Kagaku to Seibutsu 63(5): 211-217 (2025)
解説
ジベレリン起源物質の生合成と代謝
植物の成長制御能力の進化
Biosynthesis and Metabolism of Ancestral Gibberellin: Evolution of Ability to Control Plant Growth
Published: 2025-05-01
植物ホルモンは植物の成長や発生を制御する重要な因子である.水中から陸上へと進出した植物は大きく異なる環境への適応を迫られた.この適応過程において,成長制御物質(植物ホルモン)は環境応答を制御する重要な因子として働いてきたと推察される.植物ホルモンの一つであるジベレリンは,顕花植物の発芽や伸長成長等の成長に重要な役割を果たすことが広く知られている.しかし,一部のコケ植物においては典型的なジベレリンは検出されず,その代わりにジベレリンの生合成中間体からジベレリンとは異なる成長制御物質を生産していることが明らかとなった.本稿では,これらのジベレリン関連物質の生合成について最新の知見を紹介する.
Key words: 植物成長制御物質; 進化; ジテルペン; 光応答; 蘚苔類
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
約4億5000万年前に水中から陸上へと進出した植物は,乾燥や重力,強い光など,水中とは大きく異なる環境への適応を迫られた.この適応過程において,植物成長制御物質(植物ホルモン)は環境応答を制御する重要な因子として働いてきたことが想像できる.陸上植物の進化過程で植物は植物ホルモンの生合成能力をいつ獲得したのか,その疑問に答えを得るべく最も早期に分岐した陸上植物群であるコケ植物で植物ホルモン研究が展開されてきた.コケ植物は蘚類,苔類,ツノゴケ類の3つのグループから構成されており,維管束を持たずに胞子を生殖に使う植物として,シダ植物や種子植物などの維管束植物とは異なる形態や生活環を持つ.その中でも蘚類に属するヒメツリガネゴケは,モデル植物として早くに確立されたため,植物の成長制御機構に関する研究が盛んに進められてきた.本稿の中心化合物である植物ホルモンの一種ジベレリンは,イネ馬鹿苗病の原因毒素として最初に糸状菌から単離された化合物であるが,現在では発芽や伸長成長など,植物の成長に重要な役割を果たす植物ホルモンであることが広く知られている.しかし,研究が進むと蘚類ヒメツリガネゴケはジベレリンを生産しないにもかかわらず,一部のジベレリン生合成酵素を保有していることが判明した.さらに,ジベレリンの生合成中間体からジベレリンとは異なる成長制御物質を生産して成長に利用していることが明らかとなった.苔類のゼニゴケにおいても顕花植物で機能する活性型のジベレリンは検出されず,一部のジベレリン生合成酵素を保有していた.ゼニゴケはヒメツリガネゴケで見出された成長制御物質を利用せず,さらにジベレリンにより構造が近い別の成長制御物質を生産していることが明らかとなっている.植物ホルモンは植物に普遍的に存在していると考えられていたが,コケ植物のジベレリン生合成能力の状況は他の一般的な植物とは明らかに異なっていた.本稿では,コケ植物におけるジベレリン起源物質に関する新規な研究知見を中心に解説する.まず植物ホルモンとしてのジベレリンの基本的な生合成・代謝経路について概説した後,コケ植物における独自の代謝系に焦点を当てる.最新の知見と背景情報を織り交ぜることで,この分野の動向を包括的に把握していただければ幸いである.
植物ホルモンは10−6~10−8 M程度の極めて低濃度で生理活性を示す化合物群である.生成された場所から他の組織へ移動して作用する特徴を持つが,特定の分泌器官は持たず,様々な器官や組織で生成される点は動物ホルモンと異なる.複数の植物ホルモンが種子の発芽,伸長,果実の成熟,枝分かれ,環境ストレス応答など,植物の成長と分化多様な局面で重要な役割を果たす.その生理活性は緩やかで作用時間が長く,これは固着生活を営む植物において,長期的な成長や分化の制御が重要であることを反映している.本稿で取り上げるジベレリン(GA)もその一つであり,植物の成長制御に深く関わる重要な植物ホルモンである.
