解説

植物N-結合型糖鎖修飾酵素の異種細胞における発現と修飾経路の考察

Insight of Plant N-glycosylation Pathway through HeterologouslyExpressed Enzymes

梶浦 裕之

Hiroyuki Kajiura

大阪大学生物工学国際交流センターInternational Center for Biotechnology, Osaka University ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 ◇ 2-1 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

藤山 和仁

Kazuhito Fujiyama

大阪大学生物工学国際交流センターInternational Center for Biotechnology, Osaka University ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1 ◇ 2-1 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

Published: 2014-11-01

ヒト型糖鎖構造を意識しながら抗体やワクチンタンパク質を植物で生産することが試みられている.植物におけるN-結合型糖鎖修飾経路を理解することは,ヒト型糖鎖構築設計に重要である.そこで,われわれは植物修飾酵素の遺伝子をクローン化し,異種細胞で生産した組換え酵素を用いて,その基質特異性を調査し,その糖鎖修飾経路を考察した.

医療用タンパク質がCHO細胞などの異種細胞により生産され,医療現場で活用されている.まだまだCHO細胞が主たる宿主であるが,多様な生産宿主による生産が試みられている.たとえば,昆虫細胞で生産された子宮頚がんワクチンが実用化され,最近ではイチゴで生産したイヌインターフェロンが動物薬として認可された(1)1) http://www.aist.go.jp/aist_j/topics/to2013/to20131017/to20131017.html.抗体など医療用タンパク質は,そのペプチドが糖鎖により修飾され,糖鎖部分が生物学的機能の発現に重要である.一方で,糖鎖構造は血液型で見られるように自己と非自己の認識にもかかわる.さらに,糖鎖修飾能は生物種により異なり,多様である.ヒト,マウス,植物,昆虫,酵母で,同じ遺伝子からタンパク質が生産されても糖鎖構造は異なる.このため異種細胞で医療用タンパク質を生産するためには,用いる宿主細胞の糖鎖修飾能の基盤を理解しておくことは重要である.

われわれは,これまでヒト型糖鎖構造を意識しながら抗体やワクチンタンパク質を植物で生産することを試みてきた.植物は動物ウィルスなどの混入の恐れがなく,安価に培養できる利点がある.植物もタンパク質の翻訳後修飾機能として糖鎖付加機能をもつ.このため,糖鎖をもつ医療用タンパク質(たとえば抗体など)の遺伝子を植物に導入すれば,糖タンパク質を生産することが可能である.小胞体で合成されたペプチド鎖は,小胞体内腔を経て,ゴルジ体,液胞などの細胞内小器官,あるいは細胞外へと輸送され,各所でそれぞれ機能する.糖鎖修飾として,ペプチドのAsn-Xxx-Ser/TerのAsn残基に糖鎖が付加されるN-結合型糖鎖,Ser/Thr残基に付加されるO-結合型糖鎖がある.ここでは,N-結合型糖鎖について解説する.植物におけるN-結合型糖鎖は,α1,3-フコース(Fuc)やβ1,2-キシロース(Xyl)残基をもち,ヒト型糖鎖と異なる.このためアレルギー性,免疫原性などが懸念され,植物で医療用糖タンパク質生産を行う際この糖鎖構造の違いは解決すべき問題であると考えている.そこで,植物N-結合型糖鎖修飾経路について考察した.

動物細胞におけるN-結合型糖鎖修飾経路に関しては,R. KornfeldとS. Kornfeldによる代表的な報告(2)2) R. Kornfeld & S. Kornfeld: Annu. Rev. Biochem., 54, 631 (1985).がある.このモデル経路(図1図1■N-結合型糖鎖修飾経路)では,糖鎖修飾を受けるタンパク質が細胞内小器官を移動し,種々の糖鎖修飾酵素(酵素名;図1図1■N-結合型糖鎖修飾経路)により糖鎖修飾を受ける様子を示している.植物糖鎖修飾酵素については,植物タンパク質の糖鎖構造解析結果より,どのような酵素が植物にあるのか推測されていた.すでに報告のあるヒトなどの生物の遺伝子情報をもとに,各酵素遺伝子をクローン化後,異種細胞で発現させた組換え酵素の活性を確認し,遺伝子の同定がなされた.遺伝子情報の蓄積により,植物糖鎖修飾経路に関する2つのアプローチが可能となった.すなわち,1)修飾酵素の細胞内小器官局在を決定するペプチド領域に関する研究による糖鎖修飾経路の考察,2)組換え酵素を用いた糖鎖基質に対する特異性調査による糖鎖修飾経路の考察,である.ここでは,それぞれのアプローチの成果を述べ,最後にまとめて糖鎖修飾経路の考察を行いたい.

