Kagaku to Seibutsu 64(2): 114-117 (2026)
農芸化学@High School
発光細菌を長期的に光らせる!
Published: 2026-03-01
私たちは,魚表面からPhotobacterium属の発光細菌を分離し,強い発光を長期間維持するための培地添加物を検討した.その結果,非発酵性炭素源グリセロールの添加や,発酵性炭素源グルコース+pH低下抑制剤の添加で発光が維持されることを見いだした.さらに,電子伝達系複合体I阻害剤の添加により,長期に渡って発光が促進され,電子伝達系と発光反応の競合関係が示唆された.
© 2026 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2026 公益社団法人日本農芸化学会
生物発光は,細胞内でルシフェラーゼと呼ばれる酵素が発光基質を酸化し,その反応エネルギーとして光を放つ現象である.発光反応は,ATPの検出,細胞機能のレポーター,バイオイメージングなど,生命科学分野で幅広く応用されている.近年,より一般的な利用方法として,生物発光を照明に使う試みが注目されている.たとえば,フランス・Glowee社は発光細菌をイベント照明に利用し,街の看板利用の実証実験も行っている(1)1) Glowee社(フランス)webサイト,https://glowee.com/.大阪・関西万博では,環境調和型の未来の明かりとして発光細菌を利用した「バイオライト」が展示された(2)2) 大阪・関西万博パナソニックグループパビリオン:「ノモの国」バイオライト,https://the-land-of-nomo.panasonic/pavilion/biolight/.また,生物発光は視覚的にわかりやすく,安全に扱えることから,理科教材としても魅力的である.そこで私たちは発光細菌を分離・培養し,生物発光を高専祭で展示しようと考え,発光細菌が長期間にわたって強く光る条件を見いだすことを目的に研究を行った.
発光反応のメカニズムは生物によって異なる.発光細菌は,還元型フラビンモノヌクレオチド(FMNH2)と脂肪鎖アルデヒドを電子供与体,酸素を電子受容体とするルシフェラーゼ(EC 1.14.14.3)による酸化還元反応によって発光する(図1図1■発光細菌のルシフェラーゼ反応)(3~5)3) F. H. Johnson, H. Eyring, R. Steblay, H. Chaplin, C. Huber & G. Gherardi: J. Gen. Physiol., 28, 463 (1945).4) K. H. Nealson & J. W. Hastings: Microbiol. Rev., 43, 496 (1979).5) W. A. Francisco, H. M. Abu-Soud, T. O. Baldwin & F. M. Raushel: J. Biol. Chem., 268, 24734 (1993)..発光基質であるFMNH2は,酸化型フラビンモノヌクレオチド(FMN)が還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)により還元されることで供給される.発光反応は,還元力としてNADHを必要とする点と,電子受容体に酸素を使う点で,電子伝達系と競合関係にある(4)4) K. H. Nealson & J. W. Hastings: Microbiol. Rev., 43, 496 (1979)..そこで本研究では,この機構をふまえ,発酵性・非発酵性炭素源ならびに電子伝達系阻害剤の添加が発光強度に及ぼす影響を検討した.
本研究は,私たちが独自に分離したPhotobacterium属菌SZKR6株を用いた.基本となる培地組成は,0.5% (w/v)ペプトン,3% (w/v)NaCl,0.02% (w/v)MgSO4・2H2O,0.2 mMリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.2)とした.このペプトン培地の組成は,炭素源の影響と,培地のpH変化を観察しやすくするために,前川・金澤(2017)(6)6) 前川 洋,金澤昭良:生物教育,59,30(2017).の培地組成から,ペプトン量を1/2に,リン酸バッファー量を1/10に減らしている.ペプトン培地には,実験に応じて,0.3% (w/v)炭素源(酢酸ナトリウム,グリセロール,グルコース),0.3% (w/v)炭酸カルシウム(pH低下抑制剤),1.0 µMロテノン(電子伝達系阻害剤),3.8 mMアジ化ナトリウム(電子伝達系阻害剤)を添加した.固形培地とする場合は,寒天を1.5% (w/v)加えた.培養は21°Cで行った.
発泡スチロール中の生魚(アジ,ハマチ,カツオ,マグロ,キンメダイなどの頭および内臓混合物)に,半分が浸かる程度の3% NaCl溶液を加え,一晩静置した.魚の表面の光る部分を確認し,滅菌つまようじでかきとり,グリセロール添加寒天平板培地で画線培養を行った.21°Cで3日間培養し,コロニーを形成させた.最終的に内臓混合物由来のコロニーから,目視で強い発光を示す菌株を分離し,これをSZKR6株として純粋培養後,16S rDNA配列による分子同定,および以降の実験に用いた.27F-1492Rプライマーを使って,菌体を鋳型として加えたコロニーPCRにより増幅した.PCR酵素は,KOD One(東洋紡)を用いた.PCRサンプルのアガロースゲル電気泳動を行い,約1.5 kbのバンドを確認・切り出した後,Gel/PCR Extraction Kit(FastGene)で精製した.27Fと1492Rの両側からの16S rDNAのシーケンス解析はユーロフィンジェノミクス社に依頼した.配列データをNCBI Nucleotide BLASTで検索し,相同性が高い種を決定した.
