解説

生分解性プラスチックでプラスチックよりももっと楽に便利に
耐久性ある製品を使用後に酵素処理で速やかに分解

Biodegradable Plastics Become More Useful than Non-Degradable Plastics: Enzymes Decompose Durable Products in the Field When They Are No Longer Needed

Hiroko Kitamoto

北本 宏子

農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)

Hirokazu Ueda

植田 浩一

農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)

Yuka Sameshima-Yamashita

山下 結香

農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)

Published: 2025-05-01

プラスチック製のストローが海亀の鼻に刺さっている衝撃的な動画は,プラスチックごみ処理を皆に考えさせた.元セーリング選手のエレン・マッカーサーが,無駄な使用を減らしリサイクルする「循環経済」を提唱している.本稿では,回収やリサイクルが難しい場合の「代替品」として,生分解性プラスチックを取り上げる.従来品と同じ使用感で,不要になった時に消せれば,実はプラスチックよりも利便性が高くなる.固定電話が無い国々で携帯電話が速やかに普及したように,廃棄物回収システムが不十分な国々だけでなく,農業や食品など,プラスチックと土やバイオ性の付着物の分別が難しい分野では,「代替品」が課題を解決するかもしれない.

Key words: 生分解性プラスチック; 酵素; 循環経済; 野菜; 担子菌酵母

世界のプラスチック使用量と環境中への漏洩量,はじめの対策

プラスチックは,加工の過程で温度を変えると様々な形に成形することができる(可塑性がある)有機高分子である.軽くて丈夫,安価で衛生的で利便性が高く,様々な用途で人の営みを支えている.このため,その生産と使用は急増している.世界では,2020年には4億トンを超えるプラスチックが作られ,消費された.2040年にはその1.7倍に増えると推量されている(図1図1■プラスチックの排出量(百万t/年)と処理(文献3をもとに改訂)(1)1) OECD: Global Plastics Outlook: Economic drivers, environmental impacts and policy options, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/en/publications/global-plastics-outlook_de747aef-en.html, 2022..身近な状況では,日本国内で,世界の2%に相当する年間約900万トンのプラスチックを消費している(2)2) プラスチック循環利用協会:2024年プラスチックリサイクルの基礎知識,https://www.pwmi.or.jp/new_data-pamphlet.php, 2024..1人あたり年間約70 kg,1日あたり200 g程度に相当し,先進国では平均的である.低・中所得国では,1人あたり年間約20 kgを消費している.プラスチックの消費量は,所得が上がるにつれ増えるため,今後特に低・中所得国では大きく増える(3)3) SYSTEMIQ: The Pew Charitable Trusts: Breaking the plastic wave, https://www.pewtrusts.org/-/media/assets/2020/07/breakingtheplasticwave_report.pdf, 2020.

図1■プラスチックの排出量(百万t/年)と処理(文献3をもとに改訂)

世界各国で使われているプラスチックのほとんどが,石油から作られており,リサイクルされたプラスチックの割合はまだ6%である(1)1) OECD: Global Plastics Outlook: Economic drivers, environmental impacts and policy options, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/en/publications/global-plastics-outlook_de747aef-en.html, 2022.(日本は,2011~2020年までの間,23~25%(2)2) プラスチック循環利用協会:2024年プラスチックリサイクルの基礎知識,https://www.pwmi.or.jp/new_data-pamphlet.php, 2024.).そして,使用後に8割が廃棄される(1)1) OECD: Global Plastics Outlook: Economic drivers, environmental impacts and policy options, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/en/publications/global-plastics-outlook_de747aef-en.html, 2022..プラスチックは軽くて丈夫なことから,環境中へ漏洩しやすく蓄積してしまう.2020年には年間2000万トン漏洩し,過去に流出したプラスチックが1億5200万トン蓄積している.2040年には3000万トンが漏洩し,環境中に蓄積される量は3億トンへ倍増する(1)1) OECD: Global Plastics Outlook: Economic drivers, environmental impacts and policy options, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/en/publications/global-plastics-outlook_de747aef-en.html, 2022.

