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異なる時を計る2つの体内時計に共通する部品を発見
脱皮リズムと24時間リズムの双方に「時計遺伝子」ホモログRor/nhr-23が必須である

Shingo Hiroki

廣木 進吾

東京都医学総合研究所体内時計プロジェクト

現所属:University of California, San Diego

Hikari Yoshitane

吉種

東京都医学総合研究所体内時計プロジェクト

Published: 2025-07-01

分子,細胞,組織を協調させて機能を発揮するために,生体にはさまざまなタイマー機構が存在する.そのうち,もっとも身近なのは「概日時計」と呼ばれる約24時間周期で働く機構である.たとえば,われわれヒトでは,昼間に全身の代謝が高まり活動的になる一方で,夜間には睡眠をとるなどエネルギーを蓄えるように全身の機能が調節される.特に哺乳類においてこの仕組みの中核となるのは,CLOCKとBMALと呼ばれる2つのタンパク質である (図1図1■哺乳類(マウス)の概日時計システム(1)1) A. Patke, M. W. Young & S. Axelrod: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 21, 67 (2020)..CLOCKとBMALは二量体を形成することで転写因子として働き,多くの遺伝子の転写を促進することで生体の機能を調節する.こうして転写される遺伝子の一つにPerという遺伝子があり,その翻訳産物であるPERタンパク質はCLOCK-BMAL1を抑制する.この負のフィードバック・ループによって,BMAL1-CLOCKの活性が,朝に高く夜に低くなるという約24時間の周期性を帯びるようになり,その下流にある遺伝子も24時間周期で転写されるようになる.また,この中核的なループに加え,概日時計にはDBP, ROR, REV-ERBなどの転写因子で構成される副次的なループが存在する(図1図1■哺乳類(マウス)の概日時計システム).これらによって核となるループが安定化されノイズに対し頑健になるとともに,DBPが昼に,RORが夜に転写の活性化ピークを迎えるように調節され,その組み合わせによって下流の各遺伝子は多様な(24時間周期の)パターンで転写される.このようにして,概日時計は安定かつ柔軟に約24時間周期のリズムを生み出している(図1図1■哺乳類(マウス)の概日時計システム).

図1■哺乳類(マウス)の概日時計システム

マウスにおいて,転写因子BMAL1およびCLOCKとそれらを抑制するPERタンパク質が負のフィードバック・ループを形成し,毎朝ピークとなるような24時間のリズムが生成される.さらに,DBPとE4BP4が昼の転写活性化と抑制,RORとREV-ERBが夜の転写活性化と抑制を行うことで,遺伝子ごとにさまざまな24時間周期の転写パターンが生み出される.

概日時計を構成するこれらのDbp, Bmal1, Ror, Perなどの遺伝子は時計遺伝子と呼ばれており,その機能は生物種間で保存されている(1)1) A. Patke, M. W. Young & S. Axelrod: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 21, 67 (2020)..哺乳類だけでなく,ショウジョウバエなどの節足動物でも類似した機能を持つホモログが存在する.その共通祖先から考えると,時計遺伝子による概日時計の構成の起源は,左右相称動物まではさかのぼることができるだろう.

一方で,左右相称動物の中には,興味深い例外も存在する.ショウジョウバエと並び有名なモデル動物である線虫C. elegansは左右相称動物(線形動物門)であり,彼らもまた時計遺伝子のホモログを持つ.しかしながら,それら時計遺伝子の使われ方は少々異なる.線虫は幼虫期に4回の脱皮を行うが,実験室環境ではこの時間間隔が正確に定まっており(25°Cでは約8時間ごと),この周期に合わせて多くの遺伝子がリズミックに発現変動する.この脱皮リズムは,線虫のPerホモログであるlin-42の機能喪失型変異体では失われ,幼虫はランダムなタイミングで脱皮するようになる.また,他の時計遺伝子の変異体でも脱皮異常が起こることに加え,線虫が脱皮の後に示す無動状態(lethargus)は,哺乳類でいう「睡眠」に非常に近い状態であるということが報告された.これにより現在,他の左右相称動物における概日時計のシステムが線虫においては「発生時計」として転用されていると考えられている(2)2) M. Olmedo, M. Merrow & M. Geibel: “Chapter Two - Sleeping Beauty? Developmental Timing, Sleep, and the Circadian Clock in Caenorhabditis elegans,” in Advances in Genetics, T. Friedmann, J. C. Dunlap, S. F. Goodwin, Eds., Academic Press, 2017, pp. 43–80..一方で,各遺伝子の寄与度については違いがある.たとえばRorホモログnhr-23の変異体では,線虫では脱皮がほぼ起こらなくなる(3)3) M. Kostrouchova, M. Krause, Z. Kostrouch & J. E. Rall: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 7360 (2001).という強い表現型を示すが,哺乳類ではRorは概日リズムに必須ではない.

