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8番目のユビキチン鎖「直鎖状ユビキチン鎖」の機能と疾患へのかかわり: 炎症,免疫応答に重要なNF-κB経路の新しい制御機構

Fuminori Tokunaga

徳永 文稔

群馬大学生体調節研究所分子細胞制御分野Laboratory of Molecular Cell Biology, Institute for Molecular and Cellular Regulation, Gunma University ◇ 〒371-8512 群馬県前橋市昭和町3-39-15 ◇ 3-39-15 Showa-machi, Maebashi-shi, Gunma 371-8512, Japan

Published: 2014-11-01

生合成されたタンパク質にさまざまな官能基やタンパク質,糖鎖,脂質などが結合する「タンパク質の翻訳後修飾」は,酵素活性,細胞内局在・輸送,構造安定性,分解などを制御する重要な生理機能変換機構である.典型的な翻訳後修飾であるリン酸化やメチル化は,修飾の有または無という1ビットの情報変換を司るが,ユビキチン化は多様な連結様式によって多彩な生理機能発現を可能にしている.本稿ではユビキチンという小さなタンパク質に秘められた複雑で広大な生理機能の一端を紹介したい.

ユビキチン(ubiquitin)はユビキタス(ubiquitous,普遍的な)に由来することから示唆されるように,あまねく真核生物に高度に保存された76残基(8.6 kDa)からなる低分子量球状タンパク質である.この分子は,E1(ユビキチン活性化酵素),E2(ユビキチン結合酵素),E3(ユビキチンリガーゼ)という3種の酵素活性を介して,標的タンパク質のLys残基側鎖ε-アミノ基にイソペプチド結合様式で連結される(1)1) D. Komander & M. Rape: Annu. Rev. Biochem., 81, 203 (2012)..ヒトにはE1が2種,E2が約30種,E3は約600~800種存在し,E3が時空間特異的な基質認識に重要である.さらに,E1–E2–E3の連鎖反応によってユビキチンが数珠状に連結したポリユビキチン鎖を生成する場合もある.標的タンパク質に連結されたユビキチンは,ヒトでは約90種存在する脱ユビキチン化酵素によって除去され,再利用される.

ユビキチンには7つのLys(K)残基(K6, K11, K27, K29, K33, K48, K63)があり,細胞内ではいずれのLys残基を介してもポリユビキチン鎖が生成されている(1)1) D. Komander & M. Rape: Annu. Rev. Biochem., 81, 203 (2012)..最近,これら7通りのポリユビキチン鎖に加えて,ユビキチンのN末端Met1のα-アミノ基を介してペプチド結合で連結された,全く新しいタイプの「直鎖状ユビキチン鎖」(リニアユビキチン鎖,M1ユビキチン鎖とも呼ばれる)という8番目のユビキチン鎖が同定された(2,3)2) T. Kirisako, K. Kamei, S. Murata, M. Kato, H. Fukumoto, M. Kanie, S. Sano, F. Tokunaga, K. Tanaka & K. Iwai: EMBO J., 25, 4877 (2006).3) F. Tokunaga: J. Biochem., 154, 313 (2013)..さらに,1分子のユビキチンの複数箇所からポリユビキチン鎖が伸長した分岐鎖状ポリユビキチン鎖や,1本のポリユビキチン鎖内に異なる連結様式を含むハイブリッド(混成)型ユビキチン鎖の存在も報告されており,多様な連結が可能である(1)1) D. Komander & M. Rape: Annu. Rev. Biochem., 81, 203 (2012).

