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トキイロヒラタケ由来ピンク色素タンパク質(PsPCP)の発色メカニズム
構造が制御する色素の化学

Yasuhisa Fukuta

福田 泰久

近畿大学農学部応用生命化学科

Makoto Ihara

伊原

近畿大学農学部応用生命化学科

Published: 2025-07-01

自然界には極めて多彩な色の生物が生存しており,「きのこ」においても地味な色から鮮やかな色まで実にさまざまな色の種類がある.きのこにとっての「色」は,直接子孫を繁栄するための生存手段とは関係なく,また,毒などの危険度を表す指標でもない.きのこの色の役割については,全く解明されていないといっても過言ではない.しかしながら,色の成分については古くから研究が行われており,ドイツのKöglらがアカタケからpolyporic acidという赤色色素を発見したのをきっかけに,ベニテングタケ由来のmuscapurpurin(赤橙色)ならびに,バナジウムを含むamavadin(青色),シュタケ由来のcinnabarinic acid(赤色)やアカハツ由来のlactarazulene(紫色),など続々ときのこの色素が発見され,現在では80種以上の化学構造が報告されている(1)1) J. Velíšek & K. Cejpek: Czech J. Food Sci., 29, 87 (2011).

本稿では,これまできのこの色素として報告されてきたものとは異なるタイプのPleurotus salmoneostramineus(トキイロヒラタケ)由来ピンク色素タンパク質(PsPCP)について紹介する.主としてPsPCPの構造解析から得られたいくつかの新規な知見を記述するが,はじめにその研究の歴史的な背景から述べたい.トキイロヒラタケは,ヒラタケ目ヒラタケ科に属する食用のきのこで,その子実体は特徴的なピンク色を呈している.1994年にTakekumaらにより,このピンク色素は新規なタンパク質として報告された(2)2) S. Takekuma, H. Takekuma, Y. Matsubara, K. Inaba & Z. Yoshida: J. Am. Chem. Soc., 116, 8849 (1994)..その時点で報告された性質は,PsPCPはタンパク質と低分子化合物の複合体で構成されており,496 nmで最大の吸収スペクトルを示し,色素分子3H-indol-3-oneが発色団であると報告された(図1A図1■PsPCPの発色メカニズム(2)2) S. Takekuma, H. Takekuma, Y. Matsubara, K. Inaba & Z. Yoshida: J. Am. Chem. Soc., 116, 8849 (1994)..PsPCPの構造解析の試みはShibataらによって行われたが,立体構造の解明には至っていない(3)3) N. Shibata, M. Gohow, T. Inoue, C. Nagano, K. Inaba, H. Takekuma, S. I. Takekuma, Z. I. Yoshida & Y. Kai: Acta Crystallogr., 53, 335 (1997)..その後,PsPCPにかかわる研究報告はしばらくなかったが,筆者らの研究グループによる研究は継続されており,2012年にはShirasakaらがPsPCPおよびその発色団についての生化学・タンパク質科学的解析結果を報告し(4)4) N. Shirasaka, Y. Yamaguchi, S. Yoshioka, Y. Fukuta & T. Terashita: Mushroom Sci. BioTech, 20, 147 (2012).,2019年に筆者らは,精製した野生型PsPCPのN末端アミノ酸配列と内部配列情報およびトキイロヒラタケのドラフトゲノム解析により,初めてそのアミノ酸配列を決定するとともに,PsPCPをコードする遺伝子のクローニングと大腸菌を用いた組換えPsPCPの発現を成功させた(5)5) Y. Fukuta, K. Kamei, A. Matsui, Y. Fuji, H. Onuma & N. Shirasaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 83, 1354 (2019)..興味深いことに,PsPCPのアミノ酸配列は,DDBJ/EMBL/GenBankデータベース上に登録されているいかなる配列とも,相同性が認められなかった.つまり,PsPCPは非常にユニークな配列を有するということである.その後2023年,情報学的アプローチによるPsPCPの発色メカニズムが提唱されたが(6)6) M. A. Valdez-Solana, E. K. Ventura-García, I. A. Corral-Guerrero, A. Guzmán de Casa, C. Avitia-Domínguez, A. Téllez-Valencia & E. Sierra-Campos: Bioinform. Biol. Insights, 17, 11779322231154139 (2023).,ウェットな実験を伴わないために,その報告の精度と信頼性には疑問がのこった.

