生物コーナー

国立遺伝学研究所で保存される野生イネ遺伝資源の現在と未来
ゲノム科学時代の野生イネ遺伝資源の利活用

佐藤

Yutaka Sato

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所

吉川 貴徳

Takanori Yoshikawa

情報・システム研究機構国立遺伝学研究所

Published: 2025-04-01

はじめに

近年,地球規模の気候変動がさまざまな作物の生産に与える影響が顕在化している(1)1) E. E. Rezaei, H. Webber, S. Asseng, K. Boote, J. L. Durand, F. Ewert, P. Martre & D. S. MacCarthy: Nat. Rev. Earth Environ., 4, 831 (2023)..この傾向は今後も続くと予想されており,世界的な食料生産が危機にさらされている(2)2) J. R. Porter, L. Xie, A. J. Challinor, K. Cochrane, S. M. Howden, M. M. Iqbal, D. B. Lobell & M. I. Travasso: “Food security and food production systems. In: Climate Change 2014: Impacts, Adaptation, and Vulnerability. Part A: Global and Sectoral Aspects. Contribution of Working Group II to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change,” Cambridge University Press, 2014, p. 485..作物生産の安定化は,国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals; SDGs)において緊急課題の一つとされている(3)3) B. M. Campbell, J. Hansen, J. Rioux, C. M. Stirling, S. Twomlow & E. Wollenberg: Curr. Opin. Environ. Sustain., 34, 13 (2018)..これに対応する重要な手段の一つが育種であり(4)4) S. Ceccarelli, S. Grando, M. Maatougui, M. Michael, M. Slash, R. Haghparast, M. Rahmanian, A. Taheri, A. Al-Yassin, A. Benbelkacem et al.: J. Agric. Sci., 148, 627 (2010).,収量向上や生物および非生物ストレス耐性に関連する対立遺伝子座の同定と,これを育種に利用する取り組みが進められている.一般に,作物のストレス耐性は複数の量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci; QTLs)によって調節されている(5~7)5) T. J. Flowers, M. L. Koyama, S. A. Flowers, C. Sudhakar, K. P. Singh & A. R. Yeo: J. Exp. Bot., 51, 99 (2000).6) S. R. G. Raj & K. Nadarajah: Int. J. Mol. Sci., 24, 6 (2022).7) J. Wen, F. Jiang, Y. Weng, M. Sun, X. Shi, Y. Zhou, L. Yu & Z. Wu: BMC Plant Biol., 19, 1 (2019)..ストレス耐性に関連する有用な対立遺伝子を育種利用するためには,系統間の遺伝的多様性が不可欠である.多様な栽培品種や在来品種から複数のストレス耐性遺伝子を集積することで耐性を高める育種戦略がとられている(8, 9)8) R. K. Joshi & S. Nayak: Biotechnol. Mol. Biol. Rev., 5, 51 (2010).9) V. Muthu, R. Abbai, J. Nallathambi, H. Rahman, S. Ramasamy, R. Kambale, T. Thulasinathan, B. Ayyenar & R. Muthurajan: PLoS One, 15, e0227421 (2020).

人類は野生種を家畜化することで生産性を大きく向上させ,長い年月をかけて,安定した食料生産システムを確立してきた(10)10) D. A. Vaughan, E. Balazs & J. S. Heslop-Harrison: Ann. Bot. (Lond.), 100, 893 (2007)..イネの場合,8000年から1万年前に生じた初期の栽培化を経て現在の品種が作られてきた(11~13)11) M. J. Kovach, M. T. Sweeney & S. R. McCouch: Trends Genet., 23, 578 (2007).12) R. S. Meyer, J. Y. Choi, M. Sanches, A. Plessis, J. M. Flowers, J. Amas, K. Dorph, A. Barretto, B. Gross, D. Q. Fuller et al.: Nat. Genet., 48, 1083 (2016).13) M. Sweeney & S. McCouch: Ann. Bot., 100, 951 (2007)..イネの栽培化過程が単一の事象とは考えにくいが,それでも野生集団が持っていた多様性は栽培化の過程の選抜により大幅に減少したと考えられている(14, 15)14) T. Izawa: Plant Cell Physiol., 63, 1529 (2022).15) H. Zhang, N. Mittal, L. J. Leamy, O. Barazani & B. H. Song: Evol. Appl., 10, 5 (2017)..すなわち,作物野生近縁種(Crop Wild Relatives; CWRs)の集団は,栽培品種や在来品種よりもはるかに高い遺伝的多様性を保持することが期待できる.

