解説

小胞体における酸化的フォールディング酵素の機能・構造相関解析
網羅的・俯瞰的解析から見える酵素の協働

Functional and Structural Analysis of Oxidative Protein Folding Enzymes in the Endoplasmic Reticulum: Cooperation of Enzymes Seen from Comprehensive and Bird’s-eye Analysis

Aya Okuda

奥田

京都大学複合原子力科学研究所

Published: 2025-04-01

小胞体におけるジスルフィド結合を伴うタンパク質の立体構造形成,酸化的フォールディングは主にPDIファミリータンパク質によって担われている.PDIファミリータンパク質は複数種類存在するが,それらがなぜ複数種類存在し,どのように酸化的フォールディング反応を行っているのか,作用機構については未解明の部分が多い.また,生理的条件下である溶液中の立体構造情報は作用機構を深く理解するにあたり非常に重要である.筆者らは生化学的手法によりPDIファミリーの機能の解析を行うとともに、小角散乱法による構造解析を進めてきた.それらにより明らかになったPDIファミリーによる協働的なフォールディング反応や機能に相関した構造について解説したい.

Key words: 酸化的フォールディング; Protein Disulfide Isomerase(PDI); 小胞体; 小角散乱法

はじめに

タンパク質はそれぞれ固有のアミノ酸配列と立体構造を持つが,単にアミノ酸をポリペプチド鎖として繋ぎ合わせただけでは正しい立体構造を形成することが難しいことは,タンパク質を扱ったことがある研究者にとっては覚えのあることであろう.タンパク質の立体構造形成(フォールディング)には適切な工程と環境が必要である.真核細胞の膜タンパク質や分泌タンパク質の生合成の場はリボソームが付着した粗面小胞体である.新生タンパク質はリボソームから小胞体内に送り込まれ,小胞体内腔でフォールディングされる.正常にフォールディングされたタンパク質はゴルジ体等を経て目的地へと輸送されるが,正しくフォールディングされなかった構造が異常なタンパク質は分解・除去されるか,そのまま蓄積し,神経変性疾患と関連するような凝集体となることが知られている(1)1) F. U. Hartl, A. Bracher & M. Hayer-Hartl: Nature, 475, 324 (2011).

小胞体内での立体構造形成の大部分は,構造を安定化する分子内ジスルフィド結合の形成を伴ったもの,つまり酸化的フォールディングである(2)2) B. P. Tu & J. S. Weissman: J. Cell Biol., 164, 341 (2004)..タンパク質が正しく構造形成されるために,真核生物の小胞体には酸化的フォールディングを担う酵素群Protein Disulfide Isomerase (PDI)ファミリーに属するタンパク質が存在し,ヒトでは約20種類(3, 4)3) F. Hatahet & L. W. Ruddock: Antioxid. Redox Signal., 11, 2807 (2009).4) L. Ellgaard & L. W. Ruddock: EMBO Rep., 6, 28 (2005).,高等植物では10数種類(5)5) N. L. Houston, C. Fan, J. Q.-Y. Xiang, J.-M. Schulze, R. Jung & R. S. Boston: Plant Physiol., 137, 762 (2005).のPDIファミリータンパク質が存在している.PDIファミリータンパク質はチオレドキシンフォールドを持つドメインから構成され,活性中心システインを持つCXXCアミノ酸モチーフを介してジスルフィド結合の形成および異性化,還元を触媒する.PDIファミリータンパク質による酸化的フォールディングは,酸化型PDIファミリータンパク質が基質タンパク質に一過的なジスルフィド結合を形成する酸化反応の後,還元型PDIファミリータンパク質が正しいジスルフィド結合へ架け替える異性化反応が進行する(図1図1■PDIファミリータンパク質によるタンパク質の酸化的フォールディング(6, 7)6) C. S. Sevier & C. A. Kaiser: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 3, 836 (2002).7) B. Wilkinson & H. F. Gilbert: Biochim. Biophys. Acta. Proteins Proteom., 1699, 35 (2004)..複数のPDIファミリータンパク質がなぜ存在しているのか,それらによりどのように酸化的フォールディングが進行するのか,作用機構の詳細については未解明の部分が多い.これらの解明を目指して筆者が取り組んできた機能および構造の解析について紹介する.

