農芸化学@High School

新潟が誇る発酵調味料“かんずり”の謎に迫る!

近藤 美羽

長岡工業高等専門学校,赤澤研プレラボ班

小野寺 花柑

長岡工業高等専門学校,赤澤研プレラボ班

Published: 2026-11-01

新潟県妙高市の伝統発酵調味料“かんずり”注1の製法には,“雪さらし”と呼ばれる特徴的な工程と,3年間にわたる熟成・発酵工程がある.雪さらしには塩分低減効果や雑味除去効果が,原料である唐辛子や柚子には抗酸化作用があるとされているが,これらの効果を裏付ける科学的知見は十分でない.そこで,本研究では特徴的な製造工程が塩分,糖生成および抗酸化能に及ぼす影響を検討した.その結果,雪さらし工程では塩分低減効果が,熟成工程ではグルコース量が増加することが示唆された.また,かんずり懸濁液を調製してリンゴ褐変化抑制試験を行ったところ,かんずりに含まれる塩分以外の成分も褐変化抑制に関与する可能性が示唆された.さらに,DPPH法による抗酸化試験を行ったところ抗酸化能も確認された.以上より,かんずりの伝統的な製法には機能性を向上させるさまざまな“知恵”が詰まっていることが明らかとなった.

本研究の目的・方法・結果および考察

【研究の動機,背景と目的】

新潟県の特産品として米や日本酒は広く知られているが,県内には地域の気候や風土に根ざした多様な発酵食品も数多く存在する.越後味噌や醤油をはじめ,下越地方の身欠きにしんの糀漬けや中越地方・長岡のきりざい等,寒冷な環境下で食材を長期保存する知恵として,独自の発酵食文化が育まれてきた.しかし,これらの発酵食品とその文化的・機能的価値は,必ずしも広く認知されているとはいえない.そこで,新潟県の食文化の魅力を発信する一環として,長岡技術科学大学が主催し,全国の高等専門学校生(以下高専生)が参加する通称“発酵コンテスト”において,本校では県内各地の発酵食品を対象に,その歴史的背景および機能性を調査・発表してきた(1~3)1) 「発酵を科学する」アイディア・コンテスト:ウェブサイト.https://www.microorganisms.jp/2) 近藤美羽,小野寺花柑(指導教員:赤澤真一):~謎多き発酵食品~かんずりの魅力を追求!.第9回「発酵を科学する」アイディア・ライブラリー—SEASON. 3—愛すべき郷土の「発酵おかず」(通称:発酵コンテスト).No. 15. 米百俵プレイス・ミライエ長岡(新潟県,長岡市)(2025).3) 近藤美羽,安藤真悠花(指導教員:赤澤真一):身欠きにしんの糀漬けとは?~糀の魅力に迫る~.第8回発酵コンテスト.No. 4. 米百俵プレイス・ミライエ長岡(新潟県,長岡市)(2024)..本年度は,これまでの取り組みを踏まえ,上越地方に伝わる発酵調味料“かんずり”に着目し,伝統的な製造工程が呈味や機能性に及ぼす影響について調査した.

“かんずり”は新潟県妙高市に古くから伝わる発酵調味料で,鍋,湯豆腐,焼き鳥等さまざまな食品の薬味や隠し味として用いられる.長年に及ぶ品種改良により誕生した通常の唐辛子より大きい10 cmにも及ぶ肉厚な唐辛子に,米麹,柚子および食塩を加え,3年間熟成・発酵させて製造される(図1図1■かんずりの製造工程と実験項目).製造工程の特徴として,唐辛子を数カ月塩漬けした後,真冬の大寒の時期に雪原へ広げる“雪さらし”がある.雪さらしは,塩漬けした唐辛子を数日間雪上にさらす工程で,見た目も美しくかんずりを特徴づける伝統製法の一つである(図1図1■かんずりの製造工程と実験項目).ちなみに,大寒の日に仕込むことから,“寒造里”とも称される.3~4日間雪にさらした後(この間の降雪により唐辛子は雪に埋もれる),洗浄・粉砕し,柚子,米麹および塩を加えて3年間熟成・発酵させ,足かけ4年で完成する(詳細は有限会社かんずりウェブサイト参照)(4)4) 有限会社かんずり:ウェブサイト.https://kanzuri.com/.製造元の有限会社かんずりへの取材では,「雪さらしはどのような意味があるのか」「3年間熟成させるのはなぜか」といった疑問が生じた.雪さらしにより「塩味やあくが抜けてまろやかになる」,熟成により「深い味わいになる」と説明されたが,これらを裏付ける科学的データはなかった.そこで本研究では,特徴的な製造工程が塩分,糖生成および抗酸化能に及ぼす影響を検討した.

図1■かんずりの製造工程と実験項目

実験1~4については本文参照のこと.

具体的には,1)雪さらしを模した処理による塩分低減効果,2)α-アミラーゼ活性とグルコース量の関係からみた熟成効果,3)かんずりの機能性としてあげられる抗酸化能について,リンゴの褐変化抑制試験およびDPPH(2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl)ラジカル消去アッセイによる抗酸化能を評価した.以上より,伝統的な製造工程が,かんずりの呈味成分および機能性に及ぼす影響の一端を明らかにすることを目的とした.