栽培イネの祖先種を含む野生イネ属は,世界の低緯度地域に広く分布している(16)16) B. J. Atwell, H. Wang & A. P. Scafaro: Plant Sci., 215–216, 48 (2014)..これらの生息地は,海水レベルの塩分濃度に日常的にさらされる汽水域や,深水に頻繁に浸かる地域,さらには林床に至るまで多岐にわたる(17)17) D. A. Vaughan, H. Morishima & K. Kadowaki: Curr. Opin. Plant Biol., 6, 139 (2003)..これらの野生植物が日々変動する多様な環境に生育していることを考えると,これらは栽培イネには存在しない生物・非生物ストレス耐性遺伝子が保有している可能性が高い(18)18) K. B. Gaikwad, N. Singh, P. Kaur, S. Rani, P. Babu H & K. Singh: Plant Breed., 140, 23 (2021)..野生イネ属を含むCWR遺伝資源のこうした特性を踏まえ,その多様性を効果的に作物育種に活用することへの関心が高まっている.しかし,実際の育種におけるCWRの活用には多くの障害が存在する.脱粒,種子休眠,日長応答性など作物栽培に適さない特性や,系統間で異なる最適な生育条件,生殖隔離などの不利な特性の発現機構を理解し制御することも,実際の利用には不可欠となる.近年,次世代シークエンシング(Next Generation Sequencing; NGS)技術の進展により,種内および種間の複数ゲノムを比較するパンゲノム解析が進み,CWRのゲノム多様性を定量的かつ定性的に比較することが可能となった(19~21)19) X. Huang, N. Kurata, X. Wei, Z. X. Wang, A. Wang, Q. Zhao, Y. Zhao, K. Liu, H. Lu, W. Li et al.: Nature, 490, 497 (2012).20) H. Wang, F. G. Vieira, J. E. Crawford, C. Chu & R. Nielsen: Genome Res., 27, 1029 (2017).21) Q. Zhao, Q. Feng, H. Lu, Y. Li, A. Wang, Q. Tian, Q. Zhan, Y. Lu, L. Zhang, T. Huang et al.: Nat. Genet., 50, 278 (2018)..本稿では,野生イネ属遺伝資源をモデルとしてゲノム情報と遺伝資源の特性を結びつける試みを紹介し,パンゲノム時代における野生イネをはじめとするCWR活用の今後の展望を紹介する.

野生イネ遺伝資源の保全における国立遺伝学研究所の役割

国立遺伝学研究所(遺伝研)で行われている野生イネ遺伝資源の収集・保存・提供事業は,文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)によって支援されている(22, 23)22) N. Kurata, H. Satoh, H. Kitano, Y. Nagato, T. Endo, K. Sato, R. Akashi, H. Ezura, M. Kusaba, M. Kobayashi et al.: Breed. Sci., 60, 461 (2010).23) Y. Sato, K. Tsuda, Y. Yamagata, H. Matsusaka, H. Kajiya-Kanegae, Y. Yoshida, A. Agata, K. N. Ta, S. Shimizu-Sato, T. Suzuki et al.: Breed. Sci., 71, 291 (2021)..NBRPは,バイオリソースの利用を促進するために2002年に開始され,2024年現在では,動物,植物,微生物,細胞やDNAなど33種類の生物資源が,大学や研究機関により管理され,おもに研究者に提供されている(https://nbrp.jp/en/resource-search-en/).野生イネ属の種数については文献や分類の考え方で変わってくるが,遺伝研は22種からなる野生イネ属のうちOryza schlechteri Pilgerを除く21種1,725系統を保有している(表1表1■国立遺伝学研究所の野生イネ属遺伝資源).遺伝研が保有する野生イネコレクションの情報は,イネに関する統合データベースOryzabase(https://shigen.nig.ac.jp/rice/oryzabase/)で公開されている(24, 25)24) N. Kurata & Y. Yamazaki: Plant Physiol., 140, 12 (2006).25) Y. Yamazaki, S. Sakaniwa, R. Tsuchiya, K. I. Nonomura & N. Kurata: Breed. Sci., 60, 544 (2010).

表1■国立遺伝学研究所の野生イネ属遺伝資源

これらの資源の多くは,1957年から1993年にかけて,遺伝研の元教授である岡彦一博士と森島啓子博士が,東南アジア,南アジア,アフリカ,ラテンアメリカ,オセアニアの35カ国で行った約16回の調査旅行によって収集された(表2表2■遺伝研野生イネ属遺伝資源の主な探索旅行の記録).これらの調査旅行の報告書には,遺伝資源の収集場所や生息地の状況に関する記述等が含まれており,今となっては貴重な記録である.調査旅行報告書は,Oryzabaseからダウンロード閲覧が可能である.