図1■PDIファミリータンパク質によるタンパク質の酸化的フォールディング

酸化的フォールディング反応において,PDIファミリータンパク質は活性中心が酸化型の場合は酸化反応により基質タンパク質に一過的なジスルフィド結合を形成し,還元型の場合は異性化反応によりジスルフィド結合の架け替えを行い,これらの反応を駆使して基質の酸化的フォールディングを行う.

ダイズPDIファミリーの酵素学的性質

高等植物ダイズは主要な作物の中でもタンパク質含有量が高く,栄養性に優れた作物である.ダイズに含まれるタンパク質の大部分は種子貯蔵タンパク質であり,これらの構造形成にもPDIファミリータンパク質が作用すると考えられる.ダイズが持つPDIファミリータンパク質はこれまで複数同定されてきたが(8~11)8) H. Wadahama, S. Kamauchi, M. Ishimoto, T. Kawada & R. Urade: FEBS J., 274, 687 (2007).9) S. Kamauchi, H. Wadahama, K. Iwasaki, Y. Nakamoto, K. Nishizawa, M. Ishimoto, T. Kawada & R. Urade: FEBS J., 275, 2644 (2008).10) H. Wadahama, S. Kamauchi, Y. Nakamoto, K. Nishizawa, M. Ishimoto, T. Kawada & R. Urade: FEBS J., 275, 399 (2008).11) K. Iwasaki, S. Kamauchi, H. Wadahama, M. Ishimoto, T. Kawada & R. Urade: FEBS J., 276, 4130 (2009).,一部未同定のものも存在していた(図2図2■ダイズPDIファミリーのドメイン構成).筆者は未同定であった2種類(GmPDIL7,(12)12) A. Okuda, M. Matsusaki, T. Masuda & R. Urade: FEBS J., 284, 414 (2017). GmPDIL6(13)13) A. Okuda, M. Matsusaki, T. Masuda, K. Morishima, N. Sato, R. Inoue, M. Sugiyama & R. Urade: J. Biochem., 168, 393 (2020).)のcDNAをクローニングするとともに,これらと活性中心システインペアを持つ他のダイズPDIファミリータンパク質(GmPDIL-1, GmPDIL-2, GmPDIM, GmPDIS-1, GmPDIS-2)について,リコンビナントタンパク質を用いた酸化活性,還元活性,酸化的フォールディング活性といった酵素学的性質の解析を進めた.その結果,活性中心システインペアを持つダイズPDIファミリータンパク質は全て酸化活性を持つが,還元活性が高いもの(GmPDIL-1, GmPDIL-2)は酸化的フォールディング活性が高く,還元活性が低いもの(GmPDIM, GmPDIS-1, GmPDIS-2, GmPDIL7)は酸化的フォールディング活性が低いことが明らかとなった.これは,酸化的フォールディングの段階のうち,還元型PDIファミリータンパク質が作用する異性化反応の段階が律速となりやすく,全体の酸化的フォールディング反応が低下するためと考えられる.つまり,還元活性の高いものは異性化速度が律速となっておらず,それに対して酸化活性が高いものは異性化速度が律速となっているいうことである.以上より,ダイズPDIファミリータンパク質を酸化活性のみを持ち,フォールディングは行わないグループ(GmPDIL6)と,酸化と異性化の両活性を持つが酸化速度に比較して異性化速度が速く,全体の酸化的フォールディング速度も速いグループ(GmPDIL-1, GmPDIL-2),酸化速度に比較して異性化速度が遅く,全体の酸化的フォールディング速度も遅いグループ(GmPDIM, GmPDIS-1, GmPDIS-2, GmPDIL7)に分類できることを見出した(14)14) M. Matsusaki, A. Okuda, K. Matsuo, K. Gekko, T. Masuda, Y. Naruo, A. Hirose, K. Kono, Y. Tsuchi & R. Urade: J. Biol. Chem., 294, 18820 (2019)..このことから,酸化的フォールディングにおいてダイズPDIファミリータンパク質は異性化速度が速いグループが主に異性化反応を担い,異性化速度が遅いグループは主に酸化反応を担うというように,その酵素学的性質によって役割分担を行っていると推測された.

