海外だより

米国ウィスコンシン大学でのポスドク生活体験記
コロナ禍でも濃密だった3年間の留学生活

Yuri Takeda-Kimura

木村 ゆり

山形大学農学部食料生命環境学科

Published: 2026-03-01

私は2020年8月からの3年間,米国ウィスコンシン大学マディソン校植物学専攻のHiroshi Maeda教授のもとで,ポスドクとして研究活動に従事しました.世界有数の科学大国である米国での研究生活は非常に充実しており,私生活においても国際色豊かな環境の中で多くの刺激を受けました.コロナ禍での渡米だったため,予期せぬトラブルや困難も多くありましたが,今ではかけがえのない貴重な経験であったと深く感じています.本稿では,留学に至るまでの経緯,そして留学中の経験や当時の率直な心境を綴りました.多くの留学に興味を抱く方々に,米国での留学生活の一端を感じていただければ幸いです.

留学のきっかけ,アメリカに行くまで

私が留学に興味を持ったきっかけは2つあります.1つ目が最も大きな動機ですが,かねてより海外生活への強い好奇心を抱いていたことです.大学・大学院を通じて留学生と関わる機会が多くあったからかもしれませんが,海外の国々の文化や風土を知りたいと強く思っていました.英語を流暢に話せるようになりたいという目標も,大きな原動力となりました.2つ目の動機は,全く異なる環境に身を置いて,自分が研究者として今後やっていけるのか試したかったからです.私は大学院の頃,京都大学 生存圏研究所にて,梅澤俊明先生,飛松裕基先生,鈴木史朗先生のご指導のもと,維管束植物の細胞壁を構成する主要成分で、水輸送機能や力学的強度の維持に不可欠な高分子「リグニン」を対象とした研究を行なっておりました.「代謝工学によるイネ科植物リグニンの構造改変とその利用特性評価」というテーマで研究を進める中で,イネ科植物が持つ特異なリグニン生合成に関する新たな発見(1)1) Y. Takeda, Y. Tobimatsu, S. D. Karlen, T. Koshiba, S. Suzuki, M. Yamamura, S. Murakami, M. Mukai, T. Hattori, K. Osakabe et al.: Plant J., 95, 796 (2018).に触れたことがきっかけで研究に熱中することができたこともあり,卒業後はリグニン生合成の多様性について,代謝酵素の進化的な側面から研究を進めていきたいという気持ちを持っていました.しかし,博士号を取得後,将来に対する不安から研究者としてのキャリアを続けるかどうか迷っていた時期でもありました.そんな中,「行き先が決まっていない今だからこそ,全く違う環境で自分の可能性を試してみよう」と,海外留学を第一に考えるに至りました.留学に際し夫と遠距離になることに迷いはありましたが,将来的な仕事と家庭の両立を考慮すると「今しかない」という思いと夫が後押ししてくれたことで,留学への道を決意しました.

留学を決意したものの,研究室選びは容易ではありませんでした.ポスドク期間には植物代謝や酵素の機能解析について深く学びたいと思っていたのですが,面識のない研究室へのアプローチは難航しました.そんな中,国内で開催された国際学会に参加した際,Maeda先生が研究員を募集していることを知りました.当初,Maeda先生は植物の一次代謝について研究されているイメージを抱いておりましたが,実際に数々の論文を読んでみると,一次代謝と特化代謝の繋がりや,その制御の多様性などの観点から数々の素晴らしい研究をされていることを知り,強く興味を持ちました.偶然にも,先生はちょうどイネ科リグニン生合成関連のグラントを獲得された直後で,関連分野に詳しい人材を探しておられるところでした.公募の研究内容はアミノ酸の代謝に関するものでしたが,履歴書や面接でイネ科リグニン研究への関心を伝えたところ,最終的にはイネ科リグニン生合成の進化に関するプロジェクトに従事させていただけることとなりました.面接の際,「募集側のみならず応募者側にも研究室を選ぶ権利がある」と話してくださったのが印象的でした.

