解説

腸内細菌の代謝産物を介した微生物間相互作用
コハク酸利用をはじめとした腸内細菌の生存戦略

Microbial Interactions Mediated by Gut Bacterial Metabolites: Survival Strategies of Gut Bacteria, Including Succinate Utilization

Mitsuo Sakamoto

坂本 光央

国立研究開発法人理化学研究所バイオリソース研究センター微生物材料開発室

東京農業大学総合研究所

Published: 2025-06-01

ヒト腸内には多種多様な細菌が生息しており,腸内細菌叢という複雑な生態系を構築している.それぞれの細菌はグルコースなど特定の基質を利用し,多様な活性を有する代謝産物を産生する.ヒト腸内細菌の代謝産物を介した多様な相互作用による遺伝子発現,代謝系,生理活性,生育などの変化や制御には多くの可能性が含まれており,「促進・抑制」,「共生・競合」の時として相反する関係性が微生物群集の安定性に寄与していることがわかってきている.本稿では,代謝産物の中で特にコハク酸などを利用したユニークな腸内細菌の生存戦略について解説する.

Key words: 腸内細菌; 代謝産物; コハク酸; 共培養; 微生物間相互作用

腸内からの微生物の分離

ヒト腸内細菌叢の研究は,培養に依存しない方法が現在となっては主流となっているものの,ヒト糞便中における未培養あるいは未同定の微生物(本稿ではこれらを難培養微生物として議論する)を菌株ごとに分離・培養し,微生物の本質を理解することも重要であると思われる.今日の微生物の分離・培養は,“カルチュロミクス”(culturomics)(1)1) J. C. Lagier, S. Khelaifia, M. T. Alou, S. Ndongo, N. Dione, P. Hugon, A. Caputo, F. Cadoret, S. I. Traore, E. H. Seck et al.: Nat. Microbiol., 1, 16203 (2016).という複数の培養条件を用いて解析する培養手法で,筆者らも培地の種類や培養条件を変化させて菌株の分離をこれまで試みてきた(2)2) 坂本光央:Microb. Resour. Syst., 39, 3 (2023)..分離・培養の最初のステップでは血液寒天培地上に様々なコロニーが形成される(図1図1■分離・培養初期の血液寒天培地上のコロニー).コロニーの性状(形状,大きさ,隆起,周縁,表面,構造,色調,透明度および硬度など)により識別して各々のコロニーを新たな培地に継代培養すると,生育しなかったり,初期培養時と比較して生育が劣ったりする菌株が存在する.これらの菌株の中には,Bacteroides属など生育が良好な菌株の大きなコロニーの近傍に小さなコロニー(ピンポイントコロニー)を形成している場合が多い.例えばBacteroides属は主な代謝産物としてコハク酸や酢酸などを産生する(3)3) 坂本光央:Microbiol. Cult. Coll., 23, 1 (2007)..従って,それらの代謝産物が他の腸内細菌の生育に少なからず影響を及ぼすものと想定される.

図1■分離・培養初期の血液寒天培地上のコロニー

Bacteroides属との共培養で生育が促進する

前述のピンポイントコロニーを形成する主だった菌株は,16S rRNA遺伝子配列の解析から,Phascolarctobacterium faeciumDialister hominisなど,Phascolarctobacterium属やDialister属に属する菌種であることが明らかとなっている.P. faeciumは,元々はコアラから分離された菌種(4)4) T. Del Dot, R. Osawa & E. Stackebrandt: Syst. Appl. Microbiol., 16, 380 (1993).であるが,近年ではヒト腸内に広く存在していることがわかっている(5)5) F. Wu, X. Guo, J. Zhang, M. Zhang, Z. Ou & Y. Peng: Exp. Ther. Med., 14, 3122 (2017).D. hominisは,研究の過程でDialister属の新種として報告した菌種である(6)6) M. Sakamoto, N. Ikeyama, A. Toyoda, T. Murakami, H. Mori, T. Iino & M. Ohkuma: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 70, 589 (2020).P. faecium JCM 30894およびD. hominis JCM 33369Tは,単独での培養では生育が悪いものの,Bacteroides thetaiotaomicron JCM 5827Tとの共培養ではその生育が改善された(図2図2■Bacteroides thetaiotaomicronによる生育促進(7, 8)7) N. Ikeyama, T. Murakami, A. Toyoda, H. Mori, T. Iino, M. Ohkuma & M. Sakamoto: MicrobiologyOpen, 9, e1111 (2020).8) M. Sakamoto, N. Ikeyama, T. Iino & M. Ohkuma: Anaerobe, 77, 102642 (2022)..多糖分解能を有するB. thetaiotaomicronはヒト腸内に生息する最優勢菌種の一つであり(9)9) J. Qin, R. Li, J. Raes, M. Arumugam, K. S. Burgdorf, C. Manichanh, T. Nielsen, N. Pons, F. Levenez, T. Yamada et al.: Nature, 464, 59 (2010).,コハク酸や酢酸の産生が確認されている.