図2■ダイズPDIファミリーのドメイン構成

ダイズPDIファミリーはアミノ酸配列とドメイン構成,活性中心の配列が異なる8グループの存在が知られている.GmPDIL8以外は小胞体への局在が確認されており,GmPDIL7とGmPDIL8には膜貫通領域が存在する.GmPDIL8は未同定であり,ドメインがゴルジ体側に位置している可能性が高い.

酸化酵素ERO1/PDI間のジスルフィド供給システム

PDIファミリータンパク質の活性中心のジスルフィド結合は,基質の酸化を行うことで還元される.還元された活性中心は次の酸化反応を触媒する前に再酸化されなければならない.PDIファミリータンパク質にジスルフィド結合を供給する酵素として ER oxidoreductin 1 (ERO1) が知られている(15~17)15) C. S. Sevier & C. A. Kaiser: Biochim. Biophys. Acta Mol. Cell Res., 1783, 549 (2008).16) A. Cabibbo, M. Pagani, M. Fabbri, M. Rocchi, M. R. Farmery, N. J. Bulleid & R. Sitia: J. Biol. Chem., 275, 4827 (2000).17) M. Pagani, M. Fabbri, C. Benedetti, A. Fassio, S. Pilati, N. J. Bulleid, A. Cabibbo & R. Sitia: J. Biol. Chem., 275, 23685 (2000)..ERO1は通常はregulatory cysteine pairにジスルフィド結合が形成されている不活性型として存在し,還元型PDIによるジスルフィド交換反応によりshuttle cysteine pairへと架け替えられることでERO1の活性化が引き起こされることが哺乳動物で明らかとなっていた(18)18) C. Appenzeller-Herzog, J. Riemer, B. Christensen, E. S. Sørensen & L. Ellgaard: EMBO J., 27, 2977 (2008)..まず,ダイズ培養細胞を還元条件下に晒し,ダイズERO1のジスルフィド形成状態を非還元SDS-PAGEとウエスタンブロット分析により検出すると,ダイズERO1内のジスルフィド結合の還元と再酸化が経時的に起こっていることが明らかとなった(14)19) M. Matsusaki, A. Okuda, T. Masuda, K. Koishihara, R. Mita, K. Iwasaki, K. Hara, Y. Naruo, A. Hirose, Y. Tsuchi et al.: Plant Physiol., 170, 774 (2016)..この結果はダイズERO1の活性も分子内ジスルフィド結合の還元を介して制御されていることを示唆している.さらに,システイン残基変異体リコンビナントタンパク質を用いた実験から,ダイズERO1の113番目と118番目のシステイン残基が活性中心であるshuttle cysteine pairとしてPDIを酸化するジスルフィド結合を形成しており,121番目と146番目のシステイン残基がshuttle cysteineとregulatory cysteine pairを形成することで不活性型となることを明らかにした(図3図3■ダイズERO1の活性調節(19)14) M. Matsusaki, A. Okuda, K. Matsuo, K. Gekko, T. Masuda, Y. Naruo, A. Hirose, K. Kono, Y. Tsuchi & R. Urade: J. Biol. Chem., 294, 18820 (2019)..さらに還元型のダイズPDIファミリータンパク質をダイズERO1に作用させると,ダイズERO1内のジスルフィド結合の架け替えが起こったことから,ダイズでもERO1の活性制御がPDIファミリータンパク質によって行われることを明らかとなった.さらに,この活性制御は特定のPDIファミリータンパク質(GmPDIL-1, GmPDIM, GmPDIS-1, GmPDIS-2, GmPDIL7)によって行われており,ダイズERO1活性化能はPDIファミリータンパク質によって異なることも明らかにした.

