セミナー室

酵母オートファジー: 最近の動向

Tomoko Kawamata

川俣 朋子

東京工業大学フロンティア研究機構Frontier Research Center, Tokyo Institute of Technology ◇ 〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町4259番地 ◇ 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama-shi, Kanagawa 226-8503, Japan

Yoshinori Ohsumi

大隅 良典

東京工業大学フロンティア研究機構Frontier Research Center, Tokyo Institute of Technology ◇ 〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町4259番地 ◇ 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama-shi, Kanagawa 226-8503, Japan

Published: 2015-01-01

栄養状態を正確に感知し,適切に応答することは,すべての生物が自身の生存を維持するために必須の機構である.オートファジーは栄養飢餓に対する適応機能の一つであり,飢餓状態における生存に不可欠である.オートファジーは自らの細胞質成分やオルガネラを液胞/リソソームに送り込み分解する機構であり,真核生物で広く保存されている.オートファジーは,1. オートファジーの誘導,2. オートファゴソーム形成,3. オートファゴソームと液胞/リソソームの融合,4. 内容物の分解,5. 分解産物の輸送および再利用という過程からなる(図1図1■オートファジーの全体像).オートファゴソームに取り囲まれた細胞内の細胞質成分やオルガネラは,液胞/リソソーム内のさまざまな加水分解酵素(プロテアーゼ,リパーゼ,ヌクレアーゼ,グルコシダーゼなど)によって単純な化合物にまでほぼ完全に分解され,最終的にはその一部がさまざまな形でリサイクルされることから,オートファジーは細胞内の代謝とも密接なつながりをもっていると考えられる.

図1■オートファジーの全体像

オートファジーは①オートファジーの誘導②オートファゴソーム形成③オートファゴソームと液胞/リソソームとの融合④液胞/リソソーム内でのオートファゴソームの分解⑤分解された物質の異化・輸送・再利用という,複数のステップから構成されている.上図:非選択的オートファジー,下図:選択的オートファジーを示す.

歴史的に見ると,オートファジーの現象は高等動物で発見されていたが,その実体は長らく不明であった.しかし,筆者らによる酵母を用いた研究からオートファゴソーム形成に必要なATG遺伝子の同定を皮切りにオートファジーの研究は大きく花開いた(図1図1■オートファジーの全体像).現在はATGの発見から約20年が経過しており,オートファジー研究は多くの生物種で爆発的に行われるようになり,さまざまな生理機能(細胞内アミノ酸プールの制御,細胞内品質管理,病原体排除,寿命など)に関与していることが広く認識されてきている.オートファジーは,臨床研究からも注目を集めており,特に代謝の中枢であるミトコンドリアの機能や品質管理などについて,また,がんや神経変性疾患などのさまざまな病態とオートファジーとの関連について解析されているが,病気の直接の原因なのか二次的な影響なのかを判断することが難しいため,その詳細な機構はほとんどわかっていない.オートファジーによる分解は基本的には非選択的であるが,ミトコンドリアやペルオキシソームなど,特定の基質がオートファジーにより特異的に分解する選択的なオートファジーもある.選択的オートファジーの特異性を決定づけるレセプター分子が次々に同定され,選択的オートファジーの分子機構の解明も現在急速に進展している.

現在酵母では40に迫るAtgタンパク質が同定され,オートファゴソーム形成の分子機構の解明に関して酵母は実質的に先導的な役割を果たしてきた.オートファゴソーム形成過程におけるAtgタンパク質の機能についてのアップデートについてはほかに優れた総説があるので(1)1) N. Mizushima, T. Yoshimori & Y. Ohsumi: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 27, 107 (2011).,今回は特に酵母のオートファジーの生理学的な研究に焦点を当て,最近のトピックについて述べる.

分子機構の解析に比べると,生理的な局面についてオートファジーの役割を調べる研究はあまり進んでおらず,酵母ですらまだ未知の部分が多く残されている.特に,多様な飢餓シグナルや細胞内の代謝変化によるオートファジーの誘導について(オートファジーのインプット),また,オートファジーの結果として生ずる分解産物がどのように細胞内の代謝に影響を与えるか(オートファジーのアウトプット)について理解することはとても重要である.酵母から得られた情報は高等動植物でのオートファジーの役割を理解する基礎的な知見になると思われる.選択的オートファジーに関しても,基質特異性が生ずる分子基盤と,分解の生理学的な意義を解かなくてはいけない.

