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細胞外まで伸展する電子伝達系の立体構造
電気活性微生物の電流生成メカニズム

Atsushi Kouzuma

高妻 篤史

東洋大学生命科学部生物資源学科

Published: 2025-05-01

微生物のなかには,細胞膜を貫く電子伝達系を用いて,細胞の外にある固体(鉱物や電極)と電子のやり取りを行うものがいる.このような微生物は電気活性微生物(electroactive microorganisms; EAM)とよばれ,化学エネルギーと電気エネルギーを相互に変換する触媒として,さまざまな有用技術への利用が期待されている(1)1) A. Kouzuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 85, 1572 (2021)..EAMと電極との相互作用はShewanella属やGeobacter属の細菌においてよく研究され,これらの細菌は細胞表面からナノワイヤーとよばれる導電性の構造体を伸長することが知られている.近年,これらのナノワイヤーを含むEAMの導電経路(細胞外電子伝達系)に関する構造解析が進み,微生物が電流を産み出すメカニズムが分子レベルで明らかになってきた.

電子伝達は生物のエネルギー代謝の根幹である.細胞は絶縁体の細胞膜や細胞壁に包まれているため,多くの生物は細胞内に電子供与体と電子受容体を取り込み,それらの物質間で電子を移動させることでエネルギーを獲得する.一方,EAMは,細胞の外まで伸びる電子伝達系(細胞外電子伝達系)をもっており,これにより細胞内に取り込むことが不可能な固体(自然環境中では酸化鉄や酸化マンガンなどの鉱物)とも電子のやり取りを行うことができる.細胞外電子伝達系の構成因子は菌種によって異なるが,ShewanellaGeobacterでは,導電性タンパク質であるシトクロムcが主要な役割を担う.これらの細菌はグラム陰性菌であり,二重の細胞膜(内膜と外膜)をもつが,シトクロムcがこれらの膜やその間のペリプラズム空間に適切に配置されることで,電子供与体(有機物など)の酸化に伴って内膜呼吸鎖(キノンプール)に移動した電子が細胞外の電子受容体まで伝達されるようになる.ペリプラズムまでの電子伝達経路は,例えば大腸菌の硝酸呼吸経路のように,EAMではない微生物にも存在する場合がある.一方,これらのEAMではシトクロムc複合体が細胞外膜を貫通するように局在しており,この特徴的な導電性構造体を介して電子が細胞外へと伝達される.

細胞外膜に局在するシトクロム複合体の立体構造については,2020年にイギリスの研究グループがShewanellaのMtr複合体の結晶構造を報告している(図1A図1■ShewanellaGeobacterが産生する細胞外シトクロム複合体の構造(2)2) M. J. Edwards, G. F. White, J. N. Butt, D. J. Richardson & T. A. Clarke: Cell, 181, 665 (2020)..Mtr複合体は,デカヘム(10個のヘムを含む)シトクロムcであるMtrCおよびMtrAと,外膜ポリン様タンパク質であるMtrBから構成される.構造解析の結果,MtrBは筒状の構造をとり,その内部にMtrAがぴったりとはまり込むことが明らかになった.MtrCはMtrAの先端と相互作用し,細胞表面に露出するように配置される.この複合体内では,MtrAとMtrCに含まれる合計20個のヘムが,効率的な電子伝達が可能とされる8 Å以内の間隔を保ちながら整列し,膜の内側と外側をつなぐ導電経路を形成している.一見しただけでその機能が想起される,機能美を感じさせる構造のように思われる.Alphafoldの登場以降,他の微生物にも類似の構造をもつシトクロムc複合体が存在することが明らかになってきているが,それらのなかにはMtrCに相当するタンパク質がないものもある.MtrAの先端にあるヘムが膜表面に少し露出していることもふまえると,MtrA-MtrB複合体のようなシトクロムcと筒状膜タンパク質のセットが,膜貫通型導電性タンパク質の基本コンポーネントなのだろう.これに加えてMtrCがあると,Z型に配置されたヘムが細胞表面に突き出し,固体電子受容体との接触機会が増えて,細胞外電子伝達が促進されると考えられる.また,MtrCはShewanellaが自身で産生する電子シャトル物質であるフラビンと相互作用し,電子伝達を効率化する役割を果たすことも知られている(3)3) A. Okamoto, K. Hashimoto, K. H. Nealson & R. Nakamura: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 7856 (2013).

図1■ShewanellaGeobacterが産生する細胞外シトクロム複合体の構造

(A, B) ShewanellaのMtrCAB複合体の立体構造(A)と外膜伸長によるワイヤー形成(B).(C, D)GeobacterのOmcE(8量体)の立体構造(C)とECN形成(D).タンパク質の構造データはPDBから取得し(MtrCAB: 6R2Q, OmcE: 7TFS),ChimeraXを用いて描画した.シトクロム内のヘムを赤色で示す.

