農芸化学@High School

焼酎粕と乳酸を原料とした新しい水溶性・生分解性プラスチックの開発

新田 拓海

鹿児島県立曽於高等学校科学部

馬塲 夏望

鹿児島県立曽於高等学校科学部

中迫

鹿児島県立曽於高等学校科学部

Published: 2026-03-01

廃棄される焼酎粕に乳酸を加え,加熱脱水縮合させて新しいプラスチックを作製した.作製したプラスチックは,適度に焼酎粕を加えると乳酸のみのプラスチックより強度が高いという性質を示した.またポリ乳酸には水溶性がないが,焼酎粕–乳酸プラスチックは常温の水に対し水溶性を示し,溶けた水でミジンコが成育したことから,水に溶けて栄養分を放出するという特異なプラスチックの開発に成功したと考えられる.

本研究の目的・方法および結果

【動機および目的】

現在,全世界で生じるプラスチックのごみは,年間3億トンを超えると言われており,それによる海洋汚染も問題となっている.プラスチックごみは北極や南極でも発見されており,さらにプラスチックごみがマイクロ化し,回収を困難にさせている.プラスチックごみの影響で海洋生物が死に至り,海洋生物を通じて取り込まれたプラスチックの人体への影響も懸念されている(1)1) 西村祐二郎:“高等学校 科学と人間生活”,第一学習社,2022.

また,鹿児島県では焼酎が名産品だが,地元の一つの企業だけでも,焼酎粕が産業廃棄物として約8000トンも生じる.以前は海洋投棄されていたが,2007年に海洋投棄が全面禁止され,処理にかかる費用は約4400万円にものぼる(2)2) 岩川醸造株式会社への電話取材,2023..そこでわれわれは,プラスチックごみと焼酎粕の両方の問題を一気に解決するために,焼酎粕を用いることで生分解性プラスチックを作ろうと考え,研究を開始した.

【実験方法(3)

  • 1) アルミカップに入れた乳酸15 mLに焼酎粕の上澄みを任意の量(0, 1.5, 3, 4.5, 6, 7.5, 9, 10.5, 12, 13.5, 15 mL)加えた.
  • 2) ホットプレートで230°Cで2時間加熱し,脱水縮合させ,ポリマー化を行った.
  • 3) できあがった焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックのさまざまな性質を調べた.

【実験・結果・考察】

1. 生分解性プラスチック原料の検討

カゼイン,ポリビニルアルコール,乳酸に焼酎粕を加え,それぞれプラスチックを作製し,最も適した素材を検討した.カゼインプラスチックには3日でカビのようなものが生えた.ポリビニルアルコールプラスチックは成形時に大量に焼酎粕のロスがあった.ポリ乳酸プラスチックは焼酎粕を用いても黒色への変化以外に顕著な変化はなかったため,ポリ乳酸プラスチックを用いて研究を行うことにした.

2. 焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックの強度測定

焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックを自作の強度測定器を用いて強度を測定した.乳酸に含まれる焼酎粕が多ければ多いほど強度は弱くなるという仮説を立てて実験を行った.

結果として,乳酸に焼酎粕を加えると徐々に強度があがり,加えた焼酎粕の量が7.5 mLのときに強度が最大になり,その後低下するという結果になった(図1図1■焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックの強度).よって,ポリ乳酸の濃度は15 mLの乳酸に対し7.5 mLが最適であると考察した.

図1■焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックの強度

3. 焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックの軟化点測定

2.の実験結果により,乳酸の重合に焼酎粕が何らかの影響を与えているのではと仮説を立て,軟化点を測定した.

軟化点はポリ乳酸とほぼ同じであり(図2図2■焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックの軟化点),この結果からは焼酎粕が重合しているとするならば,ポリ乳酸の重合より軟化点が低い結合であるということが考えられた.

