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超好熱アーキアの低温誘導性遺伝子に見いだされた新しい発現調節配列: 低温誘導は,高温で特異的な転写終結で起こる?

Shinsuke Fujiwara

藤原 伸介

関西学院大学理工学部生命科学科Department of Bioscience, School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University ◇ 〒669-1337 兵庫県三田市学園2-1 ◇ 2-1 Gakuen, Sanda-shi, Hyogo 669-1337, Japan

Published: 2014-11-01

超好熱菌とは80°C以上で生育する微生物の総称である.その多くはドメイン・アーキアに属し,硫黄成分の豊富な熱水噴出口など,いわゆる原始地球に近い環境に棲息している.超好熱菌は分子系統樹(universal tree)でも根に近いところに位置しており,生命の起源が好熱性生物であるという考えの根拠にもなっている.超好熱性アーキアのPyrococcus属とThermococcus属はともにThermococcales目の絶対嫌気性の従属栄養微生物であり,分子系統的にも近い.Bergey’s manualによれば両者を分ける決定的な違いは生育温度範囲である.Thermococcus属(50~103°Cで生育)はPyrococcus属(67~103°Cで生育)に比べて低い温度でも生育する.Thermococcus属のゲノムサイズはPyrococcus属のそれよりも約200 kbほど大きい.比較ゲノム解析によりThermococcus属にはPyrococcus属にはない約600種類の遺伝子が確認された(1)1) T. Fukui, H. Atomi, T. Kanai, R. Matsui, S. Fujiwara & T. Imanaka: Genome Res., 15, 352 (2005)..また前者には後者に比べて同じ機能をもつ遺伝子(パラログ)が多く,そのいくつかが培養温度に依存して発現する.この中には転写因子TFB(2)2) R. Hidese, R. Nishikawa, L. Gao, M. Katano, T. Imai, S. Kato, T. Kanai, H. Atomi, T. Imanaka & S. Fujiwara: Extremophiles, (2014), in press. 10.1007/s00792-014-0638-9,分子シャペロニン(3)3) S. Fujiwara, R. Aki, M. Yoshida, H. Higashibata, T. Imanaka & W. Fukuda: Appl. Environ. Microbiol., 74, 7306 (2008).,プレフォルディン(4)4) A. Danno, W. Fukuda, M. Yoshida, R. Aki, T. Tanaka, T. Kanai, T. Imanaka & S. Fujiwara: J. Mol. Biol., 382, 298 (2008).,RNAヘリカーゼ(5)5) Y. Shimada, W. Fukuda, Y. Akada, M. Ishida, J. Nakayama, T. Imanaka & S. Fujiwara: Biochem. Biophys. Res. Commun., 389, 622 (2009).などがある.Thermococcus kodakarensisは85°Cを至適温度として60~93°Cで生育するが,低温誘導型の分子シャペロニンの遺伝子cpkAを破壊すると低温(60°C)では生育しない(3)3) S. Fujiwara, R. Aki, M. Yoshida, H. Higashibata, T. Imanaka & W. Fukuda: Appl. Environ. Microbiol., 74, 7306 (2008)..CpkAは低い温度で変性する耐熱性タンパク質を特異的に認識し,再生していると予想されるが,特異的な標的タンパク質群が存在することも明らかになっている(6)6) L. Gao, A. Danno, S. Fujii, W. Fukuda, T. Imanaka & S. Fujiwara: Appl. Environ. Microbiol., 78, 3806 (2012)..またDEAD型RNAヘリカーゼTK0306の遺伝子を破壊すると60°Cで増殖後に溶菌する.TK0306は低温(60°C)で機能するRNAヘリカーゼであり,ステム構造をとっているRNAをほぐす(5)5) Y. Shimada, W. Fukuda, Y. Akada, M. Ishida, J. Nakayama, T. Imanaka & S. Fujiwara: Biochem. Biophys. Res. Commun., 389, 622 (2009).(unwindする).T. kodakarensisにはこれら以外にも特異的な低温誘導遺伝子は存在するが,発現誘導の機構は明らかではなかった.

この点を調べるためにT. kodakarensisTK0306遺伝子で制御領域の探索が行われた.TK0306遺伝子は158塩基にも及ぶ非翻訳領域(5′UTR)をもっており,当初はこの領域の構造が制御に関与していると考えられた(5)5) Y. Shimada, W. Fukuda, Y. Akada, M. Ishida, J. Nakayama, T. Imanaka & S. Fujiwara: Biochem. Biophys. Res. Commun., 389, 622 (2009)..ところが領域探索を行った結果,低温誘導を支配したのは,SD配列(Shine-Dalgarno配列:16S rRNAが結合するリボソーム結合部位)と開始コドンに挟まれたアデニンの連続するAAAAA配列であった(7)7) E. Nagaoka, R. Hidese, T. Imanaka & S. Fujiwara: J. Bacteriol., 195, 3442 (2013)..この配列を発現に温度依存を示さないグルタミン酸脱水素酵素(GDH)のSD配列と開始コドンの間に挿入すると明確な低温誘導性が示された.この配列はどのような機構で低温での誘導を調節しているのであろうか.

