Kagaku to Seibutsu 63(7): 329-333 (2025)
バイオサイエンススコープ
平時にも災害時にも資するメタン発酵システム「エコスタンドアロン」の社会実装
牛のお腹の微生物を使って電気を作り出す「石川県立大学発スタートアップ環境微生物研究所株式会社」の挑戦
Published: 2025-07-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
2023年大晦日,停電時も自立して,雑草や野菜クズから電気をつくるメタン発電システム「エコスタンドアロン」の試運転を終えた.新年にはこの新システムを設置したショッピングセンター(PLANT-3川北店)でのお披露目会を行うため,その準備に追われていた.準備を終え県外の実家に行き,年を越した.翌日の元旦,石川県に戻る途中,能登半島地震が起きた.県境のガソリンスタンドでは給油制限がかかり,13年前の宮城県の風景に重なった.雑草から電気をつくる「エコスタンドアロン」は,筆者が2011年東日本大震災で避難生活をしている際に,開発することを心に決めたものだ.あのとき,食べるものも満足になかったが,雑草だけはあった.「雑草が電気に変われば,避難所の皆,もっと助かるんじゃないか…」,この想いから,10余年かけてエコスタンドアロンを開発した.そして,あれから13年の時を経て,再び目の前で大震災が起き,能登地方は停電した.筆者は,然るべき場所に,エコスタンドアロンの小型版を能登に運んでよいか尋ねた.しかし,「(能登までの)道が寸断されている今,自衛隊のトラック輸送を優先したい.小口の支援は迷惑になりかねない」と言われた.この装置は,雑草から電気をつくることができるが,震災前からその場所で稼働していないと,いざという時に役に立つことができないと思い知らされた.この日を境に,災害時に地域の方々がエコスタンドアロンに集まれば電気を使用できる,こんな世界の実現に向けて,各地へのエコスタンドアロンの普及を加速させることを強く誓った.しかし,能登出身の学生の郷里へ行き,被災家屋からの土砂・泥だし,家具運びをしながら,倒壊しないよう補強された建屋を見上げると,まだエコスタンドアロンの導入を考えられる時期ではない.今年は震災と豪雨が重なった.来年には,状況が好転していることを祈っている.
メタン発酵は,昭和の時代より全国の下水処理場や畜産農家で実用化されてきた.ふん中の糖類やタンパク質を,加水分解細菌がグルコースやアミノ酸にし,それらが酢酸,プロピオン酸といった有機酸にされ,最後にメタン生成古細菌により有機酸からメタンが生産される.メタンは都市ガスの主成分であるため,そのまま燃やせば料理用のガスとして使用でき,発電機の燃料として電気を生産することも可能である.廃棄物がエネルギーに変わる夢のような技術であるが,原料にできるものは,ふん尿,飲料メーカーの工場排水,生ごみ(繊維質除く)などに限られる.地球上の炭素源としてもっとも豊富に存在する植物バイオマスは,その主成分セルロースやリグニンが難分解性のため,これまでメタン発酵の主原料にすることができなかった.どれほど難分解性かというと,メタン発酵においてセルロースの分解速度はグルコースの53分の1,デンプンの30分の1である(1)1) T. Noike, G. Endo, J. E. Chang, J. Yaguchi & J. Matsumoto: Biotechnol. Bioeng., 27, 1482 (1985)..リグニンは,放射性同位体14Cでラベルされたイネ科植物をメタン発酵したところ,300日間発酵させても,全リグニンの16.9%しかメタンおよび二酸化炭素に変換されない(2)2) R. Benner, A. E. Maccubbin & R. E. Hodson: Appl. Environ. Microbiol., 47, 998 (1984)..そのため,植物バイオマスをメタン発酵槽に投入してもメタン収率が低いことに加え,分解が進まない繊維質が攪拌機に絡んだり,未分解物が配管を閉塞させる.しかし,植物バイオマスは地球上でもっとも豊富に存在する炭素源であり,震災直後のような非常時でも,雑草だけは豊富に存在するため,植物バイオマスのエネルギー化合物への変換は,人類が切望する技術のひとつである.