図3■ダイズERO1の活性調節

活性型ダイズERO1は113番目と118番目のシステイン残基がPDIファミリータンパク質を酸化する活性中心のジスルフィド結合(shuttle cysteine pair)を形成しており,不活性型ダイズERO1は121番目と146番目のシステイン残基がshuttle cysteineとのregulatory cysteine pairを形成している.活性型ERO1と不活性型ERO1のジスルフィド交換反応は還元型PDIファミリータンパク質によって行われる.

一方,shuttle cysteine pairの役割について,ダイズERO1が特定のPDIファミリータンパク質(GmPDIL-1, GmPDIM, GmPDIS-1, GmPDIS-2, GmPDIL7)の特定の活性中心にのみジスルフィド結合を供給し,PDIファミリーごとに酸化のされやすさが異なることを見出した(14, 19)14) M. Matsusaki, A. Okuda, K. Matsuo, K. Gekko, T. Masuda, Y. Naruo, A. Hirose, K. Kono, Y. Tsuchi & R. Urade: J. Biol. Chem., 294, 18820 (2019).19) M. Matsusaki, A. Okuda, T. Masuda, K. Koishihara, R. Mita, K. Iwasaki, K. Hara, Y. Naruo, A. Hirose, Y. Tsuchi et al.: Plant Physiol., 170, 774 (2016)..さらに,GmPDIMからGmPDIL-2へとジスルフィド結合が供給され,相乗的に酸化的フォールディングが行われることも所属研究グループで見出されている(19)19) M. Matsusaki, A. Okuda, T. Masuda, K. Koishihara, R. Mita, K. Iwasaki, K. Hara, Y. Naruo, A. Hirose, Y. Tsuchi et al.: Plant Physiol., 170, 774 (2016)..以上からダイズERO1から生み出されたジスルフィド結合はダイズPDIファミリータンパク質を介して特定の経路により基質に伝達されることが明らかとなった(図4図4■ダイズERO1からPDIファミリー,基質へのジスルフィド結合受け渡し).これらの経路において,ダイズERO1からダイズPDIファミリータンパク質へ酸化によりジスルフィド結合が受け渡され,さらに酸化的フォールディングにより基質へとジスルフィド結合が受け渡される.そして,還元型となったPDIファミリーがダイズERO1の活性調節を行う.このように,ダイズERO1とダイズPDIファミリータンパク質の間には合理的で精緻なフィードバック制御システムが存在している.

図4■ダイズERO1からPDIファミリー,基質へのジスルフィド結合受け渡し

ダイズERO1から生み出されたジスルフィド結合はダイズPDIファミリータンパク質を介して基質に伝達される.酸化のされやすさおよび酸化的フォールディング速度はダイズPDIファミリーの活性中心ごとに異なり,矢印の太さがそれらを示している.

