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ミラーイメージの銅活性中心をもつ非ヘム人工金属酵素
化学修飾によるマイケル付加反応のエナンチオ選択性の制御

Yoshitsugu Morita

森田 能次

大阪公立大学大学院農学研究科生命機能化学専攻

Published: 2025-05-01

不斉触媒の開発は,医薬品や天然物の合成において重要な光学活性化合物の調製方法として最もよく用いられる手法の一つである.人工金属酵素は,金属錯体とタンパク質を組み合わせた人工の生体触媒であり,タンパク質のキラルな内部空間を利用することで,立体選択的な反応を触媒することができる.また,ランダム変異導入や部位特異的飽和変異導入を用いた指向性進化法の発展により,効率的に選択性の高い人工金属酵素を構築することも可能になりつつある.Garcia-Borràsらは,分子動力学シミュレーションと部位飽和変異導入を組み合わせて,カルベンのN-H挿入反応におけるエナンチオ選択性が反転した人工金属酵素を開発した(図1A図1■人工金属酵素による立体選択性制御(1)1) C. Calvó-Tusell, Z. Liu, K. Chen, F. H. Arnold & M. Garcia-Borràs: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 62, e202303879 (2023)..一方,Bakerらは,De novoヘムタンパク質を調製し,スチレンのシクロプロパン化反応における遷移状態を基にヘムポケットを再設計することで,エナンチオ選択性の制御に成功した(図1A図1■人工金属酵素による立体選択性制御(2)2) I. Kalvet, M. Ortmayer, J. Zhao, R. Crawshaw, N. M. Ennist, C. Levy, A. Roy, A. P. Green & D. Baker: J. Am. Chem. Soc., 145, 14307 (2023)..もう一つのエナンチオ選択性を反転させる合理的な戦略として,ミラーイメージの触媒の開発が挙げられる.小分子触媒であれば,エナンチオマーの触媒を合成することで,エナンチオ選択性を反転させることができる.例えば,L-アミノ酸からなるペプチド銅触媒と比較して,D-アミノ酸からなる同じ配列のペプチド銅触媒は,マイケル付加反応において反転したエナンチオ選択性を示すことが報告された(3)3) N. Fujieda, A. Tonomura, T. Mochizuki & S. Itoh: RSC Adv., 14, 206 (2024)..ごく最近,自動高速フローペプチド合成を利用した枯草菌由来のミオグロビン(BsMb)の全合成が行われ,L-アミノ酸からなるL-BsMbおよびミラーイメージのD-アミノ酸からなるD-BsMb変異体を触媒として用いることで,スチレンのシクロプロパン化反応におけるエナンチオ選択性の制御が達成された(4)4) G. Fittolani, D. A. Kutateladze, A. Loas, S. L. Buchwald & B. L. Pentelute: J. Am. Chem. Soc., 147, 4188 (2025)..それぞれの生成物は同一の収率であり,反対のエナンチオマー選択性であった.しかし,D-アミノ酸で構成される蛋白質や酵素の合成は依然として挑戦的な課題である.そこで,本稿では安定なタンパク質骨格を利用したミラーイメージの銅活性中心を有する人工金属酵素の構築について紹介する(5)5) Y. Morita, H. Kubo, R. Matsumoto & N. Fujieda: J. Inorg. Biochem., 260, 112694 (2024).

図1■人工金属酵素による立体選択性制御

(A)先行研究におけるN-H挿入反応1)1) C. Calvó-Tusell, Z. Liu, K. Chen, F. H. Arnold & M. Garcia-Borràs: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 62, e202303879 (2023). およびシクロプロパン化反応2)2) I. Kalvet, M. Ortmayer, J. Zhao, R. Crawshaw, N. M. Ennist, C. Levy, A. Roy, A. P. Green & D. Baker: J. Am. Chem. Soc., 145, 14307 (2023)..(B) Cu-TM1459変異体とミラーイメージの銅活性中心の構造.(C)ニトロメタンのアザカルコンへのマイケル付加反応.(D)化学修飾反応と変異導入によるエナンチオ選択性(ee)の制御.

