解説

広がる硫酸転移酵素の世界
細菌の硫酸転移酵素が担う硫酸化とその多様性

Expanding Sulfotransferase Research: Sulfation by Bacterial Sulfotransferases and Their Diversity

Takamasa Teramoto

寺本 岳大

九州大学大学院農学研究院

九州大学大学院生物資源環境科学府

Takahiro Mori

尚寛

九州大学大学院生物資源環境科学府

Chiyono Miyashita

宮下 千代乃

九州大学大学院生物資源環境科学府

Miyo Watanabe

渡邉 観世

九州大学大学院生物資源環境科学府

Yoshimitsu Kakuta

角田 佳充

九州大学大学院農学研究院

九州大学大学院生物資源環境科学府

Published: 2025-08-01

生命は,さまざまな硫酸転移酵素が触媒する硫酸化(SO3基修飾)によってさまざまな生体物質(低分子化合物,糖鎖,タンパク質)の機能制御を行っている.硫酸転移酵素は,これまで真核生物で広く発達した酵素だと考えられていた.しかし近年,細菌は硫酸化を使って生体物質の機能制御や生合成経路の活性化などを行っており,細菌の硫酸化は真核生物よりも多様な役割を担っていることが明らかになりつつある.本稿では近年同定された細菌由来硫酸転移酵素の硫酸化機構とその多様性,さらに応用展開のアイディアを紹介する.

Key words: 硫酸転移酵素; 硫酸化; 化学修飾; 細菌

生物が活用する硫酸転移酵素

生命は,細胞内外に存在するさまざまな分子の化学的性質を変える手段の一つとして,硫酸基(-SO3)を転移する「硫酸化」を活用している(化学的に正確に記すと–SO3は硫酸基ではなくスルホン基であるが,ここでは一般的に使われる表現として硫酸基(-SO3)の転移反応を「硫酸化」と表記する).硫酸化反応を触媒する酵素が硫酸転移酵素(Sulfotransferase)である.多くの硫酸転移酵素が,PAPS(3′-phosphoadenosine 5′-phosphosulfate)を硫酸基ドナーとして,その硫酸基をアクセプター化合物へ転移し,硫酸化化合物とPAP(3′-phosphoadenosine 5′-phosphate)を産生する(図1図1■PAPS依存性硫酸転移酵素による硫酸転移反応(1)1) M. Suiko, K. Kurogi, T. Hashiguchi, Y. Sakakibara & M. C. Liu: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 63 (2017)..このPAPS依存性硫酸転移酵素は細菌,原生生物,植物,動物などに広く分布している.さらに細菌はPAPSを硫酸基ドナーして利用しないアリール硫酸硫酸転移酵素をもっていることも知られている(2)2) D. H. Kim, L. Konishi & K. Kobashi: Biochim. Biophys. Acta Protein Struct. Mol. Enzymol., 872, 33 (1986)..これまで硫酸転移酵素の研究は,哺乳類由来のPAPS依存性硫酸転移酵素に関するものが大半だった.一方で細菌の硫酸転移酵素に関する研究は,2000年代まで,根粒菌の植物への共生にかかわる因子の一つであるNodH(3)3) D. W. Ehrhardt, E. M. Atkinson, K. F. Faull, D. I. Freedberg, D. P. Sutherlin, R. Armstrong & S. R. Long: J. Bacteriol., 177, 6237 (1995).や結核菌のもつトレハロース硫酸転移酵素Stf0(4)4) J. D. Mougous, C. J. Petzold, R. H. Senaratne, D. H. Lee, D. L. Akey, F. L. Lin, S. E. Munchel, M. R. Pratt, L. W. Riley, J. A. Leary et al.: Nat. Struct. Mol. Biol., 11, 721 (2004).などに限られていた.しかし,この20年で数多くの硫酸転移酵素が報告されている(表1表1■本稿で紹介する細菌由来硫酸転移酵素).

図1■PAPS依存性硫酸転移酵素による硫酸転移反応

硫酸基部位を赤ハイライトで示している.化合物はKingDrawで構造式を作図した.

