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植物における細胞内グルタミンの検知システムの解明
栄養検知と代謝制御をつなぐ新たな分子メカニズム

Mirai Tanigawa

谷川 美頼

沖縄科学技術大学院大学膜生物学ユニット

Published: 2025-08-01

細胞は常に細胞内外の栄養環境をモニターし,それに応じて代謝を制御しなければならない.真核生物において,栄養に応答して代謝をコントロールする2大ハブ因子がTORC1とAMPK (AMP-activated protein kinase)である(1)1) A. González, M. N. Hall, S.-C. Lin & D. G. Hardie: Cell Metab., 31, 472 (2020)..TORC1は栄養や成長ホルモンで活性化され,ストレス条件下で不活性化される.活性化されたTORC1は,タンパク質合成などの同化を亢進させると共に,オートファジー等の異化を抑制することにより,細胞の成長を正に制御する.一方,ストレス下ではTORC1が不活性化されることで異化反応が亢進し,生存に必須な代謝物が供給される.これに対しAMPKはTORC1とは反対に,低栄養やストレスで活性化され,同化を抑制し異化を促進する.TORC1とAMPKは相互抑制の関係にあり,基本的に細胞内で両経路が同時に活性化することはない.

さて,栄養によってどのようにTORC1は活性化されるのであろうか.哺乳類ではRag (Ras-related GTP-binding protein)複合体を介したmTORC1の活性化機構がよく研究されている.Rag複合体はリソソーム膜上に局在する低分子量Gタンパク質のヘテロ2量体で,活性化型のRag複合体はmTORC1と結合する.Rag複合体によるmTORC1の制御機構の詳細については割愛するが,現在Rag複合体を介してmTORC1の活性化を導くいくつかのアミノ酸センサーとコレステロールセンサーが同定されている(2)2) C. Goul, R. Peruzzo & R. Zoncu: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 24, 857 (2023)..Rag複合体とその上流因子であるGATOR1, 2 (GAP Activity Towards Rags 1, 2)は酵母においても高度に保存されている.しかし哺乳類において同定された栄養センサー群は酵母においては保存されていないようである(これまでに酵母においてRag経路を制御する栄養センサーとして広く検証・受容された分子は存在しない).このことは,進化の過程でTORC1の上流で検知される栄養の種類,および検知のメカニズムが多様化していったことを示唆している.

植物TORC1も哺乳類と同様に栄養および成長ホルモンで活性化される.しかしながら植物にはRag複合体とGATORは保存されていない.それでは植物のTORC1はどのように制御されているのであろうか.これまでに植物特異的な低分子量Gタンパク質であるROP2 (Rho-related GTPase of Plants 2)がTORC1の活性化因子として同定されており,窒素栄養およびオーキシンで活性化されたROP2がTORC1と結合することでTORC1の活性化を導くというモデルが提唱されている(3, 4)3) M. Schepetilnikov, J. Makarian, O. Srour, A. Geldreich, Z. Yang, J. Chicher, P. Hammann & L. A. Ryabova: EMBO J., 36, 886 (2017).4) Y. Liu, X. Duan, X. Zhao, W. Ding, Y. Wang & Y. Xiong: Dev. Cell, 56, 1283 (2021)..しかし,ROP2の上流でどの栄養がどのようにセンスされているのかについては明らかにされていない.これまでに植物TORC1は,窒素,アミノ酸,リン,硫黄により活性化されることが報告されているが,これらはいずれもin vivoの実験結果をもとに主張されており,実際に植物細胞内で検知される栄養の同定には至っていなかった.

最近,酵母とシロイヌナズナにおいて,Rag複合体に依存しない両者に共通したグルタミン応答性のTORC1活性化機構の存在が明らかになった.その機構は,酵母では液胞膜タンパク質Pib2(Phosphatidylinositol 3-phosphate binding protein 2),植物ではそのオルソログFYVE1/FREE1が担う(5, 6)5) M. Tanigawa, K. Yamamoto, S. Nagatoishi, K. Nagata, D. Noshiro, N. N. Noda, K. Tsumoto & T. Maeda: Commun. Biol., 4, 1093 (2021).6) M. Tanigawa, T. Maeda & E. Isono: iScience, 27, 110814 (2024)..Pib2, FYVE1はともにFYVEドメインを有し,FYVEドメインとPI(3)Pの結合を介して膜上に局在する.Pib2はグルタミン依存的なTORC1の活性化に必要十分であることがin vivoの実験により示されている(5)5) M. Tanigawa, K. Yamamoto, S. Nagatoishi, K. Nagata, D. Noshiro, N. N. Noda, K. Tsumoto & T. Maeda: Commun. Biol., 4, 1093 (2021)..つまりPib2は細胞内グルタミンセンサーであり,かつTORC1の直接の活性化因子として機能する.FYVE1はPib2と相同性を持つことからTORC1活性化因子としての機能が見出されたが,以前より植物特異的なESCRT (endosomal sorting complexes required for transport)の構成因子としてよく研究されてきた多機能分子である.ESCRTは細胞内の様々な場所で膜修復装置として機能するが,FYVE1によるTORC1の制御は,そのESCRT構成因子としての機能とは独立してなされることが示唆されている.FYVE1とTORC1の結合はin vivoでグルタミンにより増強することから,FYVE1はPib2と同様に細胞内グルタミンセンサーとして機能し,TORC1を活性化するというモデルが提唱されている(6)6) M. Tanigawa, T. Maeda & E. Isono: iScience, 27, 110814 (2024).

