セミナー室

自然免疫としての細胞貪食によるアポトーシス細胞と細菌の排除機構と意義

Akiko Shiratsuchi

白土 明子

金沢大学医薬保健研究域Institute of Medical, Pharmaceutical and Health Sciences, Kanazawa University ◇ 〒920-1192 石川県金沢市角間町 ◇ Kakumamachi, Kanazawa-shi, Ishikawa 920-1164, Japan

Published: 2015-01-01

はじめに

私たちの体内には,その一生を通じて有害な細胞や不要になった細胞が出現する.その代表は侵入した微生物であり,免疫の仕組みがこれを感知して排除する.また,自己由来の細胞がこれに該当する場合もあり,発生過程の形態形成や機能の獲得で除かれるべき細胞,古くなり機能しなくなった細胞,あるいはがん化や微生物感染で有害となった細胞などがここに含まれる.このような“要除去状態の細胞”は,食活性をもつ一連の食細胞により細胞内に取り込まれ,その内部で分解と排除を受ける.下等動物からヒトに至るまで貪食の仕組みが存在し,その分子機構は進化的に保存されている.また,食細胞は,自己由来の要除去細胞と外来微生物を区別せず,同じ機構を使って貪食することもわかってきた.本稿では,自然免疫としての細胞貪食反応の基本機構と意義を解説する.

食作用と食細胞

ある種の細胞が他細胞を含む大型構造体を細胞膜で包んで細胞内部に取り込む反応は,細胞貪食(phagocytosis)と呼ばれる.20世紀初頭にロシア出身のMetchnikoffは,無脊椎動物の体液に含まれる細胞が細菌を選択的に取り込むことを見いだし,このような貪食作用をもつ細胞を食細胞(phagocyte)と名づけた.その後に,抗体や抗菌物質などの体液成分により微生物を攻撃する免疫反応の存在がわかってくるとこれを液性応答と名づけ,貪食作用のように標的と直接接触する反応を細胞性応答として両者を区別した.当時は,抗体などが結合した微生物が食細胞の貪食対象と考えられており,貪食反応は獲得免疫の単なる最終段階とされていた.追って,食細胞は自己由来の細胞や大型構造物も貪食すること,食細胞の受容体が液性因子を介さずに標的と直接結合して取り込みを行う場合のあること,そして抗体やリンパ球受容体を必要としない自然免疫応答も担うことがわかった.1970年代には米国のSteinmanにより血球細胞の中から樹状細胞が同定され,貪食分解した物質を利用して樹状細胞が獲得免疫応答を誘導することが証明された.この発見は自然免疫(1)1) C. A. Janeway Jr. & R. Medzhitov: Annu. Rev. Immunol., 20, 197 (2002).に関する2011年のノーベル生理学・医学賞の対象研究の一つの柱であり,細胞貪食が不要物の排除にとどまらず,自然免疫と獲得免疫の両者にまたがる積極的な生体防御反応の基点であることを意味している.

食活性を主とする専門食細胞の代表は,哺乳類では血球系のマクロファージや好中球であり,これらは全身を巡って除去すべき細胞を捕獲する.また,肝臓のクッパー細胞や脳のミクログリアは,血球系細胞が個々の組織で分化した食細胞と考えられている.一方で,普段は組織の機能を担っているが,周囲に除去すべき細胞が出現したときに食細胞として働く組織常在型の食細胞も存在する.たとえば,目の網膜色素上皮細胞や精巣のセルトリ細胞はともに上皮組織に由来する細胞であり,それぞれ,隣接する視細胞や精子形成細胞を貪食する(2,3)2) Y. Nakanishi, K. Nagaosa & A. Shiratsuchi: Dev. Growth Differ., 53, 149 (2011).3) 白土明子,中西義信:実験医学,28, 1055 (2010)..また,獲得免疫をもたない無脊椎動物にも体液循環型や組織特異型などさまざまな種類の食細胞が存在し(4,5)4) L. Wang, L. Kounatidis & P. Ligoxygakis: Front. Cell. Infect. Microbiol., 3, 113 (2014).5) F. Yu & O. Schuldiner: Curr. Opin. Neurol., 27, 192 (2014).,ヒトを含む哺乳類の食細胞と比較すると構造と機能の両面に類似点が多い.