図1■N-結合型糖鎖修飾経路

R. KornfeldとS. Kornfeldによる哺乳動物のN-結合型糖鎖修飾経路(2)2) R. Kornfeld & S. Kornfeld: Annu. Rev. Biochem., 54, 631 (1985).を元に,植物の経路を加えた.MANIとII,マンノシダーゼIとII; GNT-Iと-II,N-アセチルグルコサミン転移酵素IとII;GALT,ガラクトース転移酵素;HEXO’ase,ヘキソサミニダーゼ;FUCT,フコース転移酵素;XYLT,キシロース転移酵素;GLCIとII,グルコシダーゼIとII;OST,オリゴ糖転移酵素;ALG,アスパラギン結合型糖鎖(asparagine linked glycosylation)関連酵素;SIAT,シアル酸転移酵素.

糖鎖修飾の細胞内小器官局在に関する研究による糖鎖修飾経路の考察

植物糖鎖修飾関連酵素の局在に関して,Saint-Jore-Dupasらの興味深い報告(3)3) B. E. S. Gunning & M. W. Steer: “Plant Cell Biology Structure and Function,” Jones and Bartlett Publishers, 1996, Content 13.がある.各酵素の細胞内局在にかかわるペプチド領域をGFPに結合し,そのタンパク質の細胞内小器官の局在性を調査した(図2図2■植物N-結合型糖鎖の推定修飾経路).その結果,R. KornfeldとS. Kornfeldのモデル経路とは異なり,MANI・GNT-IはERに,cis-GolgiにはMANII・GNT-IIが存在し,各酵素の反応機序は,MANI→GNT-I→MANII→GNT-II→β1,2-XYLT→α1,3-FUCTと考察された.N-結合型糖鎖のα1,3-FUCT残基に対する抗体を用いた免疫電顕の解析では,α1,3-FUCT残基転移反応産物がcis-Golgiおよびtrans-Golgi network(TGN)に見られた(4)4) C. Saint-Jore-Dupas, A. Nebenführ, A. Boulaflous, M. L. Follet-Gueye, C. Plasson, C. Hawes, A. Driouich, L. Faye & V. Gomord: Plant Cell, 18, 3182 (2006)..このことは,α1,3-FUCTがこの2つの細胞内小器管に局在することを示唆している.

組換え酵素を用いた糖鎖基質に対する特異性調査による糖鎖修飾経路の考察

ここでは,われわれが調査したMANI,GNT-I,XYLT,α1,3-FUCTについて述べる.また,糖鎖構造の名称は図3図3■本稿内に見られる糖鎖構造とその略称に示す.

図3■本稿内に見られる糖鎖構造とその略称

1. MANI

われわれは,Arabidopsisの2種類のMANI遺伝子(AtMANIaとAtMANIb)をクローン化し,大腸菌で発現させた組換え酵素を精製後,2-アミノピリジル化(PA化)N-結合型糖鎖を基質として用い,基質選好性を調査した(5)5) H. Kajiura, H. Koiwa, Y. Nakazawa, A. Okazawa, A. Kobayashi, T. Seki & K. Fujiyama: Glycobiology, 20, 235 (2010)..PA化N-結合型糖鎖は,糖鎖の還元末端を2-アミノピリジンで蛍光標識し,糖鎖の検出感度を高めている(図3図3■本稿内に見られる糖鎖構造とその略称).AtMANIaとIbの基質M8Aのα1,2-マンノシド結合に対する選好性は,結合a:結合c=30 : 70であった(図4A, B図4■Man9GlcNAc2構造とMANIによりその分解経路).しかし,M9Aに対してはAtMANIaとIbで,結合a:結合b:結合cに対する選好性が変わった.AtMANIaとIbはともに結合bを加水分解できることは,ヒトMANIとは大きく異なる特徴である.AtMANIaとIbは,M8AのみならずM9Aも基質とし,M5Aを最終産物とする.

図4■Man9GlcNAc2構造とMANIによりその分解経路

A:Man9GlcNAc2構造を示す.α1,2-マンノシド結合をa–dで,α1,3-あるいはα1,6-マンノシド結合をI–IVで,マンノース残基を1–9,Nアセチルグルコサミン残基を10および11で表した.

