Kagaku to Seibutsu 63(5): 218-224 (2025)
解説
カロテノイドの代謝物による細胞機能調節作用
哺乳類におけるアポカロテノイドの生成,分布,機能
Regulatory Effects of Carotenoid Metabolites on Cell Function: Biosynthesis, Distribution and Functions of Apocarotenoids in Mammals
Published: 2025-05-01
花や野菜,果物などの色彩に関わるカロテノイド色素は,私たちの目を楽しませるのみならず,身体機能の維持や健康の増進に不可欠であることが分かってきた.ヒトを含む哺乳類は自らカロテノイドを合成することはできないが,食事を通じて摂取されるため,血中をはじめとした生体内において検出される.生体内では,カロテノイドの一部は酵素的あるいは非酵素的に開裂してアポカロテノイドを生じる.最もよく知られるアポカロテノイドとして,ビタミンAと称されるレチノイドが挙げられる.一方で,近年,非レチノイドタイプのアポカロテノイドの生成機構や組織分布,機能に関する理解が進み,新たな生理活性物質としての可能性が注目されている.
Key words: アポカロテノイド; 生体内代謝; 核内受容体; Nrf2活性化; 抗炎症作用
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
カロテノイドは赤から黄色を呈する脂溶性のイソプレノイド色素で,植物や藻類,一部の微生物によって生合成される.これらの生物において,カロテノイドは光合成における補助色素や抗酸化物質として働く.カロテノイドは基本的に40個の炭素原子から成り,共役二重結合が連なるポリエン直鎖と両末端のエンドグループで構成される(図1図1■カロテノイドの基本構造).環状化やヒドロキシ化をはじめとするエンドグループの様々な修飾により多様な構造のカロテノイドが生じるため,現在1,000種類以上が報告されている.カロテノイドは炭素原子と水素原子のみからなるカロテン類,酸素原子を含むキサントフィル類に分類される.カロテン類の例として,ニンジンに含まれるβ-カロテン(1)や,トマトに含まれるリコペン(2),キサントフィル類の例として,マリーゴールドに含まれるルテイン(4)やゼアキサンチン(3),エビやカニに含まれるアスタキサンチン(5),褐藻類に含まれるフコキサンチン(6)などが挙げられる(図1図1■カロテノイドの基本構造).近年,カロテノイドが抗酸化作用に加えて,肥満や糖尿病,脂肪肝に代表される生活習慣病や神経変性疾患などの慢性炎症疾患に対する予防効果を示すことが見いだされており,その多様な生理機能が注目されている(1)1) 宮下和夫:“カロテノイドの科学と最新応用技術”,シーエムシー出版,2015..
ヒトにおけるカロテノイドの消化吸収および生体組織への輸送は,他の脂質分子とほぼ同様の経路をたどる(2)2) 高市真一:“カロテノイド—その多様性と生理活性—”,裳華房,2006,p. 87..すなわち,摂取された食物が胃内で消化液にさらされて粥状(糜粥)となる過程において,カロテノイドが食品マトリクスから遊離する.次いで,小腸管腔にて遊離脂肪酸やモノアシルグリセロール,コレステロール,胆汁酸,リン脂質とともに混合ミセルを形成して可溶化される.小腸上皮細胞によるカロテノイドの取込みは,単純拡散およびトランスポーターを介した輸送により行われる.小腸上皮細胞内で,カロテノイドはトリアシルグリセロールを主成分とするカイロミクロンに組み込まれてリンパ液中へ分泌される.その後,リンパ管から血中を経て,一部は各組織へ分配されながら肝臓に輸送される.肝臓ではカロテノイドは超低比重リポタンパク質(VLDL)に組み込まれ,血中へと再放出される.各生体組織において,カロテノイドは酸化,異性化,脂肪酸エステル化と加水分解,開裂など様々に代謝される.したがって,カロテノイドによる健康機能の発現に際して,生体組織に蓄積するカロテノイド代謝物が生理活性物質として関与する可能性が考えられる.
