Kagaku to Seibutsu 64(4): 252-261 (2026)
トップランナーに聞く
日清シスコ株式会社専務取締役 上脇達也 氏
Published: 2026-07-01
今回の「トップランナーに聞く」では,日清シスコ株式会社専務取締役の上脇達也先生にインタビューをお願いしました.上脇先生は1987年に九州大学農学部農芸化学科を卒業され,同年株式会社ロッテ中央研究所に入社されました.同研究所では,チョコレートの新製品開発をはじめ,カカオ食物繊維の栄養生理学的研究やココアバターのカルシウムによる脂質吸収抑制に関する研究などに取り組まれました.その後,2015年に日清食品株式会社に入社され,同年,日清シスコ株式会社に出向し,開発研究所所長としてシリアルおよび菓子の開発研究に従事されました.2016年には日清シスコ株式会社取締役(品質管理部管掌)に就任され,2024年より専務取締役を務めておられます.現在は品質保証部およびSCM本部(製造・物流・資材調達)を管掌される一方で,開発研究所で,研究員の育成と時代のニーズに即した商品開発の推進に取り組んでおられます.本インタビューでは,上脇先生のこれまでのご経験を中心に,食品企業における研究開発や商品づくりの現場,そして現在の仕事観についてお話を伺いました.
© 2026 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2026 公益社団法人日本農芸化学会
聞き手 まずご略歴に従って大学からいろいろインタビューさせていただこうかなと思います.よろしくお願いします.ご実家が鹿児島ですか.
上脇 実家が鹿児島です.
聞き手 鹿児島から九州大学にご進学されていますが,農学部を選ばれたのはどのような理由だったのでしょうか.
上脇 一番の理由は,当時何を本当に自分で勉強したいのか,正直言ってわからなかった,決めかねていたというのがありました.個人的には高校時代が理数科ということもあって,物理・化学・生物・地学,一通り普通の高校生よりは勉強したと思うんですけど,中では物理とか地学が好きだったです.化学ももちろん好きだったんですけども.しかし,自分が一番何をしたいのかがまだわからない段階で,入学するときに専攻を選ばないで済む大学がないかなというところで,調べたら東大と九大と北大が確かあったかと思います.九州地元だし,九大行ってみようかなという感じだったんですね.
聞き手 では,農学系に進もうと思ったのは,2年生,3年生ぐらいでしょうか.
上脇 そうですね.農学部にはもう決まっていましたので,農学部の中のたとえば農芸化学ですとか食糧化学工学とか,あとはもうちょっと文系的な要素の農政経済とか含めて,どの分野が一番面白い,合っているかなというのを決めるのが1年半ですか.教養が終わったタイミングですので,そのタイミングまではちょっと先送りできるかなと思いまして.
聞き手 専攻は農芸化学でしょうか?
上脇 はい,農芸化学です.
聞き手 小さいころに交通事故に遭って,世の中に恩返しをしたいと考えていたとお聞きしているのですが,そこと食を通じて社会に貢献するというのはそのぐらいのときに何となくイメージがあったのでしょうか.
上脇 そうですね.実家が養鶏場で,そういう意味で家の手伝いとかも子どものころ普通にしていました.やっぱり食,何か食べる物を作る,いわゆる農学系に対する親しみとかはすごく元々もっていました.農学系は自分が行くんだろうなというのは何となくは思っていたのですが,何をやるかまではあまり考えていなかったですね.
聞き手 ご実家の稼業を継ぐことは特に考えたりはしなかったのでしょうか?
上脇 一瞬考えたことがありますけども,両親からは,やはり肉体的な大変さもあるので,自分が好きなことをやったらいいんじゃないかというふうにアドバイスをもらったんですね.その選択肢も今になってみれば時代的にはあったな,とも考えているんですけど.
聞き手 卒業研究はどのようなことを行ったのでしょうか?
上脇 土壌に含まれる鉄のゲータイトという化合物があったんですけども,それが陰イオンに対してどのような吸着特性があるのかという研究をやりました.先生がこのテーマはどうだと.元々物理とか好きだったので,ちょっと面白そうだからやりますって手を挙げたんですけど.いざ,やってみたら全部ミスマッチで,意外と私は物理とかのフィールドよりやっぱり化学系・生物系のほうが向いているかなと改めて思いました.
聞き手 その後,大学院に進学せずに就職したのは何か理由があったのですか?
上脇 そうですね.やっぱり物理系の分野よりも生物とか化学のフィールドのほうが向いているだろうなと思って,先生に大学院を受けようと思い,研究テーマを含めて,チェンジ,変更したいということをご相談したときに,先生からは「いやいや,大学院行ってもいいけど,上脇は大学に残って活躍するタイプの人間ではない.いい言葉で言うと社会に出て役に立つタイプ.だから,むしろ食品企業とか興味あるのであればそこをいろいろとチャレンジしてみたらどうだ.」と言われました.当時の就職活動は今と仕組みが違っていて,縁があって食品会社のロッテにすんなり内定が決まり,就職したという感じですね.
聞き手 ロッテに就職されたのは指導教員から推薦されたからでしょうか?
上脇 そうですね.はい.
聞き手 食品企業以外の選択肢は考えなかったのでしょうか?
