Kagaku to Seibutsu 63(6): 267-273 (2025)
解説
巨大な動物細胞ゲノムはどのように倍加されるのか?
ゲノム網羅的な解析からわかったこと
How is the Large Animal Genome Replicated?: Findings from the Genome-Wide Analysis
Published: 2025-06-01
これまで,DNA複製反応に関わる多くの因子が同定されており,反応の生化学的な側面からの理解は進んできた.しかし,複製反応が,実際に動物細胞の巨大なゲノム上をどのような順序で進んでいくのかについての正確な全体像がわかってきたのは,ゲノム網羅的な解析技術が登場してからである.本稿では,複製の順序(複製タイミング)の制御と,それが遺伝子発現などの他の細胞現象とどのような関係にあるかについて解説する.また,動物細胞ゲノムの複製タイミングを解析するための最新技術についても紹介する.
Key words: 動物細胞ゲノム; DNA複製; ゲノム網羅的解析; 複製タイミング; 一細胞解析
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
DNA複製は,ゲノムを倍加するという生命にとって根源的なプロセスである.DNA複製反応は,ゲノム上の複製開始点から始まり,そこから両方向へ進んでいく.バクテリアと異なり,動物細胞ではたくさんの複製開始点がゲノム上に散在している.ヒトのような巨大なゲノムを持つ生物でも,これらの複製開始点があるおかげで,細胞周期のS期(8~10時間)という限られた時間内に効率よくゲノムの複製が行われる.もし,ヒトの各染色体DNAがバクテリアのように1箇所の複製開始点しか持たなかったら,ゲノムを倍加するのに数ヶ月はかかってしまうことになる.これでは細胞増殖がままならず,生命維持も困難であろう.これらゲノム上に存在する多くの複製開始点は,ランダムに活性化されるのではなく,S期の前半と後半に活性化されるものに大きく分かれている.さらに,複製起点はある程度まとまった単位で活性化される(数百KbからMbの範囲で隣り合う複数の複製起点が協調的に活性化される).したがって,一本の染色体DNA上には,早く複製される場所と,遅れて複製される領域が混在することになる(1, 2)1) D. M. Gilbert, S. I. Takebayashi, S. T. Ryba, J. Lu, B. D. Pope, K. A. Wilson & I. Hiratani: Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol., 75, 143 (2010).2) S. I. Takebayashi, M. Ogata & K. Okumura: Genes (Basel), 8, 110 (2017)..
興味深いのは,ゲノムが複製される順序(複製タイミング)は,細胞の種類ごとに異なっているという点である(図1図1■細胞種に特異的な複製タイミングパターンの例).これまで,様々なヒトやマウスの細胞種において,ゲノム網羅的な複製タイミングが調べられてきた.それによると,様々な種類の細胞へ分化していく過程で,ゲノムの少なくとも約50%の領域で複製タイミング変化が起こっているようだ(3, 4)3) I. Hiratani, T. Ryba, M. Itoh, J. Rathjen, M. Kulik, B. Papp, E. Fussner, D. P. Bazett-Jones, K. Plath, S. Dalton et al.: Genome Res., 20, 155 (2010).4) J. C. Rivera-Mulia, Q. Buckley, T. Sasaki, J. Zimmerman, R. A. Didier, K. Nazor, J. F. Loring, Z. Lian, S. Weissman, A. J. Robins et al.: Genome Res., 25, 1091 (2015)..同じゲノムDNA配列を持っていても,皮膚の細胞と血球系の細胞では,複製タイミングのパターンが異なるのである.このように,複製タイミングの制御が,ゲノムの広範囲にわたって,これほどダイナミックに行われているという事実は驚きである.また,複製タイミングのパターンが,細胞種ごとに特異的であるということは,逆に,このパターンから細胞の状態を推測できることを意味する.例えば,マウスの体細胞からiPS細胞を作製する実験において,リプログラミングが完全に起こった細胞は,未分化ES細胞と同じ複製タイミングのパターンを有する.しかし,リプログラミングが部分的に不完全だった細胞は,体細胞型のパターンを一部ではあるが残したままであった(3)3) I. Hiratani, T. Ryba, M. Itoh, J. Rathjen, M. Kulik, B. Papp, E. Fussner, D. P. Bazett-Jones, K. Plath, S. Dalton et al.: Genome Res., 20, 155 (2010)..あたかも,指紋照合のように複製タイミングのパターンを利用できるというわけである(5)5) T. Ryba, I. Hiratani, T. Sasaki, D. Battaglia, M. Kulik, J. Zhang, S. Dalton & D. M. Gilbert: PLOS Comput. Biol., 7, e1002225 (2011)..