このような物質の流れが一方向に進む経済社会活動は,「線形経済」と呼ばれる.使用済プラスチックをリサイクルすることで廃棄を減らす,より持続的な循環型の経済活動へ転換を図ることを目指し,2019年のG20大阪サミットでは,2050年に海洋のプラスチック追加汚染をゼロにする目標が共有され,2023年のG7では目標時期を2040年までに早めた(4)4) 環境省大臣官房総務課広報室:海洋プラスチックごみ,ecojin’s EYE, https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230705.html, 2023..国連では,193の加盟国によって,プラスチック汚染に対処する国際的な規制条約の締結に向けて交渉が続けられている(5)5) United Nations Environment Programme: Intergovernmental negotiating committee on plastic pollution, https://www.unep.org/inc-plastic-pollution, 2025年3月11日掲載を確認..この間,各国ごとに循環経済への転換に向けて取り組みが進められている.わが国では,使用量の削減,再利用,リサイクル(あわせて3R)に加えて再生可能な資源(バイオマス)を活用する「3R+Renewable」を推進するプラスチック資源循環法が2022年から施行された(6)6) 環境省:プラスチック資源循環法,https://plastic-circulation.env.go.jp/, 2024..身の回りでも,レジバッグや,カトラリーなどの短期使用のプラスチックの削減,容器包装プラスチックの回収リサイクル促進などの取り組みが開始されている.

プラスチックの漏洩ルートに基づき改訂された対策:「代替品」

プラスチックの流出は,主に陸地で起きており,その一部が,直接または河川を経由して海へ流出している.世界全体で,廃棄されたプラスチックのうち4割が,管理が不適切であり,漏洩されやすい状態にある(図1図1■プラスチックの排出量(百万t/年)と処理(文献3をもとに改訂)).廃棄物収集率は,先進国では100%近いが,低・中所得国では収集システムの整備が十分ではない.こうして取り残されている収集と管理がされていない廃棄物が漏洩しやすい.それだけでなく,収集された廃棄物の堆積や埋立地などからも,そこに置いた人が意図しない要因により移動して,管理できなくなる.先進国においても,屋外に設置されたごみ収集場所や,農業など屋外で使われるプラスチック類が風雨の力で運び出されやすい(1, 3)1) OECD: Global Plastics Outlook: Economic drivers, environmental impacts and policy options, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/en/publications/global-plastics-outlook_de747aef-en.html, 2022.3) SYSTEMIQ: The Pew Charitable Trusts: Breaking the plastic wave, https://www.pewtrusts.org/-/media/assets/2020/07/breakingtheplasticwave_report.pdf, 2020..日本でも,年間数万トン(使用量の1~2%)が環境中に漏出している(7)7) 磯辺篤彦:化学と生物,58, 105 (2020).

これまでのプラスチック対策は,使用削減とリサイクルに対策に力が入れられていた.しかし,Lauら(8)8) W. W. Y. Lau, Y. Shiran, R. M. Bailey, E. Cook, M. R. Stuchtey, J. Koskella, C. A. Velis, L. Godfrey, J. Boucher, M. B. Murphy et al.: Science, 369, 1455 (2020).は,環境中へ漏洩しているプラスチックは,不適切に管理されていた廃棄物から生じていることに着目した.漏出しやすい製品は,回収・リサイクルが難しいため,プラスチックから代替品へ転換する「上流での対策」に取り組むことによって,不適切に管理される廃棄物が大幅に減り,環境中への漏出が抑えられる.すなわち,プラスチックの削減,リサイクルだけでなく代替品や代替方法を組み合わせる取組が,漏洩を止めるために必要である(図1図1■プラスチックの排出量(百万t/年)と処理(文献3をもとに改訂)).国連(9)9) United Nations Environment Programme: Turning off the Tap. How the world can end plastic pollution and create a circular economy, https://www.unep.org/resources/turning-off-tap-end-plastic-pollution-create-circular-economy, 2023.,OECD(経済協力開発機構)(10)10) OECD: Policy scenarios for eliminating plastic pollution by 2040, https://www.oecd.org/en/publications/policy-scenarios-for-eliminating-plastic-pollution-by-2040_76400890-en.html, 2024.,国際条約の検討委員会(5)5) United Nations Environment Programme: Intergovernmental negotiating committee on plastic pollution, https://www.unep.org/inc-plastic-pollution, 2025年3月11日掲載を確認.では,代替品の導入を踏まえてプラスチック対策の検討を進めている.