選考プロセスは,当時の私には全く新しい経験ばかりでした.国外からの応募であったためにZoomによる面接となりましたが,研究室メンバー全員に向けて研究プレゼンテーションをする機会をいただきました.研究内容に関しては多数の質問をいただきましたが,当時経験が乏しかったため,なんとか回答したといった手応えに留まりました.その後,メンバーの研究プレゼンテーションを聞かせてもらう機会もあり,一人のポスドク選考にこれほどまで時間をかけてくださることに,大変驚いたのを覚えています.2019年末に採用が決定し,2020年4月の渡米に向けて準備を進めていましたが,新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響で,アメリカでは外出制限措置(ロックダウン)が出されたため,渡米はしばらく延期となりました.先行きが不透明で不安もありましたが,この予期せぬ延期期間を利用して進められていなかった日本学術振興会(JSPS)海外学振の申請書執筆に集中できたのは幸いでした.7月頃から徐々に外出規制が緩和されたことを受け,8月末に渡米することとなりました.当時の政権によるビザの無期限発行中止宣言の直前(1日前)に滑り込みでビザを取得できたことは,渡米を実現させた運命的な要素だったと考えています.当初予約していたアパートは渡米延期に伴いキャンセルせざるを得ませんでした.幸いにも,ルームメイトを探していた知人の部屋で,ウィスコンシン大学所有のアパート内にてルームシェアをさせてもらうことになりました.念願の留学生活は,2週間の自宅隔離期間(quarantine)からスタートしましたが,ルームメイトのおかげで渡米直後から整った環境で生活でき,精神的に大変助けられました.このように渡米に至るまでたくさんの紆余曲折がありましたが,その後生活を続けるうちにマディソンという街がとても好きになりました.

ウィスコンシンとマディソンの街並み

アメリカの都市というと治安の悪さを心配される方もいらっしゃると思いますが,ウィスコンシン州マディソンは,全米でも有数の治安の良さと街の美しさを誇る,非常に住みやすい街です.中西部に位置し,シカゴから約240 km(車で3時間)ほどの地方都市です.緯度は43°と札幌と同程度ですが,内性気候の影響で,冬は大変寒く−30°Cに達する日もあり,日照時間も短く(夕方3時には日没が始まります),厳しい環境です.一方,夏は大変過ごしやすく,夜9時頃まで明るいので,研究を終えてからも屋外で楽しむことができます.マディソンは,2つの象徴的な湖Lake MendotaとLake Mononaに囲まれており,湖ではカヤックやヨットなどのアクティビティ,周囲では整備されたサイクリング・ハイキングコースを楽しめます(図1図1■Madisonの風景).ウィスコンシン州は乳製品の生産量が全米トップクラスを誇る酪農が非常に盛んな地域であり,また,過去のドイツ系移民の多さに由来して,マイクロブルワリーが非常に多い「ビール王国」としても知られています.自然も豊かで,リスやウサギ,様々な野鳥や日本ではあまり見ない野花が咲いており,珍しい生物を探しながらサイクリングやランニングを楽しむのが日常の楽しみでした.少し足を伸ばしてマディソン郊外に出ると,また別の景色が味わえます.そこには広大な牧草地やトウモロコシ畑が広がり,乳牛や羊,馬などの家畜にも出会えます.また,約3万年前のウィスコンシン氷河期時代に形成された,日本では見られない独特の地形も随所に見られます.もう少し北部に足を伸ばせば,一面に広がるクランベリー畑など,北米ならではの風景を味わえます.

図1■Madisonの風景

夏~冬のLake MendotaおよびMadisonで出会える動物たち(写真は牛のみ).

マディソンの中心部には州議事堂(Capital)があり,その周辺がダウンタウンとして栄えています.ウィスコンシン大学マディソン校のキャンパス入り口はCapitalから1 kmほどの距離にありますが,キャンパスの敷地面積は3.8平方キロメートルと広大です.キャンパス内には畜産学部の牛の飼育施設もあり,学内特製の乳製品やアイスクリームを味わうことができます.また,キャンパスはLake Mendota沿いに広がっており,湖畔に面した夏のテラスでは,ビアガーデンを楽しむ人々で賑わっています(図2図2■Madisonの中心(ダウンタウン)のシンボルである州議事堂Capital(左)とWisconsin大学(冬のBotany departmentの建物と夏の学内テラス)(右)).