タンパク質がユビキチン化されるとさまざまな生理機能変換を引き起こす.たとえば,1分子のユビキチンが付加されるモノユビキチン化や1分子のユビキチンが複数箇所に結合するマルチモノユビキチン化は,受容体のエンドサイトーシスなど細胞内輸送にかかわる(1)1) D. Komander & M. Rape: Annu. Rev. Biochem., 81, 203 (2012)..一方,ポリユビキチン鎖のうち,K48ポリユビキチン鎖は細胞内に最も豊富に存在し,この修飾を受けたタンパク質はプロテアソームによるタンパク質分解へ導かれる.K63ポリユビキチン鎖はDNA修復やシグナル伝達など非タンパク質分解に働くことが知られ,K11ユビキチン鎖は細胞周期制御やシグナル伝達にかかわることが報告されている.このようにタンパク質のユビキチン化によって多彩な機能が発現・調節される分子基盤は,各ユビキチン鎖がそれぞれ特徴的な立体構造を示すため,これを認識して結合するタンパク質や除去にかかわる脱ユビキチン化酵素にもそれぞれユビキチン鎖特異性がある(1)1) D. Komander & M. Rape: Annu. Rev. Biochem., 81, 203 (2012)..その結果,発揮される生理機能や機能制御にバリエーションをもたらすと考えられる.

ユビキチン修飾系の発見から約20年間,ポリユビキチン鎖はLys残基を介するイソペプチド結合で生成されるということがドグマのようになっていたが,2006年にN末端Met1を介した直鎖状ユビキチン鎖を生成するLUBAC(linear ubiquitin chain assembly complex)が同定された.LUBACはHOIL-1L,HOIP,SHARPINのサブユニットからなる複合体型E3酵素で,HOIPが活性中心である(2~4)2) T. Kirisako, K. Kamei, S. Murata, M. Kato, H. Fukumoto, M. Kanie, S. Sano, F. Tokunaga, K. Tanaka & K. Iwai: EMBO J., 25, 4877 (2006).4) F. Tokunaga, T. Nakagawa, M. Nakahara, Y. Saeki, M. Taniguchi, S. Sakata, K. Tanaka, H. Nakano & K. Iwai: Nature, 471, 633 (2011).図1A図1■LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成とNF-κB制御のメカニズム).HOIPはLDDドメイン(Linear ubiquitin chain Determining Domain)で捕捉したユビキチンのN末端に,UbcH5やUbcH7などのE2からユビキチンを転移・連結して直鎖状ユビキチン鎖を特異的に生成する(図1B図1■LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成とNF-κB制御のメカニズム).現在のところ,直鎖状ユビキチン鎖を生成できるE3はLUBACのみである.

図1■LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成とNF-κB制御のメカニズム

A. LUBACを構成するサブユニットのドメイン構成とその機能.Ub: ユビキチン,UBL: ユビキチン様,NZF: Npl4型Znフィンガー,RING: RINGフィンガー,IBR: in-between RING, PUB: PNGase/UBA or UBX,ZF: Znフィンガー,UBA: ユビキチン結合,LDD: linear ubiquitin chain determining domain,PH: pleckstrin homology.B. HOIPのC末端領域における直鎖状ユビキチン生成メカニズム.RINGにドナーとなるE2-ユビキチンが結合する.一方,LDDにはアクセプターとなるユビキチンが結合し,N末端特異的結合を導くよう保持する.E2-ユビキチンからRINGのCys885にチオエステル結合を介してユビキチンが転移した後,LDD内のユビキチンのN末端に連結することで直鎖状ユビキチンが生成される.C. 直鎖状ユビキチン鎖生成を介したNF-κB制御機構.LUBACはTNF-αなど炎症性サイトカイン刺激時にNEMOやRIP1を直鎖状ユビキチン化することでIKKの集積・活性化を司る.活性化したIKKがIκBαをリン酸化,分解に導くとNF-κBが核移行し,標的遺伝子の転写を亢進する.また,OTULIN,CYLD,A20などの脱ユビキチン化酵素は,この経路の抑制に働く.

