解説

実験進化から迫る遺伝子誕生の初期プロセス
De novo転写の発見とプロモーターの起源

Gene Origination Via de novo Transcription Activation During Genome Evolution: How Do New Promoters Emerge?

Takayuki Hata

貴之

弘前大学大学院医学研究科

Kohei Kawaguchi

川口 晃平

東京科学大学生命理工学院

Soichirou Satoh

佐藤 壮一郎

京都府立大学大学院生命環境科学研究科

Mitsuhiro Matsuo

松尾 充啓

摂南大学農学部

Junichi Obokata

小保方 潤一

摂南大学農学部

Published: 2025-06-01

遺伝子の発現プロセスでは,まず上流プロモーター配列の機能によって転写が生じ,下流のタンパク質コード領域の情報がRNAへと転写される.しかし筆者らは,いわゆる「プロモーター配列」を必要としない新しいタイプの転写活性化現象を発見し,それを「de novo転写」と名付けた.De novo転写では,コード配列自体がその上流近傍からの転写を誘導しており,この現象は真核ゲノム中でプロモーター領域がどのようにして出現したのか,つまりプロモーターの起源と進化を考える上で,興味深い.本稿では,このde novo転写現象の特徴・発見の経緯に加え,この発見が今後のゲノム分子生物学や進化学に及ぼし得る影響について解説する.

Key words: De novo転写; 遺伝子進化; クロマチンリモデリング; プロモーター; 実験進化

De novo転写とは?

De novo転写とは,タンパク質コード配列が核ゲノムの非転写領域に挿入された際,その上流近傍の特定部位から新規に生じる転写で,既存の転写物やプロモーターなどとは全く無関係に転写が生じる(図1図1■De novo転写の特徴).転写物に5’キャップ構造と3’ポリAテールをもつことから,タンパク質コード遺伝子を主に転写するRNAポリメラーゼII(Pol II)による転写と考えられる.その転写レベルは低いが偶発的な転写ノイズではなく,シロイヌナズナを用いた実験から,その転写部位は少なくとも1世代後の植物体まで遺伝することが分かっている(1~3)1) T. Hata, S. Satoh, N. Takada, M. Matsuo & J. Obokata: Mol. Biol. Evol., 38, 2791 (2021).2) T. Hata, N. Takada, C. Hayakawa, M. Kazama, T. Uchikoba, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Satoh & J. Obokata: PLoS One, 16, e0252674 (2021).3) H. Kudo, M. Matsuo, S. Satoh, T. Hata, R. Hachisu, M. Nakamura, Y. Y. Yamamoto, H. Kimura, M. Matsui & J. Obokata: Plant J., 108, 29 (2021)..筆者らは後述する実験進化学的アプローチから,シロイヌナズナのゲノムで生じた約140箇所のde novo転写領域を同定したが,その転写開始点(Transcription Start Site; TSS)は挿入コード配列から約100 bp上流のごく狭い領域に集中していた(図1, 2図1■De novo転写の特徴図2■De novo転写の転写開始点(TSS)の分布).その領域には転写開始に必要な最小限の配列(ピリミジン-プリンと並ぶ2塩基)があるだけで,周辺領域に共通する転写制御配列は見出されなかった.一方,その転写開始点周辺のクロマチンには,プロモーター特有のリモデリングが生じていた(図1図1■De novo転写の特徴(1~3)1) T. Hata, S. Satoh, N. Takada, M. Matsuo & J. Obokata: Mol. Biol. Evol., 38, 2791 (2021).2) T. Hata, N. Takada, C. Hayakawa, M. Kazama, T. Uchikoba, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Satoh & J. Obokata: PLoS One, 16, e0252674 (2021).3) H. Kudo, M. Matsuo, S. Satoh, T. Hata, R. Hachisu, M. Nakamura, Y. Y. Yamamoto, H. Kimura, M. Matsui & J. Obokata: Plant J., 108, 29 (2021)..つまり,ゲノムDNAにコード配列が挿入された際,その上流近傍にその転写を誘導するプロモーター機能(=転写開始複合体をリクルートし,転写を開始する機能)が新たに出現したことを示している.