【実験方法】

各実験項目と製造工程との関連を図1図1■かんずりの製造工程と実験項目に示した.

1. 雪さらしおよび代替法による唐辛子の減塩効果の検証

1.1 塩漬け唐辛子の作成

唐辛子20本をチャック付きビニール袋内で塩分濃度30%となるよう塩漬けし,25°Cのインキュベーターで3日間静置した.

1.2 塩漬け唐辛子の減塩効果を指標とした雪さらし効果と代替法の検証

雪は市販のかき氷器で作製したかき氷で代用し,代替材料には灰と米糠を用いた.灰および米糠に唐辛子3本ずつを埋めた.かき氷区では,雪解け水を逃がすため,タッパー底に割り箸をはしご状に敷き,その上にガーゼ1枚を敷き,唐辛子3本をかき氷で挟んだ.真冬の妙高地方の日中および夜間の温度条件を再現するため,すべてのサンプルを8~17時は4°Cの保冷庫,17時~翌8時は0°C程度に保った状態で保冷庫に置き,この操作を3日間繰り返した.処理後,唐辛子を乳鉢で粉砕し,塩分濃度を測定した.

1.3 水の減塩効果の検証

1.1で作製した塩漬け唐辛子3本ずつを,10 Lまたは150 mLのイオン交換水に浸漬した.経時的に取り出し,乳鉢で粉砕し,塩分を測定した.

2. 簡易的な熟成期間の再現と熟成期間中のα-アミラーゼ活性およびグルコース量の測定

1.2の雪さらし模擬処理後の唐辛子3本を乳鉢で粉砕した.唐辛子粉末6.0 gに,あらかじめ乳鉢で砕いた柚子0.2 g,55°Cで湯煎した麹(みやここうじ)4.2 gおよび塩0.4 gを加えて混合し,25°Cで2週間静置した.経時的に採取した試料をリン酸緩衝液に懸濁し,遠心分離した後,上清のα-アミラーゼ活性およびグルコース量を,α-アミラーゼ活性測定キット(Kikkoman Biochemifa)およびLabAssay Glucose(FUJIFILM Wako)で測定した.

3. リンゴ褐変化抑制試験によるかんずり懸濁液の褐変化抑制効果の検証

かんずりおよびキムチ各10 gを250 mLのイオン交換水に懸濁した溶液,緑茶(市販のペットボトル),0.18%食塩水(かんずり懸濁液の実測塩分濃度)および0.48%食塩水(かんずり製品の食品成分表示に基づく塩分濃度)を各250 mL用意した.16等分したリンゴ(サンふじ)を各溶液に浸漬し,経時的な色調変化を観察した.

4. DPPH(2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl)法によるかんずりの抗酸化試験

3で調製した試料(未乾燥サンプル)とその試料を凍結乾燥させた物(凍結乾燥サンプル)の抗酸化活性を,DPPH Antioxidant Assay Kit(Dojindo Laboratories)で測定し,Trolox等価活性(Trolox-Equivalent Antioxidant Capacity: TEAC)として評価した.TEACは試料100 gまたは100 mL当たりに換算した.

【結果と考察】

1. 雪さらしおよび代替法による唐辛子の減塩効果の検証

かんずりの特徴的な製造工程である“雪さらし”には減塩効果があるとされるが,科学的根拠は不明であった.また,地球温暖化により将来雪さらしが困難になる場合を想定し代替法も検討した.その結果,雪さらしを模したかき氷法の塩分減少率は41%と高かった.灰と米糠を代替とした場合では,米糠の減塩効果が高く(減少率21.5%),代替法として利用可能であることが示唆された.次に,かき氷法の効果は水への塩分拡散によると考え,水による減塩効果を検証した.その結果,10 Lの水による脱塩処理(減少率55.7%)は,150 mLの水処理(減少率35.4%)より効果が高かったが,少量でも十分脱塩効果があることが明らかとなった.

以上より,雪さらしの減塩効果には雪解け水が大きく関与し,米糠は代替法として利用可能であることが示唆された.

2. 簡易的な熟成期間の再現と熟成期間中のα-アミラーゼ活性およびグルコース量の測定

かんずりは3年間の熟成を経て完成し,熟成中に辛味がまろやかになるとされるが,実験的な検証例はない.そこで,熟成工程を簡易的に再現し,2週間のα-アミラーゼ比活性とグルコース量を測定し,グルコース量が増加するか調査した.その結果,α-アミラーゼの比活性は1週間後に増加したが(1.37倍),2週間後には仕込み直後より低下した(0.72倍).一方,グルコース量は経時的に増加し,2週間後には6.32倍となった.これは,α-アミラーゼ活性が低下しても残存酵素が作用し続けたこと,さらにセルラーゼ等アミラーゼ以外の糖化酵素が作用したことにより,グルコース量が継続的に増加したためと考えられた.

実験期間は2週間であったが,熟成期間の重要性が示唆された.実際の製造工程を経時的に検討することで,かんずりにおける熟成期間の重要性を明らかにできると考えられた.

