解説

ストリゴラクトンの立体選択的生合成を担うDirigentタンパク質の発見
生化学解析と計算化学解析で解き明かす生合成メカニズム

Discovery of a Dirigent Protein Responsible for the Stereoselective Biosynthesis of Strigolactone: The Biosynthetic Mechanism Revealed by Biochemical and Computational Methodologies

Masato Homma

本間 大翔

神戸大学大学院農学研究科

Takatoshi Wakabayashi

若林 孝俊

神戸大学大学院農学研究科

東京大学大学院農学生命科学研究科

Yoshitaka Moriwaki

森脇 由隆

東京大学大学院農学生命科学研究科

東京科学大学総合研究院難治疾患研究所

Yukihiro Sugimoto

杉本 幸裕

神戸大学大学院農学研究科

Published: 2025-07-01

ストリゴラクトン(SL)は,根圏および植物体内で様々な生理活性を示すアポカロテノイドである.1966年に,初めて単離構造決定されたSLとしてstrigolが報告された.今世紀になってから,天然物化学だけでなく,生化学,分子生物学等の分野でも,盛んにSL生合成研究が行われてきた.最近,三環性のABC骨格を有する典型的SLであるorobancholの立体選択的な生合成に,dirigentタンパク質(DIR)が関与していることが明らかになった.本稿では典型的SLの生合成研究に関するこれまでの知見とともに,DIRによって触媒される立体選択的SL生合成機構について紹介する.

Key words: ストリゴラクトン; dirigentタンパク質; AlphaFold2; orobanchol; 生合成

はじめに

ストリゴラクトン(SL)は,サブサハラアフリカ地域において農業被害をもたらす根寄生雑草の種子発芽を誘導する物質として発見された(1)1) C. E. Cook, L. P. Whichard, B. Turner, M. E. Wall & G. H. Egley: Science, 154, 1189 (1966)..その後,植物に無機栄養素を供給するアーバスキュラー菌根菌の菌糸分岐を誘導する機能や(2)2) K. Akiyama, K. Matsuzaki & H. Hayashi: Nature, 435, 824 (2005).,植物ホルモンとして生長や発達を調節する役割を持つことが明らかにされた(3, 4)3) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008).4) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).

SLの構造は多様性に富み,特に,立体化学の違いが生理活性に顕著な影響を与えることが知られている(5, 6)5) Y. Wang & H. J. Bouwmeester: J. Exp. Bot., 69, 2219 (2018).6) S. Nomura, H. Nakashima, M. Mizutani, H. Takikawa & Y. Sugimoto: Plant Cell Rep., 32, 829 (2013)..典型的SLのBC環の形成は,立体化学の決定に関わる重要な段階であるが,この過程の詳細な分子メカニズムは十分に解明されていなかった.

本稿では,SL生合成経路の概要を紹介するとともに,最近明らかになった,主要な典型的SLであるorobancholの立体選択的BC環形成に関わる因子の同定と,その分子メカニズムの解明について解説する(7)7) M. Homma, T. Wakabayashi, Y. Moriwaki, N. Shiotani, T. Shigeta, K. Isobe, A. Okazawa, D. Ohta, T. Terada, K. Shimizu et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 121, e2313683121 (2024).

典型的SL生合成経路の概要と立体化学制御の謎

SLの生合成経路の解明は,その多様な生理活性を理解し,制御するために重要である.DWARF27, CAROTENOID CLEAVAGE DIOXYGENASE 7(CCD7),およびCCD8の3種類の酵素が,all-trans-β-caroteneを重要な中間体であるcarlactoneに変換する一連の反応を触媒する(8, 9)8) A. Alder, M. Jamil, M. Marzorati, M. Bruno, M. Vermathen, P. Bigler, S. Ghisla, H. Bouwmeester, P. Beyer & S. Al-Babili: Science, 335, 1348 (2012).9) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014)..次に,CYP711Aサブファミリーに属する酵素がcarlactoneを酸化し,carlactonoic acid(CLA)を生成する(10~12)10) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014).11) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014).12) K. Yoneyama, N. Mori, T. Sato, A. Yoda, X. Xie, M. Okamoto, M. Iwanaga, T. Ohnishi, H. Nishiwaki, T. Asami et al.: New Phytol., 218, 1522 (2018)..CLAからABC三環性骨格を持つ典型的SLが生成される過程でC環の立体が決定される.典型的SLは,C環がα配置のorobanchol型SLと,β配置のstrigol型SLに大別される.一方,典型的SLとは異なり,carlactoneやCLAのようにBC環が形成されていないSLは非典型的SLと呼ばれる(図1図1■ストリゴラクトン生合成経路概略とorobanchol生合成における立体化学制御の謎).

