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直接電子移動型酵素電極反応と生体模倣技術への応用
構造生物学と生物電気化学に基づく最新研究と今後の展望

Reiji Kinosada

紀之定 玲司

京都大学大学院農学研究科

Keisei Sowa

宋和 慶盛

京都大学大学院農学研究科

Published: 2025-07-01

酸化還元酵素は,2つの基質(酸化剤と還元剤)間の電子移動を触媒する生体材料であり,全酵素種の約25%を占める巨大なファミリーを形成している.本酵素は,呼吸や代謝,光合成などにかかわっており,生命維持や元素循環において極めて重要な役割を担っている(1)1) K. Kano: Biosci. Biotechnol. Biochem., 86, 141 (2022).

酸化還元酵素反応と電極反応を共役させることで,“酵素電極反応”を構築できる.本反応は,化学エネルギーと電気エネルギーの相互変換系として捉えることができ,生体模倣技術への応用が期待されている.たとえば,特定の対象物質のみを選択的に定量できるバイオセンサ,バイオマスから電気エネルギーを取り出すバイオ燃料電池,電気エネルギーを物質生産に利用するバイオリアクタなどの生物電気化学的デバイスが挙げられる(2)2) F. Schachinger, H. Chang, S. Scheiblbrandner & R. Ludwig: Molecules, 26, 4525 (2021)..酵素電極反応は,酵素–電極間の電子移動を低分子酸化還元物質(メディエータ)が仲介するメディエータ電子移動(MET)型と,酵素が電極と直接電子をやりとりする直接電子移動(DET)型に分類される(グラフィカルアブストラクト図).前者は,幅広い酵素を利用可能であるが,メディエータに伴う毒性によって生体および環境適合性が低下する点,系が複雑化する点が課題となっている.一方,後者のDET型反応は,MET型反応の課題を克服し,さまざまな用途で応用展開できる高い設計自由度を有している.代表的な応用例として,グルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼを用いた血糖値センサの研究開発などが挙げられる(2)2) F. Schachinger, H. Chang, S. Scheiblbrandner & R. Ludwig: Molecules, 26, 4525 (2021)..しかしながら,DET型反応可能な酵素(DET型酵素:一般向けに導電性酵素と表現する場合もある)は稀少であり,多角的な基礎研究が不可欠である.本稿では,構造生物学と生物電気化学による異分野融合によって研究が大きく前進した2種類のDET型酵素を紹介する.また,これらの酵素において研究開発が期待されるバイオデバイスについても解説する.

1つ目のDET型酵素は,酢酸菌Gluconobacter japonicus由来フルクトース脱水素酵素(D-fructose dehydrogenase; FDH)である(3)3) M. Ameyama, E. Shinagawa, K. Matsushita & O. Adachi: J. Bacteriol., 145, 814 (1981)..本酵素は平均の30倍を超えるDET型活性(触媒電流値:30 mA cm−2超)を有し,電気化学,酵素工学,分光学の視点で多角的な研究が展開されてきた.FDHは,3つのサブユニットからなる膜結合型ヘテロ三量体である.サブユニットI内のフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)でフルクトースが酸化され,その電子は3Fe-4Sクラスター,ヘム3c, 2c, 1cを経由し,サブユニットIII内のユビキノン(UQ10)に伝達されることで,生体内でエネルギー獲得の役割を果たしている.また,DET型反応では,ヘム2cが電極への電子移動を担う(電極反応部位として機能する)ことが判明している(図1A図1■FDHとFoDH1におけるDET型反応機構とその応用展開).

図1■FDHとFoDH1におけるDET型反応機構とその応用展開

(A) FDHの反応機構.FADでフルクトースを酸化し,heme 2cが電極反応部位として機能する.(B)FoDH1の反応機構.W-bis-MGDとFMNが触媒活性部位,2つのFe-Sクラスターが電極反応部位として機能する.(C)FDHを用いたバイオセンサおよびバイオ燃料電池.(D)FoDH1を用いたCO2資源化および補酵素再生バイオリアクタ.