先述の2011年震災での避難生活を契機に,いつでもどこにでも存在する雑草や野菜クズ(植物バイオマス)のメタン発酵実用化を目指し,博士課程の指導教員中井裕先生(当時 東北大学大学院農学研究科教授)と,普段から草を食べているウシの胃袋に注目し,その活用の可能性を探った.ウシは4つの胃袋をもっており,その第一番目の胃袋をルーメンと呼ぶ.焼肉屋ではミノと称される.このルーメン内の胃液(=ルーメン液)には,草を分解できる細菌(セルロース分解細菌)が存在する.この細菌を用いることができれば,植物バイオマスを可溶化し,効率的にメタン発酵ができるのではないかと考えた.植物バイオマスとして,コピー用紙と菜の花を選んだ.菜の花は震災後,東北大学農学部が進めていた津波塩害農地復興のための菜の花プロジェクトで,種子はナタネ油として用いられたが,茎や葉が廃棄物として余っていたため,こちらを使用することにした.コピー用紙とナタネ茎葉に対して,ルーメン液による可溶化処理(以降,ルーメン処理と記す)を実施したのち,メタン発酵を行った(図1図1■ウシルーメン微生物で前処理を行う新規メタン発酵システム)(3, 4)3) Y. Baba, C. Tada, Y. Fukuda & Y. Nakai: Bioresour. Technol., 128, 94 (2013).4) Y. Baba, Y. Matsuki, S. Takizawa, Y. Suyama, C. Tada, Y. Fukuda, M. Saito & Y. Nakai: Microbes Environ., 34, 421 (2019)..ルーメン処理において,植物バイオマスは主に酢酸に変換される.後段に続くメタン発酵槽において,メタン生成古細菌は酢酸からメタンを生産するため,ルーメン処理槽の生産物が酢酸であることは都合が良い.ルーメン処理を実施したことで,対照区と比べ,コピー用紙から2.6倍,ナタネ茎葉から1.6倍高いメタンの生産を達成することができた.このとき,セルロース以上に難分解性の細胞壁成分のリグニンも,ルーメン処理により分解が促進されていることを確認した.
ルーメン処理槽内で植物バイオマスを分解しているのはどのような微生物だろうか.16Sメタゲノム解析を実施した結果,Fibrobacter succinogenes, Ruminococcus albus, R. flavefaciensなどウシ体内でも良く検出されるセルロース分解菌が検出された(4, 5)4) Y. Baba, Y. Matsuki, S. Takizawa, Y. Suyama, C. Tada, Y. Fukuda, M. Saito & Y. Nakai: Microbes Environ., 34, 421 (2019).5) Y. Baba, Y. Matsuki, Y. Mori, Y. Suyama, C. Tada, Y. Fukuda, M. Saito & Y. Nakai: J. Biosci. Bioeng., 123, 489 (2017)..ルーメン処理された植物バイオマスは,そのままメタン発酵槽に投入されるため,植物バイオマスに付着したルーメン微生物もメタン発酵槽内に流入する.これによって,もともとメタン発酵槽で検出されなかったセルロース分解菌R. albusがメタン発酵槽においても検出され続けるようになった.また,ルーメン処理槽由来のH2資化性メタン生成古細菌(すなわち,Methanobrevibacter sp.およびMethanosphaera sp.)も,メタン発酵槽で検出され続けた.これらH2資化性メタン生成古細菌は,H2を基質としてメタノールやCO2をCH4に還元することでエネルギーを得ている.リグニン由来の芳香族化合物の分解を成功させるには,一般にH2資化性メタン生成古細菌(メタン発酵槽のH2分圧を下げる)の存在が必要である(6)6) Y. L. Qiu, S. Hanada, A. Ohashi, H. Harada, Y. Kamagata & Y. Sekiguchi: Appl. Environ. Microbiol., 74, 2051 (2008)..さらに,メタン発酵が破綻する理由の一つにプロピオン酸の蓄積があるが(7)7) S. R. Harper & F. G. Pohland: Biotechnol. Bioeng., 28, 585 (1986).,プロピオン酸分解を促進するためには,プロピオン酸酸化細菌がH2資化性メタン生成古細菌と熱力学的に共存しなければならない(8)8) H. Imachi, Y. Sekiguchi, Y. Kamagata, A. Ohashi & H. Harada: Appl. Environ. Microbiol., 66, 3608 (2000)..ルーメン処理後のメタン発酵槽内において,プロピオン酸酸化細菌(すなわちSyntrophobacter)に関連するOTU(Operational Taxonomic Unit)の相対存在量は,前処理液の添加によって増加した.したがって,前処理液由来の微生物のメタン発酵槽への流入は,メタン発酵の安定化にも寄与している可能性がある.すなわち,ルーメン処理物を添加されたメタン発酵槽は,従来のメタン発酵槽とは異なり,ルーメン微生物も存在するユニークな微生物集団となった.
その後,筆者は教員として石川県立大学に移り,実用化に向けた実験を重ねながら,一緒に社会実装まで取り組んでいただける企業を探した.しかし,当時ディスカッションさせていただいた企業は,数十億円規模の大型メタン発酵装置は扱うものの,筆者らの目指す災害時でも地域住民で稼働できるような小規模分散型メタン発酵装置は採算が取れないことから,協業することはできなかった.既存の企業が難しいのであれば,自分達でやろうと決心し,起業の道を探った.転機となったのは,「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2021」で優秀起業家賞をいただいたことだった.これをきっかけに,石川県産業創出支援機構(ISICO)から多くの支援をいただき,2022年8月に「環境微生物研究所株式会社」を石川県立大学発スタートアップとして起業した.その後,リバネスエコテックグランプリのファイナリストになり株式会社リバネスの伴走支援,北國銀行産業振興財団,NEDO,経済産業省から助成金や補助金をいただき,2023年に大学近郊のショッピングセンターPLANT-3川北店に,エコスタンドアロン1号機を導入した(図2図2■エコスタンドアロン).そして,お披露目会を予定していた2024年1月,冒頭に記した能登半島地震が起きた.発災直後,能登地方に設置していなかった1号機は,能登地方へ持ち運ぶこともできず,全く役に立てなかった.この無念さから,次の災害が起きる前に,各地にエコスタンドアロンの普及を進め,発災後,地域のかたがたが速やかに防災拠点として活用できる世界をつくることを誓った.