表1■本稿で紹介する細菌由来硫酸転移酵素
硫酸化の分類硫酸転移酵素同定された細菌硫酸化される化合物PAPS依存性文献
毒素の硫酸化修飾SxtNAphanizomenon sp. NH-5サキシトキシン88) A. L. Lukowski, N. Denomme, M. E. Hinze, S. Hall, L. L. Isom & A. R. H. Narayan: ACS Chem. Biol., 14, 941 (2019).
SxtSULMicroseira wolleiサキシトキシン88) A. L. Lukowski, N. Denomme, M. E. Hinze, S. Hall, L. L. Isom & A. R. H. Narayan: ACS Chem. Biol., 14, 941 (2019).
ステロイド代謝物の硫酸化修飾BtSULTBacteroides thetaiotaomicronステロイド代謝物1111) L. Yao, G. D. D’Agostino, J. Park, S. Hang, A. A. Adhikari, Y. Zhang, W. Li, J. Avila-Pacheco, S. Bae, C. B. Clish et al.: Nat. Microbiol., 7, 1404 (2022).
ペプチドの硫酸化修飾RaxSTXanthomonas oryzae pv. oryzaeペプチド1212) R. N. Pruitt, B. Schwessinger, A. Joe, N. Thomas, F. Liu, M. Albert, M. R. Robinson, L. J. Chan, D. D. Luu, H. Chen et al.: Sci. Adv., 1, e1500245 (2015).
SslSTStreptomyces cinnamoneus DSM 41675環状ペプチド1515) M. Wang, W. W. Li, Z. Cao, J. Sun, J. Xiong, S. Q. Tao, T. Lv, K. Gao, S. Luo & S. H. Dong: Acta Pharm. Sin. B, 14, 2773 (2024).
抗生物質の硫酸化修飾Cpz8Streptomyces sp. MK730–62F2カプラザマイシン×アリール硫酸硫酸転移酵素1717) X. Tang, K. Eitel, L. Kaysser, A. Kulik, S. Grond & B. Gust: Nat. Chem. Biol., 9, 610 (2013).
アリール硫酸硫酸転移酵素の硫酸基ドナーの合成Cpz4Streptomyces sp. MK730–62F2プレスルフィシジン1717) X. Tang, K. Eitel, L. Kaysser, A. Kulik, S. Grond & B. Gust: Nat. Chem. Biol., 9, 610 (2013).
硫酸活性化SgdX2Micromonospora sp. MD118サンゲイジン中間体2121) Z. J. Low, G. Ma, H. T. Tran, Y. Zou, J. Xiong, L. Pang, S. Nuryyeva, H. Ye, J. Hu, K. N. Houk et al.: J. Am. Chem. Soc., 142, 1673 (2020).
Vzb21Streptomyces sp. SANK 60404アジリジン環化合物前駆体2323) S. Kurosawa, F. Hasebe, H. Okamura, A. Yoshida, K. Matsuda, Y. Sone, T. Tomita, T. Shinada, H. Takikawa, T. Kuzuyama et al.: J. Am. Chem. Soc., 144, 16164 (2022).

シアノバクテリアが産生する毒素の硫酸化修飾

赤潮を引き起こすシアノバクテリアは,神経細胞に発現する電位依存性ナトリウム(NaV)チャネルを阻害する神経毒を産生する.この毒素は,マガキやホタテガイ,アサリなどの二枚貝がシアノバクテリアを摂食することにより貝体内に蓄積するため麻痺性貝毒と呼ばれる(5)5) R. F. Clark, S. R. Williams, S. P. Nordt & A. S. Manoguerra: Undersea Hyperb. Med., 26, 175 (1999)..麻痺性貝毒の代表的な成分であるサキシトキシンは,フグ毒で知られるテトロドトキシンと同等の毒性を示し,その誘導体・同族体は約30種存在している.その中でも硫酸化誘導体として,サキシトキシンに一つの硫酸基が修飾されたゴニオトキシンや,二カ所に硫酸基をもつC1/2-トキシンが知られている.C1/2-トキシンは天然から単離されたサキシトキシン誘導体混合物中に最も多く含まれる誘導体である(6, 7)6) M. V. Laycock, J. Kralovec & R. Richards: Nat. Toxins, 5, 36 (1997).7) J. J. Bustillos-Guzmán, C. J. Band-Schmidt, L. M. Durán-Riveroll, F. E. Hernández-Sandoval, D. J. López-Cortés, E. J. Núñez-Vázquez, A. Cembella & B. Krock: Food Addit. Contam. Part A Chem. Anal. Control Expo. Risk Assess., 32, 381 (2015)..この硫酸化経路は2019年に解明された(8)8) A. L. Lukowski, N. Denomme, M. E. Hinze, S. Hall, L. L. Isom & A. R. H. Narayan: ACS Chem. Biol., 14, 941 (2019)..まずPAPS依存性硫酸転移酵素SxtNが硫酸基をサキシトキシンの一カ所目に転移し,二カ所目の硫酸化は別のPAPS依存性硫酸転移酵素SxtSULが行っている(図2図2■サキシトキシンの硫酸化修飾).これらの硫酸化によって,毒性が低下(Naチャネル阻害活性が低下)することから,サキシトキシン産生菌がわざわざ毒性の低い硫酸化誘導体をつくる生理学的意義は不明である.