図1■De novo転写の特徴

タンパク質コード配列がゲノム中に挿入されると,その上流100塩基程度の位置に存在する転写開始のきっかけとなる2塩基配列(ピリミジン(Py)-プリン(Pu))から新規の転写(de novo転写)が生じる.De novo転写開始点周辺ではクロマチン構造のリモデリングが起こり,転写活性化ヒストンマーク(H3K4me3やH2A.Z)の新規局在が見られる.

図2■De novo転写の転写開始点(TSS)の分布

LUC(ホタルのルシフェラーゼのコード配列)をシロイヌナズナのゲノム中にランダムに挿入してプロモータートラップ実験を行い,発現したLUCの挿入位置からTSSまでの距離を調べた.De novo転写では,TSSはLUC挿入位置の約100 bp上流に集中するが,既存のプロモーターをトラップしたケースでは,この距離は様々に分布する(文献1)1) T. Hata, S. Satoh, N. Takada, M. Matsuo & J. Obokata: Mol. Biol. Evol., 38, 2791 (2021).のデータを基に改変して作図).

De novo転写発見の経緯

筆者らは,遺伝子誕生の最初期プロセスに興味をもって研究を進めてきた.遺伝子が新たに生まれる過程では,タンパク質コード配列が誕生するだけではなく,その配列が転写能をもつことが必要である.遺伝子の進化プロセスに関する研究は,これまで主に生物種間でゲノム構造を比較する「比較ゲノミクス」の手法で進められてきた(図3図3■比較ゲノミクスと実験進化).つまり,様々な生物のゲノム配列やトランスクリプトームを比較し,系統進化的に「若い」遺伝子を探し出し,それらの遺伝子の姿から,生まれて間もない遺伝子の特徴やその進化プロセスなどが考察されてきた(4, 5)4) H. Kaessmann: Genome Res., 20, 1313 (2010).5) M. Cardoso-Moreira & M. Long: Methods Mol. Biol., 856, 161 (2012)..次世代シークエンサーの発展によってゲノムやトランスクリプトーム,エピゲノムといった生物情報が,大量かつ簡単に手に入るようになったことで,様々な生物系統で「若い」遺伝子の姿が明らかとなってきた(6~9)6) D. J. Begun, H. A. Lindfors, M. E. Thompson & A. K. Holloway: Genetics, 172, 1675 (2006).7) A. R. Carvunis, T. Rolland, I. Wapinski, M. A. Calderwood, M. A. Yildirim, N. Simonis, B. Charloteaux, C. A. Hidalgo, J. Barbette, B. Santhanam et al.: Nature, 487, 370 (2012).8) D. N. Murphy & A. McLysaght: PLoS One, 7, e48650 (2012).9) W. Xiao, H. Liu, Y. Li, X. Li, C. Xu, M. Long & S. Wang: PLoS One, 4, e4603 (2009)..しかし,どれだけ近縁の生物種ゲノムを並べたところで,比較する生物種の分岐年代より高い解像度の情報は得られない.報告されているなかで「最も若い」遺伝子でも,既に数十万~数百万年の時を経ている(10)10) É. Durand, I. Gagnon-Arsenault, J. Hallin, I. Hatin, A. K. Dubé, L. Nielly-Thibault, O. Namy & C. R. Landry: Genome Res., 29, 932 (2019)..このため,ゲノム中に新たに誕生したコード配列がどのように転写能を獲得し,それがどのようにゲノムに固定されたのか,という遺伝子生成の最初期プロセスのメカニズムや動態の解析は事実上困難であった.

図3■比較ゲノミクスと実験進化

ゲノム配列の比較から系統進化的に「若い」遺伝子を調べる比較ゲノミクスのアプローチに対し,本研究で用いたプロモータートラップ実験のような実験進化学的手法では,はるかに「若い」誕生直後の遺伝子/プロモーターの姿を調べることができる.

