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硫黄化合物の生合成・分解機構
RNA修飾塩基を中心に

Naoki Shigi

直樹

国立研究開発法人産業技術総合研究所細胞分子工学研究部門生合成システム多様性研究グループ

Published: 2025-08-01

硫黄は生体を構成する主要元素でありL-CysとL-Metの他にもさまざまな硫黄を含む生体分子がある.酵素の補因子として働く鉄硫黄クラスターやチアミン・ビオチンなどのビタミン類,RNAの硫黄修飾塩基などがあり,二次代謝産物も多数存在する.硫黄原子は30種類以上の同素体として存在し,広範な酸化数(−2から+6)の化合物を形成しうる.この化学的特性により多様な形態をとり生体機能を担っている.転移RNA(tRNA)の硫黄修飾塩基は正確なタンパク質合成に必須である.その生合成では,反応性の高い活性化硫黄種をタンパク質に共有結合させ,非特異的反応を回避し目的の対象にのみ安全に受け渡している(1)1) N. Shigi: Int. J. Mol. Sci., 22, 11937 (2021)..生命にとって重要な鉄硫黄クラスターや含硫黄ビタミン,モリブデン補酵素(Moco)の生合成においても同様のしくみが明らかにされており,硫黄化合物代謝の共通基盤原理として浮かび上がってきた.

・tRNA硫黄修飾塩基の機能

タンパク質合成系は生命の根幹である.その異常はヒト疾病の原因となり,病原菌のタンパク質合成系にのみ作用する阻害剤は良い抗菌物質である.tRNAはタンパク質合成においてコドンをアミノ酸に対応させる中心分子である.tRNAには110種類を超える化学修飾が導入され成熟する(転写後修飾).硫黄を含む修飾としては4-チオウリジン(s4U),2-チオウリジン(s2U)誘導体,2-チオシチジン(s2C),2-メチルチオアデノシン(ms2A)誘導体がある.ほぼすべての生物のGlu, Gln, LysのtRNAの34位(アンチコドン1文字目)には,s2U修飾がある(塩基の5位も修飾されている).Uの2位の酸素原子が硫黄原子に置換されると,塩基部分のかさ高い2-チオ基とリボースの2′-水酸基の立体障害によりC3′-endo型をとりやすくなる.修飾されたUはコドン3文字目のA・Gとの対合を強め,別のアミノ酸を指定するC・Uと対合するのを防ぎ,2-コドンボックスの正確な解読が実現される.酵母や線虫では修飾を欠損すると翻訳スピードが低下し,翻訳と共役したタンパク質立体構造形成がうまくいかず凝集体となり細胞にストレスを与える(2)2) D. D. Nedialkova & S. A. Leidel: Cell, 161, 1606 (2015)..さらに一部の好熱性細菌では,tRNAのT-ループ(54位)に5–メチル2–チオU(m5s2U)があり,環境温度の上昇に応じて硫黄化tRNAの割合が増加する.tRNAのL字型構造のコアとなるD-ループとT-ループから形成される2重鎖構造が硫黄化により安定化され,tRNA分子全体が熱安定化される.実際この硫黄化は好熱菌の高温での生育に必須である(3)3) N. Shigi, Y. Sakaguchi, T. Suzuki & K. Watanabe: J. Biol. Chem., 281, 14296 (2006).

・tRNA硫黄修飾塩基の生合成系

細菌ではチオUの硫黄はL-Cysに由来し,硫黄原子はシステインデスルフラーゼ(CD)というpyridoxal 5′-phosphate(PLP)酵素により酵素自身の触媒システイン残基へ共有結合し,ペアスルフィド(R-SSH)という活性化硫黄種を形成する.酵素に結合したペアスルフィドは,硫黄キャリアタンパク質に受け渡され,最終的に各経路のRNA硫黄修飾酵素により修飾塩基が生合成される.CDは鉄硫黄クラスター,チアミン,およびモリブデン補酵素(Moco)などの生合成系などにも活性化硫黄を供する.また,それぞれの生合成経路は中流・下流の硫黄キャリアタンパク質や活性化硫黄中間体を共有し硫黄代謝ネットワークを形成している.キャリアタンパク質は,反応性が高く有害な活性化硫黄種を安全に取り扱い,秩序だった硫黄原子のフローを実現する重要な役者である.一方細胞内には小分子やタンパク質結合型のペアスルフィド硫黄が予想外に多く存在することも報告されており(4)4) T. Ida, T. Sawa, H. Ihara, Y. Tsuchiya, Y. Watanabe, Y. Kumagai, M. Suematsu, H. Motohashi, S. Fujii, T. Matsunaga et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 7606 (2014).,硫黄の秩序だったフローとの関係の解明が待たれる.RNA硫黄修飾酵素として,U(4位または2位)とC(2位)の酸素を硫黄に置換する酵素群,およびAの2位にメチルチオ基を付加する酵素がある.真核生物では,細胞質とミトコンドリアに別種の酵素が局在する(ヒトs2U34チオ基転移酵素は細胞質ではcytosolic thiouridylase 1(Ctu1),ミトコンドリアではmitochondrial thiouridylase 1(Mtu1)).Ctu1は酸素感受性の鉄硫黄クラスターを有し,Mtu1は鉄硫黄クラスターを持たない.ヒト細胞質2-メチルチオアデノシン37位メチルチオ基転移酵素はCdkal1,ヒトミトコンドリア酵素はCdk5rap1といい,酸素感受性の鉄硫黄クラスターを持つラジカルS-adenosyl-L-methionine(SAM)酵素である.鉄硫黄クラスターは酸化ストレスに弱く,チオ化修飾量の制御機構の存在が考えられる.

