Kagaku to Seibutsu 64(4): 244-247 (2026)
プロダクトイノベーション
カネカ生分解性バイオポリマーGreen Planet®生産微生物の開発と事業化
微生物発酵による実用ポリマー生産技術
Published: 2026-07-01
© 2026 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2026 公益社団法人日本農芸化学会
20世紀初頭に合成プラスチックとして初めてフェノール樹脂が工業化されてから,100年余りが経過した.この間,石油化学工業の発達とともに高分子化学は著しく進歩し,さまざまなポリマー材料の実用化が進められてきた.特に,ポリスチレン(PS),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリエチレンテレフタレート(PET)などの汎用プラスチックは安価で加工しやすく,軽量かつ高耐久といった優れた特性から,現代生活において幅広く使用され,身近で必要不可欠なものとなっている.
一方で,プラスチックの大量生産,大量消費による弊害についての認識も一般化が進んできたように思う.プラスチックごみによる海洋汚染問題は,海岸を埋め尽くす大量の漂着ごみの映像や,ウミガメの鼻に刺さったストローを引き抜く動画が繰り返し報道されるなど,日本でもマスメディアに大きく取り上げられた.レジ袋の有料化や,飲食店でプラスチックストローの提供がないことも違和感がなくなってきたのではないだろうか.紫外線や風波などで微細化したマイクロプラスチック(5 mm以下のプラスチック片)を含め,さまざまな形のプラスチックを生物が誤食・誤飲することで起こる摂食障害や,海中に流失・放棄された漁網やロープなどの漁具が長期間にわたって海洋生物を捕獲し続けるゴーストフィッシングなど,生態系への悪影響が懸念され,対策が検討されている.また,現時点で使用されているプラスチックの大部分が,石油や天然ガスなどの化石資源を主原料として製造されているが,IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書(2021年)では「向こう数十年の間に二酸化炭素およびその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り,21世紀中に,地球温暖化は1.5°Cおよび2°Cを超える」という警告が記載され,日本を含む120以上の国・地域が2050年までのカーボンニュートラル実現を掲げている.近年では,テレビCMで脱炭素への取り組みをアピールする企業も増えている印象であり,持続可能な循環型社会の構築を模索するうえで,プラスチックという素材はその在り方を問われている.
しかしながら,冒頭に述べたようにプラスチックなくして現在の生活は成り立たない.2019年に開催された「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」における故安倍元総理のスピーチにもあったが,プラスチックは食品の包装や輸送などをはじめ,日々の生活に重要な役目を担っており単に敵視し,排斥すれば良いというものではない.必要なのは「イノベーションに解決を求めること」である.
株式会社カネカは1990年代より,化石資源由来プラスチックの代替として,再生可能資源から生産可能な生分解性バイオマスポリマーを開発することで,持続的な新しいプラスチック産業を創造することを志し,研究開発を進めてきた.基礎研究開始から30年以上にわたる取り組みの中で,微生物発酵によるポリマー高密度生産技術,環境負荷を考慮した水系分離・精製技術,最終製品の性能を決定する成形加工技術のすべてを磨き,社会実装へ繋げている.いずれも実用化に不可欠な技術であるが,本稿では「カネカ生分解性バイオポリマーGreen Planet®」の開発経緯,その素材としての特徴,および生産プロセスの根幹となる微生物育種について紹介したい.
当社がGreen Planet®のブランド名で社会実装を進めている生分解性ポリマーは,微生物が生合成し細胞内にエネルギー貯蔵物質として蓄積するポリエステル(ポリヒロドキシアルカノエート,PHA)であり,特に(R)-3-hydroxubytyrate(3HB)と(R)-3-hydroxyhexanoate(3HHx)の共重合ポリマー(PHBH)である(図1図1■PHBHの化学構造).PHAの歴史は1925年にさかのぼる.フランス・パスツール研究所のMaurice Lemoigne博士によって3HBのホモポリマー(PHB)が単離され,その性質が調べられた.PHBは,微生物が生合成する最も一般的なPHAであり,熱可塑性があること,融点や引張強度がPPに近いことから,プラスチックのような材料としての利用が期待され,1970年代からは実用化研究が行われてきた.しかし,PHBは結晶性が高く,硬く脆い物性であること,また融点と熱分解温度が近く,成形加工に必要なプロセスウィンドウが狭いことなど,多くの課題があった.ICI社(インペリアル・ケミカル・インダストリーズ)(英)は,3HBに(R)-3-hydroxyvalerate(3HV)を共重合させることで物性面の課題改善に取り組み,Biopolの商品名で1990年にシャンプー容器として実用化したが,その後に事業はモンサント社(米)に引き継がれ,1998年に撤退となっている.一方で,当社は1990年頃から新しい構造のPHAを求めて,微生物の探索を開始していた.そして,1991年に当社高砂工業所(兵庫県高砂市)の敷地内より,植物油を原料として3HBと3HHxの2成分からなるPHBHを生合成する微生物を発見したことから,Green Planet®の開発がスタートした.