自己由来の要除去細胞とその排除

微生物の貪食が機能から見いだされたのに対し,自己由来細胞の貪食は,組織構造の研究に端を発する.1970年代にスコットランドのKerrは,電子顕微鏡による組織切片の観察で,特徴的な構造を示す死細胞を見いだした.一般的な死細胞は膨れて内容物が漏れだし周囲に免疫細胞が集積するのに対し,縮んで内部が高度に凝集した死細胞が見いだされ,その周辺では組織破壊がなかった.研究者たちはこのような死には生理学的意義があると予想し,膨らんで死ぬ壊死(necrosis)に対応させてアポトーシス(apoptosis)と名づけた.アポトーシスは形態学的に定義された死であるが,追って,これが自律的な細胞死であるとわかり,細胞死の誘導機構や死細胞が貪食排除される仕組みが明らかにされた.食細胞による標的の認識について,微生物が貪食される場合には,食細胞は微生物特異的な物質を貪食目印として選択的な貪食を行う.微生物には特有の糖鎖やペプチド,あるいは脂質があり,細胞壁成分のペプチドグリカンやタイコ酸が貪食目印となる.一方で,アポトーシス細胞は自己由来であり,食細胞は周囲の正常細胞の中からアポトーシス細胞を識別して選択的な貪食を行う必要がある.アポトーシス細胞では,死の誘導に伴って活性化するタンパク質分解酵素カスパーゼの働きにより,細胞内や細胞の表面で構成成分の構造変化と局在の変化が起きる.前者の代表例は核の断片化やDNAのヌクレオソーム単位での切断などのDNA崩壊であり,後者では細胞表面に存在する分子の部分分解や凝集,細胞膜の内側に存在していた物質の細胞表面への局在変化が知られている.このうち,細胞表面の物質構造と局在の変化は細胞死のごく早い段階で起きて,食細胞から“見える”ようになった物質が貪食目印となり,食細胞による認識と速やかな取り込みが導かれる.すなわち,生理学的細胞死の一義的な意味は,貪食目印を細胞表面に出させることにあると言える.貪食目印を構成する物質はタンパク質,脂質,糖鎖とさまざまであり,その中でも細胞膜を構成するリン脂質のホスファチジルセリンは生物や組織の種類を超えて共通性の高い目印分子である(6~8)6) 白土明子,中西義信:オレオサイエンス,9, 47 (2009).7) G. Mariño & G. Kroemer: Cell Res., 23, 1247 (2013).8) J. Suzuki, D. P. Denning, E. Imanishi, H. R. Horvitz & S. Nagata: Science, 341, 403 (2013)..また,いずれの貪食目印分子も細胞死に伴って新たに作られるわけではなく,細胞内に存在する物質が局在や構造を変化させたものであるという点が共通している(7,9,10)7) G. Mariño & G. Kroemer: Cell Res., 23, 1247 (2013).9) A. Hochreiter-Hufford & K. S. Ravichandran: Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 5, 1008748 (2013).10) Y. Nakanishi, P. M. Henson & A. Shiratsuchi: Adv. Exp. Med. Biol., 563, 129 (2009).