上脇 いえ,就職し終わってからというか,社会に出てから,特に今でもほかのフィールドでもあったんじゃないかなというのはよく思うことがありますが,当時はやはり自分がその食品,食に対して何か携わりたいという思いがあったのと,特別に研究開発とかの仕事がどうしてもしたかったわけじゃなく,自分がそんなに研究開発に対する適性があるという自惚れもなくて,まず企業に入ってその食品企業でやれることって何だろうかと思って就職したんですね.たまたまそれが,研究所で研究開発の仕事をやってみないかと会社に入った後に言われて,それで,じゃあ,わかりましたという感じで研究開発に着手したというのがスタートですね.
聞き手 入社されて,すぐに研究開発に異動されたのですか.
上脇 そうですね.当時ロッテの場合は中央研究所の中に,基礎研究する部門と商品開発する部門があって,その中では自分は商品開発するチームのほうが,適性がもしかしたらあるんじゃないかなというふうに思いました.あまりアカデミア的な基礎研究的なところに自分のポテンシャルを感じなかったものですから,そちらのほうに希望して行きました.
聞き手 チョコレートの研究に携われていかれるようですが,いろいろなお菓子が販売されているなか,チョコレートを担当された理由はなんでしょうか? ご自身でご希望されて?
上脇 そうですね.それは希望しました.何で希望したかというのは,ちょうど大学生のときに先生から「熱帯植物学という授業があるから,お前,ちょっと受けてみろ」って言われました.それは農芸化学の授業じゃなくて農学科の授業だったんですけど,その熱帯植物というところでカカオとかコーヒーとか,あとたとえばパームですとか,あとその他トロピカルフルーツも含めてその農学科の授業を聴きに行って,何か意外と面白いなと思って,こういう熱帯植物をビジネスにしている仕事って何となくわくわくするなと思いました.それで希望したらチョコレートの仕事をやれることになって,それがきっかけでチョコレート関係の仕事に着手できました.
聞き手 それもあって,国立栄養研究所に出向されたのでしょうか.
上脇 そうですね.元々私はチョコレート研究の中でも具体的な商品開発の仕事がしたいなと思っていたんですが.将来的には大学のときに勉強した熱帯植物の中で現地に行って,いろいろな現地の農家さんとコミュニケーションしながら何か新しいものを作っていくことってできないかなと思っていました.最初はそう思っていたんですけど,たまたまこれからチョコレートは健康と向き合っていかなきゃいけないというのが当時言われていまして.やっぱりチョコレートって虫歯になるとか,太るとか悪いイメージがあって,それって本当なの? というところで,カカオって食物繊維も入っているし,ポリフェノールもあるし,こういったものってもっと人の健康に役に立つんじゃないかということでカカオの食物繊維に着目していたら,そのことで国立栄養研究所に出向するチャンスを得まして3年3カ月カカオの食物繊維の研究をしていました.
聞き手 素人質問でたいへん恐縮ですが,チョコレート自体には食物繊維は入っているのですか.
上脇 入っています.カカオ豆にも.チョコレートってカカオ豆の中の胚乳の部分が原料で,それを焼いてすりつぶして加工したのがカカオマスですけども,要はその油を絞ったのがココアパウダーですね.カカオマス,ココアパウダーには食物繊維が入っていますので,チョコレートに入ってきますし,飲むココアにも食物繊維が入ってきます.
聞き手 そうなのですね.いわゆるおいしさだけではなくて,機能性についても古くから着目されて検討が行われてきたのですね.
上脇 ただ,ここはカカオに関する研究というのはほとんどされてなくて,私が1988年ぐらいから食物繊維の研究を始めましたけど,それ以降は90年代とかもう2000年代になってやはりポリフェノールが,抗酸化性があるというところで注目されるようになりました.それまではチョコレートって,体にいいなんて誰も思ってなくて,おいしいだけみたいに思われていたんですね.私の研究も,皆さんがカカオの機能に注目されるきっかけになった研究の一つかなと思っております.
聞き手 ココアバターのカルシウムによる吸収抑制に関する研究も実施されていたとお聞きしていますが,こちらについても教えていただけますか.
上脇 これは,チョコレートに含まれるココアバターというのが,いわゆる対称トリグリという,脂肪酸の1位と3位に飽和脂肪酸が付いて,真ん中に不飽和脂肪酸のオレイン酸が付くという特別な油脂構造を取っているんですね.これがチョコレートの口どけ感にすごく効いてくるので.ただリパーゼで切られたときに1位と3位が切られて,2位のオレイン酸だけがグリセリンに結合したままになります.要は2つの脂肪酸と1つのモノグリで吸収されていくんですけど,そのときにカルシウムがあるとカルシウムと飽和脂肪酸のステアリン酸が結合して,石鹸になって吸収されなくなるんですね.もともとステアリン酸というのはカルシウムの世界の中ではカルシウム吸収阻害をするということが一部では知られていました.逆に言うとカルシウムがあると油脂の吸収が抑えられるんじゃないかという,そういう逆転のアプローチの考え方ですね.
聞き手 そうするとチョコレートにカルシウムを入れておくと,ということになるのでしょうか.
上脇 はい.というと油脂の吸収が抑えられるだろうということをいろいろと研究していました.
聞き手 現在,SCM(サプライチェーン・マネジメント)や品質保証もご担当されているかと思いますが,ロッテに在籍されていたときにも同様の業務を担当されていたのですか.