図2■Bacteroides thetaiotaomicronによる生育促進

A. 左:B. thetaiotaomicron JCM 5827T(血液寒天培地の左半分)とP. faecium JCM 30894(同右半分)との共培養,右:P. faecium JCM 30894(同右半分)の単培養.B. 左:B. thetaiotaomicron JCM 5827T(同左半分)とD. hominis JCM 33369T(同右半分)との共培養,右:D. hominis JCM 33369T(同右半分)の単培養.

コハク酸添加で生育が促進する

P. faecium JCM 30894およびD. hominis JCM 33369Tのゲノム解析の結果から,両株ともコハク酸産生に必須であるフマル酸レダクターゼ(フマル酸からコハク酸への還元を触媒する酵素:fumarate reductase)を欠如していることが明らかとなっている(6, 10)6) M. Sakamoto, N. Ikeyama, A. Toyoda, T. Murakami, H. Mori, T. Iino & M. Ohkuma: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 70, 589 (2020).10) Y. Ogata, W. Suda, N. Ikeyama, M. Hattori, M. Ohkuma & M. Sakamoto: Microbiol. Resour. Announc., 8, e01487-18 (2019)..これらの菌株は,嫌気性細菌の培養で一般的に用いられるGAM液体培地においては生育が非常に悪く,濁度の上昇は観察されなかったが,前述のB. thetaiotaomicron JCM 5827Tとの共培養で生育が促進されたことを考慮して,培地に1%(v/v)コハク酸を添加して培養を行った.その結果,P. faecium JCM 30894およびD. hominis JCM 33369Tの両株ともにコハク酸添加によって著しい生育の促進が観察された(図3図3■コハク酸添加による生育促進(7, 8)7) N. Ikeyama, T. Murakami, A. Toyoda, H. Mori, T. Iino, M. Ohkuma & M. Sakamoto: MicrobiologyOpen, 9, e1111 (2020).8) M. Sakamoto, N. Ikeyama, T. Iino & M. Ohkuma: Anaerobe, 77, 102642 (2022)..コハク酸無添加の場合,培養液の最終pHは6.8付近だったが,コハク酸を添加した場合の最終pHは7.4付近に上昇していた.コハク酸添加時は生育にともない80 mM程度存在していたコハク酸が消費され,それに代わって50 mM程度のプロピオン酸の産生が認められた(図4図4■コハク酸添加時による代謝産物の変化(7, 8)7) N. Ikeyama, T. Murakami, A. Toyoda, H. Mori, T. Iino, M. Ohkuma & M. Sakamoto: MicrobiologyOpen, 9, e1111 (2020).8) M. Sakamoto, N. Ikeyama, T. Iino & M. Ohkuma: Anaerobe, 77, 102642 (2022)..コハク酸およびプロピオン酸のpKa値はそれぞれ4.16および4.87であり,前述のpHの上昇は培地中のコハク酸量の減少とプロピオン酸量の増加によって引き起こされたと説明することができる.

図3■コハク酸添加による生育促進

A. P. faecium JCM 30894. B. D. hominis JCM 33369T

図4■コハク酸添加時による代謝産物の変化

A. P. faecium JCM 30894. B. D. hominis JCM 33369T

コハク酸利用菌とコハク酸産生菌との共培養

コハク酸産生菌であるB. thetaiotaomicron JCM 5827Tを予め5時間培養後,その培養液にコハク酸利用菌であるP. faecium JCM 30894およびD. hominis JCM 33369Tそれぞれを接種してB. thetaiotaomicron JCM 5827Tと共培養すると,前述のコハク酸添加時と同様な結果が観察される(図5図5■共培養時における代謝産物の変化(7, 8)7) N. Ikeyama, T. Murakami, A. Toyoda, H. Mori, T. Iino, M. Ohkuma & M. Sakamoto: MicrobiologyOpen, 9, e1111 (2020).8) M. Sakamoto, N. Ikeyama, T. Iino & M. Ohkuma: Anaerobe, 77, 102642 (2022).B. thetaiotaomicron JCM 5827Tの単培養時にはプロピオン酸が検出されなかったことから,B. thetaiotaomicron JCM 5827Tが産生したコハク酸をP. faecium JCM 30894, D. hominis JCM 33369Tが利用してプロピオン酸に変換したと考えられる.共培養時には培地中のpHの変化が緩やかとなり,コハク酸添加時と同様にpHが上昇する.