グリセロール添加寒天平板培地にSZKR6株を植菌し,21°Cで一晩培養した.菌体を1ループかきとって液体培地1 mLに懸濁し,菌液を作製した.この菌液10 µLを液体培地5 mLに加え,本培養液とした.本培養液には,適宜実験に合わせて炭素源,炭酸カルシウム,電子伝達系阻害剤を添加した.21°Cで振とう培養し,6日間に渡って培養液の濁度,発光強度,pH変化を測定した.各実験は2~5回試行した.
濁度(OD600)と発光強度の測定には,プレートリーダーSpark(TECAN)を用いた.pH変化は,pH試験紙を用いて測定した.
私たちは【方法】の2.に記載した手順で,市販の魚から強く光る発光細菌SZKR6株を分離した.16S rDNA配列のBLAST検索の結果,SZKR6株はPhotobacterium kishitaniiまたはP. phosphoreumであると推定された.
ペプトン培地にグリセロールを加えた寒天培地では,コロニーの発光がペプトン培地よりも高かった.一方,最も一般的な炭素源であるグルコースを添加した培地のコロニーは,ペプトン培地よりも発光が弱かった.ペプトン培地中の炭素源は主にアミノ酸・ペプチドである.グリセロールおよびアミノ酸が非発酵性炭素源であり,グルコースが解糖系を駆動する発酵性炭素源であることが原因ではないかと考えた.
そこで私たちは,液体培地を用いて,非発酵性の炭素源である酢酸ナトリウムおよびグリセロールと,発酵性の炭素源であるグルコースの添加が,本菌株の生育と発光におよぼす影響を評価した.グリセロールを添加すると,発光が長く強く維持され(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)左上),濁度上昇で測定される増殖もペプトン培地の2倍以上であった(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)右上).酢酸ナトリウム添加培地では,発光強度に大きな影響がみられなかったことから,本菌株は酢酸よりもアミノ酸等を優先的に使用すると考えられた(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)上).一方,グルコース添加直後は発光強度が大幅に上昇したものの,2~3日でほとんど光らなくなった(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)左上).この発光強度の減衰は,グルコースを添加しなかった場合よりも早く,増殖も炭素源を添加しなかった場合と大きく変わらなかった(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)上).この結果から,グルコース添加後,時間が経つと細胞の増殖・発光活性の両方が抑制されることが示唆された.したがって,解糖系の駆動が1~2日程度で悪影響を及ぼすと考えられた.
細胞のエネルギー供給に解糖系が優先して使用される場合,有機酸の生成を伴うことが多い.一般的に細菌は酸に弱く,環境中のpHが低下すると増殖が著しく抑制される.そこで私たちは,グルコース添加培地における本菌株の発光強度減衰と増殖抑制は,有機酸によるpH低下が原因ではないかと考えた.グルコース添加時の培養液のpH変化を測定したところ,培養開始時にpH 6.5程度だったのが,3~4日後にはpH 4.7程度まで低下していた.このpH低下を抑制するため,グルコースと同時に炭酸カルシウムを添加して,pHと発光強度の変化を比較した.その結果,培養開始時にpH 6.6程度だったのが,3~4日後にはpH 5.7程度と,pH低下が抑制された.炭酸カルシウムの沈殿のため濁度による細胞増殖の評価はできなかったが,発光強度は維持された(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)右下).ペプトン培地とグリセロール添加培地では,炭酸カルシウムによる発光強度の顕著な変化はなかった(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)左下)ことから,グルコース添加時の発光活性の低下は酸生成によるpH低下によるものと考えられる.これは,Photobacterium属菌はpH 6.5で最もよく光り,pH低下が発光活性を低下させるという報告と一致している(3)3) F. H. Johnson, H. Eyring, R. Steblay, H. Chaplin, C. Huber & G. Gherardi: J. Gen. Physiol., 28, 463 (1945)..
炭酸カルシウムの添加時には,3日程度の発光強度の減衰抑制に加えて,4日後以降に発光強度の急激な上昇が観察された(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)右下).同時に,3~4日後にpH 5.7まで低下していたpHが,5~6日後にはpH 6.0~6.5程度に上昇した.3~4日を境に,グルコースを利用した解糖系から,発酵産物である有機酸を利用したTCAサイクルおよび電子伝達系へと,主とするエネルギー代謝のシフトが起こっている可能性が示唆される.
発光基質であるFMNH2は,NADHによってFMNが還元されることで供給される(図1図1■発光細菌のルシフェラーゼ反応).NADHは解糖系やTCAサイクルにより生成され,発酵や電子伝達系で酸化されてNAD+へと再生される.私たちは,FMNH2の供給に必要な電子供与体NADHが,電子伝達系と発光反応の間で競合している可能性があると考えた.発光反応と電子伝達系は,いずれも酸素を最終電子受容体とする点でも競合している.実際,培養の最初期では,電子伝達系を駆動するグリセロール添加時よりもグルコース添加時の方が強く発光した(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)).
