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進化するチロシン残基選択的タンパク質化学修飾法
チロシンを狙え!タンパク質修飾の新たなステージ

Shinichi Sato

佐藤 伸一

東北大学学際科学フロンティア研究所

Published: 2025-06-01

・チロシン残基選択的バイオコンジュゲーションの開発意義

バイオコンジュゲーションとは,生体分子に特定の化学修飾を施し,その機能や性質を制御・拡張する技術である.特に,天然タンパク質の機能を精密に制御するために用いられており,例えば,抗体分子へのレポーター分子の導入,抗体薬物複合体(ADC: Antibody-Drug Conjugate)の作製,さらには機能性タンパク質の固相への固定化など,さまざまな応用において重要な役割を果たす.

従来,信頼性の高いバイオコンジュゲーションの手法は,リジン残基(Lys)やシステイン残基(Cys)側鎖に存在する反応性官能基を利用するものに限られていた.本稿では,タンパク質上の第三のバイオコンジュゲーションの足場として最近注目されている天然タンパク質のチロシン残基(Tyr)を標的とした選択的なバイオコンジュゲーションに焦点を当てる.

Tyrは,(a)リン酸化,硫酸化,ジチロシン,酸化などの多様な翻訳後修飾を受ける,(b)タンパク質間相互作用,核酸–タンパク質間相互作用の界面に濃縮される,(c)ラジカル化され生体内で一電子移動反応を媒介する,などの特徴を持つ重要な残基である.そのため,Tyrに選択的なバイオコンジュゲーション(以下,Tyr修飾)の開発はタンパク質機能化の新たな足場を提供するという意義にとどまらず,新たな生命科学の発展の鍵になると期待される.

・これまでの多様なアプローチによるTyr修飾

天然アミノ酸残基に対する化学修飾法の開発には,以下のような課題がある.(1)安定な結合の形成,(2)高い反応効率,(3)水中またはバッファー中での反応の進行,(4)タンパク質の構造を保持するための中性付近のpHや低温条件での反応,(5)残基選択的な反応の実現,などが求められる.これらの要求を満たすTyr修飾が最近多く開発されており,主に2つのアプローチに大別される.すなわち,求電子剤を用いた方法(二電子的な反応)とラジカル種を利用した方法(一電子的な反応)である.

求電子剤を用いた方法の代表例として,Barbasらが開発した4-Phenyl-1,2,4-triazoline-3,5-dione(PTAD)を修飾剤とする手法がある(1)1) H. Ban, J. Gavrilyuk & C. F. Barbas 3rd: J. Am. Chem. Soc., 132, 1523 (2010)..この方法は,簡便な操作でTyrを修飾することが可能であるが,副反応により生じる別の求電子種(isocyanate)がLysやN末端アミンとも反応してしまうという課題があり,PTADの発生法について様々な試みがなされている(2, 3)2) D. Alvarez-Dorta, C. Thobie-Gautier, M. Croyal, M. Bouzelha, M. Mével, D. Deniaud, M. Boujtita & S. G. Gouin: J. Am. Chem. Soc., 140, 17120 (2018).3) E. Denijs, K. Unal, K. Bevernaege, S. Kasmi, B. G. De Geest & J. M. Winne: J. Am. Chem. Soc., 146, 12672 (2024)..さらに,sulfonyl fluorideやsulfonyl-triazole(4)4) H. S. Hahm, E. K. Toroitich, A. L. Borne, J. W. Brulet, A. H. Libby, K. Yuan, T. B. Ware, R. L. McCloud, A. M. Ciancone & K.-L. Hsu: Nat. Chem. Biol., 16, 150 (2020).,triazine-pyridine(5)5) H. Jiang, Q. Zhang, Y. Zhang, H. Feng, H. Jiang, F. Pu, R. Yu, Z. Zhong, C. Wang, Y. M. E. Fung et al.: Chem. Commun., 58, 7066 (2022).などを用いた他の求電子剤を利用する方法も報告されている.これらはプロテオームワイドな反応性アミノ酸残基の評価が行われているが,Lysなどのタンパク質表面に存在する求核性アミノ酸残基との副反応が生じることで,Tyrに対する選択性が低下するという課題がある.

