健康施策:ヘルスプロモーション」の基盤であり,厚生労働省の唱える「健康づくり」の3本柱は,「運動・栄養・休養」である(26~28)26) 厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023, https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf27) 厚生労働省:食生活指針について,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000128503.html28) 厚生労働省:休養・心の健康,https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/b3.html.ここで,「運動・栄養・休養」には,重みづけや順位があるのかどうか指摘した.我々従属栄養生物にとって「食」は,生命エネルギー源「栄養素」獲得の一丁目一番地であり,生存に不可欠な要素である.しかし,空腹を癒すためには,狩猟行動「運動」が不可欠であり,非捕食動物にとっては,逃避という「運動」が,生存に不可欠となる.運動による筋損傷に対する一時的な炎症回避と,修復期間の「休養」が必要となる.さらに「栄養素」の獲得は,消化管からの感染源暴露のリスクをはらむことから,「運動」後の消化管免疫の発動は一定程度必要となる.「休養」することによって備蓄・節約され,「宿主」の生存戦略が完了する.加えて常在する腸内細菌は,食物繊維摂取行動「運動」を促し,宿主の食行動を誘導(BGM相関),結果として腸管内発酵作用のための「栄養」が獲得され,短鎖脂肪酸産生亢進は,宿主の抗炎症作用を惹起させる(腸内細菌の生存戦略).発酵による代謝物は宿主にも供給され,居住空間(宿主の身体)の健全化(健康)が獲得されることになる.このサイクル「運動→栄養→休養」が日常となって繰り返され,一生が完結する.まさに,内部共生する腸内細菌と宿主とは運命共同体なのである.
動物本来の狩猟行動,それが筋損傷を生じる激しい運動であり,これに対する炎症抑制機構(オープンウインドウ)と,その激しい運動によって獲得されて栄養源のみの確保に作用する腸管免疫機構の亢進(抗オープンウインドウ),そしてそれを制御する腸内細菌叢の生存戦略とが,従属栄養生物の生体内で繰り返されている日常であり,これを運動免疫学的視点から垣間見ることができる.
Reference
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