貪食反応の生理学的な役割

除去すべき細胞の貪食排除の役割を図1図1■貪食反応の生理的な役割にまとめた(2,3)2) Y. Nakanishi, K. Nagaosa & A. Shiratsuchi: Dev. Growth Differ., 53, 149 (2011).3) 白土明子,中西義信:実験医学,28, 1055 (2010)..発生過程ではそれぞれの組織の形態形成と機能獲得のために,特定の細胞にアポトーシスが誘導されて貪食される(11)11) M. Suzanne & H. Steller: Cell Death Differ., 20, 669 (2013)..たとえば,四肢の指の形成では指間細胞が貪食されて空間が生まれて形態形成が進み,自己反応性免疫細胞やネットワーク形成しない神経細胞が貪食されて組織の機能獲得が導かれる.筆者らは,アポトーシスを起こした精子形成細胞が隣接する上皮系細胞のセルトリ細胞に貪食されることで精子形成が進行することを報告している(12)12) Y. Nakanishi & A. Shiratsuchi: Biol. Pharm. Bull., 27, 13 (2004)..ひとたび組織ができた後にも,機能を失ったり古くなった細胞を新たに作られた細胞と置き換える必要があり,この際にも除去すべき細胞が貪食排除を受ける.卵巣内の黄体は妊娠を維持するホルモンを産生するが,妊娠しなかった場合には黄体細胞にアポトーシスが誘導されてマクロファージにより貪食排除され,黄体が物質的および機能的に除かれる(13)13) S. Kato, A. Shiratsuchi, K. Nagaosa & Y. Nakanishi: Dev. Growth Differ., 47, 153 (2005)..視覚を担う視細胞外節は1日のうちに老化し,朝晩のリズムを伴って網膜色素上皮細胞にその外節部分が貪食されることで視細胞の機能が維持されている(14)14) F. Mazzoni, H. Safa & S. C. Finnemann: Exp. Eye Res., in press. 10.1016/j.exer.2014.01.010.モデル生物ショウジョウバエの脳では,幼虫型の神経回路が変態期に成虫型に変換されるが,その際には神経細胞の幼虫型軸索部分がグリア細胞に貪食されるとともに新たな軸索が伸びて成虫型の神経回路が形成される(5,15)5) F. Yu & O. Schuldiner: Curr. Opin. Neurol., 27, 192 (2014).15) T. Awasaki, R. Tatsumi, K. Takahashi, K. Arai, Y. Nakanishi, R. Ueda & K. Ito: Neuron, 50, 855 (2006)..上記のうち,視細胞と昆虫神経細胞の例では細胞全体ではなく細胞の一部が貪食されるが,食細胞が細胞の特定部分を取り去る仕組みはまだわかっていない.また,細胞貪食は,侵入した細菌などの外来微生物,あるいはウイルス感染細胞やがん細胞など有害となった自己細胞の排除にも働き,インフルエンザウイルス感染細胞のマクロファージによる貪食では,貪食依存にウイルス増殖が抑制される(16~18)16) 白土明子,中西義信:蛋白質・核酸・酵素,51, 138 (2006).17) 白土明子,中西義信:薬学雑誌,126, 1245 (2006).18) Y. Hashimoto, T. Moki, T. Takizawa, A. Shiratsuchi & Y. Nakanishi: J. Immunol., 178, 2448 (2007)..哺乳類の研究で示されたウイルス感染細胞やがん細胞の貪食による組織恒常性維持の仕組みは,ショウジョウバエにも当てはまりそうである(筆者ら,未発表).貪食された後の標的分解物は細胞構造やエネルギー産生の材料として物質再利用に寄与しており,さらに,食細胞が貪食反応に依存してその機能を発揮することも知られている.たとえば,アポトーシス細胞を貪食した食細胞は炎症抑制因子を産生して組織傷害を抑制し(19)19) V. A. Fadok, D. L. Bratton, A. Konowal, P. W. Freed, J. Y. Westcott & P. M. Henson: J. Clin. Invest., 101, 890 (1998).,また,免疫を司る樹状細胞は貪食後の分解断片を膜タンパク質との複合体として細胞表層に出現させ,抗原提示により獲得免疫を誘導する(20)20) A. L. Ackerman & P. Cresswell: Nat. Immunol., 5, 678 (2004).

図1■貪食反応の生理的な役割

個体が生まれてから死ぬまでを通じて除去すべき細胞が出現する.このような細胞の貪食排除は,発生時の形態と機能の獲得,組織維持,生体防御のいずれかに働く.