ダイズ小胞体における複数の酵素による協働的なフォールディング機構

ダイズPDIファミリーがそれぞれ異なる酵素学的性質を持つことから,小胞体内でのタンパク質酸化的フォールディングにおいて,それらが持つ酵素学的特性にしたがって役割分担を行っているとの仮説を立てた.本仮説の立証のため,共免疫沈降実験により小胞体内でのPDIファミリータンパク質間の会合状態を調べると,複数のダイズPDIファミリー間(GmPDIL-1–GmPDIS-1,2, GmPDIL-2–GmPDIM, GmPDIM–GmPDIS-1,2, GmPDIM–GmPDIL7, GmPDIS-1–GmPDIS-2, GmPDIS-1,2–GmPDIL7)で複合体の形成が見られた(12, 19)12) A. Okuda, M. Matsusaki, T. Masuda & R. Urade: FEBS J., 284, 414 (2017).19) M. Matsusaki, A. Okuda, T. Masuda, K. Koishihara, R. Mita, K. Iwasaki, K. Hara, Y. Naruo, A. Hirose, Y. Tsuchi et al.: Plant Physiol., 170, 774 (2016)..さらに,基質となる種子貯蔵タンパク質と複数種類のPDIファミリータンパク質が一過的に会合していることも先行研究で明らかになっている(9~11)9) S. Kamauchi, H. Wadahama, K. Iwasaki, Y. Nakamoto, K. Nishizawa, M. Ishimoto, T. Kawada & R. Urade: FEBS J., 275, 2644 (2008).10) H. Wadahama, S. Kamauchi, Y. Nakamoto, K. Nishizawa, M. Ishimoto, T. Kawada & R. Urade: FEBS J., 275, 399 (2008).11) K. Iwasaki, S. Kamauchi, H. Wadahama, M. Ishimoto, T. Kawada & R. Urade: FEBS J., 276, 4130 (2009)..このことから,小胞体では複数のPDIファミリータンパク質が協働的に基質の酸化的フォールディングを行っていることが強く示唆された.そこで,小胞体内で会合しているダイズPDIファミリータンパク質とダイズERO1を組み合わせて酸化的フォールディング活性を測定した.今回はGmPDIL-1とGmPDIS-1の組み合わせを例に示す.共存系では単独に比べて酸化的フォールディングの開始が早まり,フォールディング速度が相乗的に高まることが明らかとなった(図5A図5■GmPDIL-1,GmPDIS-1,ダイズERO1による還元変性RNaseAの酸化的フォールディング(14)14) M. Matsusaki, A. Okuda, K. Matsuo, K. Gekko, T. Masuda, Y. Naruo, A. Hirose, K. Kono, Y. Tsuchi & R. Urade: J. Biol. Chem., 294, 18820 (2019)..このことから,生体内では複数のPDIファミリータンパク質が互いの機能を補完しあって酸化的フォールディングを協働的かつ効率的に行うことが示唆された.一方,ダイズERO1の活性制御に関わる121番目と146番目のシステイン残基をアラニンに変異させることでジスルフィド結合をshuttle cysteine pairに固定し,常に活性型なHyper active ERO1を作製し,これを同様のGmPDIL-1 - GmPDIS-1共存フォールディング系に作用させた.すると,驚くべきことに,酸化的フォールディングが途中で進行しなくなることが明らかとなった(図5B図5■GmPDIL-1,GmPDIS-1,ダイズERO1による還元変性RNaseAの酸化的フォールディング).このような酸化的フォールディングの抑制は,GmPDIS-1単独にHyper active ERO1を作用させたときにも起こる現象であり,GmPDIL-1単独に作用させたときには起こらなかった.なぜこのようなフォールディングの抑制が起こるのかを明らかにするために,基質タンパク質のジスルフィド結合の形成を非還元SDS-PAGEにより分析した.野生型ERO1存在下でGmPDIS-1は,基質に一過的な組み合わせのジスルフィド結合を導入しながら正しい組み合わせのジスルフィド結合への架け替え,最終的に正しい組み合わせでジスルフィド結合を形成する様子がバンドの移動度の経時的な変化により検出された(14)14) M. Matsusaki, A. Okuda, K. Matsuo, K. Gekko, T. Masuda, Y. Naruo, A. Hirose, K. Kono, Y. Tsuchi & R. Urade: J. Biol. Chem., 294, 18820 (2019)..しかし,Hyper active ERO1存在下では,基質に一過的な組み合わせのジスルフィド結合が比較的早い速度で導入され,ジスルフィド結合が正しくない組み合わせで入ったまま架け替え反応が起こらない状態のdead endな基質の蓄積が検出された.このことから,Hyper active ERO1存在下ではPDIファミリータンパク質の酸化が過剰な条件となっており,GmPDIS-1による基質へのジスルフィド結合形成も過剰となり,GmPDIL-1による架け替えが追い付かずにdead endな基質が蓄積して,正しい構造にフォールディングされないためフォールディングの抑制が起こっていると考えられた.このことから,効率よく酸化的フォールディングが行われるには,ERO1とPDIファミリータンパク質の量的バランスが非常に重要であることが示唆された.特にGmPDIL-1 - GmPDIS-1共存フォールディング系では,GmPDIL-1が0.3 µM,GmPDIS-1が0.6 µM,ダイズERO1が3 µMと非常に酸化反応が進みやすい条件で実験を行っていた.そこで,実際に生体内ではどのような量的バランスでタンパク質の酸化的フォールディングが行われているか調べるために,半定量的ウエスタンブロット分析からダイズ子葉中の各PDIファミリータンパク質およびERO1の含有量とモル比を測定した.すると,GmPDIL-1は他のPDIファミリータンパク質よりも著しく含有量が高く,ダイズ子葉中の総タンパク質1 g中に160 nmol含まれていた(14)14) M. Matsusaki, A. Okuda, K. Matsuo, K. Gekko, T. Masuda, Y. Naruo, A. Hirose, K. Kono, Y. Tsuchi & R. Urade: J. Biol. Chem., 294, 18820 (2019)..これはGmPDIS-1の6倍近くの量であった.それに対し,ダイズERO1はGmPDIL-1の1/130以下と非常に低い含有量であった.

