Kagaku to Seibutsu 64(2): 97-101 (2026)
プロダクトイノベーション
ロコモティブシンドローム対策を目指したロコモアの開発研究
いつまでも歩き続けられる脚を目指して
Published: 2026-03-01
© 2026 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2026 公益社団法人日本農芸化学会
超高齢社会の日本では,要介護・要支援の原因の約3分の1を運動器疾患が占めることが報告されている(1)1) 厚生労働省:2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf, 2022..運動器疾患の予防は生活の質(Quality of Life; QOL)の維持および健康寿命の延伸に不可欠であり,その対策として適度な運動とバランスの取れた栄養摂取が推奨されている.2007年には日本整形外科学会より,運動器の障害のために立ったり歩いたりするための身体能力(移動機能)が低下した状態と定義されたロコモティブシンドローム(ロコモ)が提唱され(2)2) K. Nakamura: J. Orthop. Sci., 13, 1 (2008).,膝関節だけではなく,運動器全体の包括的な診断と予防が重要視されるようになった.
高齢化に伴い膝関節や下肢の違和感,歩行能力の低下を訴える高齢者が増加しており,その背景には加齢に伴う膝関節および筋組織の変化が関与している.運動器疾患を対象とする日本最大のコホート研究であるROADスタディでは,2005~2015年の10年間で,加齢により関節裂隙が徐々に減少する一方,同年代間の比較では2015年の方が膝関節裂隙の幅が大きいことが報告されており,生活習慣や栄養状態の改善が膝関節構造の保持に寄与している可能性が指摘されている(3)3) B. Kitamura, T. Iidaka, C. Horii, S. Muraki, H. Oka, H. Kawaguchi, K. Nakamura, T. Akune, Y. Otsuka, T. Izumo et al.: Osteoarthr. Cartil. Open, 6, 100454 (2024)..
骨格筋は人体総質量の約40%を占める最大の臓器の1つであり,運動器としての骨格の可動性の制御に加えて,全身の代謝恒常性維持に寄与する重要なエネルギー代謝器官でもある.一方で,骨格筋量の減少や筋力の低下は,運動不足,加齢,栄養不良などさまざまな要因で生じる(4)4) A. J. Cruz-Jentoft, G. Bahat, J. Bauer, Y. Boirie, O. Bruyère, T. Cederholm, C. Cooper, F. Landi, Y. Rolland, A. A. Sayer et al.; Writing Group for the European Working Group on Sarcopenia in Older People 2 (EWGSOP2), and the Extended Group for EWGSOP2: Age Ageing, 48, 16 (2019)..特に加齢による筋肉量と筋力の低下は,酸化ストレスの増加や慢性炎症による筋タンパク質分解系の亢進などによって引き起こされることが報告されている(5, 6)5) S.-J. Meng & L.-J. Yu: Int. J. Mol. Sci., 11, 1509 (2010).6) M. Chen, Y. Wang, S. Deng, Z. Lian & K. Yu: Front. Cell Dev. Biol., 10, 964130 (2022)..これらによる筋機能の低下は,持久力,歩行速度,バランス能力等の低下を引き起こし,転倒や骨折リスクの増加,生活の質の低下,さらには死亡リスクの上昇といった深刻な影響を及ぼす(7~9)7) M. Tsekoura, A. Kastrinis, M. Katsoulaki, E. Billis & J. Gliatis: Adv. Exp. Med. Biol., 987, 213 (2017).8) S. S. Y. Yeung, E. M. Reijnierse, V. K. Pham, M. C. Trappenburg, W. K. Lim, C. G. M. Meskers & A. B. Maier: J. Cachexia Sarcopenia Muscle, 10, 485 (2019).9) Y. Wang, D. Mu & Y. Wang: BMC Geriatr., 24, 420 (2024)..
一方で,加齢に伴う筋量および筋力の低下は,筋の「量」だけでなく,筋線維化や脂肪化といった「質」の変化にも影響を受けることが報告されている(10, 11)10) M. J. Delmonico, T. B. Harris, M. Visser, S. W. Park, M. B. Conroy, P. Velasquez-Mieyer, R. Boudreau, T. M. Manini, M. Nevitt, A. B. Newman et al.; Health, Aging, and Body: Am. J. Clin. Nutr., 90, 1579 (2009).11) D. W. Russ, K. Gregg-Cornell, M. J. Conaway & B. C. Clark: J. Cachexia Sarcopenia Muscle, 3, 95 (2012)..筋肉の質は筋収縮力や柔軟性,代謝応答などの機能的特性と関連しており,移動機能の維持における主要因のひとつと考えられている(12, 13)12) R. A. McGregor, D. Cameron-Smith & S. D. Poppitt: Longev. Healthspan, 3, 9 (2014).13) M. S. Fragala, A. M. Kenny & G. A. Kuchel: Sports Med., 45, 641 (2015)..このため,関節および骨格筋の構造変化を分子・細胞レベルで理解し,栄養素や食品成分の介入によってこれらを制御する研究が重要な課題となっている.