表2■遺伝研野生イネ属遺伝資源の主な探索旅行の記録

遺伝研では1957年以降に収集されたオリジナルの種子とそれに対応する種子袋(封筒),さらに各系統のパスポートデータを記録した古いノートを保管している(図1A図1■野生イネ保存系統の台帳).これらのパスポートデータの情報は文字情報がデジタル化され,Oryzabaseから公開されている.遺伝研の野生イネは岡博士と森島博士によるコレクション以外にも,個別の研究者や研究機関との共同研究を通じて追加された系統も多くある.特に1980年代には,遺伝研と国際稲研究所(International Rice Research Institute; IRRI)が互いに野生イネ資源の多くを互いに交換し同じ由来の野生イネ系統を重複して保存している.現在,IRRIには遺伝研由来の446系統が保管されており,遺伝研にはIRRI由来の72系統が保管されている.これらの系統はOryzabaseで二重のアクセッションIDを付与されており,遺伝研のOryzabaseだけでなくIRRI(GRIN-Global: https://gringlobal.irri.org/gringlobal/search)からも入手可能である.野生イネ遺伝資源を育種に活用した著名な成果の一つとして,IRRIによる耐虫性遺伝子の栽培イネへの導入がよく知られているが,この遺伝子はO. officinalis(IRGC100896/W0065)から得られたもので,W0065は,岡博士が1958年にタイで収集し,その後遺伝研からIRRIに移管された系統である(表2表2■遺伝研野生イネ属遺伝資源の主な探索旅行の記録図1B図1■野生イネ保存系統の台帳).

図1■野生イネ保存系統の台帳

A: 探索旅行後に整理した野生イネ系統を記録したオリジナルの台帳.B: 台帳にリストされた系統の詳細情報がノートにまとめられている.W0065は1958年にタイ北部の森の中で採取されたO. officinalisであることがわかる.

野生イネ遺伝資源の取り扱いと保存の取り組み

野生イネ系統の多くは低緯度地域が原産の短日植物である.多くの野生イネ系統は遺伝研の所在地である静岡県三島市(北緯35.1度)の夏季の自然日長では開花しない.このため,遺伝研ではタイマーで制御される大型の暗箱を用いて,夏季の水田で短日条件を再現している(図2図2■短日処理水田による野生イネの育成).これにより,花成誘導し種子増殖を行っている.日本のような中緯度地域で野生イネ属の域外保全(ex situ保存)を行うには,このような処理ができる設備が必要になる.

図2■短日処理水田による野生イネの育成

上段:コンクリー卜水田で野生イネを育成.中段:夏季に短日条件を作り出すため,巨大な暗箱がタイマーで水田脇のレール上を移動し,暗条件を作る.下段:短日処理による花成誘導後,穂を袋がけすることにより,他個体との交雑を防止し脱粒した種子の回収を可能にしている.

遺伝研では開花前に穂を袋で覆い自殖による種子を収集している.また,オリジナルストックから派生した複数の系統の種子を収穫し,収集時の遺伝的多様性を少しでも維持するように努めている.近年,ゲノム配列データの利用が高まるにつれ,ゲノム配列に紐づいた系統を実験に使用するニーズが高まっている.例えば,Huang et al.は,遺伝研の338系統を含む446系統のO. rufipogonのゲノムを解析し,栽培イネの起源について議論した(19)19) X. Huang, N. Kurata, X. Wei, Z. X. Wang, A. Wang, Q. Zhao, Y. Zhao, K. Liu, H. Lu, W. Li et al.: Nature, 490, 497 (2012)..これらの系統の種子はゲノム情報と紐づいた形でOryzabaseから注文が可能になっている.ゲノム情報とそれに対応した生物材料が同時に利用可能であることは,遺伝資源を育種および基礎科学研究に効果的に活用する上で重要である.ゲノム情報と紐づけた生物遺伝資源の利用が活発になるにつれ,リファレンスゲノムに対応する野生イネの標準系統の作成を検討する必要が出ている.一方で,このような研究の流れは,せっかく長年維持してきた系統内の遺伝的多様性を有効活用できないというジレンマもある.

遺伝研の野生イネには,多年生の性質が強いために自己受粉による種子をほとんど生産せず,栄養繁殖によって維持される系統が多く含まれている.これらの中には,遺伝研のスタッフの努力により,60年以上にわたり移植を繰り返して保存されている系統もある.これらの材料は,元の個体群のヘテロ接合性が推測可能で,またリファレンスゲノムの作成のためにも有効な貴重な材料である.

遺伝研の野生イネコレクションの利用

現在遺伝研の野生イネコレクションはNBRPの支援を受けて維持・提供されている.野生イネを含む遺伝資源のゲノムや表現型情報の取得と公開,データベース運営もNBRPにより支援されている.Oryzabaseからは,野生イネの種子,植物体,ゲノムDNAに加えて,変異体,実験系統など合計25,000を超えるリソースを利用可能である(図3図3■Oryzabaseトップページ).Oryzabaseでは,ゲノム情報および表現型情報に加えて,パスポートデータ,関連文献なども閲覧可能になっている.また,野生イネを研究に利用したいユーザーは,種子,植物体(国内配送のみ),ゲノムDNAをOryzabaseからオンライン注文することが可能である.注文後,ユーザーはMTAに関する手続きと支払いを行い,その後リソースが利用者に発送される.海外への配送の場合,輸入および植物検疫手続きが必要であり,一部の国では事前に輸入許可証が求められる場合がある.ごく稀であるが,輸出先国の植物検疫要件を満たすことが技術的に難しく,資源が発送できないこともかつて経験した.