テルペノイドの中で,炭素数20のジテルペノイド化合物に由来するGAは,直鎖状のゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を前駆体として生合成される(図1図1■顕花植物の主要GA生合成経路).第一段階は,GGPPから二つのテルペン環化酵素,ent-コパリル二リン酸合成酵素(CPS)とent-カウレン合成酵素(KS)によってent-カウレンが合成される(1, 2)1) T. P. Sun & Y. Kamiya: Plant Cell, 6, 1509 (1994).2) S. Yamaguchi, T. Sun, H. Kawaide & Y. Kamiya: Plant Physiol., 116, 1271 (1998)..次の段階では,シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(P450)の一種であるent-カウレン酸化酵素(KO)が,ent-カウレンを3段階の逐次的な酸化反応でent-カウレン酸(KA)へと変換する(3, 4)3) C. A. Helliwell, A. Poole, W. J. Peacock & E. S. Dennis: Plant Physiol., 119, 507 (1999).4) C. A. Helliwell, J. A. Sullivan, R. M. Mould, J. C. Gray, W. J. Peacock & E. S. Dennis: Plant J., 28, 201 (2001)..同様に,KAはP450であるent-カウレン酸酸化酵素(KAO)によって3段階の酸化反応を経てGA12へと変換される(5)5) C. A. Helliwell, P. M. Chandler, A. W. Poole, E. S. Dennis & W. J. Peacock: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 2065 (2001)..KAから脱炭酸反応を経て,ent-カウラン骨格から炭素数が19 ent-ジベレラン骨格となったGA12は生合成経路上最初のGAとなる(図1図1■顕花植物の主要GA生合成経路).最終段階で,GA12は2-オキソグルタル酸依存性2原子酸素添加酵素(DOX)のGA20-酸化酵素(GA20ox)とGA3-酸化酵素(GA3ox)によって活性型GAであるGA4へと変換される(6~8)6) Y. Kamiya & J. E. Graebe: Phytochemistry, 22, 681 (1983).7) T. Lange, P. Hedden & J. E. Graebe: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 8552 (1994).8) H. Itoh, M. Ueguchi-Tanaka, N. Sentoku, H. Kitano, M. Matsuoka & M. Kobayashi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 8909 (2001)..GAはこれまでに植物や菌類から100種を超えて報告されているが,GAとしての生理活性を保有するのはGA4, GA1等の数種に限られる.
不活性化,すなわち生理活性を低下させる構造変化を導入することは,植物組織中の生物学的に活性を持つGA濃度を調節するために不可欠な機能である.主要な不活性化経路はDOXの1つであるGA2-酸化酵素(GA2ox)によるGAの2位に対する水酸化反応である(9~11)9) M. J. P. Lange, A. Liebrandt, L. Arnold, S. M. Chmielewska, A. Felsberger, E. Freier, M. Heuer, D. Zur & T. Lange: Phytochemistry, 90, 62 (2013).10) S. Pearce, A. K. Huttly, I. M. Prosser, Y. D. Li, S. P. Vaughan, B. Gallova, A. Patil, J. A. Coghill, J. Dubcovsky, P. Hedden et al.: BMC Plant Biol., 15, 130 (2015).11) Y. Kawai, Y. E. Ono & M. Mizutani: Plant J., 78, 328 (2014)..GA2oxはC19-GA2oxとC20-GA2oxの2つのサブファミリーに分類される.C19-GA2oxは炭素数が19(C19)のGAである活性型GA(GA4,GA1等),その直接の前駆体(GA9,GA20等)を基質として2β位に水酸基を導入することで不活性化する(図1, 2図1■顕花植物の主要GA生合成経路図2■ヒメツリガネゴケのGA起源物質の生合成・代謝経路).一方,C20-GA2oxはGA12やGA53などのC20-GAを基質として2位の水酸化反応を触媒し,その後の生合成を抑制する.このように,GA2oxは生合成経路の複数の段階でent-ジベレラン骨格となった生合成中間体に対して働くことで,発達過程や環境応答において重要な役割を果たすことが示されており,活性型GAの蓄積を効果的に制御するGAシグナルの主要な制御ポイントとなっている.GA2-酸化以外の不活性化経路も存在する.GA-16,17-エポキシド形成はシトクロムP450(EUI, CYP714D1)による反応であり,GAメチル基転移酵素(GAMT)によるGAのメチル化も不活性化経路の一つとして知られている(12, 13)12) Y. Y. Zhu, T. Nomura, Y. H. Xu, Y. Y. Zhang, Y. Peng, B. Z. Mao, A. Hanada, H. Zhou, R. Wang, P. Li et al.: Plant Cell, 18, 442 (2006).13) M. Varbanova, S. Yamaguchi, Y. Yang, K. McKelvey, A. Hanada, R. Borochov, F. Yu, Y. Jikumaru, J. Ross, D. Cortes et al.: Plant Cell, 19, 32 (2007)..これらの不活性化経路は,組織特異的あるいは発達段階特異的に制御されており,植物は複数の不活性化機構を巧みに使い分けることで,GAの生理作用を時空間的に制御している(14)14) P. Hedden: Plant Cell Physiol., 61, 1832 (2020)..