ケルセチンは代表的なポリフェノールの一種であり,抗酸化・抗炎症作用に加えて,代謝調節や細胞分化を通じて筋機能に影響を及ぼす多面的な生理活性を有する(14)14) J. G. Kim, A. R. Sharma, Y.-H. Lee, S. Chatterjee, Y. J. Choi, R. Rajvansh, C. Chakraborty & S.-S. Lee: Aging Dis., 16, 1414 (2024)..また,ケルセチンは筋萎縮を抑制する作用が報告されており,NF-κB経路の抑制や酸化ストレス応答の制御を介して筋タンパク質分解を抑制することが報告されている(15, 16)15) R. Mukai, R. Nakao, H. Yamamoto, T. Nikawa, E. Takeda & J. Terao: J. Nat. Prod., 73, 1708 (2010).16) Y. Kim, C.-S. Kim, Y. Joe, H. T. Chung, T. Y. Ha & R. Yu: J. Med. Food, 21, 551 (2018)..
われわれはヒト初代骨格筋細胞を用い,独自に開発したマイクロデバイスによって三次元骨格筋組織を構築し,電気刺激による筋収縮力および筋持久力を評価する系を確立した(17, 18)17) A. Nagai, M. Ida, T. Izumo, M. Nakai, H. Honda & K. Shimizu: J. Agric. Food Chem., 71, 8952 (2023).18) A. Nagai, Y. Kaneda, T. Izumo, Y. Nakao, H. Honda & K. Shimizu: FASEB J., 38, e70009 (2024)..この三次元骨格筋組織において,ケルセチンは遅筋線維への分化を促進し,筋持久力を増加させることを見いだした(18)18) A. Nagai, Y. Kaneda, T. Izumo, Y. Nakao, H. Honda & K. Shimizu: FASEB J., 38, e70009 (2024)..さらに骨格筋において筋衛星細胞とは異なり,脂肪や線維組織に分化可能な間葉系前駆細胞に着目し,ヒト初代骨格筋細胞から間葉系前駆細胞を単離する技術を確立した.本評価系においてケルセチンは,TGF-β経路を介した筋肉の線維化,およびCREB経路を介した筋肉の脂肪化を抑制することを見いだした(図1図1■ケルセチンの筋線維化抑制効果)(19)19) S. Ohmae, S. Akazawa, T. Takahashi, T. Izumo, T. Rogi & M. Nakai: Biochem. Biophys. Res. Commun., 615, 24 (2022)..加齢による筋力の低下は,筋肉の量だけでは説明できず,筋細胞外での線維組織や脂肪滴の増加など筋肉の質が寄与することが報告されていることから(10, 11)10) M. J. Delmonico, T. B. Harris, M. Visser, S. W. Park, M. B. Conroy, P. Velasquez-Mieyer, R. Boudreau, T. M. Manini, M. Nevitt, A. B. Newman et al.; Health, Aging, and Body: Am. J. Clin. Nutr., 90, 1579 (2009).11) D. W. Russ, K. Gregg-Cornell, M. J. Conaway & B. C. Clark: J. Cachexia Sarcopenia Muscle, 3, 95 (2012).,ケルセチンには加齢に伴う筋肉の質の低下改善に寄与する可能性が考えられた.
加齢に伴い,骨格筋ではコラーゲンを中心とした細胞外マトリックス(ECM)の蓄積が進み,筋組織の線維化が生じることが報告されている(20)20) M. A. A. Mahdy: Cell Tissue Res., 375, 575 (2019)..この加齢による筋線維化は筋組織の剛性を高め,結果として筋肉の柔軟性低下につながると考えられている(21)21) R. L. Gajdosik: Clin. Biomech. (Bristol), 16, 87 (2001)..実際にわれわれは,筋肉の線維化を評価する超音波エラストグラフィーを用いた中高齢者での検討において,膝完全屈曲時の大腿部筋スティフネスが加齢に伴い増加することを確認した(22)22) A. Maeda, M. Yamagishi, Y. Otsuka, T. Izumo, T. Rogi, H. Shibata, M. Fukuda, T. Arimitsu, Y. Yamada, N. Miyamoto et al.: Int. J. Environ. Res. Public Health, 18, 8947 (2021)..この結果は加齢に伴って筋肉が硬くなる,すなわち筋肉の柔軟性が低下することを意味している.筋肉の柔軟性は関節可動域や筋機能と関連があり,ストレッチなどの運動により一過的に改善することが知られているが,食品成分による有効性研究はこれまで報告されていない.