本酵素は1981年に酵素特性が報告されて以来,その立体構造は40年以上不明であったが,近年,クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)と単粒子像解析技術によりその立体構造が解明された(PDB ID: 7W2J, 8JEJ).本立体構造に基づき,電極反応部位であるヘム2cと酵素表面に存在する芳香族アミノ酸(W427)が酵素–電極間の電子移動を加速していることが特定され,FDHが持つ卓越したDET型活性の要因が明らかとなった(4)4) Y. Suzuki, F. Makino, T. Miyata, H. Tanaka, K. Namba, K. Kano, K. Sowa, Y. Kitazumi & O. Shirai: ACS Catal., 13, 13828 (2023)..本知見をもとにした,DET型酵素の合理的設計や探索,FDHを鋳型とする新規酵素の創出などの新展開が期待されている.

2つ目のDET型酵素は,メタノール資化性菌Methylorubrum extorquens AM1由来ギ酸脱水素酵素(formate dehydrogenase; FoDH1,一般的にギ酸脱水素酵素はFDHと略されることが多いが,本稿ではフルクトース脱水素酵素と区別するためFoDHと表記)である(5)5) M. Laukel, L. Chistoserdova, M. E. Lidstrom & A. Vorholt: Eur. J. Biochem., 270, 325 (2003)..本酵素は,タングステンコファクター(tungsten-bis-molybdopterin guanine dinucleotide; W-bis-MGD)活性部位とフラビンモノヌクレオチド(FMN)活性部位を持つヘテロ二量体であり,CO2とギ酸酸化還元対,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化還元対(NAD/NADH)の相互変換を触媒可能である(図1B図1■FDHとFoDH1におけるDET型反応機構とその応用展開).また,DET型活性だけでなく,酸素耐性も併せ持つ非常に優れた有用酵素として注目されている.

FoDH1に関しても,その立体構造(PDB ID: 7VW6)の解明によって,生物電気化学的研究が大きく発展した.2つの活性部位だけでなく,6つのFe-Sクラスター(A1, A2, A3, A4, B1, B2)の存在が確認され,B2以外の5つのFe-Sクラスターが酵素内電子移動を担うことが判明した.一方,本電子移動に関与しないB2が最も酵素表面に露出している点に着目し,電気化学的検証によって,本クラスターが電極反応部位であることが解明された.さらに,酵素表面特性に着目した検証によって,B2だけでなく,αサブユニット内のFe-Sクラスター(A1–A4)のいずれかが電極反応部位として機能することが推定されている(6)6) T. Yoshikawa, F. Makino, T. Miyata, Y. Suzuki, H. Tanaka, K. Namba, K. Kano, K. Sowa, Y. Kitazumi & O. Shirai: Chem. Commun., 58, 6478 (2022).

FDHとFoDH1応用例について紹介する.1つ目は,FDHを用いたバイオセンサとバイオ燃料電池である(図1C図1■FDHとFoDH1におけるDET型反応機構とその応用展開).フルクトースは,食品産業において主要な糖類の一つであるだけでなく,腎臓や肝臓疾患に関与する代謝物であるため,センシングニーズが非常に高い.具体的には,FDHの卓越したDET型活性によって,校正不要なバイオセンサが開発されており,1週間程度の安定性が達成されている(7)7) Y. Suzuki, K. Kano, O. Shirai & Y. Kitazumi: J. Electroanal. Chem., 877, 114651 (2020)..また,フルクトースを燃料源とする発電デバイスの応用研究も進んでおり,酵素と電極だけで発電できるコンセプトが実証されている(1)1) K. Kano: Biosci. Biotechnol. Biochem., 86, 141 (2022).