上脇 そうですね.ロッテのときは最後は海外の仕事をしていまして,海外に工場を作って,商品を海外の拠点で製造して販売するという業務を行っていました.そのときには研究開発だけではなく工場,要は生産とかの仕事の比率が高かったです.たとえばタイで作った商品を台湾やインドネシアなど他国で売ってもらう,そのためのサプライチェーンの管理もしていましたので,今の仕事につながってもいました.
聞き手 では,研究所で研究されていたのは,どのくらいの期間になるのでしょうか.
上脇 そうですね.ロッテのときに,ほぼほぼ20年近くはチョコレート関係の仕事はしていました.それと後半少し海外での商品開発をしていました.
聞き手 そういったときには実際に海外まで行って原料を購入していたのですか?
上脇 そうですね.特にチョコレートの場合はカカオ豆が味のすごく肝になるので,一般的にガーナの豆と中南米の豆をブレンドして使ったりするんですけど.カカオって現地で発酵させるんですけど,発酵のやり方が適切にやれているかとか,もっとこういうふうにして発酵したら良くなるんじゃないかというのをいろいろと現地でテストしたりということもやっていました.
聞き手 それはやっぱりカカオのメインの産地は中南米辺りがメインになってくるのでしょうか.
上脇 そうですね.世界で一番カカオが採れているのは西アフリカなんですね.コートジボワールとガーナが世界で一番,二番,カカオを作っています.そこのカカオと中南米のカカオをブレンドして使うというのがチョコレート作りの基本なので.それぞれ豆の特徴と味の特徴があるんですね.
聞き手 コーヒーみたいな感じでしょうか?
上脇 そうですね.まさにコーヒーで香りをブレンドするような感じと,まさに同じですね.
聞き手 いろいろな会社からチョコレートが販売されていますが,各社で味が違うのは,やっぱりブレンドの違いが一番大きいのでしょうか?
上脇 そうですね.ブレンドの仕方と,豆の焼き方.それとチョコレートの作り方.それによって味が違ってきますね.
聞き手 やはり発酵のされ方というのも影響は大きいのですか.
上脇 そうですね.発酵のされ方によってその風味が変わります.当然現地の農家さんでやっているので,なかなか均質化というのは難しいのです.そのあたり均質で高品質な豆をどういうふうにして入手をするかというのはチョコレート作りの肝になりますね.
聞き手 どれくらいの発酵だと,おいしいチョコレートができるであろうという先の予測はどのように行われるのでしょうか? やはりこれぐらいの発酵,こういう豆素材だときっとおいしいチョコレートができるに違いないという,そのようなコツはどういう風に? 経験でしょうか?
上脇 それはもう経験ですね.トライ&エラーです.現地の豆の状態での品質と香りの評価と,焼いた後の評価とか,そのあたりを全部やっていくと何となく傾向がわかってくるんですけど,やはり言葉にして伝えにくいので,かなり感覚的なところ,感性的なところはすごく大きいですね.
聞き手 やはりトライ&エラーで.
上脇 はい.
聞き手 2015年に日清食品に入社されていらっしゃいます.このとき何か心変わり的なものがあったのでしょうか?
上脇 私は,元々カカオの食物繊維の研究をやっていました.食物繊維のリグニンという水に溶けないタイプの食物繊維をずっとやっていまして,いろいろな学会とか行っても,不溶性の繊維をやっている人が少ないんですね.やはり当時,水溶性,発酵性の繊維の研究が盛んで,それ以降もやはり水溶性の食物繊維,発酵性の食物繊維ということで腸内環境に対してポジティブだということが話題になって.不溶性繊維だけではお客様に届くようなものがなかなか難しいなと思っていました.おそらく両方大事だろうなというのはわかっていて,大体基本的に不溶性の食物繊維が2で,水溶性食物繊維が1ぐらい,2対1ぐらいがいいんじゃないかみたいなことは広く言われていると思うんですけども.となると,やっぱりできれば水溶性の繊維に絡むような仕事もやってみたいなというのは元々思っていたんですね.ちょうど機会があってシリアルの開発に携わることができました.当時シリアル市場はグラノーラブームになっていまして,その主原料のオーツ麦が不溶性の食物繊維と水溶性の食物繊維が2対1ぐらいに元々なっているんですね.だから,これってめちゃくちゃ面白い.オーツ麦もやはり産地によって味が違うから同じようなことがいろいろとやれて,やはり今後はよりお客様の健康ニーズも高まっていくだろうということで,食物繊維の研究を違った形で生かして社会に貢献してみたいなというのは思っていました.
聞き手 では,食物繊維のつながりで.
上脇 はい,そうなんです.本当に不溶性繊維の研究しかやってないと隣の芝生が青く見える.水溶性繊維というのはすごいな,うらやましいな,なんて思っていました.
聞き手 不溶性の食物繊維の研究をされている方ってあんまりいらっしゃらないのですね.