陸上植物におけるGA生合成の進化を理解する上で,コケ植物は重要な研究材料となっている.コケ植物は蘚類,苔類,ツノゴケ類の3つの群から構成され,維管束を持たない胞子植物として特徴的な生活環を示す.特に,配偶体世代が優占的で胞子体が配偶体に依存して生育するという特徴は,維管束植物とは異なる進化的位置づけを示している.蘚類に属するヒメツリガネゴケ(Physcomitrium patens)は植物のモデル生物として早くに確立されており,ヒメツリガネゴケを用いた研究が盛んに行われた.その理由として,効率的な形質転換系が確立されていること,比較的初期にゲノム情報が解読され多くの遺伝子機能の解析が可能であることが挙げられる.また,単細胞性の原糸体から多細胞性の配偶体へと分化する過程が比較的単純であり,顕花植物の知見をコケ植物に照らし合わせるだけでなく,細胞分化の制御機構を研究する上で優れたモデル系となっているため研究に活用されてきた(15~19)15) D. J. Cove & C. D. Knight: Plant Cell, 5, 1483 (1993).16) D. J. Cove, M. Bezanilla, P. Harries & R. Quatrano: Annu. Rev. Plant Biol., 57, 497 (2006).17) R. Reski: Plant Biol., 111, 1 (1998).18) S. A. Rensing, D. Lang, A. D. Zimmer, A. Terry, A. Salamov, H. Shapiro, T. Nishiyama, P. F. Perroud, E. A. Lindquist, Y. Kamisugi et al.: Science, 319, 64 (2008).19) S. A. Rensing, B. Goffinet, R. Meyberg, S. Z. Wu & M. Bezanilla: Plant Cell, 32, 1361 (2020)..2008年にコケ植物で最初にゲノムが解読されたヒメツリガネゴケ以降,苔類のゼニゴケ(Marchantia polymorpha),フタバゼニゴケ,ツノゴケ類のナガサキツノゴケ,ホウライツノゴケ等のゲノム解読,さらには多くのトランスクリプトーム解析が進んだ(18, 20~22)18) S. A. Rensing, D. Lang, A. D. Zimmer, A. Terry, A. Salamov, H. Shapiro, T. Nishiyama, P. F. Perroud, E. A. Lindquist, Y. Kamisugi et al.: Science, 319, 64 (2008).20) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Q. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).21) F. W. Li, T. Nishiyama, M. Waller, E. Frangedakis, J. Keller, Z. Li, N. Fernandez-Pozo, M. S. Barker, T. Bennett, M. A. Blazquez et al.: Nat. Plants, 6, 259 (2020).22) J. Zhang, X. X. Fu, R. Q. Li, X. Zhao, Y. Liu, M. H. Li, A. Zwaenepoel, H. Ma, B. Goffinet, Y. L. Guan et al.: Nat. Plants, 6, 107 (2020)..これらの解析から,GA生合成能力の進化的変遷が明らかになってきた.それらの知見をGA生合成に照らし合わせながら紹介したい.