3. リンゴ褐変化抑制試験によるかんずり懸濁液の褐変化抑制効果の検証

かんずりに含まれる唐辛子や柚子には抗酸化作用があるとされているが,かんずり自体の効果は不明である.そこで,リンゴ褐変化抑制試験により褐変化抑制効果を評価した.その結果,0.48%食塩水(成分表示に基づく理論塩分濃度)が最も高い抑制効果を示し,次いでかんずり懸濁液であった(図2図2■各サンプルにおけるリンゴの褐変化抑制効果).かんずり懸濁液中の塩分がリンゴの褐変化抑制に関与すると考えられたが,実測塩分濃度に相当する0.18%食塩水より褐変化を抑制したため,塩分以外のポリフェノールオキシダーゼ阻害物質の関与も示唆された.また,カビの発生も抑制されたことから(図2図2■各サンプルにおけるリンゴの褐変化抑制効果),抗菌性を有する成分の存在も示唆された.

図2■各サンプルにおけるリンゴの褐変化抑制効果

0.18%食塩水:かんずり水の塩分濃度,0.48%食塩水:かんずり製品の成分表示量に基づいたかんずりに含まれる理論塩分量.N=2で実験.

4. DPPH(2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl)法によるかんずりの抗酸化試験

DPPH法による抗酸化試験を行い,Trolox等価活性(Trolox-Equivalent Antioxidant Capacity: TEAC)として比較した(表1表1■各サンプルのTrolox等価活性(TEAC)).その結果,凍結乾燥および未乾燥試料の両方で緑茶が最も高い抗酸化能を示した.Georgeらは,測定法は異なるものの,緑茶がトウガラシ属試料より高い抗酸化能を示したと報告しており(5)5) J. George, D. Edwards, S. Pun & D. Williams: Int. J. Food Sci., 2022, 2581470 (2022).,その傾向は本結果と一致した.一方,リンゴ褐変化抑制試験では,かんずり懸濁液が緑茶より褐変を抑制したことから,ポリフェノールオキシダーゼ抑制効果はかんずりの方が高いと考えられた.

表1■各サンプルのTrolox等価活性(TEAC)
サンプル名TEAC
凍結乾燥サンプル
(µTE/µg)
未乾燥サンプル
(µmolTE/100 mL or 100 g)
緑茶8.68×10−1±0.19840.9±188
キムチ1.92×10−3±0.00156.4±16.5
かんずり1.24×10−3±0.00190.9±11.4
* TEAC: Trolox-Equivalent Antioxidant Capacity.

本研究の意義と展望

伝統製法である“雪さらし”は,その美しい景観をもたらすこともさることながら,科学的には唐辛子の塩分を低減する効果があるということが,今回の研究によって示唆された.また,雪さらしによる塩分低減には,雪解け水への塩分の溶出が関与すると考えられた.塩分以外の辛味成分等の変化については今後さらに検証する必要がある.

また,短期間の模擬熟成実験ではあるものの,熟成中にグルコース量が増加したことから,発酵・熟成に伴う糖の生成が,かんずりの呈味に影響する可能性が示唆された.今後,各製造・熟成段階における微生物叢解析や酵素活性測定により,微生物の変遷と呈味成分や機能性成分の変化との関係を明らかにできる可能性がある.

発酵食品の機能性に関する研究は多い一方,製造工程の意義を科学的に検証した研究は必ずしも多くない.本研究は,雪さらしおよび発酵・熟成を,塩分,酵素活性,糖生成および抗酸化能の観点から検討した点に意義がある.今後,製造工程を詳細に解析することで,職人の経験として継承されてきた技術や伝統製法の科学的合理性を明らかにし,伝統食品の価値の再評価,品質管理および製造技術の継承に貢献できると期待される.

Acknowledgments

取材にご協力いただいた有限会社かんずり代表取締役社長の東條昭人様をはじめ関係者の皆様に深く感謝致します.

Reference

1) 「発酵を科学する」アイディア・コンテスト:ウェブサイト.https://www.microorganisms.jp/

2) 近藤美羽,小野寺花柑(指導教員:赤澤真一):~謎多き発酵食品~かんずりの魅力を追求!.第9回「発酵を科学する」アイディア・ライブラリー—SEASON. 3—愛すべき郷土の「発酵おかず」(通称:発酵コンテスト).No. 15. 米百俵プレイス・ミライエ長岡(新潟県,長岡市)(2025).

3) 近藤美羽,安藤真悠花(指導教員:赤澤真一):身欠きにしんの糀漬けとは?~糀の魅力に迫る~.第8回発酵コンテスト.No. 4. 米百俵プレイス・ミライエ長岡(新潟県,長岡市)(2024).

4) 有限会社かんずり:ウェブサイト.https://kanzuri.com/

5) J. George, D. Edwards, S. Pun & D. Williams: Int. J. Food Sci., 2022, 2581470 (2022).

注1伝統食品としてのかんずりは古くから存在していたが,その伝統を途絶えさせないため,また広く認知度を向上させるために,現在では有限会社かんずりによって登録商標されている.