図1■ストリゴラクトン生合成経路概略とorobanchol生合成における立体化学制御の謎

Os: Oryza sativa, Sl: Solanum lycopersicum, Vu: Vigna unguiculata, Ga: Gossypium arboreum, Lj: Lotus japonicus, Fv: Fragaria vesca.

典型的SLの生合成経路は,orobanchol型SLを生産するイネ(Oryza sativa)において最初に解明された.イネでは,CYP711Aサブファミリーに属するOsCYP711A2/Os900がcarlactoneを,CLAを経て典型的SLの4-deoxyorobancholへ変換する.さらに,OsCYP711A3/Os1400が4-deoxyorobancholの4位炭素を水酸化してorobancholを生成する(図1図1■ストリゴラクトン生合成経路概略とorobanchol生合成における立体化学制御の謎(11)11) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014)..後に,この経路はイネを含む特定の植物種で限定的に機能していることが明らかにされた(12)12) K. Yoneyama, N. Mori, T. Sato, A. Yoda, X. Xie, M. Okamoto, M. Iwanaga, T. Ohnishi, H. Nishiwaki, T. Asami et al.: New Phytol., 218, 1522 (2018).

次いで,単子葉植物には存在しないが双子葉植物では広く保存されているCYP722Cサブファミリーが,典型的SL生合成において重要な役割を果たすことが明らかになった.例えば,strigol型SLを生産するワタ(Gossypium arboreum)では,CYP722CがCLAを5-deoxystrigolへ変換する(13)13) T. Wakabayashi, K. Shida, Y. Kitano, H. Takikawa, M. Mizutani & Y. Sugimoto: Planta, 251, 97 (2020)..同様の反応が,5-deoxystrigolを生産するミヤコグサ(Lotus japonicus)とイチゴ(Fragaria vesca)でも報告され,これらの植物種のCYP722Cは立体選択的にβ配置のBC環の形成を触媒することが示された(図1図1■ストリゴラクトン生合成経路概略とorobanchol生合成における立体化学制御の謎(14, 15)14) N. Mori, T. Nomura & K. Akiyama: Planta, 251, 40 (2020).15) S. Wu, X. Ma, A. Zhou, A. Valenzuela, K. Zhou & Y. Li: Sci. Adv., 7, eabh4048 (2021).

一方,orobanchol型SLを生産する双子葉植物であるトマト(Solanum lycopersicum)とササゲ(Vigna unguiculata)では,CYP722CがCLAをorobancholとent-2′-epi-orobancholの混合物へ変換することが確認された(16)16) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019).Ent-2′-epi-orobancholはorobancholとは反対にβ配置のC環を有するが,これらの植物の根分泌液からは検出されない.さらに,トマトのSlCYP722C遺伝子をノックアウトした結果,根分泌液中のorobancholが検出されなくなり,代わって,基質であるCLAの蓄積が確認された(16)16) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019)..これらの知見から,orobancholの生合成において,CYP722CはBC環形成の初期段階を担うものの,環化の立体選択的な制御にはさらなる因子が必要であることが示唆された(図1図1■ストリゴラクトン生合成経路概略とorobanchol生合成における立体化学制御の謎).