細胞貪食反応の素過程

食細胞による貪食反応は,複数の素過程に分けられる(2,10)2) Y. Nakanishi, K. Nagaosa & A. Shiratsuchi: Dev. Growth Differ., 53, 149 (2011).10) Y. Nakanishi, P. M. Henson & A. Shiratsuchi: Adv. Exp. Med. Biol., 563, 129 (2009).図2図2■アポトーシス細胞貪食反応の素過程).まず,食細胞は標的細胞(貪食される細胞)と出会う必要がある.組織局在型の食細胞は標的細胞と隣接するか近傍にあり容易に接触できる.体内巡回型の食細胞は標的細胞に向けて集積する必要があり,標的細胞自身あるいはそれを感知した周囲の細胞が食細胞の集積因子を産生する.次に,食細胞は貪食すべき細胞を見つけ出す.標的細胞の表面には貪食目印分子があり,食細胞はこれと結合する受容体を使って標的を認識する.標的が微生物の場合には微生物特有の分子構造が貪食目印分子になり,アポトーシス細胞や微生物感染細胞の場合には,細胞内物質が局在や構造を変化させた物質や,感染した微生物由来の物質が目印となる.また,体液中因子が橋渡しとなり標的と食細胞の結合を担う.つづいて,貪食目印分子の結合した受容体は構造を変えて活性化し,そこに貪食誘導性の細胞内因子が次々と結合して,Rhoファミリーに属する低分子量Gタンパク質の活性変化を導く.その結果,食細胞内の細胞骨格タンパク質の重合状態が局所的に変化して繊維状構造体が生じ,その周辺の細胞膜は仮足と呼ばれる突起を伸ばして標的を包むように形を変え,食細胞が標的を内部に取り込む.最後に,標的を包んだ膜小胞は貪食胞となってリソソームに輸送され,標的はリソソーム内の加水分解酵素群による分解と排除を受ける.

図2■アポトーシス細胞貪食反応の素過程

食細胞とアポトーシス細胞とが近くに存在するようになり,貪食目印分子と結合した受容体が食細胞内に貪食誘導の情報を伝えると,細胞膜の形が変わって標的を包んで内部に取り込む.取り込まれた細胞は膜に包まれたままリソソームに輸送されてその内部で分解と排除を受ける.それぞれの反応が協調して行われることにより,食細胞はアポトーシス細胞を選択的に貪食して処理する.

遺伝学による線虫の死細胞貪食の分子機構の解析

モデル生物である線虫Caenorhabditis elegansは,体が透明であり細胞系譜(受精卵から生体に至るまでの個々の細胞の分裂と組織細胞への分化)が明らかにされていることから,発生過程をリアルタイムで追跡できる.線虫のこのような性質を活かした遺伝学的解析により,死細胞の貪食機構が明らかにされてきた.線虫では卵から成虫に至る分化過程で特定の細胞が決まった時期に死ぬ現象が見いだされ,プログラムされた細胞死と呼ばれる.これは,生理学的細胞死が遺伝子上に規定されることを意味し,米国のHorvitzらを中心として遺伝学的な解析によりその仕組みが明らかにされた.死細胞の存在が異常となる個体の原因遺伝子(cell-death abnormalに由来して遺伝子名にはcedが付される)の解析から,細胞死の実行に働く分子が同定されるとともに,直接的な死の誘導ではなく死細胞の貪食に必要な遺伝子も見いだされた(21,22)21) P. W. Reddien & H. R. Horvitz: Annu. Rev. Dev. Biol., 20, 193 (2004).22) P. M. Mangahas & Z. Zhou: Semin. Cell Dev. Biol., 16, 295 (2005)..プログラム細胞死はアポトーシスと分子機構を同じくすることから,この死は発生過程におけるアポトーシスの例と理解されている.