これまでに,PHBH以外にも,バイオマス由来のポリ乳酸(PLA),化石資源由来(または部分バイオマス由来)のポリブチレンサクシネート(PBS)やポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)など,さまざまな生分解性プラスチックが開発されている.こうした化学重合により合成される生分解性プラスチックを含め,生分解性が発揮されるかどうかはその材料が置かれた環境にも大きく依存する.代表的な試験環境としては,土壌,コンポスト,海水中などが挙げられ,コンポストについては,58°C前後の高温で処理する工業用コンポスト,常温のホームコンポストでも結果が異なる.環境によって,存在する微生物の種類や密度が異なり,また微生物(酵素反応)に依らない加水分解等の程度も変化することから,生分解性がある/ないと単純に二分することは困難であるが,PHBHを含むPHA類に関して言えば,上記のような化学合成系の生分解性プラスチックとは違い(特殊なモノマー構造のものを除いては)自然環境中で多様な微生物がもともと蓄積している天然構造のポリマーであり,既存の地球炭素循環に組み込まれている炭素源である(図2図2■PHBHのライフサイクル).そのため,分解速度は実環境中の微生物叢や温度条件などに左右されるものの,基本的には微生物が増殖できる環境であれば生分解性を示す(図3図3■PHBH製ストロー海水分解性試験(浸漬法23°C)).近年では,水深1,000~4,000 mの深海底泥サンプルからもPHBH分解微生物が分離されている(1)1) 加藤千明:化学と生物,58, 181(2020)..
当社のGreen Planet®は,日本バイオプラスチック協会(JBPA)の生分解性バイオマスプラマーク認証,欧州の認証審査機関TÜV AUSTRIAのOK compost, OK compost HOME, OK Biodegradable Soil, OK Biodegradable Marine認証,米国生分解プラスチックス製品協会(BPI)のcompost化認証など,グレードによってさまざまな認証を取得し,生分解性に関してユーザーとの正確な情報共有を図っている.
前述のとおりPHBは結晶性の高いポリマーであるが,PHBHの場合は第二モノマー成分である3HHxの側鎖プロピル基が結晶化の障害となり,共重合比率に応じて融点が低下し,柔軟性が付与される(表1表1■3HHx共重合比率に応じたPHBHの物性変化).われわれは遺伝子工学によって,細胞内で重合されるPHBHの共重合比率や分子量を制御する技術を開発してきた.生産宿主として用いているCupriavidus necatorはゲノムサイズ7.4 Mb,遺伝子数は約6,900と,大腸菌と比較すると1.5倍程度の遺伝情報を有しており,遺伝子重複も多い.その分,PHBH生合成に関連する酵素も増加し複雑になる一方で,アイソザイムの基質特異性や活性の違いを利用するなど,奥深い代謝工学が可能となっている.