トマトSlCYP722Cによる18-oxo-CLAへの酸化反応

Orobanchol生合成に関わるBC環立体制御因子の探索に先立ち,トマトのSlCYP722Cの機能が詳細に解析された.具体的には,大腸菌でSlCYP722C組換え酵素を発現させ,高度に精製した後に酵素機能が再検証された.CLAを基質とした酵素反応産物の液体クロマトグラフィ−タンデム質量分析計(LC-MS/MS)による詳細な分析の結果,orobancholとent-2′-epi-orobancholに加え,CLAの18位が水酸化された18-HO-CLAと,CLAより14 Da大きい分子量を持つ生成物(CLA+14)が検出された.分子量とorobanchol生合成への関与から,CLA+14は18-HO-CLAのさらなる酸化誘導体であると推測された.さらに,CLA+14をジアゾメタンで処理して得られた生成物のLC-MS/MS分析における挙動が18-oxo-MeCLA合成標品と一致した(17)17) N. Shiotani, T. Wakabayashi, Y. Ogura, H. Okamura, Y. Sugimoto & H. Takikawa: Tetrahedron Lett., 85, 153469 (2021)..これにより,CLA+14は18-oxo-CLAと同定され,SlCYP722Cの真の酵素機能はCLAを18-oxo-CLAに酸化することであると判明した(図2A図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定).

図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定

(A)トマトやササゲにおけるorobancholの立体選択的な生合成機構.(B)DIRファミリーの分子系統樹.

CLAを基質としたSlCYP722Cの酵素反応後の反応液を酸性条件下におくと,18-oxo-CLAが減少し,orobancholおよびent-2′-epi-orobancholの生成が促進された.また,18-oxo-CLAは弱酸性条件で,経時的にorobancholおよびent-2′-epi-orobancholへ変換することが確認された.これらから,18-oxo-CLAが非酵素的に環化すること,および,酸性条件下で環化が促進されることが示された(図2A図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定).

以上の知見に基づき,先行研究で観察されたorobancholとent-2′-epi-orobancholの混合物は,SlCYP722CによってCLAから生成した18-oxo-CLAが自発的に環化して生じたと結論付けられた(図2A図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定).

18-Oxo-CLAの環化を立体的に制御する因子(SRF)の同定

SlCYP722Cの下流で機能し,18-oxo-CLAの立体選択的環化を触媒してorobancholを生成する因子が想定された(図2A図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定).この因子はstereoselective BC-ring forming factor(SRF)と命名され,同定に向けた探索が行われた.SL生合成遺伝子の発現がリン酸欠乏時に上昇し,リン酸過剰時に低下する応答に着眼し,先行研究で示されたトマト根におけるリン酸応答性遺伝子群の解析が行われた結果,dirigentタンパク質(DIR)ファミリーに属するタンパク質が候補として挙げられた(図2B図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定(18, 19)18) J. A. López-Ráez, T. Charnikhova, V. Gomez-Roldan, R. Matusova, W. Kohlen, R. De Vos, F. Verstappen, V. Puech-Pages, G. Becard, P. Mulder et al.: New Phytol., 178, 863 (2008).19) Y. Wang, H. G. S. Duran, J. C. van Haarst, Elio G. W. M. Schijlen, C. Ruyter-Spira, M. H. Medema, L. Dong & H. J. Bouwmeester: BMC Plant Biol., 21, 349 (2021)..また,以前に報告されたササゲのトランスクリプトーム解析でも,このDIRのオーソログがSL生合成遺伝子群と共発現していることが確認された(16)16) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019).

DIRファミリーに属する一部のタンパク質は,リグナン生合成の(+)-または(−)-pinoresinolの形成において,coniferyl alcoholラジカルの立体選択的カップリングに関与することが知られる(図3図3■DIRによる立体選択的な基質変換機能の推定分子メカニズムA)(20, 21)20) L. B. Davin, H. B. Wang, A. L. Crowell, D. L. Bedgar, D. M. Martin, S. Sarkanen & N. G. Lewis: Science, 275, 362 (1997).21) C. Paniagua, A. Bilkova, P. Jackson, S. Dabravolski, W. Riber, V. Didi, J. Houser, N. Gigli-Bisceglia, M. Wimmerova, E. Budinska et al.: J. Exp. Bot., 68, 3287 (2017)..また,pterocarpan synthase(PTS)は,2′-hydroxyisoflavanolのエナンチオ選択的な分子内環化を触媒してpterocarpanを生成する(図3B図3■DIRによる立体選択的な基質変換機能の推定分子メカニズム(22, 23)22) K. Uchida, T. Akashi & T. Aoki: Plant Cell Physiol., 58, 398 (2017).23) Q. Meng, S. G. A. Moinuddin, S. J. Kim, D. L. Bedgar, M. A. Costa, D. G. Thomas, R. P. Young, C. A. Smith, J. R. Cort, L. B. Davin et al.: J. Biol. Chem., 295, 11584 (2020)..このようなDIRファミリーの立体選択的な基質変換機能に基づき,18-oxo-CLAのorobancholへの立体選択的変換にDIRファミリーが関与している可能性が検討された.