代替品の設計,生分解性プラスチックを代替品に用いるための課題

環境中に蓄積しているプラスチック製品の多くは,短期用途に大量消費されている,柔らかいフィルム状成型品である(図1図1■プラスチックの排出量(百万t/年)と処理(文献3をもとに改訂)(1, 3)1) OECD: Global Plastics Outlook: Economic drivers, environmental impacts and policy options, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/en/publications/global-plastics-outlook_de747aef-en.html, 2022.3) SYSTEMIQ: The Pew Charitable Trusts: Breaking the plastic wave, https://www.pewtrusts.org/-/media/assets/2020/07/breakingtheplasticwave_report.pdf, 2020..プラスチックの代替品や代替方法は,これらの用途に十分な性能,安全性,環境への影響が少ないこと,技術的実現可能性,経済性,入手可能性及び利用しやすさなどが求められる.

代替品の候補として,生分解性プラスチックは,用途に十分な耐久性があれば,従来のプラスチック製品と使用感が近い.我が国では,バイオプラスチック導入ロードマップ(2022)において,プラスチックが分解して欲しい場面で生分解性プラスチックの利用が推奨されているが,使用事例が農業用生分解性マルチフィルム(以下,生分解性マルチ)や生ごみ回収袋などでまだ少ない(11)11) 環境省,経済産業省,農林水産省,文部科学省:バイオプラスチック導入ロードマップ,https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/roadmap, 2021..代替品としてより幅広く使用する場合は使用量が増えるので,予期せぬ環境リスクを回避するために,環境影響に関する研究と,製品ごとに分解制御技術の向上や使用者が適切に扱えるような案内が必要である.

使用者が,プラスチック製よりも生分解性プラスチック製品を選ぶ理由

我が国において,生分解性プラスチックの生分解性機能を最も活用しているのは,野菜を生産する際に,畑の表面を被覆する農業用マルチフィルムである.国内のマルチフィルムの市場は,4万トン程度で(11)11) 環境省,経済産業省,農林水産省,文部科学省:バイオプラスチック導入ロードマップ,https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/roadmap, 2021.,従来はポリエチレン(PE)製であったが,生分解性プラスチック製品が増えており,現在1割程度に達している(12)12) 農業用生分解性資材普及会:生分解性マルチの利用状況樹脂の出荷量調査結果について,http://www.aba-seibunkai.com/pdf/2021statistics.pdf, 2020..農業者が,片付けが楽で廃棄物が出ないことを高く評価している.価格はPE製に比べて3倍程度であるが,リピーターが多い.収穫後のフィルムの片付け作業は,生分解性製品は,畑に鋤き込み,土の中で分解させる「産業廃棄物の自家処理」が認められている.一方,PE製品は,野焼きや埋め立て処理が禁止されており,フィルムの断片を残さないように完全に回収し,付着している土や植物を振り払う.このような作業者が好まない汚れる重労働をかけて,さらに産業廃棄物として処理をする過程で専門業者による水洗後も,汚れのためリサイクルに適さず,熱源として加工,焼却されている.「コラム」で紹介したように,我が国の農業は労働力不足で,大規模化や法人経営が増えている.法人では,資材の購入費だけでなく片付けに係る労賃までを総合して判断するため,生分解性マルチの導入量は今後も増えていくことが予想される.

EUでも,生分解性マルチが環境に良い効果があると評価されている.PE製品の場合,EU内で消費した6割しか回収されず,4割は行方不明であった.回収したフィルムには自重の7割に相当する土が付着しており,PE製品の処理に伴い畑の有機物が失われると考えられている(13)13) European Union: Conventional and biodegradable plastics in agriculture, https://environment.ec.europa.eu/system/files/2021-09/Agricultural%20Plastics%20Final%20Report.pdf, 2021.