超好熱菌Thermotoga maritima由来の安定なホモ二量体のタンパク質(TM1459)は,cupinスーパーファミリーに属し,4個のヒスチジン残基からなる4-Hisテトラド金属結合モチーフを有している.この金属中心は様々な金属に置き換えることができ,人工金属酵素の優れたタンパク質足場となる.藤枝らは,オスミウムイオンが結合したTM1459(Os-TM1459)を調製し,Os-TM1459がアルケンのcis-ジヒドロキシル化反応を効率的に触媒することを明らかにした(6)6) N. Fujieda, T. Nakano, Y. Taniguchi, H. Ichihashi, H. Sugimoto, Y. Morimoto, Y. Nishikawa, G. Kurisu & S. Itoh: J. Am. Chem. Soc., 139, 5149 (2017)..また,TM1459の金属結合モチーフである4個のヒスチジンうち1個をアラニンに置換した3-Hisトライアド金属結合モチーフを有する変異体(H52A)が調製された(7)7) N. Fujieda, H. Ichihashi, M. Yuasa, Y. Nishikawa, G. Kurisu & S. Itoh: Angew. Chem. Int. Ed., 59, 7717 (2020)..銅イオンが結合したH52A変異体(Cu-H52A)は,ニトロメタンのα,β-不飽和ケトンであるアザカルコンへのマイケル付加反応を触媒し,S-エナンチオ選択性を示す(図1図1■人工金属酵素による立体選択性制御).Cu-H52Aの結晶構造を見ると,His54, His58, His92の3個のヒスチジンが銅中心に配位し,His54のトランス位の側には疎水性ポケットがある(PDB ID: 6L2E).提案された反応機構では,ニトロメタンがCu-H52Aに結合したアザカルコンのSi面を優先して攻撃するため,S-選択性を示す.つまり,H52Aの金属結合部位に対して,ミラーイメージの活性中心を構築することで,エナンチオ選択性を反転させることができると考えた.このような配位構造を構築するには,His54のトランス位の側から銅中心に配位するヒスチジンを導入する必要があるが,該当する位置にアミノ酸残基がないため,通常の天然アミノ酸置換では目的の活性中心を構築することができない.そこで,4,4′-ジチオピリジン(4-PDS)による化学修飾を介する新たな配位構造を設計した(図1B図1■人工金属酵素による立体選択性制御).4-PDSは,チオール基分析で広く使用される化合物であり,還元型システインと選択的に反応してジスルフィド結合を形成し,S-(ピリジン-4-イルチオ)システイン(Cys-4py)を生成する.Cys-4pyの配位性のN原子とCα原子間の距離は8.2 Åであり,ヒスチジンの場合よりも長く(4.5 Å),目的の配位構造を構築するのに適している.

TM1459はシステイン残基(Cys106)を有しているため,4-PDSとの副反応を避けるため,他のアミノ酸に置換する必要がある.先行研究において,H52A/C106X変異体(X=A, S, D, N)の中では,H52A/C106Dがマイケル付加反応において最も高い収率とS-エナンチオ選択性を示すことが報告されている(7)7) N. Fujieda, H. Ichihashi, M. Yuasa, Y. Nishikawa, G. Kurisu & S. Itoh: Angew. Chem. Int. Ed., 59, 7717 (2020)..そのため,H52A/C106D変異体を基に,活性中心近傍のアミノ酸をシステインに置換し,その後4-PDS修飾を行った.修飾するアミノ酸残基として,銅中心とCα原子間の距離が8.3~13.4 Åの範囲内のIle14,Lys18,Lys24,Ile49を選択し,それぞれをシステインに置換した変異体を調製した.得られたタンパク質と5当量の4-PDSを反応させ,未反応の修飾剤をゲルろ過カラムで除去し,ESI-MSにより化学修飾された変異体の同定を行った.得られた変異体に1当量の硫酸銅を添加し,マイケル付加反応を実施した(図1C図1■人工金属酵素による立体選択性制御).これらの変異体の中では,Cys49に化学修飾したI49C-4py/H52A/C106Dが最も高いR-エナンチオ選択性を示した(ee=71% (R)).4-PDSを用いた化学修飾によりエナンチオ選択性が反転することを見出した.

次に,H52Aに対してミラーイメージの活性中心を構築するため,化学修飾で導入したピリジル基のトランス位のHis54をアラニンに置換したI49C-4py/H52A/H54A/C106Dを調製した(図1B図1■人工金属酵素による立体選択性制御).このH54A変異導入により,R-エナンチオ選択性は88% eeまで向上した(図1D図1■人工金属酵素による立体選択性制御).目的の配位構造であるかを確認するために,Cu-I49C-4py/H52A/H54A/C106DのX線結晶構造解析を行った(PDB ID: 8ZYH).活性中心を見ると,His58, His92,化学修飾したピリジル基が銅中心に配位したミラーイメージの構造であることが明らかとなった.以上のように,化学修飾を用いることで,設計した配位構造を構築することができ,望みの選択性を示すことが実証された.化学修飾に基づく本システムは,人工金属酵素が触媒するさまざまな反応への応用が期待される.

Reference

1) C. Calvó-Tusell, Z. Liu, K. Chen, F. H. Arnold & M. Garcia-Borràs: Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 62, e202303879 (2023).

2) I. Kalvet, M. Ortmayer, J. Zhao, R. Crawshaw, N. M. Ennist, C. Levy, A. Roy, A. P. Green & D. Baker: J. Am. Chem. Soc., 145, 14307 (2023).

3) N. Fujieda, A. Tonomura, T. Mochizuki & S. Itoh: RSC Adv., 14, 206 (2024).

4) G. Fittolani, D. A. Kutateladze, A. Loas, S. L. Buchwald & B. L. Pentelute: J. Am. Chem. Soc., 147, 4188 (2025).

5) Y. Morita, H. Kubo, R. Matsumoto & N. Fujieda: J. Inorg. Biochem., 260, 112694 (2024).

6) N. Fujieda, T. Nakano, Y. Taniguchi, H. Ichihashi, H. Sugimoto, Y. Morimoto, Y. Nishikawa, G. Kurisu & S. Itoh: J. Am. Chem. Soc., 139, 5149 (2017).

7) N. Fujieda, H. Ichihashi, M. Yuasa, Y. Nishikawa, G. Kurisu & S. Itoh: Angew. Chem. Int. Ed., 59, 7717 (2020).