アポカロテノイドは,ポリエン直鎖上の任意の位置で二重結合が開裂することで生じる,炭素鎖が短縮した化合物である(図2, 3図2■カロテノイドの開裂によるアポカロテノイドの生成図3■多様な構造を持つアポカロテノイド).植物において,カロテノイドの開裂反応を触媒するCCD(carotenoid cleavage dioxygenase)酵素が複数同定されており,生成物であるアポカロテノイドやさらなる代謝物が,成長や環境適応など多くの生理プロセスに関与する(コラム参照).一方,動物生体内においても,酵素的あるいは非酵素的に多様なアポカロテノイドが生成する.哺乳類におけるカロテノイド開裂酵素には,BCO1(β-carotene-15,15’-oxygenase)およびBCO2(β-carotene-9’,10’-oxygenase)が知られる(図2図2■カロテノイドの開裂によるアポカロテノイドの生成)(3)3) E. H. Harrison & L. Quadro: Annu. Rev. Nutr., 38, 153 (2018)..BCO1は,ポリエン鎖中央のC-15,15’位間の二重結合を開裂し,レチナール(β-アポ-15-カロテナール)(7)へと変換する.主に,β-カロテン(1)などプロビタミンAカロテノイドを基質とし,生体内のレチノイド濃度調節に関わる重要な酵素である.一方,BCO2はC-9’,10’位間の二重結合を開裂し,非対称アポカロテノイドを生じる.例えば,β-カロテン(1)を基質とした場合,β-アポ-10’-カロテナール(11)とβ-イオノン(15)が生成する.BCO2は,プロビタミンA活性を持たないキサントフィル類を基質として非対称アポカロテノイドを生成する.興味深いことに,BCO1はサイトゾルに,BCO2はミトコンドリア内膜に発現している.このことは,各酵素の基質となりうるカロテノイドの細胞内動態を反映していると考えられる.最近,ミトコンドリア内膜へのカロテノイドの非小胞輸送にASTER-Bタンパク質が関わることが示され(4)4) S. Bandara, J. Moon, S. Ramkumar & J. von Lintig: J. Lipid Res., 64, 100369 (2023).,アポカロテノイドの生成機構に関する理解が進んでいる.一方,非酵素的な酸化開裂によってもアポカロテノイドが生じる.カロテノイドはラジカル補足活性や一重項酸素消去活性を持つが,その過程で自らが酸化される場合がある.すなわち,酸素ラジカルとの化学的な反応によって,任意の二重結合部位で酸化開裂が生じる.この際,二重結合部位の非特異的な開裂が起こるため,生じるアポカロテノイドの鎖長も多岐にわたる.
アポカロテノイドの分析には,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた手法が汎用される.多くの場合,ODS(octadecylsilane, C18)やC30カラムを用いた逆相モードにより,炭素鎖長や官能基に基づいた分離が可能である.検出に関しては,紫外-可視光(UV-Vis)検出器が利用できる.微量の場合は,質量分析計を接続した液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリー(LC-MS)が有用である.特に,検出にタンデム型MS/MSを用いるMRM(multiple reaction monitoring)法は,特異性の高い定量が期待できる.この方法では,第一のMSにて測定対象の分子イオンのみを通過させる.このイオンにCID(collision-induced dissociation)ガスと呼ばれる不活性ガスを衝突させることで,分子構造に依存した断片化イオン(プロダクトイオン)が生成する.このプロダクトイオンを第二のMSにより検出する.各カロテノイドに特徴的なプロダクトイオンが明らかにされており,優れた成書(5)5) C. R. Enzell & S. Back: “Carotenoids Volume 1B: Spectroscopy”, ed. by G. Britton, S. Liaaen-Jensen, H. Pfander, Birkhäuser Verlag, 1995, p. 261.を利用するとよい.一方で,クロマトグラフィーにおける最重要事項の一つに純品の入手が挙げられるが,残念ながら現在市販されているアポカロテノイドの種類は限られている.また,上述のように,アポカロテノイドは非酵素的に生じる可能性があるため,抽出から分析に至る各ステップで酸化分解に留意する必要がある.