この現象を考察するのに参考となる興味深い論文が発表されている.Santangeloらは超好熱性アーキアの転写終結が,チミンの連続するTTTTTTTTTという配列で起こることを示している(8)8) T. J. Santangelo, L. Cubonová, K. M. Skinner & J. N. Reeve: J. Bacteriol., 191, 7102 (2009)..バクテリアのρ因子非依存性のターミネーターはパリンドローム配列によって作られる安定なステムループ構造と,その直後に存在するTの連続配列が機能単位である.ステム構造により,mRNAと鋳型DNAでつくられるハイブリッドがTの連続部分で不安定となりmRNAがDNAから外れ,転写が終結する.超好熱性アーキアの転写もTTTTTTTT配列のところで終結するが,ステム構造は必要ない(8)8) T. J. Santangelo, L. Cubonová, K. M. Skinner & J. N. Reeve: J. Bacteriol., 191, 7102 (2009)..今回低温誘導の要因となったAAAAA配列も,SD配列に近接する場合は,温度に依存して転写終結を起こすのかもしれない.mRNA分子はこの領域では16S rRNAと鋳型DNAとの間で水素結合をする塩基対のためのパートナーを奪い合う状態になっており,安定性に影響を及ぼしていると思われる.特に温度が高くなるにつれてmRNAが外れやすくなるとすればTK0306遺伝子の発現調節は,mRNAの外れる効率,つまり転写終結効率の違いでなされていると考えられる.この領域に一つでもGやCが入ると誘導性は見られなくなる.おそらくGやCによりmRNAとDNAのハイブリッドは安定化し,85°Cでも転写終結しないのであろう.一方,ATTTTやTTTTTという配列でも低温依存性の発現は認められる.以上の結果から考えると超好熱菌の低温依存的な発現は,構造遺伝子の手前で起こる温度依存的転写終結(temperature dependent premature termination)によりなされていると推察できる.T. kodakarensisを用いたトランスクリプトーム解析では低温(60°C)で高温(85°C)に比べ4倍以上の発現量増加が見られた遺伝子は50個あり,そのうちの40個でAまたはTに富む配列がSD配列から開始コドンまでに認められた.これらの遺伝子においてもTK0306遺伝子と同様な制御系が機能している可能性は高い.また,超好熱菌で温度依存的に発現する分子のうち,RNAやDNAと相互作用する分子の関与も考えうる.生育温度の上昇に伴い,分岐鎖構造のポリアミン量は増えてくるが,その機能は不明な点が多い(9)9) K. Okada, R. Hidese, W. Fukuda, M. Niitsu, K. Takao, Y. Horai, N. Umezawa, T. Higuchi, T. Oshima, Y. Yoshikawa et al.: J. Bacteriol., 196, 1866 (2014)..分岐鎖ポリアミンは塩基性物質でtRNAのループ部分など構造をとった核酸分子と親和性が高い.低温になるに従いその細胞内含量は減少するが,この減少は低温誘導性遺伝子の発現に影響を与えているかもしれない.

図1■超好熱菌の温度依存的転写終結

低温(60°C)ではmRNAは鋳型DNAに結合し,転写終結しないため,構造遺伝子は発現する.高温(85~93°C)では,AAAAAの配列でmRNAとDNAのハイブリッドが不安定化し,mRNAが遊離する.これ以降の構造遺伝子は発現しない.

Thermococcus属にはPyrococcus属に比べてパラログが多い.これらのいくつかはストレス環境下で発現し,生育を支えているものだ.たとえば低温ストレス下で機能するようになったパラログは,低温環境下で特異的に発現するようになっている.これら低温誘導性の遺伝子が,至適生育環境下で高発現すると不都合があるのだろうか.おそらく至適温度下では別のオルソログが発現・機能するため,エネルギー(ATP)は浪費されるであろう.進化の過程ではこのような無駄を防ぐための制御機構を獲得したものが,優位に生き残ったと考えられる.今回紹介した低温誘導機構が,Thermococcales目以外の超好熱菌でも見られるのか興味のもたれるところである.

Reference

1) T. Fukui, H. Atomi, T. Kanai, R. Matsui, S. Fujiwara & T. Imanaka: Genome Res., 15, 352 (2005).

2) R. Hidese, R. Nishikawa, L. Gao, M. Katano, T. Imai, S. Kato, T. Kanai, H. Atomi, T. Imanaka & S. Fujiwara: Extremophiles, (2014), in press. 10.1007/s00792-014-0638-9

3) S. Fujiwara, R. Aki, M. Yoshida, H. Higashibata, T. Imanaka & W. Fukuda: Appl. Environ. Microbiol., 74, 7306 (2008).

4) A. Danno, W. Fukuda, M. Yoshida, R. Aki, T. Tanaka, T. Kanai, T. Imanaka & S. Fujiwara: J. Mol. Biol., 382, 298 (2008).

5) Y. Shimada, W. Fukuda, Y. Akada, M. Ishida, J. Nakayama, T. Imanaka & S. Fujiwara: Biochem. Biophys. Res. Commun., 389, 622 (2009).

6) L. Gao, A. Danno, S. Fujii, W. Fukuda, T. Imanaka & S. Fujiwara: Appl. Environ. Microbiol., 78, 3806 (2012).

7) E. Nagaoka, R. Hidese, T. Imanaka & S. Fujiwara: J. Bacteriol., 195, 3442 (2013).

8) T. J. Santangelo, L. Cubonová, K. M. Skinner & J. N. Reeve: J. Bacteriol., 191, 7102 (2009).

9) K. Okada, R. Hidese, W. Fukuda, M. Niitsu, K. Takao, Y. Horai, N. Umezawa, T. Higuchi, T. Oshima, Y. Yoshikawa et al.: J. Bacteriol., 196, 1866 (2014).