線虫の遺伝学から見いだされたアポトーシス細胞の貪食経路は,図3図3■進化的に保存された貪食機構に示すように最終部分が共通する2つに大別される(21~25)21) P. W. Reddien & H. R. Horvitz: Annu. Rev. Dev. Biol., 20, 193 (2004).25) A. Hochreiter-Hufford & K. S. Ravichandran: Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 5, 1008748 (2013)..第一経路を担う因子のうち,CED-1とINA-1/PAT-3は膜受容体として働き,ほかの因子は細胞内情報経路を担い,そしてCED-10は低分子量Gタンパク質として細胞骨格の再編成を起こして標的の取り込みを導く.CED-1は膜一回貫通型タンパク質であり(26)26) Z. Zhou, E. Hartwieg & H. R. Horvitz: Cell, 104, 43 (2001).,貪食刺激により細胞内領域のチロシン残基がリン酸化すると,細胞内アダプター分子のCED-6がそこに結合して情報経路を活性化する(23)23) H. P. Su, K. Nakada-Tsukui, A. C. Tosello-Trampont, Y. Li, G. Bu, P. M. Henson & K. S. Ravichandran: J. Biol. Chem., 277, 11772 (2002)..CED-7は膜輸送体ABCトランスポーターと類似構造をもつが貪食経路へのかかわり方は現時点ではわかっていない(27)27) Y. C. Wu & H. R. Horvitz: Cell, 93, 951 (1998)..CED-10はRhoファミリーに属する低分子量Gタンパク質のRacであり,細胞骨格タンパク質のアクチンの重合と脱重合を調節してアクチン繊維形成を制御する.第二経路のINA-1とPAT-3はともに膜一回貫通タンパク質で共受容体として働き,CED-2はこの経路のアダプター分子,CED-5はCED-10の活性調節因子であり,CED-12はCED-2/CED-5/CED-12を会合させるアダプターとしてCED-10の活性を間接的に調節すると考えられている(28,29)28) T. Y. Hsu & Y. C. Wu: Curr. Biol., 20, 477 (2010).29) H. H. Hsieh, T. Y. Hsu, H. S. Jiang & Y. C. Wu: PLoS Genet., 8, e1002663 (2012)..貪食目印分子に目を向けると,体液性タンパク質のTTR-52がCED-1の細胞外領域とホスファチジルセリンの両者と結合することから(30)30) X. Wang, J. Wang, K. Gengyo-Ando, L. Gu, C.-L. Sun, C. Yang, Y. Shi, T. Kobayashi, Y. Shi, S. Mitani et al.: Nat. Cell Biol., 9, 541 (2007).,アポトーシス細胞のホスファチジルセリンがTTR-52を橋渡しとしてCED-1に認識されると考えられる.線虫INA-1/PAT-3のリガンドはいまだ報告がない.

図3■進化的に保存された貪食機構

貪食反応は2つの経路に大別でき,それぞれに,受容体,受容体と結合するアダプター分子,Gタンパク質とその活性を調節する分子が含まれる.図中の因子は左から,線虫,ショウジョウバエ,哺乳類の名称を示している.一方で,貪食目印分子に関しては,まだ十分な情報が得られていない.

貪食反応の進化的保存

線虫遺伝学による貪食機構の解析が行われる以前より,ヒトを含む哺乳類食細胞について多様な貪食受容体と情報経路の存在,組織や標的の違いによるこれらの使い分けが報告されていた.近年になり,モデル動物である昆虫キイロショウジョウバエやヒトを含む哺乳類にも,線虫の貪食関連因子(図3図3■進化的に保存された貪食機構)のカウンターパートが存在することがわかってきた.これらのことより,自然免疫によるアポトーシス細胞貪食機構は,線虫で示された2つの経路がヒトを含む哺乳類に至るまで進化的に保存されていると理解されるようになった.

筆者らは,線虫CED-1およびINA-1/PAT-3のショウジョウバエカウンターパートとしてそれぞれDraperおよびインテグリンαPS3/βνを見いだし,両者は線虫と共通する細胞内因子を介して食細胞ヘモサイトによるアポトーシス細胞貪食を導くことを報告している(31,32)31) J. Manaka, T. Kuraishi, A. Shiratsuchi, Y. Nakai, H. Higashida, P. Henson & Y. Nakanishi: J. Biol. Chem., 279, 48466 (2004).32) K. Nagaosa, R. Okada, S. Nonaka, K. Takeuchi, Y. Fujita, T. Miyasaka, J. Mamaka, I. Ando & Y. Nakanishi: J. Biol. Chem., 286, 25770 (2011)..脳ではDraperはグリア細胞に局在し,発生過程で神経ネットワークの幼虫型から成虫型への置き換わりや損傷した神経細胞の修復時に,幼虫型あるいは傷害を受けた部分の軸索をそれぞれ貪食して刈り取り,新たな軸索の形成に働く(5,33)5) F. Yu & O. Schuldiner: Curr. Opin. Neurol., 27, 192 (2014).33) T. Awasaki, R. Tatsumi, K. Takahashi, K. Arai, Y. Nakanishi & K. Ito: Neuron, 50, 855 (2006)..貪食目印との結合によりDraperは細胞内領域のチロシン残基がリン酸化を受け,そこにアダプターdCED-6が結合して貪食経路を活性化する(34,35)34) Y. Fujita, K. Nagaosa, A. Shiratsuchi & Y. Nakanishi: Drug Discov. Ther., 6, 291 (2012).35) T. T. Tung, K. Nagaosa, Y. Fujita, A. Kita, H. Mori, R. Okada, S. Nonaka & Y. Nakanishi: J. Biochem., 153, 483 (2013)..また,ショウジョウバエのインテグリンαPS3/βνは複合体を形成して貪食受容体として働き(36)36) S. Nonaka, K. Nagaosa, T. Mori, A. Shiratsuchi & Y. Nakanishi: J. Biol. Chem., 288, 10374 (2013).,細胞内因子のCrk,Mbc1を介して貪食を導くと考えられる.ショウジョウバエでも線虫と同様に2つの経路がGタンパク質のRacに集約する.ショウジョウバエ食細胞への貪食目印分子として複数の候補があり,その中に線虫や哺乳類と共通する膜リン脂質のホスファチジルセリンが含まれることから,DraperやインテグリンαPS3/βνを介する貪食への必要性が調べられている.