一方,ラジカル種を利用する方法では,トリプトファン(Trp)やCysとの副反応が潜在的な問題となる可能性がある.しかし,Tyr以外の一電子的に反応しやすい残基は,タンパク質の内部に埋もれていることが多いため,タンパク質を基質とした場合にはTyrを高い選択性で修飾することが可能となる.以下本稿では,筆者らが取り組んできた酵素を用いたラジカル種の発生法と,試薬として利用可能なラジカル種を用いる方法について紹介する.

・酵素を活用したラジカル的Tyr修飾

筆者らはラジカル種を利用したTyr修飾反応を開発する上で,特に研究障壁となる水性バッファーでの反応条件最適化を効率化するために,酵素から発生するラジカル種を活用するアプローチを採用してきた.生化学分野の研究で汎用されるレポーター分子である西洋わさびペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase; HRP)は活性中心にヘム鉄を有しており,過酸化水素(H2O2)によって活性化され,基質から一電子を奪う触媒能を有している.HRPの基質としてルミノールが知られており,ルミノールの酸化を介した化学発光反応が生物学分野の研究に汎用されている.我々はルミノールの化学構造に着想を得て,N-Me Lumiという修飾剤を開発し,HRP触媒存在下,タンパク質のTyrを効率的に修飾することを見出した(図1A図1■A, HRPを使ったラジカル種発生;B, Laccaseを使ったラジカル種発生;C, 電気化学や酸化剤を使ったラジカル種発生;D, ラジカル種とTyrの反応によるTyr修飾(6)6) S. Sato, K. Nakamura & H. Nakamura: ACS Chem. Biol., 10, 2633 (2015)..また,本反応を活用することで,抗体構造中に限定的に露出しているTyrを選択的に機能化できることを示し(7)7) S. Sato, M. Matsumura, T. Kadonosono, S. Abe, T. Ueno, H. Ueda & H. Nakamura: Bioconjug. Chem., 31, 1417 (2020).,部位特異的な標識による抗体分子のセンサー化技術に応用した(8)8) S. Sato, M. Matsumura, H. Ueda & H. Nakamura: Chem. Commun., 57, 9760 (2021).

図1■A, HRPを使ったラジカル種発生;B, Laccaseを使ったラジカル種発生;C, 電気化学や酸化剤を使ったラジカル種発生;D, ラジカル種とTyrの反応によるTyr修飾

HRPの活性化にはH2O2が必要であり,Cys酸化などの酸化的副反応の抑制が課題であった.そこで筆者らは,温和な反応条件での効率的Tyr修飾反応の開発に取り組んだ.Laccaseはカワラタケなどの菌類が主に生産する酵素で,リグニンなどのポリフェノールを酸化すること,比較的幅広い構造の化合物を酸化できることが知られている.特筆すべき特徴として,溶存酸素(O2)を酸化反応の駆動力にできるという点がある.Laccaseは4つの銅原子をその構造中に有しており,基質から一電子を受け取るT1銅と,受け取った電子を使い酸素を水分子に変換するT2, T3a, T3b銅に分類される.Tyr修飾剤をラジカル的に活性化できるLaccaseの酸化ポテンシャルに着目し,種々の修飾剤と反応条件を検討したところ,1-methyl-4-arylurazole(MAUra)誘導体がグルコースオキシダーゼをはじめとする種々の機能性タンパク質の機能を損なうことなく,従来法を凌駕する効率でTyrを機能化できること,タンパク質表面のTyrに選択性があることを明らかにした(図1B図1■A, HRPを使ったラジカル種発生;B, Laccaseを使ったラジカル種発生;C, 電気化学や酸化剤を使ったラジカル種発生;D, ラジカル種とTyrの反応によるTyr修飾(9)9) K. Nakane, C. Fujimura, S. Miyano, Z. Liu, T. Niwa, H. Nishi, T. Kadonosono, H. Taguchi, S. Tomoshige, M. Ishikawa et al.: Chem. Commun., 60, 14208 (2024).