また,EUでは,循環経済へ転換する活動として廃棄物の埋め立てを減らすために,プラスチックと,生ごみの資源化が制度化された.生ごみを,生分解性プラスチック製袋を使って回収する地域は,袋を使わない地域よりも回収率が高くなった(14)14) E. Favoino & M. Giavini: Bio-waste generation in the EU: Current capture levels and future potential, 2nd Edition, Bio-based Industries Consortium, https://biconsortium.eu/sites/biconsortium.eu/files/publications/Bio-waste%20generation%20in%20the%20EU%20Current%20capture%20levels%20and%20future%20potential%202024.pdf, 2024..世界のほとんどの国は,廃棄物を埋め立て処理しているので,生分解性プラスチック製袋を用いる生ごみの回収と資源化が標準化されると世界の有機物循環への効果が高い.

生分解性速度コントロールへの使用者からの要望とジレンマ

生分解性プラスチック製品は,複数の物性が異なる生分解性素材を混合して成型されている.生分解性マルチに使用される素材は,脂肪族ポリエステルである.ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA),ポリブチレンサクシネート(PBS),ポリブチレンアジペート-co-テレフタレート(PBAT)は有機酸とブタンジオールのエステル結合物であり,ポリ乳酸は,乳酸同士のエステル結合物である(表1表1■生分解性マルチフィルムに使用される生分解性素材とその生分解性).生分解性マルチの場合,畑ごとに異なる環境条件や気象条件下で,使用中に被覆機能を保つ必要がある.また,農業者からは,様々な栽培時期や栽培期間の野菜の栽培に使える耐久性が高い製品への要望がある.このようなニーズに応え,最近の生分解性マルチは,生分解が遅いPBATが主成分として使われ,さらに常温での分解が遅いポリ乳酸を添加した製品もある.しかし,耐久性が高い製品は,使用後の分解が使用者の期待よりも遅い場合もある.

表1■生分解性マルチフィルムに使用される生分解性素材とその生分解性

用途に十分な機能や耐久性を備えた生分解性プラスチック製品の分解速度が,使用者が期待するよりも遅い場合があるという問題は,EUでは,生ごみ回収用袋の用途でも生じている(15)15) European Union: Synopsis report on the consultation on the policy framework on biobased, bio-degradable and compostable plastic, https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/85ed8b1e-705d-11ed-9887-01aa75ed71a1/language-en, 2022..生ごみ回収に十分な耐久性を持つ生分解性プラスチック製の袋は,高温で管理できる堆肥化設備では分解したが,温度が上がりにくい堆肥中では分解が不十分であり,限られた地域でしか使えない.

このように,生分解性プラスチック製品には使用期間中は耐久性を保ち,かつ使い終わったタイミングで分解する,相反する2つの機能が求められる(16)16) Science Advice for Policy by European Academies: Biodegradability of plastics in the open environment https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/0c0d6267-433a-11eb-b27b-01aa75ed71a1, 2020.

この要望に対して,我々は,耐久性が高い素材で作られた製品を,使用者自身で「生分解性プラスチック分解酵素」を処理することによって分解促進させる方法の開発に取り組んできた.植物表層に常在するPseudozyma属やCryptococcus属の担子菌系酵母が,分解酵素を生産することを見出し,イネ常在菌Pseudozyma antarcticaの酵素が,単独素材で作られたフィルムをPBSA>PBS>PBATの順で分解することを明らかにした.市販の生分解性マルチフィルムの数cm四方の断片を,生分解性プラスチック分解酵素PaEが入った緩衝液中に浸漬すると,反応時間を延ばすにつれ,フィルムの重さが軽くなった.2020年の化学と生物「セミナー室」では,これら実験室で行った研究を紹介している(17)17) 北本宏子:化学と生物,58, 486 (2020)..本報ではいよいよ,野菜の生産に生分解性プラスチック製資材を用い,その分解を酵素処理で促進させる取り組みを紹介する.さあ,実験室で作った酵素を手に持って,長靴を履いて畑に出よう!

