Kagaku to Seibutsu 63(8): 355-357 (2025)
今日の話題
低利用紅藻ダルスに含まれる成分特性について
海藻の持続可能な化学成分
Published: 2025-08-01
© 2025 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2025 公益社団法人日本農芸化学会
マコンブはユネスコ無形文化遺産の和食のダシに使われる食材であり,北海道函館市の重要な水産物である.函館市のマコンブは養殖生産されており,日当たりが良い養殖ロープには多くの雑海藻が繁茂する.1~3月の養殖ロープには主に紅藻ダルスが繁茂する.その資源量は函館市南茅部地区で1,000~2,000 tと見積もられている.ダルスは養殖対象ではないものの,ロープにびっしりと茂ることから収穫が比較的容易となっている(1)1) YouTube: 北海道大学バランスドオーシャン ダルスの採集(Sampling dulse),https://www.youtube.com/watch?v=JnYVdbujgiQ (2022)..ダルスは海外で食されているため(2)2) O. G. Mouritsen, C. Dawczynski, L. Duelund, G. Jahreis, W. Vetter & M. Schröder: J. Appl. Phycol., 25, 1777 (2013).,“地域資源として活用が期待できるのでは?”とのアイデアから成分分析を行ってきた.ダルス湿重量の90%は水分である.残りの乾重量のうち,タンパク質と炭水化物がそれぞれ40%含まれており,脂質が5%,残りが灰分となっている.本稿では,これまでに調べてきたダルスの主にタンパク質,炭水化物及び低分子化合物について詳述する(図1図1■ダルスの成分とその活用).
紅藻は,光の届きにくい水中で効率的に光合成を行うために,フィコビリソームと呼ばれるアンテナのような巨大分子を利用する.フィコビリソームは,アンテナを構成するロッド状のフィコビリタンパク質とそれらを繋ぐリンカータンパク質で構成される.それらの分子には,光エネルギーを伝達するための色素分子である発色団がある.紅藻の赤色は,発色団であるフィコエリスロビリン由来の色であり,フィコビリタンパク質の一種であるフィコエリスリンとチオール結合する.ダルス粉末の水抽出物として,フィコビリタンパク質と二酸化炭素の固定に関わるリブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼが得られる.その抽出物をタンパク質分解酵素で低分子化したところ,血圧調整に関わるアンジオテンシンI変換酵素(ACE)を阻害することが示された(3)3) T. Furuta, Y. Miyabe, H. Yasui, Y. Kinoshita & H. Kishimura: Mar. Drugs, 14, 32 (2016)..In vitroアッセイにより,ACE阻害能の強いトリペプチドとしてLRYを同定し,LRYはフィコエリスリンのアミノ酸配列に含まれることを確認した.特定保健用食品として用いられるゴマペプチド(LVY)と同程度の効力を有することを示した.ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP-IV)は血糖値降下作用を示すインクレチンと総称されるペプチドホルモンの末端を加水分解して不活化するため,DPP-IVを阻害する成分には血糖値降下作用がある.ダルスのフィコエリスリンに着目したところ,IC50値が327 µMを示すテトラペプチド(EVYR)が同定された.既報の乳タンパク質由来DPP-IV阻害ペプチド(IPIPL)と同程度の効力を有することを明らかにした.
紅藻の炭水化物は,寒天やカラゲナンなどのガラクトースが硫酸化された多糖が主成分であり,増粘多糖類として食品や医薬品素材に利用されている.ダルスは,キシロースを主成分とするキシランを多糖として有する.陸上植物のキシランと異なる点として,ダルスのキシランはアラビノースやグルクロン酸などの側鎖をもたない主鎖のみで構成される多糖である.さらに,キシロースがβ-(1→4)-グリコシド結合で4または5回つながった後に,β-(1→3)-グリコシド結合が1回含まれる独特の構造である.市販酵素を用いて,非還元末端にβ-(1→3)-グリコシド結合をもつ3糖(DX3)を調製できた.DX3はビフィズス菌の増殖作用を示し,ビフィズス菌がもつ加水分解酵素のDX3への作用機構を明らかにした(4)4) M. Kobayashi, Y. Kumagai, Y. Yamamoto, H. Yasui & H. Kishimura: Mar. Drugs, 18, 174 (2020)..ダルスは陸上植物の細胞壁と異なりリグニン含量が少ないため,ダルス・キシランは高い加水分解率だった.市販酵素にはエキソ型のβ-キシロシダーゼが含まれるため,生成物としてキシロースが生成してしまう.そこで,エンド型のβ-キシラナーゼだけを用いることでオリゴ糖のみを生じる反応条件を確立した.ダルスの主要成分はタンパク質とキシランである.そこでダルスのタンパク質と糖質を亜臨界水処理にて同時に加水分解する条件を検討した.その結果,反応の制御が難しく,オリゴ糖のみを調製することができなかった.また,酵素反応に比べてダルスに特徴的なオリゴ糖であるDX3の生成量が低値であった.