図1■細胞種に特異的な複製タイミングパターンの例
細胞が分化し,細胞種に特異的な遺伝子発現パターンが形成される過程で複製タイミングも変化する.一般に,複製タイミングのS期後期から初期へ変化した領域で,遺伝子の発現誘導が観察される傾向がある.図中の矢印は,遺伝子が発現している状態を示す.
また,複製タイミング制御の特徴として,その細胞にとって重要な遺伝子が,S期の中でも早いタイミングで複製する傾向にあるということが知られている.例えば,マウスの3T3L1細胞を,ホルモンなどの刺激によって,脂肪滴を蓄積するような脂肪細胞へと分化させることができるが,その過程で複数の脂肪細胞関連遺伝子の複製するタイミングが早くなることがわかっている(6)6) T. Hayakawa, A. Yamamoto, T. Yoneda, S. Hori, N. Okochi, K. Kagotani, K. Okumura & S. I. Takebayashi: J. Cell Sci., 136, jcs260778 (2023)..
複製タイミングがどのようなメカニズムで制御されているのかについては,少しずつではあるが明らかになってきている.先述したように,複製タイミングの細胞種特異的なパターンはゲノムDNA配列の変化なしに形成されることから,DNAやヒストンに付加されるエピジェネティックな化学修飾が,パターン形成に関与していると想像する方も多いかもしれない.しかし,これまでDNAメチル化酵素や複数のヒストン修飾酵素のどの変異体においても,複製タイミングのパターンに大きな変化は検出されていない(7~9).一方で,DNAの高次構造(数百Kb以上の物理的に離れたDNA同士を相互作用させるループ構造)の形成に関わるシス制御配列をゲノム編集により欠失させると,複製タイミングが大きく変化することが報告されている(10)10) J. Sima, A. Chakraborty, V. Dileep, M. Michalski, K. N. Klein, N. P. Holcomb, J. L. Turner, M. T. Paulsen, J. C. Rivera-Mulia, C. Trevilla-Garcia et al.: Cell, 176, 816 (2019)..エピジェネティックな化学修飾による局所的なDNAの構造変化ではなく,より上位の階層レベルで起こる大きなスケールでのDNAの構造変化が,複製タイミング制御に重要な役割を果たしている可能性がある.シス制御配列と,そこに結合するタンパク質因子(おそらく細胞種に特異的な因子などが想定される)の両方の働きにより,細胞種特異的な複製タイミングパターンが形成されるのかもしれない.今後の研究の進展が期待される.
なぜ,細胞の分化の過程で,このような複製タイミング変化が起こるのであろうか?実は,この現象の意義はよくわかっていない.細胞種特異的な遺伝子発現パターンが形成される過程で,転写因子などのゲノムへの結合が起こるが,複製タイミングの変化はそれらの影響を受けた単なる結果であり,特に意味はないという考えもある.その一方で,複製タイミング変化の意義について実験的な証拠を含めた複数の可能性が示唆されており,それらについて以下に紹介したい.
