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もち米は食後の血糖上昇能が高い食品なのか?
消化管ホルモンと迷走感覚神経を介して血糖上昇を穏やかにするもち米品種の同定

Kento Ohbayashi

大林 健人

京都府立大学大学院生命環境科学研究科動物機能学研究室

Yusaku Iwasaki

岩﨑 有作

京都府立大学大学院生命環境科学研究科動物機能学研究室

Published: 2025-07-01

本稿では,米離れが進む日本において,和食における米,特にもち米の重要性を科学的に再考することはできないかという問いのもと,イネの遺伝学・遺伝子工学の専門家と生理学の専門家が共同研究を行い,明らかにした「血糖値上昇が穏やかなもち米品種の同定とその作用機序」について解説する(1)1) K. Ohbayashi, Y. Sugiyama, T. Nohmi, K. Nishimura, T. Nakazaki, Y. I. Sato, T. Masumura & Y. Iwasaki: J. Physiol. Sci., 74, 47 (2024).

この研究を通じて,もち米の食品化学的・栄養生理学的・食品機能学的な可能性に関心を持っていただくきっかけとなれば幸いである.

2型糖尿病の罹患者数は世界規模で増加し続けている.加齢に伴い2型糖尿病の発症率は増加するが,国際糖尿病連合の報告によると,2045年には60歳以上の5人に1人が2型糖尿病に罹患すると予測されている.食事の観点から糖尿病の予防や改善にアプローチする際,食後の血糖上昇を穏やかにすることが有効である.グリセミックインデックス(glycemic index; GI)とは,一定量の炭水化物を含む食品を摂取した後の血糖上昇の程度を数値化した指標であり,糖質50 g相当のグルコースや米飯を摂取した後の120分後までの血糖上昇曲線下面積を100とすることが多い.多くの疫学研究により,高GI食が2型糖尿病の発症リスクとなり,低GI食が糖尿病の予防と治療に効果的であることが示されている.

炭水化物(糖質)は,日本人の食事摂取基準において,1日の総エネルギー摂取量の50~65%を占めることが推奨されている.また,近年の米の供給量の減少や価格の高騰を背景に,主食としての米の重要性とその価値を再認識する機会が増えている.一方で,白米は高GI食品であり,摂取量が多い場合には2型糖尿病の発症リスクを高める可能性がある(2)2) A. Nanri, T. Mizoue, M. Noda, Y. Takahashi, M. Kato, M. Inoue, S. Tsugane & Japan Public Health Center-based Prospective Study Group: Am. J. Clin. Nutr., 92, 1468 (2010)..したがって,血糖値の上昇を抑えながら米を摂取する方法を確立することは,健康の維持のみならず,日本の農業や食文化を守る上でも重要な課題である.

米は,そのデンプン構造に基づき,「うるち米」と「もち米」に分類される.「うるち米」は,グルコースが直鎖状につながった構造のアミロースが約20%,グルコースが枝分かれしながらつながったアミロペクチンが約80%である.他方,「もち米」はアミロペクチンがほぼ100%である.枝分かれ構造のアミロペクチンは消化酵素の影響を受けやすく消化が早いため,食後血糖値に強く影響を与えると考えられている.そのため,もち米はうるち米よりも食後血糖反応が大きいと報告されている(3)3) J. B. Miller, E. Pang & L. Bramall: Am. J. Clin. Nutr., 56, 1034 (1992)..しかし,2021年のシステマティックレビューによると,うるち米による米飯は一貫して80前後の高いGI値を示すが,餅を含むもち米を利用した食品は48~94の広い範囲のGI値を示した(4)4) F. S. Atkinson, J. C. Brand-Miller, K. Foster-Powell, A. E. Buyken & J. Goletzke: Am. J. Clin. Nutr., 114, 1625 (2021)..この矛盾点に,糖代謝を専門とする生理学研究者であるわれわれは強い関心を抱いた.そして,イネ研究の専門家である佐藤洋一郎博士(当時:京都府立大学文学部和食文化学科教授,現:ふじのくに地球環境史ミュージアム館長),中﨑鉄也博士(当時:京都大学大学院農学研究科教授,現:京都大学成長戦略本部研究員),そして,増村威宏博士(京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授)と共同研究を行う機会を得た.ここでの議論において,アミロペクチンには多様な分岐・立体構造が存在し,品種の違いによってアミロペクチンの構造が異なることが分かった(5)5) K. Okamoto, K. Kobayashi, H. Hirasawa & T. Umemoto: Plant Prod. Sci., 5, 45 (2002)..そして,もち米の品種の違いと血糖上昇反応を比較した研究が皆無であることも事前調査で分かった.

上記を背景に本研究では,品種の異なるもち米の血糖値に与える影響を,マウスを用いた動物実験にて検証した.もち米品種は,来歴や栽培地が異なる多様なもち米品種の遺伝変異をカバーする7品種(清水糯,羽二重糯,Khao ha noi,アネコモチ,赤糯,匂い糯,紅血糯)を選定した.対照となるうるち米は,日本国内で広く知られ,消費されている3品種(ヒノヒカリ,きらら397,ななつぼし)を選定した.玄米を10%精米した白米を材料とし,これらの糖質含量を定量し(糖質含量:68~80%),マウスへ投与する糖質量が体重1 kgあたり2 gとなるような水懸濁液を調製した.それぞれの米懸濁溶液をマウスへ単回胃内投与し,その後120分までの血糖値を経時的に測定した.その結果,うるち米3品種は同程度の食後血糖上昇作用を示したが,もち米7品種は食後血糖上昇作用が高いものから低いものまで多様であった(図1図1■各種米懸濁液投与後120分までの血糖上昇曲線下面積).その中でも,青森県の奨励品種である「アネコモチ」が最も低い食後血糖上昇作用を示し,次いで滋賀県発祥の「羽二重糯」であった.この動物実験の結果は,もち米食品がヒトにおいては多様なGIを示すという報告と類似であった.そして,もち米は品種の違いによって糖代謝に与える作用が異なることが示された.