2. GNT-I

A. thalianaでは,GNT-I遺伝子は単離されているが,酵素の基質特異性は調査されていない.われわれはタバコ(Nicotiana tabacum)由来GNT-I(NtGNT-I)のcDNAを単離し,NtGNT-Iタンパク質のN末端側にマルトース結合タンパク質(MalE)を融合させ,大腸菌を用いて組換え酵素を生産した(6)6) K. Dohi, J. Isoyama-Tanaka, T. Tokuda & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 109, 388 (2010)..MalEとの融合タンパク質として活性型GNT-Iが得られることはヒト遺伝子で実証していたが,NtGNT-Iにおいても融合タンパク質としてGNT-I活性をもつ組換え酵素を得ることができた.受容体基質となる糖鎖構造は,M5Aが最適で,そのほかの糖鎖基質のM5Aとの相対活性は表1表1■GNT-Iの基質特異性(6)6) K. Dohi, J. Isoyama-Tanaka, T. Tokuda & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 109, 388 (2010).に示した.NtGNT-Iの認識にはM3BとM2Aの比較からα1,6-Man結合(結合II,図4図4■Man9GlcNAc2構造とMANIによりその分解経路)が重要で,M6CとM5Aを比較からα1,2-Man結合(結合b,図4図4■Man9GlcNAc2構造とMANIによりその分解経路)はNtGNT-I活性を阻害する.さらに,MANIによるM6BおよびM6CからM5Aへ分解が必要である.以上から,NtGNT-Iは基質認識が厳格で,糖鎖修飾経路の中でその局在は重要なカギとなると考えられる.

表1■GNT-Iの基質特異性(6)6) K. Dohi, J. Isoyama-Tanaka, T. Tokuda & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 109, 388 (2010).
糖鎖基質相対活性
M5A100.0
M3A6.9
M3F(3)6.2
GN1M33.9
M2A, M6C0.7, 0.5
M3X, M2B, M4B, M6B0

3. β1-2XYLT

Bencúrら(7)7) P. Bencúr, H. Steinkellne, B. Svoboda, J. Mucha, R. Strasser, D. Kolarich, S. Hann, G. Köllensperger, J. Glössl, F. Altmann et al.: Biochem. J., 388, 515 (2005).は,A. thaliana由来XYLTを昆虫Spodoptera frugiperda由来のSf21細胞を用い組換えXYLTを生産し,詳しい基質特異性を調査した.その結果GN1M3に対し高活性を示し,GNM5とGN2M3が続いた(表2表2■XYLTの基質特異性).さらに,組換えXYLT,FUCT(後述)を用いて,GN2M3-Asn,GN2M3X-Asn,GN2M3F(3)-Asnに対するKm値を調査した(表3表3■3種の基質に対するXYLTとFUCTのKm値の比較7)7) P. Bencúr, H. Steinkellne, B. Svoboda, J. Mucha, R. Strasser, D. Kolarich, S. Hann, G. Köllensperger, J. Glössl, F. Altmann et al.: Biochem. J., 388, 515 (2005).).FUCTは,GN2M3にXyl残基の存在にかかわらず,Km値はほぼ同等であるが,XYLTは,α1,3-Fuc残基があるとKm値が上昇した.このことから,XYLTはFUCTよりも前に作用することにより,植物型糖鎖M3F3Xを形成でき,FUCTが機能した後ではXYLTは十分働かず,M3F(3)を生成することになる.われわれは,別途XYLT cDNAをクローニングし,昆虫細胞Sf9により組換えXYLTを生産した(8)8) H. Kajiura, T. Okamoto, R. Misaki, Y. Matsuura & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 113, 48 (2012)..PA化糖鎖を用い,その反応産物から受容体糖鎖に対する相対活性を求めた(表2表2■XYLTの基質特異性).組換えXYLTはα1,3-Man残基(糖残基8,図4図4■Man9GlcNAc2構造とMANIによりその分解経路)の非還元末端側にβ1,2-GlcNAc残基をもつ糖鎖,特にGN1M3に対して最も高い酵素活性を示した(表2表2■XYLTの基質特異性).この構造はMANIIの反応産物としても存在し,その後のGlcNAc転移反応に関与する酵素と競合することが推測された.さらに組換えβ1,2-XYLTはGNM5やα1,3-Fuc残基付加糖鎖に対しても活性を示したが,Fuc残基が存在しない場合に比べその酵素活性は低下している.これは上記のFuc残基存在下でXYLTのKm値が高いことにも一致する.またわれわれはArabidopsisのXYLT欠損株の糖鎖構造を解析し植物特有の糖鎖合成に必須のもう一つの酵素,α1,3-FUCTがXyl付加糖鎖に対し強く作用することを見いだした(8)8) H. Kajiura, T. Okamoto, R. Misaki, Y. Matsuura & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 113, 48 (2012)..これはα1,3-FUCTはXylの有無にかかわらずFuc残基転移能を有することを示したBencúrらの研究からも明らかである.以上の結果を踏まえて植物糖鎖の合成経路を推測し,主な植物型糖鎖合成はβ1,2-XYLT→α1,3-FUCT→MANIIの順であると考察した.