ダルスのタンパク質やキシランは低分子化することでペプチドやオリゴ糖といった機能成分として利用できる.これらの調製には,それぞれを低分子化する酵素が必要であり,酵素の使用に伴い処理コストが高くなる点が指摘されている.亜臨界水は臨界点よりも温度及び圧力が低い状態の水であるが強い加水分解力を有し,食品成分の抽出や低分子化に亜臨界水処理が用いられる.オリゴ糖の生成条件に着目して処理条件を検討したが反応の制御が難しく,単糖のキシロースが生成する状況である.また,亜臨界水処理ではフルフラールなどの発酵阻害物質が生成されたため,ビフィズス菌の増殖阻害が確認されており,オリゴ糖の分画が必要になるなどの検討課題が生じている状況である.
海藻は光合成をするが,紫外線に晒されるために自身を保護する化合物をもつ.マイコスポリン様アミノ酸(MAAs)は藻類が生産する紫外線吸収物質である.日焼け止めクリームなどは化成品の紫外線吸収物質を含むため,それによりサンゴの白化現象を引き起こすことから海外では使用が禁止されつつある.MAAsは,天然の日焼け止め成分であり,藻類を捕食した生物も利用している.例えば,軟体動物であるアメフラシや棘皮動物のウニの卵及び魚類の眼球にMAAsが多く局在することが報告されている.MAAsは芳香族アミノ酸の合成に関わるシキミ酸経路を利用して生合成される.マイコスポリン-グリシンは310 nmの極大吸収をもち,様々なMAAsの前駆物質である.それにセリンやトレオニンが結合したMAAsであるシノリンやポルフィラ-334は330 nmに極大吸収をもつ.ダルスは他の紅藻と比較し,長波長側の360 nmに極大吸収をもつMAAsであるウスジレンや,その異性体のパリセンが多く含まれる.大西洋ダルスでは,紫外線量がウスジレンの含有量に影響することが報告されたが,それに含まれるウスジレン量は全MAAsの5%以下であった(5)5) Y. V. Yuan, N. D. Westcott, C. Hu & D. D. Kitts: Food Chem., 112, 321 (2009)..一方,北海道函館市臼尻町で採取したダルスは,ウスジレン量が全MAAsの25%に達する時期もあった(6)6) Y. Nishida, Y. Kumagai, S. Michiba, H. Yasui & H. Kishimura: Mar. Drugs, 18, 502 (2020)..道南産ダルスは,タンパク質や糖質をはじめとして,地表に届く紫外線の中でもUVA(320~400 nm)領域を保護するユニークなMAAs素材として興味深い供給源となりうる.今後,地域との連携を通じて,道南産ダルスを原料としたMAAsの活用が,環境調和型の紫外線防御技術の開発につながることが期待される.
Reference
1) YouTube: 北海道大学バランスドオーシャン ダルスの採集(Sampling dulse),https://www.youtube.com/watch?v=JnYVdbujgiQ (2022).
3) T. Furuta, Y. Miyabe, H. Yasui, Y. Kinoshita & H. Kishimura: Mar. Drugs, 14, 32 (2016).
4) M. Kobayashi, Y. Kumagai, Y. Yamamoto, H. Yasui & H. Kishimura: Mar. Drugs, 18, 174 (2020).
5) Y. V. Yuan, N. D. Westcott, C. Hu & D. D. Kitts: Food Chem., 112, 321 (2009).
6) Y. Nishida, Y. Kumagai, S. Michiba, H. Yasui & H. Kishimura: Mar. Drugs, 18, 502 (2020).