・tRNA硫黄修飾塩基の分解系

RNAの脱メチル化経路についてはその重要性が広く認められている.In vitroの解析によると,s2Uヌクレオシド誘導体の酸化的脱硫により4-ピリミジノンヌクレオシド(h2U)が主に生成される.酸化によりコドン認識に影響を及ぼす可能性がある.チオウラシル脱スルフィダーゼ活性を持つthiouracil desulfidases(TudS)が近年発見された(5)5) A. Aučynaitė, R. Rutkienė, R. Gasparavičiūtė, R. Meškys & J. Urbonavičius: Environ. Microbiol. Rep., 10, 49 (2018)..TudSは4-チオウラシル(s4Ura)または2-チオウラシル(s2Ura)の脱硫を触媒し,Uraを形成する.TudSは活性中心にある3つのCys残基に[4Fe-4S]クラスターを結合している.[4Fe-4S]クラスターの鉄原子に硫黄原子が結合した[4Fe-5S]型クラスターがチオUraの脱硫反応の中間体として提案されている.この鉄硫黄クラスターは生合成酵素(Ctu1/tRNA-5-methyluridine(54)2-sulfurtransferase A(TtuA)とtRNA-2-methylthio-N(6)-dimethylallyladenosine synthase(MiaB)ファミリー)にも共通する中間体であり非常に興味深い.TudSファミリーの生物学的な機能はUra生合成のサルベージと推測されている.さらにTudSにRNA結合ドメインが融合したタンパク質ファミリーtRNA 4-thiouridine desulfidase(RudS)が同定され,tRNAを基質としs4UをUにする酵素であることが最近報告されている(6)6) R. Jamontas, A. Laurynėnas, D. Povilaitytė, R. Meškys & A. Aučynaitė: Nucleic Acids Res., 52, 10543 (2024).

・硫黄代謝の多様性と進化について

真核生物や細菌に存在するユビキチン様タンパク質(Ubl)は,硫黄を含む生体分子の生合成に必要な硫黄の転移を仲介する機能や,特定のタンパク質と共有結合体を形成しその機能を制御するという役割を持つ.われわれは,超好熱アーキアThermococcus kodakarensisにおけるUblの機能と生理的重要性を,一連の欠失変異体を作成することによって調べた(図1図1■超好熱性アーキアにおける, 環境硫黄量に応じた柔軟で効率的な硫黄利用(7)7) R. Hidese, T. Ohira, S. Sakakibara, T. Suzuki, N. Shigi & S. Fujiwara: MBio, 15, e0053424 (2024)..3つのUblは特定の標的タンパク質と結合しており,3つともタングステン補酵素(Wco)やtRNAチオUなどの含硫生体分子の生合成に関与していることがわかった.培地中に元素状硫黄(S0)が存在すると,Ubl変異体におけるこれらの硫黄含有分子の合成欠損が回復したことから,T. kodakarensisはUblsを用いずにS0を代替硫黄源として利用できることが示された.この解析から,Ublを介した硫黄伝達系は,特に低硫黄条件下での効率的な硫黄同化に重要であることが示された.原始アーキアは,起源の古い無機硫黄同化経路に加えUbl硫黄輸送系を獲得したことで,低硫黄環境に進出して生育範囲を拡大することができるようになったと推察でき,進化的な観点からも興味深い.

図1■超好熱性アーキアにおける, 環境硫黄量に応じた柔軟で効率的な硫黄利用

Reference

1) N. Shigi: Int. J. Mol. Sci., 22, 11937 (2021).

2) D. D. Nedialkova & S. A. Leidel: Cell, 161, 1606 (2015).

3) N. Shigi, Y. Sakaguchi, T. Suzuki & K. Watanabe: J. Biol. Chem., 281, 14296 (2006).

4) T. Ida, T. Sawa, H. Ihara, Y. Tsuchiya, Y. Watanabe, Y. Kumagai, M. Suematsu, H. Motohashi, S. Fujii, T. Matsunaga et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 7606 (2014).

5) A. Aučynaitė, R. Rutkienė, R. Gasparavičiūtė, R. Meškys & J. Urbonavičius: Environ. Microbiol. Rep., 10, 49 (2018).

6) R. Jamontas, A. Laurynėnas, D. Povilaitytė, R. Meškys & A. Aučynaitė: Nucleic Acids Res., 52, 10543 (2024).

7) R. Hidese, T. Ohira, S. Sakakibara, T. Suzuki, N. Shigi & S. Fujiwara: MBio, 15, e0053424 (2024).