図1■PsPCPの発色メカニズム

A. 精製したトキイロヒラタケ由来の天然型PsPCPのUV・可視光吸収スペクトル.B. 今回新たに発色団であることが明らかになった2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid A(上).これまで発色団と考えられてきた3H-indol-3-one(下).C. トキイロヒラタケより精製した天然型PsPCP結晶構造のcartoonモデル.タンパク質はピンク色,リガンドは黄色で表示させた.配位した2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aはspace fillモデルとして表示し,その近傍4 Åの範囲内のアミノ酸をすみれ色のスティック表示とした.ただし,酸素原子および窒素原子はそれぞれ赤色,青色で示し,配位した水分子は赤色の球として表示した.D. PsPCPと2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aの末端に存在するカルボシキ基およびアセチル基の相互作用.リガンドの2Fo-Fcマップは1.5 rmsd, 青色で表示させた.極性相互作用は黄色の破線で示し,距離(Å)を併記した.その他の配色はパネルCと同様である.

トキイロヒラタケから精製したPsPCPが赤色を呈するのに対し,PsPCPから分離された発色団は,メタノールの様な溶媒中では黄色を呈することから,タンパク質と複合体を形成することで色の変化が起こると考えられた(Graphical abstract,図1A).そのため,われわれは,X線結晶構造解析を核とした相関研究に取り組むことにした.

われわれはトキイロヒラタケの子実体より精製した天然のPsPCPの結晶を作製し,X線結晶構造解析により1.25 Åという高い分解能でその立体構造を明らかにした(7)7) M. Ihara, N. Tsuchida, M. Sumida, T. Himiyama, T. Kitayama, N. Shirasaka & Y. Fukuta: J. Agric. Food Chem., 72, 17626 (2024)..その結果,PsPCPの発色団は2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid A(図1B図1■PsPCPの発色メカニズム)であり,これまでに発色団と考えられてきた「3H-indol-3-one」とは全く異なることを明らかにした(図1B図1■PsPCPの発色メカニズム).2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aは類縁のきのこで精製単離の報告のある化合物であり,黄色い色素として知られる化合物であった.分子式C27H30O3で表される化合物で,長い共役二重結合を有する.結晶構造中の2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aは,あたかもタンパク質内部の空間に収納されているように見えるが,細部を観察するとタンパク質のらせん構造をかいくぐり,貫通するように配置され(図1C図1■PsPCPの発色メカニズム),その末端のカルボキシ基は極性相互作用によりタンパク質の主鎖および側鎖と,一方のアセチル基はタンパク質外側を向き,水分子を介して極性アミノ酸と相互作用していること(図1D図1■PsPCPの発色メカニズム)が明らかになった.また,タンパク質内部に着目すると複数のアミノ酸が2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aを押し付けるように水素結合やCH-π相互作用をしていることが明らかになった(図1C図1■PsPCPの発色メカニズム).以上の構造解析により,2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aは極性相互作用で両端が固定されるとともに(図1D図1■PsPCPの発色メカニズム),内部は複数のアミノ酸との相互作用により自由な動きができない状態であることが強く示唆された(Graphical abstract).

トキイロヒラタケから精製したPsPCPが赤色を呈するのに対し,PsPCPから分離された2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aはメタノールの様な有機溶媒中では黄色を呈することから,タンパク質と複合体を形成することで2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aに吸収スペクトルの変化が起こると考えられた.一般的に有機化合物の溶液は溶媒の種類によって吸収・蛍光スペクトルの波長も強度も変化すること(溶媒効果)が知られているため,2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aの光吸収スペクトルをさまざまな溶媒条件で調べたが,溶媒の違いによる体系的な吸収スペクトルの変化が認められなかったことから,PsPCPによる2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aの色の変化のメカニズムは溶媒効果では説明できないことが明らかになった.そこで,量子化学計算を行った.X線結晶構造解析で明らかになった2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aの立体構造を用いて,時間分解密度汎関数法により光吸収スペクトルを計算したところ,トキイロヒラタケより精製したPsPCPおよび顕微分光法によって求めたPsPCP結晶の吸収スペクトルと近い極大吸収波長(赤色)を与えることが示された.さらに,2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aをメタノールに溶解させた際の最安定構造を求め,その吸収スペクトルを計算したところ,メタノールに溶解させて実験的に求めた値(黄色)とほぼ一致する結果を与えたことから,PsPCP内部に結合しているときの2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aの立体構造がPsPCPの赤色の発色に重要であることが明らかになった.