図1■各種米懸濁液投与後120分までの血糖上昇曲線下面積

グルコース投与群(黒色)と比較して,3種のうるち米品種(灰色)はすべて高い血糖上昇反応(血糖上昇曲線下面積)を示し,その値は一定であった.一方で,7種のもち米品種(白色)の血糖上昇反応は低いものから高いものまでさまざまであった.**p<0.01 by one-way ANOVA followed by Dunnett’s test(vs. ヒノヒカリ投与群).#p<0.05 by one-way ANOVA followed by Dunnett’s test(vs. グルコース投与群).

次に,「アネコモチ」や「羽二重糯」の低い食後血糖上昇作用のメカニズムについて,糖代謝関連ホルモンと自律神経の関与について検証した.2型糖尿病治療薬の基となった腸ホルモンのglucagon-like peptide-1(GLP-1)の血中濃度を測定すると,アネコモチや羽二重糯は,その他のうるち米やもち米に比べて投与後の血中GLP-1濃度が高かった.GLP-1の機能として,血糖低下ホルモンである膵ホルモンのインスリンの分泌を高めることがよく知られている.しかし,アネコモチや羽二重糯は,血中インスリン濃度の上昇率はむしろ低かった.すなわち,アネコモチや羽二重糯は,GLP-1分泌を高め,インスリン分泌でなく,インスリン作用を増強することで食後の血糖上昇を抑制することが明らかになった.われわれは,GLP-1分泌促進成分として同定した希少糖アルロースの研究において,腸GLP-1のインスリン作用増強による耐糖能向上作用を報告してきた(6)6) Y. Iwasaki, M. Sendo, K. Dezaki, T. Hira, T. Sato, M. Nakata, C. Goswami, R. Aoki, T. Arai, P. Kumari et al.: Nat. Commun., 9, 113 (2018)..そして,この作用には,腸と脳とを繋ぐ内臓感覚神経の迷走感覚神経が深くかかわっていることを明らかにしてきた(6)6) Y. Iwasaki, M. Sendo, K. Dezaki, T. Hira, T. Sato, M. Nakata, C. Goswami, R. Aoki, T. Arai, P. Kumari et al.: Nat. Commun., 9, 113 (2018)..そこで,アネコモチの低い食後血糖上昇作用におけるGLP-1受容体と迷走感覚神経の関与を検証した.その結果,アネコモチの作用は,GLP-1受容体阻害剤の事前投与,GLP-1受容体ノックアウトマウス,そして,迷走感覚神経の外科的もしくは化学的障害マウスで完全に消失した.したがって,GLP-1分泌能力の高いもち米は,GLP-1受容体を発現した迷走感覚神経への作用を介して,インスリンの作用を高め,耐糖能を向上させることが示された.

われわれはこの度,もち米は品種の違いによって血糖上昇能が異なることをマウスの実験で明らかにした.その作用機序には,腸ホルモンGLP-1と迷走感覚神経を介したインスリン作用増強作用が関与することを,生理学的に明らかにした.この生理作用を発揮するもち米中の機能成分の同定には至らなかったため,今後の課題である.そして,アネコモチや羽二重糯がヒトにおいても血糖上昇が穏やかであるのか,2型糖尿病の予防・改善に効果的であるのか,さらなるヒト研究の重要性が示された.インスリン作用を高める機能を有するもち米は,インスリンの節約にもなることから,2型糖尿病の予防と治療に大きく貢献することが期待される.本研究成果は,血糖値を気にすることなくお米を用いた食事を楽しむことのできる新たな食事法の開発のための基盤となり,日本の食文化保護にも貢献することが期待される.

Reference

1) K. Ohbayashi, Y. Sugiyama, T. Nohmi, K. Nishimura, T. Nakazaki, Y. I. Sato, T. Masumura & Y. Iwasaki: J. Physiol. Sci., 74, 47 (2024).

2) A. Nanri, T. Mizoue, M. Noda, Y. Takahashi, M. Kato, M. Inoue, S. Tsugane & Japan Public Health Center-based Prospective Study Group: Am. J. Clin. Nutr., 92, 1468 (2010).

3) J. B. Miller, E. Pang & L. Bramall: Am. J. Clin. Nutr., 56, 1034 (1992).

4) F. S. Atkinson, J. C. Brand-Miller, K. Foster-Powell, A. E. Buyken & J. Goletzke: Am. J. Clin. Nutr., 114, 1625 (2021).

5) K. Okamoto, K. Kobayashi, H. Hirasawa & T. Umemoto: Plant Prod. Sci., 5, 45 (2002).

6) Y. Iwasaki, M. Sendo, K. Dezaki, T. Hira, T. Sato, M. Nakata, C. Goswami, R. Aoki, T. Arai, P. Kumari et al.: Nat. Commun., 9, 113 (2018).