筆者らは約2年半前からさまざまな局面でのオートファジーの生理機能を酵母できちんと解析したいと思うようになり,原点回帰的な研究を進めている.培地の栄養源を枯渇させたり微妙に変化させながら細胞培養を繰り返し,野生株とオートファジー欠損株の差を探すような地味な実験が多い.しかし実際はメタボロームやプロテオーム,次世代シーケンサーを駆使した「オミックス的解析」を取り入れることが可能となったため,高精度・高解像度で表現形を解析でき,10年前のオートファジーの研究スタイルとは隔世の感がある.これまで培った生化学的・細胞生物的な解析方法と合わせることで,いままで見いだすことが困難だった新しい現象が明らかになりつつある.そこで,著者らの研究も一部交えながら,最近の酵母のオートファジーの生理機能に関する知見や潮流について以下に述べる.

オートファジーの誘導

生命は常に外界からエネルギーの供給を受けて維持されており,栄養源を補給しなくてはならない.実験室レベルでの酵母の培養は,必要な栄養素のほとんどを外から取り込むことで賄える富栄養培地(YPD: Yeast extract+Peptone+Dextrose)か,または単純な化合物から生育に必須なものを合成しながら生育する合成培地(SD: Synthetic Defined)が主に用いられている.合成培地に含まれる主な栄養素を図2図2■栄養条件から見たオートファジーの誘導に示す.YPD培地は,合成培地と比べ細胞倍加が約1.5倍程度速いが,自然界でここまで栄養源が極端に豊富な状態というのはおそらく存在しないと考えられる.よって,栄養学的な見地からオートファジーの誘導を解析する場合は,合成培地が適している.では,細胞がどのような種類の栄養飢餓を感知してどれくらいの強度でオートファジーを誘導するのだろうか.オートファジーを最も強く,速やかに誘導する例としてこれまでよく解析されているのは合成培地から窒素源を完全に除いたN飢餓条件である(図2図2■栄養条件から見たオートファジーの誘導).この条件では,センサー分子であるTORC1が不活性化し,栄養増殖時にTORC1によって抑制されていたオートファジーが活性化する.C源(グルコース)飢餓でもオートファジーが誘導され,それにはPKAやSnf1キナーゼが関与すると言われている.オートファジーの活性としては,C飢餓のほうがN飢餓よりも低い(2)2) T. Noda, A. Matsuura, Y. Wada & Y. Ohsumi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 210, 126 (1995)..オートファゴソーム形成機構にはATPが必須なステップが複数あるため(1)1) N. Mizushima, T. Yoshimori & Y. Ohsumi: Annu. Rev. Cell Dev. Biol., 27, 107 (2011).,C源飢餓の状態では細胞内のATPの減少によりオートファゴソームの形成そのものの活性が減弱したことに帰結するかどうかはいまだ議論の余地がある.S源飢餓でもN源飢餓と同程度にオートファジーを強く誘導するが,それはメチオニン・システインの飢餓と同義であろう(3)3) K. Takeshige, M. Baba, S. Tsuboi, T. Noda & Y. Ohsumi: J. Cell Biol., 119, 301 (1992)..筆者らは最近,亜鉛飢餓がオートファジーを誘導すること,それにはやはりTORC1が関与することを見いだしている(論文投稿準備中).栄養飢餓によるオートファジーの誘導条件はほかにもあるかもしれない.一方,筆者らの解析によると,増殖が停止するにもかかわらずオートファジーを誘導しない飢餓条件もあるらしい(未発表).

図2■栄養条件から見たオートファジーの誘導

太字は,その欠乏がオートファジーを誘導すると示されているもの.そのほかの種類の栄養源の枯渇とオートファジーの誘導についてはあまり解明されていない.また,明らかな飢餓条件でなくてもオートファジーが誘導されるという例が最近Tuらによって明らかにされた.詳細は本文参照.