図5■GmPDIL-1,GmPDIS-1,ダイズERO1による還元変性RNaseAの酸化的フォールディング

還元変性させた基質RNaseAに対し,ダイズERO1とGmPDIS-1単独(青丸),GmPDIL-1単独(桃三角),GmPDIL-1とGmPDIS-1の混合(赤四角)を異なる濃度で作用させ,25°Cで酸化的フォールディング反応を行った.横軸に経過時間を,縦軸に還元型変性RNaseAのリフォールド割合を示す.

以上の結果を踏まえて,生体内の存在比率に即した濃度として,GmPDIL-1は3 µM,GmPDIS-1は0.5 µM,ダイズERO1は0.02 µMの条件で改めて酸化的フォールディング活性の測定を行った.すると,Hyper active ERO1存在下であっても,酸化的フォールディングは相乗的に促進される結果となった(図5C図5■GmPDIL-1,GmPDIS-1,ダイズERO1による還元変性RNaseAの酸化的フォールディング(14)14) M. Matsusaki, A. Okuda, K. Matsuo, K. Gekko, T. Masuda, Y. Naruo, A. Hirose, K. Kono, Y. Tsuchi & R. Urade: J. Biol. Chem., 294, 18820 (2019)..このことから,生体内ではERO1によるPDIファミリータンパク質の酸化が非常に抑えられ,基質へのジスルフィド結合の導入も抑えられており,dead end基質が生じない環境に保たれていることが示された.生体内では複数のPDIファミリーおよびERO1が小胞体内での酸化的フォールディングに適した酵素濃度と酸化還元バランスに維持されており,それらの酸化還元状態が双方向の調節機構で適切に保たれることで効率的なタンパク質フォールディングが行われていると考えられる.