図2■Madisonの中心(ダウンタウン)のシンボルである州議事堂Capital(左)とWisconsin大学(冬のBotany departmentの建物と夏の学内テラス)(右)

Maeda Labでの研究環境

Maeda研究室は,私が所属する直前にメンバーが10名ほど増え,最も人数が多かった時期には,ポスドク7名,PhD学生3名,ラボマネージャー1名に加え,学部生が数名という大所帯でした.アメリカ以外の出身国が日本,韓国,中国,トルコ,スペイン,ブラジル,プエルトリコと,非常に国際色が豊かでした.研究面では,特にポスドクがそれぞれ全く異なる研究バックグラウンドを持っていたため,互いに多くのことを学び合える,恵まれた環境でした.ラボでは,基本的に研究プレゼンテーション式のゼミが週1回ペースで開催され,活発な質疑応答が行われるため,大変有意義な時間でした.時には気分転換として,学内のテラスでゼミや研究の打ち合わせをすることもありました.また,Maeda Labが属するPlant CMBコースやBotany departmentでは,毎週のようにランチタイムに学内セミナーが開催され,学内外の研究者による先端的な研究に触れる機会が日常的にあり,モチベーションの維持に非常に役立ちました.外部の先生が訪問されることも頻繁にあり,関連分野の先生が来られた際には,食事をしながら研究ディスカッションをする機会を頂きました.さらに,Maeda Labでは地域の子どもたちにサイエンスの面白さを伝えるアウトリーチ活動にも積極的に取り組んでおり,地元の小学校(Primary School)に出向いて模擬実験を行う機会もありました.子どもたちに科学を楽しんでもらうと同時に,自分たちの研究への関心を高めてもらうために,どのようなアクティビティを行うべきかラボ内で議論を重ねた経験も,貴重なものとなりました.

研究については,「イネ科系統のゲノム情報を基にイネ科リグニン生合成の進化を探る」というプロジェクトに,Maeda先生と私を含む3名のポスドク,計4人で取り組んでいました.プロジェクトの内容は次のセクションでご紹介しますが,この研究はメンバーそれぞれの専門性を最大限活かす形で進められました.チームメンバーの得意分野は,生物学や生化学(Jorge El-Azaz博士),バイオインフォマティクスや機械学習(Bethany Moore博士)と多岐にわたっていました.私は大学院でリグニン生合成について知識を身につけてきましたが,このプロジェクトでは新しい知識や実験手法を数多く吸収することができました.研究ミーティングは基本的に週1回程度,4人全員で行っていましたが,当初は私の英会話力が十分ではなく,コミュニケーションがうまく取れずに迷惑をかけてしまいました.それでも,私のテーマはメンバーの協力が不可欠であったため,メンバーが根気強く私と対話してくれたおかげで研究を進展させることができました.また,プロジェクトメンバーとのやりとりを重ねることで,英会話力も最低限のレベルまで身につき,研究室内外の大学メンバーとも少しずつ交流を深めることができました.さらに,このプロジェクトは研究室外の研究者とも連携する大規模なものでした.被子植物(特に単子葉植物系統)のゲノム解析で著名な先生や,タンパク質の立体構造解析グループ,さらには同ウィスコンシン大学のリグニン化学分野の権威であるJohn Ralph先生の研究室とも協力し,幅広い分野の最先端研究に触れるという貴重な機会を得ました.このように,人に恵まれ,多くのことを学べたことは大きな財産となりました.加えて,研究環境の面でも非常に恵まれていました.私たちの研究室があったBotany departmentの建物には植物園が直結しており,そこには非常に豊富な植物コレクションがありました.進化研究に必要なサンプルをすぐに取りに行ける環境は,まさに理想的で,大きな助けとなりました.

Maeda Labでは,2名の学部生を指導する機会をいただきました.アメリカの大学では,日本の大学で一般的な卒業研究のために自動的に研究室に配属されるといった仕組みとは異なり,研究経験を積みたい学生が自ら興味のある研究室に連絡を取り,面談を経て配属が決まる形式です.そのため,早い学生では1年生から研究室に所属するケースもありました.学部生の研究テーマは,私自身の研究テーマを基に考えました.テーマ選びに関しては,「あまり重要すぎるテーマだと学生を過度にプッシュしてしまうリスクがあるので避けた方がよい.しかし,指導には時間と労力がかかるため,もし面白い結果が得られれば高い重要性を持つようなテーマが望ましい」と,バランスを意識して考えるよう先生からご指導いただきました.経験の浅い私にとってテーマ選びは容易ではありませんでしたが,この過程を通じて,現在の研究者としての活動にもつながる大切な学びを得ることができたと感じています.