Cryptic promoter仮説とプロモーター新生

そこで筆者らが着目したのが,プロモータートラップ実験である.この実験系では,プロモーター配列を欠いたタンパク質コード配列(ルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子)を形質転換によって動植物のゲノムに導入するが,それらがゲノム中の既存のプロモーターや遺伝子の下流に挿入された場合には,融合遺伝子の形成によるレポーターの発現が期待される.このような原理に基づき,ゲノム中の未知の遺伝子座をトラップして探索する手法として,ゲノム配列の情報が簡単には手に入らなかった2000年代初頭ごろまで,プロモータートラップ法はゲノムの研究に広く用いられた(11)11) P. S. Springer: Plant Cell, 12, 1007 (2000).

このプロモータートラップ実験では,明確な「プロモーター」をトラップしていないのにもかかわらず,レポーター遺伝子が発現する系統がしばしば見つかってきた(12~14)12) P. R. Fobert, H. Labbé, J. Cosmopoulos, S. Gottlob-McHugh, T. Ouellet, J. Hattori, G. Sunohara, V. N. Iyer & B. L. Miki: Plant J., 6, 567 (1994).13) B. Stangeland, R. Nestestog, P. E. Grini, N. Skrbo, A. Berg, Z. Salehian, A. Mandal & R. B. Aalen: J. Exp. Bot., 56, 2495 (2005).14) Y. Y. Yamamoto, Y. Tsuhara, K. Gohda, K. Suzuki & M. Matsui: Plant J., 35, 273 (2003)..しかし,その転写活性化のメカニズムはほとんど分かっておらず,これらの系統ではレポーター遺伝子の挿入されたゲノム領域に仮想の「クリプティックプロモーター(潜在的プロモーター)」なるものが存在し,これをたまたま捕捉したために発現したのではないかと推測されてきた.

私たちは,このプロモータートラップ実験とクリプティックプロモーター仮説の中に,遺伝子誕生の謎を解く鍵があるのではないかと考えた.つまり,挿入されたレポーター遺伝子は,受容ゲノム中に新たに出現/誕生したコード配列とみることができる.それらが既存のプロモーターをトラップすることなく発現したとしたら,その領域に新たにプロモーターが誕生したことにはならないだろうか? プロモータートラップ実験をゲノムの人工進化実験と位置付ければ,比較ゲノム研究とは桁違いに若い遺伝子/プロモーターの姿を解析できないだろうか(図3図3■比較ゲノミクスと実験進化).私たちはこのような着想から,「真核ゲノム中で新規に誕生したコード配列はどのように転写能を獲得するのか」という遺伝子誕生最初期の謎に,ゲノム比較ではなく,実験科学からアプローチすることにした.