2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aは,動植物に広く存在する黄色・赤色の色素成分であるカロテノイドと同様に長い共役二重結合を有する化合物であることから,データベースからカロテノイド結合タンパク質に結合したカロテノイドと単独で結晶化されたカロテノイドの構造データを収集し,2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aの化学構造と比較したところ,カロテノイドには共役二重結合中の炭素原子間の二重結合と単結合で結合長に明確な差異が認められたものの,トキイロヒラタケより精製したPsPCP中の2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aには,二重結合と単結合で結合長に明確な差が認められなかった(図2図2■2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid A(PsPCP ligand)およびカロテノイドの炭素-炭素間結合の結合長の比較).また,量子化学計算により求めた2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aの安定構造では,二重結合と単結合で明確な結合長の差が認められたことから,PsPCPに結合した2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aは,PsPCPからの束縛により構造が変化してより長い波長の光を吸収できるようになり,PsPCPが特徴的な赤色を呈することを可能にしていると結論づけた.

図2■2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid A(PsPCP ligand)およびカロテノイドの炭素-炭素間結合の結合長の比較

結晶構造解析によって明らかになった,PsPCPの真のリガンドである2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aは,マスタケ(Laetiporus sulphurous)というサルノコシカケの仲間の硬質菌から抽出され,その学名から命名されたポリエン化合物である(1)1) J. Velíšek & K. Cejpek: Czech J. Food Sci., 29, 87 (2011)..しかしながら,2-dehydro-3-deoxylaetiporic acid Aを包み込むPsPCPというタンパク質は,これまでにトキイロヒラタケだけに見いだされたものである.そのため,PsPCPと類似のタンパク質は他のきのこに見いだされるのか,またその遺伝子はどこから来たのか? 「きのこ類の進化」という側面にも興味が持たれる.この研究はトキイロヒラタケの色素にかかわる一連の議論を終結させただけでなく,タンパク質との結合により化合物の原子間の結合長の変化が生じ,その結果吸収スペクトルの変化をもたらすという,これまでに例がない知見を与えるもので,色素化学分野の新たな基盤となると考えられる.

Reference

1) J. Velíšek & K. Cejpek: Czech J. Food Sci., 29, 87 (2011).

2) S. Takekuma, H. Takekuma, Y. Matsubara, K. Inaba & Z. Yoshida: J. Am. Chem. Soc., 116, 8849 (1994).

3) N. Shibata, M. Gohow, T. Inoue, C. Nagano, K. Inaba, H. Takekuma, S. I. Takekuma, Z. I. Yoshida & Y. Kai: Acta Crystallogr., 53, 335 (1997).

4) N. Shirasaka, Y. Yamaguchi, S. Yoshioka, Y. Fukuta & T. Terashita: Mushroom Sci. BioTech, 20, 147 (2012).

5) Y. Fukuta, K. Kamei, A. Matsui, Y. Fuji, H. Onuma & N. Shirasaka: Biosci. Biotechnol. Biochem., 83, 1354 (2019).

6) M. A. Valdez-Solana, E. K. Ventura-García, I. A. Corral-Guerrero, A. Guzmán de Casa, C. Avitia-Domínguez, A. Téllez-Valencia & E. Sierra-Campos: Bioinform. Biol. Insights, 17, 11779322231154139 (2023).

7) M. Ihara, N. Tsuchida, M. Sumida, T. Himiyama, T. Kitayama, N. Shirasaka & Y. Fukuta: J. Agric. Food Chem., 72, 17626 (2024).