・事前調製可能なラジカル種を使ったTyr修飾

酵素を用いた手法では,反応系中で発生したラジカル種がタンパク質のTyrを修飾するが,事前調製した活性種を添加することでラジカル的Tyr修飾が可能であれば,酸化的な副反応を抑えつつ,簡便な操作でタンパク質のTyrを機能化することができると考えた.Tyr修飾剤候補化合物の種類と活性化条件を種々検討したところ,電気化学的な活性化方法や,酸化剤Bobbitt’s saltを使った反応条件によりN-methylurazoleラジカルが発生できることを明らかにした.ESRスペクトルやラジカル種の吸光スペクトル情報,Tyrを含むモデル基質や精製タンパク質,タンパク質混合物との反応性解析より,数分間の時間スケールでハンドリング可能なラジカル種を事前調製可能なTyr修飾法を開発することに成功した(図1C, D図1■A, HRPを使ったラジカル種発生;B, Laccaseを使ったラジカル種発生;C, 電気化学や酸化剤を使ったラジカル種発生;D, ラジカル種とTyrの反応によるTyr修飾(10)10) S. Sato, S. Miyano, K. Nakane, Z. Liu, M. Kumashiro, T. Saio, Y. Tanaka, A. Shigenaga, C. Fujimura, E. Koyanagi et al.: Tetrahedron Chem., 12, 100111 (2024).

本稿に記載の様に,Tyr修飾法は近年発展を遂げており,今後もTyrへの選択性や反応効率の優れた手法が生まれてくるだろう.

Reference

1) H. Ban, J. Gavrilyuk & C. F. Barbas 3rd: J. Am. Chem. Soc., 132, 1523 (2010).

2) D. Alvarez-Dorta, C. Thobie-Gautier, M. Croyal, M. Bouzelha, M. Mével, D. Deniaud, M. Boujtita & S. G. Gouin: J. Am. Chem. Soc., 140, 17120 (2018).

3) E. Denijs, K. Unal, K. Bevernaege, S. Kasmi, B. G. De Geest & J. M. Winne: J. Am. Chem. Soc., 146, 12672 (2024).

4) H. S. Hahm, E. K. Toroitich, A. L. Borne, J. W. Brulet, A. H. Libby, K. Yuan, T. B. Ware, R. L. McCloud, A. M. Ciancone & K.-L. Hsu: Nat. Chem. Biol., 16, 150 (2020).

5) H. Jiang, Q. Zhang, Y. Zhang, H. Feng, H. Jiang, F. Pu, R. Yu, Z. Zhong, C. Wang, Y. M. E. Fung et al.: Chem. Commun., 58, 7066 (2022).

6) S. Sato, K. Nakamura & H. Nakamura: ACS Chem. Biol., 10, 2633 (2015).

7) S. Sato, M. Matsumura, T. Kadonosono, S. Abe, T. Ueno, H. Ueda & H. Nakamura: Bioconjug. Chem., 31, 1417 (2020).

8) S. Sato, M. Matsumura, H. Ueda & H. Nakamura: Chem. Commun., 57, 9760 (2021).

9) K. Nakane, C. Fujimura, S. Miyano, Z. Liu, T. Niwa, H. Nishi, T. Kadonosono, H. Taguchi, S. Tomoshige, M. Ishikawa et al.: Chem. Commun., 60, 14208 (2024).

10) S. Sato, S. Miyano, K. Nakane, Z. Liu, M. Kumashiro, T. Saio, Y. Tanaka, A. Shigenaga, C. Fujimura, E. Koyanagi et al.: Tetrahedron Chem., 12, 100111 (2024).