イネ科リグニン生合成の進化に関する研究

私が実際に携わっていた研究について,簡単にご紹介させていただきます.イネ科植物は,主要な穀物やバイオマス作物を含んでいることから農業経済的に最も重要な植物群です.イネ科植物は,地球上に広く分布していますが,それは進化的成功につながる数々のユニークな特徴を有するためと考えられます.その一つがリグニンの生合成と構造であり,①維管束植物に共通のフェニルアラニン由来の合成経路に加えてチロシン由来の経路からもリグニンを合成する,という生化学的特徴に加え,②被子植物に共通のH型,G型,S型リグニンに加え,p-クマロイル化リグニンが存在する,③フラボノイドの取り込みにより形成されるトリシンリグニンが見られる,という2つの構造学的特徴(図3図3■Maeda Labでの研究内容と風景)の,合わせて3つの特徴を有します.しかし,これらの特徴がイネ科植物の進化のどの段階で,どのような分子メカニズムによって獲得されたのかは不明でした.そこで,このプロジェクトでは,この進化の分子メカニズムを解明するために,イネ科植物の姉妹群に位置し,生活環境が大きく異なるジョインビレア(Joinvillea ascendens)という植物に着目しました(図3図3■Maeda Labでの研究内容と風景).本種はハワイの山奥にのみ自生しており,一見イネ科植物に類似していますが,イネ科植物特有の特徴をいくつも欠いています.さらに,イネ科植物が進化の過程で経験した全ゲノム重複(WGD)が起こる前に分岐した種(図3図3■Maeda Labでの研究内容と風景)であることから,イネ科植物の進化を研究する上で鍵となる植物であると考えられました.しかし,当時,ジョインビレアのゲノム解読は進んでいませんでした.そこで,Maeda先生がハワイから種子を取り寄せ,ウィスコンシン大学植物園で栽培をし,共同研究者の協力のもと新規にゲノム解読を行いました.私たちのグループでは,得られたゲノム情報に基づくバイオインフォマティクス解析に加え,生化学的・化学的解析を組み合わせた研究を進めました.その結果,イネ科植物のリグニン生合成ネットワークが,段階的な遺伝子の進化の結果獲得されたことが明らかとなりました.特に私の主な研究テーマであった①の特徴,チロシン由来のリグニン合成経路はジョインビレアとイネ科植物の共通祖先において既に獲得されていた形質であることが明らかとなりました(2)2) Y. Takeda-Kimura, B. Moore, S. Holden, S. K. Deb, M. Barrett, D. Lorence, M. V. V. de Oliveira, J. Grimwood, M. Williams, L. B. Boston et al.: bioRxiv. (2024)..この基礎研究の成果は,イネ科植物のバイオマス生産性の高さを支える分子基盤の理解に貢献し,将来的には植物バイオマス量の増強を目指した基盤知見を提供するものと期待されます.以上の研究を通じて,ゲノム情報と生化学的・化学的解析を組み合わせるアプローチが,複雑な代謝ネットワークや形質進化の歴史を解明するためにいかに有効であるかを学ぶことができました.

図3■Maeda Labでの研究内容と風景

研究概要(左),プロジェクトメンバーと一緒に実験している様子(右上),および研究で活躍した建物直結の植物園でのジョインビレア生育風景(右下).