海洋ビブリオ属菌(Vibrio harveyi)による生物発光は,末端酸化酵素(真核生物ミトコンドリアの複合体IVに相当するが,バクテリアでは多様性が高く,複数種類をあわせ持つ場合が多い)の阻害剤であるシアン化合物存在下で顕著に強まるという報告がある(7)7) D. W. Grogan: Arch. Microbiol., 137, 159 (1984)..そこで,シアンと同じ末端酸化酵素を阻害するアジ化ナトリウムの添加を行ったところ,SZKR6株の増殖が停止し,発光も観察されなかった.一般的に,グリセロールやアミノ酸を主な栄養源とする場合,TCAサイクルと電子伝達系を介した好気呼吸が主要なエネルギー獲得経路となる.本菌株・培養条件においても生育と発光強度維持に電子伝達系の活動がある程度必要であると考えられる.シアン化合物による発光強度上昇の報告も短時間のものであり(7)7) D. W. Grogan: Arch. Microbiol., 137, 159 (1984).,本研究で対象とした時間スケールには適さないと考えられる.
一方,NADHを酸化する複合体Iの阻害剤であるロテノンを添加したところ,グリセロール添加培地およびグルコース+炭酸カルシウム添加培地のいずれにおいても,1.3~2倍以上という目視で分かるほどの発光強度の上昇が継続的に認められた(図3図3■電子伝達系複合体I阻害による発光強度の変化).ロテノン存在下で生育を維持しながら発光強度が上昇したことは(図2図2■各炭素源添加時の発光強度と濁度の経時変化(上)および炭酸カルシウム添加による発光強度への影響(下)右上,図3図3■電子伝達系複合体I阻害による発光強度の変化),ロテノンにより電子伝達系全体が強く阻害されていないことを示唆している.
大腸菌の呼吸鎖では,ロテノン感受性の複合体I(NDH-1型NADH脱水素酵素)は限定的にしか機能せず,主にロテノン非感受性のNDH-2型NADH脱水素酵素が利用されていることが知られている(8)8) M. W. Calhoun, K. L. Oden, R. B. Gennis, M. J. de Mattos & O. M. Neijssel: J. Bacteriol., 175, 3020 (1993)..Photobacterium属菌も大腸菌と同じくγ-プロテオバクテリア綱に属することから,本菌株もロテノン非感受性のNDH-2を有する可能性が高い.加えて,同じビブリオ科のVibrio属菌に見られるNa+輸送型NADH:キノン酸化還元酵素(Na+-NQR)も有していると考えられる.
以上の結果と考察から,ロテノンによる電子伝達系の部分的阻害が,細胞膜での電子伝達から細胞質でのFMNH2供給へと,NADHの利用をマイルドにシフトさせた可能性が示唆される.グルコースを炭素源とする場合でもロテノンは発光強度を上昇させたことから(図3図3■電子伝達系複合体I阻害による発光強度の変化右),複合体Iとの競合は発光反応に特に大きい影響を持つ可能性がある.今後は,ロテノン存在下でのNADH/NAD+比を測定し,この仮説の検証を進めたい.
本研究では,発光細菌の発光の明るさと持続性向上に寄与する条件を調べ,培地設計と代謝調節によって発光性能の向上が可能であることを示した.大阪・関西万博で展示されたような発光細菌を用いた環境配慮型照明は,今後ますます重要性を増すと考えられ,本研究はその実用化に向けた一歩といえる.特にロテノンによる発光強度の増加はこれまでに報告がなく,発光細菌の目立った生育抑制を伴わない点で非常に有用である.今後,ロテノン濃度に応じた発光強度およびNADH/NAD+比の定量的評価を行うことで,発光反応と複合体Iの関連を解明したい.他の電子伝達系酵素と発光反応の関係性の包括的理解,特にロテノン非感受性のNDH-2やNa+-NQRの発光への影響評価も課題となるだろう.
なお,本研究で行った実験は,発光細菌の培養過程での発光強度に,繰り返し試行間のばらつきが観察され,特に培養初期で顕著だった.この原因として,寒天培地から液体培地への直接接種による初期条件と,試験管培養によるエアレーションの不均一性が考えられる.前培養からフラスコを使った液体培養を行うことで,より再現性の高い経過観察を行いたい.
Acknowledgments
本研究を開始する契機となった魚をいつも無償で提供してくださる,ひまわりチェーン南玉垣店に深く感謝申し上げます.さらに,本研究の発表の機会とご支援を賜りました日本農芸化学会に心より御礼申し上げます.
Reference
1) Glowee社(フランス)webサイト,https://glowee.com/
2) 大阪・関西万博パナソニックグループパビリオン:「ノモの国」バイオライト,https://the-land-of-nomo.panasonic/pavilion/biolight/
4) K. H. Nealson & J. W. Hastings: Microbiol. Rev., 43, 496 (1979).
6) 前川 洋,金澤昭良:生物教育,59,30(2017).