図3■Oryzabaseトップページ

左カラムの全系統一覧もしくは,野生イネコアコレクションから,野生イネ系統の閲覧や系統リクエストを行うことができる.また,探索旅行記から調査旅行報告書がダウンロードできる.野生イネの採取地マップや野生イネゲノム情報も閲覧できる.

2018年から2022年の間に,野生イネ種子3,668系統,植物体143系統,DNA 192系統を提供してきた.そのうち,種子の511系統(13.9%)およびDNAの131系統(68.2%)は海外からのリクエストであった.種子リクエストの中では,O. rufipogon(40.7%)およびO. barthii(24.9%)が特に人気があるリソースであった.これら2種は,栽培種O. sativaおよびO. glaberrimaの直接の祖先であり,多くの研究者がCWRを育種や栽培化の理解に利用しようとしていることを示唆している.先にも触れたが,遺伝研では,O. rufipogonの多年生および一年生系統を保有している.これら二つの生態型は明確に分かれるわけではなく,中間的なものも存在する.多くの文献では,O. sativaの直接の祖先にあたる一年生の野生イネをO. nivaraとしているが,遺伝研では歴史的にO. nivaraという種名を使用せず,一年生の性質が強い系統も広義のO. rufipogonOryza rufipogon sensu lato)と一括りにしている(26, 27)26) R. Liu, X. M. Zheng, L. Zhou, H. F. Zhou & S. Ge: Mol. Ecol., 24, 5211 (2015).27) X. M. Zheng & S. Ge: Mol. Ecol., 19, 2439 (2010).

ここ数年でリクエストの多い系統は,W1514(O. punctata, 2倍体),W2104(O. australiensis),W1943(O. rufipogon),W0106(O. rufipogon),およびW1962(O. rufipogon)であった.特にW1962は,Taichung 65(O. sativa ssp. japonica)の遺伝的背景にW1962の染色体断片を含む染色体断片置換系統(Chromosomal Segment Substitution Lines; CSSL)が利用可能であることも,リクエストが多かった理由の一つだろうと想像される(28)28) Y. Yamagata, K. T. Win, Y. Miyazaki, C. Ogata, H. Yasui & A. Yoshimura: Breed. Sci., 69, 359 (2019)..野生イネと栽培イネのCSSLについては,O. glumaepatula, O. meridionalis, O. longistaminataもTaichung 65遺伝的背景で利用可能であり(29~31)29) T. Kurakazu, Sobrizal K. Ikeda, P. L. Sanchez, K. Doi, E. R. Angeles, G. S. Khush & A. Yoshimura: Rice Genet. Newsl., 18, 81 (2001).30) Sobrizal, K. Ikeda, P. L. Sanchez, K. Doi, E. R. Angeles, G. S. Khush & A. Yosimura: Rice Genet. Newsl., 16, 107 (1999).31) A. Yoshimura, H. Nagayama, Sobrizal, T. Kurakazu, P. L. Sanchez, K. Doi, Y. Yamagata & H. Yasui: Breed. Sci., 60, 597 (2010).,これらはすべてOryzabaseから注文可能になっている.

遺伝研の1,725系統の野生イネコレクションのうち,パスポートデータを基に選定された282系統が「コアコレクション」に指定されている.コアコレクションは,種,生息地の地理的分布,表現型および生態的特性などに基づいて選ばれた系統のセットである(32)32) K. I. Nonomura, H. Morishima, T. Miyabayashi, S. Yamaki, M. Eiguchi, T. Kubo & N. Kurata: Breed. Sci., 60, 502 (2010)..コアコレクションには,9つのゲノムタイプ(AA,BB,CC,BBCC,CCDD,EE,FF,GG,およびHHJJ)をカバーする18種が含まれ,3段階に分類されている.ランク1(44系統)は全18種をカバーする最小系統数のグループであり,野生イネ属全体を対象にした研究に適している.ランク2は,各種を代表する65系統を追加し,ランク3はさらなる多様性を探求する研究者向けに173系統が追加してある.個々の系統の解析というよりも野生イネ属の多様性に興味がありそれを理解しようとする研究者には,コアコレクションの利用が推奨される.野生イネ属のゲノム解読もコアコレクションの系統を中心に進められており,順次公開が予定されている.

