化学の窓

時間栄養学の展望
実生活に応用していくための食事術

Akiko Furutani

古谷 彰子

愛国学園短期大学家政科

早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構

Published: 2025-05-01

はじめに

2017年にノーベル生理学・医学賞を受賞するに至った「体内時計」であるが,同時に体内時計と食事の関係を研究する「時間栄養学」という分野も徐々に脚光を浴び続けている.そもそも,時間栄養学が生まれた背景には,薬物と体内時計の関係を調べる「時間薬理学」という学問の存在がある.実際の薬物処方にも生かされている考え方の一つであるが,主作用の効果増強と,副作用の軽減に役立っている.同様に,食物や栄養や機能食品と体内時計の関係を調べる学問として,筆者らは長年「時間栄養学」を提唱し続けている.実際,エネルギー代謝の中核をになう分子(SIRT-1, PGC-1α, PPARs)などが時計遺伝子の発現調節に関わり,また逆に,時計遺伝子の制御下にあるという報告から,体内時計の異常が,肥満や糖尿病,高血圧などの生活習慣病のリスクファクターとなることは明らかである.栄養素の吸収・消化・代謝に関わる酵素の遺伝子発現やその活性が体内時計と深く関わっている可能性については,現在も続々とエビデンスが構築されている最中である.そこで,本稿では,時間栄養学についての概要ととともに,新しい知見を合わせて解説していく.

時間栄養学

病気の症状にリズム現象が見られることはよく知られている.たとえば花粉症などのアレルギー症状は明け方から早朝に多く(モーニングアタック),虚血性心疾患も早朝から午前中にかけて起こりやすい.また,夕方にかけて血圧や尿量が最大になるほか,自然分娩開始の確率が最大になるのが真夜中というデータも存在する.実際明け方のアレルギー発作を抑えるために,ちょうど症状が発現しそうな時刻に血中濃度が高まる工夫をした薬もある.病気や症状の特性に合わせた時間を考慮した飲み方によって,薬効を最大限に生かす投与法を研究する学問を狭義の意味で「時間薬理学」という.その一方で,睡眠の質の向上や入眠困難の改善を目的として,メラトニンのような体内時計に作用する薬が販売されている.私たちは体内時計に薬がどのように作用するかを調べる学問を『体内時計作用薬理学』と便宜上呼んできた(1)1) S. Shibata & A. Hirao: 日薬理誌,137, 110 (2011) .

「時間栄養学」も同様の2つの側面が考えられ,狭義の意味での「時間栄養学」と「体内時計作用栄養学」双方から研究を行っている.エネルギー代謝や各種トランスポーターに関わる多くの遺伝子発現がリズム変動していることから,肥満予防のために寝る前には過食しない食べ方はまさに,狭義の「時間栄養学」を意味する言葉であるし,2009年に文部科学省から提唱された「早寝早起き朝ごはん運動」(2)2) 文部科学省:できることからはじめよう 早寝早起き朝ごはん,https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/asagohan/__icsFiles/afieldfile/2020/1324879_1.pdf, 2020. にもあるように朝食を摂取することで体内時計を作用させる食べ方は「体内時計作用栄養学」的食事の一つである.つまり食事は,従来の栄養素等の構成や量といった情報だけでなく,「いつ」食事を摂るかという時刻の情報も重要な問題になってくるのである.時間栄養学の知見は,私たちが生命活動を営む上で必要不可欠となる朝食,昼食,夕食のメニュー開発,機能性食品への応用へも寄与し続けている.