上述の方法を用いて,ヒト生体においてレチノイドを含む複数のアポカロテノイドが同定されている(6)6) T. Bohn, A. R. de Lera, J. F. Landrier & R. Rühl: Nutr. Res. Rev., 36, 498 (2023)..オールトランスレチノイン酸(8)およびレチノール(9)はそれぞれ,健常な成人の血中に2~10 nmol/L,および1~3 µmol/L程度認められる.一方,非レチノイドタイプのアポカロテノイドであるβ-アポ-14’-カロテン酸は4 nmol/L,β-アポ-13-カロテノン(16)は3~5 nmol/Lの濃度で血中に存在する.また,トマトジュース摂取後の血中に,アポ-6’-,アポ-8’-,アポ-10’-,アポ-12’-,アポ-14’-リコペナールが,総濃度2 nmol/Lで検出された(7)7) R. E. Kopec, K. M. Riedl, E. H. Harrison, R. W. Curley Jr., D. P. Hruszkewycz, S. K. Clinton & S. J. Schwartz: J. Agric. Food Chem., 58, 3290 (2010)..ヒト血中には上述のアポカロテノイドのみならず,アポ-10’-,アポ-12’-(23),アポ-14’-ゼアキサンチナールや,アポ-10’-,アポ-12’-(22),アポ-14’-ルテイナールを認めることも報告されている(8)8) M. Zoccali, D. Giuffrida, F. Salafia, S. V. Giofrè & L. Mondello: Anal. Chim. Acta, 1032, 40 (2018)..また,出産後女性の初乳中には,β-アポ-8’-カロテナール(10)が85 nmol/L,アポ-8’-リコペナールが54 nmol/L,β-シトラウリン(アポ-8’-ゼアキサンチナール)(27)が75 nmol/L程度含まれる.加えて,初乳中には,アポ-10’-,アポ-12’-ゼアキサンチナール(23),アポ-10’-,アポ-12’-カンタキサンチナール,アポ-10’-,アポ-12’-(25),アポ-14’-カプソルビナールなども含まれる(9)9) M. Zoccali, D. Giuffrida, R. Granese, F. Salafia, P. Dugo & L. Mondello: Anal. Bioanal. Chem., 412, 1335 (2020)..さらに,アスタキサンチンを単回摂取したヒト血中において,C-9’,10’位で開裂したアポ-9-アスタキサンチノンが認められる(10)10) A. Kistler, H. Liechti, L. Pichard, E. Wolz, G. Oesterhelt, A. Hayes & P. Maurel: Arch. Toxicol., 75, 665 (2002)..ヒト血中に含まれるカロテノイド(β-カロテン(1),α-カロテン,リコペン(2),β-クリプトキサンチン,ゼアキサンチン(3),ルテイン(4)など)濃度は数百nmol/L~数µmol/Lに達するのに比べて,アポカロテノイドの血中濃度は低いが,多様な種類が見いだされている.
レチノイドは哺乳類の視覚や生殖,上皮組織の機能維持など多くの生理プロセスに関与する.これらの詳細については優れた成書(11)11) 武藤泰敏:“レチノイド・カロテノイド—体内代謝と発癌予防—”,南山堂,1997.に譲り,本項ではこれまでに見いだされた非レチノイドタイプのアポカロテノイドの機能を紹介する.
図4■アポカロテノイドの機能
アポカロテノイドの細胞内生成経路と機能(実線).核内受容体であるRARおよびRXRに対するアンタゴニスト作用,Nrf2-Keap1経路の活性化,NF-κB経路の抑制作用が示されている一方,細胞内取込みや,ミトコンドリアや核などの細胞小器官への移行機序は明らかにされていない(破線).