遺伝研野生イネコレクションのゲノム配列情報の利用

現在,野生イネ種の遺伝情報(リファレンスゲノム配列を含む)はさまざまな公共データベースで公開されている.例えば,農業・食品産業技術総合研究機構(NARO)は,いくつかの野生イネ系統(O. rufipogon)のSNP(単一塩基多型)情報をTASUKE+で提供している(https://agrigenome.dna.affrc.go.jp/tasuke/ricegenomes/).筆者らが運用するOryzabaseには,高い遺伝的多様性を有する野生イネ種のゲノムデータを公開するオープンアクセスプラットフォームとして「OryzaGenome2.1」を実装している(http://viewer.shigen.info/oryzagenome21detail/index.xhtml)(33)33) H. Kajiya-Kanegae, H. Ohyanagi, T. Ebata, Y. Tanizawa, A. Onogi, Y. Sawada, M. Yokota-Hirai, Z. X. Wang, B. Han, A. Toyoda et al.: Rice (N. Y.), 14, 24 (2021)..このプラットフォームには19種の野生イネ属から得られた217系統のゲノム配列が含まれている.また,栽培イネ品種日本晴のリファレンスゲノム配列であるIRGSP1.0に対する33系統のO. rufipogon系統の深読みショートリードから得られたSNPとその遺伝子機能への影響予測を示すテーブルや,同じくIRGSP1.0と比較した446系統のO. rufipogonのSNPビューアも含まれている.これら446系統の配列データは,Huang et al.によるイネの初期栽培化モデル構築に利用されたゲノム情報に基づいている(19)19) X. Huang, N. Kurata, X. Wei, Z. X. Wang, A. Wang, Q. Zhao, Y. Zhao, K. Liu, H. Lu, W. Li et al.: Nature, 490, 497 (2012)..VCFファイル,PLINK形式の遺伝子型データ,およびその他の関連データは「Downloads」セクションで提供されており,これらはゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study; GWAS)にも使用可能になっている(34)34) K. N. Ta, S. Shimizu-Sato, A. Agata, Y. Yoshida, K. I. Taoka, H. Tsuji, T. Akagi, Y. Tanizawa, R. Sano, M. Nosaka-Takahashi et al.: Plant J., 115, 175 (2023).

現在筆者らが取得を進めている遺伝研野生イネ系統のショートリードゲノム配列情報も順次OryzaGenomeに追加される予定である.これらのショートリードデータは主にSNP検出に利用されることが想定されるが,その際に適切なリファレンス配列の選択が重要になる.IRGSP1.0は非常に精度の高く,信頼度も高いリファレンスゲノムアセンブリで,野生イネを含むイネゲノムのSNP抽出に頻繁に使われている.しかし,野生イネゲノムからのSNP等の情報取得にはいつでも有効ではない.リファレンス配列選択に関する詳細は次節で解説するが,これまでに,主要な公共データベースには21種類のイネ属のリファレンス配列が登録されており,12種をカバーしている.そのアセンブリの品質はコンティグからスキャフォルド,染色体までさまざまである.野生イネ属のリファレンス配列の作成は,国際イネ染色体地図アライメントプロジェクト(International Oryza Map Alignment Project; IOMAP)の枠組みの下で当初進められてきた.現在は,国際コンソーシアムレベルでの活動というよりは,個々の研究グループから登録されるリファレンス配列数が増加している(35)35) A. Fornasiero, T. Feng, N. Al-Bader, A. Alsantely, S. Mussurova, N. V. Hoang, G. Misra, Y. Zhou, L. Fabbian, N. Mohammed et al.: bioRxiv, 2024-05 (2024)..このため,アセンブル品質にはばらつきが生じている.現在,OryzaGenomeはOryzaリファレンス配列をアーカイブしていない.今後は,ランク1コアコレクションを中心に高精度リファレンス配列を構築し,多くの系統からのショートリードデータとともに公開する予定である.

Oryza rufipogonのSNP情報を用いたゲノムワイド関連解析

近年,GWASは表現型多様性をもたらす遺伝子を特定する手法として急速に普及した(36)36) H. Wang, X. Xu, F. G. Vieira, Y. Xiao, Z. Li, J. Wang, R. Nielsen & C. Chu: Mol. Plant, 9, 975 (2016)..GWASにより,集団中のSNP情報を用いて表現型と遺伝型の関連を解析し,交配集団を必要とせずに高解像度の遺伝子マッピング結果を得ることができる.一部の野生イネ種は生殖隔離の障壁のため栽培種と交配することが困難な場合があるため,GWASは注目する形質を支配するゲノム領域を検出するためのとても有用なツールである.