「生分解性プラスチック分解酵素」を用いた生分解性マルチ分解促進技術(18)

はじめの実験は,湿度コントロールをしやすいビニールハウス内で,分解が早い素材であるPBSA製の黒色に着色されたフィルムを,土で作った平畝の表面に展張した.フィルムの表面に酵素を処理した夕方から翌朝までの動画を,文献(18)18) H. Kitamoto, M. Koitabashi, Y. Sameshima-Yamashita, H. Ueda, A. Takeuchi, S. Sato, A. Saika & T. Fukuoka: Sci. Rep., 13, 2386 (2023).の補足資料で参照されたい.プラスチックの分解は,合成反応とは逆に,エステル結合が切断されて水が加わる加水分解反応である.フィルムの表面に乗せることができる酵素溶液の量は限られるため,水分の蒸散を抑えて分解反応に使われるようにしたい.夜間は日中よりも気温が低く湿度が高くなるため,夕方に酵素を処理した.翌朝までにフィルムは,全面に縮れや亀裂が生じ,表面が凹んで酵素溶液が溜まっていた部分に穴が開いた.PaEの至適pHは微アルカリ条件であるが,フィルムのポリマー鎖の切断により生じたカルボキシル基により,酵素溶液のpHが急激に下がった.次に行った実験は,実現場に近づくように,露地の畝に展張した市販生分解性マルチの表面に酵素溶液を処理した.市販生分解性マルチは,畑で数か月間被覆を保つように耐久性が高い.酵素溶液の効果を高めるために,畑土壌のpH調整剤として使われている炭酸カルシウムを添加した.フィルムは,酵素を処理すると一晩で劣化し,翌日には目視で判別できる穴や亀裂が生じた.併用する炭酸カルシウムの粒径が小さいほど効果が高かった.電子顕微鏡下では,ミクロレベルの亀裂が観察された.酵素処理濃度が高いほど長く太い亀裂が数多く発生した.

農業者の満足度向上を目指す

農業現場では,使用済生分解性マルチを耕うんによって鋤き込みした後に,周囲にフィルム断片が飛散し目につくことが主な課題である.畑に張った生分解性マルチの表面に20~30°C下で酵素を処理し,翌日耕うんした後で,土の表面と内部から目につくフィルム断片を拾い集めた.泥を洗い落とし総重量を測ったところ,酵素を処理した畝ではフィルム断片が減った.気温が低い晩秋は,フィルムの劣化が不十分になりやすいが,気温15°C下での酵素処理でも同じような効果が得られた.畑から集めたフィルム断片を全て電子画像化したところ,酵素を処理した畝では,大きな断片が減り小さい断片が多くなった(graphical abstract).断片は厚みが薄くなり,形がフィヨルドのように周囲が入り組み内部に多数の亀裂が生じた(図2図2■酵素処理後に畑に鋤き込んだ土の中から回収した生分解性マルチ断片の様子).畑は,次の作付けまでに数回耕うんされるので,断片はさらに細かくなる.生分解性プラスチックは,表面から分解するため,薄く細かくなることで分解が速くなる.一方,酵素を処理しないで鋤き込んだ断片は大型で耕運機に絡まりやすいものもあり,各々の断片は劣化が少なかった.