上脇 そうですね.基本的に不溶性の繊維といわれるとセルロース,ヘミセルロース,そしてリグニンなのですけども,リグニンはいろんな物質と結合するという,ゲータイトみたいな結合能力が面白いなと思っていろいろやってみました.しかし,リグニンはあまり注目されませんでした.不溶性食物繊維の代表のセルロースというのは動物実験をやるときの食物繊維のコントロールとして使われています.不溶性の繊維なので食べると便の量が増え,トランジットタイムという腸内の移行速度を速くする.そういうポジティブな効果はあるんですけど,それって普通だよねということで,あまり皆さん興味をもたれていなかったですね.本当に水溶性食物繊維の研究が大部分で,水溶性の食物繊維はたとえば,コレステロールの上昇を抑制するとか,血圧を下げるとか,今はそれこそ腸内環境を改善して脳腸相関じゃないですけども,脳に対してもストレスに対しても非常に効果的なんじゃないのみたいなこととか,本当に腸の免疫とかにも関係しているんじゃないかということで注目されていますので,確かに面白いフィールドだなとは思います.
聞き手 日清シスコに移られて,今は開発研究所,品質保証とサプライチェーンマネジメント部門も見ていらっしゃる.
上脇 はい.最初1年,2年ぐらいは本当に開発研究所だけの仕事をしていまして,あと途中で品質保証の仕事にちょっと少しフィールドを広げて,今はポジションがアップしたので一応生産とかSCMのほうも見ているという感じで.ただベースは開発の業務をやっています.
聞き手 開発部門の所在はここ(上野)ではないのですか.
上脇 開発は熊谷に工場がありますので,そちらの工場の敷地内に開発研究所があります.やはりラボでやったものを現場に落とし込むという作業はすごく重要ですので,近いところに配置されているという感じですね.
聞き手 今も新しい商品を開発するというのがメインでしょうか?
上脇 そうですね.当然弊社の場合はココナッツサブレですとかチョコフレークというロングセラー商品がありますし,シスコーンもかなり歴史のある商品であるんですけども,最近はグラノーラが健康ブームと相まって結構伸びています.山谷はあるんですけども,今はグラノーラ系の商品開発にかなり力を入れていますね.それとオートミールが一時ブームになったので,オートミールを食べやすく加工した,ごはんタイプのオートミールの開発もやっていまして,それなんかが新しい商品ですね.オートミールと,いわゆるコーンフレークのようなフレーク状にしたものやオートミールの粉をお米の粒状に加工して,電子レンジでチンって食べるみたいな簡単な.それとかグラノーラは糖質を控えたタイプですとか.あと最近は,グラノーラを新しく今風に何か価値を付けられないかと.やっぱり今糖質を気にされているお客様が多いので,糖質オフには力を入れて商品の開発をやっております.
聞き手 食物繊維で.
上脇 はい.
聞き手 商品開発する上で理念というか,ベースで考えられていることというのは何かあったりしますか.
上脇 そうですね.基本的に,独りよがりの商品開発というのはやはりやめて欲しいなというふうに若い人たちにいつも言っています.自分が作りたいものというよりは,人が期待するものというか,人に喜んでもらえるもの,役に立つものという物差しで考えないと,商品を出したとしても買ってくださる人がいない.消費者不在になってしまうんですね.やっぱり,お客様が本当に欲しいものというのは何なのかということを常に考えるようにしています.その軸はぶらさないようにしているつもりですね.当たり前のことなんでしょうけども.
聞き手 チョコレートやサブレなどの菓子類を開発するときと,シリアルなどの食事に近い加工品を開発するときの考え方として違うことはどのようなことがありますか?
上脇 そうですね.一番違うのは,お客様が期待するものが違うんだと思っています.お菓子って,やはりおいしいが一番.でもおいしいのは当たり前で,何か食べたときにうれしくなる,わくわくする,元気になる.そういう要素が必要です.それが目的で手に取って買っていただいている.一方でシリアルの場合は,もちろん楽しさもすごく大事なんですけど,やはりどこか体にいいものというか,自分が食べるためのエクスキューズがあると思うんですね.これを食べる理由はなぜなのか.お菓子の場合はもう直感でお客様に買っていただけるので,感性だと思うんですね.何となく色が好きとか,何となくこれって自分が好きなタイプみたいな.しかしシリアルに関しては,お客様は理屈をもって買っていらっしゃるので,お客様が求める方向性が違いますね.そこで健康を考える方には,パッケージの裏面にPFCバランスを表示しています.またこちらの糖質オフの商品の場合は食物繊維が,レタスでどれくらい相当する量摂れるとか.そういう栄養情報とかをできるだけ詳しく載せる.それが,お客様が選ぶための理由になると思うので,そこにはちゃんと論拠というか,科学的な裏付けをきちんと盛り込んで設計しないといけないなと思ってやっていますね.
聞き手 そうするとやっぱり難しいところは,消費者がどういうところに興味をもつかというところでしょうか.
上脇 そうですね.はい.
聞き手 把握するのはやっぱり難しいでしょうか.
上脇 そうですね.それは難しいですね.本当にいろいろな方々がいらっしゃいますので.
聞き手 そういうものを開発するとか研究する上で面白いところというのはどういうところですか?
上脇 本当に商品開発って面白いなと僕は今でも思っていまして,やっぱり自分たちが考えたとおりにいかないことのほうが多いですよね.だから,逆に言うとトライ&エラーになっちゃって.ただやみくもにやってもしょうがないので,やってみて,それがうまくいかなかったことを確実に検証して,それを一個一個乗り越えていくというか,つぶしていくというか,改善していくというか,そういうことの積み重ねだと思うんですよ.逆に言うと,最初にバンと一発で売れてしまって忘れ去られるのも多いので,少しスロースタートでもいいけども,少しずつ手直しをしながら進化していくような形.それがやはり魅力的だなと思ってやっています.