体内時計

哺乳動物の体内時計は,日々の睡眠覚醒やホルモン分泌,代謝などを制御している.体内時計は主時計である視交差上核を中心として,脳にある脳時計,末梢組織の各臓器にある末梢時計の階層構造がシステム化されている.脳時計や末梢時計に時刻の情報を伝える視交差上核(SCN)は「親時計」,SCN以外の脳時計や末梢時計に発現している時計は「子時計」として定義され,生理機能のタイミングに寄与していると考えられている(3, 4)3) J. Bass & J. S. Takahashi: Science, 330, 1349 (2010).4) M. P. Pando, D. Morse, N. Cermakian & P. Sassone-Corsi: Cell, 110, 107 (2002)..この体内時計が持つ周期は24時間と少し長いリズムであるため,地球の自転周期の24時間に合わせないと位相がずれていく.この周期を24時間周期に合わせる機構を「同調」と呼び,外界の明暗周期が同調刺激となる.マウスやラットに毎日一定時刻に餌を与えると,視交叉上核以外の肝臓や肺など末梢臓器の時計遺伝子発現リズムは同調刺激となることがわかっているが(5)5) R. Hara, K. Wan, H. Wakamatsu, R. Aida, T. Moriya, M. Akiyama & S. Shibata: Genes Cells, 6, 269 (2001).,24時間周期を刻むため,食事時間に合わせて覚醒状態,活動量,体温,インスリン,およびコルチコステロン遊離を含む多数の生理的新陳代謝機能がピークを迎えることもわかっている.さらに面白いことに,この同調因子は非光体内時計同調因子として光をマスキングして働き,SCNの時計遺伝子発現には影響を与えないことも報告されている(6)6) S. Shibata, Y. Tahara & A. Hirao: Adv. Drug Deliv. Rev., 62, 918 (2010)..2017年には,一定の明暗環境でも食事時間をずらすと体内時計のリズムが変わるという対ヒト研究の報告がなされ,血糖値,インスリンのリズム,末梢臓器の時計遺伝子発現リズムは,光同調下においても食事性同調作用の裏付けともなった(7)7) S. M. T. Wehrens, S. Christou, C. Isherwood, B. Middleton, M. A. Gibbs, S. N. Archer, D. J. Skene & J. D. Johnston: Current Biology, 27, 1768 (2017)..このことからも食事は体内時計を動かすための重要なファクターの一つであることがわかる.

三大栄養素と体内時計

体内時計は,特に長い絶食後(朝)の食事によってリセットされやすいことが知られており,炭水化物,タンパク質,脂質の3大栄養素(PFC)のバランスは,健康的な日常生活において重要な役割を果たし,適切なバランスでの摂取が体内時計の調整にも寄与することも報告されている.マウスの実験においても,栄養素を単体で摂取するよりもバランスの良い食餌の方が,より体内時計のリセット効果があることがわかっている.さらに,バランスの良い食餌の中で血糖値が上昇(インスリンが分泌)しやすい食事が,リセット作用を起こしやすいことが報告されている(8)8) A. Hirao, Y. Tahara, I. Kimura & S. Shibata: PLoS One, 4, e6909 (2009).

ただし,体内時計を調整しやすい食事は朝に,影響を及ぼしにくい食事は夕に摂るなど,特定の栄養素の有無ではなく,食事全体のバランスや摂取のタイミングが重要である.

炭水化物では,消化が速く,インスリン分泌を上昇させるαポテトスターチなどの糊化デンプンを含む食品が,より体内時計の同調に効果的であることがわかっている.また,穀類デンプンは体内時計の同調効果が高く朝食向きであり,対して,根茎デンプンは同調効果が低いため夕食向きであることも実験から明らかとなった(9)9) M. Itokawa, A. Hirao, H. Nagahama, M. Otsuka, T. Ohtsu, N. Furutani, K. Hirao, T. Hatta & S. Shibata: Nutr. Res., 33, 109 (2013)..すなわち,朝食に炊き立てのご飯や焼き立てのパンを提供することは,時間栄養学の観点から考えても非常に有効であると考える.脂質ではn-3系脂肪酸のDHAやEPAなどを多く含む魚油が体内時計のリセットに効果的であり,大腸に存在するGPR(G protein-coupled receptor)120を介して,インクレチンであるGLP-1を上昇させ,インスリン分泌を上昇させること,DHA・EPA含有量の高いツナ由来の魚油が有意に体内時計のリセットを引き起こしていることが報告されている(10)10) A. Furutani, Y. Ikeda, M. Itokawa, H. Nagahama, T. Ohtsu, N. Furutani, M. Kamagata, Z. H. Yang, A. Hirasawa, Y. Tahara et al.: PLoS One, 10, e0132472 (2015).