ショートリードシーケンシングのコスト低下により,大規模集団を用いたGWAS解析が可能になった.これまでにO. rufipogonを用いたいくつかのGWAS解析が報告されている.Malik et al.は,346系統のO. rufipogon系統を用いて植物の高さ,茎の太さ,穂長,穂の一次枝の数,種子の粒長,粒幅,100粒重を解析し,既報のQTLや遺伝子領域近傍にある19個のSNPと,新規に27個のSNPを検出した.(37)37) P. Malik, M. Huang, K. Neelam, D. Bhatia, R. Kaur, B. Yadav, J. Singh, C. Sneller & K. Singh: Rice, 15, 37 (2022). Aggarwal et al.は405系統のO. rufipogon系統を用いて紋枯病抵抗性を解析し,22箇所の関連するゲノム領域を特定した(38)38) S. K. Aggarwal, P. Malik, K. Neelam, K. Kumar, R. Kaur, J. S. Lore & K. Singh: Euphytica, 218, 144 (2022)..そのうち7箇所は既報の紋枯病抵抗性遺伝子やQTLと重なっていた.Ta et al.は,Huang et al.が提唱したサブグループOr-I,Or-II,Or-IIIを含む338系統のO. rufipogon系統を用いて種子サイズを解析し,41箇所のQTLが種子の表現型多様性に寄与することを発見した(19, 34)19) X. Huang, N. Kurata, X. Wei, Z. X. Wang, A. Wang, Q. Zhao, Y. Zhao, K. Liu, H. Lu, W. Li et al.: Nature, 490, 497 (2012).34) K. N. Ta, S. Shimizu-Sato, A. Agata, Y. Yoshida, K. I. Taoka, H. Tsuji, T. Akagi, Y. Tanizawa, R. Sano, M. Nosaka-Takahashi et al.: Plant J., 115, 175 (2023)..また,種子サイズと種子数に相反する影響を与えるFT-like 9(FTL9)をエンコードするqGWT1を特定し,FTL9の機能喪失型ハプロタイプがOr-IIIグループおよびジャポニカ型の栽培種に広く見られることを示すとともに,種子の大型化が種子数を犠牲にしてイネの初期栽培化の過程で選択された可能性を示唆した.O. rufipogonを用いたGWASは,野生遺伝資源にみられる表現型多様性を調節する分子メカニズムを明らかにするだけでなく,野生種から栽培化を経て栽培種に受け継がれたハプロタイプの選択過程を解明する上で重要な知見を提供しうる.

しかし,O. rufipogonを用いたGWASにはいくつかの注意すべきポイントがある.O. sativaに比べてO. rufipogonの配列多様性は大きく,IRGSP1.0を利用してSNPの検出を行った場合,そもそもIRGSP1.0に存在しない配列の多型は回収できていない.また,O. sativaのゲノム中のパラロガス遺伝子等の相同配列が原因でショートリード配列データの誤ったマッピングが発生し,過剰なヘテロ接合型の変異検出を引き起こす可能性がある.

例えば日本晴のショートリードデータを,Tyrosine aminomutase 1(TAM1)のコード領域を欠失させた改変日本晴ゲノム配列にマッピングすると,ヘテロ接合型変異の数は48,207から48,272に増加し,ホモ接合型変異の数はほとんど変化しない.この追加されたヘテロ接合型変異のうち65件中56件(86.2%)は,TAM1に最も近い相同遺伝子であるPhenylalanine ammonia-lyase 8PAL8)に集中していた(39)39) J. Yan, T. Aboshi, M. Teraishi, S. R. Strickler, J. E. Spindel, C. W. Tung, R. Takata, F. Matsumoto, Y. Maesaka, S. R. McCouch et al.: Plant Cell, 27, 1265 (2015)..つまりこれは,本来はTAM1領域にマッピングされる配列がTAM1を除去したことによりPAL8にマッピングされた結果,ヘテロ接合型変異が多く検出されてしまったと考えられる.今回はテストケースで人為的に配列相同性の高い遺伝子を除去しているが,自然界でもこのような遺伝子の獲得や喪失はおそらく頻繁に生じており,どのリファレンス配列を使うのが適切かをよく検討すること,ならびに,ショートリードデータのマッピング結果については,ヘテロ型の取り扱いは十分に注意すべきである.

栽培イネにおける多型検出の場合,リードデプスが不自然に高いなど不確実性のあるヘテロ接合型遺伝子型を除外することで上記の問題を大幅に軽減できるが,野生イネの場合,遺伝的固定度は栽培種よりも低いため,多系統比較の際にヘテロ接合型遺伝子型を含むマーカーを除外すると使えるマーカー数が大幅に減少し,解析の解像度が低下する.この問題に対処するために,ヘテロ接合型遺伝子型を欠失値に置き換え,マイナーアリル頻度や変異コール率を基にフィルタリングを行うことで,マーカー数の低下を抑えることができる.このようなフィルタリングにより,いくつかのケースでGWAS結果を大幅に改善させることが可能である.一方で,ショートリードデータをIRGSP1.0にマッピングするにはやはり限界があるため,今後はO. rufipogonパンゲノムを作成しそれにリマッピングすることになるだろう.