複製により遺伝子のコピー数が増えれば,転写産物もそれに伴い増える可能性が考えられる.もしそうなら,遺伝子がS期の早いタイミングで複製されれば,この同じ遺伝子が遅いタイミングで複製されていた時よりもよりたくさんの転写産物ができ,細胞の増殖や機能維持に有利に働くに違いない.実際に,分裂酵母のヒストン遺伝子では,このケースが当てはまるようだ(11)11) C. A. Müller & C. A. Nieduszynski: J. Cell Biol., 216, 1907 (2017)..一方で,このメカニズムは,細胞増殖に関連する一部の遺伝子においてのみ適用されているようで,他の多くの遺伝子については複製によるコピー数増幅前後で発現量の変化はないことがわかっている.ヒストンH3K56のアセチル化修飾を介して,コピー数増加前後で遺伝子発現量を一定に保つ積極的なメカニズムが存在するようだ(12)12) Y. Voichek, R. Bar-Ziv & N. Barkai: Science, 351, 1087 (2016)..もっとも,これらは分裂酵母を用いた研究結果であって,動物細胞で同様の現象が起こっているのかは不明である.
ゲノムDNAが複製により倍加する際,ヒストンをはじめとするクロマチンを構成するタンパク質も同時に倍加されなければいけない.鋳型クロマチンに含まれる古いヒストンは,そのままリサイクルされて新しくできるクロマチンにも残るが,不足分は新しく合成されたヒストンタンパク質が取り込まれることで補われるなどして,クロマチンの倍加が完了する.イスラエルのグループからの報告によると,S期の初期に複製されてできたクロマチンは,転写活性化に関係するヒストン修飾を有しており,一方でS期の後期に複製されてできるクロマチンは,転写抑制に関係するヒストン修飾を有していた(13)13) J. Zhang, F. Xu, T. Hashimshony, I. Keshet & H. Cedar: Nature, 420, 198 (2002)..これは,S期初期と後期の細胞核にレポータープラスミドを導入し,複製依存的にクロマチンをプラスミド上で形成させるという人為的な条件下の実験により得られた結果であるが,このことは,S期のどのタイミングで複製されるかによって形成されるクロマチンの構造が異なり,ひいては遺伝子発現にも影響することを意味している.この現象の詳しいメカニズムは不明であるが,S期初期と後期の複製は,それぞれ核内部と核膜周辺という異なる空間に明確に区別されて行われていることから,核内局所環境の違いが影響しているのかもしれない(図2図2■動物細胞核内における複製部位の時空間的な制御).つまり,核内部でゲノムが複製されると遺伝子発現を促進するようなクロマチンが形成されやすく,核膜周辺で複製されると,転写を抑制するようなクロマチンを形成されやすいという環境が核内にはあるのかもしれない.実際に,転写に抑制的に働くヒストン脱アセチル化反応を担う酵素HDAC3が,核膜周辺に局在しているとの報告もある(14)14) R. Somech, S. Shaklai, O. Geller, N. Amariglio, A. J. Simon, G. Rechavi & E. N. Gal-Yam: J. Cell Sci., 118, 4017 (2005)..先述のように,DNA複製タイミングの変化は,遺伝子発現制御の単なる結果であるという議論があった.しかし,転写促進因子の結合が遺伝子の複製タイミングを早めるきっかけであったとしても,その後は上記のメカニズムによりS期の前期に特異的な転写活性化クロマチンが形成され,これが今度は遺伝子発現を安定化させたり,さらに促進させたりすると考えられる.メカニズムの議論をする際に,転写と複製のどちらの変化が先に起こるかという点に終始してしまうことがあるが,複製と転写の間にはポジティブフィードバックのような関係が存在しており,お互いに影響を及ぼしあっているのではないかと筆者は考えている(15)15) I. Hiratani, S. Takebayashi, J. Lu & D. M. Gilbert: Curr. Opin. Genet. Dev., 19, 142 (2009)..