図3■DIRによる立体選択的な基質変換機能の推定分子メカニズム

(A)AtDIR6による立体選択的なpinoresinol生成機構.(B)GePTS1によるmedicarpin生成機構.(C)SRFによるorobanchol生成機構.

トマトのDIRをコードする遺伝子Solyc01g059900SRF候補(SlSRF)として選定し,SlSRF組換え酵素と18-oxo-CLAをインキュベートしたところ,18-oxo-CLAの減少およびorobancholの立体選択的な生成が確認された.また,CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術によりSlSRF遺伝子をノックアウトしたトマトが作出され,その根分泌液から,ほぼ同量のorobancholとent-2′-epi-orobancholが検出された.この混合物は,SRF候補遺伝子の機能喪失により蓄積した18-oxo-CLAが,自発的に環化して生成したと理解できる.これらの結果より,Solyc01g059900がorobanchol生合成において立体選択的BC環形成を触媒するSRFであると同定された(図2A図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定).さらに,ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)における一過的発現による細胞内局在解析で,SlSRFとSlCYP722Cが小胞体膜に共局在していることが示唆された.この共局在性は,SlSRFの基質であり安定性の乏しい18-oxo-CLAの迅速な受け渡しに重要と考えられる.また,ササゲにおけるSRFオーソログ(VuSRF)もSlSRFと同様に18-oxo-CLAをorobancholへと立体選択的に変換する活性を持つことが確認された(図2A図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定).

DIRファミリーは系統解析に基づいて6つのサブファミリー(DIR-a, b/d, c, e, f, およびg)に分類される(図2B図2■立体選択的なorobanchol生合成を担うDIRの同定(24)24) S. G. Ralph, S. Jancsik & J. Bohlmann: Phytochemistry, 68, 1975 (2007)..例えば,pinoresinol生合成に関わるDIRはDIR-aサブファミリーに,PTSはDIR-b/dサブファミリーに属している.一方,SlSRFおよびVuSRFは生化学的機能が不明であったDIR-fサブファミリーに属する.これまでに機能が明らかにされたDIRはフェノール類を基質とし,quinone methideを反応中間体として利用するが,orobanchol生合成に関与するSRFは18-oxo-CLAを基質とするため,従来のDIRとは異なる特性を有することが示された(図3A~C図3■DIRによる立体選択的な基質変換機能の推定分子メカニズム(23, 25)23) Q. Meng, S. G. A. Moinuddin, S. J. Kim, D. L. Bedgar, M. A. Costa, D. G. Thomas, R. P. Young, C. A. Smith, J. R. Cort, L. B. Davin et al.: J. Biol. Chem., 295, 11584 (2020).25) R. Gasper, I. Effenberger, P. Kolesinski, B. Terlecka, E. Hofmann & A. Schaller: Plant Physiol., 172, 2165 (2016).

有機合成化学研究では,18-oxo-CLAが同旋的4π-電子環状反応(conrotatory 4π-ECR)に基づき,酸触媒による連続環化でBC環を形成するメカニズムが提唱されている(17, 26)17) N. Shiotani, T. Wakabayashi, Y. Ogura, H. Okamura, Y. Sugimoto & H. Takikawa: Tetrahedron Lett., 85, 153469 (2021).26) N. Shiotani, T. Wakabayashi, Y. Ogura, Y. Sugimoto & H. Takikawa: Tetrahedron Lett., 68, 152922 (2021)..実際に,先述の実験でも酸性条件下で18-oxo-CLAの環化が促進される.このことから,SRFが触媒するBC環形成反応も同様のメカニズムに基づく可能性が考えられ,SlSRF酵素反応機構の解析が進められた(図3C図3■DIRによる立体選択的な基質変換機能の推定分子メカニズム).