図2■サキシトキシンの硫酸化修飾

その硫酸化を担う硫酸化酵素を硫酸基修飾部位の横に記している.

サキシトキシンが標的とするNaVチャネルは痛覚に関与しており,急性疼痛や炎症性疼痛の治療標的と考えられている(9)9) G. Goodwin & S. B. McMahon: Nat. Rev. Neurosci., 22, 263 (2021)..そのため,サキシトキシンは疼痛治療において有望なリード化合物として期待されている(10)10) Q. Dong & F. H. Shum: European Patent. EP2298306A1, Available online: https://patents.google.com/patent/EP2298306A1/en?oq=tetrodotoxin (2011)..しかし,並外れた毒性をもつサキシトキシンの応用には大きな課題があり,毒性の低い硫酸化体やその硫酸化を触媒する酵素の研究は,より治療効果の高い分子を開発するための一つのアプローチである(8)8) A. L. Lukowski, N. Denomme, M. E. Hinze, S. Hall, L. L. Isom & A. R. H. Narayan: ACS Chem. Biol., 14, 941 (2019).

腸内細菌によるステロイド代謝物の硫酸化修飾

ヒトなどの腸内細菌は,消化管内で多くの生理活性分子を加水分解的または還元的に修飾することが知られている.この既知の修飾とは異なる硫酸化修飾を2023年に初めてBacteroides属のヒト腸内細菌が行っていることが報告された(11)11) L. Yao, G. D. D’Agostino, J. Park, S. Hang, A. A. Adhikari, Y. Zhang, W. Li, J. Avila-Pacheco, S. Bae, C. B. Clish et al.: Nat. Microbiol., 7, 1404 (2022)..遺伝学的および生化学的アプローチによって,PAPS依存性硫酸転移酵素BtSULTと硫酸基ドナーであるPAPSを合成する酵素群の両方をコードする広範な生合成遺伝子群が同定された.BtSULTは,コレステロールなどのステロイド代謝物を選択的に硫酸化する.硫酸化ステロイド代謝物は,in vitroおよびin vivoで白血球の遊走を阻害する.また,炎症性腸疾患患者ではBtSULTを含むクラスター遺伝子の存在量が有意に減少した.これらのデータから,BtSULTによるステロイド代謝物の硫酸化が宿主の免疫細胞を抑制し,宿主が過度に腸内細菌を攻撃しないようにしていることが示唆されている(11)11) L. Yao, G. D. D’Agostino, J. Park, S. Hang, A. A. Adhikari, Y. Zhang, W. Li, J. Avila-Pacheco, S. Bae, C. B. Clish et al.: Nat. Microbiol., 7, 1404 (2022).

細菌の産生するペプチドの硫酸化修飾

これまで述べてきたように硫酸化は細菌のさまざまな生物学的プロセスで重要な役割を果たし,低分子化合物(二次代謝物)の水溶性と化学的多様性を向上させる.一方で,チロシン硫酸化は真核生物ではよく知られた翻訳後修飾であるが,原核生物ではほとんど報告がなかった.2015年に,グラム陰性細菌Xanthomonas oryzae pv. OryzaeXoo)のPAPS依存性硫酸転移酵素RaxSTがRaxXペプチドのチロシン残基硫酸化を触媒することが明らかになり,初めて細菌由来のチロシン残基硫酸化酵素が同定された(12)12) R. N. Pruitt, B. Schwessinger, A. Joe, N. Thomas, F. Liu, M. Albert, M. R. Robinson, L. J. Chan, D. D. Luu, H. Chen et al.: Sci. Adv., 1, e1500245 (2015).Xoo株にとって,RaxXペプチドのチロシン残基硫酸化修飾の生理学的役割は不明である.