図2■焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックの軟化点

4. 焼酎粕によるポリ乳酸の硬化条件

焼酎粕を加えるとなぜポリ乳酸が硬化するのかを疑問に思い,焼酎粕中に含まれるグルコースまたはタンパク質が熱により脱水縮合を起こし,結合を強化するのではないかと仮説をたてた.乳酸に,焼酎粕に含まれる炭水化物と同じ2.9 g/100 gのグルコース水溶液をさまざまな量加え,またタンパク質の代わりとしてグリシン0.7 g/100 g水溶液をさまざまな量加え,加熱したのちにその強度を調べた(4)4) 瀬戸口眞治,渡 悦美,亀澤浩幸,下野かおり,間世田春作:鹿児島大学水産学部紀要,特別号,51 (2007).

結果としてグルコース,グリシンともに加える量が多いほど結合力が上昇した(図3図3■加えたグリシンとグルコースと強度との関係).仮説どおり,グルコースやグリシンが縮合重合し,乳酸の強度を上げているのではないかと考察した.

図3■加えたグリシンとグルコースと強度との関係

5. 水溶性プラスチックの可能性

梅雨の時期に実験を行っていた際に,作製後1カ月が経過した焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックが大気中の水分により溶解したことに気がついた.これにより,ポリ乳酸は耐水性がある(3)3) 田中和彦,村上 泰:化学と教育,49, 510 (2001).が,焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックは水溶性である,との仮説を立てた.

ポリ乳酸プラスチックは生分解性があると言われているが,それは高温で土中にある場合であり,水中で生分解性を示すことの報告は見つからなかった.しかし,この焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックは水中で溶けて栄養分を放出するのではないかと考え,焼酎粕,純水,または純水に乳酸15 mLに焼酎粕を0 mL, 7.5 mL, 15 mL加えて作製したプラスチックを水中に入れ,ミジンコ(Daphnia pulex)をそれぞれ10匹ずつ入れ,放置した.

結果として,焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックのみ,ミジンコの増加が確認された.さらに焼酎粕7.5 mLよりも15 mL加えたポリ乳酸のほうが目に見えてミジンコが増殖した.この結果から,焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックはゆっくりと6カ月かけて水により分解され,焼酎粕由来の栄養成分を水中で放出する特性があることが示唆された.このような特性をもつポリ乳酸プラスチックは,本研究の調査範囲においては新規の可能性がある.

今後の展望

焼酎粕と乳酸を混合することで,新しいプラスチックの開発に成功した.このプラスチックは黒色を呈し,ポリ乳酸のみよりも高い強度を有し,水溶性があり,水中で栄養を放出する性質をもつことが確認された.この結果として,本プラスチックは漁具や,海洋建設現場で使用される既存のプラスチック製資材の代替材料として活用できる可能性がある.また,水田において,食害をもたらすスクミリンゴガイ(Pomacea canaliculata)(通称ジャンボタニシ)の卵に塗布するだけで,日光による高温やプラスチックの粘着性によって孵化を阻止でき,残ったプラスチックは1カ月ほどで雨により分解され,水田のミジンコの養分となる,という使い方も考えられる.本素材は環境に優しく,多様な分野で有効活用できる革新的なプラスチックといえる.

今後の展望としては,乳酸を焼酎粕から製造することでコストダウンを実現し,焼酎粕–ポリ乳酸プラスチックを,水溶性の特性を活かして海洋などで利用することが期待される.そのほか,陸上では雨などによる分解性を利用して除草用シートなど農業分野で活用することで,完全なSDGsサイクルの達成に貢献できる可能性もある.

Reference

1) 西村祐二郎:“高等学校 科学と人間生活”,第一学習社,2022.

2) 岩川醸造株式会社への電話取材,2023.

3) 田中和彦,村上 泰:化学と教育,49, 510 (2001).

4) 瀬戸口眞治,渡 悦美,亀澤浩幸,下野かおり,間世田春作:鹿児島大学水産学部紀要,特別号,51 (2007).