研究室内でリグニンの生合成を研究していたのは私たちのチームのみで,Maeda Labでは主に,リグニン生合成経路の上流である芳香族アミノ酸(フェニルアラニン,チロシン)合成経路の研究が盛んに行われていました.研究室内の共同研究により,イネ科系統におけるチロシン由来リグニン合成経路の進化的出現に伴い,チロシン生合成の活性化が起こっていることが明らかとなりました(3)3) J. El-Azaz, B. Moore, Y. Takeda-Kimura, R. Yokoyama, M. Wijesingha Ahchige, X. Chen, M. Schneider & H. A. Maeda: Nat. Commun., 14, 7242 (2023)..また,芳香族アミノ酸経路における代謝調節機構(4)4) R. Yokoyama, M. V. V. de Oliveira, Y. Takeda-Kimura, H. Ishihara, S. Alseekh, S. Arrivault, V. Kukshal, J. M. Jez, M. Stitt, A. R. Fernie et al.: Sci. Adv., 8, 23 (2022).や,その植物種間多様性に関する研究にも関わらせていただく機会に恵まれました.これらの研究を通じて,前駆体の供給,すなわち代謝経路間のつながりを考えることが,代謝全体を理解する上で,また,有用物質生産の効率を考える上で,いかに重要であるかを学びました.

留学期間中の遊び

2020年に渡米した当初は,留学生活はZoomが中心で,大人数で集まるパーティーなどはできませんでした.そこで,オンラインで様々な交流を楽しみました.例えば,2020年末のクリスマスパーティーでは,各自が焼いたクッキーを持ち寄ってオンラインで一緒に食べる「バーチャルクッキーパーティー」を行いました.アメリカ人のクッキーデコレーションのレベルの高さには圧倒されました.また,2021年の年始には,Maeda先生宅で例年開催されていた寿司パーティーの代わりに,事前に配布された寿司キットを使って巻き寿司を作る「バーチャル寿司パーティー」を行いました.アメリカの方々が「日本人は皆寿司を作れる」と思っていることに驚いたのも,良い思い出です.コロナ禍での規制が続いていた間は大規模な集まりはありませんでしたが,住んでいた大学アパートの裏にある森の中のランニングコースで走ったり,敷地内の畑で家庭菜園を楽しんだりと,個人的な活動を楽しみました.日本にいた頃から家庭菜園に憧れていましたが,プランター栽培くらいしかする機会がなかったため,異国の地で現地の西洋野菜を育てるのは,とても楽しい経験となりました.

2021年以降,コロナ禍の規制が緩和されてからは,研究室のメンバーと様々な企画を立て,屋内外のアクティビティを積極的に楽しみました(図4図4■Maeda先生と研究室のメンバー).中でも一番の思い出は,夏の仕事終わりに学内のテラスや近隣のパブへ飲みに行ったことです.Maeda Labのメンバーはお酒好きが多く,頻繁に飲みに行っていました.先述の通りウィスコンシン州はドイツ系移民が多いことから,ドイツスタイルのビールが豊富で,その味を存分に堪能しました.休日には,サイクリングやピクニックに出かけたり,マラソン大会に参加したりと,アウトドアを満喫しました.また,ウィスコンシンならではの冬のアクティビティも体験しました.マイナス30°Cという寒さの中でアイスフィッシングに挑戦したり,天然のスケートリンクでスケートを楽しんだりと,多くの貴重な経験をすることができました.

図4■Maeda先生と研究室のメンバー

Maeda先生(左上)と,よく飲みに行った研究室の仲間たち(右上).休日には研究室メンバーでアウトドアアクティビティを楽しみました(下).

学会

3年間の留学期間中,2回のアメリカ国内で開催された国際学会に出席しました.

1回目は,2022年7月にボストンで開催されたLignin Gordon Research Conference(Lignin GRC)に参加し,ポスター発表をしました.この学会は,リグニンの生合成や代謝工学といった生化学・生物学的な研究から,リグニンの化学的変換・分解という工学的な研究まで,リグニンを対象とする幅広い学術分野の研究者が集う場です.私にとっては初めての海外での学会で,普段論文で名前を拝見するリグニン分野の著名な先生や研究者の方々にお会いできたのは,とても貴重な経験でした.大学院時代の指導教員である飛松裕基先生と再会できたのも新鮮でした.しかし,当時はまだコロナ禍の状況が不安定で,講演を楽しみにしていたkeynote speakerの先生方が来られなくなり,最終的に私自身も学会中に集団感染してしまったことは,苦い思い出となりました.

