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反応に金属を要求するPLP酵素: 細菌から鳥類まで

和田

Masaru Wada

北海道大学大学院農学研究院Research Faculty of Agriculture, Hokkaido University ◇ 〒060-8589 北海道札幌市北区北9条西9丁目 ◇ Nishi 9, Kita 9, Kita-ku, Sapporo, Hokkaido 060-0808, Japan

安武 義晃

Yoshiaki Yasutake

独立行政法人産業技術総合研究所生物プロセス研究部門Bioproduction Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) ◇ 〒062-8517 北海道札幌市豊平区月寒東2条17丁目2-1 ◇ 2-17-2-1 Tsukisamu-Higashi, Toyohira-ku, Sapporo, Hokkaido 062-8517, Japan

Published: 2014-10-01

アミノ酸は,タンパク質を構成する要素であるのみならず,生体調節物質としての働きも担う極めて重要な化合物である.また,タンパク質を構成する20種のL体アミノ酸以外にも,D体アミノ酸や,非タンパク質性アミノ酸,特殊アミノ酸と言われるアミノ酸類もさまざまな生理活性をもつ.たとえば,哺乳類の中枢神経系にはD-セリンが存在し,グルタミン酸受容体の活性を調節していることが明らかになっている.これらのアミノ酸の代謝にかかわる酵素の多くは,ピリドキサール5′-リン酸(PLP)依存性であり,古細菌から哺乳類に至るまで,すべての生物に存在する.もちろん,ヒトにもこれらPLP酵素は存在し,GOT(グルタミン酸-オキサロ酢酸トランスアミナーゼ),GPT(グルタミン酸-ピルビン酸トランスアミナーゼ)などは人間ドックでもお馴染みの検査項目である.

PLP酵素は,その立体構造(Folding pattern)の相違に基づき,5種類の異なるグループ(Fold-type I–V)が報告されている(1)1) 吉村 徹:生化学,80, 324 (2008)..たとえば,先述のGOT, GPTはFold-type Iに,細菌に広く分布するアラニンラセマーゼはFold-type IIIに分類される.また,大腸菌などの細菌に存在するD-セリンの脱アミノ化反応を触媒するD-セリンデヒドラターゼ(DsdA)はFold-type II(図1B図1■デヒドラターゼ反応とそれらを触媒する酵素の立体構造)の酵素であり,セリン/スレオニンデヒドラターゼと呼ばれるグループに属する(2)2) D. V. Urusova et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1824, 422 (2012)..興味深いことに,異なるFold-typeに分類されるPLP酵素間に,立体構造の相同性は全く認められない.すなわち,それぞれのFold-typeに属するPLP酵素は,異なる祖先タンパク質から独立に進化し,それぞれの機能を獲得してきたと考えられる.

図1■デヒドラターゼ反応とそれらを触媒する酵素の立体構造

(A)D-スレオ-3-ヒドロキシアスパラギン酸デヒドラターゼ(D-THA DH)反応とD-セリンデヒドラターゼ(DSD)反応.ともにヒドロキシアミノ酸の脱アミノ化反応を触媒する.(B)大腸菌由来のDsdAタンパク質(2)2) D. V. Urusova et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1824, 422 (2012).,(C)ニワトリ由来のDSDタンパク質(6)6) H. Tanaka, M. Senda, N. Venugopalan, A. Yamamoto, T. Senda, T. Ishida & K. Horiike: J. Biol. Chem., 286, 27548 (2011).活性中心近傍にPLP以外に亜鉛イオンが観察される.両者は全く同一の反応を触媒するが,一次構造の相同性も,立体構造の相同性もない.