図4■アポトーシス細胞貪食と細菌貪食での貪食経路の共通性

キイロショウジョウバエのアポトーシス細胞貪食受容体DraperとインテグリンαPS3/βνは,細菌の貪食にも働く.グラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌の貪食では,細胞壁成分のリポタイコ酸とペプチドグリカンが貪食目印分子としてそれぞれの受容体に認識されて貪食が誘導される.

線虫CED-1とINA-1/PAT3の哺乳類カウンターパートはそれぞれスカベンジャー受容体SR-F3(MEGF10)とインテグリンαv/β3またはαv/β5である.このうち,インテグリンは分泌タンパク質のlactadherin(milk fat globule-EGF factor 8 protein; MGF-E8)を橋渡しとしてアポトーシス細胞のホスファチジルセリンと結合し,細胞内経路を介してGタンパク質の活性を変化させて貪食を誘導する.一方,SR-F3に関しては脳のアミロイドベータを認識することが報告されているものの,アポトーシス細胞貪食への役割はまだわかっていない.CED-1やSR-F3(MEGF10)との構造類似性は低いものの,スカベンジャー受容体に属するSR-BI(37)37) Y. Osada, Y. Nakanishi & A. Shiratsuchi: J. Biochem., 145, 387 (2009).やStabilin-2(38)38) S.-Y. Park, K.-B. Kang, N. Thapa, S.-Y. Kim, S.-J. Lee & I.-S. Kim: J. Biol. Chem., 283, 10593 (2008).は細胞内因子GULPと結合してRacを活性化し,アポトーシス細胞の貪食を行う.SR-BIとStabilin-2はともにアポトーシス細胞表層のホスファチジルセリンと直接結合し,GULPとRacはそれぞれ線虫CED-6とCED-10の哺乳類カウンターパートであることから,哺乳類にはCED-1の役割を果たす複数の受容体が存在する可能性がある.

進化的に保存された貪食目印分子に関しては,まだ十分な知見の蓄積はないものの,上述したように膜リン脂質のホスファチジルセリンが有力候補である.ホスファチジルセリンは細胞膜を構成する主要なリン脂質の一つであり,生きた細胞では膜輸送体の活性により細胞膜脂質二重層の内側層に局在している.哺乳類の細胞についてリン脂質輸送体のXkr8は線虫CED-8と類似構造をもち,アポトーシスに伴って活性化するタンパク質分解酵素カスパーゼにより部分切断されると活性化して,ホスファチジルセリンの細胞表層への出現を促進する(7,8,39)7) G. Mariño & G. Kroemer: Cell Res., 23, 1247 (2013).8) J. Suzuki, D. P. Denning, E. Imanishi, H. R. Horvitz & S. Nagata: Science, 341, 403 (2013).39) K. Segawa, S. Kurata, Y. Yanagihashi, T. R. Brummelkamp, F. Matsuda & S. Nagata: Science, 344, 1164 (2014).