そして2回目の学会として,帰国直前の2023年7月にミシガンで開催されたPhytochemical Society of North America(PSNA)に参加しました.この学会は,北米の植物代謝の生合成研究者が集まる会で,私の興味に直結する植物の特化代謝領域における先端的な研究を広く学ぶことができ,非常に有意義な時間でした.この学会では,3年間の研究の集大成として口頭発表を申し込み,査読を経て採択していただき,初めて国外の国際学会で口頭発表をする機会を得ました.最終セッションでの発表でかなり緊張もしましたが,発表は成功し,関連分野の先生から面白かったと声をかけていただいたことは忘れられない思い出です.大学院時代の恩師である梅澤俊明先生とも再会し,大舞台での発表を聞いていただくことができました.植物代謝関連分野の先生方と知り合えたことも,大きな収穫となりました.帰国のわずか10日ほど前の学会だったため参加を迷いましたが,非常に良い経験となりました.

留学中に経験した珍経験・困ったことなど

日本から遠く離れた異国での生活は,コロナ禍で始まったこともあり,渡米後数カ月,トラブルの連続でした.公的手続きの面では,日本でいうマイナンバーにあたるSSN(社会保障番号)の取得に大苦戦しました.通常はただオフィスに行けば済む手続きでしたが,コロナ禍の影響で電話での予約が必須となっていました.英会話の中でも電話対応は特に難しく,自身の英語力不足を痛感し,先の見えない不安に苛まれました.オフィスに電話しても担当部署に繋がるまで1時間以上待たされ,ようやく繋がってもなぜか回線が非常に悪く,相手の声がぶちぶち切れてしまい,何度も聞き返しているうちに電話を切られてしまう,という状況でした.思うように進まず無力感が漂う中,諦めずに電話をかけ続けた結果,何とか予約が取れ,オフィスでの手続きを経て無事SSNを取得することができました.取得できた時は何とも言えない達成感に包まれたことを覚えています.その後も学内外での諸手続きには多少苦労しましたが,行政関連以外の担当者は皆,遥かに親切だったと記憶しています.

生活面でもコロナ禍にはかなり振り回されました.渡米自体が遅れたことから,当初4月から入居予定で予約していたアパートは,キャンセル料を支払って解約せざるを得なくなりました.渡米日程が決まったのち再度家探しをしていたところ,前述の通りちょうどルームメイトを探していた知人がいたため,一時的にルームシェアをさせてもらうことになりました.しかし,渡米後まもなくそのルームメイトが濃厚接触者になり,住居を失うことになりました.一時的なホテル暮らしを経て新居に引っ越しましたが,そこでもトラブルは続きました.引っ越したアパートはインターネットポートが故障しており,ネット難民になりました.アパートのあるエリアは電波状況が悪くスマホ回線も使用できなかったため,修理依頼の電話もなかなか通じず,復旧まで1~2週間を要しました.その後も,住所変更の手続きミスで郵便物が一切届かなくなるなど,次から次へと問題が起こり,うんざりする毎日でした.やはり異国での生活には,高い英語力に加えて,体力と精神力,そして状況を前向きに受け止める柔軟さや,時として忍耐力が重要だと,この一連の出来事を通じて痛感させられました.

コロナ禍の状況とは別に,日本の良さを痛感させられる文化の違いも多く経験しました.たとえば,在米中に重度の食物アレルギーを発症してしまった際,アレルギー専門医の予約に数カ月かかると言われ,医療体制の違いに愕然としました.また,研究関連のサンプルを郵便ポストに投函した直後に道路工事が始まり,郵便局員がそのポストからの回収を取りやめたことで,サンプルが行方不明になるという事態もありました.正確さや,きめ細かいサービスなど,日本では意識しないと気付かないであろう当たり前が通じないことを知る貴重な機会となりました.