GA生合成の1段階目である,GGPPからent-カウレンまでの生合成酵素はコケ植物で保存されていた.しかし顕花植物と異なり,蘚類ヒメツリガネゴケ,苔類ツツソロイゴケのカウレン合成酵素はent-カウレンまでの反応を一つの二機能型酵素(CPS/KS)が触媒した(23, 24)23) K. Hayashi, H. Kawaide, M. Notomi, Y. Sakigi, A. Matsuo & H. Nozaki: FEBS Lett., 580, 6175 (2006).24) H. Kawaide, K. Hayashi, R. Kawanabe, Y. Sakigi, A. Matsuo, M. Natsume & H. Nozaki: FEBS J., 278, 123 (2011)..このような二機能型のカウレン合成酵素は菌類や細菌類でも機能している(25, 26)25) H. Kawaide, R. Imai, T. Sassa & Y. Kamiya: J. Biol. Chem., 272, 21706 (1997).26) X. Chen, M. Xu, J. Han, M. Schmidt-Dannert, R. J. Peters & F. Chen: Hortic. Res., 11, uhae221 (2024)..ゲノム情報をみるとCPS/KSと同様に二機能型のカウレン合成酵素をツノゴケ類も保有しているが,ゼニゴケやシダ植物のうち小葉類のイヌカタヒバでは顕花植物と同様に単機能型のCPSとKSが機能している(27~29)27) G. Li, T. G. Köllner, Y. Yin, Y. Jiang, H. Chen, Y. Xu, J. Gershenzon, E. Pichersky & F. Chen: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 14711 (2012).28) M. Shimane, Y. Ueno, K. Morisaki, S. Oogami, M. Natsume, K. Hayashi, H. Nozaki & H. Kawaide: Biochem. J., 462, 539 (2014).29) S. Kumar, C. Kempinski, X. Zhuang, A. Norris, S. Mafu, J. Zi, S. A. Bell, S. E. Nybo, S. E. Kinison, Z. Jiang et al.: Plant Cell, 28, 2632 (2016)..
GA生合成の2段階目であるP450によるent-カウレンからGA12への経路のうち,KOはコケ植物の全てで保存されており,in vitroでもその機能が明らかとなっている(30~32)30) S. Miyazaki, T. Katsumata, M. Natsume & H. Kawaide: FEBS Lett., 585, 1879 (2011).31) S. Miyazaki, M. Nakajima & H. Kawaide: Plant Signal. Behav., 10, e989046 (2015).32) R. Sun, M. Okabe, S. Miyazaki, T. Ishida, K. Mashiguchi, K. Inoue, Y. Yoshitake, S. Yamaoka, R. Nishihama, H. Kawaide et al.: Plant Cell, 35, 4111 (2023)..しかし,KAOは苔類ゼニゴケやツノゴケ類ナガサキツノゴケで保存されているのに対し,蘚類ヒメツリガネゴケでは保存されていない(20, 21)20) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Q. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).21) F. W. Li, T. Nishiyama, M. Waller, E. Frangedakis, J. Keller, Z. Li, N. Fernandez-Pozo, M. S. Barker, T. Bennett, M. A. Blazquez et al.: Nat. Plants, 6, 259 (2020)..現在のところ,公開されている遺伝子情報を精査しても蘚類からKAOは見出せず,蘚類ではGAの生合成経路がKAで遮断され,苔類やツノゴケ類ではGA12で遮断されていることになる(33)33) M. Nakajima, S. Miyazaki & H. Kawaide: Plant Cell Physiol., 61, 1861 (2020)..後述するが,この遮断されているGA生合成経路が機能していることが最近判明している.
GA生合成の最終段階であるDOXによる活性型GAへの変換は,シダ植物以降で確立された経路となっている.コケ植物にもGA20ox, GA3ox, GA2oxに類似の酵素は存在するが,これらの酵素がGA代謝に関与するという実験的証拠は得られていない.実際,ヒメツリガネゴケのGA20ox様酵素はGA類に対する変換活性を示さない(34)34) K. Hirano, M. Nakajima, K. Asano, T. Nishiyama, H. Sakakibara, M. Kojima, E. Katoh, H. Xiang, T. Tanahashi, M. Hasebe et al.: Plant Cell, 19, 3058 (2007)..これらの知見は,活性型GAの生合成能力が維管束植物の出現に伴って獲得されたことを示唆している.このように,コケ植物におけるGA生合成経路の解析は,植物ホルモンの進化過程を理解する上で重要な知見を提供している.特に,二機能型酵素から単機能型酵素への進化や,陸上植物進化過程におけるGA生合成経路の段階的な確立過程は,陸上植物の重要な適応戦略を反映していると考えられる.また,蘚類はKAまで,苔類ツノゴケ類はGA12までの部分的な生合成経路を保有していることが判明した.なぜ部分的なGA生合成経路を保有し,それらが機能しているのか,については次に論じる.