他にも,複製のタイミングが,ゲノムのコピー数増幅と関係していることを示唆する報告もある.マウスの胎盤組織を構成する細胞の一種である栄養膜巨細胞は,有糸分裂をスキップしてDNA複製を繰り返す核内倍加を通して,自身のゲノムを多倍体化(~1000倍近く)していることが知られている.栄養膜巨細胞は,妊娠に関連するホルモンなどをたくさん分泌するために,このようなコピー数増幅を行っているのであろうと推測されている.しかし,その生物学的な意義は未だはっきりわかっていない.興味深いことに,核内倍加によってゲノム全体が均一に増幅されるのではなく,増幅されやすい領域と増幅に対して抵抗性を示す領域が存在する(16)16) R. L. Hannibal, E. B. Chuong, J. C. Rivera-Mulia, D. M. Gilbert, A. Valouev & J. C. Baker: PLoS Genet., 10, e1004290 (2014)..また,この核内倍加によりコピー数が増幅されやすい領域は,複製タイミングの早い領域に相当する(16)16) R. L. Hannibal, E. B. Chuong, J. C. Rivera-Mulia, D. M. Gilbert, A. Valouev & J. C. Baker: PLoS Genet., 10, e1004290 (2014)..現時点では,複製タイミングと核内倍加によるコピー数の間に密接な関係があることがわかっているだけで,それ以外の詳しいことは何もわかっていない.ただ,もし細胞が核内倍加により遺伝子のコピー数を増やして機能を増強したい場合,その遺伝子の複製タイミングを早めることで,より多くのコピー数増加へ繋げることができるのかもしれない.このような核内倍加によるゲノムのコピー数増加が,栄養膜巨細胞以外の細胞種で起こっているのかも含めて,今後研究が進むことが期待される.
これまで,動物細胞のDNA複製の特徴を,複製タイミング制御の視点から説明してきた.ここで,実際にどのように巨大なゲノムの複製タイミングを調べることができるのかという技術的な話に移りたい.もっともよく使われている方法の一つに,E/L Repli-seq法がある(図3A図3■E/L Repli-seqによるゲノム網羅的な複製タイミングパターンの解析)(17, 18)17) S. I. Takebayashi, S. Ogata, M. Ogata & K. Okumura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 82, 2098 (2018).18) C. Marchal, T. Sasaki, D. Vera, K. Wilson, J. Sima, J. C. Rivera-Mulia, C. Trevilla-García, C. Nogues, E. Nafie & D. M. Gilbert: Nat. Protoc., 13, 819 (2018)..この手法では,まずはじめに,細胞をヌクレオシド類似体のブロモデオキシウリジン(BrdU)で標識する.BrdUは複製中の細胞のDNAに取り込まれるが,このBrdUを取り込んだ細胞をセルソーターにより振り分け,S期初期および後期のフラクションを回収する.S期初期および後期の細胞からそれぞれDNAを抽出し,BrdU抗体を用いた免疫沈降を行うことで,複製中のDNAを特異的に回収する.回収したDNAを次世代シーケンシング(NGS)で解析し,S期初期および後期複製DNAとして参照ゲノムにマッピングされた配列リードの濃縮比(早期複製DNA/後期複製DNA)を個々のゲノム領域において算出しプロットすると,図3B図3■E/L Repli-seqによるゲノム網羅的な複製タイミングパターンの解析のような結果が得られる.正の値の緑色の部分が早期複製領域,負の値の赤色の部分が後期複製領域に相当する.一本の染色体上には,早期複製DNAの濃縮が顕著に見られる領域と,後期複製DNAの濃縮が見られる領域がモザイク状に存在しているのがわかる.このようにして,複製タイミングのパターンをゲノム網羅的に調べることができる.この方法を用いて,細胞種特異的な複製タイミングのパターンが次々と明らかにされた.