聞き手 これは狙いどおりできたという経験があればお聞かせください.
上脇 狙いどおりいったというのは,実はあまりなくて,予想外に良かったというのがいくつかあります.たとえば,このチョコナッツという商品を開発したときは,当時フルーツ系のグラノーラが非常に日本では多かったんですね.フルーツ系のグラノーラが多い中で,ナッツを使ったらなんか健康感あるんじゃないのというふうな話がやはり社内で出まして.そのときに何の味がいいんだろうかというのでチョコレートがナッツと合うんじゃないのという話になりました.普通のチョコレートはコーティングできないので,ココアを使ったチョコレート味にしなきゃいけないんですけども,自分は作っている中で本当のチョコレートまではいってないなと思いつつも,予想に反して,お陰様で非常に売れまして,弊社の中で一番売れている商品になってくれました.やはりお客様のチョコレートとかココアに対する健康感が今の時代はだいぶ上がってきたおかげもあるのでしょう.私がチョコレートをやり始めたときは「チョコレート=体に悪い」だったので,そういう意味でも自分がやってきたことが将来違った形で自分を助けてくれたので,非常に感謝しています.ナッツも40年前は単なるおつまみとか,おやつみたいに思っていたんですけど,最近はアーモンドは体にいいと.食物繊維やビタミンEの効果なんかも広く知られてイメージがもう完全に変わってきているので,お客様が変わると商品の見え方が変わるんだなというのを改めて思います.
聞き手 確かに,そうですね.私が子どものころよりもナッツのいろいろな食べ方ができているなと.
上脇 はい.今ナッツは消費が伸びているので,皆さん,食べられるようになってからアレルギーが増えてきたということで,この特定原材料,アレルギー表示が今は必須になってきています.アレルギーの方には食べにくい食材でもあるので,その点は少し難しくなっているのかなと感じます.
聞き手 ここに来るまで,カカオ,チョコレートというイメージが非常に強かったのですけども,こうやって見せていただくとフレークなんかのシリアル系が多いですね.
上脇 はい.
聞き手 成分表も目に入ったのですが,原材料がイギリス製造,またはオーストラリアとか,やはり小麦などのフラワー系なんだなと.その点からも,原材料は日本古来のものではないといいますか,やはり洋風のお菓子がルーツということになりますか.
上脇 そうですね.やはりお煎餅とか餅とか日本の伝統的なお菓子,和菓子とかはあるんですけども,当然チョコレートは海外ですし,もともとビスケットも海外,ヨーロッパ発祥ですし,シリアルもアメリカとかヨーロッパでもともと開発されたものなんですね.そういった意味では日本に元々あったわけじゃなくて,海外にある原材料をいかにおいしく健康的に食べるかというところでスタートしたものだと思います.コーンフレークにしてもアメリカがもともと発祥ですし,原料もアメリカから輸入していますし.コーンフレークといってもスイートコーン,要はわれわれが普通に食べる焼きトウモロコシなんかのコーンと種類が違って,いわゆるデント種といわれる動物の飼料なんかにも使われる…….
聞き手 デントコーンですね,育てたことがあります!
上脇 はい,デントコーンがコーンフレークの原材料になっていますので,そういった意味では加工というのは原料とすごく密接なんだと思っています.
聞き手 わかりました.あともう1つ,いただいた資料で「原料開発」が肝であるので,現場に行って実際に目で確かめて品定めするということでした.実際,さまざまな地域の海外に行かれて,地域の違いで,同じ小麦やコーンであっても,善し悪しは違うのではないかと思うのですが,そのあたりで何か逸話といいますか,面白いエピソードがありましたらお聞かせください.
上脇 先ほども話題にでたカカオについてですけども,ガーナのカカオと南米のカカオでもベネズエラとかエクアドルのカカオは全く違うものですし,同じベネズエラでもエリアによって東部・中部・西部で味が全く違う.当然エクアドルもそうなんですけど.そういった素材をちゃんと目利きしながら,それを最終商品にどう反映させていくのかというのはすごく重要なんだろうなと思っています.オーツ麦なんかもやっぱり産地によって味は違いますし,ほとんど最終商品に影響がないものもあれば,すごく最終商品に影響しやすいものもありますので,それは使う目的によって使い分けをしていくことがとても大事なんじゃないかなと思っています.
聞き手 なるほど,ありがとうございます.なんと言っても原料がやはり命ということですね.その年々で気候変動とかの影響もあるかと思いますが,去年は南米だったけど,今年はアフリカだとか,より良い生産地を選ぶ,そういう感じなんですね.
上脇 弊社の場合はチョコレートですとエクアドルのカカオをベースに使っているんですけども,そこに西アフリカをブレンド.この比率は基本的には変えてないですね.ただ,日本のメーカーも,いろいろとそのあたりカカオショックと言われて苦労されていると思います.ガーナのカカオはほとんど採れなくなっていることもあるので,ちょっとガーナ産のカカオをコートジボワールに変えようかという動きはすごく今増えてきています.われわれももう既にココアパウダーなんかはガーナだけではなく,コートジボワールの豆をブレンドしたタイプに少しずつ変えてきています.急に品質がドラスティックに変わるとお客様が困ると思うので,そのあたりは慎重に調整をしていますね.当然ビスケットなどは,オーストラリア産の小麦とアメリカ産の小麦はやっぱり違うので,最終的にはタンパク質の量を調整して小麦粉のスペックを決めます.製粉会社さんのほうできちんとブレンドして今年はこれぐらいでどうでしょうかと,新麦になる度に工場でテストして,今年の麦の比率だったらいけそうだとか,ちょっとこれだと少しビスケットの浮きとかに影響があるから,小麦の少しタンパク量を調整してもらおうかとか,そういうことはどうしても出てきますね.