細胞内の代謝物の変動がオートファジーの活性を調節する例も,ごく最近明らかになってきている.KroemerらとMadeoらのグループは,酵母と動物細胞の系において細胞内のアセチルCoA濃度とオートファジーの関係を明らかにした(4,5)4) T. Eisenberg, S. Schroeder, A. Andryushkova, T. Pendl, V. Küttner, A. Bhukel, G. Mariño, F. Pietrocola, A. Harger, A. Zimmermann et al.: Cell Metab., 19, 431 (2014).5) G. Marino, F. Pietrocola, T. Eisenberg, Y. Kong, S. A. Malik, A. Andryushkova, S. Schroeder, T. Pendl, A. Harger, M. Niso-Santano et al.: Mol. Cell, 53, 710 (2014)..アセチルCoAは,細胞内の重要な代謝中間物であり,アセチル基の供給源(ドナー)でもある.彼らは,栄養飢餓下にはアセチルCoA量が減少する傾向があり,その結果オートファジーが誘導されることを示した.逆に細胞質内のアセチルCoA濃度を保つことができれば,栄養飢餓であってもオートファジーは誘導されない.アセチルCoA濃度の減少は特定のタンパク質のアセチル化修飾状態を変えるとともに,ヒストンなどの状態を変えることでエピジェネティックな変化を引き起こすことが予想される.アセチルCoA量の変動が,直接モニターされているのか,それとも特定の分子のアセチル化修飾を介してオートファジー誘導を制御しているかどうかについては,今後アセチル化のターゲット分子が解析されることにより,その分子機構の詳細がはっきりするだろう.

酵母では,栄養源がそれなりにある細胞増殖時においてオートファジーが誘導される例はこれまで報告がなかった.それは単に現在の技術でもオートファジーの誘導が検出限度以下レベルの可能性があり,全くオートファジーが起きていないのかどうかについての判断は難しい.一方,高等動物では,脳などの器官ではごく低レベルながら確実に恒常的なオートファジーが起きており,それが破綻すると細胞内に不溶化タンパク質が蓄積することが知られているが,酵母においてそのような報告はない.ごく最近,Tuらのグループは,C源としてlactateを用いた場合,富栄養培地から合成培地へと培地を置換すると,窒素源が枯渇していないにもかかわらずオートファジーが誘導されること,その誘導に細胞内メチオニンの量が決定的な役割を果たすことを示している(6)6) B. M. Sutter, X. Wu, S. Laxman & B. P. Tu: Cell, 154, 403 (2013).

以上のようにオートファジー誘導時の代謝変化とオートファジーの誘導の相関が統合的に理解されれば,それは高等動植物におけるオートファジーの誘導やその制御についての理解に直結する基本的な知見になるに違いない.

最近,Klionskyらのグループは,Atg遺伝子の転写制御に着目したエピジェネティックな解析を行っている.これまでATG8(やATG14)など,限られたATG遺伝子が転写レベルで制御を受け,転写の増加がオートファジーの活性に直結すると考えられていたが,彼らはRNAseqにより転写解析を行い,ほぼ半数のATG遺伝子がオートファジー誘導条件下において発現が増加すること,またそれを制御するヒストンデアセチラーゼとその制御因子(Rpd3,Ume6,Pho23)を同定している(7,8)7) M. Jin, D. He, S. K. Backues, M. A. Freeberg, X. Liu, J. K. Kim & D. J. Klionsky: Curr. Biol., 24, 1314 (2014).8) C. R. Bartholomew, T. Suzuki, Z. Du, S. K. Backues, M. Jin, M. A. Lynch-Day, M. Umekawa, A. Kamath, M. Zhao, Z. Xie et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 11206 (2012)..このような転写・翻訳・翻訳後修飾もさまざまな培養条件下で今後急速に同定される可能性があり,オートファジーの活性との相関が理解されていくだろうと思われる.

オートファジーによる分解と代謝変化

オートファジーは栄養飢餓に対する適応機能の一つであり,特にN飢餓条件下では,タンパク質分解を通じたアミノ酸の供給は生存に不可欠であることが示されている(9,10)9) J. Onodera & Y. Ohsumi: J. Biol. Chem., 280, 31582 (2005).10) A. Kuma, M. Hatano, M. Matsui, A. Yamamoto, H. Nakaya, T. Yoshimori, Y. Ohsumi, T. Tokuhisa & N. Mizushima: Nature, 432, 1032 (2004)..非選択オートファジーの場合,オートファゴソームに取り込まれることが予想される多糖,核酸(RNA,DNA),脂肪体(リピッドボディ)や膜成分は,どのように分解され,再利用されていくのだろうか.その際,細胞内の生合成系システムとは,どのように調和していくのか.またそれぞれの物質が適切に代謝されない場合,細胞内代謝はどうなるのだろうか(図3図3■オートファジーによる細胞内物質の分解,輸送と再利用).

図3■オートファジーによる細胞内物質の分解,輸送と再利用

詳細は本文参照.