Xoo株はイネ最重要細菌病害として知られる「イネ白葉枯病」を引き起こす原因菌であり,イネは免疫受容体キナーゼXA21を介して,Xoo株に対して強固な抵抗性を有している(13)13) W. Y. Song, G. L. Wang, L. L. Chen, H. S. Kim, L. Y. Pi, T. Holsten, J. Gardner, B. Wang, W. X. Zhai, L. H. Zhu et al.: Science, 270, 18043 (1995)..RaxXペプチドのチロシン残基が変異して硫酸化修飾を持たないXoo株は,XA21を介した抵抗性を回避して病害を引き起こすことから,XA21を介した免疫活性化には,RaxSTが触媒するRaxXのチロシン残基硫酸化修飾が必須である(12)12) R. N. Pruitt, B. Schwessinger, A. Joe, N. Thomas, F. Liu, M. Albert, M. R. Robinson, L. J. Chan, D. D. Luu, H. Chen et al.: Sci. Adv., 1, e1500245 (2015)..硫酸化ペプチドのアミノ酸配列は,多くの植物病原性Xanthomonas種で高度に保存されており,XA21が付与するXanthomonas種への強固な免疫は,農学的に有用であるためXA21は多様なイネ品種に導入されている(14)14) B. Huang, J. Y. Xu, M. S. Hou, J. Ali & T. M. Mou: Euphytica, 187, 449 (2012).

細菌が産生するペプチドとしては,抗菌活性を示すバクテリオシンが良く知られている.バクテリオシンはさまざまな翻訳後修飾を受けることが報告されているが,最近までその硫酸化修飾は見つかっていなかった.2024年にStreptomyces cinnamoneus DSM 41675において,環状抗菌ペプチドの一種であるランチビオティック(lantibiotic)の硫酸化修飾が発見された(図2図2■サキシトキシンの硫酸化修飾(15)15) M. Wang, W. W. Li, Z. Cao, J. Sun, J. Xiong, S. Q. Tao, T. Lv, K. Gao, S. Luo & S. H. Dong: Acta Pharm. Sin. B, 14, 2773 (2024)..ゲノムマイニングより,環状化酵素LanMとPAPS依存性硫酸転移酵素SslSTの両方をコードする生合成遺伝子クラスターが同定された.SslSTは,LanMが形成する環状構造に依存して5番目のチロシン残基に対して硫酸化反応を触媒する.さらに抗菌活性における硫酸化修飾の重要性も確認されている(15)15) M. Wang, W. W. Li, Z. Cao, J. Sun, J. Xiong, S. Q. Tao, T. Lv, K. Gao, S. Luo & S. H. Dong: Acta Pharm. Sin. B, 14, 2773 (2024)..抗菌ペプチドの硫酸化研究は,疎水性の高いランチビオティックの改良など,新しいバクテリオシン開発に重要である.

抗生物質の硫酸化修飾

細菌の抗生物質生合成過程でも硫酸化修飾が起こる(16~18)16) C. Zhao, J. Qi, W. Tao, L. He, W. Xu, J. Chan & Z. Deng: PLoS One, 9, e114722 (2014).17) X. Tang, K. Eitel, L. Kaysser, A. Kulik, S. Grond & B. Gust: Nat. Chem. Biol., 9, 610 (2013).18) F. Wiker, M. Konnerth, I. Helmle, A. Kulik, L. Kaysser, H. Gross & B. Gust: ACS Chem. Biol., 14, 1972 (2019)..土壌放線菌Streptomyces sp. MK730-62F2やConexibacter woeseiは,非常にユニークな方法で抗生物質を硫酸化している(17, 18)17) X. Tang, K. Eitel, L. Kaysser, A. Kulik, S. Grond & B. Gust: Nat. Chem. Biol., 9, 610 (2013).18) F. Wiker, M. Konnerth, I. Helmle, A. Kulik, L. Kaysser, H. Gross & B. Gust: ACS Chem. Biol., 14, 1972 (2019)..これらの細菌はリポヌクレオシド系抗生物質群に属するカプラザマイシンとその同族体・誘導体を産生する.カプラザマイシン類は結核菌などのペプチドグリカン生合成に必須の酵素であるMraYトランスロカーゼを阻害して,抗菌活性を発揮する(19)19) M. Igarashi, N. Nakagawa, N. Doi, S. Hattori, H. Naganawa & M. Hamada: J. Antibiot. (Tokyo), 56, 580 (2003)..2013年にカプラザマイシン類のアミノリボシル部分のヒドロキシ基に硫酸基が修飾された硫酸化体が同定された.この硫酸化はカプラザマイシン類生合成遺伝子クラスター内にコードされている酵素Cpz4によって触媒される(17)17) X. Tang, K. Eitel, L. Kaysser, A. Kulik, S. Grond & B. Gust: Nat. Chem. Biol., 9, 610 (2013)..Cpz4はこれまで述べてきたPAPSを硫酸基ドナーとして用いる硫酸転移酵素とは異なり,アリール硫酸(芳香環に硫酸基が結合した化合物)を硫酸基ドナーとして利用する.このアリール硫酸硫酸転移酵素は1990年頃には大腸菌で同定されていたが(2)2) D. H. Kim, L. Konishi & K. Kobashi: Biochim. Biophys. Acta Protein Struct. Mol. Enzymol., 872, 33 (1986).,その活性測定には人工的な硫酸供与体である硫酸化p-ニトロフェノールが用いられており,天然の硫酸供与体が何であるのかは長らく同定されていなかった.