表2■XYLTの基質特異性
Bencúrら7)7) P. Bencúr, H. Steinkellne, B. Svoboda, J. Mucha, R. Strasser, D. Kolarich, S. Hann, G. Köllensperger, J. Glössl, F. Altmann et al.: Biochem. J., 388, 515 (2005).Kajiuraら8)8) H. Kajiura, T. Okamoto, R. Misaki, Y. Matsuura & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 113, 48 (2012).
糖鎖基質相対活性糖鎖基質相対活性糖鎖基質相対活性
M3*-OctylM3A
M5-AsnM5A
GnM5-Asn#35GNM543.8
Gal GN1M3*-OctylGal GN1M3
GN1M3*-Octyl#100GN1M3100GN1M3100
GN2M3*-Octyl#23GN2M359.6GN2M350.2
GN1M3F(3)90.2Gal1GN2M340.2
GN2M3F(3)54.4Gal1GN2M3
GN1M3, GN1M3F(3) M3FGN1M3Gal GN1M3, Gal2 GN2M3
# GnM5-Asn,GN1M3*-Octyl,GN2M3*-Octylの構造は図3図3■本稿内に見られる糖鎖構造とその略称を参照.また,各基質に対するKm(mM)は0.46±0.09,0.25±0.12,0.70±0.19であった.—; 検出限界以下.
表3■3種の基質に対するXYLTとFUCTのKm値の比較7)7) P. Bencúr, H. Steinkellne, B. Svoboda, J. Mucha, R. Strasser, D. Kolarich, S. Hann, G. Köllensperger, J. Glössl, F. Altmann et al.: Biochem. J., 388, 515 (2005).
糖鎖基質Km値(mM)
XYLTFUCT
GN2M3-Asn0.40±0.150.49±0.07
GN2M3F(3)-Asn1.69±1.10
GN2M3X-Asn0.75±0.10

4. α1,3-FUCT

Leiterらは,リョクトウ(Vigna radiata)よりα1,3-FUCTのcDNAを単離し,Sf21細胞で組換え酵素を生産し,その基質特異性を調査した(9)9) H. Leiter, J. Mucha, E. Staudacher, R. Grimm, J. Glössl & F. Altmann: J. Biol. Chem., 274, 21830 (1999)..α1,3-FUCTは,還元末端に位置するGlcNAc残基(糖残基11,図4図4■Man9GlcNAc2構造とMANIによりその分解経路)にFucを転移する.PA化糖鎖は,還元末端GlcNAcを開環してPAで標識するため,α1,3-FUCTの基質とならない.そこで,糖鎖の還元末端にAsnを残したものか,あるいはAsnを含むペプチドなどが基質として用いられる.[糖鎖-Asn・ペプチド]を基質として特異性を調べたLeiterらの結果(表4表4■α1,3FucTの基質特異性(9)9) H. Leiter, J. Mucha, E. Staudacher, R. Grimm, J. Glössl & F. Altmann: J. Biol. Chem., 274, 21830 (1999).)は,GN2M3,GN2M3F(6),GNM5,Gal1GN2M3を基質とし,Gal2GN2M3には活性を示さなかった.

表4■α1,3FucTの基質特異性(9)9) H. Leiter, J. Mucha, E. Staudacher, R. Grimm, J. Glössl & F. Altmann: J. Biol. Chem., 274, 21830 (1999).
糖鎖基質相対活性(Km値,mM)
GN2M3100.0(0.19)
GN2M3F(6)87(0.13)
Gal2GN2M30.7