図2■酵素処理後に畑に鋤き込んだ土の中から回収した生分解性マルチ断片の様子

野菜の生産の省力化,収益向上とプラスチック汚染の削減を目指して

県公設試の栽培の専門家による協力(19~21)19) 生分解性プラスチック利用技術プロジェクト:生分解性マルチの新たな活用法・成果集,神奈川県農業技術センター,https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450008/seipuramarutikatuyoseikasyu.html, 2025.20) 冨田和美,北本宏子,植田浩一,山下結香,竹内明彦,古矢桃子,藤田 裕:茨城県農業総合センター研究報告,第7, 72 (2025).21) 馬場久美子,山﨑修平,内藤一孝,長坂克彦:山梨県総合農業技術センター研究報告,第17, 23 (2025).を得て,生分解性マルチを用いた野菜の栽培に分解酵素を併用した場合の効果を検証した.露地栽培では,鋤き込んだ後に飛散する断片が小型化し,断片は鋤き込みされた土の中で劣化が早いことを確認した.また,連用による野菜の栽培への影響は見られなかった.さらに,収益向上や省力効果がある栽培方法の作出にも取り組んだ.栽培する地域や品目ごとに合わせた改変が必要ではあるが,耐久性が高い製品1枚を用いた野菜の二毛作が可能となった.資材費用を抑え,マルチフィルムの展張作業が1回で済む.長期栽培に耐えるフィルムであっても,酵素処理後は土壌中で短期間に劣化した.また,遮熱性が高い製品を用いることにより,通常の収穫・出荷時期よりも遅らせて,夏から秋にかけて露地やハウス栽培で栽培する「抑制栽培」もできた.露地だけでなくハウス栽培でも酵素処理を併用することにより片付けが容易になった.フィルムは,使用者が望むタイミングで酵素を処理すると劣化するので,可食部に酵素が付着しないよう注意を払えば,栽培途中に分解させる方法など,工夫次第で様々な場面で生分解性プラスチックの分解を酵素で促進できることを実証した.一方で,農業者が酵素処理を負担に感じないように,処理の軽労化と効果の最大化への改良が必要であることも明らかとなった.

民間企業と共同で,新しい農業生産資材も開発した.日本甜菜製糖株式会社とは,野菜や花などの苗を育苗後に,ポットのまま植え付けることができる生分解性プラスチックをラミネートした紙を用いた育苗ポットを開発した.分解酵素を処理してから植え付けると,土の中でポットが見えなくなる(図3図3■生分解性プラスチック製ペーパーポットへの酵素処理と土壌植え付け後の状況22)(22)22) 中川卓也,佐々木壮規,山下結香,北本宏子:日本土壌肥料学会 講演要旨集,70, P7-2-11 (2024).

図3■生分解性プラスチック製ペーパーポットへの酵素処理と土壌植え付け後の状況22)

さらに,生分解性プラスチックは,再生可能なバイオ由来原料の比率を高めることで原料の石油依存を減らすことが可能となる.三菱ケミカル株式会社とともに取り組み,高い引き裂き強度を備えたフィルムに成形できる新たな素材が完成した(23)23) 三菱ケミカルグループ:ニュースリリース生分解性バイオポリエステル樹脂を新規開発~高いバイオマス度,柔軟性,高い裂け強度,優れた加工性を実現~, https://www.mcgc.com/news_release/01839.html, 2024..耐久性が高く,かつ酵素で分解されるマルチ等を作ることができる.このように,生分解性プラスチック材料や農業資材の加工技術を向上させることにより,環境に流出しやすいフィルムの生分解性プラスチックへの代替を促進することができる.

生分解性プラスチック分解酵素の供給を目指して

プラスチックの代替品として生分解性プラスチックと分解酵素を組み合わせる方法では,酵素がたくさん必要になる.酵素は,生産効率が高く,安定性が良く,価格は安いほど実現性が高くなる.分解酵素PaEを生産する担子菌酵母P. antarcticaは,今までタンパク質大量生産の宿主として用いられてこなかったが,PaEを大量生産できるように改良を進めている.子嚢菌類を用いて蓄積されてきたモデル生物およびタンパク質生産の宿主としての研究で得られた知見は,担子菌類の研究を加速する上で大きな助けとなっている.また,学校で習う機会が少ない培養スケールアップや,培養後の製剤化までの処理工程も創意工夫が欠かせない分野である.

Acknowledgments

本研究は,生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業(25017AB, JPJ007097),環境省 脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業の支援を受けて取り組んだ内容を中心に紹介した.事業への助言をいただいた方々,事業へ参画した小板橋基夫博士をはじめ,すべての担当者の方々に感謝する.

Reference

1) OECD: Global Plastics Outlook: Economic drivers, environmental impacts and policy options, OECD Publishing, Paris, https://www.oecd.org/en/publications/global-plastics-outlook_de747aef-en.html, 2022.