上述の通り,蘚類ヒメツリガネゴケはKAまで,苔類ゼニゴケはGA12までのGA生合成酵素が保存されていた.GAは顕花植物において種子の発芽や,伸長成長に寄与することが広く知られている.種子を形成せず,植物体が大きくはないコケ植物でGA生合成経路は植物体内で機能しているのか,まず蘚類ヒメツリガネゴケに関して紹介する.ヒメツリガネゴケはジーンターゲッティングが可能な植物であり,標的遺伝子の欠損や過剰発現体の作出等の遺伝子工学的アプローチが可能な植物である(19)19) S. A. Rensing, B. Goffinet, R. Meyberg, S. Z. Wu & M. Bezanilla: Plant Cell, 32, 1361 (2020)..KAまでの経路が機能しているとすれば,KAまでの生合成酵素が欠失すると表現型に何か異常が生じることが想定される.実際,顕花植物でGAが欠乏している状況になると,強く成長が抑制された矮化の表現型を引き起こす.原糸体の細胞分化を促進することが知られている赤色光で観察すると,野生型と比較してppcps/ks欠損変異体の原糸体の細胞分化に異常が生じた(35)35) K. Hayashi, K. Horie, Y. Hiwatashi, H. Kawaide, S. Yamaguchi, A. Hanada, T. Nakashima, M. Nakajima, L. N. Mander, H. Yamane et al.: Plant Physiol., 153, 1085 (2010)..これは,クロロネマ細胞(葉緑体が細胞内で密であり,細胞壁が伸長方向に対して垂直に分割される性質を持つ)からカウロネマ細胞(葉緑体密度が低く細胞壁が伸長方向に対して斜め方向に分割される性質を持つ)への分化が抑制される形質であった.植物の成長には光が必須であり,特に赤色光と青色光はそれぞれの光受容体が機能し,形態形成や植物ホルモンの働きに深く関わる.ヒメツリガネゴケでも光形態形成が赤色光と青色光とで明確な応答が調べられている.青色光を使って変異体と野生株の応答性を検証したところ,水平方向から照射した青色光に対して野生株は忌避応答を示し光源の反対方向へ原糸体を伸長させたが,ppcps/ks欠損変異体ではこの応答が見られなかった(36, 37)36) S. Miyazaki, H. Toyoshima, M. Natsume, M. Nakajima & H. Kawaide: Planta, 240, 117 (2014).37) S. Miyazaki, M. Nakajima & H. Kawaide: “Assays of protonemal growth responses in Physcomitrella patens under blue- and red-light stimuli.” Humana Press. 1924: 35 (2019)..この赤色光と青色光に対するppcps/ks欠損変異体の応答はKAの投与により野生株と同等まで回復するが活性型GAでは回復しないことから,ヒメツリガネゴケではKAまでの部分的なGA生合成経路が機能し未同定の生理活性物質を生産して光シグナル下で原糸体の成長を制御していることが示唆された.その後,GAの祖先型,起源型とも換言できる代謝産物の追跡が進められ,KA由来の活性代謝産物としてent-3β-ヒドロキシ-カウレン酸(3OH-KA)が同定された(38)38) S. Miyazaki, M. Hara, S. Ito, K. Tanaka, T. Asami, K. Hayashi, H. Kawaide & M. Nakajima: Mol. Plant, 11, 1097 (2018)..研究過程に関する詳細は(今日の話題)を参照されたい(39)39)宮崎翔:化学と生物,51,515(2013)..さらに3OH-KAに加え,KAから不活性型であるent-2α-ヒドロキシ-カウレン酸(2OH-KA)へと変換するDOXに属するPpKA2oxが同定された(図2図2■ヒメツリガネゴケのGA起源物質の生合成・代謝経路).ヒメツリガネゴケはKAまでのGA生合成経路を保有し,KA3-酸化による活性化,KA2-酸化による不活性化経路を機能させて成長に利用していた.これは顕花植物で見られているGA生合成経路とも類似している(図2図2■ヒメツリガネゴケのGA起源物質の生合成・代謝経路).