量子化学計算とSRFの予測立体構造を用いた触媒機構の予想

まず,Gaussian 16による量子化学計算を用いて,真空中でアルデヒド基がプロトン化された18-oxo-CLAからorobancholとent-2′-epi-orobancholへのBC環形成反応機構が解析された.その結果,生成物を決定づける主な要因は環化反応開始時の18-oxo-CLAのC18-C5-C6-C8で定義される二面角φにあることが発見された(図4A図4■予測されたSlSRF立体構造に基づいたMDシミュレーションの黄色・青色の点線枠).この二面角は真空中で容易に変化するため,立体選択的にorobancholのみを生成する仕組みは酵素SlSRFの立体構造に秘密があると想定されたが,一般に結晶構造解析には非常に時間を要するため,さらなる解析は容易ではないように思われた.

図4■予測されたSlSRF立体構造に基づいたMDシミュレーション

(A)18-oxo-CLAの2つのコンフォメーション.二面角φがおよそ−30°の場合はorobancholへ,およそ30°の場合はent-2′-epi-orobancholへと環化する.C8原子とC18原子の間の距離はdで示されている.(B)18-oxo-CLAとSlSRFの複合体モデル.水素結合は点線で示されている.(C)水中における18-oxo-CLAの2つのコンフォメーションの分布.(D)SlSRFと結合した18-oxo-CLAの2つのコンフォメーションの分布.

しかしSlSRFの同定と同時期に,Google DeepMind社からAlphaFold2(AF2)というソフトウェアが公開された(27)27) J. Jumper, R. Evans, A. Pritzel, T. Green, M. Figurnov, O. Ronneberger, K. Tunyasuvunakool, R. Bates, A. Zidek, A. Potapenko et al.: Nature, 596, 583 (2021)..AF2は,多くの天然タンパク質についてそのアミノ酸配列から立体構造を結晶構造解析と同等の精度で予測できるツールである.その高い汎用性と利便性も相まって,公開からわずか3年半のうちに論文が3万回以上引用されるほどに生化学分野の研究全般に大きな革新をもたらした.この功績により,AF2のプロジェクトリーダーであり第一著者のJohn Jumper博士と,最高経営責任者のDemis Hassabis博士は2024年にノーベル化学賞を受賞した.

このようなAF2の有用性を活かしたSlSRFの構造予測により,残基番号26-174の範囲にDIRの機能ドメインを持つ予測構造が得られた.また,この構造と,既知のDIR類縁構造であるカンゾウ(Glycyrrhiza echinata)由来のGePTS1(PDB ID: 6OOC)の変異実験結果を比較したところ,D37, D70, Y90, D124,およびR131が触媒残基であると推定された(23)23) Q. Meng, S. G. A. Moinuddin, S. J. Kim, D. L. Bedgar, M. A. Costa, D. G. Thomas, R. P. Young, C. A. Smith, J. R. Cort, L. B. Davin et al.: J. Biol. Chem., 295, 11584 (2020).

AF2では最新版のAF3と異なり基質との複合体が予測できなかったため,分子動力学(Molecular Dynamics, MD)シミュレーション法を用いた基質18-oxo-CLAの予測構造へのドッキング解析が行われた(図4B図4■予測されたSlSRF立体構造に基づいたMDシミュレーション).18位のアルデヒド基とC環のカルボキシ基がそれぞれD37とR131と水素結合し,D70やリガンドとの相互作用によって,D37は特異的にprotonatedされた状態が優勢となることで,18位アルデヒド基にプロトンを供与する触媒残基として働くことが予想された.続いて,SlSRF内にドッキングされた状態とされていない状態でのそれぞれ500ナノ秒のMDシミュレーションにより,18-oxo-CLAの挙動が観測された.水中では18-oxo-CLAのコンフォメーションが二通り(図4C図4■予測されたSlSRF立体構造に基づいたMDシミュレーション)観測された一方,SlSRFに結合した18-oxo-CLAは片方のコンフォメーションに固定された(図4D図4■予測されたSlSRF立体構造に基づいたMDシミュレーション).これらをまとめると,SlSRFはD37を用いて18-oxo-CLAのアルデヒド基にプロトンを供与しオキソニウムイオンに変化させ,同時にそのコンフォメーションをorobancholにのみ環化されるように固定する重要な役割を果たしていると想定された.また,QM/MM(ONIOM)法を用いた酵素タンパク質内での環化反応進行におけるエネルギー計算では,最大14.6 kcal/molの活性化エネルギーを経てorobancholが生成されることが確認された(図5A~E図5■QM/MM法を用いたSlSRFにより触媒されるBC環形成反応の解析).この計算結果は,環化反応が室温条件で進行しうることを示している.