LUBACによる直鎖状ユビキチン化は,炎症応答や自然・獲得免疫制御に重要な転写因子であるNF-κB(nuclear factor κB)の活性制御に寄与する(3~5)3) F. Tokunaga: J. Biochem., 154, 313 (2013).5) F. Tokunaga, S. Sakata, Y. Saeki, Y. Satomi, T. Kirisako, K. Kamei, T. Nakagawa, M. Kato, S. Murata, S. Yamaoka et al.: Nat. Cell Biol., 11, 123 (2009)..LUBACは,炎症性サイトカイン(TNF-αなど)の刺激を細胞が受けた際に,受容体直下でRIP1やNEMOを直鎖状ユビキチン化する(図1C図1■LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成とNF-κB制御のメカニズム).NEMOはIκBキナーゼ(IKK)の制御サブユニットであり,キナーゼであるIKKαやIKKβと複合体を形成することでNF-κB活性化に必須の分子である.さらに,NEMOの内部に存在するユビキチン結合ドメイン(UBANドメイン)は,直鎖状ユビキチン鎖に対する親和性が極めて高く,生成された直鎖状ユビキチン鎖が足場となって多分子のIKKが集積し,分子間リン酸化反応によってIKKβが活性化する.興味深いことに,NEMOに2分子のユビキチンが直鎖状に結合することで十分なNF-κB活性化が導かれる.活性化したIKKが阻害タンパク質であるIκBαをリン酸化すると,これが引き金となってIκBαはK48ユビキチン化されプロテアソーム分解される.その結果,サイトゾルに係留されていたNF-κBが核内へ移行し,炎症や免疫制御にかかわる500種以上の標的遺伝子の転写を亢進する(3~5)3) F. Tokunaga: J. Biochem., 154, 313 (2013).5) F. Tokunaga, S. Sakata, Y. Saeki, Y. Satomi, T. Kirisako, K. Kamei, T. Nakagawa, M. Kato, S. Murata, S. Yamaoka et al.: Nat. Cell Biol., 11, 123 (2009)..その後,OTULIN,CYLD,A20などの脱ユビキチン化酵素が直鎖状ユビキチン鎖を分解すること,または直鎖状ユビキチンに特異的に結合することでNF-κB経路を負に制御する(図1C図1■LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成とNF-κB制御のメカニズム).LUBACによる直鎖状ユビキチン鎖生成を介したNF-κB経路制御は炎症性サイトカイン応答のみならず,病原体関連分子パターンが惹起する自然免疫応答や抗がん剤によって核内から活性化するNF-κB経路にもかかわることが明らかになってきており,広範なNF-κBシグナル制御にかかわることが示されてきた(3)3) F. Tokunaga: J. Biochem., 154, 313 (2013)..したがって,直鎖状ユビキチン生成の不全は疾患とも深く連関する.LUBACのサブユニットのうちHOIL-1L遺伝子に変異をもつ家系では発熱,全身の炎症,細菌易感染性,免疫不全,肝脾腫など重篤な症状を呈する.また,SHARPIN遺伝子が自然突然変異したマウスは慢性増殖性皮膚炎や二次リンパ器官の形成不全となり,LUBACの活性中心であるHOIPの完全ノックアウトマウスは胎生致死である.HOIPをB細胞で欠損するとB細胞の機能不全やNF-κB制御異常を引き起こし,ヒトではHOIPのSNPsとB細胞リンパ腫発症との相関も示唆されている.

このように,これまでの概念を打ち破るユビキチンのN末端を介する直鎖状ユビキチン鎖をLUBACが特異的に生成し,これがNF-κB経路の制御に必須であると明らかになった.また,その欠損や異常はがん,炎症性疾患,自己免疫疾患に深くかかわる.今後,直鎖状ユビキチン鎖の生理機能がより詳細に明らかにされるとともに,治療や創薬標的としても高く注目されるだろう.さまざまな連結によって多彩な生理機能を調節するユビキチンワールドのさらなる展開から目が離せない.

Reference

1) D. Komander & M. Rape: Annu. Rev. Biochem., 81, 203 (2012).

2) T. Kirisako, K. Kamei, S. Murata, M. Kato, H. Fukumoto, M. Kanie, S. Sano, F. Tokunaga, K. Tanaka & K. Iwai: EMBO J., 25, 4877 (2006).

3) F. Tokunaga: J. Biochem., 154, 313 (2013).

4) F. Tokunaga, T. Nakagawa, M. Nakahara, Y. Saeki, M. Taniguchi, S. Sakata, K. Tanaka, H. Nakano & K. Iwai: Nature, 471, 633 (2011).

5) F. Tokunaga, S. Sakata, Y. Saeki, Y. Satomi, T. Kirisako, K. Kamei, T. Nakagawa, M. Kato, S. Murata, S. Yamaoka et al.: Nat. Cell Biol., 11, 123 (2009).