聞き手 奥深いですね,原料は.
上脇 はい.そうですね.今もトウモロコシのタンパク質の量が農業事情と絡んで変化しています.やはりアメリカは大量生産にしているので,当然タンパク質の含量というのは,使う肥料,特に窒素の量に影響を受けます.そのあたりが年々によってやはり若干違いが出てくるのかなとは思っているんですけど,それをほとんど影響がないような形にしてお客様に届けないと.今年はおいしくないよね,去年はおいしかったけど,みたいにならないようにですね.おっしゃるとおり気候変動が非常に大きくて,たとえば原材料の値段が上がっていくとか,まず量が採れないという問題が出てくるので,いわゆる代替原料の研究も大切ですね.今まで使ってなかったエリアで新しい原料を手配して,それをその特性を生かした形に使う.単純に置換すると味が変わってしまうので,やっぱり新しい原料を入れながら,その特性をどう商品に反映させていくのかというのはもう地道なテストと経験に基づく評価しかないので,それをやっています.
聞き手 今まで各フェーズに応じて質問をさせていただいたのですが,これまでのご経験を通した質問に移りたいと思います.いただいた資料に「うまくいかないから面白い」というコメントがあったのですが,これまでの経験であまりうまくいかなかったことや,印象に残っている経験があればご紹介いただけますか.
上脇 そうですね.うまくいかないことは多いので,今でも過去でも.やはり自分たちでいいなと思って作っても,食べる人によって全然反応が違って評価されない.たとえば,社内でも多くの人に調査をしても支持されないと商品化できないですね.やはりどうしても商品開発というのは時期があって,いついつ発売したいというベストの発売の時期というのが,たとえばやはりチョコレートですと秋の季節とか,シリアルですと春なんですね.そこまでにやはり商品の完成度を上げていかないといけない.そうすると,それがやはりラボでできても工場でやるとうまくいかない.それがすごく一番きついんですけど,逆に言うとそれを乗り越えないとお客様に届かないし,そこを乗り越えたからこそ商品のグレードというか,品質が上がるわけで.お客様ってシビアですから,完成度を上げないと喜んでいただけないので,発売までに間に合うかなというのがいつも難しいですけど,そこが越えなきゃいけない大きな課題ですね.
聞き手 そういった経験を通して周りの方に伝えていることというのは何かあったりしますか.
上脇 そうですね.やはりうまくいきませんでしたという報告は結構多いんですよね.テストしたら,ラボでうまくいったけど,現場でやったら思ったよりも熱の履歴が違うとか,バッチのサイズが違うから浮きが悪いとか.たとえば,この新ごはんの商品,水を入れて電子レンジでチンすると,ごはんみたいに食べられるオートミールを開発したんですけど,工場で生産すると芯が残ってしまうとか,ちょっと比重が軽く浮きすぎて,逆にふにゃふにゃになっちゃうとか.そこの最適な条件を決めるのにすごくみんな苦労している.でも逆に言うと,これだけ難しいからやっぱり乗り越えたらお客様にとっての価値になるわけで.中途半端なものを出してしまうとお客様は満足してくれないし,それだけ難易度が高いことにチャレンジしているから,なかなかうまくいかないのはいいんだよと.とにかく粘り強く諦めずにやり続ける.できるまでやる.ちょっとやり方が,指導の仕方が昭和っぽいですけど,そこはやっぱりメーカーとしてこだわってやるべきことだと思います.
聞き手 そういうところが面白いんだよと.
上脇 そうですね.最後にでき上がったらやっぱりうれしいですしね.なかなかうまくいかなくて,そこを粘り強く取り組み,最終的にでき上がって,そしてお客様からいいねと言われると.今の時代は,お客様がSNSで買って「良かった.」というのがすごくダイレクトに見えるので,自分たちが開発した商品がそういうふうに一部のコアのお客様にでもすごく支持されていたら,いい仕事したなという喜びにつながるんじゃないかなと思っています.簡単にできるんだったら,誰かが過去にやっているはずなので.
聞き手 最終的なその品質の良し悪しというところは,もちろん化学データ,分析データもあると思うんですけど,官能評価というのはやっぱり避けられない.
上脇 そうですね.官能評価ですね.当然作っているメンバーでの官能評価もしますし,それ以上に食べるターゲットによって,同じものでもおいしいという世代と,おいしくないという世代がいらっしゃいます.たとえば糖質オフ商品について.糖質オフ商品というのは高甘味度甘味料を使っていて砂糖の甘味じゃないので,そこに関しての好みが分かれるんですね.20年以上前の昔の50代とか60代の人は,高甘味度甘味料ってすごく嫌いだったんですよね.たとえばスクラロースですとかステビアとか.でも,今の50代,60代の人は,小さいときからダイエット系の清涼飲料水とかに少し慣れ親しんでいるというのもあって,味覚も変わってきているのだと思っています.そのターゲットの人たちにちゃんとマッチする味なのか.それがもう女性と男性でも好みの味が違うので.だから,これって誰がターゲット? そこにやっぱりターゲットの人とキャッチボールしながらその味を磨いていく必要があるんですね.