E/L Repli-seqは非常に有効な手法であるが,出発材料として数千個から数万個の細胞を用いる必要がある.そのため,得られる結果は,多数の細胞集団の平均値である.これは,他の多くの細胞を使う実験手法と同様に,個々の細胞レベルで起こっている重要な現象(一見,均一に見える細胞集団内に存在する多様性など)を見過ごしてしまっている可能性がある.また,たくさんの細胞数を準備するのが難しい生体内の希少な細胞に対しても,E/L Repli-seqは適用できない.そのような状況の中,我々の研究グループは,たった一つの細胞でゲノム網羅的に複製タイミングを解析できるsingle-cell DNA replication sequencing(scRepli-seq)の開発に成功した(図4A図4■scRepli-seqによる一細胞ゲノム網羅的な複製タイミングパターンの解析)(19, 20)19) S. Takahashi, H. Miura, T. Shibata, K. Nagao, K. Okumura, M. Ogata, C. Obuse, S. I. Takebayashi & I. Hiratani: Nat. Genet., 51, 529 (2019).20) H. Miura, S. Takahashi, T. Shibata, K. Nagao, C. Obuse, K. Okumura, M. Ogata, I. Hiratani & S. I. Takebayashi: Nat. Protoc., 15, 4058 (2020)..scRepli-seqの原理は,複製によって生じるゲノムのコピー数の増加を検出すという非常にシンプルなものであるが,従来のE/L Repli-seqで得られる細胞集団データに匹敵するレベルでゲノム網羅的な複製タイミングの判定が可能である(図4B図4■scRepli-seqによる一細胞ゲノム網羅的な複製タイミングパターンの解析).もちろん,細胞種特異的な複製タイミングのパターンも一細胞レベルで検出可能である(6)6) T. Hayakawa, A. Yamamoto, T. Yoneda, S. Hori, N. Okochi, K. Kagotani, K. Okumura & S. I. Takebayashi: J. Cell Sci., 136, jcs260778 (2023)..
図4■scRepli-seqによる一細胞ゲノム網羅的な複製タイミングパターンの解析
(A) scRepli-seqの概要.(B)ヒトRPE-1細胞を用い,scRepli-seqにより得られた10番染色体の複製タイミングパターン.Log2(リード数/各領域におけるリード数の中央値)の値が正になる初期複製ゲノム領域を緑,負になる後期複製ゲノム領域を赤で示している.従来のE/L Repli-seqで得られた集団細胞データと,scRepli-seqで得られた一細胞データ(細胞-1~4)の比較.
実際の実験手順としては,(1)単一細胞の単離・回収(生細胞またはエタノール固定細胞のいずれも使用可能),(2)単一細胞からの全ゲノム増幅,(3)NGSサンプル調製および配列解析の大まかに3つ部分から構成されている.S期初期に複製する領域と後期に複製する領域を明確に検出するには,S期初期複製領域の複製が完了して2コピーのDNAを持つ領域と,後期複製領域がまだ複製しておらず1コピーの領域が明確に判断できるS期の中期の細胞を使用するのが理想的である.単一細胞から取れるゲノムDNAの量は6ピコグラム程度と非常に微量であるため,全ゲノム増幅によってNGSサンプル調製に十分なDNAを得ることが必須である.この際,増幅をできるだけ全ゲノムにわたって均一に行うことが,非常に重要になってくる.全ゲノム増幅法には様々な種類があり,我々が開発当時に検討した結果,縮退オリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR(DOP-PCR)によるDNA増幅がこの目的に適していた(全ゲノム増幅法に関しては,トランスポゾン転移酵素を利用した新しい技術も最近登場しており,今後scRepli-seqの改良が見込まれる)(21)21) C. Chen, D. Xing, L. Tan, H. Li, G. Zhou, L. Huang & X. S. Xie: Science, 356, 189 (2017)..増幅したDNAをNGSで解析し,参照ゲノムにマッピングされた配列リードを個々のゲノム領域においてカウントし,各領域におけるリード数の中央値で割った値を算出しプロットすると,図4B図4■scRepli-seqによる一細胞ゲノム網羅的な複製タイミングパターンの解析のような結果が得られる.我々は,サンプル作製方法とデータ解析のためのscRepli-seq実験プロトコルを発表している.このプロトコルは,一般的な実験室においても,複製タイミングや後述する核型の一細胞解析ができるように十分詳細な内容を提供しているので,興味のある方は,こちらを参考にしていただきたい(20)20) H. Miura, S. Takahashi, T. Shibata, K. Nagao, C. Obuse, K. Okumura, M. Ogata, I. Hiratani & S. I. Takebayashi: Nat. Protoc., 15, 4058 (2020)..