ポストパンゲノム時代における野生イネ資源の育種利用の展望

野生イネ属は,その形質の特徴から主にO. sativaコンプレックス,O. officinalisコンプレックス,O. meyerianaおよびO. ridleyiコンプレックスの3つに分類される(表1表1■国立遺伝学研究所の野生イネ属遺伝資源(40, 41)40) K. K. Jena: Breed. Sci., 60, 518 (2010).41) H. Morishima & H. I. Oka: Evolution, 14, 153 (1960).O. sativaコンプレックスには栽培種に最も近縁なAAゲノムを持つ野生種が含まれており,基本的に栽培種との交雑が可能なため,野生種から栽培種への遺伝子の導入が可能である.一方,O. officinalisコンプレックスはBB, CC, BBCC, CCDD, EEゲノムをカバーし,O. meyerianaおよびO. ridleyiコンプレックスはGG, HHJJゲノムを含む.これらは,栽培種との交雑が不可能であり,野生種由来の遺伝子を交配により栽培種に導入することは困難である.そのため,栽培種に近縁な野生種と遠縁な野生種では,イネ遺伝資源の利用方法が異なる.

栽培種に近縁な野生種の場合,有用な遺伝子を栽培種と交配することで導入することが可能で,これまでに,O. rufipogon由来の収量関連形質,粒品質形質,アルミニウム耐性,および稲草矮化病ウイルス耐性がインディカ栽培種に導入された実績がある(42~46)42) D. S. Brar & G. S. Khush: “Alien introgression in rice. Oryza: from molecule to plant”, Springer Press, 1997, p. 35.43) B. D. Nguyen, D. S. Brar, B. C. Bui, T. V. Nguyen, L. N. Pham & H. T. Nguyen: Theor. Appl. Genet., 106, 583 (2003).44) E. M. Septiningsih, J. Prasetiyono, E. Lubis, T. H. Tai, T. Tjubaryat, S. Moeljopawiro & S. R. McCouch: Theor. Appl. Genet., 107, 1419 (2003).45) E. M. Septiningsih, K. R. Trijatmiko, S. Moeljopawiro & S. R. McCouch: Theor. Appl. Genet., 107, 1433 (2003).46) J. Xiao, S. Grandillo, S. N. Ahn, S. R. McCouch, S. D. Tanksley, J. Li & L. Yuan: Nature, 384, 223 (1996)..また,O. rufipogon由来の遺伝子がO. sativaの耐塩性を向上させる可能性も示唆されている(47)47) R. Quan, J. Wang, J. Hui, H. Bai, X. Lyu, Y. Zhu, H. Zhang, Z. Zhang, S. Li & R. Huang: Front. Plant Sci., 8, 2269 (2018)..栽培イネでは,同質四倍体は稔実が低く直接栽培に利用することは難しいが,同じAAゲノムを持つが,遺伝的に距離の離れた系統を用いて作成する4倍体(ネオテトラプロイド:AAA’A’)の利用は稔実の向上が見られ,近縁な野生種の多くの有用な遺伝子を育種に活用するための潜在的手段と期待できる(48)48) Y. Koide, D. Kuniyoshi & Y. Kishima: Front. Plant Sci., 11, 1231 (2020).

遠縁野生イネは,ウンカなどの耐虫性,病害抵抗性,耐塩性などの貴重な特性を有している(42, 49, 50)42) D. S. Brar & G. S. Khush: “Alien introgression in rice. Oryza: from molecule to plant”, Springer Press, 1997, p. 35.49) S. Ge, T. Sang, B. R. Lu & D. Y. Hong: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 14400 (1999).50) G. S. Khush: Plant Mol. Biol., 35, 25 (1997)..しかし,遠縁の野生種を育種に利用するための大きな障壁を克服する必要がある.異種交雑後の子房から発達中の胚を回収して培地で生育させるエンブリオレスキューにより異種染色体付加系統(MAAL)を開発することで,遠縁の野生種の遺伝子を栽培種に移行することが可能であることが示されている(40, 51, 52,)40) K. K. Jena: Breed. Sci., 60, 518 (2010).51) K. K. Jena & G. S. Khush: Genome, 32, 449 (1989).52) K. K. Jena & G. S. Khush: Theor. Appl. Genet., 80, 737 (1990)..この方法により,O. officinalis, O. minuta,およびO. australiensis由来のウンカ耐性およびいもち耐性が栽培種に導入された実績がある(53, 54)53) A. Amante-Bordeos, L. A. Sitch, R. Nelson, R. D. Dalmacio, N. P. Oliva, H. Aswidinnoor & H. Leung: Theor. Appl. Genet., 84, 345 (1992).54) D. S. Multani, K. K. Jena, D. S. Brar, B. G. de Los Reyes, E. R. Angeles & G. S. Khush: Theor. Appl. Genet., 88, 102 (1994)..それでも,イネ属全体の多様性は活用するには不十分である.

