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酵素改変が拡張するバイオプラスチック生合成
鍵と鍵穴の関係はどこまで広げられるか

Ken’ichiro Matsumoto

松本 謙一郎

北海道大学工学研究院

Published: 2025-08-01

この原稿を書いているとき,珈琲店大手のスターバックスで紙ストローに代わってバイオマスプラスチック製のストローの使用が始まったというニュースが流れていた.バイオマスプラスチック製ストローは,紙製よりも使いやすく,消費者の評判は良好のようだ.しかし,とくに説明されない限り,このストローがバイオテクノロジーを駆使したハイテク製品であることに気づく人はほとんどいないだろう.

このストローは,ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)と呼ばれるポリエステルの一種であり,植物油を原料として微生物発酵により合成されている.微生物発酵を利用したプラスチック合成法としては,ポリ乳酸が有名だが,ポリ乳酸が乳酸発酵と化学的重合法の組み合わせで生産されているのに対して,PHAは微生物発酵によりポリマーが細胞内で合成される.また,PHAは優れた海洋分解性をもつことも特徴である.PHA研究の歴史は古く,その発見は約100年前である.PHAが熱可塑性樹脂(温度を上げると柔らかくなり,温度を下げると硬くなる性質)であることは以前から知られていたが,多くの菌が合成する典型的なPHAであるポリ-3-ヒドロキシ酪酸(P(3HB))は脆い物性のため材料として利用することは困難だった.これは,ポリマー鎖の結晶化が徐々に進行することが原因であるため,分子中に構造の異なるモノマーユニットを導入して,結晶化度を抑制することが考えられた.こうして開発されたポリマーの一つが,3HBを主成分とし,3-ヒドロキシヘキサン酸(3HHx)を第二成分として含むランダム共重合体,Poly(3HB-co-3HHx)(PHBH)である.本ポリマーは株式会社カネカによりGreen planetの商品名で製造され,前出のストローに使用されている.ポリマーの材料物性は3HHxユニットの含量やポリマー分子量により変わるので,商業利用のためには合成条件を厳密に制御する必要がある(見た目によらずハイテク製品である理由の一つ).

PHA合成が他の多くの化学合成高分子と異なるのは,ポリマーが細胞内で酵素反応によって合成されることである.PHAの基質となるのはヒドロキシ酸のCoA体であり,重合を触媒する酵素はPHA合成酵素と呼ばれる.前述のように,複数のモノマーを共重合することは物性改良の有効な手段であるが,共重合体を合成するためには,重合したい複数のモノマー基質に対して基質特異性を有するPHA合成酵素を用いる必要がある.しかし,鍵と鍵穴の例えに示されるように,本来,酵素は基質分子の構造を厳密に認識する性質を有するため,大きく構造の異なるモノマー同士を共重合することは容易ではない.逆に言えば,基質特異性の幅広いPHA合成酵素を取得,または人工的に基質特異性を拡大することができれば,幅広い高分子の分子設計が可能になる.表1表1■天然型PHA合成酵素のクラスと特徴には,クラス1・2型のPHA合成酵素の特徴をまとめている.ここに示された典型的な天然基質と異なるモノマーを重合可能なPHA合成酵素が欲しいということになる.

表1■天然型PHA合成酵素のクラスと特徴
PhaCクラス由来天然基質ポリマー分子量サブユニット構造
1幅広いPHA生産菌C4, C5の3-ヒドロキシアシルCoA
(一部例外あり)
105–6ホモ二量体
2Pseudomonas属細菌C6–12の3-ヒドロキシアシルCoA
(一部例外あり)
104–5ホモ二量体