PLP酵素は,上述のように重要な機能をもつものが多くあり,古くから盛んに研究されている一方で,近年では新規PLP酵素の報告は少なくなっている.そのような状況のなか,筆者らは非タンパク質性アミノ酸であるD-スレオ-3-ヒドロキシアスパラギン酸(D-THA)を基質としてスクリーニングを行い,グラム陰性土壌細菌であるDelftia sp. HT23より新規な酵素D-スレオ-3-ヒドロキシアスパラギン酸デヒドラターゼを発見した(D-THA DH)(3)3) T. Maeda, Y. Takeda, T. Murakami, A. Yokota & M. Wada: J. Biochem., 148, 705 (2010)..本酵素はD-THAの脱アミノ化反応を触媒し(図1A図1■デヒドラターゼ反応とそれらを触媒する酵素の立体構造),その触媒反応の共通性から,Fold-type IIである細菌由来D-セリンデヒドラターゼのホモログであるだろうと推測された.ところが実際にアミノ酸配列を決定してみると,細菌のアラニンラセマーゼと同じFold-type IIIのPLP酵素であることが明らかになった.決定した一次構造を元にデーターベース検索を行うと,多数のグラム陰性細菌のputative alanine racemaseがヒットしたが,機能が確認されているものはほとんどなく,真核生物である出芽酵母(4)4) T. Ito, H. Hemmi, K. Kataoka, Y. Mukai & T. Yoshimura: Biochem. J., 409, 399 (2008).Saccharomyces cerevisiae)およびニワトリ(5)5) H. Tanaka, A. Yamamoto, T. Ishida & K. Horiike: J. Biochem., 143, 49 (2008).由来のD-セリンデヒドラターゼ(DSD)と30%程度のアミノ酸配列相同性を示した.これら真核生物のDSDは,亜鉛依存性のPLP酵素であり,細菌由来のDsdAとは一次構造も反応機構も異なる.ニワトリ酵素は立体構造解析も行われ(図1C図1■デヒドラターゼ反応とそれらを触媒する酵素の立体構造),亜鉛が関与する反応機構が推定されている(6)6) H. Tanaka, M. Senda, N. Venugopalan, A. Yamamoto, T. Senda, T. Ishida & K. Horiike: J. Biol. Chem., 286, 27548 (2011).D-THA DHが本来含有している金属が何かは不明であるが,少なくとも亜鉛を含むことを確認している(和田未発表データ).D-THA DHは酵母の酵素と異なり,亜鉛以外の2価金属でも活性を発揮するなど,興味深い特徴をもつが,基本的な反応機構は酵母やニワトリ由来のDSDと類似していると考えられた.しかし,本酵素はD-セリンを良い基質とせず,Delftia sp. HT23中においてD-THAで誘導されることなどから,DSDではないと考えられる.また,これらの酵素は同じく反応に2価金属を要求する細菌由来のD-スレオニンアルドラーゼとも相同性を示した(7)7) J.-Q. Liu, T. Dairi, N. Itoh, M. Kataoka, S. Shimizu & H. Yamada: J. Biol. Chem., 273, 16678 (1998)..これらのFold-type IIIのDSD様PLP酵素は細菌から鳥類まで分布しているが,古細菌,植物,昆虫,そしてなぜか哺乳類には存在していない(8)8) 田中裕之,山本 篤,石田哲夫,堀池喜八郎:蛋白質核酸酵素,54, 1190 (2009)..一方,筆者らはL-スレオ体の3-ヒドロキシアスパラギン酸(L-THA)に作用する酵素(L-THA DH)も細菌(9)9) T. Murakami, T. Maeda, A. Yokota & M. Wada: J. Biochem., 145, 661 (2009).と出芽酵母(10)10) M. Wada, S. Nakamori & H. Takagi: FEMS Microbiol. Lett., 225, 189 (2003).に見いだしているが,こちらはDsdAと同様にセリン/スレオニンデヒドラターゼグループに属するFold-type IIの酵素であった.

まとめると,Fold-type IIIに属するPLP酵素には,以前から知られていた細菌のアラニンラセマーゼや真核生物のオルニチンデカルボキシラーゼに加えて,真核生物のDSD,原核生物のD-THA DH,D-スレオニンアルドラーゼが含まれることが明らかとなった.比較的新しく見つかったこれらの酵素は,由来となる生物種は細菌,真菌,鳥類とさまざまだが「D体のヒドロキシアミノ酸に作用する」「反応に2価金属を要求する」という特徴がある.データーベース上のアノテーションに“putative alanine racemase”ではなく“metal-activated PLP enzyme”と表記している機能未知タンパク質も増えてきたようだ.PLP酵素は同じFold-typeでも,ラセマーゼだったりトランスアミナーゼだったりと,触媒する反応がさまざまであり,一次構造から機能を予測することが難しい.今回紹介したD-THA DHもニワトリDSDも,スクリーニングや酵素精製といった古典的な方法で取得されている.アミノ酸変換酵素は「やりつくされた感」があるが,バイオインフォマティクス全盛の今日においても,旧来の方法論がまだまだ必要と感じた次第である.これらの酵素の反応機構などの詳細な解析は,PLP酵素に関する理解を深めるだけでなく,D-アミノ酸が関与する疾患の治療薬の開発などにもつながると思われる.今後の研究の発展に期待したい.

Reference

1) 吉村 徹:生化学,80, 324 (2008).

2) D. V. Urusova et al.: Biochim. Biophys. Acta, 1824, 422 (2012).

3) T. Maeda, Y. Takeda, T. Murakami, A. Yokota & M. Wada: J. Biochem., 148, 705 (2010).

4) T. Ito, H. Hemmi, K. Kataoka, Y. Mukai & T. Yoshimura: Biochem. J., 409, 399 (2008).

5) H. Tanaka, A. Yamamoto, T. Ishida & K. Horiike: J. Biochem., 143, 49 (2008).

6) H. Tanaka, M. Senda, N. Venugopalan, A. Yamamoto, T. Senda, T. Ishida & K. Horiike: J. Biol. Chem., 286, 27548 (2011).

7) J.-Q. Liu, T. Dairi, N. Itoh, M. Kataoka, S. Shimizu & H. Yamada: J. Biol. Chem., 273, 16678 (1998).

8) 田中裕之,山本 篤,石田哲夫,堀池喜八郎:蛋白質核酸酵素,54, 1190 (2009).

9) T. Murakami, T. Maeda, A. Yokota & M. Wada: J. Biochem., 145, 661 (2009).

10) M. Wada, S. Nakamori & H. Takagi: FEMS Microbiol. Lett., 225, 189 (2003).