100%タンパク質も炭水化物と比較すると作用は弱いが,有意な体内時計同調作用が起こる.この際,糖質が含まれていないため,インスリンレベルの上昇は確認されなかったが,血中や肝臓でIGF-1(IGF-1: insulin-like growth factor-1;インシュリン様成長因子-1)やグルカゴンの上昇が見られた.したがって,タンパク質が豊富な食事では,IGF-1やグルカゴンがインスリンに代わって,同調シグナルになっていたことがわかる.また,1型糖尿病モデルマウスに高タンパク質食を与えると食事性同調が起こり,IGF-1の増大も報告されている.アミノ酸の中では,システイン,ロイシン,ヒスチジンが同調効果を示し,中でもシステインがIGF-1を上昇させ,最も強い同調効果を有することがわかっている(11)11) Y. Ikeda, M. Kamagata, M. Hirao, S. Yasuda, S. Iwami, H. Sasaki, M. Tsubosaka, Y. Hattori, A. Todoh, K. Tamura et al.: EBioMedicine, 28, 210 (2018)..血糖値のコントロールに適したバランスに調整することは,糖尿病患者の食事指導の第一目標である.一方で,健康な人においても,食後血糖値の過度な上昇を抑えることは糖尿病の予防に寄与すると考えられている.近年の研究では,高脂肪食は高炭水化物食に比べ,その後の食後血糖値が高くなることが示されており,食事内容のバランスが血糖値管理に及ぼす影響が注目されている.また,豊富なタンパク質食を朝食に食べることで,昼食,夕食ともに食後血糖値が抑制される(12)12) T. Ando, S. Nakae, C. Usui, E. Yoshimura, N. Nishi, H. Takimoto & S. Tanaka: Am. J. Clin. Nutr., 108, 332 (2018).ほか,高タンパク質の昼食が夕食の食後血糖値を抑制することも報告していることからも(13)13) M. Kuwahara, H. Kim, A. Furutani, Y. Mineshita, T. Nakaoka & S. Shibata: Nutr. Metab. (Lond.), 19, 65 (2022).,このようなタンパク質豊富な時間栄養学的食事は糖尿病予防のための指導にも役立てることが出来る可能性がある.

血糖値と体内時計

ヒトの耐糖能は日内変動を示すことが示されており,朝よりも夕方の方が低いことが報告されている.耐糖能の日内変動は驚くほど大きく,朝に耐糖能が正常な成人でも,夕方には糖尿病予備軍と同程度の代謝を示す(14)14) R. J. Jarrett, I. A. Baker, H. Keen & N. W. Oakley: BMJ, 1, 199 (1972)..さらに,糖尿病予備軍を対象とした経口耐糖能試験でも,夕方の血糖値は朝より40 mg/dL高いことも報告されている(15)15) T. Sonnier, J. Rood, J. M. Gimble & C. M. Peterson: J. Diabetes Complications, 28, 836 (2014)..このことから,同様の食品を摂取した場合でも,夕食後の食後血糖は朝食に比べて方が高くなりやすいことがうかがえる.しかしながら,一般的な食事内容は朝:昼:夜で考えると2:3:4になる傾向にある.また,昼食から夕食にかけては食間の絶食時間が長くなってしまう傾向にあり,ただでさえ血糖値が上がりやすい時間帯に,血糖スパイク(血糖値の急上昇・急降下)が引き起こされる危険性がある.そこで筆者らは間食の有用性についても研究を進めてきた.健康な若年成人男女12名を対象にした,4日間のクロスオーバー試験では,17時に被験食:①フルーツグラノーラ,②グルコース,③間食なし,④夕食後にフルーツグラノーラを各群100 kcal間食したのち,20時に夕食を喫食し他のちの血糖値と睡眠傾向を調べた.その結果,①フルーツグラノーラ群が夕食後最大血糖値を有意に抑制し,夕食後2時間のAUCにおいても①フルーツグラノーラ,ついで②グルコースと③間食なし,最後に④夕食後にフルーツグラノーラの群順に低かった.アンケート調査でも,夕食までの空腹感,集中力,寝つき,良質な睡眠の項目で有意な差を示した.また,面白いことに③間食なし群よりもさらに食後血糖値を上昇させたのは④夕食後にフルーツグラノーラ群であった.これは,夕食後に追加摂取することで,血糖値の上昇が重なる影響が考えられる.睡眠も同様に①フルーツグラノーラ,ついで②グルコースと③間食なし,最後に④夕食後にフルーツグラノーラの群順に中途覚醒回数が有意に少ない傾向にあった(図1図1■フルーツグラノーラを追加喫食した場合の血糖値変動と中途覚醒回数(16)16) A. Furutani, H. Masutomi, K. Ishihara, K. Hirao & S. Shibata: J. Food Nutr. (Frisco), 7, 1 (2021).