図5■QM/MM法を用いたSlSRFにより触媒されるBC環形成反応の解析

(A–E)プロトン化18-oxo-CLAと結合したSlSRFに対してONIOM法を用いて最適化した反応体(A),TS1(B),中間体(C),TS2(D),生成物(E)の構造.Y90, D124, R131によって形成される水素結合ネットワークは紫色の点線で示されている.(F)SlSRF変異体の酵素活性.

SlSRF反応機構の生化学的検証

これまでの計算結果で予測されたSlSRFの触媒残基の重要性を検証するため,部位特異的変異を導入した変異型SlSRFタンパク質の作出と,その酵素活性試験が行われた.Y90, D124, R131残基に変異が導入されたタンパク質では,いずれも酵素活性の著しい低下が認められ,特にD124AおよびY90F/R131A変異型では活性が1%未満にまで減少した(図5F図5■QM/MM法を用いたSlSRFにより触媒されるBC環形成反応の解析).この結果は複合体予測モデルと一致しており,これらの残基が形成する水素結合ネットワークが18-oxo-CLAのカルボキシ基を安定化し,酵素活性に重要であると考えられた.さらに,D37残基をD37Aに変異させた場合,酵素活性が完全に失われることが観察された(図5F図5■QM/MM法を用いたSlSRFにより触媒されるBC環形成反応の解析).この結果は予測された反応メカニズムとも一致し,D37が18位アルデヒド基へのプロトン供与体として機能し,4π-ECRに基づくB環とC環の連続環化反応を開始する上で不可欠な役割を果たすことを示している(図3C図3■DIRによる立体選択的な基質変換機能の推定分子メカニズム).

SlSRFの酵素活性に重要な役割を果たすこれらのアミノ酸残基は,他のDIRファミリータンパク質にも保存されている.例えば,GePTS1におけるD50およびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のpinoresinol生合成に関わるAtDIR6のD49は,いずれもSlSRFのD37に相同な残基であり,プロトン供与体として機能していることが示唆されている(23, 25)23) Q. Meng, S. G. A. Moinuddin, S. J. Kim, D. L. Bedgar, M. A. Costa, D. G. Thomas, R. P. Young, C. A. Smith, J. R. Cort, L. B. Davin et al.: J. Biol. Chem., 295, 11584 (2020).25) R. Gasper, I. Effenberger, P. Kolesinski, B. Terlecka, E. Hofmann & A. Schaller: Plant Physiol., 172, 2165 (2016)..また,GePTS1のR145はSlSRFのR131に相同であり,quinone methideの安定化に寄与する可能性が報告されている(23)23) Q. Meng, S. G. A. Moinuddin, S. J. Kim, D. L. Bedgar, M. A. Costa, D. G. Thomas, R. P. Young, C. A. Smith, J. R. Cort, L. B. Davin et al.: J. Biol. Chem., 295, 11584 (2020)..したがって,DIRファミリー内に保存されている特定のアミノ酸残基は,DIRが関与する反応の多様性にもかかわらず,共通の機能特性を持つことが予想された.