2) プラスチック循環利用協会:2024年プラスチックリサイクルの基礎知識,https://www.pwmi.or.jp/new_data-pamphlet.php, 2024.

3) SYSTEMIQ: The Pew Charitable Trusts: Breaking the plastic wave, https://www.pewtrusts.org/-/media/assets/2020/07/breakingtheplasticwave_report.pdf, 2020.

4) 環境省大臣官房総務課広報室:海洋プラスチックごみ,ecojin’s EYE, https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230705.html, 2023.

5) United Nations Environment Programme: Intergovernmental negotiating committee on plastic pollution, https://www.unep.org/inc-plastic-pollution, 2025年3月11日掲載を確認.

6) 環境省:プラスチック資源循環法,https://plastic-circulation.env.go.jp/, 2024.

7) 磯辺篤彦:化学と生物,58, 105 (2020).

8) W. W. Y. Lau, Y. Shiran, R. M. Bailey, E. Cook, M. R. Stuchtey, J. Koskella, C. A. Velis, L. Godfrey, J. Boucher, M. B. Murphy et al.: Science, 369, 1455 (2020).

9) United Nations Environment Programme: Turning off the Tap. How the world can end plastic pollution and create a circular economy, https://www.unep.org/resources/turning-off-tap-end-plastic-pollution-create-circular-economy, 2023.

10) OECD: Policy scenarios for eliminating plastic pollution by 2040, https://www.oecd.org/en/publications/policy-scenarios-for-eliminating-plastic-pollution-by-2040_76400890-en.html, 2024.

11) 環境省,経済産業省,農林水産省,文部科学省:バイオプラスチック導入ロードマップ,https://plastic-circulation.env.go.jp/shien/bio/roadmap, 2021.

12) 農業用生分解性資材普及会:生分解性マルチの利用状況樹脂の出荷量調査結果について,http://www.aba-seibunkai.com/pdf/2021statistics.pdf, 2020.

13) European Union: Conventional and biodegradable plastics in agriculture, https://environment.ec.europa.eu/system/files/2021-09/Agricultural%20Plastics%20Final%20Report.pdf, 2021.

14) E. Favoino & M. Giavini: Bio-waste generation in the EU: Current capture levels and future potential, 2nd Edition, Bio-based Industries Consortium, https://biconsortium.eu/sites/biconsortium.eu/files/publications/Bio-waste%20generation%20in%20the%20EU%20Current%20capture%20levels%20and%20future%20potential%202024.pdf, 2024.

15) European Union: Synopsis report on the consultation on the policy framework on biobased, bio-degradable and compostable plastic, https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/85ed8b1e-705d-11ed-9887-01aa75ed71a1/language-en, 2022.

16) Science Advice for Policy by European Academies: Biodegradability of plastics in the open environment https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/0c0d6267-433a-11eb-b27b-01aa75ed71a1, 2020.

17) 北本宏子:化学と生物,58, 486 (2020).

18) H. Kitamoto, M. Koitabashi, Y. Sameshima-Yamashita, H. Ueda, A. Takeuchi, S. Sato, A. Saika & T. Fukuoka: Sci. Rep., 13, 2386 (2023).

19) 生分解性プラスチック利用技術プロジェクト:生分解性マルチの新たな活用法・成果集,神奈川県農業技術センター,https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450008/seipuramarutikatuyoseikasyu.html, 2025.

20) 冨田和美,北本宏子,植田浩一,山下結香,竹内明彦,古矢桃子,藤田 裕:茨城県農業総合センター研究報告,第7, 72 (2025).

21) 馬場久美子,山﨑修平,内藤一孝,長坂克彦:山梨県総合農業技術センター研究報告,第17, 23 (2025).

22) 中川卓也,佐々木壮規,山下結香,北本宏子:日本土壌肥料学会 講演要旨集,70, P7-2-11 (2024).

23) 三菱ケミカルグループ:ニュースリリース生分解性バイオポリエステル樹脂を新規開発~高いバイオマス度,柔軟性,高い裂け強度,優れた加工性を実現~, https://www.mcgc.com/news_release/01839.html, 2024.