最近,核酸(RNA)分解について大きな進展があった.もともと,筆者らによる酵母の電子顕微鏡観察から,N源飢餓やC源飢餓条件において,オートファゴソーム中にはたくさんのリボソームが含まれていることが確認されていた(3)3) K. Takeshige, M. Baba, S. Tsuboi, T. Noda & Y. Ohsumi: J. Cell Biol., 119, 301 (1992)..リボソームは,RNAとタンパク質がほぼ1 : 1の超分子構造体であり,各リボソームタンパク質は細胞内で最も量の多いタンパク質と同程度の数存在する.具体的には,リボソームは酵母1細胞当たりおよそ20万個存在し,条件が良ければさらに多くのリボソームが合成され,タンパク合成を通じて細胞増殖を支えている.飢餓条件下で非選択的なオートファジーが誘導された場合,非選択的にリボソームが取り込まれるのであれば,細胞質とオートファゴソーム中のリボソームの濃度はほぼ同じ比率になるはずであるが,しばしばオートファゴソーム中のリボソームはより濃縮されているような像も電子顕微鏡で確認されている.そのため,非選択的なオートファジーが誘導されている条件でもリボソームはほかの細胞質成分よりも優先的にオートファゴソームに取り込まれる可能性が示唆されていた.飢餓時にエネルギーをたくさん必要とするリボソーム合成は停止するとともに,mRNAの翻訳活性自体もかなり低下することが知られている.それに加えて,オートファジーにより既存のリボソームを分解して適切にタンパク質合成を低下させるという点でも,リボソームを優先的に分解すること自体に生理学的な意義があるだろうと考えられる.しかし,オートファジーによるRNA分解機構は,関与するRNaseも含めてこれまで謎であった.最近,RabinowitzらのグループはC源・P源・N源の飢餓条件下でのメタボローム解析を行い,これらのすべて条件で,特に細胞内のヌクレオシドやヌクレオベースの量が増加することを見いだした(11)11) Y. F. Xu, F. Létisse, F. Absalan, W. Lu, E. Kuznetsova, G. Brown, A. A. Caudy, A. F. Yakunin, J. R. Broach & J. D. Rabinowitz: Mol. Syst. Biol., 9, 665 (2013)..これらの増加でオートファジーに依存しているのはN源とC源飢餓のみであり,P源飢餓ではオートファジー非依存的らしい.彼らは,ヌクレオシドやヌクレオベースの増加は,リボソームRNAの分解物に由来していると議論している.筆者らも全く独立にN飢餓条件下における核酸分解を研究しており,RNA分解に関与するRNaseの同定とともに,RNaseが生成したヌクレオチドが塩基まで分解される過程で働く核酸代謝酵素(ヌクレオチダーゼとヌクレオシダーゼ)を同定した(EMBO J., in press).Rabinowitzらや,筆者らの解析により,酵母オートファジーの発見後約20年の年月を経てようやくオートファジーによる核酸代謝についての扉を開けることができたのである.また以下に述べるように,選択的オートファジーとしてリボソームが選択的に分解されるリボファジーがKraftとPeterらにより提唱されているが,これもN飢餓条件下で解析されている(12)12) C. Kraft, A. Deplazes, M. Sohrmann & M. Peter: Nat. Cell Biol., 10, 602 (2008)..よって今後,非選択的オートファジーによるリボソーム分解とリボファジーとの関連が焦点になり,非選択オートファジーにおいてもリボソームが優先的に分解されているかについて,その詳細な機構も含めて検証したいと考えている.さらに,菊間らの項にあるように,出芽酵母でもオートファジーによってDNAが分解される可能性に関しても今後検討しようと考えている.

脂質については液胞内リパーゼであるAtg15が関与すると考えられているが,脂肪体(リピッドボディ)の分解を含め,その分解機構は全く明らかになっていない.

また,タンパク質,核酸,糖,脂質などが分解された後の運命については,ほとんど解析が進んでいない.オートファジーによって異化された物質は,すべてが再利用されるのであろうか? オートファジーによる再利用を可能にするためには,オートファジーによって生じた代謝物は,まず液胞/リソソームから排出させる必要があるが,その実体(輸送体)は何か? アミノ酸の輸送に関しては,液胞膜に存在するトランスポーターが一部同定されているが(13)13) Z. Yang, J. Huang, J. Geng, U. Nair & D. J. Klionsky: Mol. Biol. Cell, 17, 5094 (2006).,すべてのトランスポーターが同定されているわけではなく,現在詳細な解析が進められている.アミノ酸以外のオートファジー由来の分解物については,それぞれ輸送体については全く報告がないため,今後同定していく必要がある.