そこで,われわれは,筋線維化を抑制するケルセチンに着目した.一方で,ケルセチンは経口摂取後の吸収性が必ずしも高くなく,その結果としてバイオアベイラビリティが低いという課題が指摘されている.この吸収性の低さは,ケルセチンの生理活性を十分に発揮させる上での大きな制約となっていた.こうした背景から,水溶性に優れ,腸管での吸収過程において糖部が切断されることでケルセチンとして取り込まれ,生理機能を発揮するケルセチン配糖体を用いることとした.なお,ケルセチン配糖体は特定保健用食品である「伊右衛門 特茶」にも配合されており,応用面においても注目すべき素材である(23)23) 立石法史,中村淳一,野中裕司:化学と生物,56, 408 (2018)..中高齢者を対象に,低強度のレジスタンス運動とケルセチン配糖体の併用効果を検証するランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した.対象者は24週間にわたり週3回の低強度レジスタンス運動を行い,ケルセチン配糖体またはプラセボを摂取した.その結果,低強度レジスタンス運動とケルセチン配糖体摂取の組合せにより,大腿部筋スティフネスが有意に改善することを見いだした(図2図2■超音波エラストグラフィーとケルセチン配糖体の筋柔軟性改善効果)(24)24) Y. Otsuka, N. Miyamoto, A. Nagai, T. Izumo, M. Nakai, M. Fukuda, T. Arimitsu, Y. Yamada & T. Hashimoto: Front. Nutr., 9, 912217 (2022)..以上の結果から,ケルセチン配糖体は,筋肉の質の一部である筋肉の線維化を改善して,筋機能の維持に寄与している可能性が示された.
これまでの研究において筋機能に対してさまざまな効能を示すケルセチン配糖体に加えて,筋力増加作用を示すイミダゾールペプチドのアンセリン(17)17) A. Nagai, M. Ida, T. Izumo, M. Nakai, H. Honda & K. Shimizu: J. Agric. Food Chem., 71, 8952 (2023).,膝関節の健康に寄与するグルコサミン塩酸塩(25)25) K. Naito, T. Watari, A. Furuhata, S. Yomogida, K. Sakamoto, H. Kurosawa, K. Kaneko & I. Nagaoka: Life Sci., 86, 538 (2010).およびコンドロイチン硫酸(26)26) Y. Henrotin, M. Mathy, C. Sanchez & C. Lambert: Ther. Adv. Musculoskelet. Dis., 2, 335 (2010).の4つの成分を独自配合したロコモア™を開発した.
ロコモを評価する移動機能の中で最も重要な指標の一つとして歩行速度に着目して,ロコモア™の有効性を検討した.歩行速度は,要介護リスクや平均寿命と関連することが報告されており(27, 28)27) S. Studenski, S. Perera, K. Patel, C. Rosano, K. Faulkner, M. Inzitari, J. Brach, J. Chandler, P. Cawthon, E. B. Connor et al.: JAMA, 305, 50 (2011).28) S. Zhang, R. Otsuka, Y. Nishita, H. Shimokata & H. Arai: Geriatr. Gerontol. Int., 22, 251 (2022).,移動機能の簡便な評価指標として広く用いられている.また歩行速度の維持には,膝関節のみならず筋機能が重要であることから,運動器全体を評価する包括的な指標と考えられる.
ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験の結果,4成分の組合せの16週間摂取により,プラセボと比較して通常歩行速度が有意に増加した(図3図3■歩行速度増加効果)(29)29) N. Kanzaki, Y. Ono, H. Shibata & T. Moritani: Clin. Interv. Aging, 10, 1743 (2015)..また8週目では,4成分の摂取により膝伸展筋力の増加が見られ,膝関節機能を評価する日本版膝関節症機能評価尺度スコアの有意な改善が確認された(29)29) N. Kanzaki, Y. Ono, H. Shibata & T. Moritani: Clin. Interv. Aging, 10, 1743 (2015)..さらに単群オープン試験において,4成分の摂取は歩行速度や膝痛改善に加えて,歩容指標の一部である歩幅および足底角度の延長が確認された(30)30) N. Kanzaki, Y. Otsuka, T. Izumo, H. Shibata, H. Nagao, K. Ogawara, H. Yamada, S. Miyazaki & Y. Nakamura: Clin. Interv. Aging, 11, 835 (2016)..以上の結果より,4成分の組合せは膝関節の違和感軽減および下肢筋力の増加により,地面に対する脚の蹴り出しが強くなることで歩行の推進力が高まり,歩幅や歩行速度が増加すると考えられた.
本稿では,運動器の主要構成要素である関節と骨格筋に着目し,食品成分による多面的な機能改善の可能性について概説した.ロコモア™は,膝関節や筋肉に悩みを持つ多くの消費者から支持される商品となり,2013年の発売以降販売数を拡大し続けている(図4図4■ロコモア™).さらに2024年に,ケルセチン配糖体増量により「筋肉の柔軟性」を表示する機能性表示食品としてリニューアルした.今もなお高齢化が進む日本において,運動器の健康維持は社会的に極めて重要な課題である.運動器に対して多面的な機能を発揮するロコモア™は,関節および筋の両面から歩行機能を支える可能性が示されており,今後も多くの方々の健康の維持・増進に寄与することを期待したい.今後は,運動や生活習慣との相互作用を統合的に理解し,栄養学的アプローチの深化を通じて,ロコモティブシンドロームの予防および健康寿命の延伸に貢献していきたい.
Reference
1) 厚生労働省:2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf, 2022.
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