β-カロテン関連アポカロテノイドのうち,特定の鎖長を持つ化合物について,核内受容体に対するアンタゴニスト作用が明らかにされている.特に,β-アポ-13-カロテノン(16)は,オールトランスレチノイン酸(8)によるRARs(retinoic acid receptors)のトランス活性化を強く阻害するが,この機序として,受容体への結合に対するレチノイン酸との競合(12, 13)12) A. Eroglu, D. P. Hruszkewycz, C. dela Sena, S. Narayanasamy, K. M. Riedl, R. E. Kopec, S. J. Schwartz, R. W. Curley Jr. & E. H. Harrison: J. Biol. Chem., 287, 15886 (2012).13) A. Eroglu, D. P. Hruszkewycz, R. W. Curley Jr. & E. H. Harrison: Arch. Biochem. Biophys., 504, 11 (2010).や,RXRs(retinoid X receptors)のオリゴマー状態の調節(14)14) J. Sun, S. Narayanasamy, R. W. Curley Jr. & E. H. Harrison: J. Biol. Chem., 289, 33118 (2014).を介すると考えられている.この際,β-アポ-13-カロテノン(16)がヒト血中に認められる濃度と近しい濃度で活性を示すことは,この化合物の生理的意義を想起させるもので興味深い.RARに対するアンタゴニスト作用は,β-アポ-13-カロテノン(16)やβ-アポ-14’-カロテナール(13)に認める一方,β-シクロシトラール(14)やβ-アポ-8’-カロテナール(10)では減弱することから,鎖長に特異的な活性であることが推測される(12)12) A. Eroglu, D. P. Hruszkewycz, C. dela Sena, S. Narayanasamy, K. M. Riedl, R. E. Kopec, S. J. Schwartz, R. W. Curley Jr. & E. H. Harrison: J. Biol. Chem., 287, 15886 (2012)..さらに,β-アポ-14’-カロテナール(13)は,アゴニストによって誘導されるRXRα, PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)αおよびPPARγの活性化を阻害し,前駆脂肪細胞の分化に関わる遺伝子発現を減少させることも報告されている(15)15) O. Ziouzenkova, G. Orasanu, G. Sukhova, E. Lau, J. P. Berger, G. Tang, N. I. Krinsky, G. G. Dolnikowski & J. Plutzky: Mol. Endocrinol., 21, 77 (2007)..
アポ-13-リコペノンやアポ-15-リコペナール(17)はRARに対するアンタゴニスト作用を示すが,より短鎖のアポ-11-リコペナールではこの活性を認めない(16)16) S. Narayanasamy, J. Sun, R. E. Pavlovicz, A. Eroglu, C. E. Rush, B. D. Sunkel, C. Li, E. H. Harrison & R. W. Curley Jr.: J. Lipid Res., 58, 1021 (2017)..β-アポカロテナールと同様,核内受容体との相互作用にはある程度の炭素鎖長が重要なのかもしれない.アポ-10’-リコペン酸(18)は,ヒト気道上皮BEAS-2B細胞において細胞内抗酸化システムの一つであるNrf2(nuclear factor E2-related factor 2)の核内移行を介して,HO-1(heme oxygenase-1)をはじめとする抗酸化酵素群のmRNA発現を誘導する.これにより,活性酸素種の蓄積や過酸化水素による細胞障害を緩和する(17)17) F. Lian & X. D. Wang: Int. J. Cancer, 123, 1262 (2008)..さらに,肥満モデルマウスへのアポ-10’-リコペン酸(18)の投与は,肝臓におけるsirtuin 1の遺伝子発現および酵素活性の増加を介して,脂肪肝の進行を抑制することが示されている(18)18) J. Chung, K. Koo, F. Lian, K. Q. Hu, H. Ernst & X. D. Wang: J. Nutr., 142, 405 (2012)..また,C-9,10位およびC-9’,10’位の両部位で開裂した10,10’-ジアポカロテンジアール(19)は,親電子性物質/抗酸化剤応答配列(electrophile/antioxidant response element; EpRE/ARE)を活性化して標的遺伝子であるNQO-1(NAD(P)H: quinone oxidoreductase-1)発現を増加させる(19)19) K. Linnewiel, H. Ernst, C. Caris-Veyrat, A. Ben-Dor, A. Kampf, H. Salman, M. Danilenko, J. Levy & Y. Sharoni: Free Radic. Biol. Med., 47, 659 (2009)..複数のアポリコペナールを用いた構造活性相関から,上述の作用機序の一つとして,α,β-不飽和カルボニル基の反応性β炭素が,Nrf2の抑制因子であるKeap1(Kelch-like ECH-associated protein 1)や炎症シグナル経路のNF-κB(nuclear factor-κ B)p65やIKK(inhibitor of NF-κB kinase)のチオール基(-SH)とスルフィド結合を形成することによって,タンパク質の機能を負に制御する可能性が示されている(19, 20)19) K. Linnewiel, H. Ernst, C. Caris-Veyrat, A. Ben-Dor, A. Kampf, H. Salman, M. Danilenko, J. Levy & Y. Sharoni: Free Radic. Biol. Med., 47, 659 (2009).20) K. Linnewiel-Hermoni, Y. Motro, Y. Miller, J. Levy & Y. Sharoni: Free Radic. Biol. Med., 75, 105 (2014)..このように,アポカロテノイドは核内受容体との相互作用を介した転写制御のみならず,タンパク質との共有結合を介した機能調節作用を示す.