図5■共培養時における代謝産物の変化

A. P. faecium JCM 30894. B. D. hominis JCM 33369TB. thetaiotaomicron JCM 5827Tを予め培養し,コハク酸が産生される5時間後にそれぞれの菌株を接種して共培養を行った.

B. thetaiotaomicronBifidobacterium adolescentisの共培養で達成された低いpHがB. thetaiotaomicronの増殖と代謝を遅らせる可能性が示唆されている(11)11) P. Das, B. Ji, P. Kovatcheva-Datchary, F. Bäckhed & J. Nielsen: PLoS One, 13, e0195161 (2018)..また,pH 5.5の時のB. thetaiotaomicron DSM 2079T(=JCM 5827T)の増殖率はpH 6.7の時の約40%に減少すると報告されている(12)12) S. H. Duncan, P. Louis, J. M. Thomson & H. J. Flint: Environ. Microbiol., 11, 2112 (2009)..従って,上述の共培養時におけるpH上昇により,B. thetaiotaomicron JCM 5827Tの生育が鈍化し,生育が停滞することをある程度回避できると考えられる.

P. faecium JCM 30894の存在によって,B. thetaiotaomicron JCM 5827Tにおけるグルタミナーゼ(glutaminase)およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)活性が関与するグルタミン酸依存酸耐性システム関連遺伝子およびglutamate/gamma-aminobutyrate antiporter遺伝子(gadC)はダウンレギュレートされていた(7)7) N. Ikeyama, T. Murakami, A. Toyoda, H. Mori, T. Iino, M. Ohkuma & M. Sakamoto: MicrobiologyOpen, 9, e1111 (2020)..酸に対抗する戦略としてアミノ酸依存システムが挙げられ(13, 14)13) P. Lu, D. Ma, Y. Chen, Y. Guo, G. Q. Chen, H. Deng & Y. Shi: Cell Res., 23, 635 (2013).14) E. Pennacchietti, C. D’Alonzo, L. Freddi, A. Occhialini & D. De Biase: Front. Microbiol., 9, 2869 (2018).,特にB. thetaiotaomicronの有するグルタミン酸依存酸耐性システムは非常に強力な機構である(14)14) E. Pennacchietti, C. D’Alonzo, L. Freddi, A. Occhialini & D. De Biase: Front. Microbiol., 9, 2869 (2018)..共培養時におけるpH上昇がグルタミン酸依存酸耐性システム関連遺伝子のダウンレギュレートを引き起こしたと考えられる.

プロピオン酸産生に寄与する代謝経路

プロピオン酸産生にはコハク酸経路,アクリル酸経路,プロパンジオール経路の3つの異なる生化学的経路が存在することが知られている(15)15) N. Reichardt, S. H. Duncan, P. Young, A. Belenguer, C. M. Leitch, K. P. Scott, H. J. Flint & P. Louis: ISME J., 8, 1323 (2014).Bacteroides属などによって産生されるコハク酸は,主にコハク酸経路を介してプロピオン酸に変換される(16)16) P. Louis & H. J. Flint: Environ. Microbiol., 19, 29 (2017)..コハク酸経路は,バクテロイデス門(Bacteroidota;旧Bacteroidetes)やネガティウィクテス綱(Negativicutes)に属する細菌で見つかっている(15)15) N. Reichardt, S. H. Duncan, P. Young, A. Belenguer, C. M. Leitch, K. P. Scott, H. J. Flint & P. Louis: ISME J., 8, 1323 (2014)..前述のP. faecium JCM 30894やD. hominis JCM 33369TNegativicutesのメンバーである.これらの菌株はfumarate reductaseの欠如によってコハク酸経路の重要な構成物質であるコハク酸を合成することができない.従って,Bacteroides属のようなコハク酸産生菌との共存がP. faecium, D. hominisのヒト腸内における増殖とプロピオン酸産生を可能にしていると考えられる.