1号機は,現在,ショッピングセンターにて,日々大量に廃棄される野菜クズをメタン発電し,電子機器などの電源として活用されている.平時は廃棄物処理費や光熱費を削減し,災害時は,炊き出しや発電ができる防災拠点として利用できる,フェーズフリーな活躍を目指している(図3図3■平時は廃棄物処理費と光熱費の削減.災害時には防災拠点として機能する).
1号機を改良した2号機を,今年度,福島県に設置する(福島イノベーションコースト構想推進機構「先導技術事業化アクセラレーションプログラム」).東日本大震災に端を発する私たちの技術が,福島県に設置される段階に至り,より一層身が引き締まる.来年度には,石川県能登地方にも3号機を設置する(ISICO成長戦略ファンド スタートアップ創出支援事業).この過程で,コストダウンを達成し,適切な収益を確保できるビジネスモデルを構築し,全国へ展開したい.そして地域で,エネルギーを自給できる世界をつくりたい.
また,並行して,途上国支援も検討している.カンボジアでは,日本のODA事業で,地雷を撤去し,その土地に小学校や農地をつくっている.しかし,現地の農家は,燃料と肥料が高価なため農業を続けることができない.そのため,隣国タイに出稼ぎに出る農家が多く,自国の産業発展が進まないことが課題となっている.ODA事業をされている日本企業から,エコスタンドアロンは,雑草から燃料と肥料を生産できるため,カンボジア農家の課題をそのまま解決できるのでは,と打診を受けた.現在は,その日本企業に助けていただきながら,現地の大学,現地の農水省副大臣と話を進めている(図4図4■カンボジアプロジェクト).
大学研究者がスタートアップ(株式会社)を設立する際,困ることのひとつは,株の扱いだと思う.設立時に,資本金をどのように集め,1株いくらにするか.その後,ベンチャーキャピタル(VC)やコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)から出資を受けるか(=株を渡すか)否か.出資を受ける場合,全株式の何パーセントまで渡すか.その条件はどうするか.など,これまでの研究生活とは全く毛色の違うことを考える.右も左もわからない研究者は,カモにされるかもしれない.実際に,筆者が受けたご提案のひとつに「ウチ(出資者)が,先生(筆者)の技術を社会実装する事業会社をつくるよ.先生は社長で,持ち株比率は20%.給料もだすよ.」というものがあった.この提案には,魅力と恐怖が同居している.これから事業を始められる研究者のかたは,株の扱いについて,絶対に,先輩スタートアップ経営者や信頼できる専門家に意見を求めた方がいい.
現在は,多くのかたがたに支えられ,発酵装置を建設しランニングできる資金を,常に綱渡りではあるが,確保しつつある.本当に感謝しきれない.しかし,会社立ち上げ当初は,スタッフさんの給与や発酵装置のランニングコストを捻出するのに苦慮した.そこで2021年の夏,メタン発酵後の発酵液を肥料に用いて,ビールホップを栽培した.地元クラフトビールメーカーにご協力いただき,防災ビール(図5図5■防災ビール)と名づけて販売し,その売上の一部を会社に寄付していただき,資金にあてた.ビールラベルには,筆者らの思いを込めたオリジナルラベルを作成した.ラベルは本稿の冒頭に掲載した.
ラベルの物語:「男の子が雑草を摘み,おじいさんに渡す.おじいさんは,背後に設置されたエコスタンドアロンでメタンガスを生産し,その火でカレーライスを炊き出してくれる.左側にはメタンでガス灯がともり,右側にはメタン発電でスマートフォンを充電する.」
2011年の震災で困った,「温かいご飯」,「夜の明かり」,「携帯電話の充電」を,雑草があれば解決できる.これが普通になった未来をつくりたい.
Reference
1) T. Noike, G. Endo, J. E. Chang, J. Yaguchi & J. Matsumoto: Biotechnol. Bioeng., 27, 1482 (1985).
2) R. Benner, A. E. Maccubbin & R. E. Hodson: Appl. Environ. Microbiol., 47, 998 (1984).
3) Y. Baba, C. Tada, Y. Fukuda & Y. Nakai: Bioresour. Technol., 128, 94 (2013).
7) S. R. Harper & F. G. Pohland: Biotechnol. Bioeng., 28, 585 (1986).