今後の展望

最近の研究において,典型的SLは地上部の枝分かれを抑制する植物ホルモンとしてよりも,根圏シグナルとして注目されており(16, 28)16) T. Wakabayashi, M. Hamana, A. Mori, R. Akiyama, K. Ueno, K. Osakabe, Y. Osakabe, H. Suzuki, H. Takikawa, M. Mizutani et al.: Sci. Adv., 5, eaax9067 (2019).28) S. Ito, J. Braguy, J. Y. Wang, A. Yoda, V. Fiorilli, I. Takahashi, M. Jamil, A. Felemban, S. Miyazaki, T. Mazzarella et al.: Sci. Adv., 8, eadd1278 (2022).,根圏微生物叢への影響が解析されている(29, 30)29) T. R. Schlemper, M. F. A. Leite, A. R. Lucheta, M. Shimels, H. J. Bouwmeester, J. A. van Veen & E. E. Kuramae: FEMS Microbiol. Ecol., 93, fix096 (2017).30) B. Kim, J. A. Westerhuis, A. K. Smilde, K. Flokova, A. K. A. Suleiman, E. E. Kuramae, H. J. Bouwmeester & A. Zancarini: FEMS Microbiol. Ecol., 98, fiac010 (2022)..トマトやササゲなどの植物がent-2′-epi-orobancholの生成を避け,orobancholのみを生合成する理由は不明である.SlSRFノックアウトトマトと野生型トマトを用いた根圏微生物叢の比較解析を通して,土壌微生物との相互作用における生物学的意義が明らかになるかもしれない.

SLのC環の立体は,根寄生雑草の発芽刺激活性に影響を及ぼすことが知られている(6, 31)6) S. Nomura, H. Nakashima, M. Mizutani, H. Takikawa & Y. Sugimoto: Plant Cell Rep., 32, 829 (2013).31) K. Yoneyama: J. Pestic. Sci., 45, 45 (2020)..本稿で紹介した知見を活用することで,根寄生雑草の発芽を抑制し,その寄生発生率を低下させるように設計した植物の作出が可能となる.例えば,トマトで示されたように,ササゲにおけるVuSRFの機能喪失も,orobancholとent-2′-epi-orobancholの混合物の生成につながると考えられる.後者は,ササゲを宿主とする根寄生雑草ストライガ(Striga gesnerioides)の発芽を誘導する活性が著しく低いことから,VuSRF変異によりササゲがストライガに寄生されにくくなることが期待される(32)32) T. Wakabayashi, K. Ueno & Y. Sugimoto: Front. Plant Sci., 13, 835160 (2022).

おわりに

今回,生化学的機能が未解明であったDIR-fサブファミリーに属するSRFがorobancholの立体選択的生合成の最終段階を触媒することが明らかになった.これによって,構造が決定されて以来,十余年を経て,orobancholの生合成経路の全容が解明された(7, 33, 34)7) M. Homma, T. Wakabayashi, Y. Moriwaki, N. Shiotani, T. Shigeta, K. Isobe, A. Okazawa, D. Ohta, T. Terada, K. Shimizu et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 121, e2313683121 (2024).33) T. Yokota, H. Sakai, K. Okuno, K. Yoneyama & Y. Takeuchi: Phytochemistry, 49, 1967 (1998).34) K. Ueno, Y. Sugimoto & B. Zwanenburg: Phytochem. Rev., 14, 835 (2014)..SRFの発見は,植物におけるDIRファミリーの理解を深めるとともに,多くの未知の生化学的機能を持つDIRファミリータンパク質が,共通の機能特性を通じて植物特化代謝産物の立体選択的生合成に関与している可能性を示唆している.また,本稿で紹介した研究では生化学的および計算化学的手法を組み合わせることで,SlSRFによる立体選択的BC環形成の分子メカニズムを解明することに成功した.このアプローチが,立体構造が決定されていない他の生合成酵素にも適用され,解析が進むことが期待される.

様々な植物が多種多様な典型的SLを根から分泌する理由は全く不明である.蓄積しつつある生合成経路の分子情報を基盤として,根圏微生物や根圏で競合する異種植物との相互作用を解析することで,典型的SLの構造多様化を推し進めてきた生物学的要因が浮かび上がってくることを期待したい.

Acknowledgments

本稿で紹介したorobanchol生合成研究は東京大学滝川浩郷教授から供与いただいた一連の合成SLを活用することで推進できました.また,ベンサミアナタバコにおける一過的発現によるタンパク質の細胞内局在解析は大阪公立大学太田大策教授(現名誉教授)にご協力いただきました.心より感謝いたします.

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