ヒト酸化的フォールディング酵素ER-60の機能・構造相関解析

PDIファミリータンパク質による酸化的フォールディング機構の更なる解明のため,構造解析に着手することとした.小胞体内は酸化的フォールディングに適した環境に制御されていることから,その環境を再現した生理的条件下,つまり溶液中での構造観察が強く望まれる.そこで溶液中の構造観察が可能な小角散乱法を用いて,機能に相関した構造の観察を行うこととした.小角散乱法は特定波長のX線もしくは中性子線を試料に照射し,ナノスケール構造を反映する散乱角2θが10°以下の散乱強度を円環平均することで散乱プロファイルを得て,分子の構造情報を解析する手法である(図6図6■小角散乱法).得られた散乱プロファイルは測定した分子の大きさや構造を反映しており,小角領域のGuinier解析から分子の大きさおよび広がりの指標となる慣性半径Rgを,分子動力学計算で動的構造の予測を行うことも可能である.小角散乱法の測定ターゲットとして,ヒトのPDIファミリータンパク質ER-60に着目した.ER-60は活性中心システインペアを持つドメインaa’,シャペロン会合ドメインbb’a-b-b’-a’の順に並んだドメイン構造を持つ.小角散乱法は夾雑物や凝集物のコンタミネーションに非常に敏感であり,特に大きな分子は少量でも大きな影響を及ぼしてしまうため単分散の試料調製が重要となる.そこで,測定に用いるリコンビナントER-60を高純度に精製し,試料の品質を慎重に評価するとともに,X線小角散乱(SAXS)法をサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と組み合わせたSEC-SAXS法(20)20) R. Inoue, T. Nakagawa, K. Morishima, N. Sato, A. Okuda, R. Urade, R. Yogo, S. Yanaka, M. Yagi-Utsumi, K. Kato et al.: Sci. Rep., 9, 12610 (2019).と分析超遠心(AUC)を利用した解析手法(AUC-SAS)(21)21) K. Morishima, A. Okuda, R. Inoue, N. Sato, Y. Miyamoto, R. Urade, M. Yagi-Utsumi, K. Kato, R. Hirano, T. Kujirai et al.: Commun. Biol., 3, 1 (2020).を実施することで,高精度なSAXSプロファイルを得た(22)22) A. Okuda, M. Shimizu, K. Morishima, R. Inoue, N. Sato, R. Urade & M. Sugiyama: Sci. Rep., 11, 5655 (2021)..実験から得られたER-60のSAXSプロファイルをER-60の結晶構造(3F8U)から計算したものと比較すると,溶液中のSAXSプロファイルがドメイン間の相関を反映する散乱ベクトルqの範囲(酸化型:q=0.16~0.24(図7A図7■ER-60のX線小角散乱(SAXS)測定),還元型:q=0.08~0.14(図7B図7■ER-60のX線小角散乱(SAXS)測定))で結晶構造のものとは異なっており,散乱プロファイルの差分を表す値であるχ2は酸化型で13.5,還元型では10.7であった.つまり,ER-60の溶液中の構造が酸化型,還元型ともに結晶構造とは異なるドメイン配置をしていることを示している.

図6■小角散乱法

小角散乱法は特定波長のX線もしくは中性子線を試料に照射し,散乱角2θが10°以下の散乱強度を円環平均することでナノスケール構造を反映した散乱プロファイルを得る手法である.散乱プロファイルの横軸は散乱ベクトル(q)を,縦軸は散乱強度Iq)を示している.例えば分子が小さく内部が詰まった構造のカタラーゼ(青色,PDB: 6PO0)はなだらかな凹凸のある散乱プロファイルであるのに対し,それよりも大きな分子で内部が空洞となっているアポフェリチン(赤色,PDB: 6RJH)ははっきりとした凹凸のある散乱プロファイルを示す.また,単分散系では得られた散乱プロファイルの小角領域においてGuinier近似式が成り立つため,散乱ベクトルの二乗(q2)に対して散乱強度の対数(ln Iq))をプロット(Guinierプロット)すると,傾きに対応した慣性半径Rgを求めることができる.

図7■ER-60のX線小角散乱(SAXS)測定

ER-60のSAXS測定から得られたプロファイルと結晶構造から算出されたSAXSプロファイルの比較(A, B)およびそのGuinierプロット(C).酸化型は赤丸,還元型は青丸,結晶構造は黒実線で示される.

また,SAXSプロファイルの小角領域についてGuinier解析を行うと,活性中心システインペアの状態が還元型の場合は比較的コンパクトな構造を,酸化型の場合はやや広がった構造をとることが慣性半径(Rg)の違いにより示された(図7C図7■ER-60のX線小角散乱(SAXS)測定(22)22) A. Okuda, M. Shimizu, K. Morishima, R. Inoue, N. Sato, R. Urade & M. Sugiyama: Sci. Rep., 11, 5655 (2021)..また,分子動力学計算によりコンフォメーションの違いは主にa’ドメインの配置の違いに由来することも明らかとなった.以上のSAXSによる構造解析の結果は,酸化的フォールディングにおける酵素の機能と構造の関係性を強く示唆している.