図1■フルーツグラノーラを追加喫食した場合の血糖値変動と中途覚醒回数

約6000人を対象とした別の実験でも,年齢ごとにどの程度の児が夜食を摂っている割合を調べた結果,3~8歳のどの年齢においても30~35%の児が夜食を摂っており,年齢による違いは観察されなかったと報告している.夜食の内容を細かく調べると,「アイスクリーム」の摂取割合が17%程度と,圧倒的に高く,続いて「ジュース」「果物」「せんベいなど」「スナック菓子」「プリン・ゼリー」などであった(17)17) A. Furutani, L. Nitta, S. Mochida, N. Makino, Y. Nozawa, Y. Tahara, S. Shibata, Sleep Health, in press..この結果は,夜食として摂取される食品の多くが糖質を多く含むものであることを示唆している.しかし,糖質を含む食品そのものが悪いのではなく,摂取する時間帯が血糖コントロールや健康において重要な要因であると考えられる.さらに,間食の内容と夕食までのインターバル時間を細分化して検討したところ,200 kcal間食の場合は夕食4時間前(15時)間食では,FGRや焼き芋に含まれる水溶性食物繊維が,2時間前(17時)間食では,水溶性食物繊維以外にも炭水化物を含むポテトチップスが夕食後血糖値上昇抑制に有効であることがわかった.一方で,黒豆のようなタンパク質含量の多い食品は,夕食後血糖値上場抑制を目的とした間食内容としての効果は焼き芋やフルーツグラノーラなどと比較して薄く,一定量の糖質と食物繊維を含む間食が有効であることが示唆されたことからも,間食摂取には喫食時間と喫食量,喫食内容を考えて摂取していくことが必要である(図2図2■間食の種類と喫食時間を変えた場合の血糖値変動(18)18) H. Masutomi, Y. Mineshita, K. Ishihara, K. Hirao, S. Shibata & A. Furutani: Eur. J. Nutr., 62, 2217 (2023).

図2■間食の種類と喫食時間を変えた場合の血糖値変動

A one-way repeated ANOVA, vs.間食なし,*p<0.05,**p<0.01.

時間栄養学的朝食が引き起こす効果

PM9:00以降に就寝している2歳~6歳児50名の保育園児の保護者を対象に,時間栄養学に基づいた朝食(穀類澱粉+たんぱく質メイン)および夕食(根茎澱粉+血糖値を上昇させにくい食品メイン)の調理方法を指導し,1週間実践し時間栄養学的食事の有用性を調べた.朝食と夕食の時間帯は各家庭の生活スタイルに合わせたが,遅くとも就寝1時間前までに夕食を終えるよう指導した.その結果,47.3%の園児の就寝時間が平均1.3時間早まり,1週間継続して指導を受けた17名の園児では,就寝時間が平均して2.1時間早まることもわかった.また,睡眠時間が早まった園児は起床時,「機嫌が良く,朝食の食欲が増した」「保護者の精神的な負担が減った」などの影響がみられた(19)19) 古谷彰子:“時間×食事で賢い子が育つ!簡単・最強子育て”,幻冬舎メディアコンサルティング,2020..新宿区の小学生26名を対象に通常の朝食に加えて,対照期間中に通常の朝食と大豆タンパク質を含むグラノーラスナックを摂取した実験では,グラノーラスナックの追加摂取により,朝食の鉄分,ビタミンB1,ビタミンD,食物繊維を含む計15栄養素において増加傾向を示した.さらに介入中,起床時間が平日11分,休日15分平均して早まるほか,排便に関しては,介入によって便の特徴は変化しないまま,週当たりの排便頻度が平均1.2回/週も増加することがわかった(20)20) Y. Matsumoto, H. Sasaki, H. Masutomi, K. Ishihara, S. Shibata, K. Hirao & A. Furutani: Children (Basel), 10, 779 (2023).