一般に,Bacteroides属はコハク酸経路によってコハク酸をプロピオン酸に代謝することができるが,高いCO2分圧および高い希釈率といったホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(phosphoenolpyruvate carboxykinase)活性が抑制された培養条件下では培養液中にコハク酸を蓄積することが報告されている(17)17) D. Caspari & J. M. Macy: Arch. Microbiol., 135, 16 (1983)..また,メチルマロニルCoAムターゼ(methylmalonyl-CoA mutase)が関与するコハク酸経路中の一部の代謝過程は補酵素であるビタミンB12も必要であり(16)16) P. Louis & H. J. Flint: Environ. Microbiol., 19, 29 (2017).,コハク酸はビタミンB12欠乏状態のPrevotella ruminicolaの培養液中に蓄積することが明らかとなっている(18)18) H. J. Strobel: Appl. Environ. Microbiol., 58, 2331 (1992).BacteroidesおよびPhascolarctobacteriumは,ゲノム上に8つのビタミンB(ビオチン,コバラミン[ビタミンB12],葉酸,ナイアシン,パントテン酸,ピリドキシン,リボフラビンおよびチアミン)の生合成経路を有していると推定される(10, 19)10) Y. Ogata, W. Suda, N. Ikeyama, M. Hattori, M. Ohkuma & M. Sakamoto: Microbiol. Resour. Announc., 8, e01487-18 (2019).19) S. Magnúsdóttir, D. Ravcheev, V. de Crécy-Lagard & I. Thiele: Front. Genet., 6, 148 (2015)..しかし供試したB. thetaiotaomicron JCM 5827T(=VPI 5482T)にはビタミンB12生合成に必要な上流遺伝子が欠如していた.一方で,P. faecium JCM 30894は完全なビタミンB12生合成経路を持つことが予測された.この結果,B. thetaiotaomicron JCM 5827Tの単培養時にはプロピオン酸が産生されずにコハク酸が蓄積したと考えられる.2種の共培養時には,P. faecium JCM 30894はビタミンB12生合成経路を有していることからB. thetaiotaomicron JCM 5827Tが産生したコハク酸をプロピオン酸に変換することが可能であり,また,生合成されたビタミンB12B. thetaiotaomicron JCM 5827Tのコハク酸経路で利用されると考えられる.

なおNegativicutesに属する菌の中にはVeillonella paruvulaのように乳酸を基質として生育し,コハク酸経路を介して乳酸をプロピオン酸に変換する菌種も存在する(15, 20)15) N. Reichardt, S. H. Duncan, P. Young, A. Belenguer, C. M. Leitch, K. P. Scott, H. J. Flint & P. Louis: ISME J., 8, 1323 (2014).20) P. H. Janssen: Arch. Microbiol., 157, 442 (1992).V. paruvulaP. faeciumD. hominisと異なり,コハク酸だけでは生育できないものの,乳酸の存在下ではコハク酸から追加のエネルギーを獲得することができる(20)20) P. H. Janssen: Arch. Microbiol., 157, 442 (1992).

プロピオン酸産生は生物学的エネルギーの有効活用

P. faeciumD. hominisなどのコハク酸利用菌は,生育に必要なエネルギーの制限される厳しい環境下においても,プロピオン酸産生の過程でエネルギー保存の最大効率化を図ることでヒト腸内における生存戦略としていると考えられる.メチルマロニルCoAデカルボキシラーゼ(methylmalonyl-CoA decarboxylase)による脱炭酸反応で生じたエネルギーは,ナトリウムイオン(Na)濃度勾配に変換することによって生物学的エネルギーとして利用することができる(21, 22)21) P. Dimroth: Microbiol. Rev., 51, 320 (1987).22) W. Hilpert & P. Dimroth: Nature, 296, 584 (1982).P. faeciumD. hominisと同様にコハク酸を唯一の炭素源とするPropionigenium modestumのエネルギー代謝(23)23) B. Schink & N. Pfennig: Arch. Microbiol., 133, 209 (1982).の中心的なエネルギー変換過程は,細胞膜上にNa濃度勾配を作るmethylmalonyl-CoA decarboxylaseと,Na濃度勾配を利用してATP合成を促進するNa依存性ATPアーゼ(ATPase)によって行われる(21, 24, 25)21) P. Dimroth: Microbiol. Rev., 51, 320 (1987).24) P. Dimroth & B. Schink: Arch. Microbiol., 170, 69 (1998).25) W. Hilpert, B. Schink & P. Dimroth: EMBO J., 3, 1665 (1984).P. faeciumも同様と思われる(図6図6■P. faeciumにおけるNa濃度勾配とATP合成(7)7) N. Ikeyama, T. Murakami, A. Toyoda, H. Mori, T. Iino, M. Ohkuma & M. Sakamoto: MicrobiologyOpen, 9, e1111 (2020).