カプラザマイシン類の硫酸化経路の同定によって,Cpz4の天然の硫酸供与体であるスルフィシジン(硫酸化体)が同定された(17)15) M. Wang, W. W. Li, Z. Cao, J. Sun, J. Xiong, S. Q. Tao, T. Lv, K. Gao, S. Luo & S. H. Dong: Acta Pharm. Sin. B, 14, 2773 (2024)..このスルフィシジン(硫酸化体)は,PAPS依存性硫酸転移酵素であるCpz8がPAPSからプレスルフィシジン(未硫酸化体)に硫酸基を転移して作られる(17)15) M. Wang, W. W. Li, Z. Cao, J. Sun, J. Xiong, S. Q. Tao, T. Lv, K. Gao, S. Luo & S. H. Dong: Acta Pharm. Sin. B, 14, 2773 (2024)..このようにカプラザマイシン類の硫酸化は2段階の硫酸化反応(①Cpz8によるスルフィシジンの生成,②Cpz4によるカプラザマイシン類の硫酸化)による(図3図3■2段階硫酸化反応).

われわれは2段階硫酸化反応の構造基盤を明らかにするためにCpz4とCpz8のX線結晶構造解析を行っている.Cpz8の構造解析により,基質認識とそれに伴う構造変化の構造基盤を明らかにした.さらに,Cpz4の構造解析から触媒活性に必須のヒスチジン残基を同定し,スルフィシジン(硫酸化体)とのドッキングモデルを構築することにより,アリール硫酸硫酸転移酵素Cpz4の反応機構を解明した.この2段階硫酸化ではスルフィシジンが硫酸シャトルとして機能しており(図3図3■2段階硫酸化反応),PAPS依存性硫酸転移酵素とアリール硫酸硫酸転移酵素が協同して働く硫酸転移反応の概念を広げる発見であった(17)15) M. Wang, W. W. Li, Z. Cao, J. Sun, J. Xiong, S. Q. Tao, T. Lv, K. Gao, S. Luo & S. H. Dong: Acta Pharm. Sin. B, 14, 2773 (2024).

図3■2段階硫酸化反応

硫酸基修飾部位を赤ハイライトで示している.スルフィシジンはPAPSの硫酸基を転移されて生成され,スルフィシジンが硫酸基シャトルとしてアリール硫酸硫酸転移酵素のCpz4のPAPS非依存性の硫酸化反応の硫酸基ドナーとしてはたらく.図中のカプラザマイシン類は,hydroxyacylcaprazol E.

薬剤耐性をもつ結核菌は近年問題となっており,既存薬剤と異なった作用機作を持つカプラザマイシンとその誘導体は(20)20) Y. Ishizaki, C. Hayashi, K. Inoue, M. Igarashi, Y. Takahashi, V. Pujari, D. C. Crick, P. J. Brennan & A. Nomoto: J. Biol. Chem., 288, 30309 (2013).,薬物耐性菌の新しい選択肢となる可能性がある.そのためさまざまなカプラザマイシン誘導体が合成されている(19)19) M. Igarashi, N. Nakagawa, N. Doi, S. Hattori, H. Naganawa & M. Hamada: J. Antibiot. (Tokyo), 56, 580 (2003)..硫酸化によるカプラザマシンの構造多様化は,薬剤耐性菌対策や新規抗生物質開発の基盤となる可能性を秘めている.