PHAの基質特異性の拡大研究における一つの大きなブレークスルーは,乳酸のCoA体であるラクチルCoAを認識するPHA合成酵素の発見である(1)1) S. Taguchi, M. Yamada, K. Matsumoto, K. Tajima, Y. Satoh, M. Munekata, K. Ohno, K. Kohda, T. Shimamura, H. Kambe et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 17323 (2008)..最初に発見された酵素は,PhaC1PsSTQKと呼ばれるクラス2型に分類される改変型酵素だった.ラクチルCoAは天然基質である3HB-CoAと水酸基の位置が異なり,重合物の主鎖炭素数が2となる.この酵素の発見は,PHA合成酵素が天然型のPHAよりも幅広いモノマーを重合する潜在能力を有していることを示唆していた.筆者らは,主鎖の炭素数が2のモノマー基質を重合可能な他のPHA合成酵素を探索し,クラス1のキメラ型PHA合成酵素PhaCARが種々の2-ヒドロキシアルカン酸ユニットを取り込み可能であることを見出した(2)2) K. Matsumoto, C. Hori, R. Fujii, M. Takaya, T. Ooba, T. Ooi, T. Isono, T. Satoh & S. Taguchi: Biomacromolecules, 19, 662 (2018)..クラス1型と2型の性質の違いの一つは,クラス1型酵素は天然基質以外にも,非天然基質である主鎖の炭素数が4のモノマーも取り込み可能であることである.そこで筆者らは,PhaCARがより長い主鎖をもつモノマー基質の取り込み能力をもっているか調べた.その結果,これまで一例しか報告例がなかった6-ヒドロキシヘキサン酸(6HHx,主鎖炭素数6)ユニットの取り込み能力を有していることがわかった(3)3) K. Satoh, T. Kawakami, N. Isobe, L. Pasquier, H. Tomita, M. Zinn & K. Matsumoto: Microb. Cell Fact., 21, 84 (2022)..つまり,天然のクラス1型PHA合成酵素は主鎖炭素数が3または4のモノマーのみ認識するのに対し,PhaCARは2から6までの幅広いモノマーを取り込み可能であった.さらに,基質特異性を拡張する点変異の導入により,6HHx分率を約20 mol%まで向上させることができた(4)4) Y. Hozumi, S. Hachisuka, H. Tomita, H. Kikukawa & K. Matsumoto: Biomacromolecules, 25, 2973 (2024)..これは,ポリマーの物性が明確に変化する導入量であり,6HHxをPHAの構成成分として利用可能になったことを示している.

以前よりよく研究されているクラス2型のPHA合成酵素も幅広い基質特異性をもつが,重合できるのは側鎖の長さの異なるモノマー群である.これに対してPhaCAR変異体の基質特異性の幅広さは,主鎖長が異なっていることが重要である(図1図1■天然型および改変型のクラス1, 2型PHA合成酵素が取り込み可能なモノマーユニット構造).主鎖長が異なるということは,重合反応が起こる水酸基の位置が異なるということなので,これほど幅広い構造のモノマーを重合可能な酵素が存在することは驚くべきことである.化学的に合成されたpolycaprolactone(PCL)(P(6HHx)と同構造)は,生分解性と柔軟性を有する材料として知られており,6HHxユニットの導入により天然型および乳酸導入型PHAとは異なる物性を発揮できると考えられる.表2表2■各種ポリエステルの特徴には,本稿で紹介した主なポリマーの特徴をまとめている.今後は,新規ポリマー構造を生かした材料開発にも取り組んでいきたい.

図1■天然型および改変型のクラス1, 2型PHA合成酵素が取り込み可能なモノマーユニット構造

表2■各種ポリエステルの特徴
ポリマー特徴
P(3HB)多くの天然のPHA生産菌により合成されるが,脆い物性のため,単体での材料利用は困難.
PHBH [P(3HB-co-3HHx)]3HHxユニットにより結晶化度を抑え,P(3HB)よりも柔軟性が改善されている.現在はパーム油を原料に製造されている.
P(LA-co-3HB)乳酸ユニットによりP(3HB)の結晶性が抑制される.乳酸は糖から合成されるため,糖質バイオマスを原料として効率的に生産できる.
PCL開環重合により得られる化学合成ポリマー.ガラス転移点が低く,低温でも柔軟性が失われにくい一方,耐熱性は低い.合成ポリマーの中では珍しく,海洋分解性を示す.
P(3HB-co-6HHx)P(3HB)の分子鎖中に6HHxがランダムに導入された共重合体.P(3HB)よりガラス転移点が低下し,柔軟性が増す点ではPHBHと類似している.

Reference

1) S. Taguchi, M. Yamada, K. Matsumoto, K. Tajima, Y. Satoh, M. Munekata, K. Ohno, K. Kohda, T. Shimamura, H. Kambe et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 17323 (2008).

2) K. Matsumoto, C. Hori, R. Fujii, M. Takaya, T. Ooba, T. Ooi, T. Isono, T. Satoh & S. Taguchi: Biomacromolecules, 19, 662 (2018).

3) K. Satoh, T. Kawakami, N. Isobe, L. Pasquier, H. Tomita, M. Zinn & K. Matsumoto: Microb. Cell Fact., 21, 84 (2022).

4) Y. Hozumi, S. Hachisuka, H. Tomita, H. Kikukawa & K. Matsumoto: Biomacromolecules, 25, 2973 (2024).

5) S. Mizuno, Y. Enda, A. Saika, A. Hiroe & T. Tsuge: J. Biosci. Bioeng., 125, 295 (2018).