巻頭言

魅力的な学会,大学,そして研究者であり続けたい

Hirofumi Aiba

饗場 浩文

名古屋大学大学院創薬科学研究科

Published: 2026-11-01

63歳の私は,日本農芸化学会2026年度大会(京都)で一般口頭発表をさせていただく機会を得た.私の初めての学会発表は,日本農芸化学会1986年度大会(京都)だったので,あれから実に40年の歳月が流れていた.同時に,100年を超える農芸化学会の歴史の重みを改めて感じる機会ともなった.私は6つの学会に入会しているが,近年は学会参加が減っていた.若い時期には研究成果を発表できることに喜びを覚え,新しい知識やアドバイスをいただけるのがとても魅力的であった.しかし歳を取るにつれ,研究成果の発表は学生に委ね,自身が学会に参加する意義を見出しづらくなっていたように思う.

久しぶりの一般口頭発表では,発表時間内に収まるよう練習をし,言いたいことをわかりやすく伝えるためのスライド作りにも時間を費やした.「スライド」と言ったのは昔の名残で,初めての発表時には,写真屋に原図を持ち込んで,映写用のスライドを作ってもらっていた.当然,余裕をもって完成させる必要があるので,準備も早く済ませなければならなかった.他方,現在は発表の直前まで修正が可能なので,発表準備に対する姿勢としては功罪があろう.さて当日だが,発表すること=他の研究者に向けて自分の頭の中をさらけ出し思考の過程と結果に対する考察を合理的に行うことは実に創造的で,対面での発表でなければ味わうことができない雰囲気もあり,心地よいストレスを感じた.質問も頂戴したが,それぞれ的を射た質問で痛いところを突かれたとも思ったが,ありがたく思いつつ研究の限界も含め誠実にお答えすることを心掛けた.この経験は,40年前にはじめて学会発表をし,若手時代に学会に楽しく参加していた時期を強く思い返すことになった.やはり現場でしか味わえない臨場感や,Face to Faceでの議論が自分にどれだけポジティブに作用するかを改めて感じることができた.

さて,いくつかの学会では会員の減少や学会の運営・維持が難しくなってきていると聞く.合理的に考えれば,学会の解散や離合集散は避けられず,絶えず新陳代謝は起こるべきだと思う.現在中部支部長として学会本部の仕事にも関わらせていただいているが,農芸化学会を支えているのは,献身的な本部役員と職員であることがよくわかった.同様に支部活動を支えているのも支部役員の献身的・創造的な活動である.これらが確立され維持されているのが農芸化学会の強みであり,伝統の力なのだろう.加えて,互いを知るために欠かせないコミュニケーションの術も,農芸化学会は得意であるように思う.

魅力的な学会を維持するにはどうすればよいだろう? 年次大会への参加は,かけがえのない機会となるので学生の旅費を援助している支部もあると聞くが,十分な援助をするには予算が足りない.学会の未来は,学生をはじめとする若手に依存するので,集中的な支援策を講じることは未来への投資になるはずだ.

経団連(日本経済団体連合会)が,科学技術立国戦略2026.5.19において,以下のコメントをしている.

大学人としては「?」の部分もあるが,社会の理解を得ながら成長する大学・学会であることが必要なのは言うまでもない.

日本には世界最古の会社があるという.創業は飛鳥時代の西暦578年だそうだ.存続した理由は,「社会に必要な役割を持ち続けた」ことであり,技術を継承しつつも,時代に合わせる柔軟性を持っていたことにあるようだ.経団連のコメントも踏まえ,変革時期にあっても泰然として立ち位置を確立しつつ,柔軟に学び,改革を進めて発展する農芸化学会であって欲しいと願っている.