| Polymer | Melting point (°C) | Tensile strength (MPa) | Elongation to break (%) |
|---|---|---|---|
| PHB | 177 | 43 | 5 |
| PHBH | |||
| 5 mol% 3HHx | 151 | — | — |
| 10 mol% 3HHx | 127 | 21 | 400 |
| 15 mol% 3HHx | 115 | 23 | 760 |
| 17 mol% 3HHx | 120 | 20 | 850 |
| Polypropylene | 170 | 34 | 400 |
| The data are cited from Doi et al.: Macromolecules, 28, 4822 (1995). | |||
安定に保持されるプラスミドベクター創出やゲノムへの遺伝子組み込み技術獲得に始まる長年のC. necator代謝工学研究を通して,3HHx比率の制御においては,2つのR体特異的Enoyl-CoA hydratase遺伝子(phaJ)の 精密発現制御により,1 mol%単位での微細な共重合比率調整ができる状態としてきた(2~4)2) S. Sato, T. Fujiki & K. Matsumoto: J. Biosci. Bioeng., 116, 677 (2013).3) S. Sato, H. Maruyama, T. Fujiki & K. Matsumoto: J. Biosci. Bioeng., 120, 246 (2015).4) H. Arikawa & K. Matsumoto: Microb. Cell Fact., 15, 184 (2016)..また近年では,21以上のβ-ketothiolase遺伝子のうち,特定遺伝子をノックアウトすることでβ酸化におけるC6基質の分解を抑制し,共重合される3HHxの比率を飛躍的に向上させることに成功した(5)5) H. Arikawa & S. Sato: Appl. Microbiol. Biotechnol., 106, 3021 (2022)..PHBH重合酵素(PhaC)についても,立体構造を基にしたシミュレーションによって3HHxモノマーの取込みを効率化するために有効なアミノ酸変異候補を洗い出し,効率的に酵素改良を進めて制御可能な3HHx比率幅を拡張している(6)6) K. Harada, S. Kobayashi, K. Oshima, S. Yoshida, T. Tsuge & S. Sato: Front. Bioeng. Biotechnol., 9, 627082 (2021)..
さらに,成形加工時のハンドリングや製品物性に影響が大きい分子量に関しても,9つあるPHA分解酵素遺伝子からPHA蓄積期に機能するエンド型の分解酵素遺伝子(phaZ6)を見いだし,ノックアウトによって発酵生産後のPHBH分子量を向上させた(7)7) H. Arikawa, S. Sato, T. Fujiki & K. Matsumoto: J. Biotechnol., 227, 94 (2016)..これにより,ダウンストリームプロセス(分離・精製,回収の工程)では加水分解等によって各アプリケーションに適した分子量に調節することができる.
これらの技術の統合により,硬質から軟質,ゴム状まで幅広く物性の異なる,実用的なPHBHを生産する微生物育種の基盤技術を完成させた(図4図4■PHBH生合成経路).
株式会社カネカは生分解性ポリマーの工業生産技術開発,社会実装を継続的に推進してきた.2011年に1,000トン/年の生産能力にて実証生産を開始し,2024年には20,000トン/年に能力増強を実施,徐々に社会実装を拡大させている.PHBHをプラスチック代替素材として実用化するためには,PHBH生産微生物の開発だけでなく,工業的な大規模発酵技術,培養液からPHBHを取り出し精製ポリマーを生産するダウンストリームプロセス,最終製品(成形体)を生産する成形加工技術の開発を一体となって進めることが鍵であった.現在では,カトラリー等の硬質用途から,シートやフィルム等の軟質用途,さらにはストローや発泡体,繊維などにも応用可能な技術を構築している(図5図5■Green Planet®を使用した最終製品例).バイオものづくりによる環境循環型材料の開発が待ち望まれているが,製造においては,原料から製品化まですべてを統合したプロセス設計が必要であり,バイオ技術のみならず,化学プロセスや高分子化学とのハイブリッド技術開発が重要であることを心から実感できたことは,本研究開発において大きな学びであった.今後もGreen Planet®の普及を通じ,プラスチック産業を持続可能な環境循環型産業へと変革する一翼を担っていく所存である.
Acknowledgments
本文にも述べさせていただきましたように,Green Planet®の社会実装は微生物開発だけでは成し遂げられませんでした.ダウンストリームプロセスや成形加工技術,また市場開発においてもさまざまな困難を乗り越え,現在に至ります.社会実装の実現に共に立ち向かったすべてのカネカ関係者に感謝申し上げます.また,本技術は多くのアカデミアの先生方,学生の皆様の研究成果を発展させたものです.PHBH生産微生物の開発に携わってこられたすべての研究者の方々に深謝いたします.最後に,本賞にご推薦いただきました京都大学名誉教授の清水昌先生,日本農芸化学会関西支部幹事,選考委員の先生方に厚く御礼を申し上げます.
Reference
2) S. Sato, T. Fujiki & K. Matsumoto: J. Biosci. Bioeng., 116, 677 (2013).
3) S. Sato, H. Maruyama, T. Fujiki & K. Matsumoto: J. Biosci. Bioeng., 120, 246 (2015).
4) H. Arikawa & K. Matsumoto: Microb. Cell Fact., 15, 184 (2016).
5) H. Arikawa & S. Sato: Appl. Microbiol. Biotechnol., 106, 3021 (2022).
7) H. Arikawa, S. Sato, T. Fujiki & K. Matsumoto: J. Biotechnol., 227, 94 (2016).