以上,オートファジーによるさまざまな物質の異化についての現状を述べた.少しずつ研究が進んでいるものの,オートファジーによる分解とその代謝への影響について具体的に理解できる状態になるまでは,まだ長い道のりが必要である.今後,遺伝学的・細胞生物学的手法に加えてメタボローム解析などを通じて,これらの未解決問題が一つずつ解明されていくことが期待される.

選択的オートファジー

酵母の場合,輸送されるべき基質が厳密に選別されてオートファゴソームに取り込まれる選択的オートファジーとしてCvt経路,マイトファジー,ペキソファジーが知られており,選択的オートファジーの代表例として精力的に解析が行われてきた.これらの選択的オートファジーの場合いずれもAtg11が不可欠であり,なおかつそれぞれ積荷の認識を行うレセプター分子が同定されており,特異的な分解を可能とする分子メカニズムが解析されつつある.最も詳細に解析されているのはCvt(Cytoplasm-to-vacuole transport pathway)経路である.Cvt経路は,液胞酵素の生合成経路としてオートファジーのシステムをまるごと利用しており,液胞内のアミノペプチダーゼApe1やα-マンノシダーゼAms1がオートファゴソームと類似した二重膜で取り囲まれ,選択的に液胞へと運ばれる.この膜の大きさは,約150 nmと小さく,オートファゴソーム(約300~900 nm)と明確に区別できる.最近,細胞質で多様な機能を発揮するとされているプロテアーゼ(Lap3)やレトロトランスポゾンであるTy1を含むTy1-VLP(virus-like particle)が,選択的に運ばれて分解されることが示された(14,15)14) T. Kageyama, K. Suzuki & Y. Ohsumi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 378, 551 (2009).15) K. Suzuki, M. Morimoto, C. Kondo & Y. Ohsumi: Dev. Cell, 21, 358 (2011)..Ty1の分解については,Atg19がVLPのコートタンパク質を認識し,Atg11と結合することで選択的な分解が起きる.マイトファジーやペキソファジーは,それぞれ細胞の要求に応じてミトコンドリアとペルオキシソームを分解するシステムであり,その詳細についてはほかの文献を参照していただきたい(16)16) K. Suzuki: Cell Death Differ., 20, 43 (2013)..ほかの選択的オートファジーとしては,リボソームを特異的に分解するリボファジー(12)12) C. Kraft, A. Deplazes, M. Sohrmann & M. Peter: Nat. Cell Biol., 10, 602 (2008).や,ERを分解するERファジー(17~19)17) M. Hamasaki, T. Noda, M. Baba & Y. Ohsumi: Traffic, 6, 56 (2005).18) T. Yorimitsu, U. Nair, Z. Yang & D. J. Klionsky: J. Biol. Chem., 281, 30299 (2006).19) S. Bernales, K. L. McDonald & P. Walter: PLoS Biol., 4, e423 (2006).などの報告があるが,Atg11依存性についてははっきりしておらず,基質認識にかかわるレセプターなどの実体も同定されていない.

上記の選択的オートファジーより選択性は弱いものの,ほかの細胞質成分と比較すると明らかに優先的にオートファゴソームに取り込まれる分子が存在することも実験的に示唆されている.細胞質のアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼAld6は窒素飢餓状態下において優先的にオートファジーで分解される(20)20) J. Onodera & Y. Ohsumi: J. Biol. Chem., 279, 16071 (2004)..この優先的な分解はAtg11に依存していない.Ald6のような例は,将来的には網羅的なプロテオーム解析を通じて同定されてくる可能性がある.オートファジーによる選択的または優先的な分解について,その分子機構と生理機能について明らかにすることは今後の重要な課題である.