本研究では,特定の栄養素の影響を個別に検討したわけではなく,グラノーラスナックの摂取による栄養バランスの向上が,睡眠や排便に対して相乗的な効果をもたらした可能性がある.特に,介入食にはオーツ麦が含まれており,水溶性食物繊維(βグルカン)やイヌリン,難消化性デキストリンなどが腸内環境や腸内細菌叢の改善に寄与したと考えられる.また,バランスの取れた朝食を摂取することで,体内時計のリセットが促進される可能性も指摘されていることからも,これらの要因が複合的に作用し起床時間の前進や排便頻度の増加といった変化が生じたと考えられる.

参加者の保護者からは,「正直,プラセボのようなものだと思っていたが,子供の方から体調が良いので継続したいと申し出があった」「朝,一人で起きてくるようになり驚いている」といった声が多く寄せられた.小児の1日あたりの栄養摂取量に占める朝食の寄与度は約20%と低く,保護者が朝食の栄養バランスを十分に管理することは容易ではない.

本介入研究のように,いつもの朝食にグラノーラスナックをプラスオン(追加摂食)するだけという手軽さは,ニーズに則した指導法の一つであると考えられる.同様の実験を,高齢者施設で行った場合では,有意な排便回数の上昇,便秘の解消が見られることがわかっている.また,中学生以降朝食を食べる習慣がなく,一日一食,夕食のみを喫食している40歳成人女性を対象にした実験も行った.日本人の食事摂取基準2025年度版を基に推定エネルギー必要量を算出し,タンパク質の摂取目標量と合わせて一日の摂取エネルギーが過剰にならないよう,PFCバランスの内容を三等分にした.また,夕食の血糖値は上げないよう糖質の摂取も夜に控える指導を行った.目標は30 gのタンパク質摂取であったにもかかわらず,介入当初は20 gのタンパク質摂取が限界であった(図3A図3■成人女性を対象にした時間栄養学的食事介入試験).ところが,5日を過ぎたあたりから就寝・起床時刻が統一されるようになり,自然と同じ時刻に眠くなり,目覚ましなしで起床できるようになった.1日のみ,仕事の関係で就寝時間が遅くなった日があったが,翌日の就寝時刻が早くなる以外はまた同時刻に起床・就寝ができていた(図3B図3■成人女性を対象にした時間栄養学的食事介入試験).脳波センサによる,睡眠時脳波測定も行ったが,有意差は出なかったものの中途覚醒回数がタンパク質介入で減る(図3C図3■成人女性を対象にした時間栄養学的食事介入試験)ほか,体重も約2 kg減少(BMI22→21.3)した結果となった(図3D図3■成人女性を対象にした時間栄養学的食事介入試験).面白いことに,介入前の食事内容とエネルギー量はほぼ変わらないか少し増えている状態にもかかわらず体重が減っていることに,時間栄養学的な食事形態の有用性を垣間見ることができた.今回は栄養指導における一例を明記したが,様々なバックグラウンド,年齢,性別の異なる方々においても健康的な生活習慣,体調を手に入れられることを,のべ500名以上の栄養指導の実績より確信している.

図3■成人女性を対象にした時間栄養学的食事介入試験

おわりに

現場において,肥満防止のために断食や糖質を極度にカットする減量法などは対象者にストレスがかかり,結果として継続できないケースが多々ある.エビデンスとして時間栄養学を用いる食事方法は筆者自身が培った手法の一つであるが,食べる時間を考慮してより多くの種類の食品を摂取できるため,実践された方にとっても受け入れやすく継続しやすいと好評を博している.また,個人差はあるものの確実に指導の効果が理想的な体重曲線を描くことも解ってきた.例えば糖尿病患者の場合,減量を主目標としていた場合だとしても,生活リズムが整う,QOLが高まるなどの副次的な効果も見られる利点もある.さらには,幼児から高齢者まで幅広い世代で応用が可能であるため,長期的に見た健康増進を家族ぐるみで行うこともできる.いつもの食事に「いつ」という概念を見直す,“時間栄養学的食事術”.将来的なさらなる波及効果を期待したい.

Reference

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