冒頭でも触れたように,ShewanellaGeobacterなどのEAMのなかには,細胞表面から導電性のワイヤー状構造体(ナノワイヤー)を伸ばすものがいる.ナノワイヤーの存在は,EAMが自ら導線を産生して長距離電子伝達を行っていることを示唆しており,その新奇性は多くの研究者の興味を惹きつけてきた.ナノワイヤーの構成因子については長年議論が続いていたが,現在では,Shewanellaが産生するナノワイヤーは外膜が伸長したものであることがわかっている(図1B図1■ShewanellaGeobacterが産生する細胞外シトクロム複合体の構造(4)4) S. Pirbadian, S. E. Barchinger, K. M. Leung, H. S. Byun, Y. Jangir, R. A. Bouhenni, S. B. Reed, M. F. Romine, D. A. Saffarini, L. Shi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 12883 (2014)..外膜には多数のMtr複合体が含まれるため,それらを介して連続的に電子が伝達されるモデルが提唱されている.一方,当初は筆者もにわかには信じがたかったが,Geobacterが産生するナノワイヤーはシトクロム自体の重合体であることが,近年のクライオ電子顕微鏡解析により明らかになってきた(図1CおよびD図1■ShewanellaGeobacterが産生する細胞外シトクロム複合体の構造(5)5) F. Wang, Y. Gu, J. P. O’Brien, S. M. Yi, S. E. Yalcin, V. Srikanth, C. Shen, D. Vu, N. L. Ing, A. I. Hochbaum et al.: Cell, 177, 361 (2019)..このようなナノワイヤーはECN(extracellular cytochrome nanowireの略)とよばれ,重合体内部に整然と配置されたヘムを介して電子が伝達されていくと考えられている.GeobacterのECNを構成するシトクロムc(OmcSやOmcEなど)は,従来のモデルではShewanellaのMtrCのように外膜表面に局在する,もしくは線毛に付着して導電性をもたらすといわれていたが,それ自体が重合し,鞭毛や線毛のように伸びていくとは驚きであった.これらのECNが細胞内部とどのように接続するのかはまだよくわかっていないが,ShewanellaのMtrBのような筒状タンパク質がECN遺伝子(omcE)の近傍にもコードされており,ECNの一部がその穴に埋め込まれるように配置されることが,Alphafold 3によって予測されている.

最近,Geobacterのようなバクテリアだけではなく,アーキアにもECNをもつものが存在することが明らかになってきた.例えば,深海熱水噴出孔に生息する超好熱性アーキアArchaeoglobus veneficusが産生するワイヤー状構造体が,4ヘムシトクロムの重合体であることが示されている(6)6) D. P. Baquero, V. Cvirkaite-Krupovic, S. S. Hu, J. L. Fields, X. Liu, C. Rensing, E. H. Egelman, M. Krupovic & F. Wang: Cell, 186, 2853 (2023).A. veneficusのECN遺伝子(AvECN)のホモログは,MethanosarcinalesSyntrophoarchaealesなどの他のアーキアにも保存されており,ECNが原核生物に広く分布する長距離電子伝達メカニズムであることが示唆されている.これらの発見は,シトクロムを介した細胞外物質との電子授受が生命の初期に確立されたエネルギー代謝システムであり,今日の生態系においても依然として重要な役割を果たしている可能性を支持するものである.今後,ECNの電気化学特性や生理機能の解明が進むことで,生物の電子伝達系の多様性と進化的普遍性に関する理解が深化するだけでなく,EAMを活用した新たなエネルギー変換技術の開発が加速することが期待される.

Reference

1) A. Kouzuma: Biosci. Biotechnol. Biochem., 85, 1572 (2021).

2) M. J. Edwards, G. F. White, J. N. Butt, D. J. Richardson & T. A. Clarke: Cell, 181, 665 (2020).

3) A. Okamoto, K. Hashimoto, K. H. Nealson & R. Nakamura: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 7856 (2013).

4) S. Pirbadian, S. E. Barchinger, K. M. Leung, H. S. Byun, Y. Jangir, R. A. Bouhenni, S. B. Reed, M. F. Romine, D. A. Saffarini, L. Shi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 12883 (2014).

5) F. Wang, Y. Gu, J. P. O’Brien, S. M. Yi, S. E. Yalcin, V. Srikanth, C. Shen, D. Vu, N. L. Ing, A. I. Hochbaum et al.: Cell, 177, 361 (2019).

6) D. P. Baquero, V. Cvirkaite-Krupovic, S. S. Hu, J. L. Fields, X. Liu, C. Rensing, E. H. Egelman, M. Krupovic & F. Wang: Cell, 186, 2853 (2023).