2つ目は,FoDH1を用いたCO2資源化と補酵素再生バイオリアクタである(図1D図1■FDHとFoDH1におけるDET型反応機構とその応用展開).前者は,酵素の優れた特性によって,常温常圧中性という穏和な条件で,CO2をギ酸に高効率(ファラデー効率80%以上)に変換できる(論文投稿準備中).さらに,気体状の基質を活用できるガス拡散型電極を利用することで,大気中のCO2を回収と同時に資源化することも可能であり,既存の無機触媒を用いた高温高圧条件で作動するDirect Air Capture(DAC)技術ではアプローチが難しい都市空間などにおいて,安心安全なCO2資源化を実現できる(8, 9)8) H. Ahouari, A. Soualah, A. L. Valant, L. Pinard, P. Magnoux & Y. Pouilloux: React. Kinet. Mech. Catal., 110, 131 (2013).9) K. Sakai, Y. Kitazumi, O. Shirai, K. Takagi & K. Kano: Electrochem. Commun., 73, 85 (2016)..また,電気エネルギーを活用することで,生体内における補酵素として重要なNAD/NADHの再生リアクタも構築できる(図1D図1■FDHとFoDH1におけるDET型反応機構とその応用展開).特に,本変換を担うFoDH1のβサブユニットのみを単独発現させることで,DET型活性の向上やエネルギー変換ロスの低減が報告されている(10)10) T. Makizuka, K. Sowa, S. Katayama, Y. Kitazumi, H. Yurimoto, Y. Sakai & O. Shirai: Electrochim. Acta, 465, 142954 (2023).

本稿では,革新的生体模倣技術の基盤となりうるDET型酵素として,FDHおよびFoDH1に関する最新研究を解説した.基礎研究面においては,立体構造解明をブレイクスルーとするDET型反応メカニズムや促進システムの生物電気化学的解明,応用研究面においては,FDHを活用したバイオセンサやバイオ燃料電池,FoDH1を活用したCO2資源化や補酵素再生バイオリアクタを紹介した.今後,現在の構造生物学と生物電気化学が織りなす学際研究に,計算科学をさらに融合させることでDET型酵素の創出や改良が期待される.さらに,その先の成果として,これらの生体模倣技術が社会実装され,持続可能な社会が実現することを願っている.

Reference

1) K. Kano: Biosci. Biotechnol. Biochem., 86, 141 (2022).

2) F. Schachinger, H. Chang, S. Scheiblbrandner & R. Ludwig: Molecules, 26, 4525 (2021).

3) M. Ameyama, E. Shinagawa, K. Matsushita & O. Adachi: J. Bacteriol., 145, 814 (1981).

4) Y. Suzuki, F. Makino, T. Miyata, H. Tanaka, K. Namba, K. Kano, K. Sowa, Y. Kitazumi & O. Shirai: ACS Catal., 13, 13828 (2023).

5) M. Laukel, L. Chistoserdova, M. E. Lidstrom & A. Vorholt: Eur. J. Biochem., 270, 325 (2003).

6) T. Yoshikawa, F. Makino, T. Miyata, Y. Suzuki, H. Tanaka, K. Namba, K. Kano, K. Sowa, Y. Kitazumi & O. Shirai: Chem. Commun., 58, 6478 (2022).

7) Y. Suzuki, K. Kano, O. Shirai & Y. Kitazumi: J. Electroanal. Chem., 877, 114651 (2020).

8) H. Ahouari, A. Soualah, A. L. Valant, L. Pinard, P. Magnoux & Y. Pouilloux: React. Kinet. Mech. Catal., 110, 131 (2013).

9) K. Sakai, Y. Kitazumi, O. Shirai, K. Takagi & K. Kano: Electrochem. Commun., 73, 85 (2016).

10) T. Makizuka, K. Sowa, S. Katayama, Y. Kitazumi, H. Yurimoto, Y. Sakai & O. Shirai: Electrochim. Acta, 465, 142954 (2023).