カプソルビンやカプサンチンに特徴的な五員環を持つアポ-12’-カプソルビナール(25)は,マウスマクロファージ様RAW264.7細胞において,Nrf2の核内移行を促進してHO-1およびNQO-1の発現を誘導する(21)21) N. Takatani, H. Miyafusa, Y. Yamano, F. Beppu & M. Hosokawa: Arch. Biochem. Biophys., 760, 110125 (2024)..一方,アポ-12’-カプソルビナール(25)のC-8位にヒドロキシ基を持つアポ-12’-ミチロキサンチナール(26)ではこのような作用を認めないことから,ポリエン直鎖上にあるα,β-不飽和カルボニル基の反応性β炭素がNrf2活性化に寄与すると考えられる.また,Nrf2活性化は免疫細胞における過剰な炎症応答を負に制御することが知られる(22)22) T. Pant, N. Uche, M. Juric, J. Zielonka & X. Bai: Redox Biol., 70, 103077 (2024)..RAW264.7細胞にLPS(lipopolysaccharides)を添加すると,炎症性サイトカインやメディエーターの発現亢進を伴い炎症が誘導される.アポ-12’-カプソルビナール(25)を予め取込ませた細胞では炎症因子の発現増加が抑制されるが,アポ-12’-ミチロキサンチナール(26)では抑制されない.したがって,アポ-12’-カプソルビナール(25)による抗炎症機序の一部にNrf2が関わると思われる.
フコキサンチン(6)を摂取したマウスの血中や肝臓をはじめとした各生体組織において,アレン結合を持つパラセントロン(28)が見いだされている(23)23) N. Takatani, D. Taya, A. Katsuki, F. Beppu, Y. Yamano, A. Wada, K. Miyashita & M. Hosokawa: Mol. Nutr. Food Res., 65, e2000405 (2021)..パラセントロン(28)は,LPS刺激されたRAW264.7細胞において炎症因子の過剰発現を抑制する.また,別のフコキサンチン関連アポカロテノイドであるアポ-10’-フコキサンチナール(30)も抗炎症効果を示すが,この機序として炎症シグナル経路のNF-κBやMAPK(mitogen-activated protein kinase)のリン酸化阻害が関わる(23)23) N. Takatani, D. Taya, A. Katsuki, F. Beppu, Y. Yamano, A. Wada, K. Miyashita & M. Hosokawa: Mol. Nutr. Food Res., 65, e2000405 (2021)..さらに,アトピー性皮膚炎モデルマウスへのアポ-9’-フコキサンチノン(29)の塗布により,免疫細胞の機能調節を介してアレルギー症状が緩和されることが報告されている(24)24) S. C. Han, N. J. Kang, W. J. Yoon, S. Kim, M. C. Na, Y. S. Koh, J. W. Hyun, N. H. Lee, M. H. Ko, H. K. Kang et al.: Toxicol. Res., 32, 109 (2016)..
酸化剤の一種である過マンガン酸カリウムとアスタキサンチン(5)を混合すると,反応数時間でアポ-11-,アポ-14’-,アポ-12’-(24),アポ-10’-,アポ-8’-アスタキサンチナールが生成する(25)25) N. Takatani, F. Beppu, Y. Yamano, T. Maoka, K. Miyashita & M. Hosokawa: ACS Omega, 7, 22341 (2022)..アポアスタキサンチナールは,3T3-L1成熟脂肪細胞において,マクロファージとの共培養により誘導される炎症因子の発現を抑制する.興味深いことに,上述の効果はアポ-14’-アスタキサンチナールで顕著な活性を認めるが,アポ-8’-アスタキサンチナールやアポ-11-アスタキサンチナールでは減弱する.このように特定の鎖長に特異な活性は核内受容体などの細胞内標的因子の存在を想像させるが,その詳細は明らかでない.