そして,最も大変だったことのひとつとして,JSPSによる日本への帰国制限がありました.私は1年目はMaeda先生の下で雇用していただき,2~3年目はJSPSの奨学金を受けて滞在していました.しかし,初年度はコロナ禍で帰国が叶わず,渡米2年後にJSPSの奨学金が始まって初めて一時帰国することができました.単身での渡米に加え,コロナ禍での規制も重なり,家族に2年間会えなかった時期は正直とても辛いものでした.そのため,国の規制緩和に伴い一時国の目途が立った時には,できればある程度まとまった期間で帰国したいというのが本音でした.しかし,JSPSの規定では,一時帰国の期間は最大2週間で,学会参加など研究関連の予定を組み込む必要があり,研究予定のない日は日割りで減給されるという厳格な規制がありました.そのため,帰国は非常にタイトなスケジュールとなりました.さらに,時差や長時間フライトの疲れも重なり,帰国時には体調を崩してしまいました.このような制限が若干でも緩和されれば,留学に対するハードルが少し下がるのではないかと感じています.とはいえ,JSPSから資金提供をいただけたことには心から感謝しており,そのおかげで貴重な研究経験を得ることができました.

さいごに・・・留学してよかった

2023年8月1日に帰国し,9月1日から山形大学農学部に助教として着任しました.1ヶ月間と少し余裕を持たせたつもりでしたが,引っ越しなども重なり,慌ただしい時間を過ごしました.着任後は大学教員としての仕事になかなか慣れず,しばらくは心身ともに疲れ果てていたため,正直留学生活の余韻を楽しむ余裕もありませんでした.しかし,帰国してから2年経った今では,ウィスコンシンでの経験は日本にいては決して得られなかったものばかりで,人生の宝であったと改めて思いますし,3年間という比較的長期間の留学だったからこそ色々な経験ができたのではないかと思います.元々英語力が低かった私ですが,たくさんの壁にぶち当たり,喋らざるをえない状況に追い込まれることで,必要最低限の会話力を身につけて帰国できたことも,今のキャリアに繋がる良い経験になったと思います.

研究においては,世界との繋がりを持てたことや海外の研究事情について知れたこと,そして何より今の研究を進める上で重要となる面白いテーマに出会えたこと,帰国後も研究についてやりとりできる仲間を持てたことはかけがえのない経験です.また,研究以外でも,文化の違いも含めて海外の様々なことを知ることができた経験は,今後の人生においても貴重な財産になると思っています.この投稿が,海外に興味をお持ちの学生さんやポスドクの方々の背中を押すようなものになれたら嬉しく思います.

Acknowledgments

留学期間中は,周囲の方々のサポートがあったからこそ充実した生活を送ることができました.研究活動及びプライベートの両方で大変お世話になったMaeda先生とMaeda Labのメンバー全員に心から感謝しています.先端的かつ充実した研究生活と数えきれない程の楽しい思い出に恵まれ,本当に良い留学先に巡り会えたと感じています.学会でお会いした際にMaeda Labの公募情報を教えてくださった北海道大学の高須賀太一先生にもお礼申し上げます.また,そもそも留学という夢が叶えられたのは,大学院時代に梅澤俊明先生,飛松裕基先生,鈴木史朗先生に熱心にご指導いただいたおかげであり,この場を借りてお礼申し上げます.さらに,留学前から生活面でたくさんのアドバイスをくださったNuoendagulaさん,安藤大将さん,吉岡晃一さん,そして留学生活に彩りを添えてくれた友人たちにも支えていただきました.最後に,遠方から常に見守っていてくれた家族のおかげで,留学生活を乗り切ることができました.改めて心より感謝いたします.

Reference

1) Y. Takeda, Y. Tobimatsu, S. D. Karlen, T. Koshiba, S. Suzuki, M. Yamamura, S. Murakami, M. Mukai, T. Hattori, K. Osakabe et al.: Plant J., 95, 796 (2018).

2) Y. Takeda-Kimura, B. Moore, S. Holden, S. K. Deb, M. Barrett, D. Lorence, M. V. V. de Oliveira, J. Grimwood, M. Williams, L. B. Boston et al.: bioRxiv. (2024).

3) J. El-Azaz, B. Moore, Y. Takeda-Kimura, R. Yokoyama, M. Wijesingha Ahchige, X. Chen, M. Schneider & H. A. Maeda: Nat. Commun., 14, 7242 (2023).

4) R. Yokoyama, M. V. V. de Oliveira, Y. Takeda-Kimura, H. Ishihara, S. Alseekh, S. Arrivault, V. Kukshal, J. M. Jez, M. Stitt, A. R. Fernie et al.: Sci. Adv., 8, 23 (2022).