聞き手 そうですよね.
上脇 はい.だから,私が好きなやつがそのまんま商品になっていることはないです.
聞き手 そうすると結構この各商品はどの世代ぐらいに売ろうというのが,初めのコンセプトに入っているということなのでしょうか.
上脇 そうですね.それは最初に設定します.研究所から当然開発アイデアを出すこともありますし,マーケティング部から,たとえば今回ここの層が抜けているので取っていきましょうと.たとえば,ある商品がそうなんですけども,20代,30代の独身の女性がターゲットになっているので甘さ抑えめで,思い切って甘さをかなり落としているんですよ.そこのターゲットがいいと言えばOK.それ以外の人は甘さが物足りないとか言う人も出てくるんですね.だから,そういうふうに食べ分けをしてもらう.おっしゃるとおりターゲットが誰なのか,それによって全然違ってくるかなと思いますね.通常はフルーツのほうが売れているんですけど,その商品に関してはフルーツがない方が売れて.おそらくわれわれの分析では,食べているターゲットの方がすごくナチュラル志向の若い方々で自然感を求めている.そういう意味ではイチゴよりはマカダミアとかアーモンドのほうがお客様の志向にあっているのかなと.イチゴの場合はFD(フリーズドライ)にしていて若干加工している.そういう要素も,多分これを選ばない理由なんじゃないかな,なんて,みんなで議論もしています.
聞き手 これは自分でアレンジできそうな商品ですね.
上脇 たぶんその世代の人たちはそういうふうにアレンジを楽しんでくださっているみたいな感じですね.本当にターゲットによって商品に期待されるものが違うので,それに合わせて味とか食感とか香りとか全部整えていかないといけないので,そういった意味では地道な作業でありますけど,ターゲットにドンピシャにはまればすごく高く評価される可能性があるので.
聞き手 そういうリサーチ力も重要になってきますね.
上脇 はい.ある程度経験を積んでくると,こういう感じがたぶんこの層にはいけそうだというのは何となくわかってくるんだと思うんですけど.
聞き手 もう1つのモットーとして,「科学はうそをつかない,でも人はうそをつく」という言葉がありましたが,こちらについて教えていただけますか.
上脇 はい.人がうそをつくというのは,悪い意味で言っているんではなくて,やっぱり間違った情報に振り回されてしまうので,その点を戒めとしています.われわれはすべてを自分の目で見て確認することはできないので,誰かの話を聞いて決めなきゃいけないじゃないですか? 最終的な商品を作るというのもそうです.そのときにはできるだけファクトベースで話をしてもらいたい.だけど,そこに意図せずとも解釈が必ず付いてくる.ものづくりにおいて,研究員の想いってすごく大事だと思うので,熱量自体はいいのですが,その思いや感情の部分とファクトはちゃんと切り離して報告して欲しいですね.特に海外の原料だといろいろな人の話を経由して来るので,かなり不正確な情報が入ってくるんですね.それが結果として「うそじゃん」みたいなことになってしまうんですけど,それはあえてうそをつこうとしているわけではなくて,いろいろなノイズみたいなのが入ってくるので本来のファクトと違う.だから,実際に現地に行ってみたら全然違ったねということがあるので,やはり現地で,現場で確認しないと.
聞き手 そういう意味でも現場,現地が重要なのですね.
上脇 はい.この商品に使っているマンゴーはインドから輸入しているんですね.私もインドに何回か行ってフルーツを収穫するところから確認して,それで最後はFDに加工して輸入しようと取り組んだんです.一通りチェックも済んで「じゃあ,これ作ろうね.」と言ってテスト的に量産してみた後に,何か黒い粒がついているサンプルが送られてきたんです.「これ何なんだろう.」と良く調べてみると,実は砂糖なんですね.われわれにはグラニュー糖といったらもう完全に溶かしたらきれいな透明というイメージしかないわけですよ.それがやっぱり現地の一般的な砂糖は多少色が付いていても,別に砂糖だよねというのがあったらしくって.そういえば日本では白いごはんに石粒が入っていることはないですけど,インドネシアとかに行ったときにごはんに石が付いていて,でもみんなそれを取って食べればいいじゃん,みたいな.そういう,いわゆる食のスタンダードの違いがやっぱり各国まだまだあるので,日本にいて研究所の中で見ているだけではわからないことは,現地に行ってみないと.そうすると砂糖をコストがかかっても少し純度の高い砂糖に切り替えていかないと,日本人の常識からしたら駄目だよねということがあるので.それはやはりちゃんと現地に見に行って,常にファクトに向き合う.わざとじゃなくてもそういった間違い,いろいろな形で結果として騙される可能性があるので,そこは部下にはいつも言っています.だから,やはり現地に行って確認するのが一番だよねということになりますね.
聞き手 実際に現地に足を運ばれて.