末端環が開裂したアポカロテノイドも合成されている.過マンガン酸カリウムとβ-カロテン(1)を混合すると,C-5,6およびC-7’,8’位の二重結合位置で開裂したセコ-β-アポ-8’-カロテナール(31)が生成する(26)26) N. Takatani, F. Beppu, Y. Yamano, T. Maoka & M. Hosokawa: J. Oleo Sci., 70, 549 (2021)..この開環アポカロテノイドは,LPS刺激したRAW264.7細胞に対して,NF-κB p65の核内移行の阻害やMAPKのリン酸化阻害を介して抗炎症効果を示す.対照的に,閉環したβ-アポ-8’-カロテナール(10)には活性を認めないことから,開環によって新たに生じるポリエン直鎖上α,β-不飽和カルボニル基が機能発現に寄与すると考えられる.
アポカロテノイドはカロテノイド含有食品中に認められる.例えば,カンタロープメロンやハネデューメロンには,β-アポ-13-カロテノン(16),β-アポ-14’-(13),アポ-12’-(12),アポ-10’-(11),アポ-8’-カロテナール(10)が合計5 µg/100 g程度含まれる(27)27) M. K. Fleshman, G. E. Lester, K. M. Riedl, R. E. Kopec, S. Narayanasamy, R. W. Curley Jr., S. J. Schwartz & E. H. Harrison: J. Agric. Food Chem., 59, 4448 (2011)..また,トマトとその加工品にアポ-6’-,アポ-8’-,アポ-10’-,アポ-12’-,アポ-14’-リコペナールが検出されており,それらの総量は,生トマト中に6.5 µg/100 g,トマトペースト中に73 µg/100 gである(7)7) R. E. Kopec, K. M. Riedl, E. H. Harrison, R. W. Curley Jr., D. P. Hruszkewycz, S. K. Clinton & S. J. Schwartz: J. Agric. Food Chem., 58, 3290 (2010)..また,唐辛子やパプリカ種では,最も多いものでβ-シトラウリン(アポ-8’-ゼアキサンチナール)(27)が61 µg/100 g, β-アポ-8’-カロテナール(10)が33 µg/100 g含まれており,他にも様々な鎖長のアポカプソルビナールやアポカンタキサンチナール,アポルテイナールが検出されている(28)28) M. Zoccali, D. Giuffrida, F. Salafia, F. Rigano, P. Dugo, M. Casale & L. Mondello: Food Chem., 334, 127595 (2021)..食用認可種である微細藻Tetraselmis chuiでは,β-アポ-8’-カロテナール(10)が50 µg/100 g程度含まれており,これに加えてアポゼアキサンチナール,アポルテイナール,アポフコキサンチナール,アポビオラキサンチナールが同定されている(29)29) M. Zoccali, D. Giuffrida, F. Salafia, C. Socaciu, K. Skjånes, P. Dugo & L. Mondello: Antioxidants, 8, 209 (2019)..また,現在,着色料として使用されているアナトー色素やクチナシ黄色素は,ビキシン(20)やクロセチン(21)が主成分である.このようにアポカロテノイドは生鮮物に含まれることに加え,加工や保管工程中にも生じる.したがって,ヒトを含む哺乳類は,普段の食事で少なくない種類のアポカロテノイドを摂取しており,健康機能に関わっている可能性がある.
哺乳類におけるカロテノイド開裂酵素の同定や生体組織成分へのLC-MS/MS分析の適用により,アポカロテノイドの生成機構に関する理解が進みつつある.一方で,個々のアポカロテノイドの純品については十分に揃っておらず,定量分析の障壁となっている.いくつかのアポカロテノイドでは,化学的手法を用いた簡便かつ安価な調製法が確立されている.今後は,生体組織や生鮮・加工食品におけるアポカロテノイドを定量するとともに,生理的濃度を考慮した機能解明への展開が望まれる.また,アポカロテノイド代謝に関しては,アポカロテノイドの細胞内への取込みや,生体内で生じたアポカロテノイドの動態について,例えばミトコンドリアなどの細胞内小器官への移行,核内受容体との相互作用に関わる核膜通過メカニズムなどは明らかでない.さらに,食事を通して摂取されるアポカロテノイドは多岐にわたるため,それらの生体利用性や代謝・組織蓄積の理解に向けた基盤研究も必要である.このような研究の先には,カロテノイドによる健康作用メカニズムの解明のみならず,新たな機能性食品の創成に展開してゆくことが期待される.
Reference
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