ネオドメスティケーションは,ゲノム編集などにより栽培化形質を新たに野生遺伝資源に付与することで新たな栽培系統を作り出す試みであり,遠縁の野生イネ属を作物として利用する現実的な方法の一つである.これは,既存の野生資源を対象に,野生種を栽培化した際の過程をゲノム編集により再現し,あらたに栽培化を進める試みである.近年,ゲノム編集技術が普及したことに加えて,人為選択による栽培化を可能にした重要な特性を調節する「栽培化遺伝子」に関する情報が多く蓄積されたことにより,ネオドメスティケーションが実現可能なアプローチとして着目されている.パンゲノム解析の成果の一つは,このような栽培化に関わる遺伝子情報を包括的に取得できる点にある.これまでにO. alta(CCDD)のネオドメスティケーションの試みが報告されている(55)55) H. Yu, T. Lin, X. Meng, H. Du, J. Zhang, G. Liu, M. Chen, Y. Jing, L. Kou, X. Li et al.: Cell, 184, 1156 (2021)..さらに,ネオドメスティケーションの可能性を広げる試みも進められており,「IOMAP: the Americas」プロジェクトでは,アメリカ大陸に固有の野生イネ種集団の遺伝的多様性,集団構造,遺伝子流動などが解析可能なゲノム情報の提供を目指している(56)56) A. Alsantely, R. Gutaker, M. E. Navarrete Rodríguez, G. Arrieta-Espinoza, E. J. Fuchs, A. Costa de Oliveira, J. Tohme, A. Zuccolo, R. A. Wing & A. Fornasiero: J. Exp. Bot., 74, 1331 (2023).

今後の課題は,ゲノム編集技術を幅広い野生イネ種に適用する方法を確立する点にある.私たちは,広範な野生イネ遺伝資源を用いた,遺伝子導入およびゲノム編集の実験システムを構築している.すでに複数の近縁および遠縁野生イネの遺伝子導入とゲノム編集を実現している(57)57) S. Shimizu-Sato, K. Tsuda, M. Nosaka-Takahashi, T. Suzuki, S. Ono, K. N. Ta, Y. Yoshida, K. I. Nonomura & Y. Sato: Rice, 13, 1 (2020)..一方で,これまでの取り組みにもかかわらず,遺伝子導入やゲノム編集が成功していない野生イネ系統も多数存在しており,この技術的な問題の解決が待たれる.

野生イネ遺伝資源の有効利用への課題

野生イネ属の多様性は栽培種より広範であるという点は正解だが,野生系統が常にストレス耐性などで栽培種より優れているというのは誤解である.個々の野生系統の特性を適切に理解することが必要である.野生イネ遺伝資源を育種に積極的に活用するために最も重要な点は,この理解を深めることである.この点はパンゲノム時代においても野生イネ遺伝資源の有効利用に立ちはだかる課題である.利益のある特性はもちろん,不利な特性も理解することが求められる.人間による利用を妨げる要因を最小限に抑えながら,有用な部分を活用する方法を工夫する必要がある.

近年急速に進展しているゲノム情報およびパンゲノム解析は,野生種の特性を予測し,その制御に大いに役立つだろう.しかし最終的には,ゲノム情報やパンゲノム解析を活用しつつも,個々の系統の生物学的特性を深く理解することが不可欠である.このような理解があってこそ,野生イネ遺伝資源を育種に活用することが可能となる.私たちの野生イネ遺伝資源の保存配布事業を通じて多くの研究者が実際の遺伝資源に触れ,興味のある特性を自ら観察することを願っている.

野生イネの特性を制御するには,それらの発現メカニズムを理解する必要がある.野生植物に特有の性質を支える分子基盤は,栽培種やモデル生物を使用して解明することが困難であるため,野生種自体を実験材料として直接使用する必要がある.この場合,各系統の特性に合わせた基本的な実験インフラを用いて,野生種から着目する形質の発現に関連する遺伝子を同定し,遺伝子導入実験を通じて機能を検証する方法を開発する必要がある.また,ネオドメスティケーションは,栽培種の特性を野生種に付与するという点で,従来の育種とは逆の発想である.一方,このアプローチと並行して,さまざまな方法で生殖隔離を克服し,多様な野生種の優れた特性を栽培種に導入するアプローチもその重要度は変わらない.栽培種と遠縁な野生種の間で異種間交雑を作り出すことは,パンゲノム時代における野生イネ遺伝資源の効果的な利用に向けた鍵となる.

結論

私たちは,遺伝研の野生イネ遺伝資源の維持管理を担当しているが,材料の特性を少しでも知るにつれ,野生イネ遺伝資源の大部分を収集した岡彦一博士と森島啓子博士の先見に驚嘆するとともに先人たちの努力に深く感謝している.これらの資源の研究とゲノム解析は,野生植物の生存戦略の理解とイネ育種に大きな恩恵をもたらすと信じている.これらすべての資源のゲノムが解析されれば,イネ属の進化や環境適応のメカニズムに関する理解が進むと期待される.野生イネ遺伝資源の育種への利用は,長年にわたる大きな課題である.しかし,現在ではそれらを活用するための技術が整いつつある.ネオドメスティケーションが可能であることが示されている.また,今後生殖隔離を克服することができれば,育種における野生イネ遺伝資源の体系的な活用が可能になる.これらの貴重な資源を私たちに残してくださった岡博士と森島博士,そしてこれまでの野生イネの維持に関与した多くの方々に感謝と敬意を表する.

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