植物N-結合型糖鎖修飾酵素の配置を含む修飾経路

1980年代に植物糖タンパク質の糖鎖構造解析より経路が推測されている.Kimuraら(10)10) Y. Kimura, S. Hase, Y. Kobayashi, Y. Kyogoku, G. Funatsu & T. Ikenaka: J. Biochem., 101, 1051 (1987).は,XYLTが作用する基質は異なるものの,XYLTとα1,3-FUCTの機序は図2A図2■植物N-結合型糖鎖の推定修飾経路と同様で,Fayeら(11)11) L. Faye, K. D. Johnson, A. Sturm & M. J. Chrispeels: Physiol. Plant., 75, 309 (1989).は,XYLTとα1,3-FUCTが逆転していた.そしてここで述べたように修飾酵素遺伝子の解析により研究が進んだ.MANI,GNT-I,XYLT,α1,3-FUCTについて,組換え酵素を用いた基質特異性からその反応機序と基質選好性を述べた.われわれはこれらデータと,各酵素遺伝子変異体の植物の糖鎖構造解析の結果より,N-結合型糖鎖修飾酵素の配置を含む修飾経路(8)8) H. Kajiura, T. Okamoto, R. Misaki, Y. Matsuura & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 113, 48 (2012).図2C図2■植物N-結合型糖鎖の推定修飾経路)を考察した.Bencúrらは,XYLTの研究結果から,別途修飾経路を提案している(7)7) P. Bencúr, H. Steinkellne, B. Svoboda, J. Mucha, R. Strasser, D. Kolarich, S. Hann, G. Köllensperger, J. Glössl, F. Altmann et al.: Biochem. J., 388, 515 (2005).図2B図2■植物N-結合型糖鎖の推定修飾経路).基本的には,Saint-Jore-Dupasらが考察した植物糖鎖修飾関連酵素の局在性(3)3) B. E. S. Gunning & M. W. Steer: “Plant Cell Biology Structure and Function,” Jones and Bartlett Publishers, 1996, Content 13.図2A図2■植物N-結合型糖鎖の推定修飾経路)と同じである.また,Bencúrらは別経路(GNT-I→XYLT→MANII→GNT-II)も予測しており,その経路はわれわれの推測と同じである.しかし,推測経路A・BとCの大きな違いはα1,3-FUCTとMANIIの順序である.今後のより詳細な細胞局在に関する研究により解明されるであろう.

おわりに

植物N-結合型糖鎖修飾経路を考察した.ヒト型糖鎖付加経路を植物に創設にするためには,β1,4-GALTを導入することが必要である.推測経路A・Bである場合,XYLTの直前に配置すると,Gal2GN2M3が生成されることが期待でき,XYLT,α1,3-FUCTとはならず(表2および4表2■XYLTの基質特異性表4■α1,3FucTの基質特異性(9)9) H. Leiter, J. Mucha, E. Staudacher, R. Grimm, J. Glössl & F. Altmann: J. Biol. Chem., 274, 21830 (1999).)よりヒト型化に近い構造となる(図1図1■N-結合型糖鎖修飾経路).推測経路Cの場合であれば,GNT-IとXYLTの間に配置するとGalGNM5となることが予想され,ヒト型化にはさらに工夫が必要になる.糖鎖修飾は,自動車を作り上げる厳密なプロセスとは異なり,酵素の基質認識の“甘さ“に影響を受けるファジーな生産プロセスである.今回得られた推測N-結合型糖修飾経路は,糖鎖修飾プロセスを制御し任意の糖鎖構造を植物で作り上げていくための新しいチャートとなると考えている.

Reference

1) http://www.aist.go.jp/aist_j/topics/to2013/to20131017/to20131017.html

2) R. Kornfeld & S. Kornfeld: Annu. Rev. Biochem., 54, 631 (1985).

3) B. E. S. Gunning & M. W. Steer: “Plant Cell Biology Structure and Function,” Jones and Bartlett Publishers, 1996, Content 13.

4) C. Saint-Jore-Dupas, A. Nebenführ, A. Boulaflous, M. L. Follet-Gueye, C. Plasson, C. Hawes, A. Driouich, L. Faye & V. Gomord: Plant Cell, 18, 3182 (2006).

5) H. Kajiura, H. Koiwa, Y. Nakazawa, A. Okazawa, A. Kobayashi, T. Seki & K. Fujiyama: Glycobiology, 20, 235 (2010).

6) K. Dohi, J. Isoyama-Tanaka, T. Tokuda & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 109, 388 (2010).

7) P. Bencúr, H. Steinkellne, B. Svoboda, J. Mucha, R. Strasser, D. Kolarich, S. Hann, G. Köllensperger, J. Glössl, F. Altmann et al.: Biochem. J., 388, 515 (2005).

8) H. Kajiura, T. Okamoto, R. Misaki, Y. Matsuura & K. Fujiyama: J. Biosci. Bioeng., 113, 48 (2012).

9) H. Leiter, J. Mucha, E. Staudacher, R. Grimm, J. Glössl & F. Altmann: J. Biol. Chem., 274, 21830 (1999).

10) Y. Kimura, S. Hase, Y. Kobayashi, Y. Kyogoku, G. Funatsu & T. Ikenaka: J. Biochem., 101, 1051 (1987).

11) L. Faye, K. D. Johnson, A. Sturm & M. J. Chrispeels: Physiol. Plant., 75, 309 (1989).