ゲノムワイド解析でde novo転写を発見

プロモータートラップ実験を転用した人工進化実験からプロモーター新生メカニズムに迫ろうと考えたものの,遺伝学的な挿入変異系統を一つ一つ解析する従来手法では,その解析スループットに限界があり,ゲノムワイドな様相や特徴を捉えることは難しい.そこで筆者らは,この実験系に次世代シークエンス技術と分子バーコードを組み合わせることで,挿入変異系統を個別の系統・株として確立することなく,一挙に大量解析できる系を構築した(2, 15, 16)2) T. Hata, N. Takada, C. Hayakawa, M. Kazama, T. Uchikoba, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Satoh & J. Obokata: PLoS One, 16, e0252674 (2021).15) S. Satoh, T. Hata, N. Takada, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Kushnir & J. Obokata: bioRxiv, 2020.11.28.401992 (2020).16) T. Hata, K. Mukae, S. Satoh, M. Matsuo & J. Obokata: Plant Biotechnol. (Tokyo), 38, 179 (2021)..この実験系を用い,プロモーター配列を欠くレポーター遺伝子配列(ホタルのルシフェラーゼのコード配列:LUC)をシロイヌナズナT87培養細胞の核ゲノムに導入し,それらが核ゲノムの中でどのような頻度・様式で転写されるかをゲノムワイドに大量解析した(2, 15)2) T. Hata, N. Takada, C. Hayakawa, M. Kazama, T. Uchikoba, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Satoh & J. Obokata: PLoS One, 16, e0252674 (2021).15) S. Satoh, T. Hata, N. Takada, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Kushnir & J. Obokata: bioRxiv, 2020.11.28.401992 (2020)..その結果,遺伝子間領域やヘテロクロマチンのような転写不活性領域に挿入されたLUC配列であっても,その30%程度は転写される(=プロモーター機能を新規に獲得している)ことが明らかとなった(2, 15)2) T. Hata, N. Takada, C. Hayakawa, M. Kazama, T. Uchikoba, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Satoh & J. Obokata: PLoS One, 16, e0252674 (2021).15) S. Satoh, T. Hata, N. Takada, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Kushnir & J. Obokata: bioRxiv, 2020.11.28.401992 (2020)..さらに,転写開始点とクロマチン構造の詳細解析から,既存のプロモーターを利用できないケースであっても,挿入LUC配列の周辺にはプロモーター様のクロマチン構造が新たに形成され,そこから新規の転写(=de novo転写)が生じていることを明らかにした(1~3)1) T. Hata, S. Satoh, N. Takada, M. Matsuo & J. Obokata: Mol. Biol. Evol., 38, 2791 (2021).2) T. Hata, N. Takada, C. Hayakawa, M. Kazama, T. Uchikoba, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Satoh & J. Obokata: PLoS One, 16, e0252674 (2021).3) H. Kudo, M. Matsuo, S. Satoh, T. Hata, R. Hachisu, M. Nakamura, Y. Y. Yamamoto, H. Kimura, M. Matsui & J. Obokata: Plant J., 108, 29 (2021)..つまり,新たな「プロモーター」が誕生した直後の姿を,実験によって大量に捉えることに成功したのである.この発見は,ゲノム中に出現した新規コード配列は,周辺に転写を活性化する配列が一切無くても,まず自身が誘導する局所的なクロマチンのリモデリングによって初発的なプロモーター機能,すなわち弱い転写能を獲得し,その後は発現する「萌芽遺伝子」として自然選択に晒される可能性を示唆している.

遺伝子の誕生・進化のしくみとde novo転写

ここで,「遺伝子の誕生・進化」と「プロモーター獲得」との関係を整理しておきたい.「遺伝子」とは,転写されて発現する機能単位だが,その誕生プロセスでは,コード配列と転写機能の,どちらが先に生まれるのだろうか? 卵が先か,鶏が先かのような話だが,比較ゲノミクスによる「進化的に若い遺伝子」の系統解析によれば,コード配列の出現と,その部位を含む転写領域の出現とでは,どちらが先のケースもあったと考えられている(17~19)17) L. Zhang, Y. Ren, T. Yang, G. Li, J. Chen, A. R. Gschwend, Y. Yu, G. Hou, J. Zi, R. Zhou et al.: Nat. Ecol. Evol., 3, 679 (2019).18) A. McLysaght & L. D. Hurst: Nat. Rev. Genet., 17, 567 (2016).19) J. F. Schmitz & E. Bornberg-Bauer: F1000 Res., 6, 57 (2017)..実際に多様なノンコーディングRNAが存在している事を考えても,遺伝子の誕生に複数の経路や様式があるという推定は理解し易い(18, 19)18) A. McLysaght & L. D. Hurst: Nat. Rev. Genet., 17, 567 (2016).19) J. F. Schmitz & E. Bornberg-Bauer: F1000 Res., 6, 57 (2017)..一方,生物のゲノム構造の比較からだけでは,遠い過去に遺伝子誕生を導いた分子プロセスを解明するのは難しい.筆者らの行ったプロモータートラップ実験は,コード配列が先に生まれたケースを想定することで,プロモーターが生まれる瞬間,つまり遺伝子誕生の最初期プロセスを実験室の中で再現しようと試みたものである(図3図3■比較ゲノミクスと実験進化).このコード配列先行のケースは,ゲノム配列のシャフリングによって新しいコード配列が誕生する場合や,異種ゲノム間でDNA配列が転移する場合など,ゲノム進化の様々な場面で実際に想定することができる(18, 19)18) A. McLysaght & L. D. Hurst: Nat. Rev. Genet., 17, 567 (2016).19) J. F. Schmitz & E. Bornberg-Bauer: F1000 Res., 6, 57 (2017).