二次代謝物生合成における硫酸活性化の役割

前項までは,化合物に対する細菌の硫酸化修飾について述べてきたが,一部の細菌は硫酸化修飾を,二次代謝物の生合成過程の途中で導入し,生合成反応を促進させている.細菌は複雑な構造をもつ二次代謝物を合成しており,その中にはヒトに有益な抗がん効果が期待できる化合物などが含まれる.そのいくつかの生合成には反応を促進する活性化硫酸転移酵素が関与していることが報告されてきている(21~23)21) Z. J. Low, G. Ma, H. T. Tran, Y. Zou, J. Xiong, L. Pang, S. Nuryyeva, H. Ye, J. Hu, K. N. Houk et al.: J. Am. Chem. Soc., 142, 1673 (2020).22) J. G. McCarthy, E. B. Eisman, S. Kulkarni, L. Gerwick, W. H. Gerwick, P. Wipf, D. H. Sherman & J. L. Smith: ACS Chem. Biol., 7, 1994 (2012).23) S. Kurosawa, F. Hasebe, H. Okamura, A. Yoshida, K. Matsuda, Y. Sone, T. Tomita, T. Shinada, H. Takikawa, T. Kuzuyama et al.: J. Am. Chem. Soc., 144, 16164 (2022)..土壌に生息する放線菌Micromonospora sp. MD118は,サンゲイジン(Sungeidine)と呼ばれる特徴的な一つの二重結合によって隔てられた2つの三重結合を含む複雑な構造を持った化合物をゲノム内にある生合成遺伝子クラスターにコードされている酵素群によって産生する(図4図4■活性化硫酸転移酵素による生合成反応の活性化(21)21) Z. J. Low, G. Ma, H. T. Tran, Y. Zou, J. Xiong, L. Pang, S. Nuryyeva, H. Ye, J. Hu, K. N. Houk et al.: J. Am. Chem. Soc., 142, 1673 (2020)..この酵素群の中に,活性化硫酸転移酵素SgdX2があり,生合成反応に重要な硫酸化を触媒する.SgdX2によってサンゲイジン前駆体に付加された硫酸基は自発的に脱離し,結果として見かけ上の脱水反応が起こり,サンゲイジン化合物が生成される(図4図4■活性化硫酸転移酵素による生合成反応の活性化(21)21) Z. J. Low, G. Ma, H. T. Tran, Y. Zou, J. Xiong, L. Pang, S. Nuryyeva, H. Ye, J. Hu, K. N. Houk et al.: J. Am. Chem. Soc., 142, 1673 (2020)..われわれはSgdX2の基質認識と触媒作用の構造基盤を明らかにするために,PAPとの複合体の結晶構造を分解能1.6 Åで決定した(24)24) T. Mori, T. Teramoto & Y. Kakuta: Biochem. Biophys. Res. Commun., 711, 149891 (2024)..その結果,嵩高く複雑な基質を収容するユニークな基質結合ポケットが明らかになり,サンゲイジン合成に特化した基質結合部位の形成が示唆された.さらに,基質ドッキングモデルを構築し,SgdX2とサンゲイジン化合物との分子間相互作用を予測することで,酵素の特異性と触媒機構に関する構造的知見を得ている(24)24) T. Mori, T. Teramoto & Y. Kakuta: Biochem. Biophys. Res. Commun., 711, 149891 (2024)..サンゲイジンに特徴的な構造は,DNAに対する高い反応性により細胞毒性を示すため抗腫瘍剤として研究されている(25)25) G. B. Jones & F. S. Fouad: Curr. Pharm. Des., 8, 2415 (2002)..このように活性化硫酸転移酵素によって付加される硫酸基は,化合物の活性化に利用されて最終生成物には残らない.このような活性化硫酸転移酵素は,蛾の一種であるツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)内のレチノール生合成過程や(26)26) S. Pakhomova, J. Buck & M. E. Newcomer: Protein Sci., 14, 176 (2005).,シアノバクテリア(Moorea producensPicosynechococcus sp. PCC 7002)がもつバイオ燃料として期待できる長鎖炭化水素の生合成過程でも報告されている(22)22) J. G. McCarthy, E. B. Eisman, S. Kulkarni, L. Gerwick, W. H. Gerwick, P. Wipf, D. H. Sherman & J. L. Smith: ACS Chem. Biol., 7, 1994 (2012)..このように生物が硫酸基付加による化合物の活性化を広く利用して二次代謝物を合成している可能性がある.

図4■活性化硫酸転移酵素による生合成反応の活性化

硫酸化による化合物活性化が関わる生合成反応経路の一部.