しかし,活性化合物3OH-KAの不活性化経路は異なっていた.GAの生合成経路に倣えば3OH-KAはPpKA2oxによって2位が水酸化された2,3diOH-KAへと変換され不活性型になることになるが,実際にはent-3β,16β-ジヒドロキシカウラン(3,16diOH-KA)が合成されることが報告された(図2図2■ヒメツリガネゴケのGA起源物質の生合成・代謝経路)(40)40) S. Miyazaki, H. Kawaide & M. Nakajima: J. Plant Growth Regul., 43, 2937 (2024)..3,16diOH-KAはコケ植物からも検出され,細胞分化活性が顕著に低下した不活性化の代謝産物であることから,3OH-KAの不活性化経路は2位に対する水酸化ではない公算が高い.PpKA2oxは実際にはKAの2位および3OH-KAの16位の両部位に水酸基を導入するPpKA2ox/16oxであり,この酵素は蘚類特有の存在である(33)33) M. Nakajima, S. Miyazaki & H. Kawaide: Plant Cell Physiol., 61, 1861 (2020)..つまり,KAの2位水酸化や3OH-KAの16位水酸化は3OH-KA産生植物が獲得した独自の不活性化機構と考えられる.これら経路の保存性・特異性および16位酸化による受容体親和性の変化については,今後の検証課題である.詳細な反応機構が待たれるが,2,3diOH-KAが合成されないことから,PpKA2ox/16oxによる水酸化は標的部位の近傍に既存の水酸基が存在することを好まないようである.このことから,GA生合成において3位に水酸基を有さないGA分子の2位水酸化による不活性化機構が進化的に先行し,後に3位水酸化型GA類を不活性化する経路が確立されたと推察される.
KAまでのGA生合成経路を保有する蘚類ヒメツリガネゴケに対して,苔類ゼニゴケはKAOを保有していることからGA12までのGA生合成経路の存在がゲノム情報から判明していた.実際,ゼニゴケからGA12が検出され,生合成酵素が機能していることもin vitroで明らかとなっている(32)32) R. Sun, M. Okabe, S. Miyazaki, T. Ishida, K. Mashiguchi, K. Inoue, Y. Yoshitake, S. Yamaoka, R. Nishihama, H. Kawaide et al.: Plant Cell, 35, 4111 (2023)..GA12やその代謝物が機能しているのか,欠損変異体が作出された.ゼニゴケでは遠赤色光が引き金となり,栄養成長から形状を細長く上方へと成長させる生殖成長に移行する.この移行が,mpcps欠損変異体では遅くなるという形質が認められKAで回復するのに対し,活性型GAでは回復しないというヒメツリガネゴケと同様の結果が得られた.KAから下流に何か未知の生理活性物質(GAmp)が合成されていることが示唆されている(図3図3■陸上植物とGA生合成能の共進化の変遷).さらにmpkaol1の欠損変異体,すなわちGA12が合成されないゼニゴケでも生殖成長への移行が遅延していた.これはGA12からもGAmpが生合成されていることを示唆している.興味のある方は最新の総説にも目を通されたい(41)41)孫 芮,吉竹良洋,増口 潔,山口信次郎,河内孝之:植物の生長調節,59,115(2024)..ヒメツリガネゴケのように3位の酸化が活性化の鍵となっているのか,GAmpの分子構造の解明を待ちたい.
植物ホルモンは植物に普遍的に存在すると考えられていたが,多くの植物のゲノム情報や発現遺伝子の情報が蓄積するにつれ,その様相が変わってきた.特にヒメツリガネゴケとゼニゴケでのGA研究では,顕花植物のGA生合成経路の一部を保持しながら,GA起源物質とも言える独自の活性物質を生合成できるよう進化させたことが明らかとなった.両植物のGA起源物質の生理活性はよく知られている活性型GAでは再現できないことは興味深い点である.ヒメツリガネゴケではKAまで,ゼニゴケではGA12までの経路を持っている(図3図3■陸上植物とGA生合成能の共進化の変遷).これらはそれぞれ3OH-KAやGAmpという独自の活性物質を生み出し,主に光応答や生殖成長の制御に関わっている.シダ植物になると,より完全なGA生合成経路を獲得し,さらに顕花植物では完全なGA経路を持ち,種子発芽や茎の伸長など,より複雑な成長制御に関与するようになっている.この進化の過程は単純な光応答制御から,個体間コミュニケーション,そして高度な成長制御へと,植物の生活様式の複雑化に伴ってGA経路の機能が拡張されていったことが示唆される.GAはどこからきたのか,GA起源物質の普遍性や特異性の検証等,今後の研究の進展が待たれる.
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