アポトーシス細胞貪食と細菌貪食反応の共通性

哺乳類のアポトーシス細胞貪食の研究で見いだされた貪食受容体の多くは,マルチリガンド性をもつ.たとえば,組織の機能維持に働く各種のスカベンジャー受容体,インテグリン,そして受容体チロシンキナーゼの中にアポトーシス細胞貪食を担う種類が含まれる.しかし,貪食目印は生理的リガンドとは構造が異なることから,受容体を介する情報経路や細胞応答も貪食のそれとは違うと考えられている.筆者らは,上述したショウジョウバエヘモサイトのDraperおよびインテグリンαPS3/βνは,黄色ブドウ球菌の細胞壁成分のリポタイコ酸とペプチドグリカンとそれぞれ結合しRacを介して貪食を誘導することを報告している(40)40) A. Shiratsuchi, T. Mori, K. Sakurai, K. Nagaosa, K. Sekimizu, B. L. Lee & Y. Nakanishi: J. Biol. Chem., 287, 21663 (2012)..2つの貪食受容体は協調して働き,細菌を効率よく貪食するとともに感染による宿主の傷害を防ぐ(36,40)36) S. Nonaka, K. Nagaosa, T. Mori, A. Shiratsuchi & Y. Nakanishi: J. Biol. Chem., 288, 10374 (2013).40) A. Shiratsuchi, T. Mori, K. Sakurai, K. Nagaosa, K. Sekimizu, B. L. Lee & Y. Nakanishi: J. Biol. Chem., 287, 21663 (2012)..また,標的が細菌の場合とアポトーシス細胞の場合とで情報因子は異なることから,貪食誘導の細胞内経路には目印分子の違いによる使い分けがあると考えられる.

貪食された細菌の免疫回避と感染維持

細菌が宿主内に侵入すると,細菌は食細胞を含めた宿主内因子にさらされる.感染状態の宿主と細菌とは互いを感知して遺伝子発現を変化させて感染時に特有の遺伝子発現レパートリーをもつようになり,その総和が細菌排除や感染の持続を決定すると考えられる(図5図5■宿主感知による細菌の遺伝子発現変化と持続感染).筆者らは細菌と宿主の両者に遺伝学を適用できる,大腸菌とキイロショウジョウバエによるモデル感染系を用いて,食細胞に貪食された細菌の遺伝子発現制御系の活性変化を網羅的に解析している.RNA合成酵素のサブユニットの一つにシグマ因子があり,この因子はプロモーター配列に結合して転写する遺伝子を規定する役割を担い,大腸菌には7種類が存在する(41)41) A. Ishihama: Annu. Rev. Microbiol., 54, 499 (2000)..ヘモサイトに大腸菌が貪食されると7種類のシグマ因子のうちσ38(RpoS)が速やかに増え,σ38が制御するカタラーゼ遺伝子の発現が誘導される.そして,ヘモサイト内の大腸菌はカタラーゼを使って活性酸素による貪食殺菌を回避して,宿主内で感染を維持すると考えられる(42)42) A. Shiratsuchi, N. Shimamoto, M. Nitta, T. Q. Tuan, A. Firdausi, M. Gawasawa, K. Yamamoto, A. Ishihama & Y. Nakanishi: J. Immunol., 192, 666 (2014)..一方で,細菌にとっては,感染を維持しかつ宿主が感染症で死なない状態が好ましいはずである.細菌の遺伝子制御経路の中には宿主傷害に抑制的に働く種類も存在することから(43)43) P. Pukklay, Y. Nakanishi, M. Nitta, K. Yamamoto, A. Ishihama & A. Shiratsuchi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 438, 306 (2013).,細菌は特定の遺伝子発現制御系を使って,宿主免疫回避と病原性抑制の両面から感染を維持する仕組みをもつと考えられる.

図5■宿主感知による細菌の遺伝子発現変化と持続感染

宿主因子を感知した細菌は,感染時特有の遺伝子発現レパートリーをもち,宿主環境に適応し宿主免疫を回避して生き延びる.一方で,感染状態の細菌には,宿主への傷害性が強すぎないように調節して,宿主を殺さずに感染を続ける仕組みも働くと考えられる.

おわりに

細胞貪食反応は不要物の除去にとどまらず,貪食を基点とする組織機能の発揮を導く重要な組織恒常性維持機構であり,生物種を超えて進化的に保存された経路の存在がわかってきた.一方で,生物種や組織に特徴的な受容体や細胞内経路,および貪食目印分子も存在し,これらは固有の環境に適応した機能を果たすと考えることができる.

Reference

1) C. A. Janeway Jr. & R. Medzhitov: Annu. Rev. Immunol., 20, 197 (2002).

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