また,一部の細菌はアジリジン環を有する二次代謝物を産生する.アジリジン環は,窒素原子一つと炭素原子2つからなる三員環(△)構造であり,その反応性の高さからDNAをアルキル化することにより抗腫瘍活性を示す.2022年に放線菌Streptomyces sp. SANK 60404内でのアジリジン環形成に関する分子基盤が報告され(23)23) S. Kurosawa, F. Hasebe, H. Okamura, A. Yoshida, K. Matsuda, Y. Sone, T. Tomita, T. Shinada, H. Takikawa, T. Kuzuyama et al.: J. Am. Chem. Soc., 144, 16164 (2022).,既知酵素と類似性のないVzb10/11が硫酸基脱離を介してアジリジン環の形成を触媒することが明らかにされた.アジリジン環の形成のためには前駆体の硫酸化が必須であり,この硫酸化を触媒するのがVzb10/11と同じ生合成遺伝子クラスター内に存在する硫酸転移酵素Vzb21である(23)23) S. Kurosawa, F. Hasebe, H. Okamura, A. Yoshida, K. Matsuda, Y. Sone, T. Tomita, T. Shinada, H. Takikawa, T. Kuzuyama et al.: J. Am. Chem. Soc., 144, 16164 (2022)..上述の活性型硫酸転移酵素の硫酸化とは異なり,このVzb21の硫酸化は自発的硫酸離脱による反応ではないが,Vzb21が付加した硫酸基の脱離性を利用し,Vzb10/11がアジリジン環前駆体のアジリジン環形成を促進していると考えられる(図4図4■活性化硫酸転移酵素による生合成反応の活性化).

細菌のもつ硫酸転移酵素の構造多様性

PAPS依存性硫酸転移酵素は,PAPSの5′-Phosphosulfateを認識する5′-PSB motif(5′-Phosphosulfate binding motif)とPAPSの3′-Phosphateを認識する3′-PB motif(3′-Phosphate binding motif)をコアとした5つのβシートを数個のαヘリックスが囲んだα/β構造をとり(図5図5■細菌のもつ硫酸転移酵素の立体構造の多様性(27, 28)27) M. Negishi, L. G. Pedersen, E. Petrotchenko, S. Shevtsov, A. Gorokhov, Y. Kakuta & L. C. Pedersen: Arch. Biochem. Biophys., 390, 149 (2001).28) T. Teramoto, Y. Sakakibara, M. C. Liu, M. Suiko, M. Kimura & Y. Kakuta: Biochem. Biophys. Res. Commun., 379, 76 (2009).,これまで構造解析されてきた哺乳類の低分子化合物を硫酸化するPAPS依存性硫酸転移酵素とほぼ同一の構造を有している(図5図5■細菌のもつ硫酸転移酵素の立体構造の多様性).

一方で,筆者らの構造解析やAlphafold予測構造データベース(https://alphafold.ebi.ac.uk)の整備によって,細菌のもつPAPS依存性硫酸転移酵素の構造は,真核生物よりも構造多様性に富んでいることが明らかになりつつある.筆者らが結晶構造を決定しているSgdX2やCpz8は,一般的なPAPS依存性硫酸転移酵素(約300~400アミノ酸)よりもコンパクトな機能ドメイン(200アミノ酸程度)をもち,C末端のαヘリックスが基質認識部位を形成する特徴的な構造を持っている(24)24) T. Mori, T. Teramoto & Y. Kakuta: Biochem. Biophys. Res. Commun., 711, 149891 (2024)..他のSxtN(毒素の硫酸化修飾)(8)8) A. L. Lukowski, N. Denomme, M. E. Hinze, S. Hall, L. L. Isom & A. R. H. Narayan: ACS Chem. Biol., 14, 941 (2019).,BtSULT(ステロイド代謝物の硫酸化修飾)(11)11) L. Yao, G. D. D’Agostino, J. Park, S. Hang, A. A. Adhikari, Y. Zhang, W. Li, J. Avila-Pacheco, S. Bae, C. B. Clish et al.: Nat. Microbiol., 7, 1404 (2022).,SslST(抗菌ペプチドの硫酸化修飾)(15)15) M. Wang, W. W. Li, Z. Cao, J. Sun, J. Xiong, S. Q. Tao, T. Lv, K. Gao, S. Luo & S. H. Dong: Acta Pharm. Sin. B, 14, 2773 (2024).,Vzb21(二次代謝物の硫酸活性化)(23)23) S. Kurosawa, F. Hasebe, H. Okamura, A. Yoshida, K. Matsuda, Y. Sone, T. Tomita, T. Shinada, H. Takikawa, T. Kuzuyama et al.: J. Am. Chem. Soc., 144, 16164 (2022).などの他の硫酸転移酵素のAlphafold予測モデルでは,コア構造(5′-PSB,3′-PBモチーフと中核のα/β構造)は維持している一方で,硫酸化する基質が結合する領域が真核生物では見られない複雑なコンフォメーション・フォールドをとっており,硫酸化する基質に対してそれぞれの硫酸転移酵素が独自の分子進化を遂げた結果だと考えられる(図5図5■細菌のもつ硫酸転移酵素の立体構造の多様性).