興味深いことにPib2,FYVE1ともにグルタミン特異的に活性化される.ではなぜ酵母と植物はTORC1の上流で細胞内のグルタミン量を検知するのであろうか.哺乳類では,mTORC1の活性化を導くアミノ酸センサーとして,ロイシン,アルギニン,およびメチオニンの代謝物S-アデノシルメチオニンを検知するセンサーが同定されている(2)2) C. Goul, R. Peruzzo & R. Zoncu: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 24, 857 (2023)..これらはすべて必須アミノ酸もしくは準必須アミノ酸であり,哺乳類は成長のボトルネックとなりうるアミノ酸を個々にモニターする戦略をとっているようである.一方で,酵母および植物は,タンパク質合成に必要な20種のアミノ酸全てをde novo合成できるアミノ酸独立栄養生物である.このため,個々のアミノ酸量の検知ではなく,細胞内窒素プールの総量をモニターする方がより合理的である.この文脈において,グルタミンは以下の2つの特性により,細胞内窒素量の指標として検知するのにふさわしいのであろう.第一に,グルタミンはグルタミン酸とともに細胞内で最も豊富な遊離アミノ酸である.第二に,その量が細胞内の窒素栄養状態をよく反映しているからである.実際に酵母を窒素栄養飢餓にさらすと,飢餓後30分でグルタミン量は飢餓前の10%程度まで減少する一方,グルタミンの脱アミノによって生じるグルタミン酸の量は50%程度の減少にとどまる(7)7) K. Liu, B. M. Sutter & B. P. Tu: Nat. Commun., 12, 57 (2021)..これは,グルタミンを消費することによりグルタミン酸のレベルが維持されていることを示唆している.グルタミン酸はプロリンやアルギニンなど多くの代謝物合成の基質となることから,グルタミン酸レベルを維持することが細胞の恒常性の維持に重要であること,そのための窒素貯蔵庫としてグルタミンが機能していることが推察される.つまり,グルタミンレベルは窒素栄養状態を忠実に反映しており,だからPib2とFYVE1はそのレベルを検知しているのであろう.

FYVE1とPib2はTORC1の上流因子として機能する一方で,AMPKの下流因子としても機能する(図1図1■植物FYVE1/FREE1は細胞内栄養状態に応答して二面性の機能を示す).FYVE1はESCRTの構成因子としてオートファゴソーム膜の閉鎖過程で機能すると報告されており,この過程ではAMPKオルソログSnRK1によるFYVE1のリン酸化が必要である(8)8) Y. Zeng, B. Li, S. Huang, H. Li, W. Cao, Y. Chen, G. Liu, Z. Li, C. Yang, L. Feng et al.: Nat. Commun., 14, 1768 (2023)..また,酵母Pib2もAMPKオルソログSnf1によりリン酸化され,このリン酸化によりPib2とTORC1の結合が阻害される(9)9) M. Caligaris, R. Nicastro, Z. Hu, F. Tripodi, J. E. Hummel, B. Pillet, M.-A. Deprez, J. Winderickx, S. Rospert, P. Coccetti et al.: eLife, 12, e84319 (2023)..TORC1とAMPKは相互抑制の関係にあることから,TORC1の上流因子がAMPKの下流因子として機能することは進化的に自然な帰結といえる.また,FYVE1とPib2のAMPKの下流での機能は多様化していることから,グルタミン検知とTORC1活性化能が先に獲得され,AMPKの制御下にある機能は後に進化の過程で獲得されたと推察される.

図1■植物FYVE1/FREE1は細胞内栄養状態に応答して二面性の機能を示す

左:栄養状態が良好な条件下では,FYVE1/FREE1は細胞内グルタミンを感知してTORC1を活性化する.活性化したTORC1は細胞成長を促進するとともに,AMPKの活性を抑制する.右:細胞内グルタミン濃度が低下すると,FYVE1/FREE1はTORC1を活性化できない.活性化状態のAMPKはTORC1をリン酸化して阻害するとともに,FYVE1をリン酸化する.リン酸化を受けたFYVE1はオートファゴソームの膜閉鎖過程において機能する.また,TORC1が不活性な状態では,FYVE1はオートファジーおよびプロテアソームを介して積極的に分解される.

上述したFYVE1/FREE1の研究を通じて,植物TORC1における初めてのアミノ酸検知機構が明らかになりつつある.FYVE1がPib2と同様にTORC1を直接活性化するか否か,またその過程にROP2が関与するのか否かについては未解明であり,今後の詳細な解析が待たれる.

Reference

1) A. González, M. N. Hall, S.-C. Lin & D. G. Hardie: Cell Metab., 31, 472 (2020).

2) C. Goul, R. Peruzzo & R. Zoncu: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 24, 857 (2023).

3) M. Schepetilnikov, J. Makarian, O. Srour, A. Geldreich, Z. Yang, J. Chicher, P. Hammann & L. A. Ryabova: EMBO J., 36, 886 (2017).

4) Y. Liu, X. Duan, X. Zhao, W. Ding, Y. Wang & Y. Xiong: Dev. Cell, 56, 1283 (2021).

5) M. Tanigawa, K. Yamamoto, S. Nagatoishi, K. Nagata, D. Noshiro, N. N. Noda, K. Tsumoto & T. Maeda: Commun. Biol., 4, 1093 (2021).

6) M. Tanigawa, T. Maeda & E. Isono: iScience, 27, 110814 (2024).

7) K. Liu, B. M. Sutter & B. P. Tu: Nat. Commun., 12, 57 (2021).

8) Y. Zeng, B. Li, S. Huang, H. Li, W. Cao, Y. Chen, G. Liu, Z. Li, C. Yang, L. Feng et al.: Nat. Commun., 14, 1768 (2023).

9) M. Caligaris, R. Nicastro, Z. Hu, F. Tripodi, J. E. Hummel, B. Pillet, M.-A. Deprez, J. Winderickx, S. Rospert, P. Coccetti et al.: eLife, 12, e84319 (2023).