おわりに

筆者はこれまで複数種類のダイズPDIファミリータンパク質について詳細な酵素学的性質を明らかにするとともに,性質によっていくつかのグループに分類できることを明らかにした.また,酸化酵素ERO1とPDIファミリータンパク質の間の精緻なフィードバックシステムの存在と,会合体を形成するダイズPDIファミリータンパク質間の協働的・相乗的なフォールディング反応を見出した.さらに,ダイズPDIファミリータンパク質とERO1が酸化的フォールディングに適した酵素濃度と酸化還元バランスに維持されていることも明らかにした.そして,高精度SAXS測定により,ER-60には活性中心が酸化型と還元型のものの間に確かな構造上の違いが存在することを見出した.しかしながら,現時点のSAXSによる全体構造の観察のみでは機能と構造の相関に十分迫ることはできておらず,機能を担う特定の構造に着目した構造解析や,基質をフォールディングしている時の構造観察が必要である.そこで今後の展開として,中性子小角散乱(SANS)法を用いた構造解析を予定している.中性子では軽水素と重水素の散乱長が大きく異なるため,タンパク質を重水素化することでコントラスト同調により特定のタンパク質もしくはドメインのみを散乱的に可視化/不可視化した構造解析が可能である(23)23) M. Sugiyama, H. Yagi, T. Yamaguchi, K. Kumoi, M. Hirai, Y. Oba, N. Sato, L. Porcar, A. Martel & K. Kato: J. Appl. Cryst., 47, 430 (2014)..現在,本法に必要なタンパク質重水素化技術(24)24) A. Okuda, R. Inoue, K. Morishima, T. Saio, Y. Yunoki, M. Yagi-Utsumi, H. Yagi, M. Shimizu, N. Sato, R. Urade et al.: Biophys. Physicobiol., 18, 16 (2021).やタンパク質ライゲーション技術(25)25) A. Okuda, M. Shimizu, R. Inoue, R. Urade & M. Sugiyama: Angew. Chem. Int. Ed., 62, e202214412 (2023).の開発・展開にも注力している.さらに,ヒトER-60に留まらず,他のヒトPDIファミリーやダイズPDIファミリー,それらの会合体や関連シャペロンについても構造と機能の相関解析を視野に入れている.

Acknowledgments

本研究は京都大学農学研究科農学専攻 品質設計開発学分野および京都大学複合原子力科学研究所 粒子線基礎物性研究部門 粒子線物性学研究分野で行われたものです.裏出令子教授ならびに杉山正明教授のご指導に心より感謝申し上げます.また,研究室の皆様から多大なるご支援とご協力をいただきましたこと,ここに深く感謝と御礼を申し上げます.

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20) R. Inoue, T. Nakagawa, K. Morishima, N. Sato, A. Okuda, R. Urade, R. Yogo, S. Yanaka, M. Yagi-Utsumi, K. Kato et al.: Sci. Rep., 9, 12610 (2019).

21) K. Morishima, A. Okuda, R. Inoue, N. Sato, Y. Miyamoto, R. Urade, M. Yagi-Utsumi, K. Kato, R. Hirano, T. Kujirai et al.: Commun. Biol., 3, 1 (2020).

22) A. Okuda, M. Shimizu, K. Morishima, R. Inoue, N. Sato, R. Urade & M. Sugiyama: Sci. Rep., 11, 5655 (2021).

23) M. Sugiyama, H. Yagi, T. Yamaguchi, K. Kumoi, M. Hirai, Y. Oba, N. Sato, L. Porcar, A. Martel & K. Kato: J. Appl. Cryst., 47, 430 (2014).

24) A. Okuda, R. Inoue, K. Morishima, T. Saio, Y. Yunoki, M. Yagi-Utsumi, H. Yagi, M. Shimizu, N. Sato, R. Urade et al.: Biophys. Physicobiol., 18, 16 (2021).

25) A. Okuda, M. Shimizu, R. Inoue, R. Urade & M. Sugiyama: Angew. Chem. Int. Ed., 62, e202214412 (2023).