図5■細菌のもつ硫酸転移酵素の立体構造の多様性

SULT1D1, Cpz4とCpz8は,われわれが決定した結晶構造のカトゥーンモデル(モデルの下にPDB idを表記).SxtN, BtSULT, SslST, Vzb21はAlphafold予測モデルのカトゥーンモデル(モデルの下にAlphaFold server (AF) idを表記).Cpz4以外のカトゥーンモデル内で,PAPS結合に関わる5′-PSBモチーフと3′-PBモチーフを赤いβシート-ループ-αヘリックスと青のβシート-αヘリックスでそれぞれ示す.基質結合部位を形成する一部領域を緑色で示す.Cpz4のカトゥーンモデルは,6枚刃プロペラを虹色でβ-サンドイッチドメインをグレイで示している.

PAPS非依存性のアリール硫酸硫酸転移酵素の立体構造は,PAPS依存性硫酸転移酵素とは根本的に異なった構造をしている.アリール硫酸硫酸転移酵素は,6枚刃のβ-プロペラドメインとβ-サンドイッチドメインから構成されており,活性中心はプロペラ中心に位置している(29)29) G. Malojcić, R. L. Owen, J. P. A. Grimshaw, M. S. Brozzo, H. Dreher-Teo & R. Glockshuber: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 19217 (2008)..また反応機構もPAPS依存性硫酸転移酵素とアリール硫酸硫酸転移酵素で大きく異なる.PAPS依存性硫酸転移酵素については,同時に2種の基質(PAPSとアクセプター基質)が結合して,2種の生成物(PAPと硫酸化化合物)ができる三重複合体機構である(30)30) T. Teramoto, Y. Sakakibara, M. C. Liu, M. Suiko, M. Kimura & Y. Kakuta: Biochem. Biophys. Res. Commun., 383, 83 (2009)..一方で,アリール硫酸硫酸転移酵素の反応機構はピンポン機構であり,アリール硫酸の硫酸基が酵素内のヒスチジン残基に一時的に転移され共有結合中間体を形成し,その後アクセプター基質が活性中心に結合して,ヒスチジン残基に共有結合した硫酸基がアクセプター基質に転移される(29)29) G. Malojcić, R. L. Owen, J. P. A. Grimshaw, M. S. Brozzo, H. Dreher-Teo & R. Glockshuber: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 19217 (2008)..ピンポン機構ではアリール硫酸とアクセプター基質が同時に結合することはない.このようにPAPS依存性硫酸転移酵素とアリール硫酸硫酸転移酵素では,全体構造も反応機構も全く異なっている.しかし活性中心の触媒残基の立体配置は非常によく似ていることをわれわれは見いだしており,これは収斂進化の一例だと考えられる(31)31) T. Teramoto, R. Adachi, Y. Sakakibara, M. C. Liu, M. Suiko, M. Kimura & Y. Kakuta: FEBS Lett., 583, 3091 (2009).

おわりに

細菌の硫酸転移酵素による硫酸化は,化合物に多様性を与えたり,生合成反応を活性化したりして,細菌の二次代謝や生命活動に重要な役割を担っている.本稿で紹介したように,細菌の硫酸転移酵素の解析は,ヒトの健康に役立つ低分子化合物の効率的な産生や細菌の生育制御などに役立つと期待される.細菌の新しい硫酸転移酵素の同定は,この20年で増え続けている.今後もバイオインフォマティクス,生化学解析の発展により,さらに新しい硫酸転移酵素が発見され,その構造多様性とさまざまな有用基質が明らかになっていくだろう.筆者らは構造解析を通して,さまざまな硫酸転移酵素の構造的知見を明らかにしていきたい.

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