ここで一つの疑問が生じる:線虫において時計遺伝子が別の周期の時計に転用されているのだとしたら,彼らは概日リズムをどのようにして生成しているのだろうか? 実験室条件では線虫は明確な概日リズムを示さないが,温度や光環境を24時間周期で強く変動させると,弱いながらも約24時間周期のリズムが観察される(4)4) K. Hasegawa, T. Saigusa & Y. Tamai: Chronobiol. Int., 22, 1 (2005)..しかし,そのリズムを生み出す核となる遺伝子はこれまで明らかにされていなかった.ただし,そのシステムは哺乳類などの概日時計システムとは異なるということは以前より指摘されていた.たとえば,Perホモログはハエやマウスの概日時計に必須であるが,線虫においてPer/lin-42の変異体において概日性の行動リズムは大まかに正常であり,さらにlin-42のmRNA量は概日リズムを示さないことも報告されている.

そこで,われわれは概日時計の中心となる転写因子を推定するため,過去のトランスクリプトームデータを再解析した(5)5) S. Hiroki & H. Yoshitane: Commun. Biol., 7, 243 (2024)..過去の研究で,24時間周期で25°Cから15°Cという12時間ごとの温度サイクル下で成虫を飼育することで,トランスクリプトームレベルの概日リズムを評価する実験が行われていた(6)6) A. M. van der Linden, M. Beverly, S. Kadener, J. Rodriguez, S. Wasserman, M. Rosbash & P. Sengupta: PLoS Biol., 8, e1000503 (2010)..このデータを再解析することによって,Rorホモログnhr-23の下流遺伝子がロバストな概日性mRNAリズムを示すことを見いだした.このことから,NHR-23こそが概日時計の中核ではないかと仮説を立てた.しかし,nhr-23変異体は脱皮異常のために成虫まで成長できず,変異体が概日リズムに異常を持つか調べることは困難であった.そこでわれわれは,オーキシンを加えるとnhr-23が分解される遺伝子組換株を使用した.この株が成虫まで成長したのちに,オーキシンを与えてnhr-23を分解し,先の実験に倣ってトランスクリプトームを取得した.その結果.nhr-23を分解すると概日リズムがほぼ完全に消失することが分かった.このことから,線虫においてnhr-23は従来知られていた発生時計における役割のみならず,概日時計においても中心的な役割を果たすことが明らかとなった(5)5) S. Hiroki & H. Yoshitane: Commun. Biol., 7, 243 (2024)..さらに,ごく最近,幼虫において,ROR/NHR-23とPER/LIN-42が相互作用することで脱皮リズムが制御されるという論文が発表された(7)7) B. Kinney, S. Sahu, N. Stec, K. Hills-Muckey, D. W. Adams, J. Wang, M. Jaremko, L. Joshua-Tor, W. Keil & C. M. Hammell: Dev. Cell, 58, 2563 (2023)..われわれはこの報告と本研究を踏まえ,NHR-23は相互作用の相手を変えることで異なる周期のリズムを柔軟に生成しているのではないかと考えている(Graphical Abstract).

ここ数十年で,概日時計の基本的な仕組みは生物種を超えて解明されてきた.しかし,生体において,概日時計の主要なシステムが同一の「部品」によって構成されるという明確な報告はこれまで存在しなかった.一方で,RorホモログHr3はショウジョウバエにおける幼虫期の脱皮において重要な役割を果たす.さらに,シミではHr3ホモログのノックダウンによって行動リズムに異常が生じることも報告されている(8)8) Y. Kamae, O. Uryu, T. Miki & K. Tomioka: PLoS One, 9, e114899 (2014)..このことから,今回線虫で見られたような現象は少なくとも脱皮動物間で保存されている可能性がある.今後,概日時計にかかわる分子が他システムへいかに応用されるかという形で,生体における時間調節機構の解明が期待される.

Reference

1) A. Patke, M. W. Young & S. Axelrod: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 21, 67 (2020).

2) M. Olmedo, M. Merrow & M. Geibel: “Chapter Two - Sleeping Beauty? Developmental Timing, Sleep, and the Circadian Clock in Caenorhabditis elegans,” in Advances in Genetics, T. Friedmann, J. C. Dunlap, S. F. Goodwin, Eds., Academic Press, 2017, pp. 43–80.

3) M. Kostrouchova, M. Krause, Z. Kostrouch & J. E. Rall: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 7360 (2001).

4) K. Hasegawa, T. Saigusa & Y. Tamai: Chronobiol. Int., 22, 1 (2005).

5) S. Hiroki & H. Yoshitane: Commun. Biol., 7, 243 (2024).

6) A. M. van der Linden, M. Beverly, S. Kadener, J. Rodriguez, S. Wasserman, M. Rosbash & P. Sengupta: PLoS Biol., 8, e1000503 (2010).

7) B. Kinney, S. Sahu, N. Stec, K. Hills-Muckey, D. W. Adams, J. Wang, M. Jaremko, L. Joshua-Tor, W. Keil & C. M. Hammell: Dev. Cell, 58, 2563 (2023).

8) Y. Kamae, O. Uryu, T. Miki & K. Tomioka: PLoS One, 9, e114899 (2014).