では,私たちの研究から見つかったde novo転写は,遺伝子や真核ゲノムの進化にとって,どのような意味をもつのだろうか? いうまでもなく,これらの進化を駆動するのは自然選択だと考えられている.遺伝子やゲノムに様々な要因で生じた変異のうち,表現型を介して生物の適応度に寄与するものが,集団のゲノム中で次第にその割合を高め,やがて固定される.このように考えると,ゲノム中に新たに出現した「コード配列」は,発現してその機能を呈示しない限り,遺伝子としての自然選択の対象にすらなりえない.これに対し,de novo転写という仕組みは,ゲノム中に新たに出現した「コード配列」に転写能を付与し,その機能を呈示する機会を増やすと考えられる.結果として,de novo転写は新しい有用遺伝子の誕生を助け,真核生物のゲノム進化に寄与してきたのではないかと,私たちは考えている.

De novo転写の進化

De novo転写によって出現した「萌芽遺伝子」は,その後どうなるのだろうか? 私たちの実験によれば,少なくとも1世代後の植物体では,その転写活性はエピジェネティックに維持されている(2)2) T. Hata, N. Takada, C. Hayakawa, M. Kazama, T. Uchikoba, M. Tachikawa, M. Matsuo, S. Satoh & J. Obokata: PLoS One, 16, e0252674 (2021)..ここでたとえば,de novo転写産物の機能に対する選択圧の有無を細胞や植物体の集団に与えて継代実験をした場合,de novo転写の活性や転写開始領域の構造・配列などに,どのような変化が現れるだろうか?

私たちは,de novo転写を検出した人工進化実験系に創意を加えて発展させることで,ゲノム集団のなかに誕生した未成熟な萌芽遺伝子が,より洗練された「遺伝子」へと進化する過程を,実験室の中で直接観察できるのではないかと考えている.

De novo転写の分子メカニズム:核の中ではなにが起こっているのか?

真核生物では,タンパク質をコードする遺伝子はPol IIによって転写されるが,そのプロモーターは一般に,転写開始点周辺のコアプロモーター領域と,その上流域にある調節プロモーター領域に分けることができる.前者は転写開始点を含む50~100塩基対程度の領域で,転写開始複合体の結合やその機能をたすけるTATAボックスやイニシエーターなどの配列を含む場合が多い(20, 21)20) R. Andersson, A. Sandelin & C. G. Danko: Trends Genet., 31, 426 (2015).21) V. Haberle & A. Stark: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 19, 621 (2018)..ところが,de novo転写の開始部位には,これらの配列がほぼみられない.あるのは転写開始のきっかけとなるピリミジン-プリンの2塩基配列だけである(図1図1■De novo転写の特徴).この知見が示唆するのは,Pol IIの転写開始に最低限必要なのは実はコード配列であり,いわゆるプロモーターシス配列は,コード配列の存在によって生じた「基底レベル」の転写をチューニングする役割を果たしているのではないか,ということである.コード配列そのものをPol IIプロモーターの広義の成分と考えていいかもしれない.実際に私たちは,シロイヌナズナを用いたキメラプロモーターの実験から,転写開始位置はコアプロモーターだけでは決まらず,むしろコード配列との距離が転写開始複合体の結合位置を決める要因である事を明らかにしている(3)3) H. Kudo, M. Matsuo, S. Satoh, T. Hata, R. Hachisu, M. Nakamura, Y. Y. Yamamoto, H. Kimura, M. Matsui & J. Obokata: Plant J., 108, 29 (2021).