図6■P. faeciumにおけるNa濃度勾配とATP合成

酸性ストレスに対する反応としてB. thetaiotaomicronは培養液中にグルタミン酸やアンモニウムを代謝産物として放出し,一方でP. faeciumはコハク酸代謝の過程でNa濃度勾配によるグルタミン酸の細胞内輸送を行っていると考えられる.細胞内に取り込まれたグルタミン酸が,2-オキソグルタル酸(2-oxoglutarate)を経て最終的にスクシニルCoA(succinyl-CoA)に変換され,コハク酸経路で利用されることによってATPが合成される.B. thetaiotaomicronP. faeciumの共培養時において関連する酵素遺伝子の高発現が確認されている(7)7) N. Ikeyama, T. Murakami, A. Toyoda, H. Mori, T. Iino, M. Ohkuma & M. Sakamoto: MicrobiologyOpen, 9, e1111 (2020).

従って,P. faeciumはエネルギー源であるコハク酸およびグルタミン酸の供給を受けることで生育を促進することができ,B. thetaiotaomicronにとっては自身の代謝産物(コハク酸や酢酸)によるpHの変動が引き起こす酸性ストレスの緩和に繋がっていると思われる.つまり,2種は片利共生ではなく一種の相利共生関係にあると言えるだろう.

液液共培養法によって分離されるユニークな腸内細菌

これまで,いくつかの新種や難培養微生物が共培養の機序を利用したメンブレンフィルター法(26)26) Y. Tanaka & Y. Benno: Microbiol. Immunol., 59, 63 (2015).などによって分離されているが,固体培地の代わりに液体培地を用いた液液共培養法を用いて菌株を単離した例はあまりない.最近,筆者らは,便希釈液を生育支持菌として,支持菌の産生する代謝産物により,フィルター濾過(孔径0.45 µm)によって選別した極小の未知細菌種の生育促進と分離が期待される新しい培養法である液液共培養法(図7図7■市販の共培養容器を用いた液液共培養法)を用いて,湾曲状の特徴を有するWaltera intestinalisを分離した(27)27) 久富 敦,大熊盛也,坂本光央:Microb. Resour. Syst., 40, 39 (2024).W. intestinalisはこれまで仔豚からしか分離されておらず(28)28) D. Wylensek, T. C. A. Hitch, T. Riedel, A. Afrizal, N. Kumar, E. Wortmann, T. Liu, S. Devendran, T. R. Lesker, S. B. Hernández et al.: Nat. Commun., 11, 6389 (2020).,今回初めてヒトから分離された.同時にWaltera属の2番目の菌種となるWaltera acetigignensも分離されている(29)29) M. Sakamoto, A. Hisatomi & M. Ohkuma: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 74, 006381 (2024)..分離株の細胞サイズは,生育初期では細く短く,培養時間が経つごとに太く長くなることが確認されており,培養初期には分離株はフィルターを通過し,後に伸長するというユニークな特徴を持つことが示唆されている.分離株はフィルター濾過すると(細胞サイズが細く短くなると)単培養では生育できず,共培養でしか生育しなかった.現在,どのような物質がWaltera属の分離と生育促進に関与しているのか,研究を進めている.新たな微生物間相互作用が見つかることを期待したい.

図7■市販の共培養容器を用いた液液共培養法

おわりに

本稿では,生育にコハク酸を利用するといった糖を代謝できないマイナーな細菌の腸内における生存戦略の一端を紹介した.Phascolarctobacterium属菌種やDialister属菌種は,ヒト腸内において,コハク酸を利用することによって健康増進作用のあるプロピオン酸(30)30) E. Hosseini, C. Grootaert, W. Verstraete & T. Van de Wiele: Nutr. Rev., 69, 245 (2011).を産生していると考えられる.また,コハク酸の蓄積を防ぐことによって,Clostridioides difficileの生育を阻害し,感染症を予防するという成果も報告されている(31)31) H. Nagao-Kitamoto, J. L. Leslie, S. Kitamoto, C. Jin, K. A. Thomsson, M. G. Gilliland III, P. Kuffa, Y. Goto, R. R. Jeng, C. Ishii et al.: Nat. Med., 26, 608 (2020)..従って,生体にとって有益な物質の産生者としても,有害な物質の利用者としても,Phascolarctobacterium属菌種やDialister属菌種などのコハク酸利用菌の今後の研究動向に注目したい.代謝産物の共有およびエネルギーの授受など細菌同士の相互作用(cross-feeding)は多様であるため,研究の余地はまだまだ多く残されている.

Reference

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