実際に,scRepli-seqを用いて50個近いマウスES細胞の複製タイミングのパターンを一つ一つ解析したところ,興味深い結果が得られた(19)19) S. Takahashi, H. Miura, T. Shibata, K. Nagao, K. Okumura, M. Ogata, C. Obuse, S. I. Takebayashi & I. Hiratani: Nat. Genet., 51, 529 (2019)..まず,個々のES細胞で確認された複製タイミングのパターンはどの細胞もお互い非常に似ていた.この結果は,複製タイミングがかなり厳密に制御されていることを示している.一方で,得られたデータをより詳しく解析したところ,個々のES細胞間で複製タイミングのバリエーションが比較的高い領域も同定された.これらは,細胞分化の過程で,複製タイミングが変化することがわかっている領域であった.最近では,従来では不可能であったマウスの受精直後の一細胞期を含む発生初期胚における複製タイミング解析にもscRepli-seqが利用され,体細胞型とは大きく異なる初期胚の特殊な複製パターンの検出に成功している(22)22) S. Takahashi, H. Kyogoku, T. Hayakawa, H. Miura, A. Oji, Y. Kondo, S. I. Takebayashi, T. S. Kitajima & I. Hiratani: Nature, 633, 686 (2024)..
ゲノムのコピー数変化は,DNA複製時だけでなく,病的な細胞でも観察される.scRepli-seqは,DNAコピー数の測定に基づいた方法のため,ゲノム不安定化に伴う欠失や重複などの検出にも直接応用できる(23)23) M. Sakamoto, S. Hori, A. Yamamoto, T. Yoneda, K. Kuriya & S. I. Takebayashi: Cytogenet. Genome Res., 162, 161 (2022)..これまで,染色体異常の検出は,分裂期の染色体標本を作製し,特定の染色体を蛍光プローブで染め分けるFluorescence in situ hybridization(FISH)法を用いて行われることが多かったが,これには熟練した技術が必要であった.これに対し,scRepli-seq解析は,そのような高度な技術を必要とせず,誰でも安定した結果が得られるため,今後核型解析にも利用されることが期待される.実際に,ヒト培養細胞の染色体脆弱部位の検出や,マウス初期胚で頻発する染色体異常の解析にも使われている(22, 23)22) S. Takahashi, H. Kyogoku, T. Hayakawa, H. Miura, A. Oji, Y. Kondo, S. I. Takebayashi, T. S. Kitajima & I. Hiratani: Nature, 633, 686 (2024).23) M. Sakamoto, S. Hori, A. Yamamoto, T. Yoneda, K. Kuriya & S. I. Takebayashi: Cytogenet. Genome Res., 162, 161 (2022)..がん組織は,様々なゲノム変異を持つ細胞から構成される不均一な集団であり,それががんの進行,転移,治療抵抗性と関連しているらしい.scRepli-seqは,そのような不均一集団におけるゲノム異常の検出に適している.一方で,scRepli-seqは染色体の転座や逆位などの検出には適していないため,目的に応じて従来の細胞遺伝学的手法との使い分けが必要である.また,核型解析を行う場合,DNA複製によるコピー数変化と区別するために,S期以外の細胞を用いることが重要である.
我々の体を構成する細胞は,がん細胞や一部の例外を除いて基本的に2倍体の安定した核型を維持していると一般的に信じられている.しかし,本当にそうであろうか?近年,動物の正常な発生過程でも,ゲノムのコピー数変動の観察例が増えてきている.この現象がどのような経緯で生じ,細胞機能とどのように関係するかを理解するために,scRepli-seqを含む新しいゲノム解析技術が役立つと期待される.
Reference
2) S. I. Takebayashi, M. Ogata & K. Okumura: Genes (Basel), 8, 110 (2017).
11) C. A. Müller & C. A. Nieduszynski: J. Cell Biol., 216, 1907 (2017).
12) Y. Voichek, R. Bar-Ziv & N. Barkai: Science, 351, 1087 (2016).
13) J. Zhang, F. Xu, T. Hashimshony, I. Keshet & H. Cedar: Nature, 420, 198 (2002).
15) I. Hiratani, S. Takebayashi, J. Lu & D. M. Gilbert: Curr. Opin. Genet. Dev., 19, 142 (2009).
21) C. Chen, D. Xing, L. Tan, H. Li, G. Zhou, L. Huang & X. S. Xie: Science, 356, 189 (2017).