De novo転写の発見は,広く知られているPol IIの転写開始機構について,新たな疑問を提示する.コード配列がクロマチンのリモデリングや転写開始に必要だとして,核内の装置はコード配列をどのような仕組みで認識するのだろうか? DNA配列としてなのか,それとも,RNA配列を介してなのだろうか? もしRNA配列を介してだとすると,その時の転写,つまり初回の転写はどのように開始されるのだろうか? De novo転写の分子メカニズムを解明するには,Pol IIによる転写開始機構そのものの再検討が必要である.

De novo転写の分子メカニズムに関連して,私たちがもう一点注目しているのは,DNA二本鎖切断(DSB: Double Strand Break)とその修復プロセスである.というのも,ゲノム上に新規のコード配列を出現させるような塩基配列の大きな変化,例えばDNA鎖のシャフリングや異種ゲノム間でのDNA転移などのイベントでは,例外なくDNA鎖の組み換えが生じる.

DSBとその修復の際には,ヒストンなどのクロマチン構造が修復のために一度変化し,DNAの損傷修復後に元の状態に再構築される.このクロマチン構造の変化にはクロマチンの凝集状態の緩和も含まれており,これは転写の活性化におけるクロマチンの変化とも共通している.さらに,シロイヌナズナのゲノムで人工的にDSBを誘導したモデル実験では,クロマチンの再構築過程で従前の構造には戻らない領域も見出されており(22)22) K. Kawaguchi, M. Kazama, T. Hata, M. Matsuo, J. Obokata & S. Satoh: Plant Cell Physiol., 65, 142 (2024).de novo転写で見られた挿入配列近傍での新規のクロマチン構造の形成との関係に興味がもたれる.さらに興味深いことには,DSBによって誘発される新規転写も報告されている(23~29)23) W. Wei, Z. Ba, M. Gao, Y. Wu, Y. Ma, S. Amiard, C. I. White, J. M. Rendtlew Danielsen, Y. G. Yang & Y. Qi: Cell, 149, 101 (2012).24) K. M. Michalik, R. Böttcher & K. Förstemann: Nucleic Acids Res., 40, 9596 (2012).25) F. Michelini, S. Pitchiaya, V. Vitelli, S. Sharma, U. Gioia, F. Pessina, M. Cabrini, Y. Wang, I. Capozzo, F. Iannelli et al.: Nat. Cell Biol., 19, 1400 (2017).26) F. Bonath, J. Domingo-Prim, M. Tarbier, M. R. Friedländer & N. Visa: Nucleic Acids Res., 46, 11869 (2018).27) K. Kawaguchi, S. Satoh & J. Obokata: Genes Cells, 29, 681 (2024).28) T. Schreiber, S. Tripathee, T. Iwen, A. Prange, K. Vahabi, R. Grützner, C. Horn, S. Marillonnet & A. Tissier: bioRxiv, 2022.05.11.491484 (2022).29) R. Böttcher, I. Schmidts, V. Nitschko, P. Duric & K. Förstemann: RNA Biol., 19, 68 (2022)..DSBによって生じたDNAの切断点近傍から生じる新規転写産物をDamage-induced RNAとよぶが,本来プロモーターではない領域から新たに転写が生じるという点で,de novo転写活性化メカニズムとの類似性や関係に注目している.

最後に

本稿では,筆者らが発見したde novo転写について,その発見の経緯と現在の知見,さらにはその生物学的意味などを概観した.また,「De novo転写の進化」と「De novo転写の分子メカニズム」の節では,現在までの知見というよりは,この現象の発見によって新たに可能となった今後の研究の方向と領域,そして私たちがまさに解析しようとしている分子ゲノム学の課題について概説した.De novo転写の研究を進めているのは,私たちの知る限り,筆者らのグループだけであり,海外や動物の系などでの研究例も寡聞にして知らない.また,筆者らは,de novo転写は動植物には関わらず,真核ゲノムが進化の初期に獲得した基本的な機能であると予想しているが,それについても実験的な検証が必要である.本稿によってde novo転写に興味をもつ方々が増え,ゲノム分子生物学や遺伝子進化の研究に新しい領域が開かれることを期待している.

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