上脇 そうですね.基本的にはいろいろな所に行きますね.当然若い人たちと一緒にも行きますけど,やはり自分でも見た方が確実ですし.時間が取れれば行って目で確かめるようにはしています.日本の感覚そのままで海外の工場に行くと,これで大丈夫なのかって不安になることもあるのかなと思っています.原料の受け入れから始まって,出荷する前のチェック対策をどうするか,完全な品質管理に近づけるにはどうするか.やはり工場の設備や管理体制も,日本の最先端の工場と同等というのは難しいですから.その中でいかに,日本向けの品質まで引き上げるには「何をどうチェックしていくのか」というのは伝承していかなければならないと思うんですね.でも,逆に言うとそれが面白いです.たとえば,われわれ,いろんな海外の原料のサプライヤーもすごく前向きにやってくださるところが多く,そういう相手とビジネスしているので,一緒により良くしていこうよとやっていくのは楽しいなと思います.
聞き手 向こう側も技術的にアップできるので良い関係ですね.
上脇 そうですね.普通だったら農薬のチェックとかもそこまでシビアにやらないですけども,やっぱり毎ロット,ちゃんと全品農薬検査をして,ちゃんとOKなものを使う.先行サンプルを送ってねって言って,先行サンプルを送って分析して問題ないからOKみたいな.
聞き手 やはり日本の消費者は厳しいですか?
上脇 そうですね.日本の消費者の方は厳しいですし,農薬の検査なんかは当然きちんとやらないと法律にも触れますし,会社に対しての責任感,そして何より社会に対する責任という意味でも厳しくやっていくべきだと思っています.
聞き手 若い研究者やこれから就職を考えている学生などにメッセージがあればお願いできますか.
上脇 たぶんわれわれがやっているその開発研究とか,基礎研究とかも同じだと僕は思っているんですけども,結局自分のためにやるのが研究じゃないと思っているんですね.誰かの役に立つとか,誰かに貢献するとか,その研究した結果が人を幸せにするとか,そういうふうな思いでやるのが僕は研究開発だと思っていて.結局,まずそのためには「自分が楽しい」は大事.研究することを楽しまないと.やはり,苦痛だったらいい研究ってできないと思うんですよね.だから,まず研究を楽しんで欲しいと思います.あと昔は1人とか2人で研究って完結して,ペーパーなんてせいぜい2, 3人くらいしか名前が載らなかった時代もあったのですが,今の研究はプロジェクト型になって,いろいろな人とチームワークでやらないといけない時代に変わってきています.そうなるとチームワークが大事で,チームのメンバーがわくわくするようなことをぜひ若い皆さんに考えて欲しいなあと思います.そうすると絶対楽しいと思うんですよ,やること自体が.やはり一緒にやる人が楽しくできた研究成果が出たら,みんなで楽しめる.そういうような環境をみんなでつくっていったら,もっともっと研究の世界が広がるんじゃないかなとそう思っています.
聞き手 やはり研究開発,食品の開発というのは,若い学生から見るとキラキラした憧れのイメージがすごくあるんですけども,そういう開発における結構大変な点,いい点,今おっしゃった楽しくできるってあるんですけども,どういうところが大変というか,イメージするキラキラと違った面というところが何かエピソードとして挙げていただけば.
上脇 そうですね.思ったようにできないというのはやっぱりあると思うんですよ.たとえば糖質オフの商品では,やはりオーツ麦とか小麦を減らしていかなきゃいけない.そうするとたとえば大豆タンパクを使うんですけども,大豆を使うとどうしても大豆臭が出てくる.だから,大豆臭をいかに抑えるか.当然使っている大豆のフレークの研究からもやらないといけないし,マスキングというか,味や香りでごまかすというか,味や香りでカバーするみたいなこともやらないといけないのですが,なかなかそれって思ったようにできないんですよ.だけど,やはりそれにチャレンジしないと,そこから逃げていてはいいモノってできないと思うので,そこってすごく地道でトライ&エラーでしかないと思っています.
聞き手 ですよね.
上脇 はい.試行錯誤の世界が長いので,そんな一発で…….いや,食品ってやっぱり基本的にはいろんなものの組み合わせ,当然,化学的な知識があればあるほど少ないトライでゴールにたどり着くんですけども.
聞き手 でも,トライはしないと.
上脇 トライはしないといけない.
聞き手 トライ&エラーは絶対ありますよね.
上脇 はい.絶対出てくる.やってみないとわからない.たとえば温度のかけ方によって,ビスケットでは浮きが,シリアルとかだと膨化が違う.浮きや膨化が違えば食感が違う.食感の違いが当然味にも影響するので.すごく複雑に複合的に絡んでいるので,本当に粘り強くトライしなきゃいけない仕事ではあると思うんですよね.それがやっぱり根気よくできるか,できないか.簡単にポンと,1回,2回やればできるというもんじゃないので.パッケージも含めてお客様が魅力的に思えるような形にするけども,その中にはちょっとだけ根気強く粘り強くやる必要はあるかなと.
聞き手 そういう意味では,やはり大学院の研究で,うまくいかなかったけど,どうやって解決しようと試行錯誤する根気とストラテジーというんですかね.そういうのが大切になってくるんですね.
上脇 そうですね.だから,大学の実験ってうまくいかないことが多いじゃないですか,正直言って.それでもうまくいかないからやめるじゃなくて,うまくいかないからもっと工夫して次に行こうというふうな思いをもっている学生さんとかは,僕は向いているんじゃないかなと思っています.