生存戦略としてのオートファジーの役割

最後にatg欠損株の表現形解析を通じて明らかになってきたオートファジーの多様な生理的役割について述べたい(図4図4■オートファジーのもつ多様な生理機能).まず,ATG遺伝子はN飢餓条件下の生存や胞子形成に不可欠である.これらの条件では,オートファジーによりタンパク質分解を通じて生じたアミノ酸が飢餓時の生存に必須になるためだと思われる(9)9) J. Onodera & Y. Ohsumi: J. Biol. Chem., 280, 31582 (2005)..N飢餓条件で数日間培養し続けると,培地が酸性に傾いていきpH=3以下まで低下する.この条件でも野生株は生存できるがatg欠損株では死滅する.しかしあらかじめpHを調整して中性付近に緩衝したN飢餓培地(以下,緩衝N飢餓培地とする)を用いるとatg欠損株でも生存できることが当研究室の鈴木らによって最近明らかとなり(21)21) S. W. Suzuki, J. Onodera & Y. Ohsumi: PLoS ONE, 6, e17412 (2011).atg欠損株についてN飢餓条件下での生理学的な解析が可能となった.緩衝N飢餓培地では,5日間経過してもatg欠損株は生存しているが,明らかに呼吸機能不全の表現型を示し,大部分の細胞がミトコンドリアDNAを失っている状態であることが明らかになった.その際,atg欠損株ではミトコンドリアに多量のROS(活性酸素種)を蓄積していた.緩衝N飢餓培地では,野生株では窒素飢餓に応答して呼吸鎖構成因子や活性酸素除去タンパク質の発現が上昇するのに対し,atg欠損株ではしていなかったことから,atg欠損株ではミトコンドリアの電子伝達系が不完全になりROSが蓄積したものと考えられる.おそらく,ROSの影響は酸性条件下でより強く現れるものと考えられ,実際にROSのスカベンジャーであるNACを添加すると,非緩衝N源飢餓地でもatg欠損株は生存できるようになった.マイトファジーなどの選択的オートファジーの特異的欠損株は野生株と同等の表現形を示すので,以上の結果はマイトファジーではなく,非選択的オートファジーが失われた結果であると解釈できる.よって,オートファジーがN飢餓下のミトコンドリアの機能維持に必須であり,その不全が細胞死の原因となることが明らかになった.

図4■オートファジーのもつ多様な生理機能

詳細は本文参照.

ミトコンドリアDNAだけではなく,窒素源飢餓条件下でオートファジーが遺伝情報の維持に働くことを示唆する例が複数報告されている.前述したTy1は酵母のレトロトランスポゾンであり,Ape1複合体とともに液胞へと輸送され分解される.結果として,窒素飢餓条件下でのTy1の転移効率が低下し,ゲノムの安定性に寄与しているようである(15)15) K. Suzuki, M. Morimoto, C. Kondo & Y. Ohsumi: Dev. Cell, 21, 358 (2011)..また,松浦らのグループは,細胞周期制御という観点からオートファジーの重要性を明らかにした(22)22) A. Matsui, Y. Kamada & A. Matsuura: PLoS Genet., 9, e1003245 (2013)..N飢餓条件下では,atg欠損株では異常な核をもつ細胞が現れ,さらにその後栄養を戻すと染色体数が増えた細胞の出現頻度が増加した.染色体数の増加はがん細胞で見られる異常の一つである.このことから,オートファジーは,細胞周期の適切な制御を行うことで遺伝的な異常の発生を抑制しているらしい.

これまで,N飢餓条件で見えてきたオートファジーの生理機能を述べたが,ATG遺伝子は栄養増殖時の生育には必須ではなく(すなわち必須遺伝子ではない),atg欠損株は栄養源が豊富な培地で培養する限り顕著な表現型を示さないと思われていた.atg欠損株はまた,C飢餓やS飢餓などのほかの栄養素の飢餓ではN飢餓ほど多様な表現型を示さないようである(筆者ら,未発表).まだまだatg欠損株には隠された重要な表現型がある可能性もあり,今後さまざまな研究手法により明らかになっていくだろう.転写レベルでは,さまざまな栄養ストレスや環境ストレス条件下においてATG遺伝子の転写量が増加することが確認されていることなどから(23,24)23) B. P. Tu, A. Kudlicki, M. Rowicka & S. L. McKnight: Science, 310, 1152 (2005).24) V. M. Boer, C. A. Crutchfield, P. H. Bradley, D. Botstein & J. D. Rabinowitz: Mol. Biol. Cell, 21, 198 (2010).,ストレス応答としてオートファジー遺伝子の転写が誘起すると考えられるが,転写レベルの制御が直接タンパク質の発現量に反映され,さらにオートファゴソーム形成を加速するものであるかどうかを解明する必要がある.

おわりに

ここまで,最近の酵母オートファジー研究についての生理学的な機能についての概略を述べてきたが,全容解明には新たなブレイクスルーが必要であると感じている.次世代の解析に求められているものは,細胞内の代謝状態とオートファジーの相互関係についてであろう.さらに,選択的オートファジーについての基質と生理学的な意義を追求することも必要である.酵母での基礎的な研究成果は,より複雑な制御を受けると考えられる高等動植物でのオートファジーを理解するうえでも非常に重要であると考えられ,酵母を用いた研究の一層の進展が求められている.

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